三日月が狩る狼を照らしてる
●北海道の夜
男は走っていた。
正確には逃げていた。自分より強い存在相手に手を出し、しかし叶わなかった。
ああ、わかっている。これは自業自得だ。少し腕が立つぐらいで戦うべき相手ではなかった。『黄泉路行列車』を倒した人間がいるのだから、自分にもできると勘違いした。相手は柴犬程度の大きさだったと言うのに。
『新月の咆哮』ヨルナキ。
北海道を縄張りとし、人や古妖、そして時折妖をも襲う大妖。
自慢ではないが、かなりの経験を積んでいるつもりだった。チームも最高のチームだった。だがそれでも勝てなかった。そして勝てない事を認め、逃げだした。
だが、ヨルナキは逃がしてはくれなかった。走っても走ってもその足音が聞こえてくる。息遣いが聞こえてくる。そしてそれは――
「さらばだ。踵を返す判断があと少し早ければ、生の可能性はあった」
狼の牙が男の首に突き刺さる。一瞬の痛みの後に首を折られ、男は絶命した。
●FiVE
ヨルナキが人間を襲っている。FiVEにそんな報が入ってきた。
『新月の咆哮』ヨルナキ。それを知る『花骨牌』はその大妖のことをこう称した。
「あれは妖と人のバランスを取ってんねん。人が強くなり過ぎたら人を襲い、妖が勢力を伸ばすと妖を襲う。そうすることで双方を長く生かそう、いう話やわ」
大妖は『一の何か』と呼ばれる存在によって作られた。そしてそれは人を成長させて源素を育て、それを刈り取ろうと言う考えを持っている。ならばこの『間引き』もその一環なのだろうか。
そして大妖の一つケモノ四〇六号を倒した事により、人のパワーバランスが大きく増したと言う。
どうあれ放置はできない。覚者達は北海道に向かい、現地で電話越しに夢見の情報を確認する。
そしてその情報に従い――
「いた」
「――そうか。かの者がケモノを伏したヒトか」
口を開き、言葉を話すオオカミ。
「無為に人を狩る趣味はない。汝らの血をもって狩りを終わらせよう」
そのオオカミ――大妖ヨルナキは覚者を見て、一瞬揺れる。そして気が付けばその数は三つに増えていた。
「残像!? いや、分身か……!」
「否、どれも本物だ。某が時間や空間に捕らわれると思うな」
「何それ……! いや、全部本物と言うのなら攻撃は当たるはずだ!」
「是。しかしそれが勝利につながるかは、汝ら次第。行くぞ」
三体となったヨルナキが、覚者達に襲い掛かる。
男は走っていた。
正確には逃げていた。自分より強い存在相手に手を出し、しかし叶わなかった。
ああ、わかっている。これは自業自得だ。少し腕が立つぐらいで戦うべき相手ではなかった。『黄泉路行列車』を倒した人間がいるのだから、自分にもできると勘違いした。相手は柴犬程度の大きさだったと言うのに。
『新月の咆哮』ヨルナキ。
北海道を縄張りとし、人や古妖、そして時折妖をも襲う大妖。
自慢ではないが、かなりの経験を積んでいるつもりだった。チームも最高のチームだった。だがそれでも勝てなかった。そして勝てない事を認め、逃げだした。
だが、ヨルナキは逃がしてはくれなかった。走っても走ってもその足音が聞こえてくる。息遣いが聞こえてくる。そしてそれは――
「さらばだ。踵を返す判断があと少し早ければ、生の可能性はあった」
狼の牙が男の首に突き刺さる。一瞬の痛みの後に首を折られ、男は絶命した。
●FiVE
ヨルナキが人間を襲っている。FiVEにそんな報が入ってきた。
『新月の咆哮』ヨルナキ。それを知る『花骨牌』はその大妖のことをこう称した。
「あれは妖と人のバランスを取ってんねん。人が強くなり過ぎたら人を襲い、妖が勢力を伸ばすと妖を襲う。そうすることで双方を長く生かそう、いう話やわ」
大妖は『一の何か』と呼ばれる存在によって作られた。そしてそれは人を成長させて源素を育て、それを刈り取ろうと言う考えを持っている。ならばこの『間引き』もその一環なのだろうか。
そして大妖の一つケモノ四〇六号を倒した事により、人のパワーバランスが大きく増したと言う。
どうあれ放置はできない。覚者達は北海道に向かい、現地で電話越しに夢見の情報を確認する。
そしてその情報に従い――
「いた」
「――そうか。かの者がケモノを伏したヒトか」
口を開き、言葉を話すオオカミ。
「無為に人を狩る趣味はない。汝らの血をもって狩りを終わらせよう」
そのオオカミ――大妖ヨルナキは覚者を見て、一瞬揺れる。そして気が付けばその数は三つに増えていた。
「残像!? いや、分身か……!」
「否、どれも本物だ。某が時間や空間に捕らわれると思うな」
「何それ……! いや、全部本物と言うのなら攻撃は当たるはずだ!」
「是。しかしそれが勝利につながるかは、汝ら次第。行くぞ」
三体となったヨルナキが、覚者達に襲い掛かる。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ヨルナキの打破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
ヨルナキ、躍動。先ずは前哨戦です。
●敵情報
・ヨルナキ(×3)
大妖と呼ばれる存在です。大きさは2mほどの狼。以前邂逅した時(『<大妖一夜>鉄を斬り 新月に吠え 黄泉に行く』)は100mほどありましたが、何故か今はこの大きさです。なおOPで覚者を襲ったときは柴犬程度の大きさだったようです。
強さは難易度相応です。夢見の情報からも、落ち着いて戦えば危険度は高くないとお墨付きです。
三体いますがHPは三体で共有しています。そして一定ダメージを与えると撤退します。
攻撃方法
白狼の牙 物近列 巨大な顎が振るわれます。【二連】
虎狼の吼 特遠全 獣の声が物理的な衝撃となって襲い掛かります。
高速移動 自付 速度を増し、同時に攻撃の威力を増します。
月の獣 P 依頼出発時の月齢分、???
新緑の風 P ???
『新月の咆哮』 P ???
●場所情報
北海道の町外れ。足元にはOPで息絶えた覚者の遺体が転がっています。時刻は夜。三日月が浮かんでいます。明かりや広さなどは戦闘に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『ヨルナキ(×三)』がいます。
急いでいるため、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年06月24日
2019年06月24日
■メイン参加者 8人■

●
「人と妖のバランスを取る言うてもなぁ。殺されるモンにしたらたまったもんやないやろ」
既にこと切れた覚者に視線を向け、『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は刀を構える。意識を大妖から逸らす余裕はない。以前と比べて大きさは小さいが、それでも油断できる相手ではないのは、祖の圧力からひしひしと伝わってくる。
「『人』か『妖』を狩る大妖で……こちらとは違う時間と空間を使用か……」
思考する『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)ヨルナキの能力に当たりをつけようとするが、取っ掛かり以上の物は思いつかない。能力は解る。だがその本質が分からない。推測だけならいくつかできるが、確証はどれも得られなかった。
「もしかして過去や未来の自身を呼び出してる? どちらにしても」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)もヨルナキの能力を探ろうと思考を回していた。目の前の事象から推測される言着くかのパターン。その中からあり得ない事をすべて取り除いた時に出る事こそが、真実。たとえそれがありえなくとも。
「原理はともあれ、体力を共有する個体を複数作れるのはケモノ四〇六号だけではないってことですね」
ため息と共に『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は言い放った。代用が自分の知識の範疇外にある存在であることは重々承知していたつもりだが、それでも驚きは隠せないでいた。
「狼、生き物としては好きなんだけどね」
ブーツのつま先で地面を蹴りながら、『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)はそう呟いた。雪を思わせる白い毛並み。何者にも屈しない鋭い眼光。その在り方は彩吹の生き方と共感していた。とはいえ、戦いとなれば話は別だ。
「私達が強くなることを『一』とやらが望んでいるならば、相手の思うつぼなのでしょうか?」
「確かに思うつぼなのかもしれないけれど……『一』が考えてる以上に僕らが強く、色々な状況に対応できるようにならないといけないね」
『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)の言葉に、うんと頷いて返す『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)。相手の思惑はどうあれ、大事なのは自分自身だ。選択肢を増やす意味でも、力をつける事は悪くない。燐花は斬るための力を。恭司は知るための力を。その為に、二人でいるのだから。
「相手にとって不足はない! 今度も何とかしてみせるぜ!」
大妖を前に気合を入れる『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)。ケモノ四〇六号はみんなの力を借りてギリギリの戦いだった。だが確かに勝利を掴んだのだ。今回だって上手くいく。そう信じられる仲間との絆があった。
「逃げる時間は与えた。もはや命乞いは聞かぬ」
短く『新月の咆哮』が告げる。口などは全く動かさず、空気を震わせて言葉を伝えたのだ。ともあれ、その言葉と共に神具を構える覚者達。
三日月の元、人と狼が交差する。
●
「相手は三体。だが、恐れる事はない!」
最初に動いたのは奏空だ。刀を抜き放ち、ヨルナキに向かって一気に迫る。三体はどれもが同じように息遣い、そして攻めてくる。そこに差は見受けられない。同一時間軸に三体存在する。理屈は解らないが、その言葉に嘘偽りはなさそうだ。
奏空の刀が一閃する。確かな手ごたえと上がる鮮血、刀が大妖の皮膚を割き、手傷を負わせた。だがヨルナキの表情に変化はない。だが確かにこちらの攻撃は通じる。その事を確認し、笑みを浮かべた。
「お前も『一の何か』の命令で動いているのか? 人と妖のバランスを取れと」
「命は受けた。その裁量は某が決めている」
「大人しく狩られたりなんかすると思うな!」
言葉と共に彩吹がヨルナキに迫る。相手の都合や思惑などどうでもいい。大事なのは自分の心。彩吹自身が納得できない理由なら、気に入らないとはっきり言うのが彼女の在り方。それは相手が誰であっても変わらない。
羽を広げ、地面を蹴る。滑空するようにヨルナキに迫り、羽ばたきながら体を回転させる。文字通り空気を割くような鋭い蹴り。鋭利な刃物に触れたかのようにヨルナキの体に傷がつく。
「私たちがすることは変わらないよね。大妖の、カミサマを名乗る何かの向う脛を蹴り飛ばすだけ」
「高き山を見据える事は悪くない。だが、分不相応な挑戦は命を無為に落とすだけだ」
「分不相応かどうかは、やってみないとわからないよ」
弓の神具を手に秋人は告げる。無茶や無理なら今まで何度だって通してきた。自分達よりも強大な相手に挑むことなど、既になれている。先ずは相手の強さを知る。そこから戦略を立てていく。それがFiVEの戦いだ。
癒しの術を行使しながら、ヨルナキの分析を続ける秋人。月の満ち欠け、角度、月光、そして時間。様々な要因を脳内に思い浮かべながら、力を瞳に集中させる。膨大な情報量から重要な欠片を見逃さないように。
「情報は可能な限り持ち帰るよ」
「力及ばずなら知。されどそれはどの時代でも行われてきた。だが未だ人が決定打に至ったことはない」
「遠回しに『無駄な足搔き』って言われてんねんけどな!」
ヨルナキの言葉に怒りの声をあげる凛。凛は別に人間が一番偉いなどと思っていない。そもそも偉い偉くないに拘泥する性格ではない。だが、その在り方を上から決定されれば怒りは生じる。人間を、舐めるな。
怒りは炎となり、 凛の身体を駆け巡る。熱い心と同時に、一気に斬りかかる。武の鍛錬のままに体は動き、視線は高速で動くヨルナキを捕らえていた。手首を返し、振り返ることなく刃を振るう。燃えるような刀身が大妖の皮膚を割く。
「あんたに倒されたモンの無念、晴らさせてもらうで!」
「某の牙に倒れた者は数知れず。受ける怒りもだ。しかしその言葉、いまだに実行されぬ」
「なら、私達がその言葉を実行して見せます!」
言葉とともにラーラが呪文を唱える。序文、命令する対象、術の形状、その大きさ、そして結びの一文。高位の魔女は指を鳴らすだけでそれらの行程を終えると言う。今は届かぬ領域だが、努力すればいずれそこにたどり着けるだろう。
結びの言葉と共に、ラーラの掌に炎が生まれる。炎は深紅の猫となり、炎の残差を残しながらヨルナキに向かって跳躍する。その素早い動きで火猫は戦場を駆け巡り、炎熱で代用の体力を奪っていく。だが――ヨルナキを燃やしていた火は、すぐに消えた。
「炎が……すぐに消える。やはり『新緑の風』はバッドステータスに対する耐性のようですね」
「肯定だ。あらゆる不自然なる兆候は某には通じぬと知れ」
「ちっ、悪い予想が当たっちまったぜ」
舌打ちする翔。前のヨルナキとの戦いでバッドステータスが効きにくい事は知っていた。その確認の意味も含めて稲妻の術式を持ってきたのだ。だが雷で痺れないだけで、電流によるダメージはあるようだ。
『DXカクセイパット』を操作し、アプリを起動する。明滅する光、音楽、そして印を切るような画面フリック。それら全てが因果を操る陰陽術の動作となる。天に煌めく光が雷となってヨルナキに叩きつけられた。
「どうだ! 痺れさせるだけが稲妻じゃないんだぞ!」
「然り。先ほどの人間とは比にならぬほどだ」
「他の大妖より、話はできそうだが……どうだろうね」
頭を掻きながら恭司はヨルナキを見る。人間を憎んでいた辻森綾香やケモノ四〇六号とは違い、ヨルナキは『バランスで』人を殺している。その善し悪しはさておき、人間自体に悪感情は持っていないように見えた。だが、それが交渉可能に繋がるかは分からない。
仲間の傷を確認しながら、水の術式を練り上げる。焦ることなく神具を握りしめ、心を落ち着けながら癒しの術式を展開した。癒しの力を拭くんが源素が霧雨となって降り注ぐ。冷たい雨が傷の痛みを癒していく。
「無茶はしないでほしい、と言うのが素直な意見なんだけどね」
「はい。その言葉はすごくうれしいです」
恭司の言葉を受けながら燐花は小さくほほ笑む。戦わない選択肢は確かにある。全てを千年後に託して源素を手放し、平和な日常を謳歌する選択が。だが、それはできなかった。今戦う力があるのなら、走り続けるのみ。
源素で強化した肉体で、燐花は一気に斬りかかる。体の動く限り、何度も何度も。俊敏に動き回るヨルナキだが、攻撃を仕掛けてくるタイミングさえ測れれば迎撃も可能だ。僅かな所作を見逃さず、最速で刃を振るう。
「ヨルナキ……。夜に啼くけもの。元が破綻者だったと言うのは本当なのですか?」
「肯定だ。より正確には――」
答えは返ってこない、と思われた燐花の問いにヨルナキは素直に答える。
「――汝らが破綻者と呼ぶ者の、守護使役だ」
●
守護使役。
全ての人間に一体存在するモノだが、その存在は覚者にのみ認識できない。会話こそできないが意思疎通は可能で、戦闘時のサポートなども行う事が出来る。
覚者の守護使役に対する態度は様々だ。ただ神具を運ぶだけの存在と見る者もいれば、溺愛する者もいる。どのような扱いをされても守護使役が主に逆らう事はない。
各々の覚者達はヨルナキの言葉を受けて自分の守護使役を見る。いつもと変わらない様子で、主の元に立つ彼ら。
「汝らが過剰に源素を受け入れ、源素そのものと化した状態。それが我らの源。
ケモノ四〇六号はその魂を、大河原鉄平は神具を、紅蜘蛛継美はその愛憎を受け継いでいる。辻森綾香は特例か、元となった人格に『力』を注ぎ込んだ形となった。他の大妖も辻森に倣った『個』を優先した形式となのだろう。
そして某は守護使役。主の暴走により消滅する寸前の彼らの集合体だ」
人の死後、守護使役がどうなるかは分からない。そもそも死後の世界などあるかどうかさえ分からない。前世持ちと呼ばれる存在がいる以上、何かしらの形で『魂』が残るのは確かなのだろうが。
ともあれ、破綻した後の守護使役はヨルナキの元に向かうようだ。
「成程、それで動物の姿をしているのか」
「てっきり狼男か何かだと思ってたぜ」
驚きはあったが、符に落ちた部分もある。何よりも足を止めている余裕はない。覚者達は気持ちを切り替えて戦いに挑む。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
ラーラの放つ火が戦場を照らす。炎が着火することはないが、その炎熱によるダメージは確かに蓄積している。こうして攻め立てる事自体は無駄ではない。未だ謎の多い存在だが、人間の敵であることには違いないのだ。
「しかし守護使役か。という事は、守護使役の特性も受け継いでいるという事かな」
自分の守護使役の『金枝』を見ながら恭司は想像する。例えば新緑の風は無形系の『こうたい』の強化版ととれなくもない。他の守護使役の特徴が大妖になった事で強く活性化した結果なのかもしれない。
「だとしても、私達は戦うだけです」
元が守護使役だとしてもやるべきことは変わらない。燐花はきっぱりとそう告げて刃を振るう。正直、敵のいう事だ。何処まで信じていいかはわからない。だがすべて真実だとしても同じことだ。
「せやな。こいつは人を襲った。人を襲う獣は、討つんがルールや!」
だん、と強く踏み込んで凛が刃を振るう。同属を守るために策を練る。それは人間のみならず自然のルールだ。それが戦いにせよ逃亡にせよ、滅びを許容する者はいない。ヨルナキの思いや経緯など関係ない。生きる為に戦うのだ。
「月の力と……成程、再生能力か」
ヨルナキのスキャンに力を注いでいた秋人が真理に至る。ただヨルナキだけを見ていたのではこの答えは得られなかった。外的要因の月の満ち欠けとの関連性と繰り返された調査。それが身を結ぶ。自然との関連性。おそらくこれは『一の何か』にも通じるはずだ。
「月齢が高まると今以上に再生能力が増すという事かな。だったら厄介だね!」
ヨルナキと相対しながら彩吹が叫ぶ。こちらの与えるダメージが少しずつ治っていく様を見る。まだこちらの与える打撃の方が勝っているが、これは万全の再生能力ではないのだ。そう考えるとぞっとする。
「っていうか『間引き』するってことは、ある程度は人間の数が増えすぎないようにしてるってことだよな!」
戦いながら問うように喋りかける翔。ヨルナキが人と妖のバランスを整えるという事は、人が増えすぎても困るという事だ。それは人が多すぎると『一の何か』にとっても不都合という事でもある。単に管理の問題か、あるいはそこに撃破の可能性があるのか。
「どの道、そんな理由で人の命が奪われていいはずがない!」
怒りの声をあげて奏空が刃を振るう。死生観は様々だ。だがそれは逆に『生死』に関して様々な人間が長い間議論しあっている証拠でもある。ただ単一の意見のままに命を奪われ、それを許すことなどできるはずがない。
回復と攻撃。バランスよく構成された覚者達の構成は、月光を受けて回復するヨルナキの再生能力を上回る。牙による攻撃も、致命傷を与えるには至らない。
「ここで決めさせてもらうで!」
今が好機、と判断した凛が勝負を決める為に『朱焔』を構える。元々の持ち主の動きを思い出しながら全身に力を籠める。これやった後体痛いんやけどなぁ、と心の中で愚痴りながら力を解放するように刃を振るった。
「お前らに殺された人達の無念、思い知れ!」
道なき道に活路を開く技。全てを貫く一撃がヨルナキを襲う。白きオオカミはその一撃を受けて消滅するように消え去った。
●
「倒した……いや、手ごたえ甘いわ」
消滅したヨルナキの方を見て凛は舌打ちするように言う。そのまま刀を納め、大きく息を吐いた。残心。戦場に心を置いて、体の力を抜く。大妖の気配は、僅かだが残っている――
「見事。某の敗北だ。その知恵と胆力に称賛をしめそう」
聞こえてくるヨルナキの声。しかしその気配は少しずつ小さくなる。先ほどまで感じていた強い圧力はない。それを察して覚者達は緊張を解いた。
「そちらも本気ではなかったようだけどね。前のように大きなサイズで来られたら、僕らの負けだったよ」
「無理だ。あれは汝らがAAAと呼ぶ組織を対象としての姿。そしてかの組織を『新月の咆哮』の対象としていたからこそできたことだ。
無意味に力を注いで戦うのはただの蹂躙でしかない。狩りは双方に勝利の可能性を持つ状態でなければならぬ」
恭司の問いかけに答えるヨルナキ。大きさや数は、相手に合わせてのことのようだ。そして本気を出すには、相応の条件が必要らしい。
「親切にどうも。ついでにその『新月の咆哮』について教えてもらえないかな?」
「良かろう。汝らにはその価値がある。
新月とは朔。すなわち始まり。咆哮は猛りの声。狩りを始まりを告げる鬨の声。即ち、『新月の咆哮』とは対象を滅ぼすと決めた『狩り』の開始を告げる合図だ。
この咆哮からは逃げられぬ。散り散りに散っても空間と時間を渡り、対象を追い詰める。そして同時に某も逃げぬ。『新月の咆哮』の対象のみが、某を完全に滅することが出来る」
奏空の言葉に、こちらもあっさり答えるヨルナキ。
「滅する……つまり、死ぬいう事か。自分の弱点話すとか、ほんま優しいわ」
「つまり、そこまで言うという事は……FiVEをその『狩りの対象』に指定するという事かな?」
「肯定。戦う意思が無き者は襲わぬ。だが『組織』を対象とした以上、その在り方は消滅させる。
汝らの目的だ某たちの消滅というのなら、某に関してはこれが好機と思われるが如何か? 時間は与えよう。ゆるり思考するがいい」
そして声は完全に聞こえなくなった。静寂が場を支配する。
覚者達はこと切れた者を弔った後に五麟市に戻る。そこであったことを報告した。
ヨルナキに関して分かったことは僥倖だが、同時に強い緊張がFiVE内を襲う。大妖が自分体を対象にしていることが分かり、戦いの準備を整え始める。
ヨルナキの能力が判明した以上、攻めてくる時期も予測は立つ。『月の獣』が最大限発揮される満月の日。通常『新月』にしか動かないヨルナキだが、AAAを滅ぼした際は月齢に関係なく動いていた。
六月末の三十日、その前後。月は新円を描く――
「人と妖のバランスを取る言うてもなぁ。殺されるモンにしたらたまったもんやないやろ」
既にこと切れた覚者に視線を向け、『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は刀を構える。意識を大妖から逸らす余裕はない。以前と比べて大きさは小さいが、それでも油断できる相手ではないのは、祖の圧力からひしひしと伝わってくる。
「『人』か『妖』を狩る大妖で……こちらとは違う時間と空間を使用か……」
思考する『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)ヨルナキの能力に当たりをつけようとするが、取っ掛かり以上の物は思いつかない。能力は解る。だがその本質が分からない。推測だけならいくつかできるが、確証はどれも得られなかった。
「もしかして過去や未来の自身を呼び出してる? どちらにしても」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)もヨルナキの能力を探ろうと思考を回していた。目の前の事象から推測される言着くかのパターン。その中からあり得ない事をすべて取り除いた時に出る事こそが、真実。たとえそれがありえなくとも。
「原理はともあれ、体力を共有する個体を複数作れるのはケモノ四〇六号だけではないってことですね」
ため息と共に『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は言い放った。代用が自分の知識の範疇外にある存在であることは重々承知していたつもりだが、それでも驚きは隠せないでいた。
「狼、生き物としては好きなんだけどね」
ブーツのつま先で地面を蹴りながら、『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)はそう呟いた。雪を思わせる白い毛並み。何者にも屈しない鋭い眼光。その在り方は彩吹の生き方と共感していた。とはいえ、戦いとなれば話は別だ。
「私達が強くなることを『一』とやらが望んでいるならば、相手の思うつぼなのでしょうか?」
「確かに思うつぼなのかもしれないけれど……『一』が考えてる以上に僕らが強く、色々な状況に対応できるようにならないといけないね」
『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)の言葉に、うんと頷いて返す『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)。相手の思惑はどうあれ、大事なのは自分自身だ。選択肢を増やす意味でも、力をつける事は悪くない。燐花は斬るための力を。恭司は知るための力を。その為に、二人でいるのだから。
「相手にとって不足はない! 今度も何とかしてみせるぜ!」
大妖を前に気合を入れる『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)。ケモノ四〇六号はみんなの力を借りてギリギリの戦いだった。だが確かに勝利を掴んだのだ。今回だって上手くいく。そう信じられる仲間との絆があった。
「逃げる時間は与えた。もはや命乞いは聞かぬ」
短く『新月の咆哮』が告げる。口などは全く動かさず、空気を震わせて言葉を伝えたのだ。ともあれ、その言葉と共に神具を構える覚者達。
三日月の元、人と狼が交差する。
●
「相手は三体。だが、恐れる事はない!」
最初に動いたのは奏空だ。刀を抜き放ち、ヨルナキに向かって一気に迫る。三体はどれもが同じように息遣い、そして攻めてくる。そこに差は見受けられない。同一時間軸に三体存在する。理屈は解らないが、その言葉に嘘偽りはなさそうだ。
奏空の刀が一閃する。確かな手ごたえと上がる鮮血、刀が大妖の皮膚を割き、手傷を負わせた。だがヨルナキの表情に変化はない。だが確かにこちらの攻撃は通じる。その事を確認し、笑みを浮かべた。
「お前も『一の何か』の命令で動いているのか? 人と妖のバランスを取れと」
「命は受けた。その裁量は某が決めている」
「大人しく狩られたりなんかすると思うな!」
言葉と共に彩吹がヨルナキに迫る。相手の都合や思惑などどうでもいい。大事なのは自分の心。彩吹自身が納得できない理由なら、気に入らないとはっきり言うのが彼女の在り方。それは相手が誰であっても変わらない。
羽を広げ、地面を蹴る。滑空するようにヨルナキに迫り、羽ばたきながら体を回転させる。文字通り空気を割くような鋭い蹴り。鋭利な刃物に触れたかのようにヨルナキの体に傷がつく。
「私たちがすることは変わらないよね。大妖の、カミサマを名乗る何かの向う脛を蹴り飛ばすだけ」
「高き山を見据える事は悪くない。だが、分不相応な挑戦は命を無為に落とすだけだ」
「分不相応かどうかは、やってみないとわからないよ」
弓の神具を手に秋人は告げる。無茶や無理なら今まで何度だって通してきた。自分達よりも強大な相手に挑むことなど、既になれている。先ずは相手の強さを知る。そこから戦略を立てていく。それがFiVEの戦いだ。
癒しの術を行使しながら、ヨルナキの分析を続ける秋人。月の満ち欠け、角度、月光、そして時間。様々な要因を脳内に思い浮かべながら、力を瞳に集中させる。膨大な情報量から重要な欠片を見逃さないように。
「情報は可能な限り持ち帰るよ」
「力及ばずなら知。されどそれはどの時代でも行われてきた。だが未だ人が決定打に至ったことはない」
「遠回しに『無駄な足搔き』って言われてんねんけどな!」
ヨルナキの言葉に怒りの声をあげる凛。凛は別に人間が一番偉いなどと思っていない。そもそも偉い偉くないに拘泥する性格ではない。だが、その在り方を上から決定されれば怒りは生じる。人間を、舐めるな。
怒りは炎となり、 凛の身体を駆け巡る。熱い心と同時に、一気に斬りかかる。武の鍛錬のままに体は動き、視線は高速で動くヨルナキを捕らえていた。手首を返し、振り返ることなく刃を振るう。燃えるような刀身が大妖の皮膚を割く。
「あんたに倒されたモンの無念、晴らさせてもらうで!」
「某の牙に倒れた者は数知れず。受ける怒りもだ。しかしその言葉、いまだに実行されぬ」
「なら、私達がその言葉を実行して見せます!」
言葉とともにラーラが呪文を唱える。序文、命令する対象、術の形状、その大きさ、そして結びの一文。高位の魔女は指を鳴らすだけでそれらの行程を終えると言う。今は届かぬ領域だが、努力すればいずれそこにたどり着けるだろう。
結びの言葉と共に、ラーラの掌に炎が生まれる。炎は深紅の猫となり、炎の残差を残しながらヨルナキに向かって跳躍する。その素早い動きで火猫は戦場を駆け巡り、炎熱で代用の体力を奪っていく。だが――ヨルナキを燃やしていた火は、すぐに消えた。
「炎が……すぐに消える。やはり『新緑の風』はバッドステータスに対する耐性のようですね」
「肯定だ。あらゆる不自然なる兆候は某には通じぬと知れ」
「ちっ、悪い予想が当たっちまったぜ」
舌打ちする翔。前のヨルナキとの戦いでバッドステータスが効きにくい事は知っていた。その確認の意味も含めて稲妻の術式を持ってきたのだ。だが雷で痺れないだけで、電流によるダメージはあるようだ。
『DXカクセイパット』を操作し、アプリを起動する。明滅する光、音楽、そして印を切るような画面フリック。それら全てが因果を操る陰陽術の動作となる。天に煌めく光が雷となってヨルナキに叩きつけられた。
「どうだ! 痺れさせるだけが稲妻じゃないんだぞ!」
「然り。先ほどの人間とは比にならぬほどだ」
「他の大妖より、話はできそうだが……どうだろうね」
頭を掻きながら恭司はヨルナキを見る。人間を憎んでいた辻森綾香やケモノ四〇六号とは違い、ヨルナキは『バランスで』人を殺している。その善し悪しはさておき、人間自体に悪感情は持っていないように見えた。だが、それが交渉可能に繋がるかは分からない。
仲間の傷を確認しながら、水の術式を練り上げる。焦ることなく神具を握りしめ、心を落ち着けながら癒しの術式を展開した。癒しの力を拭くんが源素が霧雨となって降り注ぐ。冷たい雨が傷の痛みを癒していく。
「無茶はしないでほしい、と言うのが素直な意見なんだけどね」
「はい。その言葉はすごくうれしいです」
恭司の言葉を受けながら燐花は小さくほほ笑む。戦わない選択肢は確かにある。全てを千年後に託して源素を手放し、平和な日常を謳歌する選択が。だが、それはできなかった。今戦う力があるのなら、走り続けるのみ。
源素で強化した肉体で、燐花は一気に斬りかかる。体の動く限り、何度も何度も。俊敏に動き回るヨルナキだが、攻撃を仕掛けてくるタイミングさえ測れれば迎撃も可能だ。僅かな所作を見逃さず、最速で刃を振るう。
「ヨルナキ……。夜に啼くけもの。元が破綻者だったと言うのは本当なのですか?」
「肯定だ。より正確には――」
答えは返ってこない、と思われた燐花の問いにヨルナキは素直に答える。
「――汝らが破綻者と呼ぶ者の、守護使役だ」
●
守護使役。
全ての人間に一体存在するモノだが、その存在は覚者にのみ認識できない。会話こそできないが意思疎通は可能で、戦闘時のサポートなども行う事が出来る。
覚者の守護使役に対する態度は様々だ。ただ神具を運ぶだけの存在と見る者もいれば、溺愛する者もいる。どのような扱いをされても守護使役が主に逆らう事はない。
各々の覚者達はヨルナキの言葉を受けて自分の守護使役を見る。いつもと変わらない様子で、主の元に立つ彼ら。
「汝らが過剰に源素を受け入れ、源素そのものと化した状態。それが我らの源。
ケモノ四〇六号はその魂を、大河原鉄平は神具を、紅蜘蛛継美はその愛憎を受け継いでいる。辻森綾香は特例か、元となった人格に『力』を注ぎ込んだ形となった。他の大妖も辻森に倣った『個』を優先した形式となのだろう。
そして某は守護使役。主の暴走により消滅する寸前の彼らの集合体だ」
人の死後、守護使役がどうなるかは分からない。そもそも死後の世界などあるかどうかさえ分からない。前世持ちと呼ばれる存在がいる以上、何かしらの形で『魂』が残るのは確かなのだろうが。
ともあれ、破綻した後の守護使役はヨルナキの元に向かうようだ。
「成程、それで動物の姿をしているのか」
「てっきり狼男か何かだと思ってたぜ」
驚きはあったが、符に落ちた部分もある。何よりも足を止めている余裕はない。覚者達は気持ちを切り替えて戦いに挑む。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
ラーラの放つ火が戦場を照らす。炎が着火することはないが、その炎熱によるダメージは確かに蓄積している。こうして攻め立てる事自体は無駄ではない。未だ謎の多い存在だが、人間の敵であることには違いないのだ。
「しかし守護使役か。という事は、守護使役の特性も受け継いでいるという事かな」
自分の守護使役の『金枝』を見ながら恭司は想像する。例えば新緑の風は無形系の『こうたい』の強化版ととれなくもない。他の守護使役の特徴が大妖になった事で強く活性化した結果なのかもしれない。
「だとしても、私達は戦うだけです」
元が守護使役だとしてもやるべきことは変わらない。燐花はきっぱりとそう告げて刃を振るう。正直、敵のいう事だ。何処まで信じていいかはわからない。だがすべて真実だとしても同じことだ。
「せやな。こいつは人を襲った。人を襲う獣は、討つんがルールや!」
だん、と強く踏み込んで凛が刃を振るう。同属を守るために策を練る。それは人間のみならず自然のルールだ。それが戦いにせよ逃亡にせよ、滅びを許容する者はいない。ヨルナキの思いや経緯など関係ない。生きる為に戦うのだ。
「月の力と……成程、再生能力か」
ヨルナキのスキャンに力を注いでいた秋人が真理に至る。ただヨルナキだけを見ていたのではこの答えは得られなかった。外的要因の月の満ち欠けとの関連性と繰り返された調査。それが身を結ぶ。自然との関連性。おそらくこれは『一の何か』にも通じるはずだ。
「月齢が高まると今以上に再生能力が増すという事かな。だったら厄介だね!」
ヨルナキと相対しながら彩吹が叫ぶ。こちらの与えるダメージが少しずつ治っていく様を見る。まだこちらの与える打撃の方が勝っているが、これは万全の再生能力ではないのだ。そう考えるとぞっとする。
「っていうか『間引き』するってことは、ある程度は人間の数が増えすぎないようにしてるってことだよな!」
戦いながら問うように喋りかける翔。ヨルナキが人と妖のバランスを整えるという事は、人が増えすぎても困るという事だ。それは人が多すぎると『一の何か』にとっても不都合という事でもある。単に管理の問題か、あるいはそこに撃破の可能性があるのか。
「どの道、そんな理由で人の命が奪われていいはずがない!」
怒りの声をあげて奏空が刃を振るう。死生観は様々だ。だがそれは逆に『生死』に関して様々な人間が長い間議論しあっている証拠でもある。ただ単一の意見のままに命を奪われ、それを許すことなどできるはずがない。
回復と攻撃。バランスよく構成された覚者達の構成は、月光を受けて回復するヨルナキの再生能力を上回る。牙による攻撃も、致命傷を与えるには至らない。
「ここで決めさせてもらうで!」
今が好機、と判断した凛が勝負を決める為に『朱焔』を構える。元々の持ち主の動きを思い出しながら全身に力を籠める。これやった後体痛いんやけどなぁ、と心の中で愚痴りながら力を解放するように刃を振るった。
「お前らに殺された人達の無念、思い知れ!」
道なき道に活路を開く技。全てを貫く一撃がヨルナキを襲う。白きオオカミはその一撃を受けて消滅するように消え去った。
●
「倒した……いや、手ごたえ甘いわ」
消滅したヨルナキの方を見て凛は舌打ちするように言う。そのまま刀を納め、大きく息を吐いた。残心。戦場に心を置いて、体の力を抜く。大妖の気配は、僅かだが残っている――
「見事。某の敗北だ。その知恵と胆力に称賛をしめそう」
聞こえてくるヨルナキの声。しかしその気配は少しずつ小さくなる。先ほどまで感じていた強い圧力はない。それを察して覚者達は緊張を解いた。
「そちらも本気ではなかったようだけどね。前のように大きなサイズで来られたら、僕らの負けだったよ」
「無理だ。あれは汝らがAAAと呼ぶ組織を対象としての姿。そしてかの組織を『新月の咆哮』の対象としていたからこそできたことだ。
無意味に力を注いで戦うのはただの蹂躙でしかない。狩りは双方に勝利の可能性を持つ状態でなければならぬ」
恭司の問いかけに答えるヨルナキ。大きさや数は、相手に合わせてのことのようだ。そして本気を出すには、相応の条件が必要らしい。
「親切にどうも。ついでにその『新月の咆哮』について教えてもらえないかな?」
「良かろう。汝らにはその価値がある。
新月とは朔。すなわち始まり。咆哮は猛りの声。狩りを始まりを告げる鬨の声。即ち、『新月の咆哮』とは対象を滅ぼすと決めた『狩り』の開始を告げる合図だ。
この咆哮からは逃げられぬ。散り散りに散っても空間と時間を渡り、対象を追い詰める。そして同時に某も逃げぬ。『新月の咆哮』の対象のみが、某を完全に滅することが出来る」
奏空の言葉に、こちらもあっさり答えるヨルナキ。
「滅する……つまり、死ぬいう事か。自分の弱点話すとか、ほんま優しいわ」
「つまり、そこまで言うという事は……FiVEをその『狩りの対象』に指定するという事かな?」
「肯定。戦う意思が無き者は襲わぬ。だが『組織』を対象とした以上、その在り方は消滅させる。
汝らの目的だ某たちの消滅というのなら、某に関してはこれが好機と思われるが如何か? 時間は与えよう。ゆるり思考するがいい」
そして声は完全に聞こえなくなった。静寂が場を支配する。
覚者達はこと切れた者を弔った後に五麟市に戻る。そこであったことを報告した。
ヨルナキに関して分かったことは僥倖だが、同時に強い緊張がFiVE内を襲う。大妖が自分体を対象にしていることが分かり、戦いの準備を整え始める。
ヨルナキの能力が判明した以上、攻めてくる時期も予測は立つ。『月の獣』が最大限発揮される満月の日。通常『新月』にしか動かないヨルナキだが、AAAを滅ぼした際は月齢に関係なく動いていた。
六月末の三十日、その前後。月は新円を描く――
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
判明した能力
月の獣 P 依頼出発時の月齢に比例してHPが自己再生します。
新緑の風 P 自身にかかっているバットステータスを、一つに付きHP50点消費して回復します。
『新月の咆哮』 P 特定の人物や組織を設定する。それに属する存在を攻撃する時、命中とダメージにボーナスが付く。
月の獣 P 依頼出発時の月齢に比例してHPが自己再生します。
新緑の風 P 自身にかかっているバットステータスを、一つに付きHP50点消費して回復します。
『新月の咆哮』 P 特定の人物や組織を設定する。それに属する存在を攻撃する時、命中とダメージにボーナスが付く。
