さぁ、新年会と参りましょう!
新しい年が明け、FiVEの覚者達も束の間の休みを堪能している事だろう。
ここにも1人、束の間の平和を堪能――いや、暇を持て余している覚者がいた。
「ヒマだなぁ……」
他人の家のコタツに入りミカンをむきながら、相沢悟は大きな欠伸をする。
「何が悲しくて新年早々、刹那さんの仏頂面を見なくちゃいけないんだろ」
悪気なくグチる少年は、ミカンを抓み口に放り込んだ。
「嫌なら出て行ってもらっても、一向に構わないんだぞ」
宮下刹那の言葉は、右の耳から左の耳へ。
「新年会とかしたいなぁ」
悟の言葉には、刹那の妹・永久がパンと手を叩く。
「楽しそう!」
「でしょでしょ?」
2人で楽しい新年会を想像した。
「鍋で新年会!」
「雪遊びで新年会!」
「大好きな人としっとり2人きりの新年会!」
「書初めしての新年会!」
「枕投げで新年会!」
「寝正月の新年会!」
「肝試しで新年会!」
「我慢大会で新年会!」
指差し合い、案を出し合いながら笑い転げる2人に、「もう新年会って何なんだろう?」と刹那は思う。
――誰でもいい。この2人を連れ出してくれないものか……。
『1人静かに新年会』、もいいのではないか。
そう考えながら、ミカンへと手を伸ばした。
ここにも1人、束の間の平和を堪能――いや、暇を持て余している覚者がいた。
「ヒマだなぁ……」
他人の家のコタツに入りミカンをむきながら、相沢悟は大きな欠伸をする。
「何が悲しくて新年早々、刹那さんの仏頂面を見なくちゃいけないんだろ」
悪気なくグチる少年は、ミカンを抓み口に放り込んだ。
「嫌なら出て行ってもらっても、一向に構わないんだぞ」
宮下刹那の言葉は、右の耳から左の耳へ。
「新年会とかしたいなぁ」
悟の言葉には、刹那の妹・永久がパンと手を叩く。
「楽しそう!」
「でしょでしょ?」
2人で楽しい新年会を想像した。
「鍋で新年会!」
「雪遊びで新年会!」
「大好きな人としっとり2人きりの新年会!」
「書初めしての新年会!」
「枕投げで新年会!」
「寝正月の新年会!」
「肝試しで新年会!」
「我慢大会で新年会!」
指差し合い、案を出し合いながら笑い転げる2人に、「もう新年会って何なんだろう?」と刹那は思う。
――誰でもいい。この2人を連れ出してくれないものか……。
『1人静かに新年会』、もいいのではないか。
そう考えながら、ミカンへと手を伸ばした。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.新年会を楽しむ!
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
巳上倖愛襟です。
それぞれの新年会をぜひ楽しんで下さい!
■場所
どこでも結構です。
特に地域がどこかを記して頂く必要はありませんが、こだわりがある場合などはご記入下さい。
■時間帯
自由。
■行動
他人に迷惑をかけない行動であれば、基本的に何をして『新年会』を楽しんで頂いてもオッケーです。
■持ち込み品について
今回は、装備されていないアイテムも持ち込み可となります。
■名前・描写について
基本的には、参加者のみの描写となります。
相手が一般人の場合など、キャラクター登録が出来ない場合などでどうしてもお名前を出して欲しい場合は、『EXプレイング』にてその旨をご記入下さい。
EXプレイングに書かれていない場合や、マスタリング判定の結果で等、描写出来ない場合もございます。
ご了承下さいませ。
■相沢悟&宮下刹那&永久
お呼びがあれば、ホイホイ喜んでそれぞれ参加させて頂きます。
ですが無理にお声かけ頂く必要はございません。
皆様がお楽しみ頂く事を、優先して下さいませ。
■永久
刹那の妹。覚者達に助けられ、FiVEで保護されています。
■イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
以上です。
それでは良い1年の始まりとなりますよう、お祈り致します。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
11/∞
11/∞
公開日
2019年02月11日
2019年02月11日
■メイン参加者 11人■

●
正月にのんびりとこたつに入っていた鹿ノ島・遥は、突如真顔で握った拳と掌をポンッと打つ。
「そうだ、餅をつこう」
そういうことになった。
臼と杵は自治体で借りて――そう思って交渉していたら、アレよアレよとなんだか人が集まって来る。
「じゃあ、もち米はワシのとこのを使えよ」
「久々だし腕鈍ってないかねぇ?」
「どっちかって言うと、腕より腰の方が心配なんじゃねぇかー?」
自治体やら商店街の人達やらを交えての、ちょっとしたお祭り騒ぎだ。
青空の下、長机に蒸されたもち米が運ばれてくれば、ブワリと大きく白い湯気が立つ。
「にーちゃん言い出しっぺなんだから」
濡らした杵を、渡された。
これは、1人で楽しんでいては勿体ない。
「おっ、相沢! お前暇そうだな? いや暇だな! ちょっと手伝え!」
そりゃあもう、こんな時には目ざとく見つけてやりますともよ。
相沢悟の手を引きながら、「あっ」と目の上に手を翳す。
「そこにいるのは確か、宮下さんだっけ? 一緒に餅とかどう? 妹さんも一緒にさ!」
宮下刹那よりも先に、永久が「面白そう!」と反応して、兄を引き摺るように寄ってきた。
「どうやるの?」
悟へと訊いた永久に、「そりゃあ」と人差し指を立てた悟が笑顔で固まる。
「えー、と。鹿ノ島さんが今、見本みせてくれるから」
話を振った悟と、永久のキラキラとした視線を受けながら、遥は杵で臼に移されたもち米をぐいぐいと押していく。
「最初はつかずに、こうして均等に潰して……」
言って、杵を振り上げた。
「こう、やるんだ!」
ペチンッ!
もち米が音を立てれば、「ほい」と米屋の奥さんの合いの手が入る。
「もういっちょ!」
周りで見ている人達の掛け声に合わせ、餅をついていく。
「私もやってみていい?」
永久の不慣れな合いの手に呼吸を合わせてやりながら、遥は杵を振り下ろす。
隣はと見れば、悟が上手く杵を振り上げられず、おっちゃん達に笑われていた。
「まだまだだな、若造」
その言葉ににっこりと笑い、悟が覚醒する。
「これで、楽勝です」
大人の姿になって杵を振り上げられても、振り下ろすのがまた難しい。
遥のように上手く餅にあてられず、情けない顔を向けてきた。その悟の目が、助けを求めている。
仕方ねぇなー、と町内の男達と一緒に、餅つき講座が始まった。
刹那はと言えば、女性陣と共につき終えた餅を丸めていっている。
「案外と不器用だねぇ」
手元を覗き込まれながらのひと言に、無表情でムッとしている。
「見て見て遥君。お兄ちゃん楽しそう」
普段はあまり見られぬ兄の姿に、遥の隣でププッと永久が口に手をあて笑っていた。
餡子やらきな粉やらと一緒に、皆で作った餅を食べる。
少し距離のあった一般人と覚者が、同等に餅をついて食べている。
「覚者だとかそうじゃないとか、くだらない!」
同じ寒空の下。
つきたての餅を味わう時に思う気持ちはどっちも一緒だろ!
なんて思う。
「今年こそ、良い年になりますように! いや、むしろ良い年にするぞー!!」
決意と願いを込めて、広がる青空に杵を振り上げ、遥は餅をつく。
FiVEの皆にも配ってやろう! なんて。笑顔で考えながら……。
●
お正月を実家で過ごした環 大和は、読んでいた本を静かに閉じる。
ふと、外の寒空へと目を向けた。
(今回は長く滞在しているわね)
ぼんやりとそんな事を思い、そろそろ戻らないと、と考えている自分に気付く。
五麟市に戻ってしまえば、こののんびりとした空間も、ゆっくりと流れる穏やかな時間も、しばらくはお預けになる。
口には出さないが、両親も心配していることだろう。
それでも娘を信じ、五麟市へと向かわせてくれるその気持ちに、感謝した。
夕飯が出来たとの声に、食卓へと向かう。
戻らないと、と考えていたのを見透かされたように、食卓にはたくさんのごちそうが並べられていた。
感謝の笑みを浮かべ、大和は「いただきます」と手を合わせ箸を持つ。ゆっくりと口に運びながら、料理を味わった。
「いつもわたしの為に良くしてくれてどうもありがとう。……七星のメンバーとの戦いは落ち着いたけれども、まだまだやらなければいけないことが残っているわ。それが終わるまではしばらくゆっくり戻ってくることはできないかもしれません」
娘の決意を想い、両親はいつでも「行っておいで」と優しく背中を押してくれる。
こんな、変わらない世界と、変わっていこうとする世界――。
古妖と人が上手く共存していける世界を、作れるかしら……?
ふと、考えてしまう。
例え無理だと言われても、作れる筈だと、信じていたい。
何故ならそれはきっと。
きっと。
優しい世界となる筈だから――。
●
20席程の、こぢんまりとした家庭的なレストラン『ラ・フォレ』。
天野 澄香の勤め先でもあるこの店は、今日はFiVE覚者達の貸し切りにしてくれていた。
オードブルとおせちの盛り付けを仕上げていれば、ドアの開く音。
「料理で役に立てない分、配膳とかは手伝おうと思って」
入ってきた如月・彩吹の言葉に、「ありがとうございます!」と笑顔を返す。
「お招きありがとう。僕までよかったの?」
彩吹の兄、如月・蒼羽には、「勿論です」と頷いた。
「今日は、大人の方が少ないので……」
ああ、成程。と、蒼羽は納得したように微笑みを浮かべる。
「引率がいたほうがお家の人は安心かな?」
手を洗って、2人は澄香が準備した料理、未成年用のジュース、大人用のワインや日本酒などをテーブルへと並べてゆく。
「ほんとは、料理も手伝いたかったんだけど」
残念そうに呟いた彩吹が、ジトリと兄へと眇めた目を向けた。
「せめて3が日は包丁には触らないでと、誰かさんに真顔で言われて……」
不満そうな妹に兄は微笑みを浮かべ、肩を竦める事でそれを躱す。
「だって正月早々……ねぇ?」
意味ありげに、澄香と2人、頷き合った。
ドアの開いた音に、3人が目を向ける。
「あけました! おめでとうございまっす!!」
元気な声と共に、ククル ミラノが笑顔で立っていた。
「おめでとうございます」
3人が笑顔で迎え、並べられている料理にミラノがそわそわと体を揺らす。
「わわわ、オードブルがたくさんっ!!」
ごちそうだっ! ごちそうだっ! とテンションも上がってゆく。
「あ」
一応お行儀よくしようと思ってたんだったと思い出し、ちょこん、と椅子へと座った。
けれども料理が運ばれてくる度に、ついついわちゃわちゃしてしまう。
「もうすぐ皆揃うから、そうしたらすぐ食べましょうね」
たくさん作りますから、と言った澄香に、コクコク何度も頷いた。
「澄ちゃん、ただいまーっ」
風のように舞い戻ったのは、麻弓 紡。
だきゅっ、と澄香に抱きついて。笑った澄香も、ポンポン紡をハグし返す。
「ふふっ。おかえりなさい、つむちゃん」
「すごい荷物だね」
笑った彩吹にも、勿論、だきゅ。
新年明けてからの群馬一泊帰省。その終わりの足で立ち寄ったのだ。
「滑り込みセーフ!」
そう言って、持ったままだった紙袋をつき出した。
「焼きまんじゅう買ってきたから皆で一緒に食べよーっ」
「焼きまんじゅう? おいしそー」
「おいしいよー、日持ちしないのが難点なんだけど」
けろりと笑う紡を挟み、親友3人で笑い合った。
「やったー! レストランで新年会だー!」
一際元気な声と共に勢いよく開いた扉からは、成瀬 翔。
店へとご機嫌で一歩を踏み込んだ途端、隣からは成瀬 歩の冷たいジト目が――。
お兄ちゃん、ちゃんとしてない……。
言葉に出さなくても聞こえてくる、妹の心の声。
「――っと、んっ、ごほんっ」
咳払いしてピシリと身を正し、仕切り直して。
「みんな、ちわー!」
元気よく挨拶した。
「あけおめー」
明るい挨拶と共に続けて入ってきたのは、真屋・千雪。
おみやげねー、と林檎のお酒と炭酸ジュースを澄香に手渡す。
「食べ物はいっぱいあるだろうと思ってさー」
すでに並べられている料理たちに、ほら、予想通りだねー、と笑った。
「みんなこんにちはー! つむちゃんもちゆきくんもお帰りなさいー!」
紡に駆け寄り「きゃーっ」と抱きついた歩に、「ただいまー」と2人の顔も綻んだ。
ぞくぞくと覚者達が到着してきて、相沢悟も宮下刹那と一緒に入ってくる。
「メールありがとうございます! 天野さん」
「……俺達兄妹まで。気を遣わせて悪いな」
悟に続き、刹那が言葉少なに礼を口にした。
「いいえ。賑やかな方が楽しいですから」
来てくれて嬉しいです、と澄香は皆を歓迎する。
「これ、遥君と一緒に私達でついたお餅です。とってもおいしいんですよ」
永久がお餅の入った手提げ袋を澄香に渡して。それを見ていた翔が「うっ」と密かに顔を逸らす。
――みんな、お土産持ってきてるんだなー。
「……オレ、何も持ってこなかった……」
そんな兄とは、対照的に。
「あゆみもー!」
妹がみかんの入った袋を澄香へと差し出す。
「って、歩、準備いいな!?」
驚く兄を見上げて。
「お呼ばれの時はてみやげがひっすなんだよ、お兄ちゃん?」
ちょっと得意げに胸を張る歩には、「おおー!」と大人達が拍手。
「なんか最近、兄としての威厳が……」
ガクリ項垂れた翔の肩を、笑いながらの相棒がポンポンと叩いていた。
「ほらほら翔。おいしそうな料理がいっぱいだよー」
紡の言葉にガバッと顔を上げて。途端に翔は瞳を輝かせる。
「すげーな、ごちそうが並んでる……けど、アレがねーぞ、オムライス! 澄香姉ちゃん、オムライス大盛り!」
元気もよくなって、歩も続く。
「あっ、オムライスいいなー! すみちゃん、あゆみにもー!」
クスクス笑った澄香は、「はいはい」と厨房に姿を消した。
オムライスを焼いている間に、最後の1人が到着する。
「えっと……遅れましてのあけましておめでとうございますですなの。FiVEの野武 七雅なの。本日はおまねきいただきましてありがとうございますなの!」
野武 七雅の少し息切れした様子と、両手でしっかりと握り締められた地図。
これらを見ただけで、方向音痴の彼女が苦労してこのこのレストランへと辿り着いたことが判る。
「えっとえっと、『ラ・フォレ』ってこっちであってるの?」
「すみません、『ラ・フォレ』ってどういけばいいのなの???」
キョロキョロと辺りを見回しながら通行人に尋ね回っているサマすらも、なんだか容易に想像出来る。
きっと辿り着くまでもが、ちょっとした冒険であったに違いない。
「いらっしゃいなの~」
「大丈夫だよ! 全然まだ始まってないから」
「とりあえず座るー? お水か何か飲むー?」
彼女の奮闘を称え、仲間達が優しく迎えた。
ククルと歩に手を引かれ、ちょこんと椅子に座って。七雅はクンクンと鼻を動かす。
「なんだか、良いにおいがするの」
「今、オムライス焼いてもらってるところなんだぜ!」
翔の言葉に、「オムライス?」と聞き返した。
「おいしそうなの」
小さく呟いた七雅に、翔が満面の笑みで厨房に向かって叫ぶ、。
「澄香姉ちゃーん、オムライス更に追加でー!」
両手にオムライスを持った澄香が「いらっしゃい、七雅ちゃん」と厨房から姿を現した。
「どんどん作るから遠慮はいりませんよ。……じゃあ皆さん、適当に座って下さいな」
始めましょうか、と言ってから、「あ」と声を洩らす。
「いぶちゃんはここ、お隣は千雪くん、どうぞ」
ふふっと笑った澄香に、彩吹が言われるまま席へと座る。その隣に千雪、続いて紡、翔、と男女交互に腰かけていった。
彩吹は、隣同士になった千雪へとにこりと笑顔。
「今年もよろしく」
「あ、彩吹さん、これ、僕の姉さん達からー。年末からに実家に帰ってきたから地元土産的なー。もらってくださいなー。蒼羽さんにはコッチねー」
彩吹には白餡とカステラとホワイトチョコで出来た卵型のお菓子、斜め前へと座った蒼羽には、ピーナッツの入ったクッキー風の煎餅を渡した。
「今年もよろしくお願いしまーす」
へらりと笑う千雪には、心が和んでしまう。彩吹も笑顔を返した。
「お年賀? わざわざごめんね、ありがとう」
決して決して。彩吹に悪気なんてない。そんな彼女に、「我が妹ながら」と蒼羽が天井を仰ぐ。
「あ、リンゴ酒も美味しそう。紡や兄さんは飲むだろう?」
2人のグラスへと注いで、ずっと動き回っている澄香も呼んだ。
「では、今日はたくさん食べて飲んで、たくさん笑って、楽しんでいって下さいね」
澄香の言葉に、全員が笑顔でグラスを掲げる。
「カンパーイ!」
「今年もよろしく」
元気の良い皆の声が響いて、新年会は始まった。
――おうちでは見たことない、綺麗なお料理があるの!
テーブルのふちに両手を添えて、料理を覗き込みながら七雅が感動する。
「すみちゃんはねー、とっても料理がうまいんだよー」
歩の言葉を証明するように、ミラノが「あ、それも食べたいっこれもっあれもっ」と色々な料理を口に運んでは、「おいしいっ!!」と褒め称えている。
「澄香の料理は本当に美味しいよ。私のとは違って。沢山食べて」
刹那達にも「食べてる?」と笑顔を向けた彩吹に、怖いモノ見たさなのか、悟が呟いた。
「如月さんの料理も、1度どんなのか食べてみたいなー」
その台詞に、蒼羽が咽る。それを横目に見た刹那が、「俺は、遠慮しておく」と真顔で視線を料理に戻した。
「だけど、そうだな。少しくらいはできないとな」
これほど美味くは無理でも、とチラリと永久を見る。
「今は男の人でも料理くらいできないとモテないんですー」
ベッと永久が刹那に向けて、舌を出した。
「おかわりは?」
ククルや七雅にも尋ねた彩吹が、「これも美味しいよ」と皿を受け取っては料理を乗せていく。
「ちいさい竹に入ったいくらのちらしずしが宝石みたいでかわいいの!」
こんなにかわいいのに食べていいの? 食べていいの? と言いたげなキラキラした瞳に、澄香が微笑む。
「どうぞ。まだまだ作れるから、沢山食べて下さいね」
ひとくち食べれば、ほっぺが落ちてしまいそう!
七雅は両掌で頬を包む。
「はわぁぁぁ。こんなにおいしいお店、初めてなのーー」
「どれも美味しいねぇ」
料理と共に林檎酒にも舌鼓をうっていた紡が、微酔いに頬を薄っすら染めた顔で言う。
その言葉に、全員が顔を見合わせ笑って。
「同感!」
と杯を掲げた。
「だけど折角帰省したのに、ご家族寂しがっていたんじゃない?」
僕たちは嬉しいけどね、と足した蒼羽に、千雪が笑う。
「彩吹さんと絡めれば、帰省日程を勝手に早めて家族に怒られたのも悔いはなしだよー」
「そう言えば、千雪の実家ってどこだっけ?」
千雪の堂々たる告白も、見事にスルー。
「えー、実家? 岩手だよー。もう雪で真っ白だったよねー」
天然過ぎる彩吹だけれど、千雪はちっとも気にしない。
いつも通りにのほほんと、ありのままの彩吹を受け入れる。
「……ああ」
この調子だと、と蒼羽が声を洩らした。
「公認片思いはまだ続きそうかな」
前に座る紡と顔を見合わせ、小さく笑い合った。
「デザートもありますよ」
皆さん食べてますか? と澄香は全員へと気を配る。
「歩やククル、七雅は甘いのが良いのかな?」
彩吹の言葉に、「うん、プリンとかケーキもほしい!」と歩が元気に答える。
「まだ食べれる?」
手を出しながら訊くと、笑顔で3枚の皿が差し出された。
「ほふぅ……おなかいっぱいなの~」
椅子の背に凭れかかったミラノ同様、皆が満足げにお腹をさすった。
賑やかだった新年会も終わりが近付き、大人達から未成年の子供達へとサプライズ。
「少ないですけど貰って下さいな」
澄香を筆頭に、お年玉を渡していく。紡からは、図書カードが入った瓜坊型のポチ袋だ。
「かわいい!」
永久と七雅が思わず声を上げ、「今年ははじめからこんないいことがっ」とミラノが目を瞬かせる。
「えへへ、ありがとうございます!」
みんな優しいからだいすきー! と笑顔を浮かべた歩は、「あ」と言葉を足した。
「お年玉貰ったから大好きって言ったんじゃないからね?」
上目遣いで確認してくる様子が可愛くて、判っているよと大人達は笑み返す。
「はい」
歩や翔、永久へとお年玉を渡した蒼羽は、刹那と悟には厄除けお守りを渡した。
「――お守り?」
「俺は、子供じゃないぞ」
不思議そうに首を傾げる2人に、蒼羽は永久へと優しい瞳を向ける。
「ふたりに怪我がないように。永久ちゃんが心配するからね」
それは、自分も妹を持つ兄の顔で。釣られたように、優しい笑みを浮かべた刹那が永久の頭を撫でた。
「……やっぱ、ああならないとだよな」
そして此処にももう1人。『兄』である少年が2人を見て呟いていた。
ぼんやり見つめていれば、誰かが腕に触れる感触が。
見れば、紡が自分の腕へと何やら嵌めてくれている。
それは『勝』と刺繍されたリストバンドで。
「地元の神社で買ってきたんだ」
大事にしてね、とにっこり笑った紡に、自然と翔にも笑顔が広がる。
「当たり前だろー! 汚さないように気をつけるな!」
かっけーな! と腕を掲げて見ていれば、反対側の肘が引っ張られた。
「よかったね、お兄ちゃん」
兄妹のカタチは、人それぞれだけれど。互いを想い合う気持ちは一緒だろう。
後でこっそり相棒にお守り買ってこようと考えている翔と、紡の姿を微笑ましく見ていたのは歩だけではなくて。幸せな雰囲気は、店全体を包んでいた。
「大変なコトも多そうだけど……ミラノ。頑張る」
決意を込めて両拳を握ったミラノの隣で、七雅も「うん」と頷く。
今はまだ、束の間の平和だけれど。
澄香が仲間達のために準備した『新年会』は、楽しさと、満腹感。
そして仲間達を明日に向かわせる元気をも、与えたのだった。
正月にのんびりとこたつに入っていた鹿ノ島・遥は、突如真顔で握った拳と掌をポンッと打つ。
「そうだ、餅をつこう」
そういうことになった。
臼と杵は自治体で借りて――そう思って交渉していたら、アレよアレよとなんだか人が集まって来る。
「じゃあ、もち米はワシのとこのを使えよ」
「久々だし腕鈍ってないかねぇ?」
「どっちかって言うと、腕より腰の方が心配なんじゃねぇかー?」
自治体やら商店街の人達やらを交えての、ちょっとしたお祭り騒ぎだ。
青空の下、長机に蒸されたもち米が運ばれてくれば、ブワリと大きく白い湯気が立つ。
「にーちゃん言い出しっぺなんだから」
濡らした杵を、渡された。
これは、1人で楽しんでいては勿体ない。
「おっ、相沢! お前暇そうだな? いや暇だな! ちょっと手伝え!」
そりゃあもう、こんな時には目ざとく見つけてやりますともよ。
相沢悟の手を引きながら、「あっ」と目の上に手を翳す。
「そこにいるのは確か、宮下さんだっけ? 一緒に餅とかどう? 妹さんも一緒にさ!」
宮下刹那よりも先に、永久が「面白そう!」と反応して、兄を引き摺るように寄ってきた。
「どうやるの?」
悟へと訊いた永久に、「そりゃあ」と人差し指を立てた悟が笑顔で固まる。
「えー、と。鹿ノ島さんが今、見本みせてくれるから」
話を振った悟と、永久のキラキラとした視線を受けながら、遥は杵で臼に移されたもち米をぐいぐいと押していく。
「最初はつかずに、こうして均等に潰して……」
言って、杵を振り上げた。
「こう、やるんだ!」
ペチンッ!
もち米が音を立てれば、「ほい」と米屋の奥さんの合いの手が入る。
「もういっちょ!」
周りで見ている人達の掛け声に合わせ、餅をついていく。
「私もやってみていい?」
永久の不慣れな合いの手に呼吸を合わせてやりながら、遥は杵を振り下ろす。
隣はと見れば、悟が上手く杵を振り上げられず、おっちゃん達に笑われていた。
「まだまだだな、若造」
その言葉ににっこりと笑い、悟が覚醒する。
「これで、楽勝です」
大人の姿になって杵を振り上げられても、振り下ろすのがまた難しい。
遥のように上手く餅にあてられず、情けない顔を向けてきた。その悟の目が、助けを求めている。
仕方ねぇなー、と町内の男達と一緒に、餅つき講座が始まった。
刹那はと言えば、女性陣と共につき終えた餅を丸めていっている。
「案外と不器用だねぇ」
手元を覗き込まれながらのひと言に、無表情でムッとしている。
「見て見て遥君。お兄ちゃん楽しそう」
普段はあまり見られぬ兄の姿に、遥の隣でププッと永久が口に手をあて笑っていた。
餡子やらきな粉やらと一緒に、皆で作った餅を食べる。
少し距離のあった一般人と覚者が、同等に餅をついて食べている。
「覚者だとかそうじゃないとか、くだらない!」
同じ寒空の下。
つきたての餅を味わう時に思う気持ちはどっちも一緒だろ!
なんて思う。
「今年こそ、良い年になりますように! いや、むしろ良い年にするぞー!!」
決意と願いを込めて、広がる青空に杵を振り上げ、遥は餅をつく。
FiVEの皆にも配ってやろう! なんて。笑顔で考えながら……。
●
お正月を実家で過ごした環 大和は、読んでいた本を静かに閉じる。
ふと、外の寒空へと目を向けた。
(今回は長く滞在しているわね)
ぼんやりとそんな事を思い、そろそろ戻らないと、と考えている自分に気付く。
五麟市に戻ってしまえば、こののんびりとした空間も、ゆっくりと流れる穏やかな時間も、しばらくはお預けになる。
口には出さないが、両親も心配していることだろう。
それでも娘を信じ、五麟市へと向かわせてくれるその気持ちに、感謝した。
夕飯が出来たとの声に、食卓へと向かう。
戻らないと、と考えていたのを見透かされたように、食卓にはたくさんのごちそうが並べられていた。
感謝の笑みを浮かべ、大和は「いただきます」と手を合わせ箸を持つ。ゆっくりと口に運びながら、料理を味わった。
「いつもわたしの為に良くしてくれてどうもありがとう。……七星のメンバーとの戦いは落ち着いたけれども、まだまだやらなければいけないことが残っているわ。それが終わるまではしばらくゆっくり戻ってくることはできないかもしれません」
娘の決意を想い、両親はいつでも「行っておいで」と優しく背中を押してくれる。
こんな、変わらない世界と、変わっていこうとする世界――。
古妖と人が上手く共存していける世界を、作れるかしら……?
ふと、考えてしまう。
例え無理だと言われても、作れる筈だと、信じていたい。
何故ならそれはきっと。
きっと。
優しい世界となる筈だから――。
●
20席程の、こぢんまりとした家庭的なレストラン『ラ・フォレ』。
天野 澄香の勤め先でもあるこの店は、今日はFiVE覚者達の貸し切りにしてくれていた。
オードブルとおせちの盛り付けを仕上げていれば、ドアの開く音。
「料理で役に立てない分、配膳とかは手伝おうと思って」
入ってきた如月・彩吹の言葉に、「ありがとうございます!」と笑顔を返す。
「お招きありがとう。僕までよかったの?」
彩吹の兄、如月・蒼羽には、「勿論です」と頷いた。
「今日は、大人の方が少ないので……」
ああ、成程。と、蒼羽は納得したように微笑みを浮かべる。
「引率がいたほうがお家の人は安心かな?」
手を洗って、2人は澄香が準備した料理、未成年用のジュース、大人用のワインや日本酒などをテーブルへと並べてゆく。
「ほんとは、料理も手伝いたかったんだけど」
残念そうに呟いた彩吹が、ジトリと兄へと眇めた目を向けた。
「せめて3が日は包丁には触らないでと、誰かさんに真顔で言われて……」
不満そうな妹に兄は微笑みを浮かべ、肩を竦める事でそれを躱す。
「だって正月早々……ねぇ?」
意味ありげに、澄香と2人、頷き合った。
ドアの開いた音に、3人が目を向ける。
「あけました! おめでとうございまっす!!」
元気な声と共に、ククル ミラノが笑顔で立っていた。
「おめでとうございます」
3人が笑顔で迎え、並べられている料理にミラノがそわそわと体を揺らす。
「わわわ、オードブルがたくさんっ!!」
ごちそうだっ! ごちそうだっ! とテンションも上がってゆく。
「あ」
一応お行儀よくしようと思ってたんだったと思い出し、ちょこん、と椅子へと座った。
けれども料理が運ばれてくる度に、ついついわちゃわちゃしてしまう。
「もうすぐ皆揃うから、そうしたらすぐ食べましょうね」
たくさん作りますから、と言った澄香に、コクコク何度も頷いた。
「澄ちゃん、ただいまーっ」
風のように舞い戻ったのは、麻弓 紡。
だきゅっ、と澄香に抱きついて。笑った澄香も、ポンポン紡をハグし返す。
「ふふっ。おかえりなさい、つむちゃん」
「すごい荷物だね」
笑った彩吹にも、勿論、だきゅ。
新年明けてからの群馬一泊帰省。その終わりの足で立ち寄ったのだ。
「滑り込みセーフ!」
そう言って、持ったままだった紙袋をつき出した。
「焼きまんじゅう買ってきたから皆で一緒に食べよーっ」
「焼きまんじゅう? おいしそー」
「おいしいよー、日持ちしないのが難点なんだけど」
けろりと笑う紡を挟み、親友3人で笑い合った。
「やったー! レストランで新年会だー!」
一際元気な声と共に勢いよく開いた扉からは、成瀬 翔。
店へとご機嫌で一歩を踏み込んだ途端、隣からは成瀬 歩の冷たいジト目が――。
お兄ちゃん、ちゃんとしてない……。
言葉に出さなくても聞こえてくる、妹の心の声。
「――っと、んっ、ごほんっ」
咳払いしてピシリと身を正し、仕切り直して。
「みんな、ちわー!」
元気よく挨拶した。
「あけおめー」
明るい挨拶と共に続けて入ってきたのは、真屋・千雪。
おみやげねー、と林檎のお酒と炭酸ジュースを澄香に手渡す。
「食べ物はいっぱいあるだろうと思ってさー」
すでに並べられている料理たちに、ほら、予想通りだねー、と笑った。
「みんなこんにちはー! つむちゃんもちゆきくんもお帰りなさいー!」
紡に駆け寄り「きゃーっ」と抱きついた歩に、「ただいまー」と2人の顔も綻んだ。
ぞくぞくと覚者達が到着してきて、相沢悟も宮下刹那と一緒に入ってくる。
「メールありがとうございます! 天野さん」
「……俺達兄妹まで。気を遣わせて悪いな」
悟に続き、刹那が言葉少なに礼を口にした。
「いいえ。賑やかな方が楽しいですから」
来てくれて嬉しいです、と澄香は皆を歓迎する。
「これ、遥君と一緒に私達でついたお餅です。とってもおいしいんですよ」
永久がお餅の入った手提げ袋を澄香に渡して。それを見ていた翔が「うっ」と密かに顔を逸らす。
――みんな、お土産持ってきてるんだなー。
「……オレ、何も持ってこなかった……」
そんな兄とは、対照的に。
「あゆみもー!」
妹がみかんの入った袋を澄香へと差し出す。
「って、歩、準備いいな!?」
驚く兄を見上げて。
「お呼ばれの時はてみやげがひっすなんだよ、お兄ちゃん?」
ちょっと得意げに胸を張る歩には、「おおー!」と大人達が拍手。
「なんか最近、兄としての威厳が……」
ガクリ項垂れた翔の肩を、笑いながらの相棒がポンポンと叩いていた。
「ほらほら翔。おいしそうな料理がいっぱいだよー」
紡の言葉にガバッと顔を上げて。途端に翔は瞳を輝かせる。
「すげーな、ごちそうが並んでる……けど、アレがねーぞ、オムライス! 澄香姉ちゃん、オムライス大盛り!」
元気もよくなって、歩も続く。
「あっ、オムライスいいなー! すみちゃん、あゆみにもー!」
クスクス笑った澄香は、「はいはい」と厨房に姿を消した。
オムライスを焼いている間に、最後の1人が到着する。
「えっと……遅れましてのあけましておめでとうございますですなの。FiVEの野武 七雅なの。本日はおまねきいただきましてありがとうございますなの!」
野武 七雅の少し息切れした様子と、両手でしっかりと握り締められた地図。
これらを見ただけで、方向音痴の彼女が苦労してこのこのレストランへと辿り着いたことが判る。
「えっとえっと、『ラ・フォレ』ってこっちであってるの?」
「すみません、『ラ・フォレ』ってどういけばいいのなの???」
キョロキョロと辺りを見回しながら通行人に尋ね回っているサマすらも、なんだか容易に想像出来る。
きっと辿り着くまでもが、ちょっとした冒険であったに違いない。
「いらっしゃいなの~」
「大丈夫だよ! 全然まだ始まってないから」
「とりあえず座るー? お水か何か飲むー?」
彼女の奮闘を称え、仲間達が優しく迎えた。
ククルと歩に手を引かれ、ちょこんと椅子に座って。七雅はクンクンと鼻を動かす。
「なんだか、良いにおいがするの」
「今、オムライス焼いてもらってるところなんだぜ!」
翔の言葉に、「オムライス?」と聞き返した。
「おいしそうなの」
小さく呟いた七雅に、翔が満面の笑みで厨房に向かって叫ぶ、。
「澄香姉ちゃーん、オムライス更に追加でー!」
両手にオムライスを持った澄香が「いらっしゃい、七雅ちゃん」と厨房から姿を現した。
「どんどん作るから遠慮はいりませんよ。……じゃあ皆さん、適当に座って下さいな」
始めましょうか、と言ってから、「あ」と声を洩らす。
「いぶちゃんはここ、お隣は千雪くん、どうぞ」
ふふっと笑った澄香に、彩吹が言われるまま席へと座る。その隣に千雪、続いて紡、翔、と男女交互に腰かけていった。
彩吹は、隣同士になった千雪へとにこりと笑顔。
「今年もよろしく」
「あ、彩吹さん、これ、僕の姉さん達からー。年末からに実家に帰ってきたから地元土産的なー。もらってくださいなー。蒼羽さんにはコッチねー」
彩吹には白餡とカステラとホワイトチョコで出来た卵型のお菓子、斜め前へと座った蒼羽には、ピーナッツの入ったクッキー風の煎餅を渡した。
「今年もよろしくお願いしまーす」
へらりと笑う千雪には、心が和んでしまう。彩吹も笑顔を返した。
「お年賀? わざわざごめんね、ありがとう」
決して決して。彩吹に悪気なんてない。そんな彼女に、「我が妹ながら」と蒼羽が天井を仰ぐ。
「あ、リンゴ酒も美味しそう。紡や兄さんは飲むだろう?」
2人のグラスへと注いで、ずっと動き回っている澄香も呼んだ。
「では、今日はたくさん食べて飲んで、たくさん笑って、楽しんでいって下さいね」
澄香の言葉に、全員が笑顔でグラスを掲げる。
「カンパーイ!」
「今年もよろしく」
元気の良い皆の声が響いて、新年会は始まった。
――おうちでは見たことない、綺麗なお料理があるの!
テーブルのふちに両手を添えて、料理を覗き込みながら七雅が感動する。
「すみちゃんはねー、とっても料理がうまいんだよー」
歩の言葉を証明するように、ミラノが「あ、それも食べたいっこれもっあれもっ」と色々な料理を口に運んでは、「おいしいっ!!」と褒め称えている。
「澄香の料理は本当に美味しいよ。私のとは違って。沢山食べて」
刹那達にも「食べてる?」と笑顔を向けた彩吹に、怖いモノ見たさなのか、悟が呟いた。
「如月さんの料理も、1度どんなのか食べてみたいなー」
その台詞に、蒼羽が咽る。それを横目に見た刹那が、「俺は、遠慮しておく」と真顔で視線を料理に戻した。
「だけど、そうだな。少しくらいはできないとな」
これほど美味くは無理でも、とチラリと永久を見る。
「今は男の人でも料理くらいできないとモテないんですー」
ベッと永久が刹那に向けて、舌を出した。
「おかわりは?」
ククルや七雅にも尋ねた彩吹が、「これも美味しいよ」と皿を受け取っては料理を乗せていく。
「ちいさい竹に入ったいくらのちらしずしが宝石みたいでかわいいの!」
こんなにかわいいのに食べていいの? 食べていいの? と言いたげなキラキラした瞳に、澄香が微笑む。
「どうぞ。まだまだ作れるから、沢山食べて下さいね」
ひとくち食べれば、ほっぺが落ちてしまいそう!
七雅は両掌で頬を包む。
「はわぁぁぁ。こんなにおいしいお店、初めてなのーー」
「どれも美味しいねぇ」
料理と共に林檎酒にも舌鼓をうっていた紡が、微酔いに頬を薄っすら染めた顔で言う。
その言葉に、全員が顔を見合わせ笑って。
「同感!」
と杯を掲げた。
「だけど折角帰省したのに、ご家族寂しがっていたんじゃない?」
僕たちは嬉しいけどね、と足した蒼羽に、千雪が笑う。
「彩吹さんと絡めれば、帰省日程を勝手に早めて家族に怒られたのも悔いはなしだよー」
「そう言えば、千雪の実家ってどこだっけ?」
千雪の堂々たる告白も、見事にスルー。
「えー、実家? 岩手だよー。もう雪で真っ白だったよねー」
天然過ぎる彩吹だけれど、千雪はちっとも気にしない。
いつも通りにのほほんと、ありのままの彩吹を受け入れる。
「……ああ」
この調子だと、と蒼羽が声を洩らした。
「公認片思いはまだ続きそうかな」
前に座る紡と顔を見合わせ、小さく笑い合った。
「デザートもありますよ」
皆さん食べてますか? と澄香は全員へと気を配る。
「歩やククル、七雅は甘いのが良いのかな?」
彩吹の言葉に、「うん、プリンとかケーキもほしい!」と歩が元気に答える。
「まだ食べれる?」
手を出しながら訊くと、笑顔で3枚の皿が差し出された。
「ほふぅ……おなかいっぱいなの~」
椅子の背に凭れかかったミラノ同様、皆が満足げにお腹をさすった。
賑やかだった新年会も終わりが近付き、大人達から未成年の子供達へとサプライズ。
「少ないですけど貰って下さいな」
澄香を筆頭に、お年玉を渡していく。紡からは、図書カードが入った瓜坊型のポチ袋だ。
「かわいい!」
永久と七雅が思わず声を上げ、「今年ははじめからこんないいことがっ」とミラノが目を瞬かせる。
「えへへ、ありがとうございます!」
みんな優しいからだいすきー! と笑顔を浮かべた歩は、「あ」と言葉を足した。
「お年玉貰ったから大好きって言ったんじゃないからね?」
上目遣いで確認してくる様子が可愛くて、判っているよと大人達は笑み返す。
「はい」
歩や翔、永久へとお年玉を渡した蒼羽は、刹那と悟には厄除けお守りを渡した。
「――お守り?」
「俺は、子供じゃないぞ」
不思議そうに首を傾げる2人に、蒼羽は永久へと優しい瞳を向ける。
「ふたりに怪我がないように。永久ちゃんが心配するからね」
それは、自分も妹を持つ兄の顔で。釣られたように、優しい笑みを浮かべた刹那が永久の頭を撫でた。
「……やっぱ、ああならないとだよな」
そして此処にももう1人。『兄』である少年が2人を見て呟いていた。
ぼんやり見つめていれば、誰かが腕に触れる感触が。
見れば、紡が自分の腕へと何やら嵌めてくれている。
それは『勝』と刺繍されたリストバンドで。
「地元の神社で買ってきたんだ」
大事にしてね、とにっこり笑った紡に、自然と翔にも笑顔が広がる。
「当たり前だろー! 汚さないように気をつけるな!」
かっけーな! と腕を掲げて見ていれば、反対側の肘が引っ張られた。
「よかったね、お兄ちゃん」
兄妹のカタチは、人それぞれだけれど。互いを想い合う気持ちは一緒だろう。
後でこっそり相棒にお守り買ってこようと考えている翔と、紡の姿を微笑ましく見ていたのは歩だけではなくて。幸せな雰囲気は、店全体を包んでいた。
「大変なコトも多そうだけど……ミラノ。頑張る」
決意を込めて両拳を握ったミラノの隣で、七雅も「うん」と頷く。
今はまだ、束の間の平和だけれど。
澄香が仲間達のために準備した『新年会』は、楽しさと、満腹感。
そして仲間達を明日に向かわせる元気をも、与えたのだった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
大変お待たせを致しました。申し訳ありません。
少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
ご参加、誠にありがとうございました。
少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
ご参加、誠にありがとうございました。
