燃える死を届けてなんかやるものか
●四国
『黄泉路行列車』ケモノ四〇六号が四国を走る。
大妖が走った跡自体が陣となりその内側に居た者は『死を繰り返す』悪夢を見続ける。たとえ陣の外に連れ出しても目覚めず、狂ったように死に直面した悲鳴を上げ続けていた。何度も何度も何度も何度も殺され、何度も何度も何度も何度も死を経験する。肉体の影響は皆無だが、精神の影響は大きい。
「熱い、熱い熱い熱い熱いいいいいいい!」
「子供が! 子供があそこにいるんです! 誰か、誰か……!」
「違うんだ。あそこで逃げなかったら、おれが死んでた。見捨てたわけじゃない……見捨て……うわあああああああ!」
今宵の夢は焼死。
自分が燃える者、大事なものが燃えた者、誰かを見捨てた者――
火炎という舞台の中存在する死との対面。それが夢だと分かっていても、魂に刻まれるような『体験』は心を苛んでいく。小説や映画のように他人事のように思う事が出来ない。
そしてこの夢は続く。明日は別の死に方で。または同じ死に方で。
これは人質だ。正確には脅迫だ。
要求を飲まなければ終わらないという脅し。しかし事情を知らない者はただ死に怯え続けるだけ。事情を知る者は、罪に怯えて心を折るだろう。そんな無言のメッセージ。
今できる事は――
●FiVE
「対処療法でしかありませんが、悪夢を拡散させている妖を退治する事で一時的に止める事が出来るかもしれません」
久方 真由美(nCL2000003)は疲れた面持ちで覚者を出迎える。四国に人達が見ている夢を見てしまったのだろう。深呼吸の後に言葉を続ける。
「拡散している妖を護るように炎の妖が展開しています。これらすべてを排する事で四国の人達が見ている悪夢を少しの間止める事が出来るようです」
「少しの間?」
「はい。こういった妖が四国中に多数存在しています。全てを倒せばあるいは、なのですが……」
真由美のセリフは推測だ。全部倒して『実は違いました』『別の妖も同じことが出来ました』という可能性もある。
ともあれ、今できる事をやらなくては。覚者達は頷きあい、会議室を出た。
『黄泉路行列車』ケモノ四〇六号が四国を走る。
大妖が走った跡自体が陣となりその内側に居た者は『死を繰り返す』悪夢を見続ける。たとえ陣の外に連れ出しても目覚めず、狂ったように死に直面した悲鳴を上げ続けていた。何度も何度も何度も何度も殺され、何度も何度も何度も何度も死を経験する。肉体の影響は皆無だが、精神の影響は大きい。
「熱い、熱い熱い熱い熱いいいいいいい!」
「子供が! 子供があそこにいるんです! 誰か、誰か……!」
「違うんだ。あそこで逃げなかったら、おれが死んでた。見捨てたわけじゃない……見捨て……うわあああああああ!」
今宵の夢は焼死。
自分が燃える者、大事なものが燃えた者、誰かを見捨てた者――
火炎という舞台の中存在する死との対面。それが夢だと分かっていても、魂に刻まれるような『体験』は心を苛んでいく。小説や映画のように他人事のように思う事が出来ない。
そしてこの夢は続く。明日は別の死に方で。または同じ死に方で。
これは人質だ。正確には脅迫だ。
要求を飲まなければ終わらないという脅し。しかし事情を知らない者はただ死に怯え続けるだけ。事情を知る者は、罪に怯えて心を折るだろう。そんな無言のメッセージ。
今できる事は――
●FiVE
「対処療法でしかありませんが、悪夢を拡散させている妖を退治する事で一時的に止める事が出来るかもしれません」
久方 真由美(nCL2000003)は疲れた面持ちで覚者を出迎える。四国に人達が見ている夢を見てしまったのだろう。深呼吸の後に言葉を続ける。
「拡散している妖を護るように炎の妖が展開しています。これらすべてを排する事で四国の人達が見ている悪夢を少しの間止める事が出来るようです」
「少しの間?」
「はい。こういった妖が四国中に多数存在しています。全てを倒せばあるいは、なのですが……」
真由美のセリフは推測だ。全部倒して『実は違いました』『別の妖も同じことが出来ました』という可能性もある。
ともあれ、今できる事をやらなくては。覚者達は頷きあい、会議室を出た。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.幾何学ナイトメアの撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
令和最初のシナリオが大妖一いやらしい奴になろうとは……どくどくらしいのかな!
●敵情報
・幾何学ナイトメア(×1)
自然系妖。ランク3。形状は正八面体の結晶体。様々な色に発光しながら、覚者達を惑わしてきます。
曰く『妖に対する恐怖の具現化』のようです。ケモノ四〇八から発せられた悪夢を周囲に反射しているとか。。
攻撃方法
赤色発光 特近列 赤く発光し、近くにいる者に衝撃波を放ちます。【二連】
橙色発光 物遠列 橙に発光し、ホルモンバランスを狂わせます。【麻痺】【猛毒】
青色発光 物近貫3 青い光線を放ち、直線状の敵を薙ぎ払います。(100%、50%、25%)
紫色発光 特遠敵味全 紫色の光線を放ち、悪夢に誘います。【睡眠】【Mアタック100】【不安】【溜1】
白色発光 特遠列貫2 白く発光し、冷気で敵の動きを止めます。(100%、50%)【氷結】
・炎人形(×3)
自然系妖。ランク1。全身が炎に包まれた黒い人形です。炎熱を放ち、攻撃してきます。
攻撃方法
炎拳 物近単 燃える拳で殴ってきます。【火傷】【二連】
熱石 物遠単 熱された石を投げつけてきます。
炎息 特遠貫2 口から炎を吐いてきます。【火傷】(50%、100%)
●場所情報
四国某所。時刻は夜。周囲の人は寝ており、戦闘中に出てくることはありません。広さや足場は戦闘に支障なし。
戦闘開始時、敵中衛に『幾何学ナイトメア(×1)』、敵前衛に『炎人形(×3)』がいます。
事前付与は一度だけ可能とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2019年05月13日
2019年05月13日
■メイン参加者 6人■

●
様々な色を放つ正八面体の妖。それを護るように立つ炎を纏った人影。
それが四国の人達に焼死に関する悪夢を見せていた。
ある者は炎に巻かれ、ある者は炎に大事なものを奪われ、ある者は大火を前に理性を捨てて逃亡し――容赦ない『死』に関する悪夢を延々と見せられ続ける。
それが大妖『黄泉路行列車』ケモノ四〇六号のやり方。殺さず、しかし生かさず。苦しむ様を見せつけて、人の無力を植え付ける。
そしてそれを見た人は思うのだ。許せない、と。しかしその暴力を前に膝を屈する。
この悪夢は四国にいる人間え向けたメッセージではない。それを見た人間へのメッセージなのだ。多くの人達は四国の人を救いたいと思い、しかし無力を知って涙を飲む。
だが忘れるな。抗う人は皆無ではない。
数多の闘いを潜り抜けた覚者が今、ここに集う。
「幾何学ナイトメア……こいつとは前にも戦った事がある」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は刀を手にして妖を見る。かつて妖に支配されていた街の司令塔的存在。その基礎能力は違うかもしれないが、能力や戦術は変わらないはずだ。その時の経験を生かして戦い抜く。
「以前は斬鉄さんに関わる妖として戦いましたっけ。大妖に対する恐怖の感情さえも強力な妖の源泉になり得るということなのでしょうか……」
同じく戦闘経験のある『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は守護使役を抱きしめながら思考にふけていた。恐怖を具現化した幾何学ナイトメア。その力は他の妖も利用できるのだろう。そしてそれが四国に多数存在しているのか。
「あー、あの八面体前に見た事あるな」
頭を掻きながら『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は頷いた。凛もまた、幾何学ナイトメアとの戦闘経験を持っている。あの時の闘いを思い出しながら、体内の炎を高めていく。身体に染みついた戦闘の記憶が、あの時どう動いたかを再試行していく。
「悪夢を見せて相手を苦しめる妖、かぁ。まったくもって、オレの嫌いなタイプのやつだな!」
拳を握って『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は怒りを示す。直接殴りに来るのではなく、精神的に心を折ろうとする手段。しかもそれが覚者にではなく、無関係な人を狙っての行動。遥には到底受け入れられない戦術だった。
「今、四国がこの状態にあるのは私達の責任……助けます、必ず」
明かりの途絶えた四国の街を見ながら『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)は決意を固める。『一の何か』と争う決意をしたがゆえに、四国の人達は大妖の目標となった。その責任は果たすと心に近い、神具を握りしめる。
「私達に直接手を下すのでは無く、四国の皆さんに害を及ぼすなんて……」
『陰と陽の橋渡し』賀茂 たまき(CL2000994)は大妖とそれを操る存在に怒りを感じていた。FiVEの覚者の心を折る為に、無辜の民を傷つけるそのやり方に。おそらく『千年前の人』達はそれで心折れて屈したのだろう。それを思うと、なおの事怒りが込み上げる。
覚者の存在に気付いたのか、妖達の殺意が覚者達を突き刺す。その気配と同時に覚者達も神具を構えた。
夜の四国、大妖の先兵と覚者達がぶつかり合う。
●
「ほな、行くで!」
凛は抜刀し、妖への距離を詰める。燃える人影と正八面体の妖。特に八面体の妖は一度戦ったことがあるがゆえにその強さを知っている。厄介な相手であることには違いないが、一度勝っている相手だ。油断なく攻めれば、勝機は存在する。
正眼に構えた刀に力を籠める。相手の構え、立ち位置、そこから相手の動きを予測し、刀を強く握る凛。横なぎからの逆袈裟、そして唐竹割。炎の中を歩くように斬りかかり、そして露を払うように刀を振るう。凛の手には、確かに手ごたえが残っていた。
「あたしの焔とお前らの炎、どっちが勝つか勝負や!」
「蹴って蹴って蹴りまくる!」
凛の死角を遮るような立ち位置を維持する遥。両手で重要箇所を防御し、足で妖を攻める。炎を吐いたりする相手だが、殴り掛かってくる動作は人間そのもの。ならば空手が通じない道理はない。動きを逃さず、攻め立てる。
迫る炎人形の腕を受け止める遥。炎熱が神具を通じて伝わってくるが、どうという事はないと笑みを浮かべる。気持ちが肉体を凌駕したのか、はたまたただの強がりか。遥はそのまま蹴りを放ち、突き進むように妖を攻め立てる。
「今日もオレは、前を向いて殴るだけでいい! だからこそ、全身全霊を込めてオレはこの拳足を打ち込む!」
「はい。足止めは任せてください!」
遥の言葉に頷く澄香。そのまま呼吸を整え、術式に集中する。会得した源素の秘奥。神の名を冠する樹木の技。それを解き放つためには時間がいる。その間護ってくれる仲間に感謝しながら、木の源素を練り上げていく。
充分に練り上げた木の源素を解き放つ澄香。香が戦場に広がり、世界を満たしていく。香は味方を避け、妖全てを包み込むように収縮していく。触れた肌から、吸い込んだ内側から同時に毒が回り、妖の対内外をズタズタに裂いていく。
「ありがとうございます。奏空くん」
「いいですよ。これで一気に叩き潰せる!」
澄香の礼に指を立てて応える奏空。源素参式発動まで澄香を守り、幾何学ナイトメアの攻撃を庇っていたのだ。そのせいもあって疲労も大きいが、その分の成果は出た。お返しとばかりに刀を振るい、妖に迫る。
一足で三歩の間合を詰める奏空。這うように体を低くして迫り、起き上がりざまに刀を振りぬいた。前世の知識と技術を乗せた一撃は歴史の重み。培ってきた技術を乗せての一閃が炎人形の腕を拭き飛ばす。
「よし。いいよ、たまきちゃん。俺が守るから!」
「はい……! よろしく、お願いします……!」
奏空の言葉に頷くたまき。澄香が参式に集中している間はたまきが回復を担っていたが、彼女が動けるようになればつぎはたまきの番。その決意と、そして大妖に対する怒りを込めて『御朱印帳』を握りしめる。
術式を展開するたまき。解放された土の源素が大地を走り、妖達の足元にたどり着くと同時に強力な重力を生む。体全体が大地に引っ張られ、這う事しかできない妖。重力はそのまま妖を押しつぶさんとばかりに、少しずつ力を増していく。
「どんな手を使われたとしても、大妖の思い通りになんて、絶対に、させません……!」
「 一般の方々を夜毎に苦しめるなんて許せません!」
たまきの怒りの言葉にラーラの言葉が重なる。抵抗できない存在を弄り、心を折って選択を強要する。そんな事を許せるはずがない。相手がどれほど強くとも、それに屈するつもりは毛頭ない。力の限り抵抗し、そして打ち勝つのみ。
魔導書の上をなぞるように指を這わせるラーラ。生まれる炎は炎人形を包むそれより赤く、そして熱い。それは魔女の奇跡。炎を愛し、そして愛された魔女の業にして魔術。生まれし煉獄の弾丸が妖を穿っていく。
「幾何学ナイトメアさん、教えてください。その炎は私のよりも熱いんですか?」
答えはない。低ランクの妖は喋らず、幾何学ナイトメアはただ光を返すのみ。しかしその答えは崩れ落ちる炎人形が雄弁に語っていた。
<五行><四神><三才><二極>……FiVEの覚者が持つ力。
それは世界に満ちた存在そのもの。世界を構成する存在そのもの。誰もが感じ取ることができ、しかし誰もが触れられないモノ。かつて、あらゆる人間がそれを操る事が出来たが、今は覚者と呼ばれる『目覚めた』存在しか扱えない力。
それが身体能力を活性化させ、それを術式に変換して妖を穿っていた。
――否、それはあくまで力の問題だ。真に妖を穿つのは覚者の意志。人の命を何とも思わない大妖に対する強い怒り。誰もが感じるその怒りを持って行動しているに過ぎない。
その感情を受け止めたか、あるいは覚者の猛攻に本気になったのか。幾何学ナイトメアは激しく明滅する。炎人形もそれを受けてか覚者達を攻め立てていく。
悪夢をめぐる戦いは、少しずつ加速していく。
●
初手に木の究術を放った澄香。それにより妖の動きを大きく止め、同時に毒で蝕むことが出来た。続いて放たれた土の秘奥により、敵前衛を塞ぐ炎人形は壊滅的な打撃を受ける。たった二発の術式で、妖の戦線はほぼ壊滅的となっていた。
後衛で守られながらバッドステータスを与える幾何学ナイトメアの戦術は、事実上崩壊したと言ってもいい。覚者達はこの機を逃すことなく、一気に攻め立てる。
「俺は修羅になるとあの時決めたんだ‥…!」
刀を振るいながら奏空は強く奥歯を噛みしめる。『何か』の要求を拒んだときから、一般人に被害が及ぶことは分かっていた。それを分かっていて拒絶したのだ。その罪は背負って行く。そこから目を逸らすことなく、今はただ敵を討つ修羅となろうと心を決める。
「…………」
奏空の後姿を見ながら手を伸ばそうとするたまき。だがその手は途中で止まり、術式を展開するために使われる。奏空同様、たまきも覚悟は決めている。大妖に、そしてそれを操る『何か』に屈するつもりはない。今は甘えを捨てて戦うのみだ。
「ククノチ様、ありがとうございます」
『源素の祝福』を握りしめ、澄香は術を展開する。幾何学ナイトメアの与える毒よりも強い刺激毒と麻痺毒。それを与える事が出来る人間の技法。それは人は妖に負けないと言う証左でもあった。澄香はその事を誇り、そして感謝する。
「お遍路さんとはバトることと見つけたり、ってな!」
最後の炎人形を伏し、遥は幾何学ナイトメアに迫る。発光する八面体を前に構えを取り、笑みを浮かべた。四国に数多ばらまかれた妖達。これらすべてを伏して四国を解放する。可能かどうかではない。やるかやらないかだ。やる気を込めて、蹴りを放つ。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
呪文と共に炎を放つラーラ。鋭い弾丸となった炎が炎熱を伴って飛来する。これだ対処療法だとしても、苦しんでいる人達を放置する事なんてできやしない。悪夢をばらまく元凶を追い詰める為にも、ここで燃える悪夢を止めなければ。
「喰らえや、八面体! あんたらが何しようが、人の『勇気』までは奪えへんで!」
裂帛と共に刀を振るう凛。悪夢に心を折られる者は確かにいる。しかし絶望から立ち上がる人も確かにいるのだ。例えどれだけの悪夢を見せつけようが、人は立ち上がる力がある。その『勇気』ある限り――
覚者達の猛攻を前に、幾何学ナイトメアは発光して足止めする。攻め立てる前衛に衝撃波を与え、後衛に毒を振りまく。冷気で一掃し、悪夢を見せて足止めをする。多種多様な攻撃を繰り出し、じわじわと覚者達の体力を奪っていく。
だが――
「その攻撃は……届きません……!」
「人間の力、教えてあげましょう」
たまきの術符が展開して桜の盾となり、澄香の生んだ木漏れ日が仲間達の傷を癒していく。
「太古の炎甦れ。その腕で燎原を焼き払いたまえ!」
「俺達人間がお前にも悪夢ってものを見せてやる……!」
「人様に迷惑かける奴は懲らしめたらんとな!」
「心折れたりとかするもんかよ。あいにくオレは、そんな繊細な心なんか持ってねえかんな!」
ラーラの『煌炎の書』が炎を生み、、奏空の『大太刀・虔翦』が翻る。。凛の『朱焔』が焔の煌きを放ち、遥の『八雷神』が叩きつけられる。
崩れることのない覚者の猛攻を前に、ランク3の妖は為す術もない。繰り返される打撃に八面体にひびが入っていく。
「こいつでトドメだ! 暴力坂のおっさん、技使わせてもらうぜ!」
全身の筋肉に力を込めて、大きく息を吸い込む遥。過剰な肉体の酷使により瞬間的に多大なる力を得る戦闘術。反動も大きいが、はじき出される火力は随一だ。全身が激しく痛みだすが、それに構わず拳を振るう遥。
「消えろ! 悪夢なんざ、望んじゃいないんだよ!」
その一撃が、炎の悪夢を見せる妖を砕き、無に帰した。
●
砕け散った妖が消え、静寂が訪れる。
四国の人達が夢から覚める事はないが、その表情は幾分か和らいでいた。今は悪夢を見ていないのだろう。
「これで皆少しはええ夢みられるやろかな?」
納刀した凛がため息と共に呟く。幾何学ナイトメアが滅び、夢を拡散する手段がなくなった。これでしばらくは悪夢に悩まされることはないだろう。
だがこれが一時的な事であることは誰もが分かっていた。
「大元はケモノ四〇八……この大妖を倒さない限り同じ事は続くはず」
覚醒状態を解除し、澄香が気を引き締める様に澄香が呟く。この四国のどこかで走っている大妖。それを倒さない限りは四国の人を救えないのだ。
「情報は夢見やFiVEのスタッフが頑張ってくれてるだろうから、俺達はそれにいち早く行動出来る為に万全を尽くすだけだ」
自分に言い聞かせるように奏空は口を開く。大妖を倒したのは確かだ。だが闇雲に動くわけにはいかない。今は時を待つのみだ。
「ああ。オレ達に出来る事をやるだけだ。四国中走り回って、出てくる妖全部ぶっ倒してやるよ!」
拳で手のひらを叩き、気合を入れる遥。自分にできる事は何でもやる。だから自分にできない事は任せよう。大妖を見つけ、そしてこの拳を叩きつけるのだ。
「ケモノ四〇六号……必ずその手から、全ての皆さんを、助け出します!」
未だ静寂を保つ四国をみながら、たまきは目を伏せる。人を護る。その為にこの術はあるのだ。災厄ともいえる大妖に挑む覚悟は、既にできていた。
「帰りましょう。休むことも大事です」
ラーラの言葉と共に、覚者達は帰路につく。これ以上此処にいても何の進展もない。体を休めて次の戦いに挑むこともまた、重要なことなのだから。
報告に戻った覚者達は、思わぬ報告に驚くことになる。
『黄泉路行列車』ケモノ四〇六号の進路を捕捉――
「大妖への攻撃を開始するわ」
短くそして鋭い言葉が、覚者達の疲れを吹き飛ばした。
様々な色を放つ正八面体の妖。それを護るように立つ炎を纏った人影。
それが四国の人達に焼死に関する悪夢を見せていた。
ある者は炎に巻かれ、ある者は炎に大事なものを奪われ、ある者は大火を前に理性を捨てて逃亡し――容赦ない『死』に関する悪夢を延々と見せられ続ける。
それが大妖『黄泉路行列車』ケモノ四〇六号のやり方。殺さず、しかし生かさず。苦しむ様を見せつけて、人の無力を植え付ける。
そしてそれを見た人は思うのだ。許せない、と。しかしその暴力を前に膝を屈する。
この悪夢は四国にいる人間え向けたメッセージではない。それを見た人間へのメッセージなのだ。多くの人達は四国の人を救いたいと思い、しかし無力を知って涙を飲む。
だが忘れるな。抗う人は皆無ではない。
数多の闘いを潜り抜けた覚者が今、ここに集う。
「幾何学ナイトメア……こいつとは前にも戦った事がある」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は刀を手にして妖を見る。かつて妖に支配されていた街の司令塔的存在。その基礎能力は違うかもしれないが、能力や戦術は変わらないはずだ。その時の経験を生かして戦い抜く。
「以前は斬鉄さんに関わる妖として戦いましたっけ。大妖に対する恐怖の感情さえも強力な妖の源泉になり得るということなのでしょうか……」
同じく戦闘経験のある『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は守護使役を抱きしめながら思考にふけていた。恐怖を具現化した幾何学ナイトメア。その力は他の妖も利用できるのだろう。そしてそれが四国に多数存在しているのか。
「あー、あの八面体前に見た事あるな」
頭を掻きながら『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は頷いた。凛もまた、幾何学ナイトメアとの戦闘経験を持っている。あの時の闘いを思い出しながら、体内の炎を高めていく。身体に染みついた戦闘の記憶が、あの時どう動いたかを再試行していく。
「悪夢を見せて相手を苦しめる妖、かぁ。まったくもって、オレの嫌いなタイプのやつだな!」
拳を握って『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は怒りを示す。直接殴りに来るのではなく、精神的に心を折ろうとする手段。しかもそれが覚者にではなく、無関係な人を狙っての行動。遥には到底受け入れられない戦術だった。
「今、四国がこの状態にあるのは私達の責任……助けます、必ず」
明かりの途絶えた四国の街を見ながら『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)は決意を固める。『一の何か』と争う決意をしたがゆえに、四国の人達は大妖の目標となった。その責任は果たすと心に近い、神具を握りしめる。
「私達に直接手を下すのでは無く、四国の皆さんに害を及ぼすなんて……」
『陰と陽の橋渡し』賀茂 たまき(CL2000994)は大妖とそれを操る存在に怒りを感じていた。FiVEの覚者の心を折る為に、無辜の民を傷つけるそのやり方に。おそらく『千年前の人』達はそれで心折れて屈したのだろう。それを思うと、なおの事怒りが込み上げる。
覚者の存在に気付いたのか、妖達の殺意が覚者達を突き刺す。その気配と同時に覚者達も神具を構えた。
夜の四国、大妖の先兵と覚者達がぶつかり合う。
●
「ほな、行くで!」
凛は抜刀し、妖への距離を詰める。燃える人影と正八面体の妖。特に八面体の妖は一度戦ったことがあるがゆえにその強さを知っている。厄介な相手であることには違いないが、一度勝っている相手だ。油断なく攻めれば、勝機は存在する。
正眼に構えた刀に力を籠める。相手の構え、立ち位置、そこから相手の動きを予測し、刀を強く握る凛。横なぎからの逆袈裟、そして唐竹割。炎の中を歩くように斬りかかり、そして露を払うように刀を振るう。凛の手には、確かに手ごたえが残っていた。
「あたしの焔とお前らの炎、どっちが勝つか勝負や!」
「蹴って蹴って蹴りまくる!」
凛の死角を遮るような立ち位置を維持する遥。両手で重要箇所を防御し、足で妖を攻める。炎を吐いたりする相手だが、殴り掛かってくる動作は人間そのもの。ならば空手が通じない道理はない。動きを逃さず、攻め立てる。
迫る炎人形の腕を受け止める遥。炎熱が神具を通じて伝わってくるが、どうという事はないと笑みを浮かべる。気持ちが肉体を凌駕したのか、はたまたただの強がりか。遥はそのまま蹴りを放ち、突き進むように妖を攻め立てる。
「今日もオレは、前を向いて殴るだけでいい! だからこそ、全身全霊を込めてオレはこの拳足を打ち込む!」
「はい。足止めは任せてください!」
遥の言葉に頷く澄香。そのまま呼吸を整え、術式に集中する。会得した源素の秘奥。神の名を冠する樹木の技。それを解き放つためには時間がいる。その間護ってくれる仲間に感謝しながら、木の源素を練り上げていく。
充分に練り上げた木の源素を解き放つ澄香。香が戦場に広がり、世界を満たしていく。香は味方を避け、妖全てを包み込むように収縮していく。触れた肌から、吸い込んだ内側から同時に毒が回り、妖の対内外をズタズタに裂いていく。
「ありがとうございます。奏空くん」
「いいですよ。これで一気に叩き潰せる!」
澄香の礼に指を立てて応える奏空。源素参式発動まで澄香を守り、幾何学ナイトメアの攻撃を庇っていたのだ。そのせいもあって疲労も大きいが、その分の成果は出た。お返しとばかりに刀を振るい、妖に迫る。
一足で三歩の間合を詰める奏空。這うように体を低くして迫り、起き上がりざまに刀を振りぬいた。前世の知識と技術を乗せた一撃は歴史の重み。培ってきた技術を乗せての一閃が炎人形の腕を拭き飛ばす。
「よし。いいよ、たまきちゃん。俺が守るから!」
「はい……! よろしく、お願いします……!」
奏空の言葉に頷くたまき。澄香が参式に集中している間はたまきが回復を担っていたが、彼女が動けるようになればつぎはたまきの番。その決意と、そして大妖に対する怒りを込めて『御朱印帳』を握りしめる。
術式を展開するたまき。解放された土の源素が大地を走り、妖達の足元にたどり着くと同時に強力な重力を生む。体全体が大地に引っ張られ、這う事しかできない妖。重力はそのまま妖を押しつぶさんとばかりに、少しずつ力を増していく。
「どんな手を使われたとしても、大妖の思い通りになんて、絶対に、させません……!」
「 一般の方々を夜毎に苦しめるなんて許せません!」
たまきの怒りの言葉にラーラの言葉が重なる。抵抗できない存在を弄り、心を折って選択を強要する。そんな事を許せるはずがない。相手がどれほど強くとも、それに屈するつもりは毛頭ない。力の限り抵抗し、そして打ち勝つのみ。
魔導書の上をなぞるように指を這わせるラーラ。生まれる炎は炎人形を包むそれより赤く、そして熱い。それは魔女の奇跡。炎を愛し、そして愛された魔女の業にして魔術。生まれし煉獄の弾丸が妖を穿っていく。
「幾何学ナイトメアさん、教えてください。その炎は私のよりも熱いんですか?」
答えはない。低ランクの妖は喋らず、幾何学ナイトメアはただ光を返すのみ。しかしその答えは崩れ落ちる炎人形が雄弁に語っていた。
<五行><四神><三才><二極>……FiVEの覚者が持つ力。
それは世界に満ちた存在そのもの。世界を構成する存在そのもの。誰もが感じ取ることができ、しかし誰もが触れられないモノ。かつて、あらゆる人間がそれを操る事が出来たが、今は覚者と呼ばれる『目覚めた』存在しか扱えない力。
それが身体能力を活性化させ、それを術式に変換して妖を穿っていた。
――否、それはあくまで力の問題だ。真に妖を穿つのは覚者の意志。人の命を何とも思わない大妖に対する強い怒り。誰もが感じるその怒りを持って行動しているに過ぎない。
その感情を受け止めたか、あるいは覚者の猛攻に本気になったのか。幾何学ナイトメアは激しく明滅する。炎人形もそれを受けてか覚者達を攻め立てていく。
悪夢をめぐる戦いは、少しずつ加速していく。
●
初手に木の究術を放った澄香。それにより妖の動きを大きく止め、同時に毒で蝕むことが出来た。続いて放たれた土の秘奥により、敵前衛を塞ぐ炎人形は壊滅的な打撃を受ける。たった二発の術式で、妖の戦線はほぼ壊滅的となっていた。
後衛で守られながらバッドステータスを与える幾何学ナイトメアの戦術は、事実上崩壊したと言ってもいい。覚者達はこの機を逃すことなく、一気に攻め立てる。
「俺は修羅になるとあの時決めたんだ‥…!」
刀を振るいながら奏空は強く奥歯を噛みしめる。『何か』の要求を拒んだときから、一般人に被害が及ぶことは分かっていた。それを分かっていて拒絶したのだ。その罪は背負って行く。そこから目を逸らすことなく、今はただ敵を討つ修羅となろうと心を決める。
「…………」
奏空の後姿を見ながら手を伸ばそうとするたまき。だがその手は途中で止まり、術式を展開するために使われる。奏空同様、たまきも覚悟は決めている。大妖に、そしてそれを操る『何か』に屈するつもりはない。今は甘えを捨てて戦うのみだ。
「ククノチ様、ありがとうございます」
『源素の祝福』を握りしめ、澄香は術を展開する。幾何学ナイトメアの与える毒よりも強い刺激毒と麻痺毒。それを与える事が出来る人間の技法。それは人は妖に負けないと言う証左でもあった。澄香はその事を誇り、そして感謝する。
「お遍路さんとはバトることと見つけたり、ってな!」
最後の炎人形を伏し、遥は幾何学ナイトメアに迫る。発光する八面体を前に構えを取り、笑みを浮かべた。四国に数多ばらまかれた妖達。これらすべてを伏して四国を解放する。可能かどうかではない。やるかやらないかだ。やる気を込めて、蹴りを放つ。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
呪文と共に炎を放つラーラ。鋭い弾丸となった炎が炎熱を伴って飛来する。これだ対処療法だとしても、苦しんでいる人達を放置する事なんてできやしない。悪夢をばらまく元凶を追い詰める為にも、ここで燃える悪夢を止めなければ。
「喰らえや、八面体! あんたらが何しようが、人の『勇気』までは奪えへんで!」
裂帛と共に刀を振るう凛。悪夢に心を折られる者は確かにいる。しかし絶望から立ち上がる人も確かにいるのだ。例えどれだけの悪夢を見せつけようが、人は立ち上がる力がある。その『勇気』ある限り――
覚者達の猛攻を前に、幾何学ナイトメアは発光して足止めする。攻め立てる前衛に衝撃波を与え、後衛に毒を振りまく。冷気で一掃し、悪夢を見せて足止めをする。多種多様な攻撃を繰り出し、じわじわと覚者達の体力を奪っていく。
だが――
「その攻撃は……届きません……!」
「人間の力、教えてあげましょう」
たまきの術符が展開して桜の盾となり、澄香の生んだ木漏れ日が仲間達の傷を癒していく。
「太古の炎甦れ。その腕で燎原を焼き払いたまえ!」
「俺達人間がお前にも悪夢ってものを見せてやる……!」
「人様に迷惑かける奴は懲らしめたらんとな!」
「心折れたりとかするもんかよ。あいにくオレは、そんな繊細な心なんか持ってねえかんな!」
ラーラの『煌炎の書』が炎を生み、、奏空の『大太刀・虔翦』が翻る。。凛の『朱焔』が焔の煌きを放ち、遥の『八雷神』が叩きつけられる。
崩れることのない覚者の猛攻を前に、ランク3の妖は為す術もない。繰り返される打撃に八面体にひびが入っていく。
「こいつでトドメだ! 暴力坂のおっさん、技使わせてもらうぜ!」
全身の筋肉に力を込めて、大きく息を吸い込む遥。過剰な肉体の酷使により瞬間的に多大なる力を得る戦闘術。反動も大きいが、はじき出される火力は随一だ。全身が激しく痛みだすが、それに構わず拳を振るう遥。
「消えろ! 悪夢なんざ、望んじゃいないんだよ!」
その一撃が、炎の悪夢を見せる妖を砕き、無に帰した。
●
砕け散った妖が消え、静寂が訪れる。
四国の人達が夢から覚める事はないが、その表情は幾分か和らいでいた。今は悪夢を見ていないのだろう。
「これで皆少しはええ夢みられるやろかな?」
納刀した凛がため息と共に呟く。幾何学ナイトメアが滅び、夢を拡散する手段がなくなった。これでしばらくは悪夢に悩まされることはないだろう。
だがこれが一時的な事であることは誰もが分かっていた。
「大元はケモノ四〇八……この大妖を倒さない限り同じ事は続くはず」
覚醒状態を解除し、澄香が気を引き締める様に澄香が呟く。この四国のどこかで走っている大妖。それを倒さない限りは四国の人を救えないのだ。
「情報は夢見やFiVEのスタッフが頑張ってくれてるだろうから、俺達はそれにいち早く行動出来る為に万全を尽くすだけだ」
自分に言い聞かせるように奏空は口を開く。大妖を倒したのは確かだ。だが闇雲に動くわけにはいかない。今は時を待つのみだ。
「ああ。オレ達に出来る事をやるだけだ。四国中走り回って、出てくる妖全部ぶっ倒してやるよ!」
拳で手のひらを叩き、気合を入れる遥。自分にできる事は何でもやる。だから自分にできない事は任せよう。大妖を見つけ、そしてこの拳を叩きつけるのだ。
「ケモノ四〇六号……必ずその手から、全ての皆さんを、助け出します!」
未だ静寂を保つ四国をみながら、たまきは目を伏せる。人を護る。その為にこの術はあるのだ。災厄ともいえる大妖に挑む覚悟は、既にできていた。
「帰りましょう。休むことも大事です」
ラーラの言葉と共に、覚者達は帰路につく。これ以上此処にいても何の進展もない。体を休めて次の戦いに挑むこともまた、重要なことなのだから。
報告に戻った覚者達は、思わぬ報告に驚くことになる。
『黄泉路行列車』ケモノ四〇六号の進路を捕捉――
「大妖への攻撃を開始するわ」
短くそして鋭い言葉が、覚者達の疲れを吹き飛ばした。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
