秋風が島を静かに包んでる
●南国の島
友ヶ島――
紀淡海峡に浮かぶ地ノ島、虎島、神島、沖ノ島の総称名で、戦時に作られた砲台跡が残る静かな島だ。広大な自然と煉瓦の建物の融合は、時代を飛び越えたかのような感覚に陥る。
最後の大妖『斬鉄』との戦いも終え、人々は歓喜に震える。妖の出没が減ったわけではないが、それでも大妖の恐怖におびえる日々は消え去ったのだ。浮かれるのも仕方ないだろう。
そんな空気の中、FiVEは今年も友ヶ島にやってくる。今年は僅かに時期が外れて秋口となったが、涼しい風と広々とした草原は心を十分に癒してくれる。
――最後の戦いは、近い。
しかし今はその事を忘れ、ゆっくりこの自然を楽しもう。
友ヶ島――
紀淡海峡に浮かぶ地ノ島、虎島、神島、沖ノ島の総称名で、戦時に作られた砲台跡が残る静かな島だ。広大な自然と煉瓦の建物の融合は、時代を飛び越えたかのような感覚に陥る。
最後の大妖『斬鉄』との戦いも終え、人々は歓喜に震える。妖の出没が減ったわけではないが、それでも大妖の恐怖におびえる日々は消え去ったのだ。浮かれるのも仕方ないだろう。
そんな空気の中、FiVEは今年も友ヶ島にやってくる。今年は僅かに時期が外れて秋口となったが、涼しい風と広々とした草原は心を十分に癒してくれる。
――最後の戦いは、近い。
しかし今はその事を忘れ、ゆっくりこの自然を楽しもう。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.秋の友ヶ島を楽しむ
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
南の島で十分に癒されてください。
※このイベントシナリオは、命数が3点回復します。
●説明っ!
和歌山県にある友ヶ島。最後の大妖を倒し、傷を癒した貴方達は自然を楽しむことにしました。FiVE毎年恒例の夏休み(ロスタイム)です。
森林浴もいいでしょう。草原を歩くのもいいでしょう。煉瓦の建物(砲台跡)を見て回るのもいいでしょう。
空を飛び回るのもいいでしょう。海の中をダイブするのもいいでしょう。動物と戯れるのもいいでしょう。
夜空を見上げるのもいいでしょう。花火をするのもいいでしょう。源素を使って楽しむのもいいでしょう。
レジャー施設のような人工の遊び場こそありませんが、自然の中を謳歌する楽しみがあります。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】という タグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
16/∞
16/∞
公開日
2019年09月17日
2019年09月17日
■メイン参加者 16人■

●
「いい風だ。なんつーか、森が生きてるって感じだな」
友ヶ島の森の中、藤森・璃空(CL2001680)は吹いてくる風を受けながらそんな言葉を口にする。木々の香りが混ざった涼しい風。体の隅々まで浄化してくれる新緑の空気。ここには都会にはない何かが確かにあった。
「……いつも助けてもらってばかりですまねー」
周囲の木々に呟く璃空。覚者として木の源素を操り、星の生形態と言う意味でも植物には世話になりっぱなしだ。与えてもらった恩を返すことが出来るのならなんだってする。璃空はそう思いながら目を閉じた。そうすることで自然をより深く感じるように。
「ま、今日はゆっくりさせてもらうぜ……」
「それにしても大変な一年でしたねー」
夜の帳の元、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は守護使役のペスカと一緒に花火をしていた。夏の終わりを感じさせる線香花火。それをペスカと一緒に見ながら、これまでのことを回顧していた。
「……ええ、大変なのはこれからですよね」
守護使役に応えるようにラーラは頷く。大妖をすべて伏し、それを生み出したモノとの戦いが待っている。仮に倒したとして、その後どうなるか。それはまだ見えない世界だ。不安に思う事もあるが、それでもペスカと一緒なら乗り越えられると信じていた。
「ふふ。次の花火? 大丈夫ですよ、すぐに用意しますから」
「はい、チーズ! ですわ!」
『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)は皆の写真を撮っていた。友ヶ島の朝昼晩の写真や、そこで楽しむ仲間達の写真を。いのり自身がその輪に加わることはしない。ただこの瞬間を切り取るように、写真を撮っていた。
「お爺様があまり体の具合が良くないらしくて、いのりに戻って来て欲しいと仰っておられますの」
守護使役のガルムを抱きながら、ガルムにだけに聞こえるように呟く。祖父が倒れれば、秋津洲の家はいのりが引き継ぐことになる。そうなれば、FiVEの仲間とはもう会えないかもしれない。そんな事を表に出さず、歩き出す。
(だから今、確かにいのりは此処に居たのだと、その証明が欲しいのかもしれませんわね)
いのりは『今』を確認するように、写真を撮り続ける。
●
「肉! 肉! にーくー!」
と言う声をあげたはともかく、【BBQ】のメンバーは浜辺でバーベキューを行っていた。
「ソラ、どっちがたくさん釣れるか勝負だ!」
「どっちが大物釣るか競争だ!」
しかし食べる物がない……わけではないが現地調達も面白いだろうという事で『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)と『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は釣りをすることになった。新鮮な魚は美味しいですし。釣竿を手に浜辺で糸を垂らす二人。
「とにかく大物狙いだ! 小魚に用はないぜ!」
拳を振り上げた後に、力いっぱい竿を振って糸を飛ばす遥。そしてそのまま数秒待ち、すぐに糸を引き上げて別の場所に糸を飛ばす。基本的に『待つ』事が性に合わない遥にとって、糸を垂らして待つ釣りのやり方は不向きのようだ。
「…… とは言え、やっぱ浜で釣るとなると大物はいないよね」
アジを釣り上げながら奏空はため息をつく。あれだけの人数のお腹を満たすには足りないが、それでもこの短時間ではかなりの成果だ。奏空はそう思って、隣にいる遥の方を振り返る。
「って遥!?」
「目の前を魚が泳いでるのに、いちいち待っていられるか! うおおおおおおお!」
見れば遥はいつの間にか水着に着替え、海に飛び込んでいた。呆然とする奏空。まあ遥なら大丈夫だろうけど、素人が道具もなしで海の魚を簡単に取れるはずがない――
「とったどー!」
「大物獲ってきたー!?」
遥は何故かこの辺りを泳いでいたサメを掲げて浮き上がってきた。そのまま二人はバーベキューの場に戻る。
「サメ…………ですか? 流石にサメは扱ったことはありませんので」
『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)はサメを見て呆然と呟く。二人が釣りに行ったことは知っているが、まさかの成果である。硬いサメ肌とかどうやってはがすんだろうと思考し、持ってきた包丁では歯が立たないので諦めた。
「あ、でもアジならさばけますよ。凄いですね、奏空くん」
慣れた手つきで魚を切っていく澄香。一口サイズに切ったアジを紙皿に乗せ、バーベキューの網に運んでいく。手早く焼いてもよし、そのまま醤油につけて食べてもよし。取れたての魚はそれだけで美味なのだ。
「お肉や野菜を焼く方は足りてるようです? なら、ちょっと変わり種と言う事で、鉄板の一部をお借りしてパンケーキでも焼きましょう」
「オレにもそれくれー!」
パンケーキが焼ける臭いに『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063) が反応する。九月の友ヶ島。泳ぐには少し遅い時期だがだからこそ行われたバーベキュー。肉をたくさんほおばって、翔は満足げだった。そこに飛び込む甘い香りである。
「きっちり栄養付けておかないとな!」
肉とパンケーキを食べながら、翔はそう遠くない未来のことを思っていた。源素を総べる存在。大妖を生み出したモノ。『一の何か』と呼ばれる存在との戦いを。どんな戦いになるかはわからないが、栄養を取っておいて損はない。
「あ、澄香姉ちゃん、一個貰うぜ! 日那乃、肉ばっかで飽きるならこれ食うか?」
「ん。天野さんに、ありがとう、って伝えて、ね」
パンケーキを受け取り、桂木・日那乃(CL2000941)が礼を言う。最初はお皿を並べたり食材を切ったり片づけをしたりと裏方に回っていた日那乃だが、皆の食べるペースが落ち着いたころに食べ始める。守護使役のマリンと一緒にゆっくりと食事をしていた。
「……マリン、空丸と遊んでる、の?」
気が付けば翔の守護使役と日那乃の守護使役が遊ぶように体をぶつけあっていた。クチバシでつつく空丸と、尾びれではたくマリン。空を泳ぐように他の守護使役と交流する様をみて、日那乃は小さく頷いた。その表情に変化は見られないけど――
「お友達と一緒で、よかった、ね」
「日那乃さん、嬉しそうですね」
日那乃の様子を見て『陰と陽の橋渡し』賀茂 たまき(CL2000994)は小さくほほ笑んだ。無表情の日那乃だが、無感情ではない事は長い付き合いで知っている。そんな幸せそうな姿を見るたびに、たまきの心も温かな気持ちになっていく。
「お肉ばかりじゃダメですよ。お野菜も食べないと!」
たまきは焼き係に徹していた。肉や野菜を焼いて、頃合いを見て皿に移す役割だ。肉ばかり食べる人に、いい感じで焼けた野菜を盛ることも忘れない。そんな一瞬一瞬を笑いながら、大事に心に留めていた。そして人の視線がそれたのを確認してシイタケをハシでつまんで奏空に向き直り、
「奏空さん、あーん」
「シイタケ苦手……でも幸せ……!」
幸せを感じながらシイタケをほおばる奏空。
「今日は硬い顔ばかりしてはいられないですね」
たまきが席を離れている間は『五麟の結界』篁・三十三(CL2001480)が焼き役を担っていた。日々の戦いで疲れている者達を労うために、三十三はエプロンをかけて肉と野菜を焼いていた。珍しく笑顔を浮かべ、箸を動かしてく。
「まだまだたくさんありますからね」
肉の焼き具合を耳と目で判断し、食べたそうな人に配っていく。肉を食べる人の顔を見て、三十三も笑顔になる。皆が食べている間に新たに肉を焼き、そしてまた配っていく。バーベキューの熱さで少し休憩していると、パンケーキが差し出された。
「おや、歩ちゃん。ありがとう」
「はい、さとみん。あゆみがデコったの一緒に食べよーよ」
『モイ!モイ♪モイ!』成瀬 歩(CL2001650)は焼いたパンケーキを三十三に渡す。ずっと肉を焼いていた彼を労うために、色々デコレートしたパンケーキを作ったのだ。それを食べる姿を見て、歩は笑顔を浮かべる。
「みんなで食べる御菓子って、美味しいよねー」
焼き立ての甘いパンケーキ。それを口にしながら歩が微笑む。誰かの笑顔。誰かの手。誰かの声。それがあるだけで心が温かくなる。それがどれだけ大事な事なのか。歩は知っている。今ある絆の繫がりこそが、楽しみの根源なのだ。
「ユスちゃーん! これ一緒にたべよー!」
「焼きマシュマロではなく焼きパンケーキですわね。いただきますわ」
言って歩の差し出したパンケーキを食べる『モイ!モイ♪モイ!』ユスティーナ・オブ・グレイブル(CL2001197)。日本でバーベキューをするのは初めてだが、その違いに驚いていた。
「ユスの国ではソーセージやベーコン巻きマッシュルームが主流ですのよ」
日本との文化の違い。ユスティーナの国ではキノコと肉などが中心だった。海を隔てれば食文化も異なる。その違いを感じながらユスティーナはパンケーキを食べる。文化が違えども、食の周りに笑顔があるのは万国共通だ。
「はい、アユム。食べてくださいまし♪ ユスの国の味ですのよ!」
「焼ましまろもいいけどスモアもいいよねー」
そんな年少組の様子を見ながら『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)は焼き立てスモアをほおばっていた。焼いたマシュマロとチョコレートが口の中で絡み合い、黒と白の甘味が紡の中で融和する。
「夏も終わりだねー」
バーベキューの鉄板から離れた場所で折り畳みの木製テーブルに料理を乗せ、氷出し紅茶と水出しコーヒーを口にしながら秋の潮風を堪能していた。河に爪先を浸して、残暑の熱気を冷ます。風が草を薙ぐ音を聞きながら、心を癒していた。
「いぶちゃん……練習頑張ったんだね」
「ん。指はちゃんとついてるよ」
絆創膏だらけの指先を見る紡の視線に気づいて、『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)はにこりと微笑んだ。彩吹が持ってきたのは切断済みのトウモロコシ。それを作るのにどれだけ包丁で自分を傷つけたかの証である。――最終的には兄が切ったのだが。
「うん。でもこういう場所で血まみれはまずいよね」
バーベキューを楽しみ人達を見て、彩吹は頷いた。共にしのぎを削り、激戦を共にした仲間達。だがそれを感じさせない平和な一時。この平和な空間に血の惨劇は似合わない。強く吹く風に髪の毛を持っていかれないように押さえ、雲一つない秋空を見上げた。
(夏が終わる……。もうすぐ、時が動く)
平和な時は終わり、そして最後の時が動く――
●
友ヶ島を見下ろす展望台跡。そこに『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)と『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)の二人がいた。
「島を見渡せる場所だからか、賑やかそうな声が聞こえるねぇ」
恭司は浜辺の方で行われているバーベキューの方を見た。楽しそうな空気が伝わってきそうな喧騒だ。その様子に微笑みながら、隣にいる少女に目を移す。これまで共に歩んできた猫の獣憑。見上げるような瞳を受け止める。
「全部終わったら、私達はどうなるんでしょう。例えばこの耳……蘇我島さんと同じ耳に戻るんでしょうか?」
不安そうに問いかける燐花。言って恭司の耳に触れようとして……自分の頭にある猫の耳を触る。気恥ずかしかったこともあるが、自分がどうなるかわからない事もあった。……未来が見えないというのは怖い事だ。それが今まで慣れ親しんだ体の一部だからこそ。
「そうだねぇ。次の決戦が終わったら、大きく何かが変わるだろうしね」
次の決戦。それを思い恭司は息を大きく吐いた。源素を総べると言われた存在。この四半世紀の混乱を生み出したモノ。それを倒すとなれば、源素がどうなるかも変わってくる。……不安は多い。それは自己の変化だけではない。社会全体の変化だ。
「色々混乱は生まれるだろうね。だけど、この先も燐ちゃんとこうやって一緒に居られる事を、僕は望むよ」
「一緒に……。そう、ですね。最後の戦いを終えたら、何処か静かな所でのんびり過ごしたいですね」
優しく髪を撫でる恭司。その手に体を預けるように燐花は脱力し、頭を預ける。
ずっと一緒に。それが二人の幸せの形――
●
迎えの船が来て、覚者達は友ヶ島を後にする。
日本の状況がどう変化しようが、島は変わらず覚者達を受け入れてくれる。それは一つの自然の形だ。
来年、この日本はどうなっているのだろうか。覚者達の望む社会になっているのか。それとも違う未来が待っているのか。どんな未来になったとしても、島は受け入れてくれるだろう。
島が視界から消えるまで、覚者達は友ヶ島の方をずっと見ていた。
秋風が静かに島を包んでいる。
季節は確かに、変わりつつあった。
「いい風だ。なんつーか、森が生きてるって感じだな」
友ヶ島の森の中、藤森・璃空(CL2001680)は吹いてくる風を受けながらそんな言葉を口にする。木々の香りが混ざった涼しい風。体の隅々まで浄化してくれる新緑の空気。ここには都会にはない何かが確かにあった。
「……いつも助けてもらってばかりですまねー」
周囲の木々に呟く璃空。覚者として木の源素を操り、星の生形態と言う意味でも植物には世話になりっぱなしだ。与えてもらった恩を返すことが出来るのならなんだってする。璃空はそう思いながら目を閉じた。そうすることで自然をより深く感じるように。
「ま、今日はゆっくりさせてもらうぜ……」
「それにしても大変な一年でしたねー」
夜の帳の元、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は守護使役のペスカと一緒に花火をしていた。夏の終わりを感じさせる線香花火。それをペスカと一緒に見ながら、これまでのことを回顧していた。
「……ええ、大変なのはこれからですよね」
守護使役に応えるようにラーラは頷く。大妖をすべて伏し、それを生み出したモノとの戦いが待っている。仮に倒したとして、その後どうなるか。それはまだ見えない世界だ。不安に思う事もあるが、それでもペスカと一緒なら乗り越えられると信じていた。
「ふふ。次の花火? 大丈夫ですよ、すぐに用意しますから」
「はい、チーズ! ですわ!」
『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)は皆の写真を撮っていた。友ヶ島の朝昼晩の写真や、そこで楽しむ仲間達の写真を。いのり自身がその輪に加わることはしない。ただこの瞬間を切り取るように、写真を撮っていた。
「お爺様があまり体の具合が良くないらしくて、いのりに戻って来て欲しいと仰っておられますの」
守護使役のガルムを抱きながら、ガルムにだけに聞こえるように呟く。祖父が倒れれば、秋津洲の家はいのりが引き継ぐことになる。そうなれば、FiVEの仲間とはもう会えないかもしれない。そんな事を表に出さず、歩き出す。
(だから今、確かにいのりは此処に居たのだと、その証明が欲しいのかもしれませんわね)
いのりは『今』を確認するように、写真を撮り続ける。
●
「肉! 肉! にーくー!」
と言う声をあげたはともかく、【BBQ】のメンバーは浜辺でバーベキューを行っていた。
「ソラ、どっちがたくさん釣れるか勝負だ!」
「どっちが大物釣るか競争だ!」
しかし食べる物がない……わけではないが現地調達も面白いだろうという事で『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)と『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は釣りをすることになった。新鮮な魚は美味しいですし。釣竿を手に浜辺で糸を垂らす二人。
「とにかく大物狙いだ! 小魚に用はないぜ!」
拳を振り上げた後に、力いっぱい竿を振って糸を飛ばす遥。そしてそのまま数秒待ち、すぐに糸を引き上げて別の場所に糸を飛ばす。基本的に『待つ』事が性に合わない遥にとって、糸を垂らして待つ釣りのやり方は不向きのようだ。
「…… とは言え、やっぱ浜で釣るとなると大物はいないよね」
アジを釣り上げながら奏空はため息をつく。あれだけの人数のお腹を満たすには足りないが、それでもこの短時間ではかなりの成果だ。奏空はそう思って、隣にいる遥の方を振り返る。
「って遥!?」
「目の前を魚が泳いでるのに、いちいち待っていられるか! うおおおおおおお!」
見れば遥はいつの間にか水着に着替え、海に飛び込んでいた。呆然とする奏空。まあ遥なら大丈夫だろうけど、素人が道具もなしで海の魚を簡単に取れるはずがない――
「とったどー!」
「大物獲ってきたー!?」
遥は何故かこの辺りを泳いでいたサメを掲げて浮き上がってきた。そのまま二人はバーベキューの場に戻る。
「サメ…………ですか? 流石にサメは扱ったことはありませんので」
『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)はサメを見て呆然と呟く。二人が釣りに行ったことは知っているが、まさかの成果である。硬いサメ肌とかどうやってはがすんだろうと思考し、持ってきた包丁では歯が立たないので諦めた。
「あ、でもアジならさばけますよ。凄いですね、奏空くん」
慣れた手つきで魚を切っていく澄香。一口サイズに切ったアジを紙皿に乗せ、バーベキューの網に運んでいく。手早く焼いてもよし、そのまま醤油につけて食べてもよし。取れたての魚はそれだけで美味なのだ。
「お肉や野菜を焼く方は足りてるようです? なら、ちょっと変わり種と言う事で、鉄板の一部をお借りしてパンケーキでも焼きましょう」
「オレにもそれくれー!」
パンケーキが焼ける臭いに『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063) が反応する。九月の友ヶ島。泳ぐには少し遅い時期だがだからこそ行われたバーベキュー。肉をたくさんほおばって、翔は満足げだった。そこに飛び込む甘い香りである。
「きっちり栄養付けておかないとな!」
肉とパンケーキを食べながら、翔はそう遠くない未来のことを思っていた。源素を総べる存在。大妖を生み出したモノ。『一の何か』と呼ばれる存在との戦いを。どんな戦いになるかはわからないが、栄養を取っておいて損はない。
「あ、澄香姉ちゃん、一個貰うぜ! 日那乃、肉ばっかで飽きるならこれ食うか?」
「ん。天野さんに、ありがとう、って伝えて、ね」
パンケーキを受け取り、桂木・日那乃(CL2000941)が礼を言う。最初はお皿を並べたり食材を切ったり片づけをしたりと裏方に回っていた日那乃だが、皆の食べるペースが落ち着いたころに食べ始める。守護使役のマリンと一緒にゆっくりと食事をしていた。
「……マリン、空丸と遊んでる、の?」
気が付けば翔の守護使役と日那乃の守護使役が遊ぶように体をぶつけあっていた。クチバシでつつく空丸と、尾びれではたくマリン。空を泳ぐように他の守護使役と交流する様をみて、日那乃は小さく頷いた。その表情に変化は見られないけど――
「お友達と一緒で、よかった、ね」
「日那乃さん、嬉しそうですね」
日那乃の様子を見て『陰と陽の橋渡し』賀茂 たまき(CL2000994)は小さくほほ笑んだ。無表情の日那乃だが、無感情ではない事は長い付き合いで知っている。そんな幸せそうな姿を見るたびに、たまきの心も温かな気持ちになっていく。
「お肉ばかりじゃダメですよ。お野菜も食べないと!」
たまきは焼き係に徹していた。肉や野菜を焼いて、頃合いを見て皿に移す役割だ。肉ばかり食べる人に、いい感じで焼けた野菜を盛ることも忘れない。そんな一瞬一瞬を笑いながら、大事に心に留めていた。そして人の視線がそれたのを確認してシイタケをハシでつまんで奏空に向き直り、
「奏空さん、あーん」
「シイタケ苦手……でも幸せ……!」
幸せを感じながらシイタケをほおばる奏空。
「今日は硬い顔ばかりしてはいられないですね」
たまきが席を離れている間は『五麟の結界』篁・三十三(CL2001480)が焼き役を担っていた。日々の戦いで疲れている者達を労うために、三十三はエプロンをかけて肉と野菜を焼いていた。珍しく笑顔を浮かべ、箸を動かしてく。
「まだまだたくさんありますからね」
肉の焼き具合を耳と目で判断し、食べたそうな人に配っていく。肉を食べる人の顔を見て、三十三も笑顔になる。皆が食べている間に新たに肉を焼き、そしてまた配っていく。バーベキューの熱さで少し休憩していると、パンケーキが差し出された。
「おや、歩ちゃん。ありがとう」
「はい、さとみん。あゆみがデコったの一緒に食べよーよ」
『モイ!モイ♪モイ!』成瀬 歩(CL2001650)は焼いたパンケーキを三十三に渡す。ずっと肉を焼いていた彼を労うために、色々デコレートしたパンケーキを作ったのだ。それを食べる姿を見て、歩は笑顔を浮かべる。
「みんなで食べる御菓子って、美味しいよねー」
焼き立ての甘いパンケーキ。それを口にしながら歩が微笑む。誰かの笑顔。誰かの手。誰かの声。それがあるだけで心が温かくなる。それがどれだけ大事な事なのか。歩は知っている。今ある絆の繫がりこそが、楽しみの根源なのだ。
「ユスちゃーん! これ一緒にたべよー!」
「焼きマシュマロではなく焼きパンケーキですわね。いただきますわ」
言って歩の差し出したパンケーキを食べる『モイ!モイ♪モイ!』ユスティーナ・オブ・グレイブル(CL2001197)。日本でバーベキューをするのは初めてだが、その違いに驚いていた。
「ユスの国ではソーセージやベーコン巻きマッシュルームが主流ですのよ」
日本との文化の違い。ユスティーナの国ではキノコと肉などが中心だった。海を隔てれば食文化も異なる。その違いを感じながらユスティーナはパンケーキを食べる。文化が違えども、食の周りに笑顔があるのは万国共通だ。
「はい、アユム。食べてくださいまし♪ ユスの国の味ですのよ!」
「焼ましまろもいいけどスモアもいいよねー」
そんな年少組の様子を見ながら『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)は焼き立てスモアをほおばっていた。焼いたマシュマロとチョコレートが口の中で絡み合い、黒と白の甘味が紡の中で融和する。
「夏も終わりだねー」
バーベキューの鉄板から離れた場所で折り畳みの木製テーブルに料理を乗せ、氷出し紅茶と水出しコーヒーを口にしながら秋の潮風を堪能していた。河に爪先を浸して、残暑の熱気を冷ます。風が草を薙ぐ音を聞きながら、心を癒していた。
「いぶちゃん……練習頑張ったんだね」
「ん。指はちゃんとついてるよ」
絆創膏だらけの指先を見る紡の視線に気づいて、『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)はにこりと微笑んだ。彩吹が持ってきたのは切断済みのトウモロコシ。それを作るのにどれだけ包丁で自分を傷つけたかの証である。――最終的には兄が切ったのだが。
「うん。でもこういう場所で血まみれはまずいよね」
バーベキューを楽しみ人達を見て、彩吹は頷いた。共にしのぎを削り、激戦を共にした仲間達。だがそれを感じさせない平和な一時。この平和な空間に血の惨劇は似合わない。強く吹く風に髪の毛を持っていかれないように押さえ、雲一つない秋空を見上げた。
(夏が終わる……。もうすぐ、時が動く)
平和な時は終わり、そして最後の時が動く――
●
友ヶ島を見下ろす展望台跡。そこに『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)と『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)の二人がいた。
「島を見渡せる場所だからか、賑やかそうな声が聞こえるねぇ」
恭司は浜辺の方で行われているバーベキューの方を見た。楽しそうな空気が伝わってきそうな喧騒だ。その様子に微笑みながら、隣にいる少女に目を移す。これまで共に歩んできた猫の獣憑。見上げるような瞳を受け止める。
「全部終わったら、私達はどうなるんでしょう。例えばこの耳……蘇我島さんと同じ耳に戻るんでしょうか?」
不安そうに問いかける燐花。言って恭司の耳に触れようとして……自分の頭にある猫の耳を触る。気恥ずかしかったこともあるが、自分がどうなるかわからない事もあった。……未来が見えないというのは怖い事だ。それが今まで慣れ親しんだ体の一部だからこそ。
「そうだねぇ。次の決戦が終わったら、大きく何かが変わるだろうしね」
次の決戦。それを思い恭司は息を大きく吐いた。源素を総べると言われた存在。この四半世紀の混乱を生み出したモノ。それを倒すとなれば、源素がどうなるかも変わってくる。……不安は多い。それは自己の変化だけではない。社会全体の変化だ。
「色々混乱は生まれるだろうね。だけど、この先も燐ちゃんとこうやって一緒に居られる事を、僕は望むよ」
「一緒に……。そう、ですね。最後の戦いを終えたら、何処か静かな所でのんびり過ごしたいですね」
優しく髪を撫でる恭司。その手に体を預けるように燐花は脱力し、頭を預ける。
ずっと一緒に。それが二人の幸せの形――
●
迎えの船が来て、覚者達は友ヶ島を後にする。
日本の状況がどう変化しようが、島は変わらず覚者達を受け入れてくれる。それは一つの自然の形だ。
来年、この日本はどうなっているのだろうか。覚者達の望む社会になっているのか。それとも違う未来が待っているのか。どんな未来になったとしても、島は受け入れてくれるだろう。
島が視界から消えるまで、覚者達は友ヶ島の方をずっと見ていた。
秋風が静かに島を包んでいる。
季節は確かに、変わりつつあった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
