五麟市、夏の花火大会
「お疲れ様です。今日の夜は、五麟市の花火大会ですね」
参河 美希(nCL2000179)が、覚者達に話しかけた。
このところ大きな戦いが続いたからと、息抜きのお誘いを用意したという。
花火大会は五麟市が行う催しのひとつだ。
会場は五麟学園にほど近い大公園。
屋台が立ち並び、大勢の見物客で賑わう園内から、大輪の花火を鑑賞できる。
「私もお祭りに参加しようと思います。ご用がありましたら、声をかけて下さいね」
そう言って、美希は柔らかく微笑んだ。
戦士である覚者にも日常がある。
ここで描かれるのは、そんな彼らの平和な日常だ。
過ぎ行く昭倭の夏の夜を、貴方はどのように過ごすのだろうか。
参河 美希(nCL2000179)が、覚者達に話しかけた。
このところ大きな戦いが続いたからと、息抜きのお誘いを用意したという。
花火大会は五麟市が行う催しのひとつだ。
会場は五麟学園にほど近い大公園。
屋台が立ち並び、大勢の見物客で賑わう園内から、大輪の花火を鑑賞できる。
「私もお祭りに参加しようと思います。ご用がありましたら、声をかけて下さいね」
そう言って、美希は柔らかく微笑んだ。
戦士である覚者にも日常がある。
ここで描かれるのは、そんな彼らの平和な日常だ。
過ぎ行く昭倭の夏の夜を、貴方はどのように過ごすのだろうか。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.花火大会に参加する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
というわけで、久しぶりのイベントシナリオをお送りします。
以下、シナリオの説明を。
●シナリオで出来ること
夏の花火大会を舞台に、覚者の日常が描かれます。
花火大会では屋台を巡ったり、園内を散策したり、花火を鑑賞する事が出来ます。
当日の時刻は夜、天気は快晴となっています。
●ロケーション
時刻は夜。
五麟学園の近くにある市民公園で、花火大会が開催されます。
のんびりとお祭りを楽しんだり、覚者として来し方行く末を考えたり、
夏の夜のひとときを自由にお過ごし下さい。
※
NPCの参河 美希(nCL2000179)は、園内で屋台巡りを楽しんでいます。
行動を希望する場合は、プレイングにてご指定下さい。
●お土産について
お土産を希望される場合は【発行希望】・名称・設定の3点を必ずご記載下さい。
(プレイング欄・EXプレイング欄、どちらの記載でも構いません)
・字数上限は名称(全角14文字以内)、設定(全角64文字以内)とします。
・記載事項に漏れがあった場合、アイテムは発行されません。
・字数オーバー、内容に問題がある等の場合は修正を行う場合があります。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】という タグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行われない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
それでは、皆様の参加をお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
9日
9日
参加費
50LP
50LP
参加人数
16/30
16/30
公開日
2019年09月13日
2019年09月13日
■メイン参加者 16人■

●夜空に花火が咲く前に
会場内をぶらぶらと散策した藤森・璃空(CL2001680)は道端のベンチに腰を下ろすと、夜店のかき氷に舌鼓を打ち始めた。
『斬鉄』に勝利した後という事もあってか、その美味さも一入だ。甘いシロップの絡んだ氷が、キンと染みた。
「もうすぐ夏も終わりだな」
氷をちびちび口へ運んでいると、守護使役の瑠璃がふわふわと存在を主張する。
「おー、すまねーすまねー。少し食うか……って」
――コイツ、かき氷食えるのか?
素朴な疑問に首を傾げつつ、璃空は夏の夜を満喫する。
大妖のいない、平和な夏の夜を。
「屋台のお菓子は美味しいですね、ペスカ」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は、真っ赤なリンゴ飴を守護使役に見せて笑った。
タコ焼きに綿飴に焼きそば、リンゴ飴。祭りの料理には、非日常の空気でだけ味わえる特別な美味しさがある。
「……ん? ペスカ、気になるお店がありますか?」
食べ物片手に夜店を巡っていると、ふとぺスカが風船釣りの店へと視線を向ける。
せがむように飛び跳ねるぺスカにつられて挑戦してみるが、これが中々難しい。
「むむむ……調子が出ませんね」
「よければ1つ、好きなのを持って行っていいよ」
「いえ、もう一度だけ……」
お店の人の申し出を辞退し、挑戦すること更に数回、ついに――。
「やった! 見て下さいペスカ!」
手にした水風船を誇らしげに掲げるラーラ。
ペスカはそれを見て、風船と一緒にぽんぽんと飛び跳ねた。
道端に軒を連ねる屋台、その一角に大入りの繁盛店があった。
桂木・日那乃(CL2000941)が手伝う焼きそば屋だ。
「ソース、いい、香り」
「ありがとよ、お嬢ちゃん! ちょうど人手が足りなかったんだ!」
日那乃は今、Fiveのボランティアの真っ最中。
小さな手でへらを操り、鉄板の上で焼いたそばにソースと青のりを振りかければ、湯気の香りが人々の足を止める。屋台のおやっさんも、呑み込みの早さに大喜びだ。
「いらっしゃい、いらっしゃい」
「あら、桂木さん。お手伝い?」
日那乃が手を叩いてお客を呼び込んでいると、参河 美希(nCL2000179)の姿が見えた。
「これ、わたしが作った、の。食べて、みて?」
「ありがとう。嬉しいわ」
笑顔の美希に、日那乃は熱々の焼きそばパックをそっと手渡すのだった。
「色んな屋台が出てるねぇ……燐ちゃん、何か食べたい物とかあるかな?」
「そうですね。何にしましょうか、蘇我島さん」
『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)の大きな背中を、『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)はてくてくと追うようにして歩く。
花火が始まる前の腹拵えにと屋台をぶらつくも、暖簾の奥から漏れて来る美味しそうな香りに、燐花はついつい迷ってしまう。
「どれがいいでしょう。王道ですが、たこやきとか?」
「たこ焼きか、いいねぇ。焼きそばも美味しそうだ」
恭司と一緒に他愛もない話を交わすうち、ふと燐花の目が屋台のひとつに向いた。
「あそこ、珍しいですね。小物を扱う屋台でしょうか?」
「ああ、お土産物のお店みたいだ」
揃って足を向けた店で、二人が選んだ物は色美しい扇。
燐花は深い藍色の扇子を手に、それを恭司が扇ぐ姿を想像した。
(とっても似合いそうです)
「これ、燐ちゃんに似合いそうだ。折角だから二本とも買っていこうか」
恭司は白地に鮮やかな朝顔が描かれた扇子を選び、燐花へにこりと笑う。
お互いに贈りあった扇子は、屋台のものとは思えない程に良い品だ。
長く大事に使っていこう――燐花の扇を大事に手に取って眺めていると、恭司の背を燐花がつんつんと突く。
「焼きそば屋さんに参りませんか? ……そろそろお腹もなりそうです」
「おっと。ごめんごめん、そうしよう」
夏の一夜は、まだ始まったばかり。
恭司と燐花は扇を手に視線を交わし合い、楽し気に微笑んだ。
見晴らしの良い広場へと向かいながら、【百華】のメンバーがそぞろ歩く。
(皆、はぐれてないかな?)
先頭を行くのは引率の『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575)だ。
迷子が出ないよう、時折後ろを振り返る蒼羽の視線の先では、彼の見知った者達がのんびりと祭りを楽しんでいた。普段の依頼では武器を手に、勇ましく戦場を駆ける彼らも、今日は浴衣にワンピースにと、余所行きの装いで参加している。
「みんなで花火大会、楽しいね。お兄ちゃん、似合う?」
「ヤキソバうめー! このたこ焼きも、焼き立てでタコも大粒だ!」
『モイ!モイ♪モイ!』成瀬 歩(CL2001650)が金魚柄の浴衣で、大好きな兄にふわりと微笑んでみせる。
しかし当の兄――『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)はといえば、屋台の食べ物に夢中らしい。その手には焼きそばに焼き鳥にと、料理がてんこ盛りだ。
「ちょっとーお兄ちゃんー!」
「ん? ああ、もちろん似合ってるぜ」
頬を膨らませる歩に翔はグッと親指を立てて返すと、再び熱々のたこ焼きを頬張り、感極まったように感激の悲鳴を上げる。
「祭りの食い物って、どうしてこんなに美味いのかな! どれも最高だな、紡!」
「ほんと、美味しいねぇ」
相棒の『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)も、ご機嫌でぴこぴこと飛ぶように夜店を巡り歩く。
白地に薄紫色の浴衣は、紫紺色の絞り兵児帯とも相まって、とても美しい。頭には斜めに掛けた狐のお面を被り、手には齧りかけの林檎飴と金魚の袋を提げて、祭りを満喫しているようだ。
「浴衣、似合ってるな。なんかこう、夏祭り! ……って感じで」
「ふふっ。翔くんも浴衣、似合ってますよ」
「あ、澄香姉ちゃん」
翔は『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)を振り返り、そっと尋ねる。
「市松縞って言うんだっけ、オレの浴衣? 着慣れなくてなんか変な感じ……」
白と紺の模様を汚さないよう焼き鳥を頬張る翔を見て、歩はくすりと笑う。
「お兄ちゃん、買い食いばっかりだね」
「げ、痛いとこ突かれた」
歩の指摘に、翔はしまったという顔をする。
射的屋に寄る予定だったのを、すっかり忘れていた。そんな彼に澄香はくすっと微笑み、お小遣いをそっと手渡した。
「はい、これ。足りないでしょう?」
「おお! 澄香姉ちゃんさんきゅ!」
紡を追うように夜店へ駆けていく翔。
一方、『呑気草』真屋・千雪(CL2001638)の心が向く先は夜店でも食事でもない。
目の前の女性――『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)だった。
「ふふふ……完璧だ」
千雪の浴衣は笠巻絞り、金魚柄の帯には信玄ポーチ。気合の入りようが伺える瀟洒な出で立ちだ。
「彩吹さーん。どうかなー、イケてるかなー」
「え? うんうん、ちゃんとイケメンだよ」
相槌を打つ彩吹はサマーワンピースの出で立ち。夜闇に映えるワンピースの白と、軽く結い上げた髪の間から覗く青い花簪には、千雪だけでなく会場を通り過ぎる人々も目を向けずにはいられないようだ。
そんな視線に当の彩吹は、特段の興味もなさそうな表情で、
「皆、浴衣似合ってる。私も着てくれば良かったかな?」
「君も綺麗だし、いいじゃないか。動きやすそうだし」
妹の問いかけに笑って答える蒼羽。そこへ千雪がずいっと割り込む。
「彩吹さーん! ねえ僕の白いハット、似合う?」
「ん? うん、似合うよ」
(……がんばれ、千雪くん)
尻尾を振るように彩吹の後をついて行く千雪に、蒼羽がそっと励ましを送っていると、歩が夜空を指さす。
「ねえお兄ちゃん、皆。見て!」
ドン。
ドン。ドン――。
夜空に光の種がまかれ、花開いた光が五麟を照らし始めた。
●咲き誇る花火の下で
「歩ちゃん、肩車しましょうか? その方が良く見えますよ」
『五麟の結界』篁・三十三(CL2001480)の言葉に歩は素直に頷きかけたが、
「さとみん、あゆみはそんなにお子さまじゃないよ」
「おっと……これは失礼」
ほんのちょっぴり恥ずかしそうに頬を赤らめる歩に、三十三は丁寧に詫びた。
歩の藍色の瞳に宿す光は、その小さな身体に先んじて大人のそれへと変わりつつある事を、三十三は否が応でも意識する。
そして、そんな彼女に惹かれている自分自身の心も。
「これからも頼りにさせて頂きますね、歩ちゃん」
「ふふーん。こちらこそ、さとみん!」
並んで花火を見つめる歩と三十三。
澄香もまた、そんな二人の後ろで花火を眺めていた。
今頃は婚約者も事務所の窓からこの花火を見ているだろうか。手にする林檎飴は、彼へのお土産だ。
(どうかひととき、みんなの心が癒やされますように。そして……)
最後の戦いは、どうか皆で帰れますように――と。
夜空に、一際大きな一輪が咲いた。
紡はそれを眺め、相棒の翔とFiveで過ごしてきた「これまで」を思い返す。
初めて一緒に出掛けてから、もう3年。それから一昨年は花火を見て、去年は海を見て……思えば夏のイベントは相棒だらけだ。
懐かしい思い出を回想し、含み笑いを漏らす紡。
そんな折、ふと相棒からの視線を上から感じる。
「……? どうしたの?」
「こんなもんで悪いけど、良かったら」
翔は玩具の腕輪を差し出した。射的で取った玩具の腕輪である。
「二年前の約束通り、浴衣姿で花火だね。ありがと、翔」
腕輪をはめて微笑む紡を、七色の花火が照らす。
夜空を彩る大輪の花火を『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)はひとり仰いでいた。
「おー、綺麗やなー」
イカ焼き片手に、穏やかに過ごす夏の日常。
大妖との戦いを生き延びた凛にとって、その光景は一際まばゆい。
(……とはいえ)
凛は知っている。
大妖を生んだ『一の何か』を滅さぬ限り、真の終わりは来ない事を。
(その為なら、あたしは)
大空で散っていく花火を眺め、凛は思いを巡らせる。
魂を削れるのは、あと一回が限度だろう。そしてそれは己の死と同義だ。
生か、死か。
選択を迫られた時、どちらを選ぶか――。
「ま、考えててもしょうがないな。さぁ、屋台完全制覇や!」
凛は気を取り直し、花火を仰ぎ歩き出した。
大妖の滅びた平和な夜。
その何気ない日常を、『陰と陽の橋渡し』賀茂 たまき(CL2000994)は大切な相手と満喫していた。
「花火、綺麗ですね。奏空さん」
「綺麗だね。たまきちゃん」
黄、赤、青、白。
色鮮やかな光が夜空一面に咲き、たまきと『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)の顔を照らす。
(たまきちゃん……)
奏空は、必ず守ろうと決意する。その目に映る少女の笑顔を。夜空の花火のように輝かしい未来を、彼女と二人で見るために。
(奏空さん……)
たまきは微笑みを浮かべ、少年を見上げる。この笑顔も、自分が強くあれるのも、彼がいるからだ。
気づけば花火は終わり、見物客もちらほらと帰り支度を始めている。
その時、たまきが意を決したように奏空の手をそっと握った。
「あの……奏空さん?」
「なんだい、たまきちゃん?」
たまきに手を引かれるまま、奏空はたまきの後をついていく。
そうして辿り着いたのは、五麟が一望できる見晴らしのいい場所だった。たまきは袂から線香花火と燐寸を取り出して、微笑みかける。彼女の秘密の場所だという。
「一緒に楽しみませんか……?」
「……うん!」
奏空はたまきを優しく抱擁し、夏の夜をたまきとゆっくり過ごす。
儚く瞬いては消え落ちる、線香花火の灯かりと共に――。
帰り道の途中、千雪が顔を真っ赤にして、そっと彩吹の手を繋いできた。
「ふふっ、千雪は案外甘えん坊だよね」
「あ、いや、ありがとう、嬉しい」
千雪は盛大にはにかみながら、微笑みを向ける彩吹に話を切り出す。
彼にとっては今この一瞬こそが、今日のクライマックスだ。
「ね、ねぇ、彩吹さん。来年は僕の実家に一緒に帰らない?」
「千雪の実家? たしか岩手の方だっけ」
「そ、そうそう! 温泉と地酒くらいしかないんだけどさ、よかったら」
「んー。温泉は好きだけど、家族水入らずの邪魔じゃない?」
「あ……うん……」
不思議そうな顔で首を傾げる彩吹に、千雪はがっくりと肩を落とす。
どうやら目指す道のりは、まだまだ遠いようだ。
覚者達はそれぞれの時を過ごし、一人二人と帰路に就く。
京都の風には、少しずつ秋の涼しさが混じり始めていた。じきに夏も終わりを迎える事だろう。その先には、『一の何か』との戦いが覚者達を待っている。
五麟に、日本に、真の平和は訪れるのか。
そこに、いかなるピリオドが打たれるのか。
答えが出る日は、もうすぐだ。
会場内をぶらぶらと散策した藤森・璃空(CL2001680)は道端のベンチに腰を下ろすと、夜店のかき氷に舌鼓を打ち始めた。
『斬鉄』に勝利した後という事もあってか、その美味さも一入だ。甘いシロップの絡んだ氷が、キンと染みた。
「もうすぐ夏も終わりだな」
氷をちびちび口へ運んでいると、守護使役の瑠璃がふわふわと存在を主張する。
「おー、すまねーすまねー。少し食うか……って」
――コイツ、かき氷食えるのか?
素朴な疑問に首を傾げつつ、璃空は夏の夜を満喫する。
大妖のいない、平和な夏の夜を。
「屋台のお菓子は美味しいですね、ペスカ」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は、真っ赤なリンゴ飴を守護使役に見せて笑った。
タコ焼きに綿飴に焼きそば、リンゴ飴。祭りの料理には、非日常の空気でだけ味わえる特別な美味しさがある。
「……ん? ペスカ、気になるお店がありますか?」
食べ物片手に夜店を巡っていると、ふとぺスカが風船釣りの店へと視線を向ける。
せがむように飛び跳ねるぺスカにつられて挑戦してみるが、これが中々難しい。
「むむむ……調子が出ませんね」
「よければ1つ、好きなのを持って行っていいよ」
「いえ、もう一度だけ……」
お店の人の申し出を辞退し、挑戦すること更に数回、ついに――。
「やった! 見て下さいペスカ!」
手にした水風船を誇らしげに掲げるラーラ。
ペスカはそれを見て、風船と一緒にぽんぽんと飛び跳ねた。
道端に軒を連ねる屋台、その一角に大入りの繁盛店があった。
桂木・日那乃(CL2000941)が手伝う焼きそば屋だ。
「ソース、いい、香り」
「ありがとよ、お嬢ちゃん! ちょうど人手が足りなかったんだ!」
日那乃は今、Fiveのボランティアの真っ最中。
小さな手でへらを操り、鉄板の上で焼いたそばにソースと青のりを振りかければ、湯気の香りが人々の足を止める。屋台のおやっさんも、呑み込みの早さに大喜びだ。
「いらっしゃい、いらっしゃい」
「あら、桂木さん。お手伝い?」
日那乃が手を叩いてお客を呼び込んでいると、参河 美希(nCL2000179)の姿が見えた。
「これ、わたしが作った、の。食べて、みて?」
「ありがとう。嬉しいわ」
笑顔の美希に、日那乃は熱々の焼きそばパックをそっと手渡すのだった。
「色んな屋台が出てるねぇ……燐ちゃん、何か食べたい物とかあるかな?」
「そうですね。何にしましょうか、蘇我島さん」
『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)の大きな背中を、『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)はてくてくと追うようにして歩く。
花火が始まる前の腹拵えにと屋台をぶらつくも、暖簾の奥から漏れて来る美味しそうな香りに、燐花はついつい迷ってしまう。
「どれがいいでしょう。王道ですが、たこやきとか?」
「たこ焼きか、いいねぇ。焼きそばも美味しそうだ」
恭司と一緒に他愛もない話を交わすうち、ふと燐花の目が屋台のひとつに向いた。
「あそこ、珍しいですね。小物を扱う屋台でしょうか?」
「ああ、お土産物のお店みたいだ」
揃って足を向けた店で、二人が選んだ物は色美しい扇。
燐花は深い藍色の扇子を手に、それを恭司が扇ぐ姿を想像した。
(とっても似合いそうです)
「これ、燐ちゃんに似合いそうだ。折角だから二本とも買っていこうか」
恭司は白地に鮮やかな朝顔が描かれた扇子を選び、燐花へにこりと笑う。
お互いに贈りあった扇子は、屋台のものとは思えない程に良い品だ。
長く大事に使っていこう――燐花の扇を大事に手に取って眺めていると、恭司の背を燐花がつんつんと突く。
「焼きそば屋さんに参りませんか? ……そろそろお腹もなりそうです」
「おっと。ごめんごめん、そうしよう」
夏の一夜は、まだ始まったばかり。
恭司と燐花は扇を手に視線を交わし合い、楽し気に微笑んだ。
見晴らしの良い広場へと向かいながら、【百華】のメンバーがそぞろ歩く。
(皆、はぐれてないかな?)
先頭を行くのは引率の『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575)だ。
迷子が出ないよう、時折後ろを振り返る蒼羽の視線の先では、彼の見知った者達がのんびりと祭りを楽しんでいた。普段の依頼では武器を手に、勇ましく戦場を駆ける彼らも、今日は浴衣にワンピースにと、余所行きの装いで参加している。
「みんなで花火大会、楽しいね。お兄ちゃん、似合う?」
「ヤキソバうめー! このたこ焼きも、焼き立てでタコも大粒だ!」
『モイ!モイ♪モイ!』成瀬 歩(CL2001650)が金魚柄の浴衣で、大好きな兄にふわりと微笑んでみせる。
しかし当の兄――『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)はといえば、屋台の食べ物に夢中らしい。その手には焼きそばに焼き鳥にと、料理がてんこ盛りだ。
「ちょっとーお兄ちゃんー!」
「ん? ああ、もちろん似合ってるぜ」
頬を膨らませる歩に翔はグッと親指を立てて返すと、再び熱々のたこ焼きを頬張り、感極まったように感激の悲鳴を上げる。
「祭りの食い物って、どうしてこんなに美味いのかな! どれも最高だな、紡!」
「ほんと、美味しいねぇ」
相棒の『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)も、ご機嫌でぴこぴこと飛ぶように夜店を巡り歩く。
白地に薄紫色の浴衣は、紫紺色の絞り兵児帯とも相まって、とても美しい。頭には斜めに掛けた狐のお面を被り、手には齧りかけの林檎飴と金魚の袋を提げて、祭りを満喫しているようだ。
「浴衣、似合ってるな。なんかこう、夏祭り! ……って感じで」
「ふふっ。翔くんも浴衣、似合ってますよ」
「あ、澄香姉ちゃん」
翔は『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)を振り返り、そっと尋ねる。
「市松縞って言うんだっけ、オレの浴衣? 着慣れなくてなんか変な感じ……」
白と紺の模様を汚さないよう焼き鳥を頬張る翔を見て、歩はくすりと笑う。
「お兄ちゃん、買い食いばっかりだね」
「げ、痛いとこ突かれた」
歩の指摘に、翔はしまったという顔をする。
射的屋に寄る予定だったのを、すっかり忘れていた。そんな彼に澄香はくすっと微笑み、お小遣いをそっと手渡した。
「はい、これ。足りないでしょう?」
「おお! 澄香姉ちゃんさんきゅ!」
紡を追うように夜店へ駆けていく翔。
一方、『呑気草』真屋・千雪(CL2001638)の心が向く先は夜店でも食事でもない。
目の前の女性――『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)だった。
「ふふふ……完璧だ」
千雪の浴衣は笠巻絞り、金魚柄の帯には信玄ポーチ。気合の入りようが伺える瀟洒な出で立ちだ。
「彩吹さーん。どうかなー、イケてるかなー」
「え? うんうん、ちゃんとイケメンだよ」
相槌を打つ彩吹はサマーワンピースの出で立ち。夜闇に映えるワンピースの白と、軽く結い上げた髪の間から覗く青い花簪には、千雪だけでなく会場を通り過ぎる人々も目を向けずにはいられないようだ。
そんな視線に当の彩吹は、特段の興味もなさそうな表情で、
「皆、浴衣似合ってる。私も着てくれば良かったかな?」
「君も綺麗だし、いいじゃないか。動きやすそうだし」
妹の問いかけに笑って答える蒼羽。そこへ千雪がずいっと割り込む。
「彩吹さーん! ねえ僕の白いハット、似合う?」
「ん? うん、似合うよ」
(……がんばれ、千雪くん)
尻尾を振るように彩吹の後をついて行く千雪に、蒼羽がそっと励ましを送っていると、歩が夜空を指さす。
「ねえお兄ちゃん、皆。見て!」
ドン。
ドン。ドン――。
夜空に光の種がまかれ、花開いた光が五麟を照らし始めた。
●咲き誇る花火の下で
「歩ちゃん、肩車しましょうか? その方が良く見えますよ」
『五麟の結界』篁・三十三(CL2001480)の言葉に歩は素直に頷きかけたが、
「さとみん、あゆみはそんなにお子さまじゃないよ」
「おっと……これは失礼」
ほんのちょっぴり恥ずかしそうに頬を赤らめる歩に、三十三は丁寧に詫びた。
歩の藍色の瞳に宿す光は、その小さな身体に先んじて大人のそれへと変わりつつある事を、三十三は否が応でも意識する。
そして、そんな彼女に惹かれている自分自身の心も。
「これからも頼りにさせて頂きますね、歩ちゃん」
「ふふーん。こちらこそ、さとみん!」
並んで花火を見つめる歩と三十三。
澄香もまた、そんな二人の後ろで花火を眺めていた。
今頃は婚約者も事務所の窓からこの花火を見ているだろうか。手にする林檎飴は、彼へのお土産だ。
(どうかひととき、みんなの心が癒やされますように。そして……)
最後の戦いは、どうか皆で帰れますように――と。
夜空に、一際大きな一輪が咲いた。
紡はそれを眺め、相棒の翔とFiveで過ごしてきた「これまで」を思い返す。
初めて一緒に出掛けてから、もう3年。それから一昨年は花火を見て、去年は海を見て……思えば夏のイベントは相棒だらけだ。
懐かしい思い出を回想し、含み笑いを漏らす紡。
そんな折、ふと相棒からの視線を上から感じる。
「……? どうしたの?」
「こんなもんで悪いけど、良かったら」
翔は玩具の腕輪を差し出した。射的で取った玩具の腕輪である。
「二年前の約束通り、浴衣姿で花火だね。ありがと、翔」
腕輪をはめて微笑む紡を、七色の花火が照らす。
夜空を彩る大輪の花火を『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)はひとり仰いでいた。
「おー、綺麗やなー」
イカ焼き片手に、穏やかに過ごす夏の日常。
大妖との戦いを生き延びた凛にとって、その光景は一際まばゆい。
(……とはいえ)
凛は知っている。
大妖を生んだ『一の何か』を滅さぬ限り、真の終わりは来ない事を。
(その為なら、あたしは)
大空で散っていく花火を眺め、凛は思いを巡らせる。
魂を削れるのは、あと一回が限度だろう。そしてそれは己の死と同義だ。
生か、死か。
選択を迫られた時、どちらを選ぶか――。
「ま、考えててもしょうがないな。さぁ、屋台完全制覇や!」
凛は気を取り直し、花火を仰ぎ歩き出した。
大妖の滅びた平和な夜。
その何気ない日常を、『陰と陽の橋渡し』賀茂 たまき(CL2000994)は大切な相手と満喫していた。
「花火、綺麗ですね。奏空さん」
「綺麗だね。たまきちゃん」
黄、赤、青、白。
色鮮やかな光が夜空一面に咲き、たまきと『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)の顔を照らす。
(たまきちゃん……)
奏空は、必ず守ろうと決意する。その目に映る少女の笑顔を。夜空の花火のように輝かしい未来を、彼女と二人で見るために。
(奏空さん……)
たまきは微笑みを浮かべ、少年を見上げる。この笑顔も、自分が強くあれるのも、彼がいるからだ。
気づけば花火は終わり、見物客もちらほらと帰り支度を始めている。
その時、たまきが意を決したように奏空の手をそっと握った。
「あの……奏空さん?」
「なんだい、たまきちゃん?」
たまきに手を引かれるまま、奏空はたまきの後をついていく。
そうして辿り着いたのは、五麟が一望できる見晴らしのいい場所だった。たまきは袂から線香花火と燐寸を取り出して、微笑みかける。彼女の秘密の場所だという。
「一緒に楽しみませんか……?」
「……うん!」
奏空はたまきを優しく抱擁し、夏の夜をたまきとゆっくり過ごす。
儚く瞬いては消え落ちる、線香花火の灯かりと共に――。
帰り道の途中、千雪が顔を真っ赤にして、そっと彩吹の手を繋いできた。
「ふふっ、千雪は案外甘えん坊だよね」
「あ、いや、ありがとう、嬉しい」
千雪は盛大にはにかみながら、微笑みを向ける彩吹に話を切り出す。
彼にとっては今この一瞬こそが、今日のクライマックスだ。
「ね、ねぇ、彩吹さん。来年は僕の実家に一緒に帰らない?」
「千雪の実家? たしか岩手の方だっけ」
「そ、そうそう! 温泉と地酒くらいしかないんだけどさ、よかったら」
「んー。温泉は好きだけど、家族水入らずの邪魔じゃない?」
「あ……うん……」
不思議そうな顔で首を傾げる彩吹に、千雪はがっくりと肩を落とす。
どうやら目指す道のりは、まだまだ遠いようだ。
覚者達はそれぞれの時を過ごし、一人二人と帰路に就く。
京都の風には、少しずつ秋の涼しさが混じり始めていた。じきに夏も終わりを迎える事だろう。その先には、『一の何か』との戦いが覚者達を待っている。
五麟に、日本に、真の平和は訪れるのか。
そこに、いかなるピリオドが打たれるのか。
答えが出る日は、もうすぐだ。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『思い出の扇子』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:蘇我島 恭司(CL2001015)
『思い出の扇子』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:柳 燐花(CL2000695)
『屋台の水風船』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:蘇我島 恭司(CL2001015)
『思い出の扇子』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:柳 燐花(CL2000695)
『屋台の水風船』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
