悪道が終わったなどと受け入れぬ 雷太鼓の望まぬ喧嘩
●とある隔者の望まぬ喧嘩
七星剣崩御――
「八神様、負けちまったかー」
その報を聞いたある隔者は、その事実を受け止めて静かにため息をついた。八神に命じられて人に仇為す古妖を相手していたため、五麟決戦には参戦出来なかったのだ。
尊敬していた人が戦いに負けて死んだのだ。その喪失感は大きい。しかしそれもその人が選んだ道なのだから仕方ない。喧嘩の勝ち負けは受け止める。それが彼女――『雷太鼓』と呼ばれる隔者の生き方だった。
「これであたいらもお終いだな。ま、大人しく縛につくか」
彼女も七星剣に所属して好き勝手暴れていた隔者だ。覚者の邪魔をしたりと捕まっても仕方のない経歴はある。法の裁きを受けることはやぶさかではなかった。
――あくまで彼女は、である。
「いや! 俺達はまだ負けてねえ!」
「ここに戦えるだけの隔者がいるんだ! FiVE如きに降伏するなどありえない!」
声を上げたのは、武闘派の隔者だ。先の大戦には様々な理由で参加できず、この結果に不満を持つ者達である。
「お前らなあ、往生際が――」
「確かに組織の維持はもうできねえ! でもこの武力があればまだ一花咲かせることが出来る!」
「応よ! 温いこと言ってるFiVEなんかに膝を屈するなんか認められねぇ!」
「『雷太鼓』の姉御! 戦わずに終わる無念、悔しくないんですかい!?」
彼らとて、隔者の終わりは理解している。
それでも今まで培ってきた強さが、こんな形で終わりを告げるのが納得できないのだ。
「姉御がやらないんでしたら、俺達だけでやる!」
「決死の覚悟でFiVEに突貫するだけだ!」
ここで首を縦に振らないと、彼らは本当に突撃するだろう。無策に、思うままに、自らの命を顧みず。そして多くの犠牲を生むだろう。
「…………わーった。やってやる」
深いため息と共に頷き、立ち上がる。
「だたし足手まといは御免だよ。あたいが負けたらそれで終わり。正真正銘最後の喧嘩だ。それでいいな!?」
かくして、『雷太鼓』は隔者五〇人分の意志を継ぎ、五麟市に向かった。
●FiVE
「五麟大橋。先の決戦の場所に隔者が陣取っている」
久方 相馬(nCL2000004)は集まった覚者達にそう告げる。隔者達が立ち上がった経緯を含めて説明した後に、ため息をついた。
「律儀に覚者が来るのを待っているようだ。なんつーか、俺には理解できないけどね」
武闘派ではない相馬には、隔者の気持ちは予知できても理解はできない。そんな表情だった。
貴方はこの話を聞いて――
七星剣崩御――
「八神様、負けちまったかー」
その報を聞いたある隔者は、その事実を受け止めて静かにため息をついた。八神に命じられて人に仇為す古妖を相手していたため、五麟決戦には参戦出来なかったのだ。
尊敬していた人が戦いに負けて死んだのだ。その喪失感は大きい。しかしそれもその人が選んだ道なのだから仕方ない。喧嘩の勝ち負けは受け止める。それが彼女――『雷太鼓』と呼ばれる隔者の生き方だった。
「これであたいらもお終いだな。ま、大人しく縛につくか」
彼女も七星剣に所属して好き勝手暴れていた隔者だ。覚者の邪魔をしたりと捕まっても仕方のない経歴はある。法の裁きを受けることはやぶさかではなかった。
――あくまで彼女は、である。
「いや! 俺達はまだ負けてねえ!」
「ここに戦えるだけの隔者がいるんだ! FiVE如きに降伏するなどありえない!」
声を上げたのは、武闘派の隔者だ。先の大戦には様々な理由で参加できず、この結果に不満を持つ者達である。
「お前らなあ、往生際が――」
「確かに組織の維持はもうできねえ! でもこの武力があればまだ一花咲かせることが出来る!」
「応よ! 温いこと言ってるFiVEなんかに膝を屈するなんか認められねぇ!」
「『雷太鼓』の姉御! 戦わずに終わる無念、悔しくないんですかい!?」
彼らとて、隔者の終わりは理解している。
それでも今まで培ってきた強さが、こんな形で終わりを告げるのが納得できないのだ。
「姉御がやらないんでしたら、俺達だけでやる!」
「決死の覚悟でFiVEに突貫するだけだ!」
ここで首を縦に振らないと、彼らは本当に突撃するだろう。無策に、思うままに、自らの命を顧みず。そして多くの犠牲を生むだろう。
「…………わーった。やってやる」
深いため息と共に頷き、立ち上がる。
「だたし足手まといは御免だよ。あたいが負けたらそれで終わり。正真正銘最後の喧嘩だ。それでいいな!?」
かくして、『雷太鼓』は隔者五〇人分の意志を継ぎ、五麟市に向かった。
●FiVE
「五麟大橋。先の決戦の場所に隔者が陣取っている」
久方 相馬(nCL2000004)は集まった覚者達にそう告げる。隔者達が立ち上がった経緯を含めて説明した後に、ため息をついた。
「律儀に覚者が来るのを待っているようだ。なんつーか、俺には理解できないけどね」
武闘派ではない相馬には、隔者の気持ちは予知できても理解はできない。そんな表情だった。
貴方はこの話を聞いて――

■シナリオ詳細
■成功条件
1.隔者6名の打破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
生きるということは、立場を生きるということなのです。
●敵情報
・隔者(×六)
七星剣の中でも武闘派と呼ばれた人達です。その中でも選りすぐりが相手です。
その背後に五〇人近く隔者が控えていますが、基本的には見守っているだけです。隔者が負ければそのまま降伏します。
『雷太鼓』林・茉莉
天の付喪。一六歳女性。神具は背中に背負った和太鼓(楽器相当)。
喧嘩好き。とにかく強い相手と戦いたい隔者です。七星剣武闘派『拳華』と呼ばれる組織で年齢不相応ながら『姉御』と呼ばれています。その立場故、望まぬ喧嘩に立ち上がりました。
『機化硬』『雷獣』『白夜』『活殺打』『林茉莉の喧嘩祭(※)』『雷纏』『恵比寿力』『電人』『絶対音感』などを活性化しています。
※ 林茉莉の喧嘩祭 特遠敵味全 やたらに雷太鼓を叩き、周囲に稲妻を放ちます。
『バーガータイム』麻生・勉
土の前世持ち。一九歳男性。ぽっちゃり……というかメタボ体質。常にハンバーガーを食べています。武器は大槌。
ゆっくりと喋る温厚タイプ。だけど信条は一撃必殺。暴力を振るうことに躊躇はしません。
『錬覇法』『鉄甲掌・還』『大震』『土纏』『毘沙門力』『マイナスイオン』『悪食』などを活性化しています。
『首切りウサギ』奧井・燕
火の獣憑(卯)。二六歳女性。和装に日本刀。頭のウサギ耳が無ければ、クール系女侍。
無口に切りかかってきます。速度に特化した一番槍。
『猛の一撃』『十六夜』『白夜』『福禄力』『灼熱化』『第六感』『火の心』等を活性化しています。
『水も滴る』佐伯・俊一
水の変化。四六歳男性。覚醒すると、二〇歳の優男に若返る。
回復役という役割上、慎重な判断を行うタイプ。どちらかというと頭脳派。武器は小型モバイル(書物相当)。
『B.O.T.』『潤しの雨』『潤しの滴』『超純水』『寿老力』『爽風之祝詞』『演舞・舞音』『ジェスチャー』『送受心』等を活性化しています。
『ジャングルの精霊』アギルダ・ヌジャイ
木の黄泉。十一歳女性。アフリカ人。黒肌に白いワンピース。祖国の精霊と繫がりがあったとか。
奇妙に歪んだナイフ(術符相当)を持ち、踊るように術式を放ちます。
『破眼光』『仇華浸香』『清廉珀香』『葉纏』『布袋力』『交霊術』『同属把握』などを活性化しています。
『赤の鎧武者』渡辺・和夫
土の精霊顕現。全身を赤い和風鎧(重装冑相当)で身を包んでいます。中身は一六歳の男性。
防御の構えを取り、仲間の為に盾となります。
『五織の彩』『紫鋼塞』『鉄甲掌』『大黒力』『特防強化・弐』『痛覚遮断』『鉄心』等を活性化しています。
●場所情報
五麟大橋。車を止めて、戦場を作っています。時刻は早朝。明かりや広さなどは戦闘に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『麻生』『奧井』『渡辺』が、中衛に『アギルダ』『林』が、後衛に『佐伯』がいます。敵前衛との距離は十メートルとします。
事前付与は一度だけ可能です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2019年01月27日
2019年01月27日
■メイン参加者 6人■

●
かつてFiVEと七星剣がぶつかり合った五麟大橋。
『雷太鼓』がここを選んだ理由を、彼女は誰にも語っていない。八神が倒れたであろう場所に顔を向け、それ以上進むことはなかった。その胸中にある感情は彼女自身でさえ分かりえない事だろう。
そこに、
「よー。これが最後の喧嘩になるか」
軽く手をあげて『在る様は水の如し』香月 凜音(CL2000495)が声をかける。講堂で友人とすれ違うような気軽い声は、緊張した橋の空気を一掃する。凜音自身は意図したわけではないだろうが、 凜音自身は『雷太鼓』との精神的な距離をそう意図していた。
「じゃあでかい華を咲かせねーとな?」
「さあね。もしかしたらあたいが勝って五麟市に攻め入るかもしれねぇぜ」
「あほ。つもりもない事いうなんてらしくないで」
『雷太鼓』の物言いに『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)はため息交じりに手を振った。何度も交戦し、何度も刃を重ねたからこそわかる相手の性格。そんな悪事ができる隔者ではないことは、よくわかっている。
「ま、事情は分かっとる。ハッタリかまさんとかかってきいや」
「夢見の予知も不粋だねぇ。こういう時ぐらいは目をつぶってくれてもいいのに」
「五麟市に攻め入った隔者として、全力で散りたかったということかな?」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は『雷太鼓』の言葉を看破する。何も知らなければここに集まった隔者は、八神の作戦をなぞるように行動しているとも取れる。とりあえず、勘違いは正さなければならない。
「でもまあ、全力でという望みは叶うよ。俺達が手加減すると思う?」
「そうだ! オレがお前達相手に油断とか同情とかすると思うか? いつだって全力だ!」
ドン、と胸を叩き『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)が叫ぶ。戦いは常に楽しく全力で。それが遥のモットーだ。色々背負ったり背負わされたりしたけれど、その根幹は変わらない。それを実感させてくれたは、目の前の『雷太鼓』なのだ。
「シケたツラしてんじゃねえぞ! お前らの永遠のライバルたる、このオレたちが目の前にいるんだからな!」
「そうだよ! 強い人と戦えるって楽しいんだから!」
はつらつとした笑顔で『影を断つ刃』御影・きせき(CL2001110)が拳を握る。七星剣での武闘派。戦いを好む隔者。彼らと刃を交わした時に感じたあの高揚感。それを思い出し、胸を弾ませていた。
「組織がなくなったって、それは変わらないよ!」
「おひさー! 島根の神社ぶりだけど覚えてるー?」
ぶんぶんと手を振る『ファイブブラック』天乃 カナタ(CL2001451)。あの時は色々あって味方だった部分があるが、今回は敵対状態。それでもカナタに敵愾心はない。むしろ再会できた喜びの方が勝っていた。
「おう、物部神社の時の。……か、可愛いとか言ったらぶっ殺すからな」
物部神社でのやり取りを思い出し、『雷太鼓』は赤面しながら釘を刺す。その後で軽く伸びをした。
「……ま、辛気臭く終わるよりはこういうのがあたいらしいのかね」
言って歩を進める。今まで踏み入ろうとしなかった場所を踏み越え、覚醒と同時にシンボルマークともいえる太鼓を背負う。
「――行くよ。今日の太鼓は一際激しいと覚悟しな!」
どん、と太鼓が鳴り響く。その音に弾けるように覚者も隔者も覚醒し、神具を握りしめる。
『拳華』と呼ばれた武闘派集団。その喧嘩が始まる。
●
「ファイヴの工藤奏空。あんた達の最後の喧嘩のお相手するよ」
一番最初に動いたのは奏空だ。薬師如来の加護を受け、悪意に対する体制を強めてから抜刀する。隔者と呼ばれる人間は基本的に相いれないが、全ての隔者を廃したいわけでもない。相手も人だからこそ生まれる心。それは多種多様だ。
霧を放って相手の視界を奪い、一気に距離を詰める。生まれた隙は瞬きにも満たない刹那。しかしそれを逃す奏空ではない。腰を落とし、振るわれる刀。敵陣に一番に切り込み、気勢を奪う。それが奏空の戦術だ。
「俺はあんた達と戦うのは初めてだけど、あんた達の言う喧嘩っていうのはほんとはこんなんじゃないんだろ?」
「否定はしないよ。だけどそれも含めての喧嘩さ!」
「何言ってやがる! てめえらの拳は誰のもんだ!」
笑顔で拳を振り上げる遥。組織。大義。正義。成程それは戦う理由になるだろう。あるいはそれがあるから戦いに身を投じる者もいるだろう。だが逆に、そうでなくとも戦う者もいる。自分もそして相手もそうだと信じている。
源素を拳に纏わせ隔者の真正面に立つ遥。腰を下ろして拳を構え相手と打ち合っていく。相手の構えの隙を穿ち、防御を崩す。崩れた隙を逃すことなく踏み込んで、強烈な一撃と叩き込む。慣れ親しんだ空手の動きと源素の融合。堅実な遥の攻めは、それ故に盤石だ。
「ケンカってぇのは、剥きだしの『自分』をぶつけ合うから楽しいんだろうが!」
「全くだ。あたいもヤキが回ったもんだね!」
「あと仲のいい人たちと戦うのもいいんだよね!」
親指を立て、嬉しそうに笑うきせき。奏空、遥と一緒に戦うのはいつぶりか。ともあれ何をして楽しいと取るかは、やはり同席するメンバーにもよるのだろう。このメンバーなら普通に喫茶店で話をしても楽しいのだろう。……まあ、想像はしがたいけど。
笑みを崩すことなくきせきは抜刀し、前衛に迫る。手にした妖刀はきせきの心を喰らい、炎を生んだ。地を這うように振るわれる刀は、あたかも地を走る炎の如く。振るわれた紅の一閃が隔者達を打つ。
「後腐れのないバトルを楽しもう!」
「まだ終わりにするつもりはないよ! あたいらが負けるまでね!」
「エンジンかかって来たな、茉莉。それでこそや!」
隔者達の表情を見て凛は頷いた。望まない状況での喧嘩で調子を崩しているかと思っていたが、いざ喧嘩となればやはり生き生きとする彼女達。そういう輩だからこそ楽しくたたえたのだ。今までも、そして――
刀の柄に手を書けると同時に、凛は意識を戦闘に切り替える。鋭い集中力が時が止まったかのように世界の動きを緩やかにしていく。抜刀と同時に世界が動き出し、刀を振るう。振るわれた三連撃が隔者を穿つ。
「焔陰流・連獄波!」
「その動きは……何度も見た!」
「互いの動きは分かっているか。なら――」
こちらの動きに対応して動く隔者。それを見て凜音は思考する。単純なFiVEとの戦闘数だけではない。戦闘による経験なのだろう。だがそれはこちらも同じだ。様々な戦いの経験が、凜音を最適解に導いていく。
後衛から戦場を俯瞰するように見る凜音。冷静に、そして戦意を高めて今を見る。水が形を変えるように如何なる状況にも対応するのが水であり癒し手だ。傷ついている物を瞬時に見極め、穴をふさぐように癒しの術を行使する。
「あんたとの回復合戦になりそうだな。もっとも、こっちは数のうえで有利か?」
「それはこちらの火力を凌ぎきれる前提だな」
「ぜってー負けねぇぞ!」
佐伯の挑発に気合を入れるカナタ。好きな女の子の前で無様は見せられないと活を入れて戦いに挑む。大事なのは戦う理由。その心の強さが、自分自身の限界を僅かに引き延ばしてくれるのだ。その僅かが決定打になることもある。
カナタは術符を手に源素を練り上げる。まだ回復は必要ないと判断して、源素を鋭角的に形成していく。周囲の温度が上がり、炎の龍が沸き上がった。大きく顎を広げた炎の龍は熱波を伴い敵陣に向かって突撃していく。
「まぁチーム戦ではあるけどさ、この喧嘩に俺が勝ったら、俺と付き合ってよ」
「おま、喧嘩の途中で何いいやがる……! ふふ、ふざけてると痛い目見るぞ!」
おー、動揺してる動揺してる。カナタの言葉に顔を赤める『雷太鼓』を見て、彼女を知る者はその慌てっぷりに納得していた。喧嘩以外は防御力ないよなぁ、コイツ。
とはいえそれで隔者の攻勢が収まるかというとそうでもない。『雷太鼓』の火力を基点にし、一糸乱れぬコンビネーションを駆使して覚者達を攻め立てる。
しかしそれは覚者側も変わらない。言葉すら不要な連携で攻め立て、隔者を切り結んでいく。
五條大橋の戦いは、まだまだ終わることはない。
●
覚者たちは守りを固める渡辺を中心に攻め立てる。
同時に隔者達は列攻撃を駆使し、下がった相手を貫通攻撃で攻めるという戦略をとっていた。最も――
「その戦略は知ってるんだよ!」
何度も『雷太鼓』と渡り合っている遥はその戦い方を知っている。深く傷を受けても引くことなく前衛に立っていた。
「いっくよー!」
元気よく刀を振るうきせき。きせきにとって組織間のわだかまりなど関係ない。楽しいか否か。戦うことによって得られる高揚。強い相手から得られる様々な戦い方。勝ち負けではなく、戦いそのものが目的だ。だからと言って、負けてやるつもりは毛頭なかった。
「流石だよ! 戦いを諦めたんじゃないって信じてた!」
「そりゃそうだ。あたいらは結局そういう性質なんだよ!」
「まあ、そこまで戦闘狂ではないが気持ちは理解できる」
『雷太鼓』の言葉に頷く凜音。戦闘を楽しむという思考はないが、それが楽しいという人間の気持ちは理解できる。仲間も敵も、そういう輩が多いからだ。その最たるが彼ら『拳華』――思えば長い付き合いになったものだ。
「殴られたいとは思わないので、出来ればこっちに攻撃をするはやめてほしいな」
「戦線離脱したけりゃ止めねえよ。回復のために留まってる以上、見過ごすわけにはいかないね」
「戦意喪失した者や逃げる者は負わない、か。本当に戦いそのものが目的なんだね」
奏空は仲間から聞いていた『雷太鼓』の性格を行動に照らし合わせていた。善悪で言えば、悪だろう。だが悪人かと言われるとそうでもない。平和的に解決するFiVEからすれば相容れないだけで、彼らもまた人間なのだ。
「だったらこちらも同じだ。あんたらと同じように力を示す!」
「おう。いくらでも来な。あたいの稲妻を喰らってもその心が折れなきゃいいけどね!」
「んなもん、あたしの剣で全部切り裂いたるわ!」
にぃ、と笑みを浮かべる凛。『雷太鼓』の雷の鋭さは知っている。何度もそれを受けている凛は、今度も耐えて見せるわと気合を入れた。気力と体力を振り絞って攻撃に耐え、お返しとばかりに刃を振るう。
「今あたしが使える最大の技、あんたの大将から受け継いだもんを使わせてもらうで!」
「だったらあたいも全力だ! しっかり耐えて見せな!」
「来なよ! 『雷切』の異名、見せてやらあ!」
『雷太鼓』の全力の稲妻を前に、気合を入れる遥。敵味方差別しない雷の祭。遥はそれを前に全身に源素を纏わせて普段と変わらぬ構えを取る。迫りくる稲妻を拳と同じようにさばき、かわしていく。全てを避けることはできないが、それでも幾つかはしのぎ切った。
「どうだ! これがオレの全力だ!」
「ボロボロに疲弊してる癖に気持ちよさそうに笑いやがって。はは、あたいも笑っちまうよ!」
「すげー……可愛いけどそれ以上に――」
戦う『雷太鼓』の姿を見て、カナタは胸を押さえていた。林茉莉という女性は可愛いという魅力があるかもしれない。だけど同時にケンカの中で見える魅力もある。どれを好むか嫌うかはカナタ自身の問題だ。彼女の側面を知って、気持ちはどう動いたかは当人にしかわからない。
「おおっと、立て直しだ! 傷が酷い奴は手を上げろ!」
「皆酷いぜ。だけどまあ」
「いつものことって言われればいつもの事やな」
カナタの言葉に遥と凛が言葉を返す。
「うん! でもまだ戦えるよね!」
「うん。ここで倒れてやるつもりはないよ」
「血の気多すぎだ。まあ、同意だがな」
きせきと奏空と凜音も頷いて戦意を示す。
「全く……お前らみたいなやつが敵で良かったぜ」
『雷太鼓』は笑みを浮かべ、静かに告げる。共に轡を並べる友ではなく、しのぎを削り合い敵として出会えた。だからこそ今こうして気持ちが高ぶっている。奇妙な話だが、敵同士だからこそ理解できることもある。
「畳みかけるぞ!」
隔者側も覚者の攻撃で相応に疲弊している。隔者側の勝ちの目は、凜音とカナタの回復で立て直すより先に前衛を戦闘不能にしてしまうことだ。
「畳みかけるのは、こっちの方だ!」
無論、覚者とて黙って耐えるつもりはない。攻撃は最大の防御、とばかりに気力を振り絞り隔者に立ち向かう。
双方ともに命数を燃やし、最初に倒れたのは――
「防御の要が倒れた。今や!」
隔者側の防御を担っていた渡辺が倒れたのを機に、覚者達は一気に攻勢に出る。自分が倒れることも考慮に入れず、限界を振り絞った体術の応酬。力の限りを尽くした刃と拳が乱舞し、稲妻が戦場を走る。
「オレぁさ。ほんとは別に正義だとか大義だとか、そういうのは二の次だったんだ。
一番は『楽しいバトルをする』、それだけだったんだ」
『雷太鼓』の雷撃を切り裂いて遥が現れる。彼女は防御ではなく、それを迎撃しようとバチを振るう。そういう所が茉莉らしい、と笑みを浮かべた。
「色んなことが重なって、色んなもん背負ったり、背負わされたりさ。
ま、好んで背負った荷物もあるけど、それでも一番大事なことは疎かにしたくないんだよ。だから――」
その迎撃よりも早く、遥の拳は『雷太鼓』の腹を打つ。真っすぐな正拳突き。くの字に体を折った『雷太鼓』の手から太鼓のバチが落ちる。
「お前らと戦えてよかった!」
満面の笑みで遥は拳を振り上げる。その言葉はこの場にいる覚者と隔者全員の気持ちを代弁していた。
なお、この後も戦いは続き――
「あ、っぶね……俺以外全滅とか……本当にギリギリだったな」
命数を削った凜音が放った炎が最後の隔者を倒す。息絶え絶えで立っているのは彼一人だけだった。
●
戦い終わり――
「無茶しすぎだ」
凜音と復活したカナタが傷を癒していく。覚者だけではなく隔者まで。
「八神も大妖をなんとかしたくて動いていたって事は知ってた?」
「そりゃね。日本を支配するのに邪魔なのは言ってたし」
半身を起こした状態で奏空は『雷太鼓』に問いかける。帰ってきた答えに笑みを浮かべ、顔を天に向けて呟いた。
「手段は違ったけど俺達は結局目的は同じだったって事だ」
その事実が奏空は嬉しかった。人は手を取り合って戦えることができる。その証左のようで。
「みんなが罪を償って戻ってきたら、また力較べしたいな」
寝転がったままできせきが言葉を放つ。隔者である彼らはこの後刑に服することになる。だがそれも永遠ではない。いつかは出てきて、戦うことができるのだ。
「でも次も遥くん・奏空くん・僕のズッ友トリオが勝つからね!」
「当たり前だ! そん時はもっともっと強くなってるからな。お前らも待ってろよ!」
指一本動かすことも難しい状態で遥は胸を張るように告げる。俺達は強くなる。おそらくは彼らも。この先日本がどうなるかはわからないけど、何時の比かまた彼らと戦える日が来るのなら、今日よりもずっと楽しい戦いになるはずだ。
「まぁこれからも喧嘩やなくても勝負はできるやろ。また乳比べでもするか?」
「しねえよ! だからあたいはそういうのは――!」
『雷太鼓』の反応に、寝転がりながら笑みを浮かべる凛。そういばそんなこともあったなあ、と懐古する。覚者と隔者の争いはこれで終わるかもしれないが、個人での戦いはいつでもできる。それこそ前と同じように勝って乳比べすることも。
「…………そりゃ、そんな格好してるからそんなこと言われるんだよ」
若干顔を赤らめながら、カナタは着ているパーカーを『雷太鼓』にかけてやる。腹だし法被のサラシ姿は色々刺激される。カナタとしてはそれはそれで嬉しいが、やはり女性の身体は冷やしてはいけない。
「あとさ、約束通り俺と結婚してよ。すっげー好きになっちゃったからさ」
「段階色々越えてるだろ!? ……まあ、あたいとタイマンして勝てたら考えてやるよ」
「照れているのか婉曲的に断っているのか、どっちかわからんな」
『雷太鼓』の言い分にため息をつく凜音。彼女と一対一で勝つというのはかなりの難題だ。まあそれはどうでもいい話なので置いておく。
「お前さん達、これからどーすんだ?」
「どうもこうもないね。喧嘩に負けたら勝ったもんのいうことを聞く。FiVEが平和を望むんなら、あたい等はおとなしく刑に服するさ」
そうか、と凜音はそれ以上言葉を重ねることを止めた。彼女達はその信念で生きている。それに口出しをするのは野暮だろう。
こうして『拳華』と呼ばれた武闘派軍団はその矛先を収める。
人と人の戦いは終わったが、彼らが再び拳を交えることはあるのだろう。
その時は今よりも気持ちよく、何も背負わない戦いとして――
かつてFiVEと七星剣がぶつかり合った五麟大橋。
『雷太鼓』がここを選んだ理由を、彼女は誰にも語っていない。八神が倒れたであろう場所に顔を向け、それ以上進むことはなかった。その胸中にある感情は彼女自身でさえ分かりえない事だろう。
そこに、
「よー。これが最後の喧嘩になるか」
軽く手をあげて『在る様は水の如し』香月 凜音(CL2000495)が声をかける。講堂で友人とすれ違うような気軽い声は、緊張した橋の空気を一掃する。凜音自身は意図したわけではないだろうが、 凜音自身は『雷太鼓』との精神的な距離をそう意図していた。
「じゃあでかい華を咲かせねーとな?」
「さあね。もしかしたらあたいが勝って五麟市に攻め入るかもしれねぇぜ」
「あほ。つもりもない事いうなんてらしくないで」
『雷太鼓』の物言いに『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)はため息交じりに手を振った。何度も交戦し、何度も刃を重ねたからこそわかる相手の性格。そんな悪事ができる隔者ではないことは、よくわかっている。
「ま、事情は分かっとる。ハッタリかまさんとかかってきいや」
「夢見の予知も不粋だねぇ。こういう時ぐらいは目をつぶってくれてもいいのに」
「五麟市に攻め入った隔者として、全力で散りたかったということかな?」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は『雷太鼓』の言葉を看破する。何も知らなければここに集まった隔者は、八神の作戦をなぞるように行動しているとも取れる。とりあえず、勘違いは正さなければならない。
「でもまあ、全力でという望みは叶うよ。俺達が手加減すると思う?」
「そうだ! オレがお前達相手に油断とか同情とかすると思うか? いつだって全力だ!」
ドン、と胸を叩き『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)が叫ぶ。戦いは常に楽しく全力で。それが遥のモットーだ。色々背負ったり背負わされたりしたけれど、その根幹は変わらない。それを実感させてくれたは、目の前の『雷太鼓』なのだ。
「シケたツラしてんじゃねえぞ! お前らの永遠のライバルたる、このオレたちが目の前にいるんだからな!」
「そうだよ! 強い人と戦えるって楽しいんだから!」
はつらつとした笑顔で『影を断つ刃』御影・きせき(CL2001110)が拳を握る。七星剣での武闘派。戦いを好む隔者。彼らと刃を交わした時に感じたあの高揚感。それを思い出し、胸を弾ませていた。
「組織がなくなったって、それは変わらないよ!」
「おひさー! 島根の神社ぶりだけど覚えてるー?」
ぶんぶんと手を振る『ファイブブラック』天乃 カナタ(CL2001451)。あの時は色々あって味方だった部分があるが、今回は敵対状態。それでもカナタに敵愾心はない。むしろ再会できた喜びの方が勝っていた。
「おう、物部神社の時の。……か、可愛いとか言ったらぶっ殺すからな」
物部神社でのやり取りを思い出し、『雷太鼓』は赤面しながら釘を刺す。その後で軽く伸びをした。
「……ま、辛気臭く終わるよりはこういうのがあたいらしいのかね」
言って歩を進める。今まで踏み入ろうとしなかった場所を踏み越え、覚醒と同時にシンボルマークともいえる太鼓を背負う。
「――行くよ。今日の太鼓は一際激しいと覚悟しな!」
どん、と太鼓が鳴り響く。その音に弾けるように覚者も隔者も覚醒し、神具を握りしめる。
『拳華』と呼ばれた武闘派集団。その喧嘩が始まる。
●
「ファイヴの工藤奏空。あんた達の最後の喧嘩のお相手するよ」
一番最初に動いたのは奏空だ。薬師如来の加護を受け、悪意に対する体制を強めてから抜刀する。隔者と呼ばれる人間は基本的に相いれないが、全ての隔者を廃したいわけでもない。相手も人だからこそ生まれる心。それは多種多様だ。
霧を放って相手の視界を奪い、一気に距離を詰める。生まれた隙は瞬きにも満たない刹那。しかしそれを逃す奏空ではない。腰を落とし、振るわれる刀。敵陣に一番に切り込み、気勢を奪う。それが奏空の戦術だ。
「俺はあんた達と戦うのは初めてだけど、あんた達の言う喧嘩っていうのはほんとはこんなんじゃないんだろ?」
「否定はしないよ。だけどそれも含めての喧嘩さ!」
「何言ってやがる! てめえらの拳は誰のもんだ!」
笑顔で拳を振り上げる遥。組織。大義。正義。成程それは戦う理由になるだろう。あるいはそれがあるから戦いに身を投じる者もいるだろう。だが逆に、そうでなくとも戦う者もいる。自分もそして相手もそうだと信じている。
源素を拳に纏わせ隔者の真正面に立つ遥。腰を下ろして拳を構え相手と打ち合っていく。相手の構えの隙を穿ち、防御を崩す。崩れた隙を逃すことなく踏み込んで、強烈な一撃と叩き込む。慣れ親しんだ空手の動きと源素の融合。堅実な遥の攻めは、それ故に盤石だ。
「ケンカってぇのは、剥きだしの『自分』をぶつけ合うから楽しいんだろうが!」
「全くだ。あたいもヤキが回ったもんだね!」
「あと仲のいい人たちと戦うのもいいんだよね!」
親指を立て、嬉しそうに笑うきせき。奏空、遥と一緒に戦うのはいつぶりか。ともあれ何をして楽しいと取るかは、やはり同席するメンバーにもよるのだろう。このメンバーなら普通に喫茶店で話をしても楽しいのだろう。……まあ、想像はしがたいけど。
笑みを崩すことなくきせきは抜刀し、前衛に迫る。手にした妖刀はきせきの心を喰らい、炎を生んだ。地を這うように振るわれる刀は、あたかも地を走る炎の如く。振るわれた紅の一閃が隔者達を打つ。
「後腐れのないバトルを楽しもう!」
「まだ終わりにするつもりはないよ! あたいらが負けるまでね!」
「エンジンかかって来たな、茉莉。それでこそや!」
隔者達の表情を見て凛は頷いた。望まない状況での喧嘩で調子を崩しているかと思っていたが、いざ喧嘩となればやはり生き生きとする彼女達。そういう輩だからこそ楽しくたたえたのだ。今までも、そして――
刀の柄に手を書けると同時に、凛は意識を戦闘に切り替える。鋭い集中力が時が止まったかのように世界の動きを緩やかにしていく。抜刀と同時に世界が動き出し、刀を振るう。振るわれた三連撃が隔者を穿つ。
「焔陰流・連獄波!」
「その動きは……何度も見た!」
「互いの動きは分かっているか。なら――」
こちらの動きに対応して動く隔者。それを見て凜音は思考する。単純なFiVEとの戦闘数だけではない。戦闘による経験なのだろう。だがそれはこちらも同じだ。様々な戦いの経験が、凜音を最適解に導いていく。
後衛から戦場を俯瞰するように見る凜音。冷静に、そして戦意を高めて今を見る。水が形を変えるように如何なる状況にも対応するのが水であり癒し手だ。傷ついている物を瞬時に見極め、穴をふさぐように癒しの術を行使する。
「あんたとの回復合戦になりそうだな。もっとも、こっちは数のうえで有利か?」
「それはこちらの火力を凌ぎきれる前提だな」
「ぜってー負けねぇぞ!」
佐伯の挑発に気合を入れるカナタ。好きな女の子の前で無様は見せられないと活を入れて戦いに挑む。大事なのは戦う理由。その心の強さが、自分自身の限界を僅かに引き延ばしてくれるのだ。その僅かが決定打になることもある。
カナタは術符を手に源素を練り上げる。まだ回復は必要ないと判断して、源素を鋭角的に形成していく。周囲の温度が上がり、炎の龍が沸き上がった。大きく顎を広げた炎の龍は熱波を伴い敵陣に向かって突撃していく。
「まぁチーム戦ではあるけどさ、この喧嘩に俺が勝ったら、俺と付き合ってよ」
「おま、喧嘩の途中で何いいやがる……! ふふ、ふざけてると痛い目見るぞ!」
おー、動揺してる動揺してる。カナタの言葉に顔を赤める『雷太鼓』を見て、彼女を知る者はその慌てっぷりに納得していた。喧嘩以外は防御力ないよなぁ、コイツ。
とはいえそれで隔者の攻勢が収まるかというとそうでもない。『雷太鼓』の火力を基点にし、一糸乱れぬコンビネーションを駆使して覚者達を攻め立てる。
しかしそれは覚者側も変わらない。言葉すら不要な連携で攻め立て、隔者を切り結んでいく。
五條大橋の戦いは、まだまだ終わることはない。
●
覚者たちは守りを固める渡辺を中心に攻め立てる。
同時に隔者達は列攻撃を駆使し、下がった相手を貫通攻撃で攻めるという戦略をとっていた。最も――
「その戦略は知ってるんだよ!」
何度も『雷太鼓』と渡り合っている遥はその戦い方を知っている。深く傷を受けても引くことなく前衛に立っていた。
「いっくよー!」
元気よく刀を振るうきせき。きせきにとって組織間のわだかまりなど関係ない。楽しいか否か。戦うことによって得られる高揚。強い相手から得られる様々な戦い方。勝ち負けではなく、戦いそのものが目的だ。だからと言って、負けてやるつもりは毛頭なかった。
「流石だよ! 戦いを諦めたんじゃないって信じてた!」
「そりゃそうだ。あたいらは結局そういう性質なんだよ!」
「まあ、そこまで戦闘狂ではないが気持ちは理解できる」
『雷太鼓』の言葉に頷く凜音。戦闘を楽しむという思考はないが、それが楽しいという人間の気持ちは理解できる。仲間も敵も、そういう輩が多いからだ。その最たるが彼ら『拳華』――思えば長い付き合いになったものだ。
「殴られたいとは思わないので、出来ればこっちに攻撃をするはやめてほしいな」
「戦線離脱したけりゃ止めねえよ。回復のために留まってる以上、見過ごすわけにはいかないね」
「戦意喪失した者や逃げる者は負わない、か。本当に戦いそのものが目的なんだね」
奏空は仲間から聞いていた『雷太鼓』の性格を行動に照らし合わせていた。善悪で言えば、悪だろう。だが悪人かと言われるとそうでもない。平和的に解決するFiVEからすれば相容れないだけで、彼らもまた人間なのだ。
「だったらこちらも同じだ。あんたらと同じように力を示す!」
「おう。いくらでも来な。あたいの稲妻を喰らってもその心が折れなきゃいいけどね!」
「んなもん、あたしの剣で全部切り裂いたるわ!」
にぃ、と笑みを浮かべる凛。『雷太鼓』の雷の鋭さは知っている。何度もそれを受けている凛は、今度も耐えて見せるわと気合を入れた。気力と体力を振り絞って攻撃に耐え、お返しとばかりに刃を振るう。
「今あたしが使える最大の技、あんたの大将から受け継いだもんを使わせてもらうで!」
「だったらあたいも全力だ! しっかり耐えて見せな!」
「来なよ! 『雷切』の異名、見せてやらあ!」
『雷太鼓』の全力の稲妻を前に、気合を入れる遥。敵味方差別しない雷の祭。遥はそれを前に全身に源素を纏わせて普段と変わらぬ構えを取る。迫りくる稲妻を拳と同じようにさばき、かわしていく。全てを避けることはできないが、それでも幾つかはしのぎ切った。
「どうだ! これがオレの全力だ!」
「ボロボロに疲弊してる癖に気持ちよさそうに笑いやがって。はは、あたいも笑っちまうよ!」
「すげー……可愛いけどそれ以上に――」
戦う『雷太鼓』の姿を見て、カナタは胸を押さえていた。林茉莉という女性は可愛いという魅力があるかもしれない。だけど同時にケンカの中で見える魅力もある。どれを好むか嫌うかはカナタ自身の問題だ。彼女の側面を知って、気持ちはどう動いたかは当人にしかわからない。
「おおっと、立て直しだ! 傷が酷い奴は手を上げろ!」
「皆酷いぜ。だけどまあ」
「いつものことって言われればいつもの事やな」
カナタの言葉に遥と凛が言葉を返す。
「うん! でもまだ戦えるよね!」
「うん。ここで倒れてやるつもりはないよ」
「血の気多すぎだ。まあ、同意だがな」
きせきと奏空と凜音も頷いて戦意を示す。
「全く……お前らみたいなやつが敵で良かったぜ」
『雷太鼓』は笑みを浮かべ、静かに告げる。共に轡を並べる友ではなく、しのぎを削り合い敵として出会えた。だからこそ今こうして気持ちが高ぶっている。奇妙な話だが、敵同士だからこそ理解できることもある。
「畳みかけるぞ!」
隔者側も覚者の攻撃で相応に疲弊している。隔者側の勝ちの目は、凜音とカナタの回復で立て直すより先に前衛を戦闘不能にしてしまうことだ。
「畳みかけるのは、こっちの方だ!」
無論、覚者とて黙って耐えるつもりはない。攻撃は最大の防御、とばかりに気力を振り絞り隔者に立ち向かう。
双方ともに命数を燃やし、最初に倒れたのは――
「防御の要が倒れた。今や!」
隔者側の防御を担っていた渡辺が倒れたのを機に、覚者達は一気に攻勢に出る。自分が倒れることも考慮に入れず、限界を振り絞った体術の応酬。力の限りを尽くした刃と拳が乱舞し、稲妻が戦場を走る。
「オレぁさ。ほんとは別に正義だとか大義だとか、そういうのは二の次だったんだ。
一番は『楽しいバトルをする』、それだけだったんだ」
『雷太鼓』の雷撃を切り裂いて遥が現れる。彼女は防御ではなく、それを迎撃しようとバチを振るう。そういう所が茉莉らしい、と笑みを浮かべた。
「色んなことが重なって、色んなもん背負ったり、背負わされたりさ。
ま、好んで背負った荷物もあるけど、それでも一番大事なことは疎かにしたくないんだよ。だから――」
その迎撃よりも早く、遥の拳は『雷太鼓』の腹を打つ。真っすぐな正拳突き。くの字に体を折った『雷太鼓』の手から太鼓のバチが落ちる。
「お前らと戦えてよかった!」
満面の笑みで遥は拳を振り上げる。その言葉はこの場にいる覚者と隔者全員の気持ちを代弁していた。
なお、この後も戦いは続き――
「あ、っぶね……俺以外全滅とか……本当にギリギリだったな」
命数を削った凜音が放った炎が最後の隔者を倒す。息絶え絶えで立っているのは彼一人だけだった。
●
戦い終わり――
「無茶しすぎだ」
凜音と復活したカナタが傷を癒していく。覚者だけではなく隔者まで。
「八神も大妖をなんとかしたくて動いていたって事は知ってた?」
「そりゃね。日本を支配するのに邪魔なのは言ってたし」
半身を起こした状態で奏空は『雷太鼓』に問いかける。帰ってきた答えに笑みを浮かべ、顔を天に向けて呟いた。
「手段は違ったけど俺達は結局目的は同じだったって事だ」
その事実が奏空は嬉しかった。人は手を取り合って戦えることができる。その証左のようで。
「みんなが罪を償って戻ってきたら、また力較べしたいな」
寝転がったままできせきが言葉を放つ。隔者である彼らはこの後刑に服することになる。だがそれも永遠ではない。いつかは出てきて、戦うことができるのだ。
「でも次も遥くん・奏空くん・僕のズッ友トリオが勝つからね!」
「当たり前だ! そん時はもっともっと強くなってるからな。お前らも待ってろよ!」
指一本動かすことも難しい状態で遥は胸を張るように告げる。俺達は強くなる。おそらくは彼らも。この先日本がどうなるかはわからないけど、何時の比かまた彼らと戦える日が来るのなら、今日よりもずっと楽しい戦いになるはずだ。
「まぁこれからも喧嘩やなくても勝負はできるやろ。また乳比べでもするか?」
「しねえよ! だからあたいはそういうのは――!」
『雷太鼓』の反応に、寝転がりながら笑みを浮かべる凛。そういばそんなこともあったなあ、と懐古する。覚者と隔者の争いはこれで終わるかもしれないが、個人での戦いはいつでもできる。それこそ前と同じように勝って乳比べすることも。
「…………そりゃ、そんな格好してるからそんなこと言われるんだよ」
若干顔を赤らめながら、カナタは着ているパーカーを『雷太鼓』にかけてやる。腹だし法被のサラシ姿は色々刺激される。カナタとしてはそれはそれで嬉しいが、やはり女性の身体は冷やしてはいけない。
「あとさ、約束通り俺と結婚してよ。すっげー好きになっちゃったからさ」
「段階色々越えてるだろ!? ……まあ、あたいとタイマンして勝てたら考えてやるよ」
「照れているのか婉曲的に断っているのか、どっちかわからんな」
『雷太鼓』の言い分にため息をつく凜音。彼女と一対一で勝つというのはかなりの難題だ。まあそれはどうでもいい話なので置いておく。
「お前さん達、これからどーすんだ?」
「どうもこうもないね。喧嘩に負けたら勝ったもんのいうことを聞く。FiVEが平和を望むんなら、あたい等はおとなしく刑に服するさ」
そうか、と凜音はそれ以上言葉を重ねることを止めた。彼女達はその信念で生きている。それに口出しをするのは野暮だろう。
こうして『拳華』と呼ばれた武闘派軍団はその矛先を収める。
人と人の戦いは終わったが、彼らが再び拳を交えることはあるのだろう。
その時は今よりも気持ちよく、何も背負わない戦いとして――
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
