大妖が河原で覚者を待っている
●最後の大妖、動く
五麟市から少し距離を置いた山の中、一体の大妖がそこに居た。
「本気のヨルナキも倒したか。『一の何か』に反目するっていうのは本気のようだな」
四本の腕を持つ大妖――『斬鉄』大河原鉄平は言って笑みを浮かべる。
「大人しくしてりゃ死にはしないってぇのに。まったく義侠心の高い事で。ま、だからこそあそこまで強くなったのか。仁義と神器は同音。人の正義と神の器。源素はどちらに引かれるか。
んじゃまあ、そろそろ宣戦布告と行きますか」
最後の大妖が、ゆるりと動き出す。
その足取りは、これから戦うものとは思えないほど軽かった。
●言伝
京都市六条河原――
京都の五条通と七条通の間にある鴨川河原を指す言葉である。
今でこそ散歩道として舗装されたのどかな河原だが、かつては石田三成や長曾我部元親など名だたる人間が処刑された場所でもある。キリシタン五十二人を処刑し、橋のたもとにはその石碑があると言う。
繰り返すが今はのどかな遊歩道である。だがこの日、その道を歩く者はいなかった。そこに降りようと思うものさえいなかった。何故かそこに行きたくない。そう思わせる『力』が働いていた。
怪訝に思ったFiVEの覚者が調べに行ったところ、予想だにしない人物が闊歩していた。時代錯誤の服を着て、四本の腕を持つ人型の存在を。
「よお、俺が見えるってことはFiVEの関係者ってことだな? だったら言伝を頼む。
『陰謀事は面倒でね。そっちが指定した戦場でケリつけようぜ。断わるんだったら、ここから人を斬りながらそっちに攻めていってもいいぜ』」
その男――『斬鉄』と呼ばれる大妖は、軽く手を振ってその覚者に伝言を頼む。覚者は怯えながらこくこくと頷き、端末から連絡を入れた。
●FiVE
「――というわけなんだ」
「どういうわけだよ」
久方 相馬(nCL2000004)は集まった覚者に向けて経緯を説明し、覚者もそう問い返した。
「こっちが聞きたいんだが……わかっていることは六条河原に結界みたいなものが展開されてて、FiVEの人間以外を拒んでいるみたいだ。その上で、戦いたいからそっちから場所を指定してくれ、とかなんとか」
断れば、人を殺しながら五麟市に向かってくるという脅し付きである。
「つまり……何をすればいいんだ?」
「六条河原に行って大妖と話をしてきてくれ。メインは場所の指定だが、他にもまあいろいろ情報を引き出せれば」
無茶な、と言いかけて考える覚者達。少なくとも今は積極的に人を襲う気はないようだ。そういう意味では話し合いの余地はあるように見える……のだが、話し合う内容が『どこの河原で殴り合う?』という物騒なものなので何とも言えないのも事実である。
ともあれ、このまま放置していい案件ではない。覚者達はどうしたものかと考えながら、会議室を出た。
五麟市から少し距離を置いた山の中、一体の大妖がそこに居た。
「本気のヨルナキも倒したか。『一の何か』に反目するっていうのは本気のようだな」
四本の腕を持つ大妖――『斬鉄』大河原鉄平は言って笑みを浮かべる。
「大人しくしてりゃ死にはしないってぇのに。まったく義侠心の高い事で。ま、だからこそあそこまで強くなったのか。仁義と神器は同音。人の正義と神の器。源素はどちらに引かれるか。
んじゃまあ、そろそろ宣戦布告と行きますか」
最後の大妖が、ゆるりと動き出す。
その足取りは、これから戦うものとは思えないほど軽かった。
●言伝
京都市六条河原――
京都の五条通と七条通の間にある鴨川河原を指す言葉である。
今でこそ散歩道として舗装されたのどかな河原だが、かつては石田三成や長曾我部元親など名だたる人間が処刑された場所でもある。キリシタン五十二人を処刑し、橋のたもとにはその石碑があると言う。
繰り返すが今はのどかな遊歩道である。だがこの日、その道を歩く者はいなかった。そこに降りようと思うものさえいなかった。何故かそこに行きたくない。そう思わせる『力』が働いていた。
怪訝に思ったFiVEの覚者が調べに行ったところ、予想だにしない人物が闊歩していた。時代錯誤の服を着て、四本の腕を持つ人型の存在を。
「よお、俺が見えるってことはFiVEの関係者ってことだな? だったら言伝を頼む。
『陰謀事は面倒でね。そっちが指定した戦場でケリつけようぜ。断わるんだったら、ここから人を斬りながらそっちに攻めていってもいいぜ』」
その男――『斬鉄』と呼ばれる大妖は、軽く手を振ってその覚者に伝言を頼む。覚者は怯えながらこくこくと頷き、端末から連絡を入れた。
●FiVE
「――というわけなんだ」
「どういうわけだよ」
久方 相馬(nCL2000004)は集まった覚者に向けて経緯を説明し、覚者もそう問い返した。
「こっちが聞きたいんだが……わかっていることは六条河原に結界みたいなものが展開されてて、FiVEの人間以外を拒んでいるみたいだ。その上で、戦いたいからそっちから場所を指定してくれ、とかなんとか」
断れば、人を殺しながら五麟市に向かってくるという脅し付きである。
「つまり……何をすればいいんだ?」
「六条河原に行って大妖と話をしてきてくれ。メインは場所の指定だが、他にもまあいろいろ情報を引き出せれば」
無茶な、と言いかけて考える覚者達。少なくとも今は積極的に人を襲う気はないようだ。そういう意味では話し合いの余地はあるように見える……のだが、話し合う内容が『どこの河原で殴り合う?』という物騒なものなので何とも言えないのも事実である。
ともあれ、このまま放置していい案件ではない。覚者達はどうしたものかと考えながら、会議室を出た。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.『斬鉄』と何処で戦うかを決める
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
(依頼トップを見て)……うわぁ、ミスマッチ。
●説明ッ!
京都の六条河原に『斬鉄』と呼ばれる大妖が現れました。河原内に結界を張り、FiVE以外の存在をシャットアウトしています。
『斬鉄』はFiVEと勝負がするのが目的で、その場所はFiVEが指定してもいいと言っています。『工夫や策略は人間の武器だからな。存分に使ってくれていいぞ』という事だそうです。
最低限話を纏めないといけないのは、『斬鉄と何処で戦うか?』の一点だけです。複数集まった時は、大妖が好みそうなシチュエーションを選びます。またそれ以外で聞きたいことなどあればご自由に聞いてください。
●敵(?)情報
・『斬鉄』大河原 鉄平
四本腕の人間型大妖です。『鉄を斬った』という二つ名が存在します。
源素を切ることが出来るため、覚者との相性は最悪です。
(現在分かっている)攻撃方法
繻子灰火 物近列 持っている刀の一つ。【焔傷】
水師妹紅 物近貫3 持っている刀の一つ。【失血】(100%、50%、25%)
土壌灰塵 物近単 持っている刀の一つ。【劇毒】【三連】
老木空虚 物遠全 持っている刀の一つ。
瞬息の武 自付 ???
弾指の護 自付 術式体術に関わらず、遠距離攻撃に対する防御力増加。
『斬鉄』 P かつて存在した『金』属性を斬った証。すなわち源素自体を斬る能力。特定の属性を選び、そのターンの間その属性の術式を使用不可にする。
●場所情報
京都六条河原。そこに結界を張って、大妖は待っています。人が入ってくる可能性は皆無です。念のため、他のFiVEスタッフが見張りを行っています。
時刻は昼。河の近くなので季節の割には涼しいです。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
8/∞
8/∞
公開日
2019年08月09日
2019年08月09日
■メイン参加者 8人■

●
「うわぁ、本当にいる」
六畳河原についた『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)は開口一番そう言い放った。河原に居る『斬鉄』を見てうんざりとした表情で頭を抱える。聞いていた情報通りのことだが、だからこそ信じたくないという思いもあった。
「まさかあちらからこちらを呼び出してくるとはな」
『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は半ば呆れたようにため息をつく。最後の大妖がどう動くか緊張していただけに、この呼び出しは拍子抜けだ。だが無為に犠牲を出すことなく状況を勧められるのなら、それに越したことはない。
「一般の人達がパニックに陥らないようにしてくれたのでしょうか」
河原に繋がる階段を降りながら『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)はそんなことを考える。それこそ警告なしでここから五麟市まで突き進むことも可能なはずだ。それをしないというのは優しさだろうか。
「それもあるやろうけど、うちら以外は興味ないんやろうな」
腕を組んでうんうんと頷く『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)。人間の命を歯牙にかけていない。殺す価値もない、と言う意味なのだろう。無駄な虐殺よりも意味のある戦い。人間的な倫理観と言うよりは、邪魔な草木を刈らない程度の感覚だ。
「そんなことはどうでもいいさ! ようやく『戦い』になるんだからな!」
意気揚々と言った顔で『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は微笑んだ。以前戦ったときは足止め程度の状態だった。だが今は違う。戦いに戦いを重ね、大妖と滅ぼせるほどの力を得た。今度は負けない。その気持ちを拳に集める。
「ああ。ぜってー負けねーからな!」
遥の言葉に頷く『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)。翔の中では大妖は人間の敵で、大暴れしているイメージがあった。なのでこんな提案は予想外で、むしろ好感を持てる。だが勝利を譲るつもりは毛頭ない。
「どうあれ……今は平和的にお相手できそうですね」
複雑な思いを抱きながら『陰と陽の橋渡し』賀茂 たまき(CL2000994)は斬鉄を見る。大妖は『一の何か』によって作られた存在。『一の何か』を倒すと決めた以上は相対すべき相手なのだ。だが、今はその時ではない。
「んー……とりあえず話してみないとわからないかな」
思考と行動。『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)はそうやって真実に近づいていく。事前の思考なしでは方向性を定めることはできず、行動無くして真実は手に入らない。これまでも、そしてこれからもそうやって進んでいくだけだ。
「もう少し時間がかかると思ったが、意外と早い到着だな」
『斬鉄』大河原鉄平は河原に降りて来た覚者達を見てて四本ある手の一本をあげる。結界の内容は解らないが、本当に周りの人間は『斬鉄』を認識できないようだ。FiVEの人間以外には、平和な河原に見えるのだろう。
最後の大妖、大河原鉄平。そして八人の覚者。
その話し合いが、始まる――
●
――とはいえ覚者達の意見はほぼ一致しており、要望は始めからまとまっていたも同然だった。その共通項を端的に述べる。
「人がいない場所? 予想はしていたがそんなんでいいのか?」
『斬鉄』は覚者達の意見を聞いて顎をさすりながら再確認する。
「どういうことだ?」
「勝つ為なら数の優位性をふんだんに使って、お前らを守る『壁』を多くした方がいいんじゃないのか、ってことだよ」
あらゆる戦いに置いて、数が多いという事は重要である。事、覚者達の基本戦略は高火力の者を守りながら攻めることだ。ならば戦闘力のない人間を覚者を守る壁として使用することは戦術的に正しい。だが――
「それは剣士の戦い方と違うわ」
「アンタもそんな戦いがしたいわけじゃないだろう」
凛は手を振ってその意見を否定し、遥が確認するように問いかける。思考が武術である二人は、戦う事が思考の方向性となっている。そしてその考え方は『斬鉄』も理解できる。
「っていうか、あんたは何のために戦うんだ?」
奏空はかねてから思っていた疑問をぶつけてみた。
「享楽的に戦いを求めてるように見えるけど、俺達に配慮したりとどこか真面目なんだよ。ケモノのように利己的じゃなくて、ヨルナキのように忠誠心が高いわけでもない。かといって『一の何か』に義理があるわけでもなさそうだ。
真面目ゆえに『一の何か』に仕えているとかそんな感じか?」
「まさか。俺は今でもアレに反目しようとしてるぜ。つーか、寝首掻こうとしたことなんざ数えきれねぇ」
肩をすくめて告白する『斬鉄』。
「だがあれは斬れねぇ。だから斬れるようになるまでは一緒に居るって程度だ。
お前らのように強くて面白い連中を生み出したわけだしな」
今の自分達の強さが『一の何か』によるものだと言われて不満はあったが、それよりも先に確認しないといけないことがあった。ラーラがそれを口にする
「斬れない、ですか? 源素を斬った貴方が?」
「ああ、源素を斬れてもアレは斬れない。……いや、違うか。源素を斬るってのはあくまで源素を斬るだけの力だ。アレをどうにかするには方向性が違うってだけだ。
で、その方向性を俺は持てなかった。だからひたすら斬る方向に特化して突き抜けようというわけだよ」
方向性。源素すら斬った男はしかしそれでは『一の何か』を斬るには足りないと告げた。
「つまり、源素と『一の何か』は別?」
ラーラの質問に首肯する大河原。
「源素を総べてはいるが、厳密には違う存在だ。どちらかと言うとお前達に近い。源素を操り、事を為す存在。単純に可能性でいえば、俺よりもお前達の方が倒す方向性的には向いている」
あくまで可能性と方向性だが、と斬鉄は付け加えた。
「そういえば、その切った源素――『金』だったか。それはどのような源素だったんだ?」
彩吹は『斬鉄』の動きを見ながら問いかける。挙動、仕草、癖……そういった一つ一つを観察し、戦う時の情報とすべく。それを分かっているのかいないのか、大河原は彩吹の方を見て答える。
「金属や鉱物と言ったイメージが強いんだが」
「『天』と大きく変わりはしねぇよ。従革の兆し……誰かを補助したり個人の気質を高めたりさ。極めればカナヤマヒコノカミ辺りが手助けしてくれたかもなあ」
金山毘古神――鍛冶や金属の神である。包丁の神でもあり、顕現すれば武器を著しく強化する存在になっていただろう。
「『金』属性を斬ったという話だが、そのことについて『一の何か』は何も言わなかったのか?」
質問をかぶせるようにゲイルが問いかける。
「源素を強くさせて集めるのが目的なのだから一つの属性を斬って消滅させたなんて怒りそうなものだがな」
「そいつは勘違いだな。アレが求めるのは『人の中で培われた源素』だ。源素自体にはそれほどこだわりはない」
「どういうことだ?」
「源素は世界に満ちている。だがお前達が使う為に体内に取り入れ、厳選して精錬された源素はまた質が違う。
例えるなら砂の中から金を取り出して扱うのがお前達で、アレが求めるのはそうやって作られた金と技術だ。それを溜めこみ、アレは強くなる」
なるほど、とゲイルは納得した。属性の一つを斬ったところで『一の何か』にとっては無意味なことなのだ。
「では……『源素』に介入できるからと言って、貴方は『一の何か』の武器というわけでは、ないのですね? そもそも『一の何か』とは、どういう関係なのでしょうか……?」
言葉を選びながらたまきが問いかけた。
「ああ、むしろアレを斬ってやりたいぐらいだ。
大妖が破綻者から派生したことは知っているな? 俺は破綻者の神具がベースになっている。戦う事と破壊する事が行動理念だ。アレに作られた人工的な付喪神だと思えばいい。一応命令……と言うか『人同士が争っている間は動くな』っていう制限は受けているが関係らしい関係はその程度だな」
覚者、隔者、憤怒者……そういった人同士の争いがある間は動くな。それに従い動かなかったようである。AAA襲撃時はその制限が解除されていたのか。
「あいつが源素そのものじゃなくてそれでも勝てないっていうのは分かったけどさ。
それはそれとして源素を斬るっていうには興味があるな。どうやったらできるんだ?」
翔が目を光らせて質問する。出来る事は多いに越したことはない。陰陽師としても五行を殺すという事には興味があった。
「いろんなものを斬っていくうちにコツが掴めるようになるぜ。こいつは口伝するよりも実戦あるのみだ」
先ずは二百年程斬るだけに専念してみな、と言われて翔は諦めたように半笑いする。今のところ、人間を止めるつもりは毛頭なかった。
●
「あんた、そんだけ刀持ってたら結構目利きやろ? この刀どう思う?」
別れ際、凛が自分の愛刀を見せて問いかける。
「中々使い込まれてるな」
「ご先祖様が鍛えた焔陰流の魂や。そしてあんたの命を絶つ刀や。よう覚えときや」
言って笑う凛。その挑発に『斬鉄』もニヤリと笑った。
「オレは、オレの悔いが残らないくらい全力でぶつかる!」
拳を握り、遥が『斬鉄』に突き出す。この拳が届くかどうかは分からない。だが、届かせてみせると言う意気込みは確かに存在していた。
「だから、あんたも出し惜しみ一切無しの力をぶつけにきてくれ!」
「もとよりそのつもりだ。
それじゃ、待ってるぜ――友ヶ島だったか」
友ヶ島。FiVEが毎年保養として向かう島。あそこなら観光客をシャットアウトすれば人を巻き込むことはない。候補はいくつかあったが、そこが最終的な戦場となった。
じゃあな、という軽い言葉と共に『斬鉄』は姿を消す。それと同時に結界が解けたのか、河原に人が下りてきた。
覚者達は頷き、五麟市に向かって走り出す。
戦いの場は、友ヶ島。急ぎその準備を整える為に――
「うわぁ、本当にいる」
六畳河原についた『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)は開口一番そう言い放った。河原に居る『斬鉄』を見てうんざりとした表情で頭を抱える。聞いていた情報通りのことだが、だからこそ信じたくないという思いもあった。
「まさかあちらからこちらを呼び出してくるとはな」
『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は半ば呆れたようにため息をつく。最後の大妖がどう動くか緊張していただけに、この呼び出しは拍子抜けだ。だが無為に犠牲を出すことなく状況を勧められるのなら、それに越したことはない。
「一般の人達がパニックに陥らないようにしてくれたのでしょうか」
河原に繋がる階段を降りながら『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)はそんなことを考える。それこそ警告なしでここから五麟市まで突き進むことも可能なはずだ。それをしないというのは優しさだろうか。
「それもあるやろうけど、うちら以外は興味ないんやろうな」
腕を組んでうんうんと頷く『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)。人間の命を歯牙にかけていない。殺す価値もない、と言う意味なのだろう。無駄な虐殺よりも意味のある戦い。人間的な倫理観と言うよりは、邪魔な草木を刈らない程度の感覚だ。
「そんなことはどうでもいいさ! ようやく『戦い』になるんだからな!」
意気揚々と言った顔で『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は微笑んだ。以前戦ったときは足止め程度の状態だった。だが今は違う。戦いに戦いを重ね、大妖と滅ぼせるほどの力を得た。今度は負けない。その気持ちを拳に集める。
「ああ。ぜってー負けねーからな!」
遥の言葉に頷く『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)。翔の中では大妖は人間の敵で、大暴れしているイメージがあった。なのでこんな提案は予想外で、むしろ好感を持てる。だが勝利を譲るつもりは毛頭ない。
「どうあれ……今は平和的にお相手できそうですね」
複雑な思いを抱きながら『陰と陽の橋渡し』賀茂 たまき(CL2000994)は斬鉄を見る。大妖は『一の何か』によって作られた存在。『一の何か』を倒すと決めた以上は相対すべき相手なのだ。だが、今はその時ではない。
「んー……とりあえず話してみないとわからないかな」
思考と行動。『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)はそうやって真実に近づいていく。事前の思考なしでは方向性を定めることはできず、行動無くして真実は手に入らない。これまでも、そしてこれからもそうやって進んでいくだけだ。
「もう少し時間がかかると思ったが、意外と早い到着だな」
『斬鉄』大河原鉄平は河原に降りて来た覚者達を見てて四本ある手の一本をあげる。結界の内容は解らないが、本当に周りの人間は『斬鉄』を認識できないようだ。FiVEの人間以外には、平和な河原に見えるのだろう。
最後の大妖、大河原鉄平。そして八人の覚者。
その話し合いが、始まる――
●
――とはいえ覚者達の意見はほぼ一致しており、要望は始めからまとまっていたも同然だった。その共通項を端的に述べる。
「人がいない場所? 予想はしていたがそんなんでいいのか?」
『斬鉄』は覚者達の意見を聞いて顎をさすりながら再確認する。
「どういうことだ?」
「勝つ為なら数の優位性をふんだんに使って、お前らを守る『壁』を多くした方がいいんじゃないのか、ってことだよ」
あらゆる戦いに置いて、数が多いという事は重要である。事、覚者達の基本戦略は高火力の者を守りながら攻めることだ。ならば戦闘力のない人間を覚者を守る壁として使用することは戦術的に正しい。だが――
「それは剣士の戦い方と違うわ」
「アンタもそんな戦いがしたいわけじゃないだろう」
凛は手を振ってその意見を否定し、遥が確認するように問いかける。思考が武術である二人は、戦う事が思考の方向性となっている。そしてその考え方は『斬鉄』も理解できる。
「っていうか、あんたは何のために戦うんだ?」
奏空はかねてから思っていた疑問をぶつけてみた。
「享楽的に戦いを求めてるように見えるけど、俺達に配慮したりとどこか真面目なんだよ。ケモノのように利己的じゃなくて、ヨルナキのように忠誠心が高いわけでもない。かといって『一の何か』に義理があるわけでもなさそうだ。
真面目ゆえに『一の何か』に仕えているとかそんな感じか?」
「まさか。俺は今でもアレに反目しようとしてるぜ。つーか、寝首掻こうとしたことなんざ数えきれねぇ」
肩をすくめて告白する『斬鉄』。
「だがあれは斬れねぇ。だから斬れるようになるまでは一緒に居るって程度だ。
お前らのように強くて面白い連中を生み出したわけだしな」
今の自分達の強さが『一の何か』によるものだと言われて不満はあったが、それよりも先に確認しないといけないことがあった。ラーラがそれを口にする
「斬れない、ですか? 源素を斬った貴方が?」
「ああ、源素を斬れてもアレは斬れない。……いや、違うか。源素を斬るってのはあくまで源素を斬るだけの力だ。アレをどうにかするには方向性が違うってだけだ。
で、その方向性を俺は持てなかった。だからひたすら斬る方向に特化して突き抜けようというわけだよ」
方向性。源素すら斬った男はしかしそれでは『一の何か』を斬るには足りないと告げた。
「つまり、源素と『一の何か』は別?」
ラーラの質問に首肯する大河原。
「源素を総べてはいるが、厳密には違う存在だ。どちらかと言うとお前達に近い。源素を操り、事を為す存在。単純に可能性でいえば、俺よりもお前達の方が倒す方向性的には向いている」
あくまで可能性と方向性だが、と斬鉄は付け加えた。
「そういえば、その切った源素――『金』だったか。それはどのような源素だったんだ?」
彩吹は『斬鉄』の動きを見ながら問いかける。挙動、仕草、癖……そういった一つ一つを観察し、戦う時の情報とすべく。それを分かっているのかいないのか、大河原は彩吹の方を見て答える。
「金属や鉱物と言ったイメージが強いんだが」
「『天』と大きく変わりはしねぇよ。従革の兆し……誰かを補助したり個人の気質を高めたりさ。極めればカナヤマヒコノカミ辺りが手助けしてくれたかもなあ」
金山毘古神――鍛冶や金属の神である。包丁の神でもあり、顕現すれば武器を著しく強化する存在になっていただろう。
「『金』属性を斬ったという話だが、そのことについて『一の何か』は何も言わなかったのか?」
質問をかぶせるようにゲイルが問いかける。
「源素を強くさせて集めるのが目的なのだから一つの属性を斬って消滅させたなんて怒りそうなものだがな」
「そいつは勘違いだな。アレが求めるのは『人の中で培われた源素』だ。源素自体にはそれほどこだわりはない」
「どういうことだ?」
「源素は世界に満ちている。だがお前達が使う為に体内に取り入れ、厳選して精錬された源素はまた質が違う。
例えるなら砂の中から金を取り出して扱うのがお前達で、アレが求めるのはそうやって作られた金と技術だ。それを溜めこみ、アレは強くなる」
なるほど、とゲイルは納得した。属性の一つを斬ったところで『一の何か』にとっては無意味なことなのだ。
「では……『源素』に介入できるからと言って、貴方は『一の何か』の武器というわけでは、ないのですね? そもそも『一の何か』とは、どういう関係なのでしょうか……?」
言葉を選びながらたまきが問いかけた。
「ああ、むしろアレを斬ってやりたいぐらいだ。
大妖が破綻者から派生したことは知っているな? 俺は破綻者の神具がベースになっている。戦う事と破壊する事が行動理念だ。アレに作られた人工的な付喪神だと思えばいい。一応命令……と言うか『人同士が争っている間は動くな』っていう制限は受けているが関係らしい関係はその程度だな」
覚者、隔者、憤怒者……そういった人同士の争いがある間は動くな。それに従い動かなかったようである。AAA襲撃時はその制限が解除されていたのか。
「あいつが源素そのものじゃなくてそれでも勝てないっていうのは分かったけどさ。
それはそれとして源素を斬るっていうには興味があるな。どうやったらできるんだ?」
翔が目を光らせて質問する。出来る事は多いに越したことはない。陰陽師としても五行を殺すという事には興味があった。
「いろんなものを斬っていくうちにコツが掴めるようになるぜ。こいつは口伝するよりも実戦あるのみだ」
先ずは二百年程斬るだけに専念してみな、と言われて翔は諦めたように半笑いする。今のところ、人間を止めるつもりは毛頭なかった。
●
「あんた、そんだけ刀持ってたら結構目利きやろ? この刀どう思う?」
別れ際、凛が自分の愛刀を見せて問いかける。
「中々使い込まれてるな」
「ご先祖様が鍛えた焔陰流の魂や。そしてあんたの命を絶つ刀や。よう覚えときや」
言って笑う凛。その挑発に『斬鉄』もニヤリと笑った。
「オレは、オレの悔いが残らないくらい全力でぶつかる!」
拳を握り、遥が『斬鉄』に突き出す。この拳が届くかどうかは分からない。だが、届かせてみせると言う意気込みは確かに存在していた。
「だから、あんたも出し惜しみ一切無しの力をぶつけにきてくれ!」
「もとよりそのつもりだ。
それじゃ、待ってるぜ――友ヶ島だったか」
友ヶ島。FiVEが毎年保養として向かう島。あそこなら観光客をシャットアウトすれば人を巻き込むことはない。候補はいくつかあったが、そこが最終的な戦場となった。
じゃあな、という軽い言葉と共に『斬鉄』は姿を消す。それと同時に結界が解けたのか、河原に人が下りてきた。
覚者達は頷き、五麟市に向かって走り出す。
戦いの場は、友ヶ島。急ぎその準備を整える為に――
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
