きかせてよ あなたにとってぼくはなに?
●かつてこの地は
第三次妖討伐抗争――
大妖『新月の咆哮』ヨルナキを相手した戦いで、この戦いに負けた人間側は妖に対する防衛力を減じる事となった。
この抗争の際に人間側はヨルナキの『巣』を襲撃している。大妖の拠点ともいえる場所を押さえ、退路を断つためだ。しかし二度の襲撃は共に失敗し、最後には『龍』のような妖に背後から襲撃を受けたと言われている。
それ以降その場所は忌み地とさて、今はもう大妖もいないのだが誰も近づこうとはしない。
北海道の山地に囲まれたその場所は、今も冷たい風が吹いていた。
●あなたにとってぼくはなに?
当時の記録を探り、ヨルナキの情報を求めて『巣』があった場所を訪れる覚者達。
当時の覚者達が行軍した道を進み、その場所へと訪れる。当時は激しい抗争があった場所だが、数年間誰も訪れていないこともあって草木が生い茂っていた。
探査用の術式や遠視などを試みても手掛かりらしいものは見られない。諦めて帰路につこうとする覚者達は、ある違和感を感じていた。普段当たり前に傍にいる『あなた』の守護使役。それが距離を取るように『あなた』から離れていた。
守護使役は喋らない。だが、長年一緒にいる『あなた』には守護使役がなんと言っているのかわかる気がする。
『危険な戦いをする○○。貴方が死んだら、ワタシはどうなるの?』
『便利な道具扱いしかされないけど、ボクらは道具と同じなの?』
『ねえ、ボクは貴方にとって、何なの?』
問いかける声に音はない。だけどその言葉は確かに聞こえてくる。
いつもあなたの傍にいた守護使役。それが自分の存在価値を問うている。より正確には『あなた』にとってどういう存在なのかを。
その問いに貴方は――
第三次妖討伐抗争――
大妖『新月の咆哮』ヨルナキを相手した戦いで、この戦いに負けた人間側は妖に対する防衛力を減じる事となった。
この抗争の際に人間側はヨルナキの『巣』を襲撃している。大妖の拠点ともいえる場所を押さえ、退路を断つためだ。しかし二度の襲撃は共に失敗し、最後には『龍』のような妖に背後から襲撃を受けたと言われている。
それ以降その場所は忌み地とさて、今はもう大妖もいないのだが誰も近づこうとはしない。
北海道の山地に囲まれたその場所は、今も冷たい風が吹いていた。
●あなたにとってぼくはなに?
当時の記録を探り、ヨルナキの情報を求めて『巣』があった場所を訪れる覚者達。
当時の覚者達が行軍した道を進み、その場所へと訪れる。当時は激しい抗争があった場所だが、数年間誰も訪れていないこともあって草木が生い茂っていた。
探査用の術式や遠視などを試みても手掛かりらしいものは見られない。諦めて帰路につこうとする覚者達は、ある違和感を感じていた。普段当たり前に傍にいる『あなた』の守護使役。それが距離を取るように『あなた』から離れていた。
守護使役は喋らない。だが、長年一緒にいる『あなた』には守護使役がなんと言っているのかわかる気がする。
『危険な戦いをする○○。貴方が死んだら、ワタシはどうなるの?』
『便利な道具扱いしかされないけど、ボクらは道具と同じなの?』
『ねえ、ボクは貴方にとって、何なの?』
問いかける声に音はない。だけどその言葉は確かに聞こえてくる。
いつもあなたの傍にいた守護使役。それが自分の存在価値を問うている。より正確には『あなた』にとってどういう存在なのかを。
その問いに貴方は――

■シナリオ詳細
■成功条件
1.守護使役の問いに答える
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
たまにはこういうのも。一応ヨルナキ関連なのですが。
●説明!
普段あなたと一緒に戦っている『守護使役』。
基本的には喋ることのない守護使役だが、なぜかあなたに語りかけてきます。守護使役への扱いは人それぞれなのですが、問いかけの根幹は『あなたにとって守護使役とはどういう存在なのですか?』です。
いなくてもいいと答えてもいいでしょう。きっと納得します。
ただの荷物運びと答えてもいいでしょう。きっと納得します。
便利な道具と答えてもいいでしょう。きっと納得します。
可愛いペットと答えてもいいでしょう。きっと納得します。
友達と答えても、家族と答えてもいいでしょう。きっと納得します。
何と答えても納得します。守護使役はずっとあなたの傍にいました。そして何と答えても変わらず貴方の傍にいます。
これはただ、それだけの話なのです。
●場所情報
北海道にある山間の場所。かつてヨルナキの『巣』があった土地。第三次妖討伐抗争が行われた決戦の地。
大妖は既になく、妖が発生することもありません。
守護使役はあなたにだけ問いかけています。他の人の守護使役に干渉することはできません。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2019年07月02日
2019年07月02日
■メイン参加者 6人■

●
風が吹き抜ける。
草を薙ぐ音が耳に届いたかと思うと、守護使役が語りかけてくる。
それは本来ありえない事。言葉をもたない守護使役が主に語りかけるなどありえない事。
だけど覚者達はそれを否定しない。否定できない。何故ならその声は、とても無視できるものではないのだから。
「ここはヨルナキの『巣』だから、より守護使役に影響が出て話をする事が出来たのかな」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は守護使役にライライさんを見てそんなことを思う。ここにはかつて守護使役だったものの成れの果てがいた。破綻した覚者の守護使役。それが住む場所だったから起きた奇跡。
「ペスカ……」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は守護使役のペスカを抱き寄せる。初めて聞いた守護使役の言葉。その気持ち。それはもしかしたら幻聴なのかもしれない。でも、本当にペスカがそう聞いているのなら。
「太郎丸……貴方……なのですか?」
半ば確信をもって問いかける『陰と陽の橋渡し』賀茂 たまき(CL2000994)。その言葉に猫の守護使役の太郎丸は体を揺すって返事を返す。そのしぐさ、その動き。それを見てたまきは確信する。守護使役と向き合い、守護使役の問いを受け止める。
「こんなにハッキリ意思がわかるってなんでだろ。でもすっげー嬉しいよな!」
鳥型の守護使役『空丸』の言葉を聞いて『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)は喜びの声を上げた。今までも十分に心が通じ合っていたが、実際に話しかけられるとその喜びは格別だ。
「声は聞こえないのに問いかけられているとわかるのは、なんだか不思議な気分だな」
口を笑みの形に変え、『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)はそう呟く。思念を飛ばしあう会話とはまた違う、自分にしか聞こえない声だ。それは小梅が自分の守護使役だからなのだろうか。
「……マリン、なんだね」
魚型守護使役のマリンを見て、桂木・日那乃(CL2000941)は静かに頷く。疑いはしない。この問いがマリンから問われていることは魂で理解でいる。幻聴かもしれない。それでもマリンが問いかけるなら、たとえ幻でも答えたい。
かつて大妖の住処だった場所。もうここには何もない。ただ草木が生えているだけの戦の跡地。
そんな地で、覚者と守護使役は語り始めた。
●
「不思議なモノだな。ずっとそばにいるのにこうして話をするのはこれが初めてか」
ゲイルは小梅の報を見る。丸い猫のような形をした小梅は、ずっとゲイルの傍にいた。それに気づいたのは因子発現した時で、犬の耳と尻尾と一緒に驚いたのを思い出す。あれからずっと、小梅はゲイルの傍にいるのだ。
『あなたにとってぼくはなに?』
問いかける小梅。その問いに対する答えは、ゲイルの中では固まっていた。改めて吟味するまでもない。思ったままに口を開く。
「初めて小梅を見た時は可愛いペットくらいに思っていた。何せ突然だったからな」
その時のことを懐かしむようにゲイルは笑う。そして小梅を撫でながらはっきりと告げた。
「小梅は俺の家族だ。
俺が日本に来たことも、覚者として発現したこともただの偶然でしかない。でも、そこから一緒に過ごした日々は紛れも無い俺の意思だ」
守護使役に関して、わからない事は多い。何故傍にいるのか。何処から来たのか。様々な説があるが、これだけははっきりと言える。
「小梅が俺の守護使役であること、とても幸せに思っているぞ」
心からの言葉に、小梅は体を摺り寄せるようにして喜びを表現した。言葉を喋るよりは、こちらの方が素の表現方法なのだろう。
「……それよりも聞きたいんだが、小梅は俺の守護使役として生まれてきたことをどう思ってる?
色々カッコいい所とか、カッコ悪い所とか見ているからな。飽きられたりしてないかな、と」
『うん。たくさんのゲイルをみてきた。死にそうになった時も、それでも最後まであきらめずに立っている姿を。とてもゲイルらしかった』
「それは褒め言葉なのかな?」
『褒めるとかわからないけど、ゲイルが変わらないのはうれしい』
「――そうか。なら俺は、俺のまま最後まで戦おう」
この戦いが終われば覚者の力を無くし、守護使役の存在を認識できなくなるかもしれない。それは悲しい別れかもしれないが、それでもその時までは胸を張ろう。
「小梅は俺の家族なんだから」
――唐突だが、賀茂 たまきは一八才の少女である。
覚者となり土行の術を中心に行使するFiVEでもトップクラスの存在で芯の強い所はあるが、それは結局のところ『誰か』の為にと言う献身からである。その『誰か』がいなければ、彼女は戦う理由を失うことになる。
仲間の為、家族の為、愛する人の為。今は戦う理由がたくさんある。だが、それは今だ。それを得る前は、臆病な少女だった。
『貴方が死んだら、ボクはどうなるの?』
太郎丸が問いかける。不安げな声で。死地に向かうたまきを心配すると同時に、それによって死別する可能性を恐れて。
死ねばどうなるかなど分からない。覚者も、守護使役も。ヨルナキの言葉を信じるなら、破綻した覚者の守護使役はヨルナキの元に向かうという。分かっているのはその程度だ。
死後の世界がある、と慰めることはできる。死んでも一緒だと希望的推測を述べることもできる。
だけどそれはしたくなかった。
「わかりません」
太郎丸に嘘はつきたくなかった。首を振るたまきは、その後に太郎丸を見て言葉を紡ぐ。
「私が死んでしまったなら……。
太郎丸は……私以外の所へと、私以外の方の所へと、行きたいですか……?」
『ずっとたまきの傍に居たい』
「はい。私もです。ずっと、一緒に居たい、です。
貴方は、臆病な私に、ずっと寄り添って下さっていて……そして、そんな私に、勇気と人、世界との繋がりを与えて下さったのだから」
たまきが因子発現して最初にそばにいてくれたモノ。最初に勇気を与えてくれた存在。
今はたくさんの人がいて、たくさんの守りたいものがある。だけど――
「大切な方々や、守りたい方々の中に、太郎丸……貴方も含まれているのです」
『うん。ありがとう』
言葉と共にたまきによりそう太郎丸。言葉を喋るよりも、こういったしぐさで気持ちを伝える方が守護使役は慣れているのだろう。
(戦いが危険なのは確か……)
たまきは太郎丸を抱き寄せ、静かに想う。
(でも、死ぬつもりは、ありません)
決意は静かに、だけど確実にたまきの心の中に。
「破綻した覚者の守護使役がヨルナキになるのなら、なおのこと破綻はできないね」
奏空はヨルナキから聞いたことを思い出しながら、ライライさんを見る。因子発現した時からずっといる鳥の守護使役。その存在は未だに謎が多いけど、そんな事とは関係なく傍にいる。分からないからこそ、理解しようと近づける。
「ライライさん。君を最初に認識したのは俺が中学二年の時だよね。
俺、木に登って遊んでて落ちてさ」
その時のことを思い出しながら奏空は口を開く。
「二日後病院で目が覚めた時に一番に君が見えた。
その時に前世の記憶もなんとなく思い出したんだけど……君は俺が俺としている今だけでなく、前世の俺に傍にもずっと居てくれてたって事をその時知ったよ」
前世の記憶はあいまいだ。だけどそこにライライさんがいたと言う前世の記憶は本当だと信じたい。もしかしたら前世の自分は覚者ではなかったかもしれないけど。
「だからね、君とは魂で繋がっているんだと思う。
君はね、俺の半身だよ」
奏空の言葉にライライさんは喜ぶように身を寄せてくる。その感覚がこそばゆい。それでもそれをはねのけようという気は起きなかった。
「ライライさん……ヨルナキは苦しみの果てに破綻した者の守護使役の集まりだ」
ライライさんの頭に手を乗せ、奏空は語る。破綻者にも様々な事情がある。力を制御できなかった者、理不尽な暴力に怒りを抑えきれなかった者、誰かを守ろうとタガを外した者……だが、その果てにあるのは死であり、守護使役との別れだ。
「一緒にその苦しみの守護使役を解放してあげよう。その為に力を貸して欲しい 一緒に戦って欲しい!」
『うん。その時は、一緒に』
聞こえてくるライライさんの声。その言葉だけで奏空は勇気が湧いてくる。
ヨルナキはけして弱くはない。大妖と呼ばれる存在が、簡単に倒せるとは思わない。
だけど、勝つ。その気持ちを乗せて、守護使役を強く抱きしめた。
「マリンは、わたしの一番大事な、家族。マリンだけが、ずっと一緒でわたしの味方」
無表情のまま日那乃は魚型の守護使役に手を伸ばす。物心つく前に親を亡くした日那乃にとって、ずっとそばにいてくれたのはマリンだった。マリンがいたから、孤独じゃなかった。
「ありがと」
その言葉に全てを込める。マリンがいなければ生きてはいなかった。こうしてここに立っていることはなかった。辛くても悲しくてもそれに耐える事が出来たのはあなたのおかげ。無表情のまま、ありとあらゆる感情を乗せて日那乃はその言葉を紡ぎ出す。
『ずっといっしょ』
聞こえてくるマリンの声に瞑目する日那乃。その言葉に安堵すると同時に、胸に熱いものが込みあがってくる。守護使役の言う通り、戦い続ければ死ぬかもしれない。死による別れが訪れるかもしれない。その時に、マリンに寂しい思いをさせるかもしれない。
ヨルナキは言った。『自分は破綻した覚者の守護使役が集まった存在』だと。別れは確実に存在する。それがどのような形であれ、永遠はありえない。それでも――ずっといっしょだと信じている。
(別れ……はじまりの神様がいなくなったら……)
源素を総べると言われた『一の何か』。それを排するという事は、源素の在り方は今とは変わるはずだ。そうなれば覚者の力を失い、マリンを認識できなくなるかもしれない。
「……わたし、力が無くなって。マリンも見えなくなって、ひとりで。
生きていける、か、な、あ……」
口にするだけで体が震えてくる。ひとり。その状態を想像して足が崩れそうになる。頭を振って忘れようとしても、簡単には離れてくれない。
「――あ」
震える日那乃を支える様に、マリンが寄り添う。この感覚、この重み。常に共にある守護使役の存在。いつだってどこだって自分を支えてくれたこの感覚。それだけは忘れない。忘れたくない。
気が付けば日那乃はマリンを抱きしめていた。今ここにある家族を手放さないように。今ここにある幸せを守るように。
「本当に恥ずかしい限りですが、私、今まではそんな風に考えたこともなかったです」
ラーラはペスカの問いに正直に答える。もしラーラが死んだらペスカはどうなるか。共に死ぬのか、それとも別の誰かの守護使役になるのか、ヨルナキのような存在に吸収されるのか。あるいは実はペスカは自分に縛られていて、自由になるのか――
分からないけど、確実に言えることがある。
「私はペスカが居なくなったら私は絶対悲しいですもん。
できるかできないかは別として、私が例え居なくなっても、ペスカには元気で居てほしい」
永遠はない。それは魔女であっても、だ。万物は流転し、生は死に向かう。その在り方から魔術は生まれる。それでも自分の愛する人には元気でいてほしい。永遠などないと知りながら、永遠を求めてしまう。ずっと元気でいてほしいと思う。
「私はペスカのこと、友達だと思ってます。
初めて私が目覚めたあの日から、悲しい時も辛い時も、もちろん楽しい時だって、ずっと一緒だったじゃないですか」
因子発現からずっとそばにいた守護使役。苦楽を共にし、時にケンカして時に一緒に笑って。とりとめのないことに一喜一憂し、許せない事に共に憤慨し。月並みなのかもしれないけれど、ペスカは友達だ。上も下もない。魔女ラーラ・ビスコッティは二人で一つなのだ。
「私はそんな風にペスカのこと思ってるんですよ。ペスカは違うんですか?」
『ラーラはともだちだよ。でも、お菓子はきっちり分けてほしいなあ。この前のケーキも』
「あ、あれはたまたまですっ! ペスカも時々多くもっていくじゃないですか!」
言ってから笑うラーラとペスカ。いつもは言葉を喋らない守護使役と会話が出来るのなら、こんな言い合いが毎日続くのだろう。
「……うん、そうですね。この現象がどういうものかとか、ヨルナキと関係あるのかとかどうでもいいです。たとえ言葉が喋れなくても、ペスカはペスカなんですから」
――奇跡は続かない。いずれこの会話が出来る状態も消えてなくなるだろう。
それでもラーラとペスカの絆は変わらない。
「そりゃもちろん、オレの分身で相棒で友達だろ!」
迷うことなく翔は空丸の問いに答える。
翼。大空を舞う鳥。翔はそれに憧れていた。従姉妹の羽根をずっと見ていた翔は、空を飛ぶ願望が幼いころから心にあった。自分にはない羽。自分には届かない領域。手を伸ばしても掴めない空。
だけど相棒がそれをかなえてくれた。自分は飛ぶことはできないけど、空からの風景を届けてくれる。高い視点は普段の景色とは異なり、それだけでワクワクする。世界に新しい光が見え、より毎日が楽しくなる。
「オレが死ねばお前も死ぬか消えるんじゃねーかって思ってたんだけど……」
空丸に手を伸ばし、そう呟く翔。自分が死んだとき、守護使役がどうなるか。そんな事は解らない。自分自身だってどうなるかわからないのだ。消滅するかもしれない。異世界に転生するかもしれない。確たる証拠はない。
(でも破綻した覚者は大妖の力になる。守護使役はヨルナキに吸収されるって……)
翔はヨルナキとの戦いを思い出す。人と妖を平等にするために襲う存在。『一の何か』に従い、源素を効率よく採取するために間引く存在。そんなふうに人間を土壌扱いして下に見る存在。空丸がそんな存在に取り込まれるのは、耐えられない。
「空丸、オレとお前は一蓮托生だ。お前がいるからオレがいる」
『うん。いちれんたくしょう』
「だから俺は破綻しない。お前とそんな別れ方はしない。お前と別れるときは、笑顔で別れるんだ!」
友達のように笑って。明日またで会えるように、じゃあねと手を振って別れるのだ。歩く方向は違っても、同じ空の元に居るのだから――
「なあ、空丸? もし源素がなくなってオレがお前を見る事できなくなっても――」
傍にいてくれるか。そこから先の言葉を、翔は飲み込んだ。その問いに意味はない。空丸は相棒で友人だ。その事実があれば、たとえ見えなくても構わない。
この絆だけは、誰にも汚すことが出来ないのだから。
●
風が吹き抜ける。
実際には一秒も満たない時間だったのだろう。気が付けば守護使役はいつも通り言葉なく『あなた』の傍にいる。
さあ、帰ろう。もうここには何もない。
満月まで、あと少し。その日こそが――
風が吹き抜ける。
草を薙ぐ音が耳に届いたかと思うと、守護使役が語りかけてくる。
それは本来ありえない事。言葉をもたない守護使役が主に語りかけるなどありえない事。
だけど覚者達はそれを否定しない。否定できない。何故ならその声は、とても無視できるものではないのだから。
「ここはヨルナキの『巣』だから、より守護使役に影響が出て話をする事が出来たのかな」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は守護使役にライライさんを見てそんなことを思う。ここにはかつて守護使役だったものの成れの果てがいた。破綻した覚者の守護使役。それが住む場所だったから起きた奇跡。
「ペスカ……」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は守護使役のペスカを抱き寄せる。初めて聞いた守護使役の言葉。その気持ち。それはもしかしたら幻聴なのかもしれない。でも、本当にペスカがそう聞いているのなら。
「太郎丸……貴方……なのですか?」
半ば確信をもって問いかける『陰と陽の橋渡し』賀茂 たまき(CL2000994)。その言葉に猫の守護使役の太郎丸は体を揺すって返事を返す。そのしぐさ、その動き。それを見てたまきは確信する。守護使役と向き合い、守護使役の問いを受け止める。
「こんなにハッキリ意思がわかるってなんでだろ。でもすっげー嬉しいよな!」
鳥型の守護使役『空丸』の言葉を聞いて『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)は喜びの声を上げた。今までも十分に心が通じ合っていたが、実際に話しかけられるとその喜びは格別だ。
「声は聞こえないのに問いかけられているとわかるのは、なんだか不思議な気分だな」
口を笑みの形に変え、『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)はそう呟く。思念を飛ばしあう会話とはまた違う、自分にしか聞こえない声だ。それは小梅が自分の守護使役だからなのだろうか。
「……マリン、なんだね」
魚型守護使役のマリンを見て、桂木・日那乃(CL2000941)は静かに頷く。疑いはしない。この問いがマリンから問われていることは魂で理解でいる。幻聴かもしれない。それでもマリンが問いかけるなら、たとえ幻でも答えたい。
かつて大妖の住処だった場所。もうここには何もない。ただ草木が生えているだけの戦の跡地。
そんな地で、覚者と守護使役は語り始めた。
●
「不思議なモノだな。ずっとそばにいるのにこうして話をするのはこれが初めてか」
ゲイルは小梅の報を見る。丸い猫のような形をした小梅は、ずっとゲイルの傍にいた。それに気づいたのは因子発現した時で、犬の耳と尻尾と一緒に驚いたのを思い出す。あれからずっと、小梅はゲイルの傍にいるのだ。
『あなたにとってぼくはなに?』
問いかける小梅。その問いに対する答えは、ゲイルの中では固まっていた。改めて吟味するまでもない。思ったままに口を開く。
「初めて小梅を見た時は可愛いペットくらいに思っていた。何せ突然だったからな」
その時のことを懐かしむようにゲイルは笑う。そして小梅を撫でながらはっきりと告げた。
「小梅は俺の家族だ。
俺が日本に来たことも、覚者として発現したこともただの偶然でしかない。でも、そこから一緒に過ごした日々は紛れも無い俺の意思だ」
守護使役に関して、わからない事は多い。何故傍にいるのか。何処から来たのか。様々な説があるが、これだけははっきりと言える。
「小梅が俺の守護使役であること、とても幸せに思っているぞ」
心からの言葉に、小梅は体を摺り寄せるようにして喜びを表現した。言葉を喋るよりは、こちらの方が素の表現方法なのだろう。
「……それよりも聞きたいんだが、小梅は俺の守護使役として生まれてきたことをどう思ってる?
色々カッコいい所とか、カッコ悪い所とか見ているからな。飽きられたりしてないかな、と」
『うん。たくさんのゲイルをみてきた。死にそうになった時も、それでも最後まであきらめずに立っている姿を。とてもゲイルらしかった』
「それは褒め言葉なのかな?」
『褒めるとかわからないけど、ゲイルが変わらないのはうれしい』
「――そうか。なら俺は、俺のまま最後まで戦おう」
この戦いが終われば覚者の力を無くし、守護使役の存在を認識できなくなるかもしれない。それは悲しい別れかもしれないが、それでもその時までは胸を張ろう。
「小梅は俺の家族なんだから」
――唐突だが、賀茂 たまきは一八才の少女である。
覚者となり土行の術を中心に行使するFiVEでもトップクラスの存在で芯の強い所はあるが、それは結局のところ『誰か』の為にと言う献身からである。その『誰か』がいなければ、彼女は戦う理由を失うことになる。
仲間の為、家族の為、愛する人の為。今は戦う理由がたくさんある。だが、それは今だ。それを得る前は、臆病な少女だった。
『貴方が死んだら、ボクはどうなるの?』
太郎丸が問いかける。不安げな声で。死地に向かうたまきを心配すると同時に、それによって死別する可能性を恐れて。
死ねばどうなるかなど分からない。覚者も、守護使役も。ヨルナキの言葉を信じるなら、破綻した覚者の守護使役はヨルナキの元に向かうという。分かっているのはその程度だ。
死後の世界がある、と慰めることはできる。死んでも一緒だと希望的推測を述べることもできる。
だけどそれはしたくなかった。
「わかりません」
太郎丸に嘘はつきたくなかった。首を振るたまきは、その後に太郎丸を見て言葉を紡ぐ。
「私が死んでしまったなら……。
太郎丸は……私以外の所へと、私以外の方の所へと、行きたいですか……?」
『ずっとたまきの傍に居たい』
「はい。私もです。ずっと、一緒に居たい、です。
貴方は、臆病な私に、ずっと寄り添って下さっていて……そして、そんな私に、勇気と人、世界との繋がりを与えて下さったのだから」
たまきが因子発現して最初にそばにいてくれたモノ。最初に勇気を与えてくれた存在。
今はたくさんの人がいて、たくさんの守りたいものがある。だけど――
「大切な方々や、守りたい方々の中に、太郎丸……貴方も含まれているのです」
『うん。ありがとう』
言葉と共にたまきによりそう太郎丸。言葉を喋るよりも、こういったしぐさで気持ちを伝える方が守護使役は慣れているのだろう。
(戦いが危険なのは確か……)
たまきは太郎丸を抱き寄せ、静かに想う。
(でも、死ぬつもりは、ありません)
決意は静かに、だけど確実にたまきの心の中に。
「破綻した覚者の守護使役がヨルナキになるのなら、なおのこと破綻はできないね」
奏空はヨルナキから聞いたことを思い出しながら、ライライさんを見る。因子発現した時からずっといる鳥の守護使役。その存在は未だに謎が多いけど、そんな事とは関係なく傍にいる。分からないからこそ、理解しようと近づける。
「ライライさん。君を最初に認識したのは俺が中学二年の時だよね。
俺、木に登って遊んでて落ちてさ」
その時のことを思い出しながら奏空は口を開く。
「二日後病院で目が覚めた時に一番に君が見えた。
その時に前世の記憶もなんとなく思い出したんだけど……君は俺が俺としている今だけでなく、前世の俺に傍にもずっと居てくれてたって事をその時知ったよ」
前世の記憶はあいまいだ。だけどそこにライライさんがいたと言う前世の記憶は本当だと信じたい。もしかしたら前世の自分は覚者ではなかったかもしれないけど。
「だからね、君とは魂で繋がっているんだと思う。
君はね、俺の半身だよ」
奏空の言葉にライライさんは喜ぶように身を寄せてくる。その感覚がこそばゆい。それでもそれをはねのけようという気は起きなかった。
「ライライさん……ヨルナキは苦しみの果てに破綻した者の守護使役の集まりだ」
ライライさんの頭に手を乗せ、奏空は語る。破綻者にも様々な事情がある。力を制御できなかった者、理不尽な暴力に怒りを抑えきれなかった者、誰かを守ろうとタガを外した者……だが、その果てにあるのは死であり、守護使役との別れだ。
「一緒にその苦しみの守護使役を解放してあげよう。その為に力を貸して欲しい 一緒に戦って欲しい!」
『うん。その時は、一緒に』
聞こえてくるライライさんの声。その言葉だけで奏空は勇気が湧いてくる。
ヨルナキはけして弱くはない。大妖と呼ばれる存在が、簡単に倒せるとは思わない。
だけど、勝つ。その気持ちを乗せて、守護使役を強く抱きしめた。
「マリンは、わたしの一番大事な、家族。マリンだけが、ずっと一緒でわたしの味方」
無表情のまま日那乃は魚型の守護使役に手を伸ばす。物心つく前に親を亡くした日那乃にとって、ずっとそばにいてくれたのはマリンだった。マリンがいたから、孤独じゃなかった。
「ありがと」
その言葉に全てを込める。マリンがいなければ生きてはいなかった。こうしてここに立っていることはなかった。辛くても悲しくてもそれに耐える事が出来たのはあなたのおかげ。無表情のまま、ありとあらゆる感情を乗せて日那乃はその言葉を紡ぎ出す。
『ずっといっしょ』
聞こえてくるマリンの声に瞑目する日那乃。その言葉に安堵すると同時に、胸に熱いものが込みあがってくる。守護使役の言う通り、戦い続ければ死ぬかもしれない。死による別れが訪れるかもしれない。その時に、マリンに寂しい思いをさせるかもしれない。
ヨルナキは言った。『自分は破綻した覚者の守護使役が集まった存在』だと。別れは確実に存在する。それがどのような形であれ、永遠はありえない。それでも――ずっといっしょだと信じている。
(別れ……はじまりの神様がいなくなったら……)
源素を総べると言われた『一の何か』。それを排するという事は、源素の在り方は今とは変わるはずだ。そうなれば覚者の力を失い、マリンを認識できなくなるかもしれない。
「……わたし、力が無くなって。マリンも見えなくなって、ひとりで。
生きていける、か、な、あ……」
口にするだけで体が震えてくる。ひとり。その状態を想像して足が崩れそうになる。頭を振って忘れようとしても、簡単には離れてくれない。
「――あ」
震える日那乃を支える様に、マリンが寄り添う。この感覚、この重み。常に共にある守護使役の存在。いつだってどこだって自分を支えてくれたこの感覚。それだけは忘れない。忘れたくない。
気が付けば日那乃はマリンを抱きしめていた。今ここにある家族を手放さないように。今ここにある幸せを守るように。
「本当に恥ずかしい限りですが、私、今まではそんな風に考えたこともなかったです」
ラーラはペスカの問いに正直に答える。もしラーラが死んだらペスカはどうなるか。共に死ぬのか、それとも別の誰かの守護使役になるのか、ヨルナキのような存在に吸収されるのか。あるいは実はペスカは自分に縛られていて、自由になるのか――
分からないけど、確実に言えることがある。
「私はペスカが居なくなったら私は絶対悲しいですもん。
できるかできないかは別として、私が例え居なくなっても、ペスカには元気で居てほしい」
永遠はない。それは魔女であっても、だ。万物は流転し、生は死に向かう。その在り方から魔術は生まれる。それでも自分の愛する人には元気でいてほしい。永遠などないと知りながら、永遠を求めてしまう。ずっと元気でいてほしいと思う。
「私はペスカのこと、友達だと思ってます。
初めて私が目覚めたあの日から、悲しい時も辛い時も、もちろん楽しい時だって、ずっと一緒だったじゃないですか」
因子発現からずっとそばにいた守護使役。苦楽を共にし、時にケンカして時に一緒に笑って。とりとめのないことに一喜一憂し、許せない事に共に憤慨し。月並みなのかもしれないけれど、ペスカは友達だ。上も下もない。魔女ラーラ・ビスコッティは二人で一つなのだ。
「私はそんな風にペスカのこと思ってるんですよ。ペスカは違うんですか?」
『ラーラはともだちだよ。でも、お菓子はきっちり分けてほしいなあ。この前のケーキも』
「あ、あれはたまたまですっ! ペスカも時々多くもっていくじゃないですか!」
言ってから笑うラーラとペスカ。いつもは言葉を喋らない守護使役と会話が出来るのなら、こんな言い合いが毎日続くのだろう。
「……うん、そうですね。この現象がどういうものかとか、ヨルナキと関係あるのかとかどうでもいいです。たとえ言葉が喋れなくても、ペスカはペスカなんですから」
――奇跡は続かない。いずれこの会話が出来る状態も消えてなくなるだろう。
それでもラーラとペスカの絆は変わらない。
「そりゃもちろん、オレの分身で相棒で友達だろ!」
迷うことなく翔は空丸の問いに答える。
翼。大空を舞う鳥。翔はそれに憧れていた。従姉妹の羽根をずっと見ていた翔は、空を飛ぶ願望が幼いころから心にあった。自分にはない羽。自分には届かない領域。手を伸ばしても掴めない空。
だけど相棒がそれをかなえてくれた。自分は飛ぶことはできないけど、空からの風景を届けてくれる。高い視点は普段の景色とは異なり、それだけでワクワクする。世界に新しい光が見え、より毎日が楽しくなる。
「オレが死ねばお前も死ぬか消えるんじゃねーかって思ってたんだけど……」
空丸に手を伸ばし、そう呟く翔。自分が死んだとき、守護使役がどうなるか。そんな事は解らない。自分自身だってどうなるかわからないのだ。消滅するかもしれない。異世界に転生するかもしれない。確たる証拠はない。
(でも破綻した覚者は大妖の力になる。守護使役はヨルナキに吸収されるって……)
翔はヨルナキとの戦いを思い出す。人と妖を平等にするために襲う存在。『一の何か』に従い、源素を効率よく採取するために間引く存在。そんなふうに人間を土壌扱いして下に見る存在。空丸がそんな存在に取り込まれるのは、耐えられない。
「空丸、オレとお前は一蓮托生だ。お前がいるからオレがいる」
『うん。いちれんたくしょう』
「だから俺は破綻しない。お前とそんな別れ方はしない。お前と別れるときは、笑顔で別れるんだ!」
友達のように笑って。明日またで会えるように、じゃあねと手を振って別れるのだ。歩く方向は違っても、同じ空の元に居るのだから――
「なあ、空丸? もし源素がなくなってオレがお前を見る事できなくなっても――」
傍にいてくれるか。そこから先の言葉を、翔は飲み込んだ。その問いに意味はない。空丸は相棒で友人だ。その事実があれば、たとえ見えなくても構わない。
この絆だけは、誰にも汚すことが出来ないのだから。
●
風が吹き抜ける。
実際には一秒も満たない時間だったのだろう。気が付けば守護使役はいつも通り言葉なく『あなた』の傍にいる。
さあ、帰ろう。もうここには何もない。
満月まで、あと少し。その日こそが――
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
