この刃 斬る以外の意味はなく
この刃 斬る以外の意味はなく


●刃が求める者は
 月光を受けて煌めく刃は白く、そしてその鋭さに劣らぬ眼光。
 ただひたすらに斬る事を求めたソレは、毎日欠かさず鍛錬を重ねていた。一つ振っては確認し、一つ振っては確認し。一つの動きに多くの思考を重ね、そしてそれを何度も繰り返す。ただ斬ると言う事だけに人の寿命以上の時を重ねていた。
 そしてそれは今日も獲物を求める。
 こつり、こつりと夜道を歩き、刃を収めて獲物に近づいていく。殺意や戦意を隠し、一瞬で斬りかかるが我が戦法。刹那の動きこそが極意也。
 相手と交差した瞬間に刃は煌く。月光に映える時間すら与えず、刃を収めた。そのまま何事もなかったかのように足を進める。相手の方も切られたことに気付くことなく歩いていた。
「え……? あれ、えええええええええ!?」
 斬られた者はしばらく歩き、夜風が冷たいと思った瞬間に気付く。
 暫く床屋に行っておらず不揃いだった髪が、短くカットされていたのだ。いつ? どこで?
 交差した場所にははらはらと、黒い髪の毛が落ちているのであった。

●FiVE
「髪切りっていう古妖なんだって」
 久方 相馬(nCL2000004)は集まった覚者を前に説明を開始する。
「その名前の通り、髪を切る古妖だよ。通りすがりに切って、相手には斬られたことを気付かせないほどなんだって」
 今回斬られたのは男性で被害は少ないと言えるが、これが女性だったりすれば大問題だ。
「そんな事態が起きる前に説得しようとしたんだけど、聞く耳もたない状態なんだよ。
『刃は生命を断つ者。切らぬ刃に意味などあろうか。我が刃に殺業以外の物を見る者が現れれば、汝らの要求を考えよう』……とかなんとか」
 要約すれば『斬らない刀に価値はない。斬る以外に使い道あるならやってみろオラァ』である。
「で、何をすればいいんだ?」
「バリバリの武闘派だから拳で語り合えばいいんじゃね? ほら、河原とかで」
 投げやりな意見だが、それほど的は外れていない。相手は斬る事に価値を見出す古妖だ。ならば斬りあう事で何かを伝える事が出来るかもしれない。
「でも結構強いらしいんで、戦うなら気合を入れた方がいいぜ。
 今のところ女性が被害にあうと言う予知はない。だけどいつ起きるかわからないんだ。よろしく頼むぜ」
 髪切りがいるであろう場所の地図を渡し、相馬は覚者達を見送った。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:どくどく
■成功条件
1.髪切りの打破
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 当人の許可なく髪を切ることは、傷害罪にあたります。

●敵情報
・髪切り(×1)
 古妖。羽織袴を着た翁の姿をしています。戦闘になれば何処からともなく二本の短刀を装備するでしょう。
 FiVEの話は聞いていますが、基本無関心です。人の命を奪うつもりはありませんが、髪切りを止めるつもりもないようです。
 会話などは可能ですが、説得は不可能です。ですが敗者は勝者に従う武闘派なため、一度ねじ伏せれば髪切りはやめるでしょう。

 攻撃方法
髪切・壱ノ型 物近単 基本の型にして最奥。目に見えぬ速度で刃が振るわれる。【三連】
髪切・弐ノ型 物遠列 通りすがりに髪を斬る無音の刃。
髪切・参ノ型 物遠全 一拍子の踏み込みと斬撃。それだけで全てを斬る。
遠当て影縛り 魔遠単 気を飛ばし、影を通して相手を封じます。【麻痺】
無念無双の心  P  一切の雑念がありません。【混乱無効】【魅了無効】

●場所情報
 夜の住宅街。人があまり通らない通りです。稀に会社帰りの人が通りかかります。
 明かりは街頭などがあるので問題なし。広さや足場も戦闘に支障ありません。
 戦闘開始時、敵前衛に『髪切り(×1)』がいます。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2019年05月05日

■メイン参加者 6人■

『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『優麗なる乙女』
西荻 つばめ(CL2001243)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)


「剣使いの古妖か! 戦い甲斐がありそうだ!」
 拳を握って戦いの高揚を示す『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227〉。予知の話を聞く限り、その実力は折り紙つきのようだ。気づかれずに髪を切るその早業。その動きを捕らえて見せようと気合を入れる。
「命を奪ってはいないが、大事になれば本格的な退治を依頼されることもあるかもしれん」
『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は言って頷く。今は大事になってはいないが、それでも奇妙なことには変わりない。事が大きくなる前にどうにかしたいのは確かだ。ここで抑えて、事をおさめなくては。
「女性が被害に遭う予知はないそうですし、一応は安心なのですが……やっぱり不安ではありますよね」
 黒髪をいじりながら『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は眉をひそめた。今予知が無い、という事と将来事が起きないという事はイコールではない。後顧の憂いを断つなら、ここできっちりカタを付けなくてはいけないのだ。
「短刀の二刀流ですか」
 刀の神具に手を当てながら『優麗なる乙女』西荻 つばめ(CL2001243)は頷いた。つばめの得物も二刀。長さが異なれば武器の在り方や扱い方は異なるが、逆に興味が湧いてくる。さて、どのような動きをしてくれるのか。
「古妖ってよく分からねーよなぁ。髪切るのが楽しいのか?」
 腕を組んで疑問符を浮かべる『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)。古妖と人間の感覚がずれていることは知っているが、それでも通りすがりに髪を切ることの楽しみは見いだせなかった。、
「『斬らない刀に価値はない』……か」
 自分の刀を見ながら『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は思考に耽る。刀とは斬るために打たれた物だ。美術品としての価値もあるが、その本質はやはり何かを斬るためだろう。それは奏空も否定できなかった。
「如何様か」
 覚者達と出会った髪切りは、問いかけている形をとっているが警戒するように距離を開けていた。会話するには遠く、逃亡するには近く。会話するつもりも逃げるつもりもなく戦いを挑むなら、程よい距離で。
「通りすがった人の髪を切るのを止めてほしい」
「その答えは返した。汝らは我が刃に何を見る?」
 ゆらりと髪切りが動いたかと思うと、その手には短刀が握られていた。両手に握られた刃が月光を写すように白く光る。それを見て、覚者達も神具を構えた。
 互いに隙を伺うように退治する古妖と覚者。睨みあっていた時間はどれほどか。実際には数秒もたっていないのだろうが、対峙している者からすればその十倍集中したほどに精神が削られていた。
 動き出したのはどちらが先か。刃と刃が交差する音が、夜の通りに響き渡った。


「行くぞ!」
 一番最初に動いたのは奏空だ。抜刀した刀で印を切り、薬師如来の光を顕現する。その後に半身ずらして刀を構えた。髪切りは刀をもって腕を垂らしている。どこからでもかかって来いとばかりの構えだ。
 その構えを前に奏空は躊躇することなく歩を進める。速度を生かした斬撃。自分の特性を生かした最大限の攻撃をもって、攻め立てる。五合刃が交差し、見出した僅かな隙。それを逃すことなく刃を動かし、一気に突き立てる。
「俺の刀も斬るモノ。ただし俺の刀は悪や間違っているもの正す為に斬るものだ!」
「では問おう。何をもって悪と断じ、何をもって正したと?」
「何?」
「正義と悪。流転する価値観に置いてそれらは常に裏返る。汝の秤が常に正しいと言う保証はあるやなしや?」
「それは――」
「確かに正義と悪は入れ替わることもある。だが――」
 扇を広げてゲイルが髪切りの問いに答える。善悪は時代と共に入れ替わる。戦争なれば人殺しさえも許容されるのだ。変化する時代の中で絶対の正義などない。――もしそれがあれば、それ以外の価値は排他する魔女狩りが始まるからだ。
 水の源素を展開し、舞うように足を動かすゲイル。リズムと扇の角度、そして伸ばした手足の動き。それら全てが術式を増幅させる陣となる。放たれた癒しの水は霧となり、仲間達の傷口を冷やし、そして癒していく。
「人が持つ善悪はそれまで生きて培ったモノだ。人生の結果ともいえる価値観は確かに判断基準となりうる」
「世界の価値より個人の価値か。それが異なるからこそ戦いは起きる」
「ああ、そして異なるからこそ話し合いもできる。貴方と私達のように」
「おうよ、お話しようぜ!」
 拳を握りしめて遥が笑みを浮かべる。語り合う手段は武。その内容は互いの戦う意味。それを伝え合うのに戦う事は最も適していた。ただ真っ直ぐに、ただ無心に。滾る心を拳に乗せて、遥は髪切りに迫る。
 振るわれる刃。通り過ぎたかと思えばすぐにもう片方の刃が迫り、そして翻った刀が迫る。気付かれずに相手の髪を切る刃。だが、刀は二つ。こちらの拳も二つ。恐れる事は何もない。源素を乗せた拳で髪切りの刀を払い、刹那の体重移動で拳を放つ。
「髪を切るのが生き甲斐なんだってな。確かにすごい切れ味だ。髪なんかスパスパ切れそうだ! ……でも、切れるのはそこまでみたいだなぁ」
「ほう」
「つまり、まあ、なんだ。短刀みたいな武器を持っちゃいるが、武装した戦士ひとり斬り倒すことはできそうもないな、って思っただけ。例えば、オレみたいな、な?」
「安い挑発だな。本心とも思えぬ。だがそのひたむきさに免じて乗ってやろう」
「あらあら。わたくしの相手はしてもらえないのですか?」
 髪切りの言葉につばめが優しく問いかける。 眉より上めに切り揃えられた前髪に前下がりのショートボブが風に揺られてなびく。二本の刀を手にして薄くほほ笑んでいた。まるで井戸端会議をするような気軽さで、つばめは刀を構える。
 踏み込む、と同時に自らが生み出した霧の中に消えるつばめ。一歩の踏み込みで散歩分進み、髪切りの背後を取る位置まで進む。通り抜け様に一閃。そして振り返りざまにさらに一閃。繰り返される剣戟が通りに響き渡る。
「長く美しい髪を同意無しに斬るという事、わたくしは良しと致しませんので」
「その為に挑むか、女剣士」
「ええ。女の命とまでは言いませんが、髪は自身を美しく見せる為の道具。大事に致しませんと」
「人の価値観など知らぬ。だが、それが戦う理由となるのなら、善し。我が研鑽をもって汝に挑もう」
「うーん。床屋になればいいと思うんですけど。そうもいかないのが難しい所です」
 残念そうにラーラが呟く。『髪を切ることに拘るのなら、髪切りは床屋になればいい』。そんなのは人間の価値観の押し付けだ。共存とはこちらの鋳型に相手をはめ込むことではない。両者にとってのちょうどいい着地点を見つける事なのだ。
 ともあれその話は後だ。今は戦いを収めなくてはいけない。手にした魔導書に源素を送り込む。赤い炎が本の上で広がり、細く鋭く形成されていく。弾丸となった炎が髪切りに打ち出され、炎と衝撃で体力を奪っていく。
「相手を斬ることのみに価値があるなら、古妖や人と妖との戦いにご助力いただきたく……何かを守るため剣を振るうんです」
「世俗の争いに興味はない。我はただ鍛錬を続けるのみだ」
「何かを為す為に刀を鍛えるのではなく、ただ道を究める為に鍛錬を?」
「然り。この道の先にあるのは解らぬ。だが極めねば見えぬ道もあろうよ」
「本当にサムライみたいだな!」
 髪切りの言葉に感心するように叫ぶ翔。ただ自分の技術のみを求めるストイックな部分は、漫画で出てくる武士そのものだ。忍者に陰陽師に侍に。まるで時代劇のようだ。感心しながら、意識を少しずつ戦いに移行していく。
 二秒後の敵と味方の位置を予測しながら、翔は力を溜める。過去を参照し、今を見て、未来を見る。相手が来るであろう場所に『置く』ように衝撃波を討ち放った。相手からすれば刹那の攻撃。衝撃が髪切りを襲い、剣を持つ腕を振るわせる。
「強い奴と戦えるのはワクワクするぜ!」
「若いな。だがそれだけではない。死線を潜り、相応に力を得ているようだ」
「ああ。髪切りもそんな感じか? 鬼とかの髪を切ってきたとか」
「功を語るにはまだ未熟。示すことが出来るのは、今の技のみ」
「ああ。オレ達も同じだぜ!」
 翔の言葉に頷く覚者達。今示すことが出来るのは、今持つ力のみ。全力をもって、相手に挑むのだ。
 戦いは加速していく。


 髪切りの体術は、決して目にも止まらない速度ではない。覚者達は感や視力に便り、それを避けようとする。
「見え……ないわけじゃないんだけど!」
「勘で避けれるとかそんなレベルじゃねぇ!」
「無論だ。『見えさえすれば避けられる』『意識できれば避けられる』と言う気持ちが既に隙を生んでいる。我が刃はその隙を縫うモノ也」
 髪切りと呼ばれる古妖は気付かぬうちに髪を切る古妖だ。それは相手が髪切りだと分かっていても同じこと。視覚とは目に映るがゆえにそこ以外の情報が存在しない。故にそこに死角が生まれる。攻撃を見切る、と思っている心理にこそ死角が存在するのだ。
「やっぱり強い……!」
「流石ですわね」
 前衛で戦う遥とつばめが髪切りの斬撃で命数を削られる。
「どちらかというと忍者の動きだ、これ……!」
「やっべー……! 燃えてきたぜ!」
 奏空と翔も命数を燃やすほどのダメージを受けていた。
「癒したもう癒したもう、武水別大神の名のもとに」
 扇を広げ、深く深呼吸するゲイル。水の源素を溜めにため、複雑な術式を展開した後に癒しの術を行使する。広がる水の源素が味方を包み込み、まるで時を戻すかのように傷を癒していく。消耗した気力の大きさを示すように、ゲイルは深く息を吐いた。
「爺さん強いな! 髪じゃなく、『神』斬るのに興味ない? いや、洒落じゃなくて!」
 拳を振るいながら遥は髪切りをスカウトしようと声をかける。今覚者達が直面している問題。その為の力になるのではないかという誘いだ。俗世に興味がないのは解っているが、気持ちよく戦える相手を誘いたい、というのは遥の性格からくる友愛でもあった。
「忍びの動き、というのなら!」
 刃を逆さに構える奏空。虚を突け、刃の軌跡を隠せ。繋がった前世から聞こえてくる声ですらない意識。真っ当な剣術ではなく、不意を突くと言う一点に特化した体術。その動きで髪切りを攻め、そして動きを理解しようとする。
「遠距離攻撃、全体攻撃を使いこなす剣士っていうのは規格外ですよね。凄腕の証なんでしょうけど」
 気が付けば懐に入らせて斬られている。その動きに驚愕するラーラ。命数を奪われて、肩で息をしながら源素を回転させる。生まれた炎が戦場を照らす。赤く燃える炎の弾丸が髪切りの足を止め、そして焼いていく。
「貴方はその刀で『只斬る事のみ』に修練を積んだ方。その修練自体は素晴らしい事だと思います」
 髪切りの技量に感嘆の言葉を述べるつばめ。剣術にかけた時間が人とは違う。人の人生以上の時間を斬ると言う技術の研鑽にかけているのだ。だが、負けるつもりはない。同じ二刀の使い手としてつばめもまた培った研鑽があるのだから。
「あたれー!」
『DXカクセイパッド』を手に雷撃を放つ翔。敵の動きを見て、その動きを止めるべく動く。髪切りの真上に稲光が生まれ、一瞬はじけたかと思うとすぐに叩きつけられる。ピンポイントで一ヶ所を狙うよりは、こちらの方が当たりやすい。
「揺るがぬ連携、見事なり。油断したつもりはないが予想以上の動きだった」
 覚者達の連携に、少しずつ追い込まれていく髪切り。傷だらけの身体を何とか支えながら、しかし闘気は薄れない。
「刃は何も命ばかりを斬るものじゃない。料理を作る時、服を作る時いろいろあるんだ」
「それはそれように作られた刃故。汝や我が持つ刀は、人を着る為のモノ」
 奏空の言葉に淡々と返す髪切り。
「それは否定しない。それでも、未来を切り開くためのモノでもあるんだ!」
「命という個の単位ではなく、未来という全の為に斬るというのか?」
「そうだ! 誰かを守るために戦うのが、オレ達だ!」
 奏空の言葉を継ぐように翔が叫ぶ。戦いそのものの善し悪しではない。大事なのは結果だ。その結果、未来がどうなるかが重要なのだ。
「オレは誰かを助けるヒーローになる!」
「ええ。時代を切り開くために戦う。それが人間の在り方なのですわ」
 凛とした声でつばめが返す。人間の歴史は戦争と平和の繰り返しだ。戦争自体は多くの命を奪うかなしい事件だが、それあっての現代だ。それは否定しない。
「貴方の生き方を否定はしません。ですが同様に、わたくしたちの在り方も否定はさせません」
「剣を捨てて鍬をもて、とは言わない。だが平和に生きようとするのなら、こちらも支援はできる」
 仲間を癒しながらゲイルが言葉を継ぐ。今まで戦いに生きた者にいきなり戦いを捨てろ、ということはできない。だがそうやって生きるのなら助ける事はできる。FiVEにはその下地があるのだから。
「まあオレはこれからも戦ってほしいけどな! 次はタイマンで勝負だ!」
 うんと頷いて遥は自分の意見を述べる。強い相手と戦う事は大好きだ。それが古妖だろうが人間だろうが構わない。お互いに楽しく戦う事が出来れば、勝ち負けは二の次だ。
「畑違いですけど、技術に貪欲な所は共感できます。私はただ、もう少しだけ髪を切られる人の気持ちを分かってほしいだけなんです」
 剣術と魔術。その違いこそあれど、ラーラと髪切りは共に自分の技術を磨くことに迷いはない。それでもラーラは人間で、だからこそ古妖と仲良くしたいと言う思いがあった。
「汝らの言い分、理解した。されど――」
 覚者達の言葉を受け、髪切りは重く頷く。しかしそれを受けたうえでなお刃は止まらない。覚者達に正しさがあるように、髪切りにも曲げれぬ道がある。
「ああ、そういう所が大好きだぜ!」
 髪切りの機先を制するように遥が踏み込む。拳に源素を纏わせ、力強く地面を踏みしめた。幾千幾万と繰り返された空手の突きの型。突く、と意識した時にはすでに拳は突き出されている。強い衝撃が、拳から伝わってきた。
「――押忍! ありがとうございました!」
 吹き飛び地面に転がる髪切り。それが完全に動かないと理解した後に、遥は頭を下げて礼をしていた。


 戦い終わり――
「床屋になる気はないかー」
「俗世に染まるつもりはない」
 覚者達は人の為になれば、と床屋や庭師になるよう勧めたが髪切りの返事はにべもなかった。FiVE村と言った古妖が集まる村も紹介したが同様だった。
「しかし土をつけられた義理は果たす。人の髪を切ることは止めると約束しよう」
 この辺りが妥協点か、と覚者達は納得する。『人と古妖が仲良く生活できれば』というのは理想だが、個人の意思を捻じ曲げて押し通すのは違う。FiVEは古妖を人間に隷属させたいのではないのだ。
「しっかし、古妖って一体何なんだろ。『神』のやつが生んだもんじゃ無いって言ってたし……」
「さてな。古妖にせよ人にせよ、モノが生まれた理由はあるやもしれぬ。ないやもしれぬ。草木や炎、水や大地。それが存在する意味もまた同様。
 それを求めるのも、一つの求道か。成程ふぁいぶとは聞きしに勝る学徒よな」
 何とはなしに呟いた遥の言葉に、頷き返す髪切り。
「学徒っていうかただの疑問なんだけどな。源素の力がなくなったら、古妖に対抗できるのか、とかそういう安全とかも含めて」
「力に対し力で抗するのも道。されど力に対し知恵をもって挑むも道。
 汝ら人間は過去よりそうして古妖と接してきたと思うが、如何に」
 髪切りの言葉は、人と古妖の歴史でもあった。
 九尾の狐、天狗、龍……人知及ばぬ存在相手に人間は振り回され、そして生きてきた。時に祀り、時に知恵をもって出し抜き、時に争い――源素なき時代の人々はそうやって古妖と接してきたのだ。
「結局、何なのかはわからないってことか」
「然り。見えぬものを求め、研鑽するのが道。剣も、槍も、拳も、それこそ汝らが持つ源素も。進んでみねば見えぬ道もある。そしてその道が見えれば、汝らが頭を抱える問題の活路が見えるやもしれぬ。生涯見えないやも知れぬ。
 それでも進むのが求道というものよ」
 話は終わった、とばかりに背を向ける髪切り。
 覚者達はその背中を追うことなく、帰路についた。

 この事件以降、髪切りが人の髪を切ったと言う事件は起きなくなる。
 代わりに人を襲う危険性のあった古妖の髪が切られ、道に落ちていたという事件が起きる。それが今回の事件と関係あるかどうかは、わからない。
 唯ひたすらに斬る事を求める剣の道。それが今後FiVEと交わる可能性は低い。争いと平和。求める者は真逆の道だから。
 しかし何かを求める、というひたむきさは共通している。向く方向は逆だけど、その姿勢は変わらない。
 FiVEが歩む道の先に何があるのか。
 それは進んでみなければわからない――


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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