≪Vt2019≫バレンタインズ・ウィーク
●
「はーろろん♪ こんにちはー!」
冷たい風の吹く五麟の街。
そこを歩く覚者の姿を見かけて元気よく声を掛けてきたのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)だった。手には最新の携帯電話を持っており、何やら地図を見ていたらしい。
後ろに妹らしい少女がいることも考えると、姉妹でお出かけといった雰囲気だ。
「うん、バレンタインも近いからちょっとお菓子のお店見てみようと思って。結構この街にもあるんだよね」
この時期の商店は、猫も杓子もバレンタインを旗に掲げている。麦としてはそうしたスイーツを楽しみたいそうだ。それに、知り合いに渡すための友チョコの調達という意味合いもあるらしい。
覚者用に手作りも検討したそうだが、割と量が多いという経験則もあって、今年は趣向を変えてみることにしたらしい。大事に挑まなくてはいけない覚者達に、おいしいものを食べてほしいという彼女なりの気遣いもあるのだろう。
と、そんな話をしていると、麦は覚者のバレンタイン事情へと水を向けてきた。
「そう言えば、そっちはバレンタインどうするの? せっかくのバレンタインなんだし、なにかあるんじゃないの? せっかくだから聞かせてよ!」
その辺聞く辺りに躊躇が無いのは、麦の麦たるゆえんである。年頃少女の好奇心は止まらない。
バレンタインデーという習慣が日本国内で独自の発展を遂げたのは、小売店の策謀だとはよく言われる話だ。しかし、その歴史はもはや浅いものではなく、一つの文化として成熟しているということも出来る。だったら、素直にその習慣を楽しんでみるのも良いだろう。
自分と繋がる大事な人たちとの絆を再確認する、そんな一日として。
「はーろろん♪ こんにちはー!」
冷たい風の吹く五麟の街。
そこを歩く覚者の姿を見かけて元気よく声を掛けてきたのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)だった。手には最新の携帯電話を持っており、何やら地図を見ていたらしい。
後ろに妹らしい少女がいることも考えると、姉妹でお出かけといった雰囲気だ。
「うん、バレンタインも近いからちょっとお菓子のお店見てみようと思って。結構この街にもあるんだよね」
この時期の商店は、猫も杓子もバレンタインを旗に掲げている。麦としてはそうしたスイーツを楽しみたいそうだ。それに、知り合いに渡すための友チョコの調達という意味合いもあるらしい。
覚者用に手作りも検討したそうだが、割と量が多いという経験則もあって、今年は趣向を変えてみることにしたらしい。大事に挑まなくてはいけない覚者達に、おいしいものを食べてほしいという彼女なりの気遣いもあるのだろう。
と、そんな話をしていると、麦は覚者のバレンタイン事情へと水を向けてきた。
「そう言えば、そっちはバレンタインどうするの? せっかくのバレンタインなんだし、なにかあるんじゃないの? せっかくだから聞かせてよ!」
その辺聞く辺りに躊躇が無いのは、麦の麦たるゆえんである。年頃少女の好奇心は止まらない。
バレンタインデーという習慣が日本国内で独自の発展を遂げたのは、小売店の策謀だとはよく言われる話だ。しかし、その歴史はもはや浅いものではなく、一つの文化として成熟しているということも出来る。だったら、素直にその習慣を楽しんでみるのも良いだろう。
自分と繋がる大事な人たちとの絆を再確認する、そんな一日として。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.バレンタイン近辺の日常を過ごす
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
バレタ・LINE・デー、KSK(けー・えす・けー)です。
今回は皆様がバレンタイン当日、そしてその準備のために何をしたかを利かせていただければと思います。
●行動について
【1】バレンタイン前日
バレンタイン当日までに行った準備を描写させていただきます。
大事な人のためにチョコレート作りをしたり、チョコレートを作ろうとして失敗したり。
あるいは、バレンタインに他のプレゼントを準備している様子も良いでしょう。
【2】バレンタイン当日
バレンタイン当日の描写を行います。
誰かと一緒にバレンタインを楽しんだり、誰からももらえず家に帰ってお母さんのチョコレートをもらったりすると良いでしょう。
あるいは、バレンタインフェアでちょっといい感じのチョコレートパフェを出しているお店に行ってみるのもアリです。OPで麦も妹と遊びに行っていました。
【3】バレンタインなどなかった
あなたの心の目に、バレンタインは映っていません。
今日はただの平日です。
そんな平凡な、そして哀しい姿を描写します。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
NPCの麦も参加しております。
何かあればお声かけください。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
16/30
16/30
公開日
2019年02月27日
2019年02月27日
■メイン参加者 16人■

●
バレンタインデーは思いを伝えるための日だ。愛情、友情、日ごろの感謝、様々なものがあるだろう。だが、そのために手作りをするとなると、相応の技術が必要になる。
そんなわけで、バレンタインに向けて澄香の開いた【フォレ】のチョコレート教室、ふたを開けてみると実に賑やかなメンバーがそろっていた。
「モイ♪ スミカ、今日はお誘いKiitosですの」
「なつねはお友達の為にとびっきりのチョコレートをつくりたいの」
「あゆみもお父さんとかお兄ちゃんとかにもあげるけど、おともだちにもあげたいからたくさん作るね」
集まってくれた可愛い生徒達の姿に張り切る澄香。
ユスティーナ、七雅、歩もそれぞれに美味しいチョコレートを作ろうと気合を入れている。
特にユスティーナは自分で、クマと白キツネのアップリケ付フリルエプロンまで用意していた。
そして澄香のチョコレート教室が始まった。その中で、早速七雅は難しそうな顔で温度計とにらめっこをしている。
「えっとえっと……うーんむつかしいの。温度は今42度なの」
去年の七雅が作ったチョコレートは、自分的に微妙な結果に終わってしまった。だからこそ、今年こそはきれいなのを作りたいという想いは強い。
とは言え、お菓子の作り方を教えるというのも大事だが、それ以上に楽しんで作る場だ。澄香も周りをリラックスさせるように心がけている。
「チョコを湯煎にかけて少しずつ溶かしていきましょうね。あゆみちゃん、泡立て器は静かに使ってね」
「もっとしずかに、だね、はーい」
うっかりはしゃぎ過ぎ、泡だて器を振り回してしまう歩。澄香はくすっと笑いながら注意をする。本気で怒っているわけではない。
和やかな空気の中、チョコレートはその姿を変えていった。
「ごめん、遅くなっちゃって」
「オレはたいして待ってないから別に気にしなくていいぜ。なんかヨレヨレだな?」
翔が心配するのも無理はない。
バレンタインの当日、約束の時間に遅れてきた紡の顔は、いかにも疲れ切っていた。前日ラストに教授から飛んできた無茶ぶり。応えるために睡眠時間を削り、ようやく動けるようになったのは待ち合わせ時間わずか5分前だったのだ。
翔も部活で到着はギリギリだったのは不幸中の幸いか。もっとも彼は彼で、カップルだらけの環境で待っていたため、「これじゃあオレと紡がカップルみたいじゃねーか!」ともやもやしていたのだが。
「はい、これ」
やっとの思いでチョコの入った包みを渡す紡。クッキーをチョコでコーティングしたものが入っている。見栄えは今一つだが、翔にはお花のチョコ付きを用意した。
しかし、集中力が持ったのはここまで。ベンチに座ると、お礼を聞く間もなく眠りについてしまった。
バレンタインデーの冷たい風に吹かれながら、大和は颯爽と歩を進めていた。行き先は世話になった人々や、古妖達。いわゆる「感謝チョコ」を配るため、街をあちらこちらに出歩いているのである。
(今は大変な時だからこそ今、ここに生きていることを感謝しないと)
ただの自己満足ではないかと指摘されたら、大和はそうかもしれないと答えることだろう。だけど、戦うだけが街を守る手段でないことを彼女は知っている。
これが少しでも誰かの心を温めることが出来るのなら、それで十分だ。
「うぅ……何か今日の私、駄目駄目デス」
リーネはすっかり凹んでいた。
恋人である赤貴を部屋に招いたはいいが、転ぶは部屋の置物を落とすわと大惨事を起こしてしまったのだ。年下の恋人への愛情と罪悪感が暴走してしまったのである。
赤貴がフォローしていなければ、この程度では済まなかったことだろう。
一方、赤貴はと言うと落ち着いたものだ。身だしなみも整っており、わざわざバラの花束まで持参していた。この日に、恋人の家に招かれるということの意味を理解し、準備に余念がない。
それを見て、リーネの恥ずかしさは限界を超えてしまう。
「…折角赤貴君にチョコを渡そうと気合を入れたのに……ハッ!? ……あうぅ……渡す前に言っちゃうなんて本当に駄目駄目デスー!」
混乱が混乱を呼ぶ悪循環にはまってしまうリーネ。
だが、赤貴はそんな彼女を優しく支えた。
「勿論、喜んで受け取るさ。……他の誰からも受け取る気はないからな」
赤貴の言葉に、リーネは顔をぱぁっと輝かせる。
先ほどまでの暗い雰囲気もすっかり消え去り、甘いムードが漂う。そして、空気に身を任せるようにして、リーネは目を閉じ、唇を突き出すと、恋人としての証を求めた。
すると赤貴は自然にリーネを抱きしめ、そっと耳元に口を寄せる。
「ich liebe Sie」
互いの母国語で会話位したいものだと、学んだ言葉だ。『貴女を誰にも渡さない』のような凝った言い回しは出来ないが、このシンプルな言い回しなら覚えた。
そして、リーネの想いに答える赤貴。
バレンタインに必要なのは、このシンプルな想いだけだ。
「あー……しまった……」
恭司は内心で頭を抱えていた。
そんな彼の様子を、膝の上で燐花は首を傾げて伺っている。背中は恭司に預ける形だ。
「めいちゃんじゃないのでこうなると思いますが」
めいちゃんは恭司の家の黒猫の名前だ。来て早々、膝の上に言われたので、座ってみたらこうなった。
たしかに恭司は座るよう言ったが、どう座れとは言っていないので仕方ない。たまには驚いてもらおうと思ったのだが、慣れないことをするもんじゃない。
「よいしょっと」
状況の分からない燐花を持ち上げ、恭司は横抱きに抱え直し、今度こそ言いたかった言葉を口にする。
「ハッピーバレンタイン、燐ちゃん!」
「あ、ありがとうございます……?」
いきなり抱きかかえられて、思わずしがみついた所に不意打ちを受ける燐花。結局今年も先にチョコを受け取る形になってしまった。こればっかりはどんなに反応速度を鍛えた所でどうしようもない。
冷蔵庫の中にはせっかく、チョコレートを忍ばせているというのに。
抱き付いてしまった恥ずかしさを隠すのが精一杯です。
「それなりに美味しくできたっていう自信はあるんだけどねぇ、どうかな?」
「とっても驚きました。美味しいです」
一つ口に摘まみ入れ、わずかにほほ笑みを浮かべる燐花。自分のために作ってくれたチョコレートは、素直に嬉しいものだ。
(来年は、更に美味しいチョコを目指そうかな?)
そして、燐花の姿を見て、恭司の中に密かな決意が芽生える。
こうして、バレンタインの思い出は一つずつ積み重なっていくのだ。
紡と翔が合流してからどれだけの時間が経ったろうか。
風の冷たさもあって、紡は目を覚ますと、膝枕をされていたことに気が付く。
目に入ったのは紡の寝顔を見ないようそっぽを向く翔の顔だった。
成長したとは言え、まだ幼いとも言える翔。だけど、下から見上げるその顔は、普段彼が戦いの時に覚醒した姿より、なぜか男の顔をしていた。
そして、紡は知らない。
翔が寝顔から目を背ける時、紡の着けている髪留めに気付いて、そっと相好を崩したことを。
言葉を交わさずとも、彼らの心は奥底でしっかりと繋がっているのだ。
●
バレンタインデーと言えば、どこを見てもチョコが並んでいるものだ。美味しいスイーツを楽しむというのも、バレンタインの過ごし方としては間違っていないだろう。
奏空とたまきの目の前には、でーんと大きな皿に盛られたフルーツ山盛りのチョコレートパフェが鎮座していた。
「きっとこの1つで、2人で3日分のカロリー……」
2人で過ごす、4度目のバレンタイン。デートの場所はフルーツパーラーとなった。
普段は女性向けの店だが、バレンタインフェアでカップルもちらほら見受けられる。
奏空も当初は緊張していたが、大きなパフェがやって来たのを見ると、年相応の少年らしさの方が顔をのぞかせる。
「あはは、二人でやっつけようか!」
スプーンを取る奏空。
しかし、たまきはそれを制し、ここに来た一番の目的を口にする。顔が熱いのは、たぶん暖房のせいじゃない。
「奏空さん、『あーん』です」
この店をチョイスした最大の理由は、この恋人らしいデートを行うためだ。恥ずかしさはあるが、是非とも一度はやっておきたかった。
一瞬呑み込めずにきょとんとした奏空だったが、すぐに状況を理解し、大きく口を開いた。
そして、『探偵見習い』の名は伊達じゃない。今度こそ自分がスプーンを手に取り、すくったパフェをたまきの口に運ぶ。
差し出されたパフェを、たまきはにっこり笑って口にした。
口にクリームをつけたままの奏空の姿に、思わず胸がきゅんとしてしまう。
「奏空さん、大好きです」
「たまきちゃん、俺も大好きだよ」
まだ微笑ましさの残る、甘い時間。チョコレートの甘さを思えば、十分許されるだろう。
最後にサクランボをたまきが食べるまで、この甘い時間は続くのだった。
覚者が守護使役と戯れる姿はこの街で珍しいものではない。
日那乃とマリンはバレンタインの昼下がり、1人と1匹で心行くまで喫茶店のスイーツを堪能していた。表情が分かりづらいのは相変わらずだが、パフェの写真を撮ったりするさまからは、以前よりも確かに感情を感じさせた。
(あとで、真似して作れないか、挑戦)
先ほどこのデザートの作り方は聞いておいた。後で早速作ってみるつもりだ。
未来に向けて、日那乃も少しずつ変わってきている。
バレンタインの一日も終わりに近づくころ、彩吹は千雪を連れて家まで帰ってきた。
「今日は兄も出かけているから、硬くならないで大丈夫よ」
千雪の仕事帰りに誘って、先ほどまで食事をしていたのだ。ちなみに、言葉に他意はなく、ただ安心させるためだけに言っている。哀しい話だが。
(今のところチョコは貰えてないよー。でも僕がチョコあげたし問題は……ない、はずー?)
しょんぼりした表情で部屋に迎えられる千雪。しかし、そこに逆転の奇跡は待っていた。
「え、え、手作り? マジか……マジかー」
「知っての通り、私の料理の腕はいまいちなんだけど。綺麗なチョコレートのお礼と日頃の感謝だよ」
そこに待っていたのは彩吹の用意したお茶と、手作りのマシュマロクッキーだった。
「彩吹さん、ありがとー。ほんとーに嬉しー」
「うん、召し上がれ。ほら、あーん」
彩吹にクッキーを口に運ばれると、千雪はへらりと表情を溶かし、黙々とクッキーを平らげていく。
そんな姿を彩吹は楽しそうに見つめている。
甘い雰囲気など微塵もないが、場はすっかり明るくなっていた。
「これでも十分幸せなんだけど、もうちょっと甘い雰囲気もかあったら、とかは流石に高望みすぎなのかなー」
天にも昇る気持ちから、つい千雪の口から本音が漏れる。
その時、千雪の頬に柔らかいものが触れた。
何が起きたのか理解できず、目を丸くする千雪に彩吹はいたずらっぽい微笑みを向けた。
「これならいい?」
「さぁ、後は待つだけ。きっと可愛くなりますわっ」
オーブンに火を入れ、ご満悦の表情のユスティーナ。冷やす工程も存在するが、後は出来上がるのを待つだけだ。
みな、それぞれチョコレートを完成させつつある。澄香もその姿を見て、ほうっとため息をつく。これで一安心だ。
(私もあんな時代があったのですよねえ)
一生懸命な女の子たちの姿を見て、自分の昔を思い出してみる澄香。
もっとも、こっそり本命チョコの準備をして、愛する者の姿を思い浮かべている彼女の姿もまた、少女のそれと大差はなかった。
「いっぱい教えてくれてありがとうなの! 去年よりすっごく素敵なチョコレートを作ることができそうなの!」
「ゆすちゃん用のは中に赤いいちごクリーム入れるんだ。かわいくてゆすちゃんっぽいでしょ」
そんな澄香の下へ、生徒達は誇らしげに報告にやってくる。
七雅は空気を入れないよう形を整えるやり方を聞いて、かわいいデコレーションが出来たとご満悦。
歩もトリュフチョコを作るため、苦心していたが、ようやく満足のいくものが出来上がった。ユスティーナに向けて作ったものには、いちごクリームも入れてみた。
それからまた時間を取って、ラッピングを始めて、ようやくチョコは完成となる。チョコを作るのも簡単ではない。1人きりでやっていたら、ちゃんと作り上げることが出来たかどうか。
「それじゃあ、ティータイムにしましょうか」
そこで皆をねぎらうように、澄香が試食用のチョコレートを持ってきた。
ユスティーナが作ったのはモッカパラというモカケーキ。そして、ブルーベリーのフレーバーティーを用意している。歩向けにそっと、クマとキツネのチョコも用意している。
ここからが、フォレの大一番だ。
バレンタインはこうして今年も過ぎていく。
世界が大きく動き、全てが変わっていっても。大事な人への想いを確かめながら。
バレンタインデーは思いを伝えるための日だ。愛情、友情、日ごろの感謝、様々なものがあるだろう。だが、そのために手作りをするとなると、相応の技術が必要になる。
そんなわけで、バレンタインに向けて澄香の開いた【フォレ】のチョコレート教室、ふたを開けてみると実に賑やかなメンバーがそろっていた。
「モイ♪ スミカ、今日はお誘いKiitosですの」
「なつねはお友達の為にとびっきりのチョコレートをつくりたいの」
「あゆみもお父さんとかお兄ちゃんとかにもあげるけど、おともだちにもあげたいからたくさん作るね」
集まってくれた可愛い生徒達の姿に張り切る澄香。
ユスティーナ、七雅、歩もそれぞれに美味しいチョコレートを作ろうと気合を入れている。
特にユスティーナは自分で、クマと白キツネのアップリケ付フリルエプロンまで用意していた。
そして澄香のチョコレート教室が始まった。その中で、早速七雅は難しそうな顔で温度計とにらめっこをしている。
「えっとえっと……うーんむつかしいの。温度は今42度なの」
去年の七雅が作ったチョコレートは、自分的に微妙な結果に終わってしまった。だからこそ、今年こそはきれいなのを作りたいという想いは強い。
とは言え、お菓子の作り方を教えるというのも大事だが、それ以上に楽しんで作る場だ。澄香も周りをリラックスさせるように心がけている。
「チョコを湯煎にかけて少しずつ溶かしていきましょうね。あゆみちゃん、泡立て器は静かに使ってね」
「もっとしずかに、だね、はーい」
うっかりはしゃぎ過ぎ、泡だて器を振り回してしまう歩。澄香はくすっと笑いながら注意をする。本気で怒っているわけではない。
和やかな空気の中、チョコレートはその姿を変えていった。
「ごめん、遅くなっちゃって」
「オレはたいして待ってないから別に気にしなくていいぜ。なんかヨレヨレだな?」
翔が心配するのも無理はない。
バレンタインの当日、約束の時間に遅れてきた紡の顔は、いかにも疲れ切っていた。前日ラストに教授から飛んできた無茶ぶり。応えるために睡眠時間を削り、ようやく動けるようになったのは待ち合わせ時間わずか5分前だったのだ。
翔も部活で到着はギリギリだったのは不幸中の幸いか。もっとも彼は彼で、カップルだらけの環境で待っていたため、「これじゃあオレと紡がカップルみたいじゃねーか!」ともやもやしていたのだが。
「はい、これ」
やっとの思いでチョコの入った包みを渡す紡。クッキーをチョコでコーティングしたものが入っている。見栄えは今一つだが、翔にはお花のチョコ付きを用意した。
しかし、集中力が持ったのはここまで。ベンチに座ると、お礼を聞く間もなく眠りについてしまった。
バレンタインデーの冷たい風に吹かれながら、大和は颯爽と歩を進めていた。行き先は世話になった人々や、古妖達。いわゆる「感謝チョコ」を配るため、街をあちらこちらに出歩いているのである。
(今は大変な時だからこそ今、ここに生きていることを感謝しないと)
ただの自己満足ではないかと指摘されたら、大和はそうかもしれないと答えることだろう。だけど、戦うだけが街を守る手段でないことを彼女は知っている。
これが少しでも誰かの心を温めることが出来るのなら、それで十分だ。
「うぅ……何か今日の私、駄目駄目デス」
リーネはすっかり凹んでいた。
恋人である赤貴を部屋に招いたはいいが、転ぶは部屋の置物を落とすわと大惨事を起こしてしまったのだ。年下の恋人への愛情と罪悪感が暴走してしまったのである。
赤貴がフォローしていなければ、この程度では済まなかったことだろう。
一方、赤貴はと言うと落ち着いたものだ。身だしなみも整っており、わざわざバラの花束まで持参していた。この日に、恋人の家に招かれるということの意味を理解し、準備に余念がない。
それを見て、リーネの恥ずかしさは限界を超えてしまう。
「…折角赤貴君にチョコを渡そうと気合を入れたのに……ハッ!? ……あうぅ……渡す前に言っちゃうなんて本当に駄目駄目デスー!」
混乱が混乱を呼ぶ悪循環にはまってしまうリーネ。
だが、赤貴はそんな彼女を優しく支えた。
「勿論、喜んで受け取るさ。……他の誰からも受け取る気はないからな」
赤貴の言葉に、リーネは顔をぱぁっと輝かせる。
先ほどまでの暗い雰囲気もすっかり消え去り、甘いムードが漂う。そして、空気に身を任せるようにして、リーネは目を閉じ、唇を突き出すと、恋人としての証を求めた。
すると赤貴は自然にリーネを抱きしめ、そっと耳元に口を寄せる。
「ich liebe Sie」
互いの母国語で会話位したいものだと、学んだ言葉だ。『貴女を誰にも渡さない』のような凝った言い回しは出来ないが、このシンプルな言い回しなら覚えた。
そして、リーネの想いに答える赤貴。
バレンタインに必要なのは、このシンプルな想いだけだ。
「あー……しまった……」
恭司は内心で頭を抱えていた。
そんな彼の様子を、膝の上で燐花は首を傾げて伺っている。背中は恭司に預ける形だ。
「めいちゃんじゃないのでこうなると思いますが」
めいちゃんは恭司の家の黒猫の名前だ。来て早々、膝の上に言われたので、座ってみたらこうなった。
たしかに恭司は座るよう言ったが、どう座れとは言っていないので仕方ない。たまには驚いてもらおうと思ったのだが、慣れないことをするもんじゃない。
「よいしょっと」
状況の分からない燐花を持ち上げ、恭司は横抱きに抱え直し、今度こそ言いたかった言葉を口にする。
「ハッピーバレンタイン、燐ちゃん!」
「あ、ありがとうございます……?」
いきなり抱きかかえられて、思わずしがみついた所に不意打ちを受ける燐花。結局今年も先にチョコを受け取る形になってしまった。こればっかりはどんなに反応速度を鍛えた所でどうしようもない。
冷蔵庫の中にはせっかく、チョコレートを忍ばせているというのに。
抱き付いてしまった恥ずかしさを隠すのが精一杯です。
「それなりに美味しくできたっていう自信はあるんだけどねぇ、どうかな?」
「とっても驚きました。美味しいです」
一つ口に摘まみ入れ、わずかにほほ笑みを浮かべる燐花。自分のために作ってくれたチョコレートは、素直に嬉しいものだ。
(来年は、更に美味しいチョコを目指そうかな?)
そして、燐花の姿を見て、恭司の中に密かな決意が芽生える。
こうして、バレンタインの思い出は一つずつ積み重なっていくのだ。
紡と翔が合流してからどれだけの時間が経ったろうか。
風の冷たさもあって、紡は目を覚ますと、膝枕をされていたことに気が付く。
目に入ったのは紡の寝顔を見ないようそっぽを向く翔の顔だった。
成長したとは言え、まだ幼いとも言える翔。だけど、下から見上げるその顔は、普段彼が戦いの時に覚醒した姿より、なぜか男の顔をしていた。
そして、紡は知らない。
翔が寝顔から目を背ける時、紡の着けている髪留めに気付いて、そっと相好を崩したことを。
言葉を交わさずとも、彼らの心は奥底でしっかりと繋がっているのだ。
●
バレンタインデーと言えば、どこを見てもチョコが並んでいるものだ。美味しいスイーツを楽しむというのも、バレンタインの過ごし方としては間違っていないだろう。
奏空とたまきの目の前には、でーんと大きな皿に盛られたフルーツ山盛りのチョコレートパフェが鎮座していた。
「きっとこの1つで、2人で3日分のカロリー……」
2人で過ごす、4度目のバレンタイン。デートの場所はフルーツパーラーとなった。
普段は女性向けの店だが、バレンタインフェアでカップルもちらほら見受けられる。
奏空も当初は緊張していたが、大きなパフェがやって来たのを見ると、年相応の少年らしさの方が顔をのぞかせる。
「あはは、二人でやっつけようか!」
スプーンを取る奏空。
しかし、たまきはそれを制し、ここに来た一番の目的を口にする。顔が熱いのは、たぶん暖房のせいじゃない。
「奏空さん、『あーん』です」
この店をチョイスした最大の理由は、この恋人らしいデートを行うためだ。恥ずかしさはあるが、是非とも一度はやっておきたかった。
一瞬呑み込めずにきょとんとした奏空だったが、すぐに状況を理解し、大きく口を開いた。
そして、『探偵見習い』の名は伊達じゃない。今度こそ自分がスプーンを手に取り、すくったパフェをたまきの口に運ぶ。
差し出されたパフェを、たまきはにっこり笑って口にした。
口にクリームをつけたままの奏空の姿に、思わず胸がきゅんとしてしまう。
「奏空さん、大好きです」
「たまきちゃん、俺も大好きだよ」
まだ微笑ましさの残る、甘い時間。チョコレートの甘さを思えば、十分許されるだろう。
最後にサクランボをたまきが食べるまで、この甘い時間は続くのだった。
覚者が守護使役と戯れる姿はこの街で珍しいものではない。
日那乃とマリンはバレンタインの昼下がり、1人と1匹で心行くまで喫茶店のスイーツを堪能していた。表情が分かりづらいのは相変わらずだが、パフェの写真を撮ったりするさまからは、以前よりも確かに感情を感じさせた。
(あとで、真似して作れないか、挑戦)
先ほどこのデザートの作り方は聞いておいた。後で早速作ってみるつもりだ。
未来に向けて、日那乃も少しずつ変わってきている。
バレンタインの一日も終わりに近づくころ、彩吹は千雪を連れて家まで帰ってきた。
「今日は兄も出かけているから、硬くならないで大丈夫よ」
千雪の仕事帰りに誘って、先ほどまで食事をしていたのだ。ちなみに、言葉に他意はなく、ただ安心させるためだけに言っている。哀しい話だが。
(今のところチョコは貰えてないよー。でも僕がチョコあげたし問題は……ない、はずー?)
しょんぼりした表情で部屋に迎えられる千雪。しかし、そこに逆転の奇跡は待っていた。
「え、え、手作り? マジか……マジかー」
「知っての通り、私の料理の腕はいまいちなんだけど。綺麗なチョコレートのお礼と日頃の感謝だよ」
そこに待っていたのは彩吹の用意したお茶と、手作りのマシュマロクッキーだった。
「彩吹さん、ありがとー。ほんとーに嬉しー」
「うん、召し上がれ。ほら、あーん」
彩吹にクッキーを口に運ばれると、千雪はへらりと表情を溶かし、黙々とクッキーを平らげていく。
そんな姿を彩吹は楽しそうに見つめている。
甘い雰囲気など微塵もないが、場はすっかり明るくなっていた。
「これでも十分幸せなんだけど、もうちょっと甘い雰囲気もかあったら、とかは流石に高望みすぎなのかなー」
天にも昇る気持ちから、つい千雪の口から本音が漏れる。
その時、千雪の頬に柔らかいものが触れた。
何が起きたのか理解できず、目を丸くする千雪に彩吹はいたずらっぽい微笑みを向けた。
「これならいい?」
「さぁ、後は待つだけ。きっと可愛くなりますわっ」
オーブンに火を入れ、ご満悦の表情のユスティーナ。冷やす工程も存在するが、後は出来上がるのを待つだけだ。
みな、それぞれチョコレートを完成させつつある。澄香もその姿を見て、ほうっとため息をつく。これで一安心だ。
(私もあんな時代があったのですよねえ)
一生懸命な女の子たちの姿を見て、自分の昔を思い出してみる澄香。
もっとも、こっそり本命チョコの準備をして、愛する者の姿を思い浮かべている彼女の姿もまた、少女のそれと大差はなかった。
「いっぱい教えてくれてありがとうなの! 去年よりすっごく素敵なチョコレートを作ることができそうなの!」
「ゆすちゃん用のは中に赤いいちごクリーム入れるんだ。かわいくてゆすちゃんっぽいでしょ」
そんな澄香の下へ、生徒達は誇らしげに報告にやってくる。
七雅は空気を入れないよう形を整えるやり方を聞いて、かわいいデコレーションが出来たとご満悦。
歩もトリュフチョコを作るため、苦心していたが、ようやく満足のいくものが出来上がった。ユスティーナに向けて作ったものには、いちごクリームも入れてみた。
それからまた時間を取って、ラッピングを始めて、ようやくチョコは完成となる。チョコを作るのも簡単ではない。1人きりでやっていたら、ちゃんと作り上げることが出来たかどうか。
「それじゃあ、ティータイムにしましょうか」
そこで皆をねぎらうように、澄香が試食用のチョコレートを持ってきた。
ユスティーナが作ったのはモッカパラというモカケーキ。そして、ブルーベリーのフレーバーティーを用意している。歩向けにそっと、クマとキツネのチョコも用意している。
ここからが、フォレの大一番だ。
バレンタインはこうして今年も過ぎていく。
世界が大きく動き、全てが変わっていっても。大事な人への想いを確かめながら。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
