少し遅れたメリーメリークリスマス
●
ゆきやこんこ、あられもこんこ。
街は雪で白く染まり、はく息も白い。
「よはこともなしなのがごりんだ」
「ごりんだからよはこともなしなのだ」
五麟学園の少し壊れた校門の前には即席の大きなクリスマスツリーが立てられている。
色とりどりのオーナメントをつま先で蹴りながらゆきんこ二人は楽しそうに笑う。
「いろいろあった」
「あったのがいろいろだ」
彼らは初冬のころ、FiVEの覚者たちが助けに来てくれたとことを思い出す。その後はゆきめとともに五麟に身をよせた。
ここに身をよせたのは彼らだけではない。たくさんの、たくさんの古妖が集まってきた。
そして、その結果として七星剣の八神が攻めてきたのだ。大きな戦いだった。
しかして、FiVEの覚者たちは勝利を掴むことができた。
大きな犠牲があった。大きなことを知った。
向かうべき方向が決まったといっても過言ではないだろう。
街は戦闘によって壊れた部分も散見する。それどころじゃないといわれればその通りだ。
だけれども、日常に戻るために彼らはクリスマスを祝うのだ。
非日常と日常の閾はいまやあるのかないのかも不確定だ。それは今後更にあやふやになっていくのだろう。
故に、だからこそ、彼らは日常に戻る必要があるのだ。
奇跡の雪から、今は京都の街にいつもの自然現象としての雪が振り続ける。
すこしだけ、おくれてしまったけれども。
メリークリスマス。
ゆきやこんこ、あられもこんこ。
街は雪で白く染まり、はく息も白い。
「よはこともなしなのがごりんだ」
「ごりんだからよはこともなしなのだ」
五麟学園の少し壊れた校門の前には即席の大きなクリスマスツリーが立てられている。
色とりどりのオーナメントをつま先で蹴りながらゆきんこ二人は楽しそうに笑う。
「いろいろあった」
「あったのがいろいろだ」
彼らは初冬のころ、FiVEの覚者たちが助けに来てくれたとことを思い出す。その後はゆきめとともに五麟に身をよせた。
ここに身をよせたのは彼らだけではない。たくさんの、たくさんの古妖が集まってきた。
そして、その結果として七星剣の八神が攻めてきたのだ。大きな戦いだった。
しかして、FiVEの覚者たちは勝利を掴むことができた。
大きな犠牲があった。大きなことを知った。
向かうべき方向が決まったといっても過言ではないだろう。
街は戦闘によって壊れた部分も散見する。それどころじゃないといわれればその通りだ。
だけれども、日常に戻るために彼らはクリスマスを祝うのだ。
非日常と日常の閾はいまやあるのかないのかも不確定だ。それは今後更にあやふやになっていくのだろう。
故に、だからこそ、彼らは日常に戻る必要があるのだ。
奇跡の雪から、今は京都の街にいつもの自然現象としての雪が振り続ける。
すこしだけ、おくれてしまったけれども。
メリークリスマス。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.クリスマスをたのしむ
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
大きな戦いお疲れ様でした。街はまだごたごたしていますが、開けて本日クリスマスです。
イブを祝うことはできませんでしたが、まだクリスマスは続いています。
疲れを癒やしてクリスマスをお過ごしください。
学園では軽いパーティがおこなわれていますが、好きに行動してくださってかまいません。
もちろん街の復興のために働いてもらってもかまいませんが、AAAの方や夢見も今回は皆さんがクリスマスのお休みをとれるように頑張ってお片付けの手伝いをしているので気にされなくてもだいじょうぶです。古妖のみなさんもお礼にとお片付けを手伝えるものは手伝っています。
お店などは開いています。きっと皆が皆早く日常にかえりたいとおもっているのでしょう。
基本的には何をしていただいてもかまいません。
クリスマスをゆっくりおすごしください。
ゆきんことゆきめはおりますので、話しかけたいひとはどうぞ。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
13/30
13/30
公開日
2019年01月02日
2019年01月02日
■メイン参加者 13人■

●
ゆきやこんこ、あられもこんこ。
降り出した雪はやさしく五麟の街を包み込む。
七星のボスが攻め込んできたときはもうおわりかとおもったの。
野武 七雅(CL2001141)もまた日常に戻りたいひとり。
少しだけお小遣いを奮発してクリスマスビュッフェのお店に向かう。お店の自動ドアはこわれていたけれど、中にはストーブがいくつか準備されていて温かい。
店員は七雅を見るとお疲れ様でしたとねぎらってくれた。七雅はそれがなんだか誇らしくて恥ずかしくてはにかんでしまう。
うけとったお皿には大好物をのせていく。今日は苦手なピーマンは乗せなくたっておこられない。
大好きなものでうまる七雅だけの素敵なクリスマスプレートの出来に頬が緩む。
ケーキだらけのそのお皿に七雅は幸せだと、微笑んだ。
イブはお外ですごしたから、と。
蘇我島 恭司(CL2001015) と柳 燐花(CL2000695)はおこたでぬくぬく。ねこはこたつでまるくなるものなのだ。
そんな贅沢ができることが嬉しい。
ケーキだって、食材だって買い出しは終わっている。ごちそうチキンの下準備もおわらせた。もう炬燵でまるくなる理由しかない。
黒猫のめいがにゃごにゃごと燐花の膝の上でねごとのような鳴き声をだす。にゃあ、と答えて燐花はめいをなでた。
「雪……降ってますか?」
「そうだねえ。ちょっとまえから本格的に降ってきたみたい。買い出しを終わらせておいてよかったね。外は随分冷えていそうだ。夕食までの時間レンタルビデオでもみるかい? 借りてくるよ」
冷たいガラスで隔たれた向こうには六花が舞っている。ちょっと行ってくるよという恭司の服の裾を、燐花はくい、と引っ張る。
「レンタルショップ、ついていっていいですか?」
「寒いよ?」
「雪のなか、あるきたくて」
「ふうん?」
寒いけど、少しの距離だし、それに。手をつないで、大切な人の手の暖かさを感じたいのだ。そんな少女の淡い願いを彼はきっと笑うのだろう。
膝の上からめいを下ろせばにゃあ、と抗議の声をあげるけれど、ごめんねと謝って、立ち上がる。
「じゃあ、何をみようか? 去年はお家で一人っきりで悪党を撃退するのを見たし、今年は静かなクリスマスを願う警官が誘拐犯に台無しにされるのがいいかな? ほろ苦いはさみ男の話がいいかな? それとも白黒映画でキャロルにするか、ポケットの中にある戦争もの?」
「どれでも大丈夫です」
「よし、じゃあ一緒にでかけよう」
空からの贈り物に感謝して。そんな気障な言葉がくすぐったい。燐花は急いでコートをきて手袋をはめようとしてやめる。
「準備できました」
「さあ、出かけようか?」
玄関でまつ恭司は2つの傘を用意しようとして思い直し、大きめの傘を用意する。
恥ずかしいけれど、雪ふるなかのあいあいがさ。それって二人きりのせかいが移動してるみたいで素敵だろう? なんて言えば彼女は笑うのだろうか?
「随分と派手に壊れたものですね、クリスマスなのにいいんですか?」
環 大和(CL2000477) と時任・千陽(CL2000014)は復興の手伝いだ。AAAの職員は大丈夫とはいうが、ふたりとも自分たちだけがクリスマスを楽しむわけにはいかないと随分に頑固であったのだ。
「あら? だってクリスマスは毎年やってくるんですもの。今年の分は来年にお預け。そうしたら来年はもっとたのしいわ」
「環嬢らしいというか」
「それに、古妖の皆やAAAの皆も頑張ってるから手伝いたくて」
「気にするなと言われてもきになりまして」
さすがの朴念仁の千陽でもこれ以上の言及は野暮だと思ったのだろう。せめてと重いものは自分で運ぶことにする。
休憩時間です、とAAA職員が声をあげた。
千陽は汗を拭って大和を探すが姿がみえずにきょろきょろとする。
「はい」
そのうしろからいつの間に買ってきたのか大和はたいやきを千陽に手渡した。
「ああ、ありがとうございます。去年のたいやきですか?」
「ええ、去年、千陽さんったらとっても美味しそうにたべてたから。今年も屋台がでていたの」
その言葉に復興は叶っているのだとうれしくなる。
「手伝ってくれてありがとう。簡単なもので恐縮だけど」
「いえいえ、とんでもありません」
大和は近くにいた古妖にもたいやきを渡す。千陽はその様子を眺めている。
「あら? 目がついているの? 怖かったのかしら?」
「い、いえ! そんなわけありませんから!」
去年を思い出したように大和がくすりとわらえば千陽は慌てて頭からかぶりつく。そうすれば目はみえない。
千陽は思う。この先の未来は自分たち次第で変わっていくのだろう。しかし、目の前の少女の心のあり方だけは変わらずに、と願うのであった。
五麟市の小さな教会には、工藤・奏空(CL2000955)と賀茂たまき(CL2000994)が訪れていた。
クリスマスキャンドルに灯りをともし、クリスマスツリーに向かう。
たまきは目を瞑り先の決戦で魂を賭して、今ここに生きている自分たちへと繋いでくれた友人とそして教師のために聖歌を歌う。彼らはもう、此処には居ない。彼岸の向こうに消えた。
奏空はその歌声を無言で聞いていた。揺れるキャンドルライトが、魂の光に思えて胸が詰まる。
自分たちを包むこの数多の光が願いであり希望でありそして――未来なのだ。
その数々の想いに報いようと少年は前を向いて戦ってきた。それが重荷であると思ったことはない、などとはいわない。当然だ。人が抱えることのできる魂(いのち)は一つだけだ。誰かの思いを継ぐことはそのまま魂(いのち)を継ぐことと変わりない。
今日はクリスマスだ。軌跡の日なのだ。だから――いつもは言えない願いを言ってもいいはずだと。
少年は少しだけ、ほんの少しだけ弱音を漏らす。他人からみたらどこが弱音だと思うだろう。
しかして、誰かの願いをうけ、痛む体と心に鞭打って前に進み続けた彼が誰かに祈る(たよる)ということはなかった。
その祈りは『どうか皆の願いをかなえることができるように』。
そんな願いはどこかにいる神様にしか叶えることはできない。だけど優しい、何よりも優しい願い。
歌声がとまり、背中が温かくなる。
たまきだ。その清廉な願いを空に向ける奏空が、そのまま消えてしまいそうで。手の届かないずっとずっと遠くに行ってしまいそうで抱きとめてしまったのだ。
奏空が目を白黒とさせている。当然だ。たまきの思いなどわかりはしないだろう。
少女の使命は陰陽師として日本を守るために大妖をすべて根絶すること。
それ以上に、目の前の最愛の人、人たちを守るために大妖のその先も封印してしまうこと。
それらを実行するためには奏空が居なくてはいけないのだ。だから遠くに行っちゃ嫌、なのだ。
「たまきちゃん? どうしたの?」
そんな優しい声がすき。きっと彼はどこにもいかない、いかないでほしい。
だから彼から離れると雪玉を握りえい、と笑顔で奏空に投げれば胸元で雪玉が綻びる。
「たまきちゃん?」
うろたえる奏空にふたつめの雪玉が投げられ奏空はこのー、なんていいながら柔らかく握った雪玉をいつもの笑顔で、だいすきな笑顔でなげかえしてくる。
たまきはそれがうれしかった。茶化してしまって申し訳ない気持ちはある。
だけど、七星剣の八神を倒したほんのすこしの間の安らかな時間くらいは――。
「モイモイ!」
成瀬 歩(CL2001650)がクリスマスパーティに向かうその途中。天野 澄香(CL2000194)と如月・彩吹(CL2001525)、真屋・千雪(CL2001638)と(麻弓 紡(CL2000623)に連れられゆきんことゆきめに会いに行く。
紡はさむいさむいと歩と澄香の間に潜り込んで暖をとる。もこもこマフラーに手袋。ボアたっぷりのコートとはいえ寒いものは寒いのだ。
「モイモイなのがゆきんこだ」
「ゆきんこだからモイモイモイだ」
そう挨拶を返すゆきんこを歩はだきしめる。
「やあ、今年もきたね」
彩吹は歩の頭を撫で、ゆきんこたちの頭もわしゃわしゃとなでる。
「よいこにはプレゼントが貰える日なんだよ」と彩吹は歩とゆきんこに小さな靴下に入ったお菓子を配れば。歩もゆきんこもおなじように喜ぶ。
ゆきめには、同じものはさすがに子ども扱いで失礼かなと思い直し、彩吹は千雪に声をかける。
「ねえ、なにかひいてよ、千雪」
女子ばかりのその中でちょっと居心地がわるいなーと気まずい気分になっていた千雪は彩吹に水をむけられて、しゃきんと背を伸ばす。
まあ居心地は悪くても彩吹がいればそこはどこでもパラダイスな千雪は、ベンチに腰をかけると背おってきたトイピアノをおろし膝の上におく。
「まかせて、彩吹さん。サンタクロースがやってきたからきらきら星までなんでもリクエストはまかせて! ごきげんなナンバーでいくよ」
公園に優しいピアノのクリスマスメロディが流れれば、歩とゆきんこがゆらゆらゆれながら、そのコンサートに耳をすませる。
「お、君がゆきめちゃんだね、やっほー」
手をふりながらハジメマシテ&ハッピークリスマス♪ と紡が挨拶をする。
「貴様らには礼をいう」
ゆきめは短く礼をいうと頭をさげた。
「これはプレゼントだよ」と首に金色リボンを巻いた木製の雪だるまを渡せば、ゆきめはきょとんとした顔をする。紡のそれを皮切りに、その場でプレゼント交換会が始まってしまう。会場までは待ちきれない。
「そうだ、プレゼントがあるんだよ」
そういって歩がポシェットの中からだすのは毛糸のまあるいポンポンのついたヘアゴム。
「ゆきめお姉さんにも! はい」
渡されたそのヘアゴムを3体の古妖が持て余していると、こうするんだよと歩が髪にむすびつければ、ゆきんこたちはぽんぽんぽん、と大喜びする。
髪を結ぶ仕草をするゆきめに澄香はアイスケーキのはいったクーラーボックスを渡す。
「冬の古妖さんですから、こっちのほうがいいかとおもって……もしかしてクーラーボックスなくてもよかったのかしら?」
「いいや、気遣いに感謝する」
ゆきめは礼をいい、菓子だぞ、とゆきんこに声をかければゆきんこはすでに靴下のお菓子は食べきったようで、クーラーボックスの中にケーキを求め体ごとつっこんでいく。
女性陣はプレゼントを交換しはじめる。
歩から、彩吹と紡と澄香には色違いのポンポンのついたバッグチャーム。
あゆみがピンク、すみちゃんが白、つむちゃんは黄色で、いぶちゃんには青。
そしてちゆきくんにはぽんぽんのついたストラップ。誰かさんと同じ青色だってきづくかな?
澄香はクリスマスケーキとジンジャークッキーの袋詰を皆に配る。
紡は親友二人には自分とおそろいの色違いの石と雪の結晶のブローチ。
歩には「ボクと姫から」と告げサンタ&トナカイの指人形。
千雪にはレストランのチケット二枚。二枚ある意味を彼は理解するだろうか?
彩吹から澄香と紡にはクリスマスローズのレリーフの入った髪飾り。
演奏中の千雪に彩吹は緑色のマフラーをふわりとかけた。
「!?」
ピアノの鍵盤を打鍵する指が二つとなりにずれて音楽が止まるのも仕方ない。
あとニヤけるのも仕方ない。
ありがとう、と千雪はバッグの中からリース型のクッキーを皆に配る。
紡にわたすときにはこっそりと「頑張ってみる」とチケットをゆらゆらとふった。ずいぶんと浮かれポンチではあるが、意図は察してくれたようだ。だけど。
「今から誘っちゃダブルブッキングしちゃうからね」と釘をさす。
今のいぶちゃんは友人たち皆のものなのだ。持ち帰りは許されない。別の日におねがいね、と言えばとうの千雪は目をそらした。やっぱり釘をさして正解だ。
交換会が終われば「またね」と別れる。
さあ、今日はたのしい友達どうしのクリスマスパーティだ!
ほんとうにいろいろあった。
一人クリスマスの夜を歩く篁・三十三(CL2001480)は思いを馳せる。
自分はクリスマスとは縁がないとは思うが、大変な最中でもクリスマスを喜び合う人たちに自然、顔がほころぶ。
「ひとりか」
「ひとりなのがにんげんだ」
路地を回って、住宅街にはいったところでゆきんこに声をかけられた。
「君たちも無事だったんだね。よかった。
あのときは怖い思いをさせてごめんね。
もう怖い思いをしなくてすむ世界にするためも、強くなるよ」
「そうか、ひとのこつよくなれ。あのときはありがとう。ゆきんこが無事だったのはお前のおかげだ」
「ありがとうで、つよくなるのがひとのこだ。こい」
短い言葉で誘われ、三十三はそのままついていく。
その先にはもみの木が雪でおおわれた自然のクリスマスツリー。
「ゆきよふれ」
「ふるのがゆきだ」
ゆきんこの言葉に肉眼で観測できるほど大きな六花の結晶がツリーに飾られる。
「わあ、綺麗だ」
もはやこの日本ではクリスマスの意味など形骸化して久しい。クリスマスの願いだって祈りだって形を変えている。
それでも。こうやって誰かの心を動かすものが人々の、そして隣人である古妖の願いによって作られていることは確かなのだ。
「ありがとう」
自然に言葉がもれた。
ゆきんこたちは頷いている。
だから、もうすこしだけ、このクリスマスの夜をたのしもう。
ベリーメリー・クリスマス。
そしてハッピーニューイヤー。
ゆきやこんこ、あられもこんこ。
降り出した雪はやさしく五麟の街を包み込む。
七星のボスが攻め込んできたときはもうおわりかとおもったの。
野武 七雅(CL2001141)もまた日常に戻りたいひとり。
少しだけお小遣いを奮発してクリスマスビュッフェのお店に向かう。お店の自動ドアはこわれていたけれど、中にはストーブがいくつか準備されていて温かい。
店員は七雅を見るとお疲れ様でしたとねぎらってくれた。七雅はそれがなんだか誇らしくて恥ずかしくてはにかんでしまう。
うけとったお皿には大好物をのせていく。今日は苦手なピーマンは乗せなくたっておこられない。
大好きなものでうまる七雅だけの素敵なクリスマスプレートの出来に頬が緩む。
ケーキだらけのそのお皿に七雅は幸せだと、微笑んだ。
イブはお外ですごしたから、と。
蘇我島 恭司(CL2001015) と柳 燐花(CL2000695)はおこたでぬくぬく。ねこはこたつでまるくなるものなのだ。
そんな贅沢ができることが嬉しい。
ケーキだって、食材だって買い出しは終わっている。ごちそうチキンの下準備もおわらせた。もう炬燵でまるくなる理由しかない。
黒猫のめいがにゃごにゃごと燐花の膝の上でねごとのような鳴き声をだす。にゃあ、と答えて燐花はめいをなでた。
「雪……降ってますか?」
「そうだねえ。ちょっとまえから本格的に降ってきたみたい。買い出しを終わらせておいてよかったね。外は随分冷えていそうだ。夕食までの時間レンタルビデオでもみるかい? 借りてくるよ」
冷たいガラスで隔たれた向こうには六花が舞っている。ちょっと行ってくるよという恭司の服の裾を、燐花はくい、と引っ張る。
「レンタルショップ、ついていっていいですか?」
「寒いよ?」
「雪のなか、あるきたくて」
「ふうん?」
寒いけど、少しの距離だし、それに。手をつないで、大切な人の手の暖かさを感じたいのだ。そんな少女の淡い願いを彼はきっと笑うのだろう。
膝の上からめいを下ろせばにゃあ、と抗議の声をあげるけれど、ごめんねと謝って、立ち上がる。
「じゃあ、何をみようか? 去年はお家で一人っきりで悪党を撃退するのを見たし、今年は静かなクリスマスを願う警官が誘拐犯に台無しにされるのがいいかな? ほろ苦いはさみ男の話がいいかな? それとも白黒映画でキャロルにするか、ポケットの中にある戦争もの?」
「どれでも大丈夫です」
「よし、じゃあ一緒にでかけよう」
空からの贈り物に感謝して。そんな気障な言葉がくすぐったい。燐花は急いでコートをきて手袋をはめようとしてやめる。
「準備できました」
「さあ、出かけようか?」
玄関でまつ恭司は2つの傘を用意しようとして思い直し、大きめの傘を用意する。
恥ずかしいけれど、雪ふるなかのあいあいがさ。それって二人きりのせかいが移動してるみたいで素敵だろう? なんて言えば彼女は笑うのだろうか?
「随分と派手に壊れたものですね、クリスマスなのにいいんですか?」
環 大和(CL2000477) と時任・千陽(CL2000014)は復興の手伝いだ。AAAの職員は大丈夫とはいうが、ふたりとも自分たちだけがクリスマスを楽しむわけにはいかないと随分に頑固であったのだ。
「あら? だってクリスマスは毎年やってくるんですもの。今年の分は来年にお預け。そうしたら来年はもっとたのしいわ」
「環嬢らしいというか」
「それに、古妖の皆やAAAの皆も頑張ってるから手伝いたくて」
「気にするなと言われてもきになりまして」
さすがの朴念仁の千陽でもこれ以上の言及は野暮だと思ったのだろう。せめてと重いものは自分で運ぶことにする。
休憩時間です、とAAA職員が声をあげた。
千陽は汗を拭って大和を探すが姿がみえずにきょろきょろとする。
「はい」
そのうしろからいつの間に買ってきたのか大和はたいやきを千陽に手渡した。
「ああ、ありがとうございます。去年のたいやきですか?」
「ええ、去年、千陽さんったらとっても美味しそうにたべてたから。今年も屋台がでていたの」
その言葉に復興は叶っているのだとうれしくなる。
「手伝ってくれてありがとう。簡単なもので恐縮だけど」
「いえいえ、とんでもありません」
大和は近くにいた古妖にもたいやきを渡す。千陽はその様子を眺めている。
「あら? 目がついているの? 怖かったのかしら?」
「い、いえ! そんなわけありませんから!」
去年を思い出したように大和がくすりとわらえば千陽は慌てて頭からかぶりつく。そうすれば目はみえない。
千陽は思う。この先の未来は自分たち次第で変わっていくのだろう。しかし、目の前の少女の心のあり方だけは変わらずに、と願うのであった。
五麟市の小さな教会には、工藤・奏空(CL2000955)と賀茂たまき(CL2000994)が訪れていた。
クリスマスキャンドルに灯りをともし、クリスマスツリーに向かう。
たまきは目を瞑り先の決戦で魂を賭して、今ここに生きている自分たちへと繋いでくれた友人とそして教師のために聖歌を歌う。彼らはもう、此処には居ない。彼岸の向こうに消えた。
奏空はその歌声を無言で聞いていた。揺れるキャンドルライトが、魂の光に思えて胸が詰まる。
自分たちを包むこの数多の光が願いであり希望でありそして――未来なのだ。
その数々の想いに報いようと少年は前を向いて戦ってきた。それが重荷であると思ったことはない、などとはいわない。当然だ。人が抱えることのできる魂(いのち)は一つだけだ。誰かの思いを継ぐことはそのまま魂(いのち)を継ぐことと変わりない。
今日はクリスマスだ。軌跡の日なのだ。だから――いつもは言えない願いを言ってもいいはずだと。
少年は少しだけ、ほんの少しだけ弱音を漏らす。他人からみたらどこが弱音だと思うだろう。
しかして、誰かの願いをうけ、痛む体と心に鞭打って前に進み続けた彼が誰かに祈る(たよる)ということはなかった。
その祈りは『どうか皆の願いをかなえることができるように』。
そんな願いはどこかにいる神様にしか叶えることはできない。だけど優しい、何よりも優しい願い。
歌声がとまり、背中が温かくなる。
たまきだ。その清廉な願いを空に向ける奏空が、そのまま消えてしまいそうで。手の届かないずっとずっと遠くに行ってしまいそうで抱きとめてしまったのだ。
奏空が目を白黒とさせている。当然だ。たまきの思いなどわかりはしないだろう。
少女の使命は陰陽師として日本を守るために大妖をすべて根絶すること。
それ以上に、目の前の最愛の人、人たちを守るために大妖のその先も封印してしまうこと。
それらを実行するためには奏空が居なくてはいけないのだ。だから遠くに行っちゃ嫌、なのだ。
「たまきちゃん? どうしたの?」
そんな優しい声がすき。きっと彼はどこにもいかない、いかないでほしい。
だから彼から離れると雪玉を握りえい、と笑顔で奏空に投げれば胸元で雪玉が綻びる。
「たまきちゃん?」
うろたえる奏空にふたつめの雪玉が投げられ奏空はこのー、なんていいながら柔らかく握った雪玉をいつもの笑顔で、だいすきな笑顔でなげかえしてくる。
たまきはそれがうれしかった。茶化してしまって申し訳ない気持ちはある。
だけど、七星剣の八神を倒したほんのすこしの間の安らかな時間くらいは――。
「モイモイ!」
成瀬 歩(CL2001650)がクリスマスパーティに向かうその途中。天野 澄香(CL2000194)と如月・彩吹(CL2001525)、真屋・千雪(CL2001638)と(麻弓 紡(CL2000623)に連れられゆきんことゆきめに会いに行く。
紡はさむいさむいと歩と澄香の間に潜り込んで暖をとる。もこもこマフラーに手袋。ボアたっぷりのコートとはいえ寒いものは寒いのだ。
「モイモイなのがゆきんこだ」
「ゆきんこだからモイモイモイだ」
そう挨拶を返すゆきんこを歩はだきしめる。
「やあ、今年もきたね」
彩吹は歩の頭を撫で、ゆきんこたちの頭もわしゃわしゃとなでる。
「よいこにはプレゼントが貰える日なんだよ」と彩吹は歩とゆきんこに小さな靴下に入ったお菓子を配れば。歩もゆきんこもおなじように喜ぶ。
ゆきめには、同じものはさすがに子ども扱いで失礼かなと思い直し、彩吹は千雪に声をかける。
「ねえ、なにかひいてよ、千雪」
女子ばかりのその中でちょっと居心地がわるいなーと気まずい気分になっていた千雪は彩吹に水をむけられて、しゃきんと背を伸ばす。
まあ居心地は悪くても彩吹がいればそこはどこでもパラダイスな千雪は、ベンチに腰をかけると背おってきたトイピアノをおろし膝の上におく。
「まかせて、彩吹さん。サンタクロースがやってきたからきらきら星までなんでもリクエストはまかせて! ごきげんなナンバーでいくよ」
公園に優しいピアノのクリスマスメロディが流れれば、歩とゆきんこがゆらゆらゆれながら、そのコンサートに耳をすませる。
「お、君がゆきめちゃんだね、やっほー」
手をふりながらハジメマシテ&ハッピークリスマス♪ と紡が挨拶をする。
「貴様らには礼をいう」
ゆきめは短く礼をいうと頭をさげた。
「これはプレゼントだよ」と首に金色リボンを巻いた木製の雪だるまを渡せば、ゆきめはきょとんとした顔をする。紡のそれを皮切りに、その場でプレゼント交換会が始まってしまう。会場までは待ちきれない。
「そうだ、プレゼントがあるんだよ」
そういって歩がポシェットの中からだすのは毛糸のまあるいポンポンのついたヘアゴム。
「ゆきめお姉さんにも! はい」
渡されたそのヘアゴムを3体の古妖が持て余していると、こうするんだよと歩が髪にむすびつければ、ゆきんこたちはぽんぽんぽん、と大喜びする。
髪を結ぶ仕草をするゆきめに澄香はアイスケーキのはいったクーラーボックスを渡す。
「冬の古妖さんですから、こっちのほうがいいかとおもって……もしかしてクーラーボックスなくてもよかったのかしら?」
「いいや、気遣いに感謝する」
ゆきめは礼をいい、菓子だぞ、とゆきんこに声をかければゆきんこはすでに靴下のお菓子は食べきったようで、クーラーボックスの中にケーキを求め体ごとつっこんでいく。
女性陣はプレゼントを交換しはじめる。
歩から、彩吹と紡と澄香には色違いのポンポンのついたバッグチャーム。
あゆみがピンク、すみちゃんが白、つむちゃんは黄色で、いぶちゃんには青。
そしてちゆきくんにはぽんぽんのついたストラップ。誰かさんと同じ青色だってきづくかな?
澄香はクリスマスケーキとジンジャークッキーの袋詰を皆に配る。
紡は親友二人には自分とおそろいの色違いの石と雪の結晶のブローチ。
歩には「ボクと姫から」と告げサンタ&トナカイの指人形。
千雪にはレストランのチケット二枚。二枚ある意味を彼は理解するだろうか?
彩吹から澄香と紡にはクリスマスローズのレリーフの入った髪飾り。
演奏中の千雪に彩吹は緑色のマフラーをふわりとかけた。
「!?」
ピアノの鍵盤を打鍵する指が二つとなりにずれて音楽が止まるのも仕方ない。
あとニヤけるのも仕方ない。
ありがとう、と千雪はバッグの中からリース型のクッキーを皆に配る。
紡にわたすときにはこっそりと「頑張ってみる」とチケットをゆらゆらとふった。ずいぶんと浮かれポンチではあるが、意図は察してくれたようだ。だけど。
「今から誘っちゃダブルブッキングしちゃうからね」と釘をさす。
今のいぶちゃんは友人たち皆のものなのだ。持ち帰りは許されない。別の日におねがいね、と言えばとうの千雪は目をそらした。やっぱり釘をさして正解だ。
交換会が終われば「またね」と別れる。
さあ、今日はたのしい友達どうしのクリスマスパーティだ!
ほんとうにいろいろあった。
一人クリスマスの夜を歩く篁・三十三(CL2001480)は思いを馳せる。
自分はクリスマスとは縁がないとは思うが、大変な最中でもクリスマスを喜び合う人たちに自然、顔がほころぶ。
「ひとりか」
「ひとりなのがにんげんだ」
路地を回って、住宅街にはいったところでゆきんこに声をかけられた。
「君たちも無事だったんだね。よかった。
あのときは怖い思いをさせてごめんね。
もう怖い思いをしなくてすむ世界にするためも、強くなるよ」
「そうか、ひとのこつよくなれ。あのときはありがとう。ゆきんこが無事だったのはお前のおかげだ」
「ありがとうで、つよくなるのがひとのこだ。こい」
短い言葉で誘われ、三十三はそのままついていく。
その先にはもみの木が雪でおおわれた自然のクリスマスツリー。
「ゆきよふれ」
「ふるのがゆきだ」
ゆきんこの言葉に肉眼で観測できるほど大きな六花の結晶がツリーに飾られる。
「わあ、綺麗だ」
もはやこの日本ではクリスマスの意味など形骸化して久しい。クリスマスの願いだって祈りだって形を変えている。
それでも。こうやって誰かの心を動かすものが人々の、そして隣人である古妖の願いによって作られていることは確かなのだ。
「ありがとう」
自然に言葉がもれた。
ゆきんこたちは頷いている。
だから、もうすこしだけ、このクリスマスの夜をたのしもう。
ベリーメリー・クリスマス。
そしてハッピーニューイヤー。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『ゆきのあしおと』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
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取得者:全員
