あらたなる
●慰労会
「はい、えっと新しい気分で新しい取り組みをしましょうね」
なんとはなしに連休明けは忙しない。
そこで、FiVEが思い付いたのが、休日に行われるわんこそば大食い大会。名目は覚者を労う慰労会、と言う事になっているが、中には人ならざる者も混じっている。長い年月を経た古妖達も、感慨深いものがあるらしい。
「飲める方には振る舞い酒もありますよ。ご馳走もあります。兎に角、祝賀の雰囲気を楽しんで下さい」
スタッフがそう覚者に告げる。
楽しい親睦会の始まりだった。
●一人と一匹の話
とある古妖が呟いた。
「これは良き事だが、本当に良き事だけか?」
夢見の者がそれに応えた。
「……私の夢で見た内容では、少しばかり問題が」
「どのような?」
「……人ならざる者が居るでしょう。酒とご馳走に引き寄せられて、来ます」
「倒すべきか?」
「友好的とは言い難いものの、好戦的な個体ではありません。ただ、知能が低いので、問題児ではあります」
なので、困っていると。
人が怪我をしたりして倒すべき程の問題でもないけれど、お祝いムードを壊す程度の問題は発生する、と予知をした。
肩を竦める古妖。人間の姿に近く、好意的な古妖はなるべくなら良い方向に慰労会を進めたい。
「教えてくるかね、その話」
「……あくまで、余興の一つとして片付けられると良いのですけれど、ね」
良い裏には隠れた問題がある事が多々ある。
皆は和やかなムードを壊さずに、無事に慰労会を終える事が出来るか。
「はい、えっと新しい気分で新しい取り組みをしましょうね」
なんとはなしに連休明けは忙しない。
そこで、FiVEが思い付いたのが、休日に行われるわんこそば大食い大会。名目は覚者を労う慰労会、と言う事になっているが、中には人ならざる者も混じっている。長い年月を経た古妖達も、感慨深いものがあるらしい。
「飲める方には振る舞い酒もありますよ。ご馳走もあります。兎に角、祝賀の雰囲気を楽しんで下さい」
スタッフがそう覚者に告げる。
楽しい親睦会の始まりだった。
●一人と一匹の話
とある古妖が呟いた。
「これは良き事だが、本当に良き事だけか?」
夢見の者がそれに応えた。
「……私の夢で見た内容では、少しばかり問題が」
「どのような?」
「……人ならざる者が居るでしょう。酒とご馳走に引き寄せられて、来ます」
「倒すべきか?」
「友好的とは言い難いものの、好戦的な個体ではありません。ただ、知能が低いので、問題児ではあります」
なので、困っていると。
人が怪我をしたりして倒すべき程の問題でもないけれど、お祝いムードを壊す程度の問題は発生する、と予知をした。
肩を竦める古妖。人間の姿に近く、好意的な古妖はなるべくなら良い方向に慰労会を進めたい。
「教えてくるかね、その話」
「……あくまで、余興の一つとして片付けられると良いのですけれど、ね」
良い裏には隠れた問題がある事が多々ある。
皆は和やかなムードを壊さずに、無事に慰労会を終える事が出来るか。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.無事にお祝いムードを壊さずに、慰労会を終える。
2.兎に角盛り上がって楽しむ。
3.なし
2.兎に角盛り上がって楽しむ。
3.なし
慰労会を楽しむ。
途中で古妖が乱入してきます。戦闘しても追い出しても大丈夫です。
●敵
犬型の古妖です。妖で言うとランク1の生物系妖レベルです。
好戦的ではありませんが、本能のままに動く暴れん坊です。
●場所
慰労会会場
立食式のご馳走と飲み物が用意されたパーティー会場です。割りと広くて覚者や友好的な古妖が多数居ます。
●タイムスケジュール
10時 開場
12時 わんこそば大食い大会
15時 古妖乱入
18時 閉会
各自二次会は自由参加
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/6
4/6
公開日
2019年06月11日
2019年06月11日
■メイン参加者 4人■

●慰労会の始まり
『F.i.V.E.』にて、行われる慰労会。
七星剣との戦い。そして、これからの大妖との戦い。
それらに参加する覚者達にも、ガス抜きできる場は必要だ。
だからこそ、こうした場を提供してくれる『F.i.V.E.』に覚者達達は感謝しつつ、この慰労会に参加する。
「古妖さんとの祝賀会、楽しみです」
魔女見習いの『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080) は少女らしい笑みを浮かべ、開場した慰労会会場へと入っていく。
会場では、立食の為の食べ物、飲み物が並べられており、さながらパーティーの様相だ。
『F.i.V.E.』所属の覚者や友好的な古妖が多数参加する中、とある夢見によってちょっとした事件が予知されていた。
「慰労会に現れる古妖の問題児をなんとかする、ね」
灰色の髪の少年、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は会場を歩きながら考える。
現れるのは、犬型の古妖。
好戦的ではないものの、本能のままに動く暴れん坊なのだとか。
ふと、彼は会場で進むわんこそば大食い大会の準備を目にして。
「わんこ型の古妖だけに、わんこそばに引き寄せられたか……なんてね!」
それを聞いていた銀色に輝く髪と同じ毛色の耳と尻尾を持つ銀狐の少女、『モイ!モイ♪モイ!』成瀬 歩(CL2001650)は小さく唸って。
「犬の古妖さん、きっと一緒に楽しみたいんじゃないのかなあ」
話に聞く限りでは、力も比較的弱く、子犬の様な存在と思われる。
「むむむ。みんな話し合いでへいわてきかいけつ? ……がいーみたいっ!」
ピンクの髪に、やや色黒な猫の獣憑、ククル ミラノ(CL2001142) も楽しい慰労会が荒れることなく、古妖を落ち着かせることができればと考える。
「ワンちゃんって、しつけしてあげれば、言う事聞いてくれるもんね」
だからこそ、歩もちゃんと教えてあげれば、言うことを聞いてくれないかなと思っていた。
もっとも、乱入してくるその古妖とどれだけの間コンタクトが取れるのかと、歩には懸念もあったようだが……。
そこで、渾身のギャグが不発してしまった奏空は一つ咳払いして。
「ともかく、古妖の対処をするのも、F.i.V.E.の覚者の使命。万事解決してみせるよ!」
奏空は拳に力を入れ、古妖の対処に力を尽くすのである。
●折角だから楽しもう
すでに問題が起こることが指摘されてはいても、古妖乱入は会の終盤だ。
それまでは、のんびり楽しもうと考えるメンバーもいた。
ラーラも、テーブルに並べられた食べ物を手に取る。
とはいえ、あまり大食いはできないからと、猫の守護使役ペスカと食べ物を分け合いながら口にしていた。
「実は……」
その間、奏空は会場のスタッフへとこっそり事情を話す。
「後で会場にちょっと、暴れものの古妖が紛れ込んでしまうようなんようです」
だから、少しだけご馳走を分けてもらえないかと、彼は不慣れな丁寧語を交えて交渉する。
一緒になり、ミラノも大きくこくこくと頷く。
とりわけ、実績も名声もある奏空の依頼だ。
「分かりました。よろしくお願いいたします」
スタッフ達も快く彼に食べ物の一部を少しだけ分け、後の惨事に備えておいてくれていた。
なお、その間、デザートゾーンを見つけてしまったラーラ。
タルト、ドーナツ、ラスク、パイ、マフィン……。
様々なデザートが卓上を彩る。
そして、小さく切り分けられた様々な種類のケーキも並ぶ。
ショートケーキ、ロールケーキ、チーズケーキ、チョコケーキ、
その誘惑には抗えず、ラーラとペスカはふらふらとそちらへと引き寄せられ、片っ端から口にしていたようだった。
昼になれば、わんこそばの大食い大会が始まる。
たくさんの覚者がそれに参加しており、我こそがと次々に注がれるわんこそばを口にしていく。
「頑張って、お兄ちゃーん!」
大会には歩の兄も参加していたらしく、彼女は思いっきり声援を送っていた。
「わんこそばといえば……」
デザートは別腹と、ケーキを手に取っていたラーラ。
日系クウォーターのイタリア人である彼女は日本に来たばかりの頃、そばのお椀の上に小さなわんこが乗っていて、「く~ん」と鳴いているところを想像したのだとか。
そんなほっこりした思い出を語るラーラの横で、ペスカがぷく~っと、頬を膨らませる。
「そういうのなら、にゃんこそばももちろん可愛いと思いますよ?」
ラーラはしばらく、むくれたペスカのご機嫌を取っていたようだ。
●古妖わんこ乱入!
わんこそば大会も盛況のうちに終わり、慰労会は再び歓談タイム。
次々に運ばれてくる料理やデザート、飲み物を口にしながら、覚者は楽しく思い出を語らい、古妖は人間達との交流を存分に楽しむ。
しかしながら、時間が経てば、依頼を受けたメンバー達も警戒し始める。
14時を過ぎたくらいで歩は食事と歓談を止め、鋭聴力を働かせて。
賑わう会場には犬の獣憑だっているし、犬の古妖の姿がいないわけではない。
だからこそ、歩は彼らと聞き分けをしながらも、新たな古妖を出現を感知できるよう神経を尖らせていく。
小一時間ほどして、それはついに現れる。
「……あれかな、来たよ!」
歩はそれらしき足音、鳴き声を察知した歩は仲間にも教え、急いでそちらへと向けて動き出す。
きゃんきゃん! きゃんきゃん!
会場入り口目掛けて駆け込もうとしてきていたのは、可愛らしい犬の古妖。
その大きさは1mほどもあり、下手に飛び込むと会場ないが滅茶苦茶になりそうだ。
そこへと、真っ先に走ってきた歩が古妖へと手を伸ばす。
(見つけたら、何とかして触るんだ)
だが、古妖も危険と判断したのか、カーブを描いて歩から離れようとしていく。
「お酒やご馳走に引き寄せられてくるって事だから、飲食しておなかを満たしたら大人しく帰ってくれるといいのだけれど」
まずは穏便に済ませたいと奏空もご馳走を用意しつつ、追いかける。
歩が【以心】を使い、古妖の気持ちを汲み取ってくれるとのことなので、奏空はそれを待って行動を起こすことにしていた。
「こっちにおいしいものあるの~~~」
ミラノも先ほど分けてもらったご馳走で、古妖の気が引けないかと試みる。
ご飯をあげて、おなか一杯にして……。
おなかが一杯になったら……。
「それから、どうしよどうしよ?」
どうやら、ミラノは深く考えていなかったようだ。
「ほーら、ごはんですよー」
ラーラも合わせるようにして、本能のまま暴れる古妖の気を引いていく。
古妖は明らかに食べ物へと反応していたが、それでも近寄ろうとしてこないのは、何か理由があるのだろう。
できるだけ、会場の中央を走らせぬように覚者一行は立ち回り、被害の軽減に当たっていく。
会場の参加者達も、駆け回る古妖と覚者達を見守る。
それはさながら、一つのイベントのような状況になっていた。
古妖も思いっきり駆けてはいたが、人々には近寄らずに会場の外側を走るようにして移動していく。
歩が骨付き肉を会場の外へと投げ飛ばして気を引いていたものの、古妖は会場からは外に出ようとはしない。
また、古妖がお腹を鳴らしていたことに、一行は気づいて。
「おなか空いているのですか?」
ラーラが用意したわんこそばへと古妖は恐る恐る近づき、それを少しずつ口にしていく。
「わんこがわんこそばを……」
「ようやく捕まえたよ」
その様子にほっこりするラーラの横から、歩が古妖を抱きかかえる。
きゃんきゃん! きゃんきゃん!
じたばたじたばた、じたばたじたばた。
そこで、古妖は思いっきり暴れ始めた。
大きさもあって抱えるのは大変だが、歩はじっとそれに耐えてみせる。
「このくらいなら、怪我しても大丈夫!」
歩は水の術式で自らを癒やすことができる。
古妖も走っている途中で肩の辺りに擦り傷ができており、彼女はその癒しにも当たっていく。
「あゆみは古妖さんの友達になりたいんだよ」
ぎゅっと抱きしめて捕まえ、歩は告げる。
――怖いことも痛いこともしないよ。
――だから、ちょっとだけナデナデさせてね。
「うまく説得できたらいいのですが……」
見つめるラーラはやや心配そうな面持ちのまま。ミラノはややおろおろとしていたようだ。
すると、古妖は警戒心こそ抱いたままだったが、ばたばたさせていた手足の動きを止めた。
ホッとした様子のラーラの横で、歩は古妖へと【以心】を試みると、歩の中へと古妖の意識が入ってきて。
古妖はどうやら、怖い妖に追いかけられてしまったらしい。
それから逃げ延びたのはいいものの、今度はたくさんの人がおり、古妖は恐怖を感じてしまっていた。
走り回って、もうくたくた。お腹はペコペコ。
だからこそ、本当はお腹一杯美味しい食べ物を貰いたい。
……ちょっとだけ、気になる人という存在に。
送受心を試みていた奏空も少なからず恐れの感情を確認し、守護使役のライライさんにさえずらせて周囲の雰囲気を和らげさせる。
そうして、奏空は改めて用意したご馳走をそっと差し出す。
「たくさん食べてね」
すると、古妖はそれにもぱくぱくと口をつけ始めた。
「このままご馳走を食べたら、大人しく帰ってくれるかな?」
「ミラノはおなかいっぱいになったら眠くなるけど、このこよーはどうなのかな?」
奏空はこの場から去ってくれるかなと考えるが、ミラノはこのまま寝てしまうのではと考える。
「それはそれで、仲良くできそうだからいいかな」
――人間と古妖、互いに上手くやっていくには、それぞれ勝手な事をやってはいけないんだよ。
一言そう告げた奏空は、美味しそうにお肉をがっつく古妖の姿に目を細めていたようだ。
慰労会の参加者も、代わる代わるその古妖の姿を見にやってくる。
その中には、歩の兄の姿もあったようだ。
「野菜もちゃんと食べないと、からだに悪いんだよ」
すると、歩が差し出した野菜も、古妖はしっかりと食べてくれていた。
●会の終わりに
その後、少しずつ人に慣れてきた古妖。
歩はお手やお座りを教えようとして、それを覚えようとしてくれていた。
奏空もようやく落ち着き、ご馳走を口にして。
「これから、本格的な大妖戦が待ってる。今だけこうして楽しんでおくのも悪くないよね」
「そうですね」
この慰労会の一時を、ラーラも改めて楽しむことにしていたようだ。
閉会式をつつがなく迎え、楽しいひと時もおしまい。
元気をもらった古妖も、どこかへと去ることにしたらしい。
ここまで一緒だった古妖との別れに、ラーラも少しだけしんみりしてしまって。
てくてくと会場から歩き去る古妖に、歩は大きく手を振る。
「また、一緒に遊ぼうね!」
一度振り返り、古妖は一声「きゃん」と鳴いてから歩き去っていく。
きっと、人間を好きになってくれたに違いない。
この場の覚者達はそう疑うことなく、慰労会の片付けの手伝いへと加わっていくのだった。
『F.i.V.E.』にて、行われる慰労会。
七星剣との戦い。そして、これからの大妖との戦い。
それらに参加する覚者達にも、ガス抜きできる場は必要だ。
だからこそ、こうした場を提供してくれる『F.i.V.E.』に覚者達達は感謝しつつ、この慰労会に参加する。
「古妖さんとの祝賀会、楽しみです」
魔女見習いの『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080) は少女らしい笑みを浮かべ、開場した慰労会会場へと入っていく。
会場では、立食の為の食べ物、飲み物が並べられており、さながらパーティーの様相だ。
『F.i.V.E.』所属の覚者や友好的な古妖が多数参加する中、とある夢見によってちょっとした事件が予知されていた。
「慰労会に現れる古妖の問題児をなんとかする、ね」
灰色の髪の少年、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は会場を歩きながら考える。
現れるのは、犬型の古妖。
好戦的ではないものの、本能のままに動く暴れん坊なのだとか。
ふと、彼は会場で進むわんこそば大食い大会の準備を目にして。
「わんこ型の古妖だけに、わんこそばに引き寄せられたか……なんてね!」
それを聞いていた銀色に輝く髪と同じ毛色の耳と尻尾を持つ銀狐の少女、『モイ!モイ♪モイ!』成瀬 歩(CL2001650)は小さく唸って。
「犬の古妖さん、きっと一緒に楽しみたいんじゃないのかなあ」
話に聞く限りでは、力も比較的弱く、子犬の様な存在と思われる。
「むむむ。みんな話し合いでへいわてきかいけつ? ……がいーみたいっ!」
ピンクの髪に、やや色黒な猫の獣憑、ククル ミラノ(CL2001142) も楽しい慰労会が荒れることなく、古妖を落ち着かせることができればと考える。
「ワンちゃんって、しつけしてあげれば、言う事聞いてくれるもんね」
だからこそ、歩もちゃんと教えてあげれば、言うことを聞いてくれないかなと思っていた。
もっとも、乱入してくるその古妖とどれだけの間コンタクトが取れるのかと、歩には懸念もあったようだが……。
そこで、渾身のギャグが不発してしまった奏空は一つ咳払いして。
「ともかく、古妖の対処をするのも、F.i.V.E.の覚者の使命。万事解決してみせるよ!」
奏空は拳に力を入れ、古妖の対処に力を尽くすのである。
●折角だから楽しもう
すでに問題が起こることが指摘されてはいても、古妖乱入は会の終盤だ。
それまでは、のんびり楽しもうと考えるメンバーもいた。
ラーラも、テーブルに並べられた食べ物を手に取る。
とはいえ、あまり大食いはできないからと、猫の守護使役ペスカと食べ物を分け合いながら口にしていた。
「実は……」
その間、奏空は会場のスタッフへとこっそり事情を話す。
「後で会場にちょっと、暴れものの古妖が紛れ込んでしまうようなんようです」
だから、少しだけご馳走を分けてもらえないかと、彼は不慣れな丁寧語を交えて交渉する。
一緒になり、ミラノも大きくこくこくと頷く。
とりわけ、実績も名声もある奏空の依頼だ。
「分かりました。よろしくお願いいたします」
スタッフ達も快く彼に食べ物の一部を少しだけ分け、後の惨事に備えておいてくれていた。
なお、その間、デザートゾーンを見つけてしまったラーラ。
タルト、ドーナツ、ラスク、パイ、マフィン……。
様々なデザートが卓上を彩る。
そして、小さく切り分けられた様々な種類のケーキも並ぶ。
ショートケーキ、ロールケーキ、チーズケーキ、チョコケーキ、
その誘惑には抗えず、ラーラとペスカはふらふらとそちらへと引き寄せられ、片っ端から口にしていたようだった。
昼になれば、わんこそばの大食い大会が始まる。
たくさんの覚者がそれに参加しており、我こそがと次々に注がれるわんこそばを口にしていく。
「頑張って、お兄ちゃーん!」
大会には歩の兄も参加していたらしく、彼女は思いっきり声援を送っていた。
「わんこそばといえば……」
デザートは別腹と、ケーキを手に取っていたラーラ。
日系クウォーターのイタリア人である彼女は日本に来たばかりの頃、そばのお椀の上に小さなわんこが乗っていて、「く~ん」と鳴いているところを想像したのだとか。
そんなほっこりした思い出を語るラーラの横で、ペスカがぷく~っと、頬を膨らませる。
「そういうのなら、にゃんこそばももちろん可愛いと思いますよ?」
ラーラはしばらく、むくれたペスカのご機嫌を取っていたようだ。
●古妖わんこ乱入!
わんこそば大会も盛況のうちに終わり、慰労会は再び歓談タイム。
次々に運ばれてくる料理やデザート、飲み物を口にしながら、覚者は楽しく思い出を語らい、古妖は人間達との交流を存分に楽しむ。
しかしながら、時間が経てば、依頼を受けたメンバー達も警戒し始める。
14時を過ぎたくらいで歩は食事と歓談を止め、鋭聴力を働かせて。
賑わう会場には犬の獣憑だっているし、犬の古妖の姿がいないわけではない。
だからこそ、歩は彼らと聞き分けをしながらも、新たな古妖を出現を感知できるよう神経を尖らせていく。
小一時間ほどして、それはついに現れる。
「……あれかな、来たよ!」
歩はそれらしき足音、鳴き声を察知した歩は仲間にも教え、急いでそちらへと向けて動き出す。
きゃんきゃん! きゃんきゃん!
会場入り口目掛けて駆け込もうとしてきていたのは、可愛らしい犬の古妖。
その大きさは1mほどもあり、下手に飛び込むと会場ないが滅茶苦茶になりそうだ。
そこへと、真っ先に走ってきた歩が古妖へと手を伸ばす。
(見つけたら、何とかして触るんだ)
だが、古妖も危険と判断したのか、カーブを描いて歩から離れようとしていく。
「お酒やご馳走に引き寄せられてくるって事だから、飲食しておなかを満たしたら大人しく帰ってくれるといいのだけれど」
まずは穏便に済ませたいと奏空もご馳走を用意しつつ、追いかける。
歩が【以心】を使い、古妖の気持ちを汲み取ってくれるとのことなので、奏空はそれを待って行動を起こすことにしていた。
「こっちにおいしいものあるの~~~」
ミラノも先ほど分けてもらったご馳走で、古妖の気が引けないかと試みる。
ご飯をあげて、おなか一杯にして……。
おなかが一杯になったら……。
「それから、どうしよどうしよ?」
どうやら、ミラノは深く考えていなかったようだ。
「ほーら、ごはんですよー」
ラーラも合わせるようにして、本能のまま暴れる古妖の気を引いていく。
古妖は明らかに食べ物へと反応していたが、それでも近寄ろうとしてこないのは、何か理由があるのだろう。
できるだけ、会場の中央を走らせぬように覚者一行は立ち回り、被害の軽減に当たっていく。
会場の参加者達も、駆け回る古妖と覚者達を見守る。
それはさながら、一つのイベントのような状況になっていた。
古妖も思いっきり駆けてはいたが、人々には近寄らずに会場の外側を走るようにして移動していく。
歩が骨付き肉を会場の外へと投げ飛ばして気を引いていたものの、古妖は会場からは外に出ようとはしない。
また、古妖がお腹を鳴らしていたことに、一行は気づいて。
「おなか空いているのですか?」
ラーラが用意したわんこそばへと古妖は恐る恐る近づき、それを少しずつ口にしていく。
「わんこがわんこそばを……」
「ようやく捕まえたよ」
その様子にほっこりするラーラの横から、歩が古妖を抱きかかえる。
きゃんきゃん! きゃんきゃん!
じたばたじたばた、じたばたじたばた。
そこで、古妖は思いっきり暴れ始めた。
大きさもあって抱えるのは大変だが、歩はじっとそれに耐えてみせる。
「このくらいなら、怪我しても大丈夫!」
歩は水の術式で自らを癒やすことができる。
古妖も走っている途中で肩の辺りに擦り傷ができており、彼女はその癒しにも当たっていく。
「あゆみは古妖さんの友達になりたいんだよ」
ぎゅっと抱きしめて捕まえ、歩は告げる。
――怖いことも痛いこともしないよ。
――だから、ちょっとだけナデナデさせてね。
「うまく説得できたらいいのですが……」
見つめるラーラはやや心配そうな面持ちのまま。ミラノはややおろおろとしていたようだ。
すると、古妖は警戒心こそ抱いたままだったが、ばたばたさせていた手足の動きを止めた。
ホッとした様子のラーラの横で、歩は古妖へと【以心】を試みると、歩の中へと古妖の意識が入ってきて。
古妖はどうやら、怖い妖に追いかけられてしまったらしい。
それから逃げ延びたのはいいものの、今度はたくさんの人がおり、古妖は恐怖を感じてしまっていた。
走り回って、もうくたくた。お腹はペコペコ。
だからこそ、本当はお腹一杯美味しい食べ物を貰いたい。
……ちょっとだけ、気になる人という存在に。
送受心を試みていた奏空も少なからず恐れの感情を確認し、守護使役のライライさんにさえずらせて周囲の雰囲気を和らげさせる。
そうして、奏空は改めて用意したご馳走をそっと差し出す。
「たくさん食べてね」
すると、古妖はそれにもぱくぱくと口をつけ始めた。
「このままご馳走を食べたら、大人しく帰ってくれるかな?」
「ミラノはおなかいっぱいになったら眠くなるけど、このこよーはどうなのかな?」
奏空はこの場から去ってくれるかなと考えるが、ミラノはこのまま寝てしまうのではと考える。
「それはそれで、仲良くできそうだからいいかな」
――人間と古妖、互いに上手くやっていくには、それぞれ勝手な事をやってはいけないんだよ。
一言そう告げた奏空は、美味しそうにお肉をがっつく古妖の姿に目を細めていたようだ。
慰労会の参加者も、代わる代わるその古妖の姿を見にやってくる。
その中には、歩の兄の姿もあったようだ。
「野菜もちゃんと食べないと、からだに悪いんだよ」
すると、歩が差し出した野菜も、古妖はしっかりと食べてくれていた。
●会の終わりに
その後、少しずつ人に慣れてきた古妖。
歩はお手やお座りを教えようとして、それを覚えようとしてくれていた。
奏空もようやく落ち着き、ご馳走を口にして。
「これから、本格的な大妖戦が待ってる。今だけこうして楽しんでおくのも悪くないよね」
「そうですね」
この慰労会の一時を、ラーラも改めて楽しむことにしていたようだ。
閉会式をつつがなく迎え、楽しいひと時もおしまい。
元気をもらった古妖も、どこかへと去ることにしたらしい。
ここまで一緒だった古妖との別れに、ラーラも少しだけしんみりしてしまって。
てくてくと会場から歩き去る古妖に、歩は大きく手を振る。
「また、一緒に遊ぼうね!」
一度振り返り、古妖は一声「きゃん」と鳴いてから歩き去っていく。
きっと、人間を好きになってくれたに違いない。
この場の覚者達はそう疑うことなく、慰労会の片付けの手伝いへと加わっていくのだった。

■あとがき■
代筆を担当いたしましたなちゅいです。
この度はご迷惑をおかけしました。申し訳ございません。
リプレイ公開します。
MVPは暴れる古妖を身を挺して落ち着かせたあなたへ。
楽しい一時を過ごしていただけたなら幸いです。
ご参加、ありがとうございました。
この度はご迷惑をおかけしました。申し訳ございません。
リプレイ公開します。
MVPは暴れる古妖を身を挺して落ち着かせたあなたへ。
楽しい一時を過ごしていただけたなら幸いです。
ご参加、ありがとうございました。
