汝らに五行の力授けよう 源素の力指し示せ
●五の神
<四神>……四方(東西南北)を司る霊獣。
<三才>……天と地と人。即ち人を超えし存在、死生、そして生物。これらの働き。
<二極>……陰と陽。相反するエネルギーの変化の表れ。万物の生成消滅の流れそのもの。
源素とはすなわちこの世界にある五行であり、覚者とはそれを扱える存在だ。
だが覚者全てが五行を理解しているわけではない。『都合のいい力』として使っているに過ぎない。ある者は武器の代わりに、ある者は治療の代わりに。
自然の一部ともいえる五行を『自分に使いやすいイメージ』に変換しているに過ぎない。ある者は陰陽術として、ある者は格闘技に変換して、ある者は電子機器を使用して。形は何でもいいのだ。イメージできればそれに沿って源素は変化していく。
ならば<四神><三才><二極>……それらを形どるとすれば――
「私はククノチ。木の神」
「カグツチと呼んでくれ。炎の神だ」
「ツヌグイと申します。芽吹き、作物を育てる土の神です」
「タヂカラオだ。天の岩戸をぶん投げる天の導きが欲しいか?」
「クラミツハだよ。水の神様だね。よろしくっ!」
五行の要素を司る日本の神。国を形作ったと言われる伝承の持ち主。
無論神本人(?)ではない。源素そのものが概念を理解しやすいように形どったのだ。
<四神><三才><二極>……それらを受け入れやすいように。
「<四神><三才><二極>……これらの力を求めし者よ。我らに挑め」
「自分の持つ源素を示せ。どういう形で源素を使っているのか」
「イメージそのものが源素を扱う力になる。それは人間も――そしてあれも同じこと」
●そんな夢を見た。
『一(はじまり)の何か』からの提案を断る決心をした覚者達は、まず最初に源素の最終式をもとめた。<四神><三才><二極>……そう呼ばれる力は覚者達が望めば得る事が出来ると言う。
不審に思いながらも心の中でそう願ったその夜。願った者達は共通の夢を見ることになる。神が貴方の源素を試す夢を。
珍妙な夢かと目覚めてもいい。或いは夢だからと受け入れてもいい。
貴方は――
<四神>……四方(東西南北)を司る霊獣。
<三才>……天と地と人。即ち人を超えし存在、死生、そして生物。これらの働き。
<二極>……陰と陽。相反するエネルギーの変化の表れ。万物の生成消滅の流れそのもの。
源素とはすなわちこの世界にある五行であり、覚者とはそれを扱える存在だ。
だが覚者全てが五行を理解しているわけではない。『都合のいい力』として使っているに過ぎない。ある者は武器の代わりに、ある者は治療の代わりに。
自然の一部ともいえる五行を『自分に使いやすいイメージ』に変換しているに過ぎない。ある者は陰陽術として、ある者は格闘技に変換して、ある者は電子機器を使用して。形は何でもいいのだ。イメージできればそれに沿って源素は変化していく。
ならば<四神><三才><二極>……それらを形どるとすれば――
「私はククノチ。木の神」
「カグツチと呼んでくれ。炎の神だ」
「ツヌグイと申します。芽吹き、作物を育てる土の神です」
「タヂカラオだ。天の岩戸をぶん投げる天の導きが欲しいか?」
「クラミツハだよ。水の神様だね。よろしくっ!」
五行の要素を司る日本の神。国を形作ったと言われる伝承の持ち主。
無論神本人(?)ではない。源素そのものが概念を理解しやすいように形どったのだ。
<四神><三才><二極>……それらを受け入れやすいように。
「<四神><三才><二極>……これらの力を求めし者よ。我らに挑め」
「自分の持つ源素を示せ。どういう形で源素を使っているのか」
「イメージそのものが源素を扱う力になる。それは人間も――そしてあれも同じこと」
●そんな夢を見た。
『一(はじまり)の何か』からの提案を断る決心をした覚者達は、まず最初に源素の最終式をもとめた。<四神><三才><二極>……そう呼ばれる力は覚者達が望めば得る事が出来ると言う。
不審に思いながらも心の中でそう願ったその夜。願った者達は共通の夢を見ることになる。神が貴方の源素を試す夢を。
珍妙な夢かと目覚めてもいい。或いは夢だからと受け入れてもいい。
貴方は――

■シナリオ詳細
■成功条件
1.貴方が持つ五行の力を示す
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
決戦……という名の試練です。夢オチちゃいまっせー。
●説明っ!
<四神><三才><二極>……そう称される力。つまり今覚えている源素のさらに上の力を求めた覚者達はその夜夢を見ます。日本の神様を形どった源素が現れ、貴方の力を示してほしい、というのです。
源素をどう示すかは自由です。神に直接ぶつけてもいいですし、見せるように外してもいいです。回復ならそのまま癒し手もいいでしょうし、身体強化して神様と腕相撲してもいいでしょう。夢の中なので、想像すれば何でも(どくどくSTが過去に出したキャラも含めて)出てきます。
皆が共通の夢を見ているので、望めば参加者同士で合流もできます。コンビネーションを見せるのもありでしょう。
メタな事を言えば、源素を使った貴方らしいプレイングが求められています。
●敵(?)情報
源素が神の形をかたどった存在です。神そのものではありません。
ですが源素そのものが意思をもった存在なので、ある程度の会話は可能です。
・ククノチ
句句廼馳(日本書紀)とも。神産みに置いて四番目に生まれた木の神。クールな性格の十歳の少女です。
木行の力を示す相手となります。
・カグツチ
火の神。カグツチを生んだことでイザナミが死んでしまい、その怒りを受けて殺されてしまう。元気はつらつな10代後半男性の姿を形どってます。
火行の力を示す相手となります。
・ツヌグイ
イクグイとも呼ばれる大地の神です。泥土が固まり、作物が育つ土になった事を示す神名。しわの深い50代男性の姿をしています。
土行の力を示す相手となります。
・タヂカラオ
アメノタヂカラオとも。天の岩戸隠れの時に顔を出したアマテラスを引きずりだした男です。マッチョな30代男性の姿をしています。
天行の力を示す相手となります。
・クラミツハ
カグツチが殺された時に飛んだ血から生まれた神様。龍神とも言われ水や雨を司っています。10代後半の女性の姿をしています。
水行の力を示す相手となります。
●場所情報
夢の中。貴方が想像しうるものは何でもあります。
皆が同じ夢を見ている状態なので、望めば(名前とID記入)出会う事もできます。
(219.04.05追記)
また参加者には特別なアイテムが配布されます。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:3枚 銀:5枚 銅:8枚
金:3枚 銀:5枚 銅:8枚
相談日数
6日
6日
参加費
50LP
50LP
参加人数
30/∞
30/∞
公開日
2019年04月14日
2019年04月14日
■メイン参加者 30人■

●
「俺、まだ術式全部使える訳でもないんだけどなー」
茶色の髪をかきながら藤森・璃空(CL2001680)は目の前のククノチに向き直る。木の神様ともいえる少女を前に、何をどうすればいいの悩んでいた。
「いいえ。大事なのは力の数ではない。強さでもない。どう扱うか」
ククノチは静かに璃空に告げる。使える技の数や力の強さは、あくまで選択肢の数を増やす要因でしかない。自らが出来ることの中でどうするか。それを思考して選択することが重要なのだ。
「力は成長と共に身につく。しかし思考力は常に磨き続けなければ停滞する」
その言葉を受けて璃空がどう思ったかは、当人の心の中。
「俺に出来る事……」
香を凝縮し、精神をリラックスさせる香。寝込無辜とが多かった璃空の求めた力が、そこにあった。
「西荻つばめと申します。以後良しなに、ククノチ様」
『双刀・鬼丸』を手にして『優麗なる乙女』西荻 つばめ(CL2001243)が一礼する。幼い姿のククノチに可愛らしいと思いながらも、礼節を忘れないのは育ちの表れか。ククノチの返礼が終わった後に、刀の柄に手をかけてつばめが言葉を続ける。
「わたくしの得手とする所は、この鬼丸での斬撃と、木行術式を使用した相手の捕縛、毒の付与、状態異常回復……といった所かしら。
力を示すならば、わたくしはわたくしの得意とする所をお見せ出来れば、と思いますわ」
「構わない。型に捕らわれず、自由な発想で源素を使いこなす。それが肝要」
ククノチの言葉ににこりと笑みを浮かべ、つばめは半歩踏み込むと同時に抜刀する。斬撃が爆発するように周囲を薙ぎ払い、その軌跡を追うように地面から植物が発芽し、急成長して周囲を埋め尽くしていく。
「このような所ですか。お気に召しましたでしょうか?」
「仔細ない。鍛錬を感じさせる技だ」
「ククノチ様ですね、初めまして」
『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)は頭を下げて、ククノチと対峙する。手にしたタロットカードを広げ、その中の一枚を見せるように構える。
「私は木々の自然の力を、このタロットカードで具現化する事で力を使っています」
澄香に限らず、源素具現化を何らかの術式や媒体から行う覚者は多い。それはこれら媒体がイメージしやすさに一役買っているのが大きいだろう。明確なイメージと共に放たれる木の力は、周囲を香しい空気に包み込み癒していく。
「私は、この力は攻撃技でも誰かを助ける為の物だと思っています」
一通り術を見せ終えた後、澄香はククノチに切りだした。
「ですが、これでは負債を無くすには足りなくて。
生きてる全ての者を助ける為に、未来に禍根を残さない為に倒さなければいけないモノがいるのです」
脳裏に浮かぶのは、いまだ姿も知れぬ存在。大妖を操り、人を争わせて成長するナニカ。
「もしやあのナニカは、この源素の神様のなりそこない、でしょうか……?」
「なりそこない、でいえば私達の方こそ日本の神を模しただけの存在だ。
そもそも源素に神などいない。誰の物でもなく、平等にそこにあるのが源素。アレにも、貴方にも平等に――そこに強弱あれど、源素は常に平等だ」
ククノチの言葉の意味はまだ澄香には分からない。
だけどこれは重要な事なのだ、と理解していた。
●
「日本神話の神様……本人ではないにしても、それを名乗れる存在に会えると思わなかった」
カグツチを見ながら『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)はにこりと微笑んだ。日本神話に置いて、炎の神といわれれば真っ先に思いつくであろう存在。確かに火の源素を学ぶにはうってつけの存在だ。
「折角だからと模擬戦を希望するよ。折角の夢だ。こういう趣向でいかせてもらおう」
彩吹の言葉と同時に靴に炎が宿る。蹴り技主体の彩吹が炎を扱えばこうなる。その好例だ。体術と源素。打点の延長線に炎を発し、熱と殴打で撃ち崩す。最もイメージしやすく、だからこそ高威力。
「よろしくお願いします」
「おう! どんとこい!」
礼の後に踏み込む両者。炎の蹴りが円を描き、炎の息が空を赤く染める。蹴りを繰り出すたびに彩吹のイメージは強くなり、炎は熱く、赤く燃え上がっていく。
「どんなに小さくても、灯った炎はどこまでも広がる。未来へと希望の炎を灯したいんだ」
「それを強く願うなら、源素はそれに答えるさ」
「タイマンを希望するぜ!」
言葉と共に入れ替わるように――言葉通り空間が組み変わったかのように場面が入れ替わり『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)が現れる。別次元で彩吹と戦いを続けながら、また別次元でカグツチは一悟と相対していた。時間や空間の感覚などあってなきがごとしだ。
「万が一のも勝てると思っちゃいないがな」
「違うぜ、少年。心で負けてちゃ、身体はついてこない。どんとこい!」
「――はっ、じゃあ行かせてもらうぜ!」
気合と共にトンファーに炎を宿らせる一悟。トンファーは手足の延長。武技の動きがそのままトンファーの攻め。それはすなわちトンファーは己の手と同じこと。炎熱を伴ったトンファーはカグツチの炎の身体すら焼く勢いで燃え上がっていく。
「いい汗かいたぜ! 温泉にでも浸かりたいなぁ!」
「ひとっ風呂浴びて、またやってきな!」
「次は私だ。源素を操る力を更に得る事を目的とするならば、お前との実戦が一番いいだろう」
炎を纏うようにして『鬼灯の鎌鼬』椿屋 ツバメ(CL2001351)が歩を進める。カグツチの名前は聞いたことがある。源素の極みと呼ばれる領域が形どるなら、確かにその形だろう。鎌を構えて、戦意を燃やす。
「……全力でいく」
言葉にすると同時にツバメの炎は体内を駆け巡り、身体能力を活性化させていく。同時に踏み込むと同時に鎌を振るった。全体重を乗せて回転するように鎌に力を込めて、カグツチを両断する勢いで振りぬいた。
「いい踏み込みだ。じゃあこういうのはどうだ!」
迫る炎の柱。地面から吹きあがる赤い熱を前に、ツバメはカグツチを通り抜けるように跳躍する。足を止める余裕はない。あったとしても止まるつもりはない。最大限まで身体能力を活性化し、己の限界を見極める為に。
「炎の源素だけでない。体の中に眠っている、体術に使う体捌きのトレーニングにも付き合って貰う」
「贅沢だな。だったら――」
「四元素の一、熱と乾と赤を統べる者、製菓の護り手、サンタンジェロ城にてローマの黒死を終わらせし者ミカエルよ!」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は呪文と共に源素を高めていく。一定のリズム、言葉の意味、そしてそれにより引き出されるテンションとリラックス。それがラーラの炎をさらに高めていく。
(大切なのはイメージの力……!)
イメージは力になる。魔術に通じた祖母を強く想い浮かべ、その炎を再現するように源素を解き放つ。赤が夢の世界を蹂躙し、カグツチを包みこむ。炎は炎に届かない。源素は源素に届かない。 ――否、強い想いは定理さえも超えていく。
だからこその、炎の巫女。カグツチに仕えたビスコッティの魔女。
「タタラ踏み、鉄を溶かし、強く打て。灼の血より、生まれよ剣!」
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
カグツチとラーラの炎がぶつかり合い、さらに世界は赤く染まる――
「一手ご指南願い奉る。あたしの胸に見とれて手ぇ鈍らせんといてや!」
炎を纏った刀を持ち、『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は声を張り上げる。これが夢であることは解っているが、だからと言って黙って目覚めるつもりはない。ニセモノとはいえ神様だ。挑まぬ理由はない。
体内の源素を燃やし、凛は刀を振るう。カグツチは炎の剣をもって刀と打ち合い、さばいていく。燃やせ、燃やせ、凛は一合ごとに強く念じる。その度に筋肉が、血液が、体中の在りとあらゆる場所が焔のように燃え上がっていく。そしてその速度はまさに神に届かんとばかりに迫り――
鍔競り合い、引いたのはどちらからか。
「確かに女の体に触れたことないもんなぁ」
「……せやな。そういう生い立ちやったな」
カグツチの物語を思い出し、凛は苦笑する。手を抜いているとは思わないが。
「カグツチ。その炎で母を焼き、生まれてすぐ父親に殺された神」
崎守 憂(CL2001569)はカグツチの神話を思い出しながら歩を進める。熱い、熱い、熱い。自らの炎に焼かれそうだ。それでも気にせず歩を進める。そこに居るのが火の源素であり、火の神様ならばなおのこと歩みを止める事はない。
「私の源素は火行。燃えるもの、燃やすもの……熱そのもの。温かく、暖かく……やがて熱く、灼く、痛みに変わるもの。私の身体を蝕み、私を身体を支える、生きる術そのもの。
ねぇ、カグツチと名乗る貴方なら同意してくれるのかしら?」
「お前がそう思うなら炎はそうある。だが――そうは思っていないんだろう?」
「ええ、表裏一体、善悪相殺、都合がいい一面だけの事実なんてないわ。温かい想いは過ぎれば焼ける苦痛だわ。暖かい願いは過ぎれば生きる苦痛だわ。
犠牲を払わない力なんてどこにもないわ」
憂を焼くように炎は燃え上がる。まるで自己の犠牲をいとわない業火。自分自身も、仲間も、敵も、世界も、全てを滅ぼそうとする大火。災害、暴威、この世の終わり。望まず母を焼き、殺されたカグツチの如く。
「それとも、カグツチと名乗る貴方なら否定してくれるのかしら?」
「そいつの答えは既にあんたが出している。再生と破壊。どちらもあるのが火。同意も、否定も同じこと。相反する事実すべてを包み込むのが、火だ。
死に方を選ぶことは、生き方を選ぶことでもあるんだからな」
その答えは憂に届いただろうか。既に灰となった世界に声は静かに響く。
「私の場合は火の源素になるのでしょうが……」
所在なさげに『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)がカグツチに声をかける。普段は体術を使って戦う彼女にとって、火の源素はなじみが薄い。それでも自分が火行であるならここに来るのでは、と思いながら足を運んでいた。
「構いやしないぜ。思うがままに変化する。それが源素だ」
カグツチの言葉に頷く燐花。力を示せ、と言われれば自分の最も得意なスタイルで戦うのみだ。天の源素で身体速度を強化し、速度を斬撃に変えて切りかかる。強く神経を集中させ、無呼吸のままに斬撃を繰り返す。
「――今のは龍の力を使う方の技の模倣。この技をもっと磨きあげたいのです」
「龍に知り合いはいねぇなぁ。……でもま、速度による斬撃なら心当たりがあるぜ。運がよければ縁も結べるんじゃないか。
あとさっきの天の源素だが――ふむ、天の使い手に縁があるのか。だったらそいつを頼るのもいいかもな」
「天の……縁」
燐花の脳裏に浮かび上がる顔が、一つ。
●
「ナナンだよぉ! 初めまして! なのだ!」
手をあげて挨拶する『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)。相手がだれであれ、奈南は物おじせずに挨拶をする。それは教育の賜物か、それとも奈南の性格か。元気のいい声が夢の中に響き、ツヌグイの顔も笑みに変わる。
「うーーーーーっっ!」
奈南は『ホッケースティック改造くん』を手にして力を籠める。力を示せ、と言われて奈南が思いついたのは、神具による打撃だ。源素の力を手にした武器に込め、大きく振りかぶる。強く、強く力を籠める自分をイメージし、そして――
「てやーーーーーーーーーーーーっっっっ!」
裂帛と同時に振り下ろされる一打。大地を穿つ一撃はそれだけにとどまらず、夢の中を激しく揺らした。立つことすら難しい激しい振動。自身の如き一撃が奈南を中心に広がっていく。
「見事ですな、ナナン殿。力のこもった一撃でしたぞ」
「えへへ。やったー!」
「ツヌグイ様、よろしくおねがいします」
納屋 タヱ子(CL2000019)は言って頭を下げる。計算さえたかのように二秒そのまま動かず、そして頭をあげる。その動きはタヱ子の生真面目さを感じさせた。こうと決めたらその信念を曲げることのないそんな頑固さ。
「私の使い方は……土行の力自体を強めるものではなく、水行の力を取り入れて土行を補完しようというものです。
邪道かもしれませんが、これが私の使い方です」
「源素に正も邪もない。ただあるがままにある。それだけじゃ」
ツヌグイの言葉に頷くタヱ子。土と水の源素を組み合わせ、螺旋を描くように体内で循環させる。土の源素で強き守りを、水の源素で傷の癒しを。倒れることのない浮沈の盾。源素により形成された力の輪がタヱ子を支えていた。
「土は水を含んで踏み固められる事でより硬くなることができます。水の流れを取り入れる事で土に栄養が行き渡る事もあるでしょう」
それはツヌグイと呼ばれる神の在り方でもあった。作物を育む土の神は静かにほほ笑んだ。
「私の力は人々を、妖や大妖、それらを統括するものから、お守りする為にあるのだと、思っています……。
ですが……今のままでは全てを、命を、守りきれない気持ちもしていて……」
『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994)はツヌグイを前に言葉を切りだす。妖、大妖、そしてそれを統べる者。力の差は比べるまでもない。そんなことは解っている。
「『あの方』とお話をして分かったのです。
『覚悟』が無ければ何も……『全て』も、『命』も、守りきる事など出来ないと……!」
理想だけでは人は救えない。いつだって、人を救うのは人の行為だ。そして行為とは失敗の可能性を伴う。失う可能性。敗ける可能性。その可能性を覚悟し、それでも前に進むことが行為だ。
「だから私は、私の力が尽きるまで、この力を使い、【全てを守る】と、心に誓ったのです」
その為の源素。その想いを込めて、護符を展開する。護符は巨大な盾となり、夢の空間に満ちていく。
「『ツヌグイ』さん……私の『覚悟』を最後まで見届けていて下さい!」
その瞳は戦う事を決めた者の目。それを貫き通すことが出来れば、あるいは――
●
「さて、源素の力を示してほしい、か」
『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)はタヂカラオを前にして腕を組み、思考する。天の源素を操る恭司の目の前にはよく鍛えられた肉体をもつ存在がいた。
「僕はてっきり、天行を司る神様はタケミカヅチやアメノウズメが来るものだとばかり思ってたよ」
「ワシの名前の意味は『天の手の力の強い男神』だ。そこがイメージとなったのさ」
なるほど、と恭司は納得する。どうあれ力を示せと言われればやるべきことは一つだ。カメラを構え、源素の解放と共にシャッターを押した。
「僕のイメージする天行とは、雷や芸術行動による『力』。真実を映し出す為の物だ。
今の姿も仮初のものなんだろうけど、こんな姿してるよって事で」
撮った写真をタヂカラオに渡し、笑みを浮かべる恭司。
「真実か。その信念で岩戸に籠った太陽をも映し出す、といった所だな」
「そうだね。それが皆の為になるのなら」
「タヂカラオ。貴方が現れた……という事は、普通の夢では無い様ですね」
目の前に居る存在を夢と断ずることなく『黒い靄を一部解析せし者』梶浦 恵(CL2000944)はそう判断する。夢には違いないのだが、ただの夢ではない。目の前にいる存在は源素に関わる何かだと理解していた。
「貴方に力を示すなら、私は気力の補填と複数名を想定した戦い方を示すべきでしょうね。気力の補填は天行にしか出来ない事ですから」
恵がイメージすると同時に夢の世界は平原に変わる。多くの仲間と、複数のタヂカラオ。大規模戦闘を想起させる多数対多数のぶつかり合い。互いの意地と生存をかけたぶつかり合い。
その中にあって、恵は冷静に戦局を見ていた。天の源素を広範囲に放って敵を穿ち、仲間の気力を充填していく。鋭く、強く。優しく包み込むように、そして背中を押すように。
「じゃあ、余はコレかな」
『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が指を鳴らすと同時に、その背後に巨大な門が現れる。赤い和風の門構えの真ん中にプリンスが立ち、そこから先に行くものを通さないとばかりに武器を構える。
「矢でも鉄砲でも、だっけ? 余の後ろの民全てを助けるための形さ」
自らが盾となり、仲間を守る。そんなプリンスの在り方が形となっていた。あらゆる神秘、あらゆる暴威、それから民を守ろうとする王の一手。未来を作るのは権力を集中させた王の言葉ではなく、王に従う民の動き。それを守ることは国を守る事と同意だ。
ならば王の役目は民を生かすこと。
「余の民なら、この後ろで必殺の技も明日への希望も準備してくれる。余がそれまでの壁になれるか、ちょっと試してみない?」
文句を言いながらも何時も手を貸してくれる者を思いながら、プリンスはタヂカラオを挑発するように手を招いた。
「だから煽り過ぎだってばー」
プリンスの後ろに立つように『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623) が現れる。言葉通り、空間が入れ替わったかのような場面転換。夢だから整合性とかないのは当たり前なんだけど。
「確かに日本人相手なら概念を形にするなら日本神話を当てはめるのはありありだよねぇ」
うんうんと頷きながら紡はタヂカラオを見る。それぞれ名前を聞けばどこかで聞いたことのある名前だ。日本の始まりに在った神の名前。それは実に分かりやすく、イメージがしやすいものだった。
「ハッピーエンドに続く為の虹の架け橋を作る為に攻撃にでなきゃなら、この子しかないよね?」
そして紡がイメージするのは雷の鳳凰。紡がもっとも頼りにする青い鳥。それを解き放ち、タヂカラオにぶつける。
「正直ボクは戦う力じゃなくて、守る力支える力が欲しいわけなのだけど」
「攻めの力か? 守りの力か?」
「両方かな。相棒や親友を支えたい」
「天行の神様はタヂカラオか! なあ、神様! オレと勝負してくんねー?」
紡の視線の先に居るのは『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)。タヂカラオに興味津々といった感じで興奮し、神具を握りしめて戦いを挑む。タヂカラオは鷹揚に頷き、打ってくるようにと手招きする。
「雷獣行っくぜー!」
翔の言葉と同時に稲妻が集う。雷撃は白い虎のような形を取り、地を走るように疾駆する。虎は飛びかかる瞬間に大きく身をかがめ、全身の力を使ってタヂカラオに飛びかかった。爆ぜるような音と共に雷の白が視界を覆いつくす。
「神様! 上の力使わせてくれねーかな。オレはみんなを守れるヒーローになりてーんだ!」
「守るために矢面に立つ。それがお前のヒーロー論か?」
「そうだ! その為に力がいる!」
伸ばした手が届くように、掴んだ物を取りこぼさないように。その為の力。全てを救うなんて言う理想をかなえる為の、力。
「そうです。戦う事で平穏な世界を守るのです」
真っ直ぐにタヂカラオを見て『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は声を張り上げる。戦う事は好きじゃないけど、戦わなくちゃ守れない事がある。矛盾していることなど分かっていても、それでも理不尽を前に目を伏して過ごすことだけはしたくなかった。
「五行、天行然り……火、水、土、木。それぞれが恵であり脅威であるように、戦う力もそうであると思うからです」
奏空がイメージするのは天から降り注ぐ光。それは温かく人を包み込む陽光でもあり、天から降り注ぐ矢でもある。天からの恵みと、天災。源素とはすなわちその両方をもつモノ。だからこそ、扱う者はその心が重要となる。
「敵を討つ光の矢、人々を守る暖かな光。それが俺の天行の力です!
この力で大切な何かを守るために、俺は戦います!」
「そうですわね。大事なのは力そのものではなく、力をどう扱うか、です」
奏空の言葉を継ぐように『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)が口を開く。その後に一礼し、自分の名を告げた。いのりのイメージのままにぬいぐるみのオブジェが現れる。
「わたくしの源素の力を示せと言うのであれば」
いのりがイメージするままに源素は形を変える。太陽の光を受け止めるように歪曲した透明なレンズ。それにより集約された光がぬいぐるみに集まり、破壊の力となる。
「必要なのは力そのものではなくそれをどう用いるか。その節度を問われているのでしょうか?」
「破壊は悪ではない。それを悪と定義づけるのは今を生きる者達だ。絶対の正義などない。絶対の悪などない。ただ対立する意見があるだけだ。
ワシらを扱うと言うのなら、忘れぬことだ。正義も悪もない。あるのは『力を使った』という事実のみ、と」
その結果、人が善悪を判断するだけなのだとタヂカラオは言う。
「…………」
タヂカラオの言葉を聞きながら大辻・想良(CL2001476)は上着の裾をしめる。上着の中に隠してある羽根が僅かに締め付けられた。青と金の瞳、白い髪の毛。目立つ風貌を隠すように俯き、しかし意を決したように目の前の神を名乗るものを見る。
「……源素を、示すんですか?」
言って想良は天の源素を体内にため込むように回し始める。想良にとって源素は妖を討ち滅ぼす為のモノ。父のように理不尽に殺される者を無くすための力。そのイメージが形となり、循環する。
「ええと、避けてくださいね……」
想良の体内にため込まれたエネルギー。それを直接ぶつけるように突撃する。羽根も本音も隠すように生きてきた想良。だがそれは優しさの裏返し。傷つける相手は最小限。その為に源素を集約し、力を示した。
「タヂカラオさん! 隠れて動かなくなった太陽を力ずくで動かした、日本一の力持ち!
アンタの胸を借りれるなんて、光栄だ!」
興奮冷めやらぬ、といった声で『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は拳を握る。有名なエピソードはやはり天岩戸を動かしたことだが、そこから由来して力やスポーツの神として崇められている。
「さて、どうすればアンタの剛力を一番体感できるか……相撲、かな」
遥の言葉と同時に、足元に土俵が顕現する。縄で囲まれた土の台。いつの間にやら相撲衣装を纏っているタヂカラオと遥。
「古代の相撲は殴ったり蹴ったりもありだったらしいけど、今回は無しで!」
「いいだろう。力と力のぶつかり合いだな」
言ってから互いに距離を取り、見合う。遥から見たタヂカラオはまさに岩の如きだ。だが恐れはしない。不可能と思われたことを可能にする。それが遥の目標だ。どれだけ相手が大きくとも、恐れずに挑み力を振るう。
「はっけよい――残った!」
ぶつかり合う力と力。その勝敗は――
「優雅で美しいこの天行の舞を見て頂けるかしら?」
『月々紅花』環 大和(CL2000477)はにこりと微笑み、背筋を伸ばす。大和の黒髪がさらりと流れるようにたなびいた。真っ直ぐな背筋とそれを支える手足。ただ立っているだけで人を魅了するのが、舞。
「天の力は舞うように魅せれば仲間を活性させ、癒し、そして相手にやすらぎを与えて眠らせる」
ふわり、と大和のスカートが舞う。ただ身体を動かしただけではありえない布の動き。それは身体全体を使って芸を描写するからこそ可能となる。頭の先から足の指先まで。その全てを使って真糸井芸術を魅せていた。
「そして天から多くの星を降らせ悪しきモノに天罰を与えるわ」
そして時に激しく大和は動く。動きの一手一手に源素を乗せ、鋭く解き放つ。生まれた光は矢となって天から注がれていく。それはまさに流星の如く。天より降り、輝いて消える一つの命。その儚さもまた、人の心を動かす力となる。
「ふふ、ありがとう」
跳ねるように興奮を示すすねこすりを見て、大和は静かにほほ笑んだ。
●
「先ずは感謝の言葉を。
水の源素の力で癒し救えた命は沢山ある。だから、使えるようになったことは偶然でも感謝を伝えておきたい」
『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)はクラミツハにそう言って頭を下げた。覚者として戦い、そして多くの傷を癒してきた。それは源素の力在っての事だ。それと会話が出来るなら、言うべきことはその一言だ。
「やはり扇がしっくり来るな」
袖から扇を取り出し、ゲイルは舞うように一歩一歩足を動かす。拍子を崩すことなく足で地面に陣を描き、邪気を払うように扇をゆっくりと振るう。イメージするのは海。かつて大妖と相対した時に導き出せた奇跡の領域。
「これが俺の、源素の扱い方だ」
繰り返す波の音。壮大な水平線。そこに住む数多の生命。イメージはある。ならばそこにたどり着くことは難しくない。源素とはその為の物なのだから。扇が大きく振るわれると同時、水のうねりが周囲を埋め尽くした。
「緊張するけどがんばるの!」
源素を示せ、と言われて胸を押さえて張り切る野武 七雅(CL2001141)。これが夢だとわかって入るが、それでも誰かに見せるとなると緊張してしまう。上手くやれるだろうか。失敗しないだろうかと自分を追い込んでしまう。
「なつねはちょっぴりお子様だからうまくできるか不安なの」
深呼吸して緊張をほぐす七雅。数度の呼吸の後に手をかざし、水の源素を解放する。七雅の足元が渦を巻き、うねり出す。うねりは次第に大きくなり、轟音と共に回り続ける大海象となった。
「こんな感じでいいの? なつね上手くやったつもりだけどわからないの」
「大丈夫だよ。よくできました、なつねちゃん」
「あ。ありがとうなの。水の神様さん!」
「そうか。君は……『クラミツハ』か」
『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)は普段の夢と違う感覚に戸惑いながら、目の前の存在を受け入れる。龍神とも言われる水の神様。雨と川を司り、人々に潤いを与える古来の神。
「君の話が本当なら試してみる価値が有りそうだね。これが俺の力」
秋人は心を沈め、ゆっくりと水の源素を練り上げていく。集まった水は龍の姿を取り、秋人の周りを護るように動き出す。湧き上がる水の力。その力に逆らうことなく身を任せていく。
「行くよ」
手にした弓を引き、矢を番えるようにイメージする。水の力を束ね、一本の矢のように凝縮した。解き放たれた水は無音で空を裂き、遠くに形成された的に命中する。残心の後に弓を下す秋人。
「うん、手応え有りだ。ありがとうクラミツハ」
「あ、源素を示す、の、ね」
桂木・日那乃(CL2000941)は無表情に言って源素を体内で循環させる。源素の高ぶりに反比例するように、日那乃の周囲の温度が下がっていく。白く光るそれはダイヤモンドダスト。細かな氷の霧が日那乃の周りで煌めき、優しい光と共に傷を癒す力となる。
「イメージそのものが源素を扱う力……攻撃も、回復でも?」
「そうよ。源素に決まった形はないわ。ただ使いやすいように形を変えているだけ」
「あれって……はじまりの神様も……? 源素を統べる……もしかして源素を奪うって、源素の攻撃を吸収……する?」
「そうなる可能性もある。そうならない可能性もある」
日那乃の言葉にクラミツハは真剣な瞳で応えた。曖昧な言葉で答えを濁しているのではない。この言葉が最適だとその表情が告げていた。
「すべては扱う者次第。それを忘れないでね」
「……力、か」
篁・三十三(CL2001480)は自らの手を見て苦々しく口を開いた。力の有無、それにより生まれた差別。それを思い出す。あの時受けた恐怖の視線。それが今も三十三の心を蝕んでいる。そして夢の中だからか、その痛みは身を裂くように肉体を痛めつけていた。
「さとみん、どしたの!? ひどい怪我!」
そんな三十三の様子を見て『モイ!モイ♪モイ!』成瀬 歩(CL2001650)は慌てて駆け寄ってくる。奇妙な夢のことなど忘れ、胸を押さえる三十三の方を見上げた。水の源素を施し、三十三の傷を癒そうとする。
「歩ちゃん……」
「大丈夫? お腹すいてない? あゆみ、お弁当持ってきたんだ」
言葉と同時に歩の手に小さな弁当箱が現れる。ご飯とサラダと卵焼きとハンバーグ。可愛らしい内容を前に、三十三は思わず笑みを浮かべる。
(ああ、そうだ。自分は一人じゃない)
過去は変えられない。傷はまた別の形で苛んでくるのだろう。結局のところ、そのマイナスも含めての自分なのだから。だけど――支えてくれる仲間がいる。三十三はその支えのままに前を見る。
「歩ちゃんはきっと将来いいお嫁さんになれるね」
「お嫁さん? じゃあさとみんのお嫁さんになってあげるね、えへへ♪」
「そうだね。その為にもこの世界を守らなくちゃいけないね」
平和を欲するなら、『一の何か』の要求を飲めばいい。一時の平和――少なくとも自分が死ぬまでの平和は得られる。
だがそれはただの先延ばしだ。後世に負債を残して、自分が平和に生きる事に耐えられない。
その為に、この源素(ちから)はあるのだから――
●
カグツチと相対して炎を示し、灰となった憂はたゆたう意識の中で声を聴く。
『技は示した。これで彼らは源素の極技を扱える』
『一二の技と行の纏い。それを下地に顕現できる』
『だが――』
『力に力で抗する限りは、アレと同等』
『否、年月の差で彼らに勝ち目はない』
『力で源素を総べるアレとは別方向で源素を扱えれば――』
薄れゆく意識の中、憂は声の主を理解する。
(これは……源素の、声?)
その意味を理解するより先に、憂の意識は途切れた。
●
「……ふあ」
ククル ミラノ(CL2001142)は布団から起きて、伸びをする。春の空気が心地良い。
今日もまた、一日が始まる――
「俺、まだ術式全部使える訳でもないんだけどなー」
茶色の髪をかきながら藤森・璃空(CL2001680)は目の前のククノチに向き直る。木の神様ともいえる少女を前に、何をどうすればいいの悩んでいた。
「いいえ。大事なのは力の数ではない。強さでもない。どう扱うか」
ククノチは静かに璃空に告げる。使える技の数や力の強さは、あくまで選択肢の数を増やす要因でしかない。自らが出来ることの中でどうするか。それを思考して選択することが重要なのだ。
「力は成長と共に身につく。しかし思考力は常に磨き続けなければ停滞する」
その言葉を受けて璃空がどう思ったかは、当人の心の中。
「俺に出来る事……」
香を凝縮し、精神をリラックスさせる香。寝込無辜とが多かった璃空の求めた力が、そこにあった。
「西荻つばめと申します。以後良しなに、ククノチ様」
『双刀・鬼丸』を手にして『優麗なる乙女』西荻 つばめ(CL2001243)が一礼する。幼い姿のククノチに可愛らしいと思いながらも、礼節を忘れないのは育ちの表れか。ククノチの返礼が終わった後に、刀の柄に手をかけてつばめが言葉を続ける。
「わたくしの得手とする所は、この鬼丸での斬撃と、木行術式を使用した相手の捕縛、毒の付与、状態異常回復……といった所かしら。
力を示すならば、わたくしはわたくしの得意とする所をお見せ出来れば、と思いますわ」
「構わない。型に捕らわれず、自由な発想で源素を使いこなす。それが肝要」
ククノチの言葉ににこりと笑みを浮かべ、つばめは半歩踏み込むと同時に抜刀する。斬撃が爆発するように周囲を薙ぎ払い、その軌跡を追うように地面から植物が発芽し、急成長して周囲を埋め尽くしていく。
「このような所ですか。お気に召しましたでしょうか?」
「仔細ない。鍛錬を感じさせる技だ」
「ククノチ様ですね、初めまして」
『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)は頭を下げて、ククノチと対峙する。手にしたタロットカードを広げ、その中の一枚を見せるように構える。
「私は木々の自然の力を、このタロットカードで具現化する事で力を使っています」
澄香に限らず、源素具現化を何らかの術式や媒体から行う覚者は多い。それはこれら媒体がイメージしやすさに一役買っているのが大きいだろう。明確なイメージと共に放たれる木の力は、周囲を香しい空気に包み込み癒していく。
「私は、この力は攻撃技でも誰かを助ける為の物だと思っています」
一通り術を見せ終えた後、澄香はククノチに切りだした。
「ですが、これでは負債を無くすには足りなくて。
生きてる全ての者を助ける為に、未来に禍根を残さない為に倒さなければいけないモノがいるのです」
脳裏に浮かぶのは、いまだ姿も知れぬ存在。大妖を操り、人を争わせて成長するナニカ。
「もしやあのナニカは、この源素の神様のなりそこない、でしょうか……?」
「なりそこない、でいえば私達の方こそ日本の神を模しただけの存在だ。
そもそも源素に神などいない。誰の物でもなく、平等にそこにあるのが源素。アレにも、貴方にも平等に――そこに強弱あれど、源素は常に平等だ」
ククノチの言葉の意味はまだ澄香には分からない。
だけどこれは重要な事なのだ、と理解していた。
●
「日本神話の神様……本人ではないにしても、それを名乗れる存在に会えると思わなかった」
カグツチを見ながら『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)はにこりと微笑んだ。日本神話に置いて、炎の神といわれれば真っ先に思いつくであろう存在。確かに火の源素を学ぶにはうってつけの存在だ。
「折角だからと模擬戦を希望するよ。折角の夢だ。こういう趣向でいかせてもらおう」
彩吹の言葉と同時に靴に炎が宿る。蹴り技主体の彩吹が炎を扱えばこうなる。その好例だ。体術と源素。打点の延長線に炎を発し、熱と殴打で撃ち崩す。最もイメージしやすく、だからこそ高威力。
「よろしくお願いします」
「おう! どんとこい!」
礼の後に踏み込む両者。炎の蹴りが円を描き、炎の息が空を赤く染める。蹴りを繰り出すたびに彩吹のイメージは強くなり、炎は熱く、赤く燃え上がっていく。
「どんなに小さくても、灯った炎はどこまでも広がる。未来へと希望の炎を灯したいんだ」
「それを強く願うなら、源素はそれに答えるさ」
「タイマンを希望するぜ!」
言葉と共に入れ替わるように――言葉通り空間が組み変わったかのように場面が入れ替わり『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)が現れる。別次元で彩吹と戦いを続けながら、また別次元でカグツチは一悟と相対していた。時間や空間の感覚などあってなきがごとしだ。
「万が一のも勝てると思っちゃいないがな」
「違うぜ、少年。心で負けてちゃ、身体はついてこない。どんとこい!」
「――はっ、じゃあ行かせてもらうぜ!」
気合と共にトンファーに炎を宿らせる一悟。トンファーは手足の延長。武技の動きがそのままトンファーの攻め。それはすなわちトンファーは己の手と同じこと。炎熱を伴ったトンファーはカグツチの炎の身体すら焼く勢いで燃え上がっていく。
「いい汗かいたぜ! 温泉にでも浸かりたいなぁ!」
「ひとっ風呂浴びて、またやってきな!」
「次は私だ。源素を操る力を更に得る事を目的とするならば、お前との実戦が一番いいだろう」
炎を纏うようにして『鬼灯の鎌鼬』椿屋 ツバメ(CL2001351)が歩を進める。カグツチの名前は聞いたことがある。源素の極みと呼ばれる領域が形どるなら、確かにその形だろう。鎌を構えて、戦意を燃やす。
「……全力でいく」
言葉にすると同時にツバメの炎は体内を駆け巡り、身体能力を活性化させていく。同時に踏み込むと同時に鎌を振るった。全体重を乗せて回転するように鎌に力を込めて、カグツチを両断する勢いで振りぬいた。
「いい踏み込みだ。じゃあこういうのはどうだ!」
迫る炎の柱。地面から吹きあがる赤い熱を前に、ツバメはカグツチを通り抜けるように跳躍する。足を止める余裕はない。あったとしても止まるつもりはない。最大限まで身体能力を活性化し、己の限界を見極める為に。
「炎の源素だけでない。体の中に眠っている、体術に使う体捌きのトレーニングにも付き合って貰う」
「贅沢だな。だったら――」
「四元素の一、熱と乾と赤を統べる者、製菓の護り手、サンタンジェロ城にてローマの黒死を終わらせし者ミカエルよ!」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は呪文と共に源素を高めていく。一定のリズム、言葉の意味、そしてそれにより引き出されるテンションとリラックス。それがラーラの炎をさらに高めていく。
(大切なのはイメージの力……!)
イメージは力になる。魔術に通じた祖母を強く想い浮かべ、その炎を再現するように源素を解き放つ。赤が夢の世界を蹂躙し、カグツチを包みこむ。炎は炎に届かない。源素は源素に届かない。 ――否、強い想いは定理さえも超えていく。
だからこその、炎の巫女。カグツチに仕えたビスコッティの魔女。
「タタラ踏み、鉄を溶かし、強く打て。灼の血より、生まれよ剣!」
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
カグツチとラーラの炎がぶつかり合い、さらに世界は赤く染まる――
「一手ご指南願い奉る。あたしの胸に見とれて手ぇ鈍らせんといてや!」
炎を纏った刀を持ち、『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は声を張り上げる。これが夢であることは解っているが、だからと言って黙って目覚めるつもりはない。ニセモノとはいえ神様だ。挑まぬ理由はない。
体内の源素を燃やし、凛は刀を振るう。カグツチは炎の剣をもって刀と打ち合い、さばいていく。燃やせ、燃やせ、凛は一合ごとに強く念じる。その度に筋肉が、血液が、体中の在りとあらゆる場所が焔のように燃え上がっていく。そしてその速度はまさに神に届かんとばかりに迫り――
鍔競り合い、引いたのはどちらからか。
「確かに女の体に触れたことないもんなぁ」
「……せやな。そういう生い立ちやったな」
カグツチの物語を思い出し、凛は苦笑する。手を抜いているとは思わないが。
「カグツチ。その炎で母を焼き、生まれてすぐ父親に殺された神」
崎守 憂(CL2001569)はカグツチの神話を思い出しながら歩を進める。熱い、熱い、熱い。自らの炎に焼かれそうだ。それでも気にせず歩を進める。そこに居るのが火の源素であり、火の神様ならばなおのこと歩みを止める事はない。
「私の源素は火行。燃えるもの、燃やすもの……熱そのもの。温かく、暖かく……やがて熱く、灼く、痛みに変わるもの。私の身体を蝕み、私を身体を支える、生きる術そのもの。
ねぇ、カグツチと名乗る貴方なら同意してくれるのかしら?」
「お前がそう思うなら炎はそうある。だが――そうは思っていないんだろう?」
「ええ、表裏一体、善悪相殺、都合がいい一面だけの事実なんてないわ。温かい想いは過ぎれば焼ける苦痛だわ。暖かい願いは過ぎれば生きる苦痛だわ。
犠牲を払わない力なんてどこにもないわ」
憂を焼くように炎は燃え上がる。まるで自己の犠牲をいとわない業火。自分自身も、仲間も、敵も、世界も、全てを滅ぼそうとする大火。災害、暴威、この世の終わり。望まず母を焼き、殺されたカグツチの如く。
「それとも、カグツチと名乗る貴方なら否定してくれるのかしら?」
「そいつの答えは既にあんたが出している。再生と破壊。どちらもあるのが火。同意も、否定も同じこと。相反する事実すべてを包み込むのが、火だ。
死に方を選ぶことは、生き方を選ぶことでもあるんだからな」
その答えは憂に届いただろうか。既に灰となった世界に声は静かに響く。
「私の場合は火の源素になるのでしょうが……」
所在なさげに『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)がカグツチに声をかける。普段は体術を使って戦う彼女にとって、火の源素はなじみが薄い。それでも自分が火行であるならここに来るのでは、と思いながら足を運んでいた。
「構いやしないぜ。思うがままに変化する。それが源素だ」
カグツチの言葉に頷く燐花。力を示せ、と言われれば自分の最も得意なスタイルで戦うのみだ。天の源素で身体速度を強化し、速度を斬撃に変えて切りかかる。強く神経を集中させ、無呼吸のままに斬撃を繰り返す。
「――今のは龍の力を使う方の技の模倣。この技をもっと磨きあげたいのです」
「龍に知り合いはいねぇなぁ。……でもま、速度による斬撃なら心当たりがあるぜ。運がよければ縁も結べるんじゃないか。
あとさっきの天の源素だが――ふむ、天の使い手に縁があるのか。だったらそいつを頼るのもいいかもな」
「天の……縁」
燐花の脳裏に浮かび上がる顔が、一つ。
●
「ナナンだよぉ! 初めまして! なのだ!」
手をあげて挨拶する『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)。相手がだれであれ、奈南は物おじせずに挨拶をする。それは教育の賜物か、それとも奈南の性格か。元気のいい声が夢の中に響き、ツヌグイの顔も笑みに変わる。
「うーーーーーっっ!」
奈南は『ホッケースティック改造くん』を手にして力を籠める。力を示せ、と言われて奈南が思いついたのは、神具による打撃だ。源素の力を手にした武器に込め、大きく振りかぶる。強く、強く力を籠める自分をイメージし、そして――
「てやーーーーーーーーーーーーっっっっ!」
裂帛と同時に振り下ろされる一打。大地を穿つ一撃はそれだけにとどまらず、夢の中を激しく揺らした。立つことすら難しい激しい振動。自身の如き一撃が奈南を中心に広がっていく。
「見事ですな、ナナン殿。力のこもった一撃でしたぞ」
「えへへ。やったー!」
「ツヌグイ様、よろしくおねがいします」
納屋 タヱ子(CL2000019)は言って頭を下げる。計算さえたかのように二秒そのまま動かず、そして頭をあげる。その動きはタヱ子の生真面目さを感じさせた。こうと決めたらその信念を曲げることのないそんな頑固さ。
「私の使い方は……土行の力自体を強めるものではなく、水行の力を取り入れて土行を補完しようというものです。
邪道かもしれませんが、これが私の使い方です」
「源素に正も邪もない。ただあるがままにある。それだけじゃ」
ツヌグイの言葉に頷くタヱ子。土と水の源素を組み合わせ、螺旋を描くように体内で循環させる。土の源素で強き守りを、水の源素で傷の癒しを。倒れることのない浮沈の盾。源素により形成された力の輪がタヱ子を支えていた。
「土は水を含んで踏み固められる事でより硬くなることができます。水の流れを取り入れる事で土に栄養が行き渡る事もあるでしょう」
それはツヌグイと呼ばれる神の在り方でもあった。作物を育む土の神は静かにほほ笑んだ。
「私の力は人々を、妖や大妖、それらを統括するものから、お守りする為にあるのだと、思っています……。
ですが……今のままでは全てを、命を、守りきれない気持ちもしていて……」
『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994)はツヌグイを前に言葉を切りだす。妖、大妖、そしてそれを統べる者。力の差は比べるまでもない。そんなことは解っている。
「『あの方』とお話をして分かったのです。
『覚悟』が無ければ何も……『全て』も、『命』も、守りきる事など出来ないと……!」
理想だけでは人は救えない。いつだって、人を救うのは人の行為だ。そして行為とは失敗の可能性を伴う。失う可能性。敗ける可能性。その可能性を覚悟し、それでも前に進むことが行為だ。
「だから私は、私の力が尽きるまで、この力を使い、【全てを守る】と、心に誓ったのです」
その為の源素。その想いを込めて、護符を展開する。護符は巨大な盾となり、夢の空間に満ちていく。
「『ツヌグイ』さん……私の『覚悟』を最後まで見届けていて下さい!」
その瞳は戦う事を決めた者の目。それを貫き通すことが出来れば、あるいは――
●
「さて、源素の力を示してほしい、か」
『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)はタヂカラオを前にして腕を組み、思考する。天の源素を操る恭司の目の前にはよく鍛えられた肉体をもつ存在がいた。
「僕はてっきり、天行を司る神様はタケミカヅチやアメノウズメが来るものだとばかり思ってたよ」
「ワシの名前の意味は『天の手の力の強い男神』だ。そこがイメージとなったのさ」
なるほど、と恭司は納得する。どうあれ力を示せと言われればやるべきことは一つだ。カメラを構え、源素の解放と共にシャッターを押した。
「僕のイメージする天行とは、雷や芸術行動による『力』。真実を映し出す為の物だ。
今の姿も仮初のものなんだろうけど、こんな姿してるよって事で」
撮った写真をタヂカラオに渡し、笑みを浮かべる恭司。
「真実か。その信念で岩戸に籠った太陽をも映し出す、といった所だな」
「そうだね。それが皆の為になるのなら」
「タヂカラオ。貴方が現れた……という事は、普通の夢では無い様ですね」
目の前に居る存在を夢と断ずることなく『黒い靄を一部解析せし者』梶浦 恵(CL2000944)はそう判断する。夢には違いないのだが、ただの夢ではない。目の前にいる存在は源素に関わる何かだと理解していた。
「貴方に力を示すなら、私は気力の補填と複数名を想定した戦い方を示すべきでしょうね。気力の補填は天行にしか出来ない事ですから」
恵がイメージすると同時に夢の世界は平原に変わる。多くの仲間と、複数のタヂカラオ。大規模戦闘を想起させる多数対多数のぶつかり合い。互いの意地と生存をかけたぶつかり合い。
その中にあって、恵は冷静に戦局を見ていた。天の源素を広範囲に放って敵を穿ち、仲間の気力を充填していく。鋭く、強く。優しく包み込むように、そして背中を押すように。
「じゃあ、余はコレかな」
『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が指を鳴らすと同時に、その背後に巨大な門が現れる。赤い和風の門構えの真ん中にプリンスが立ち、そこから先に行くものを通さないとばかりに武器を構える。
「矢でも鉄砲でも、だっけ? 余の後ろの民全てを助けるための形さ」
自らが盾となり、仲間を守る。そんなプリンスの在り方が形となっていた。あらゆる神秘、あらゆる暴威、それから民を守ろうとする王の一手。未来を作るのは権力を集中させた王の言葉ではなく、王に従う民の動き。それを守ることは国を守る事と同意だ。
ならば王の役目は民を生かすこと。
「余の民なら、この後ろで必殺の技も明日への希望も準備してくれる。余がそれまでの壁になれるか、ちょっと試してみない?」
文句を言いながらも何時も手を貸してくれる者を思いながら、プリンスはタヂカラオを挑発するように手を招いた。
「だから煽り過ぎだってばー」
プリンスの後ろに立つように『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623) が現れる。言葉通り、空間が入れ替わったかのような場面転換。夢だから整合性とかないのは当たり前なんだけど。
「確かに日本人相手なら概念を形にするなら日本神話を当てはめるのはありありだよねぇ」
うんうんと頷きながら紡はタヂカラオを見る。それぞれ名前を聞けばどこかで聞いたことのある名前だ。日本の始まりに在った神の名前。それは実に分かりやすく、イメージがしやすいものだった。
「ハッピーエンドに続く為の虹の架け橋を作る為に攻撃にでなきゃなら、この子しかないよね?」
そして紡がイメージするのは雷の鳳凰。紡がもっとも頼りにする青い鳥。それを解き放ち、タヂカラオにぶつける。
「正直ボクは戦う力じゃなくて、守る力支える力が欲しいわけなのだけど」
「攻めの力か? 守りの力か?」
「両方かな。相棒や親友を支えたい」
「天行の神様はタヂカラオか! なあ、神様! オレと勝負してくんねー?」
紡の視線の先に居るのは『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)。タヂカラオに興味津々といった感じで興奮し、神具を握りしめて戦いを挑む。タヂカラオは鷹揚に頷き、打ってくるようにと手招きする。
「雷獣行っくぜー!」
翔の言葉と同時に稲妻が集う。雷撃は白い虎のような形を取り、地を走るように疾駆する。虎は飛びかかる瞬間に大きく身をかがめ、全身の力を使ってタヂカラオに飛びかかった。爆ぜるような音と共に雷の白が視界を覆いつくす。
「神様! 上の力使わせてくれねーかな。オレはみんなを守れるヒーローになりてーんだ!」
「守るために矢面に立つ。それがお前のヒーロー論か?」
「そうだ! その為に力がいる!」
伸ばした手が届くように、掴んだ物を取りこぼさないように。その為の力。全てを救うなんて言う理想をかなえる為の、力。
「そうです。戦う事で平穏な世界を守るのです」
真っ直ぐにタヂカラオを見て『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は声を張り上げる。戦う事は好きじゃないけど、戦わなくちゃ守れない事がある。矛盾していることなど分かっていても、それでも理不尽を前に目を伏して過ごすことだけはしたくなかった。
「五行、天行然り……火、水、土、木。それぞれが恵であり脅威であるように、戦う力もそうであると思うからです」
奏空がイメージするのは天から降り注ぐ光。それは温かく人を包み込む陽光でもあり、天から降り注ぐ矢でもある。天からの恵みと、天災。源素とはすなわちその両方をもつモノ。だからこそ、扱う者はその心が重要となる。
「敵を討つ光の矢、人々を守る暖かな光。それが俺の天行の力です!
この力で大切な何かを守るために、俺は戦います!」
「そうですわね。大事なのは力そのものではなく、力をどう扱うか、です」
奏空の言葉を継ぐように『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)が口を開く。その後に一礼し、自分の名を告げた。いのりのイメージのままにぬいぐるみのオブジェが現れる。
「わたくしの源素の力を示せと言うのであれば」
いのりがイメージするままに源素は形を変える。太陽の光を受け止めるように歪曲した透明なレンズ。それにより集約された光がぬいぐるみに集まり、破壊の力となる。
「必要なのは力そのものではなくそれをどう用いるか。その節度を問われているのでしょうか?」
「破壊は悪ではない。それを悪と定義づけるのは今を生きる者達だ。絶対の正義などない。絶対の悪などない。ただ対立する意見があるだけだ。
ワシらを扱うと言うのなら、忘れぬことだ。正義も悪もない。あるのは『力を使った』という事実のみ、と」
その結果、人が善悪を判断するだけなのだとタヂカラオは言う。
「…………」
タヂカラオの言葉を聞きながら大辻・想良(CL2001476)は上着の裾をしめる。上着の中に隠してある羽根が僅かに締め付けられた。青と金の瞳、白い髪の毛。目立つ風貌を隠すように俯き、しかし意を決したように目の前の神を名乗るものを見る。
「……源素を、示すんですか?」
言って想良は天の源素を体内にため込むように回し始める。想良にとって源素は妖を討ち滅ぼす為のモノ。父のように理不尽に殺される者を無くすための力。そのイメージが形となり、循環する。
「ええと、避けてくださいね……」
想良の体内にため込まれたエネルギー。それを直接ぶつけるように突撃する。羽根も本音も隠すように生きてきた想良。だがそれは優しさの裏返し。傷つける相手は最小限。その為に源素を集約し、力を示した。
「タヂカラオさん! 隠れて動かなくなった太陽を力ずくで動かした、日本一の力持ち!
アンタの胸を借りれるなんて、光栄だ!」
興奮冷めやらぬ、といった声で『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は拳を握る。有名なエピソードはやはり天岩戸を動かしたことだが、そこから由来して力やスポーツの神として崇められている。
「さて、どうすればアンタの剛力を一番体感できるか……相撲、かな」
遥の言葉と同時に、足元に土俵が顕現する。縄で囲まれた土の台。いつの間にやら相撲衣装を纏っているタヂカラオと遥。
「古代の相撲は殴ったり蹴ったりもありだったらしいけど、今回は無しで!」
「いいだろう。力と力のぶつかり合いだな」
言ってから互いに距離を取り、見合う。遥から見たタヂカラオはまさに岩の如きだ。だが恐れはしない。不可能と思われたことを可能にする。それが遥の目標だ。どれだけ相手が大きくとも、恐れずに挑み力を振るう。
「はっけよい――残った!」
ぶつかり合う力と力。その勝敗は――
「優雅で美しいこの天行の舞を見て頂けるかしら?」
『月々紅花』環 大和(CL2000477)はにこりと微笑み、背筋を伸ばす。大和の黒髪がさらりと流れるようにたなびいた。真っ直ぐな背筋とそれを支える手足。ただ立っているだけで人を魅了するのが、舞。
「天の力は舞うように魅せれば仲間を活性させ、癒し、そして相手にやすらぎを与えて眠らせる」
ふわり、と大和のスカートが舞う。ただ身体を動かしただけではありえない布の動き。それは身体全体を使って芸を描写するからこそ可能となる。頭の先から足の指先まで。その全てを使って真糸井芸術を魅せていた。
「そして天から多くの星を降らせ悪しきモノに天罰を与えるわ」
そして時に激しく大和は動く。動きの一手一手に源素を乗せ、鋭く解き放つ。生まれた光は矢となって天から注がれていく。それはまさに流星の如く。天より降り、輝いて消える一つの命。その儚さもまた、人の心を動かす力となる。
「ふふ、ありがとう」
跳ねるように興奮を示すすねこすりを見て、大和は静かにほほ笑んだ。
●
「先ずは感謝の言葉を。
水の源素の力で癒し救えた命は沢山ある。だから、使えるようになったことは偶然でも感謝を伝えておきたい」
『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)はクラミツハにそう言って頭を下げた。覚者として戦い、そして多くの傷を癒してきた。それは源素の力在っての事だ。それと会話が出来るなら、言うべきことはその一言だ。
「やはり扇がしっくり来るな」
袖から扇を取り出し、ゲイルは舞うように一歩一歩足を動かす。拍子を崩すことなく足で地面に陣を描き、邪気を払うように扇をゆっくりと振るう。イメージするのは海。かつて大妖と相対した時に導き出せた奇跡の領域。
「これが俺の、源素の扱い方だ」
繰り返す波の音。壮大な水平線。そこに住む数多の生命。イメージはある。ならばそこにたどり着くことは難しくない。源素とはその為の物なのだから。扇が大きく振るわれると同時、水のうねりが周囲を埋め尽くした。
「緊張するけどがんばるの!」
源素を示せ、と言われて胸を押さえて張り切る野武 七雅(CL2001141)。これが夢だとわかって入るが、それでも誰かに見せるとなると緊張してしまう。上手くやれるだろうか。失敗しないだろうかと自分を追い込んでしまう。
「なつねはちょっぴりお子様だからうまくできるか不安なの」
深呼吸して緊張をほぐす七雅。数度の呼吸の後に手をかざし、水の源素を解放する。七雅の足元が渦を巻き、うねり出す。うねりは次第に大きくなり、轟音と共に回り続ける大海象となった。
「こんな感じでいいの? なつね上手くやったつもりだけどわからないの」
「大丈夫だよ。よくできました、なつねちゃん」
「あ。ありがとうなの。水の神様さん!」
「そうか。君は……『クラミツハ』か」
『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)は普段の夢と違う感覚に戸惑いながら、目の前の存在を受け入れる。龍神とも言われる水の神様。雨と川を司り、人々に潤いを与える古来の神。
「君の話が本当なら試してみる価値が有りそうだね。これが俺の力」
秋人は心を沈め、ゆっくりと水の源素を練り上げていく。集まった水は龍の姿を取り、秋人の周りを護るように動き出す。湧き上がる水の力。その力に逆らうことなく身を任せていく。
「行くよ」
手にした弓を引き、矢を番えるようにイメージする。水の力を束ね、一本の矢のように凝縮した。解き放たれた水は無音で空を裂き、遠くに形成された的に命中する。残心の後に弓を下す秋人。
「うん、手応え有りだ。ありがとうクラミツハ」
「あ、源素を示す、の、ね」
桂木・日那乃(CL2000941)は無表情に言って源素を体内で循環させる。源素の高ぶりに反比例するように、日那乃の周囲の温度が下がっていく。白く光るそれはダイヤモンドダスト。細かな氷の霧が日那乃の周りで煌めき、優しい光と共に傷を癒す力となる。
「イメージそのものが源素を扱う力……攻撃も、回復でも?」
「そうよ。源素に決まった形はないわ。ただ使いやすいように形を変えているだけ」
「あれって……はじまりの神様も……? 源素を統べる……もしかして源素を奪うって、源素の攻撃を吸収……する?」
「そうなる可能性もある。そうならない可能性もある」
日那乃の言葉にクラミツハは真剣な瞳で応えた。曖昧な言葉で答えを濁しているのではない。この言葉が最適だとその表情が告げていた。
「すべては扱う者次第。それを忘れないでね」
「……力、か」
篁・三十三(CL2001480)は自らの手を見て苦々しく口を開いた。力の有無、それにより生まれた差別。それを思い出す。あの時受けた恐怖の視線。それが今も三十三の心を蝕んでいる。そして夢の中だからか、その痛みは身を裂くように肉体を痛めつけていた。
「さとみん、どしたの!? ひどい怪我!」
そんな三十三の様子を見て『モイ!モイ♪モイ!』成瀬 歩(CL2001650)は慌てて駆け寄ってくる。奇妙な夢のことなど忘れ、胸を押さえる三十三の方を見上げた。水の源素を施し、三十三の傷を癒そうとする。
「歩ちゃん……」
「大丈夫? お腹すいてない? あゆみ、お弁当持ってきたんだ」
言葉と同時に歩の手に小さな弁当箱が現れる。ご飯とサラダと卵焼きとハンバーグ。可愛らしい内容を前に、三十三は思わず笑みを浮かべる。
(ああ、そうだ。自分は一人じゃない)
過去は変えられない。傷はまた別の形で苛んでくるのだろう。結局のところ、そのマイナスも含めての自分なのだから。だけど――支えてくれる仲間がいる。三十三はその支えのままに前を見る。
「歩ちゃんはきっと将来いいお嫁さんになれるね」
「お嫁さん? じゃあさとみんのお嫁さんになってあげるね、えへへ♪」
「そうだね。その為にもこの世界を守らなくちゃいけないね」
平和を欲するなら、『一の何か』の要求を飲めばいい。一時の平和――少なくとも自分が死ぬまでの平和は得られる。
だがそれはただの先延ばしだ。後世に負債を残して、自分が平和に生きる事に耐えられない。
その為に、この源素(ちから)はあるのだから――
●
カグツチと相対して炎を示し、灰となった憂はたゆたう意識の中で声を聴く。
『技は示した。これで彼らは源素の極技を扱える』
『一二の技と行の纏い。それを下地に顕現できる』
『だが――』
『力に力で抗する限りは、アレと同等』
『否、年月の差で彼らに勝ち目はない』
『力で源素を総べるアレとは別方向で源素を扱えれば――』
薄れゆく意識の中、憂は声の主を理解する。
(これは……源素の、声?)
その意味を理解するより先に、憂の意識は途切れた。
●
「……ふあ」
ククル ミラノ(CL2001142)は布団から起きて、伸びをする。春の空気が心地良い。
今日もまた、一日が始まる――
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『源素の祝福』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
