逢魔時、怒り暴れる土蜘蛛や
逢魔時、怒り暴れる土蜘蛛や


●盗掘屋二人と封印された古妖
 石でできた階段をのぼり、寂れた鳥居をくぐる。洞窟の入り口に設置してあるしめ縄を跨いで中に入れば、そこには小さな祠があった。
「兄貴。ここで間違いないんですか?」
「七星剣の逢魔ヶ時様直々の情報だ。間違いなんてあるはずがない」
 その祠に近づく二人の男がいた。戌の獣憑のコンビだ。兄貴と呼ばれた方が慣れた動きで祠の錠を針金で外しているあたり、因子発現して得た力を真っ当なことに使っているとはいいがたい。
「こんなちんけな刀が本当に高く売れるんすか?」
「わかってねぇな。こいつはこの山に巣食っていた古妖を退治したって言ういわくのある物だ。ある筋で流せば、結構な金になるんだぜ」
 要するに泥棒だ。覚者の能力を使って金になりそうな物を盗んで生活している。そんな二人は今日の『戦利品』の品定めをしていた。鞘から抜いて、刃の具合を見ている。
「はー。で、その古妖ってどんなのですか?」
「なんでも土蜘蛛って呼ばれていて大きな蜘蛛の姿をしていたらしいぜ。伝承によると、戦いの末に足を四本飛ばされて地の底に封印されたとか」
「兄貴……それって……あんな感じっすかね……?」
 ……え?
 という言葉は発することができなかった。
 その前に振り落とされた蜘蛛の足が二人の体を貫いていた。

●FiVE
「みんなお仕事だよっ!」
 集まった覚者を前に久方 万里(nCL2000005)が元気よく迎える。軽快な口調で説明するが、その内容は決して軽いものではなかった。
「封印されていた古妖を退治してきてほしいの」
 万里は地図を広げ、とある山を指さした。ハイキングコースから少し離れた山である。
「衣緒おねーちゃんから聞いた話だと、かつてそこに巣食っていた『土蜘蛛』っていう古妖を退治した人がいたんだって。そして封印の為に刀をそこに奉納したんだって」
 祠を管理する神社はあるのだが、宮司は一般人。泥棒を生業とする覚者相手には役に立たない。
「古妖は封印されててお腹が空いているから、とにかく人を食べようとするみたい。このままだと山を下りて被害が大きくなるのっ!」
 すでに二人の覚者はその胃袋の中だという。自業自得と言えなくもないが、それでも気持ちのいい話ではない。
「気を付けてね。足が何本かないけど、すごく強いからっ!」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:どくどく
■成功条件
1.土蜘蛛の撃破。
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 荒ぶる蜘蛛のぽーず!

●敵情報
・土蜘蛛
 古妖。かつてこの地で暴れていた巨大な蜘蛛です。その戦いで足を四本失い、下半身を引きずるように移動しています。
 言葉はしゃべれますが、食欲と人間に対する怒りで我を忘れているため、交渉は不可能です。ここで鎮圧するしかありません。
 巨体を示す便宜上、『足』と『頭』に分かれています。それぞれに体力が存在しており、『頭』の体力が0になったら『足』の体力がどれだけ残っていようとも死亡します。

『足(×4)』
 土蜘蛛の足です。一本が人の胴ほどの大きさを持っています。

 攻撃方法
 踏む 物近単 踏みつけてきます。
 土砂 特遠単 怨嗟を込めて土砂を払います。
 
『頭(×1)』
 土蜘蛛の頭です。複数の目を持ち、呪術に長けます。

 攻撃方法
 複魔眼 特遠単  凶つ視線による呪い。〔呪い〕
 地滑り 特遠列  足を滑らせる呪いをかけます。〔鈍化〕
 蜘蛛寄 特遠敵全 小さな蜘蛛を大量に呼び寄せ、噛みつかせます。
 怨嗟喰  P   恨みが己を強化する。撃破された『足』数に応じて、特攻が増加。

・隔者(×2)
 フリーの隔者。『逢魔ヶ時』なる七星剣の隔者に唆され、土蜘蛛の封印を解いてしまった者たちです。
 覚者到着時にはすでに殺され、土蜘蛛の胃袋の中です。

●場所情報
 近畿にある山の中腹。そこにある祠の近く。
 時刻は夕刻。明るさや広さや足場に問題はなし。便宜上、広さは20メートル四方とします。
 戦闘開始時、『足(×4)』が前衛に。『頭』が後衛にいます。味方前衛と敵前衛の距離は五メートルほど。味方側の初期配置はご自由に。
 急いで現場に向かうため、事前付与はなしです。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
 
 
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年10月13日

■メイン参加者 8人■



「土蜘蛛な。古妖らしい古妖が出て来たようだな」
 言って抜刀する『星狩り』一色・満月(CL2000044)。古くから伝わる蜘蛛の古妖。様々な言い伝えがあるが、共通するのは人を襲うということ。この土蜘蛛のその例にもれず人を襲う古妖のようだ。
 土蜘蛛の足の一本に近づき、刀を振るう。鞘を振るって動きを牽制し、生まれた隙を突くように刀を振るう。刀の動きを追うように炎が走る。静かに、だけど激しく燃える炎はまるで満月の気性の如く。敵を滅却するとばかりに土蜘蛛の足を焼いた。
「過去の英雄ですら、封印しか出来なかったって事か。あるいは何かしら思う事があり、封印したのか」
 土蜘蛛封印の経緯を思いながら『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)が構えを取る。力で事を収めるのは次善の策だ。可能なら戦わずしてことを収めたい。だが、話し合いで収まる状況ではないことは懐良にも理解できる。
 視覚を駆使し、敵と味方と自分の位置関係を正確に把握する。呼吸を止めるほど集中し、一瞬の隙を見出す。体はその瞬間に動いていた。『相伝当麻国包』の柄を握り、鞘走ると同時に土蜘蛛の足に踏み込んだ。跳ね上げる一閃が足を傷つける。
「話しができたとしても向こうの目的が人を食うというものなら、話し合いのテーブルにつくことさえも難しいのだろうな」
 手袋をはめ、銃を構える『狗吠』時任・千陽(CL2000014)。現実的に考えて、人を喰らう古妖と共に歩めるとは思えない。かつての英雄もそれ故に退治したのだろう。国に仇なす存在ならば、討つのが軍務だ。
 腰を下ろし、呼吸を整える。大地の加護を受けて千陽自身の防御を増す。敵の動きを逃さず見ながら、仲間を守る防御の構えを敷いた。蜘蛛の瞳が仲間を射抜く。その前に立ち、呪いの視線を庇って受けた。守ることこそが自分の本懐と金の瞳で示す。
「古妖、土蜘蛛……ですか。恐るべき、お相手です。全力で、参りましょう」
 とぎれとぎれに、だけどはっきりと意思を載せて神室・祇澄(CL2000017)が刀を抜いた。目深にかかる前髪の奥から巨大な蜘蛛を見る。明確な殺意をぶつけられ、それでも臆することなく前に出た。
 足元を意識して、独特の歩法で印を刻む。硬くそして温かな土の力。その力を一時借りて身にまとう祇澄。地面を蹴って土蜘蛛に迫れば、横なぎに一つ刀を振るう。大地の顔を得た神具は硬くそして鋭く、土蜘蛛の足を傷つけた。
「こんなのと今から戦えるなんて、ワクワクが止まらねえ!」
 土蜘蛛の大きさに圧倒されることなく鹿ノ島・遥(CL2000227)は戦いの高揚を示すように拳を握りしめる。もちろん夢見から事の顛末は聞いている。それでも遥の興味は土蜘蛛の強さに向いていた。戦うこと、それも強い相手がそこにいる。
 天の源素を活性化し、神具の『白溶裔』に伝わせる。稲妻を纏った布は遥の意図に従い変化自在の武器と化す。息を吸い、吐き出す。呼気と同時に布を腕に纏わせ、拳を突き出した。拳の先から稲光が走り、土蜘蛛の足を焦がす。
「かっこいいの拾ったー」
 祠に奉納されていた刀を拾いあげる八百万 円(CL2000681)。三度降って確かめたところ、神具と遜色ないようだ。拾ったものはボクのモノ、とばかりに左手でつかんで使いやすさを確かめるように回転させる。悪くない。
 刀を垂らすように構える円。隙だらけのように見えて、しかし攻めにくい構え。どこから攻めても瞬時に対応できる獣の動き。土蜘蛛の足を刀で払い、もう片方の手で持っている刀で切り払う。不規則かつ自由。型に捕らわれない攻め。
「大丈夫……大丈夫……」
 土蜘蛛の恐ろしさを身に感じながら三島 椿(CL2000061)が翼を広げる。和弓を手にして、震える自分を叱咤した。大丈夫。みんなで戦えば勝てる。土蜘蛛の足に切りかかる仲間たちの背中を見ながら、矢を番える。
 水の衣を仲間に纏わせ、弦を引き絞る。自分と目標以外が見えなくなるほど、深く意識を集中させた。正しい姿勢、正しい心、積み重ねた技術。それらが一体となって放たれた矢はまっすぐに土蜘蛛に突き刺さる。
「封印した古妖様をあえて解き放つなんて……もしかすると既に……」
 夢見から聞いた話を思い出しながら、『女子高生訓練中』神城 アニス(CL2000023)はある人物の存在を思い浮かべていた。逢魔ヶ時。その名を持つ隔者。だが今は目の前の脅威に対応しなくては。首を振って意識を土蜘蛛に向ける。
 覚醒し、二十歳の成長した姿になるアニス。神具の本を広げ、水の源素を意識する。蝶が羽を広げるように、本のページがひらひらとアニスの周りを飛び交っていく。水の加護を施し、そして傷ついた仲間を癒していく。
「忌々しい人間どもめ! 八つ裂きにするか呪いの礎にしてくれる!」
 覚者の戦い方に封印されたことを思い出したのか、猛りの声をあげる土蜘蛛。空気が震え、強い殺意が覚者に向けられる。
 夕暮れ時の人と魔の交戦。その激しさを示すように、土蜘蛛と覚者の声が響き渡る。


 覚者達は土蜘蛛の片方の足を集中的に攻めていた。攻撃を受ける数を減らし、被ダメージを減らす戦い方だ。
「まずは一本。次はあちらか」
 確実なダメージの積み重ねにより、満月は左足の一本を切り落とすことに成功する。覚者全員がもう一本の足に視線を向けた。
「体躯と蜘蛛の構造上、足を密集させることは出来ないは――え?」
 祇澄は蜘蛛の生物学的な構造から土蜘蛛の動きを予測していたが、奇怪に曲がる足の動きを見てそれが誤りと気づく。相手は古妖。人の常識を超えた存在なのだ。祇澄の想像を超えた動きで、覚者を責め立てる。
「そう考えると、足を二つ飛ばしてバランスが崩れるというのもなさそうだな」
 遥は土蜘蛛の足を攻めながら当てが外れたことにため息をつく。そうなればいいな、程度の楽観だったので、それほどショックではないが。力を温存しながら足を攻める遥。攻めても簡単に倒れそうにない足に、むしろ気分が高揚していく。
 そして土蜘蛛の動きは、
「あれ? もしかしてボク狙われてる?」
 覚者と同じく集中砲火戦略をとっていた。前で戦う覚者の足場を呪い、土蜘蛛の足の動きは円の攻めに集中する。鋭い一撃を受けて地面に転がる円。命数を燃やして立ち上がるが、回復する間もなく土蜘蛛に攻められ続ける。
「封印の刀を持っているからか」
 懐良はなぜ円に攻撃が集中するかに気づく。自分を封印していた要の刀。それを手にして攻撃する円は、土蜘蛛からすれば憎き怨敵を思わせるのだろう。手放して別の武器に切り替えさせる時間はない。仕方なく懐良は攻撃に専念することにした。
「蜘蛛の眷属が来ます。注意を!」
 土蜘蛛の様子を見ながら注意を促す千陽。忠告と同時に大量の蜘蛛が覚者達を襲う。威力こそ低いが、それでも広範囲の攻撃の恐ろしさは千陽も理解している。迂闊に攻めれば、回復を行う後衛を狙ってくるだろう。防御の構えを取り続ける。
「今癒します!」
 蜘蛛を翼で払いのけながら、椿が皆に向かって叫ぶ。最初弓で援護射撃をしていた椿は、徐々に回復行為が多くなっていく。水の源素を体内で循環させ、癒しの力を手のひらに集める。その力を解き放ち、仲間の傷を癒していく。
「今の呪術……蜘蛛に近いモノだけがつけるようですね」
 アニスは仲間の傷をいやしながら、土蜘蛛の術を解析していた。自分たちが知らない呪いの術。それを解析することができればあるいは。だが今の術は理解できたとしても、扱うには難しいということが分かっただけだ。
「俺達が狩られる側にならないようにせんとな」
 切り結びながら、満月は土蜘蛛の強さを体中で感じていた。油断すればこの人数でも返り討ちにあっていただろう。重い一撃を刀で受け、流れる汗をぬぐう。人を喰らう古妖。それは人を殺すことに長けているということだ。その事実を改めて認識する。
「源素……人間……! 我が侵攻を妨げし者達めええ!」
「察するに、巣食っていた山から人間の住む土地に攻めてようとした古妖か」
 土蜘蛛の言葉を聞き、懐良が事情を察する。その言葉に怒りを含んだ声で応える土蜘蛛。
「その通りだ。貴様ら人間の地を奪い、土蜘蛛の版図を広げるつもりだったが……!」
「先を打たれて攻められたか、侵攻途中で戦になったか。どの道共存の道はない」
「日本国を脅かす者であれば、古妖であっても討ちます」
 ため息をつく懐良に、ぴしゃりと言いはなつ千陽。侵略する者から国を守るのが軍人の務め、とばかりにはっきりと。その意思を示すように神具を振るい、土蜘蛛を傷つけていく。
「人には人の妖には妖の理由があるだろうが。どちらかの一線を越えてしまえば、こうして争いは避けられぬ」
 争いの理由はいつだって『境界線』を超えたから始まる。それは物理的な境界でもあり、精神的な境界でもある。満月は土蜘蛛を不憫とは思うが手を抜くつもりはない。土蜘蛛も『境界線』を超えたからだ。
(倒さなければいけない相手かもしれません……ですが……)
 アニスは非情の現実を理解しながら、心の中で土蜘蛛に謝罪していた。どういう形であれ、悲劇を止めるためにここで殺さなければならないのだ。ごめんなさい。せめて安らかに。
「参り、ます!」
 裂帛とともに刀を振るう祇澄。構え、踏み込み、切る。何年も繰り返してきた剣術の動作。人を活かすために磨かれた剣術は、人に仇なす存在を打ち払うべく振るわれる。確かな手ごたえが、柄から伝わってきた。
「でけえ! つええ! 万全の状態と戦いたかったぜ!」
 遥は土蜘蛛と戦いながらテンションが上がっていくのを感じていた。傷つけ、傷つけられ、攻めて、攻められて。次にどう攻めるか、相手がどう攻めてくるか。想像するだけで笑みが浮かんでくる。
「やばいかな。でもかまわずにどーん!」
 震える足を叱咤して円は土蜘蛛を攻め続ける。平常時はゆるくどこか気が抜けているが、戦いになればその雰囲気は消える円。牙をむいた獣の獰猛さを示すように、土蜘蛛に傷つけられながら刀を振るい続ける。
「流石に強い……!」
 仲間に癒しを施しながら椿は相手の強さに汗を流していた。繰り出される攻撃を前に回復で手いっぱいだ。これだけの強さの古妖が街に降りればどうなるか。それを想像して背筋が寒くなる。ここで止めなくては。
 足を一本失ったことで、土蜘蛛の呪いが増す。それにより覚者の傷つくペースも早くなる。アニスと椿、両名の回復を凌駕する火力だ。
「こなくそ!」
「まだ終わりではない」
「そうじゃな。ここがふんばりどころじゃ」
 遥、懐良、満月が土蜘蛛の呪いで命数を削るほどの傷を受けた。
「っ、まだ、です」
「あうー」
 祇澄、円が土蜘蛛の足の一撃で気を失うほどのダメージを受ける。祇澄は命数を削って何とか耐えたが、すでに一度命数を燃やしている円は気を失ってしまう。
「これで、どうですっ!」
 祇澄の一閃が土蜘蛛の二本目の足を切り落とす。悲鳴を上げ痛みを示す土蜘蛛。だがその痛みが恨みを呼び、土蜘蛛の呪いの力が増していく。
「今が攻め時じゃな。一気に行くぞ」
 二本目の足が断ち切れたの合図に、遥、満月が頭の方に攻撃に回る。懐良と祇澄が残った足を押さえ込み、後ろの仲間たちを守る陣形だ。
「オオオオオ!」
 叫ぶ土蜘蛛。その声に余裕はない。追い詰められた獣の咆哮だ。
 天秤は激しく揺れ、未だどちらに傾くとも言えない状態だった。


「敵を征し、地を鎮め、天下を守るのがオレの役目だ」
「こちらは、任せて、下さい。そちらは、頼みました、よ!」
 残った土蜘蛛の足を押さえる懐良と祇澄。体力を振り絞り、蜘蛛の進行を押さえる。五人がかりで二本切るのにここまで苦労したのだ。四本すべてを排除しようとしていたら、間違いなく力尽きていたであろう。
「まだ……です!」
 土蜘蛛の呪いを受けて、膝をつく千陽。命数を削って途中で耐え、仲間の守りに徹する。彼の守りがなければ癒しを行うアニスと椿が倒れ、戦線の維持が難しくなっていただろう。
「私が霧で癒します。神城さんは傷が深い一色さんをお願いします」
「はい。任せてください」
 千陽に守られている椿とアニスは、共に連携しあって仲間を癒していた。その癒しも決して無限ではない。だが戦いによって心の強さを高めた二人には、まだ癒しの術を行使する余裕が残っていた。
「『十天』の鹿ノ島遥! ここからが本番だ、さあ、やり合おうか古代の化け物さんよ!」
「やっと顔が見えたな。十天が一、一色満月。推して参る」
 遥と満月が土蜘蛛の頭を攻める。疲弊は激しいが、まだ負けるつもりはないとばかりに名乗りを上げた。
「おのれ人間……! 貴様らごときに、貴様ら如きに負けはせぬ! 土蜘蛛こそがこの国の王たる存在なのだ!」
 追い詰められ、憎しみを込めて叫ぶ土蜘蛛。足を奪われた怨嗟が土蜘蛛を強くする。その呪力で覚者達の足を止め、そして残った足を振るい血しぶきをあげる。
「……きゃあ!」
「あ……あとは、任せ、ます」
 蜘蛛の眷属に襲われ、椿と祇澄が追い詰められる。椿は何とか命数を燃やすことで意識を保つが、祇澄は耐え切れずに倒れ伏す。そして祇澄が押さえていた足が自由になり、回復を行使する後衛の方に向かう。
「……っ! ここまでですか」
 土蜘蛛の足を止めたのは後衛の前で盾となっていた千陽。土の加護を受けていたとはいえ、その一撃に耐えきれずに膝を屈した。
「無念。だがそっ首もらったぞ」
 土蜘蛛の呪視を喰らい、満月が意識を失う。その直前に笑みを浮かべて土蜘蛛に言葉を告げた。ここまで全力で道を切り開いた。あとは仲間が何とかしてくれる。
「くらええええええええ!」
 倒れ伏す満月の背後から遥が迫る。天の気は雷と化して布を巡り、布を纏いし手足は建御雷の剣と化す。雷光宿りし拳が、まっすぐに土蜘蛛の頭に叩き込まれた。
「ギシャアアアア!」
 大きく悲鳴を上げて、そして崩れ落ちる土蜘蛛。わずかの間痙攣するが、やがて完全に動かなくなる。
「――俺達の、勝ちだ!」
 拳を突きあげて勝利の宣言をする遥。
 鬨の声は逢魔が時の闇を払うように、高らかに鳴り響いた。
 

「みんな、大丈夫!?」
 椿は倒れた仲間たちに近寄り介抱する。アニス以外の覚者は、かなり傷ついていた。
「すまんな」
 起き上がった満月は、土蜘蛛の腹部を割いて食べられた隔者たちの遺体を探す。ほぼ消化され、骨らしいものが見つかった程度だがそれでもいい。手厚く葬ってやろう。
「で、この刀どうする?」
「ボクこの刀ほしー」
「自分は祠に戻した方がいいと思います」
 土蜘蛛の封印をしていた刀に関しては、意見が割れた。FiVEの方にも連絡を取り、最終的には盗みは良くないということで、祠に返却することになる。
(……敵を打倒するのは簡単だ。だが兵法としては、戦など次善の策でしかない)
 懐良は兵法者としての未熟さを身に刻んでいた。戦を起こさずに事を収めるのが上策。戦いで収めるのは次善の策だ。故に戦となれば『侵掠如火』……火の如く侵略するのだ。
「その御霊が、どうか安らかならんことを。祓い給え、清め給え……」
「どうか安らかにお眠りください」
  祇澄とアニスは土蜘蛛の墓を作り、弔っていた。人の住む地を襲い食らおうとした古妖だが、それでも無残に骸を晒し辱める真似は出来なかった。せめてあの世では憎しみの心を持つことのないように。

 辺りを捜索していた覚者は結局何の手がかりもない、という事だけがわかった。刀を盗もうとした隔者がどういう人間で、どういう背後関係があるのか。それは杳として掴めない。
 だが確実に迫る何かを覚者達は感じていた。近畿に迫る強い悪意。その矛先が自分たちに向いているということを。

 ――空が黄昏から夜に移る。
 闇が静かに広がりつつあった。 


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 どくどくです。
 足もう一本増やしても勝てたんじゃないかな? それぐらいの勝利でした。

 こちらの想定以上に覚者がダメージを積み重ね、いいタイミングで頭の方に向かえた作戦でした。
 それでも傷が多いのは、まあ難易度相応ということで。

 ともあれお疲れ様です。今はゆっくりと傷を癒してください。
 迫りくる悪意に負けぬと信じています。

 それではまた、五麟市で。




 
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