《聖夜2018》キミの指に、そっとリボンを。
《聖夜2018》キミの指に、そっとリボンを。


●とある青年の物語

 12月の聖なる夜。

 男はそっと、己が司祭を務めていた教会の扉を開ける。

「お許し下さい。私には、此処に戻る資格など、とうに有りはしないのに……」
 胸の十字架に指先で触れて、「どうか今夜だけ」と微かに呟く。

 懐かしさに目を細め、祭壇の前で膝を折った。


「……………………」

 指を組み、心の中で何事かを祈る男の、後ろの扉が開く。
「あ、あのッ!」
 目を剥き弾かれたように振り返った男の視線の先には、見知らぬ青年と若き女性。
「どう……なさいました?」
 僅かながらの警戒を滲ませ尋ねた男に、青年が言った。

「どうか僕達の誓いに、立ち合ってはもらえないでしょうか?」

 見れば女がコートの下に着ているのは寝間着のようで、手首には入院患者であることを窺わせるリングが巻かれていた。顔色も、かなり悪い。

「何かご事情が、おありですか?」

 目を伏せるようにして尋ねた男に、青年は唇を噛む。言葉に出来ぬ青年を心配するように見上げ、隣の彼女の方が口を開いた。
「私、明日手術をするんです。成功するかどうかは、それこそ神様だけがご存知なんですけど。……戻れなかった時の為に、彼に愛を誓いたくて……」
「そんな、ことッ…!」
 失敗したりしないよ、と青年は、絞り出すような声で呟いた。
「難しい、手術なのですか?」
 男の言葉に、彼女がコクリと頷く。
「……本来ならば――私より、他の方にお願いされる方が良いのでしょうけれど……」
 彼女の顔色を見て言葉を切った男は、「けれど私で宜しければ」と2人に微笑みかけた。
「ありがとうございます!」
 嬉しそうに笑った2人は手を取り合い、神の前で愛を誓い合う。
 涙を流す彼女に、青年は「ごめんよ」と声を震わせた。
「俺、金無くて。指輪も買って、やれなくて。君に嵌めてあげる何も、用意できなかった……」
 その言葉に、彼女はそっと首を横に振る。
「手術、急に決まったんだもの」
 何も要らないわ、と微笑んだ彼女に青年は俯き、小さな嗚咽を漏らした。

 しばらくその2人を見つめていた男は、何かを思いついたように髪を束ねていたリボンを解く。
 そうして、幾本も立てられているロウソクの火へとくぐらせた。
「宜しければ、これを。聖なる火で、浄化致しましたので」
 2人は顔を見合わせ嬉しそうに笑って、それを受け取る。

 誓いの言葉と共に、白いリボンが彼女の左の薬指へと結ばれた。


●覚者達の物語

 走り出した宮下刹那の後を、相沢悟が追いかける。
 今ならまだ間に合うと、夢を見た久方 真由美から伝えられていた。
「だけど刹那さん、戦闘はダメですよ!」
 悟の言葉に、「判ってる」と低く答える。
「話をしに行くだけだ」
「どうだか……」
 一般人の前で戦闘にならないように見張らないと、と悟は困り顔で前を行く男の後を追いかける。

「あ!」

 途中。見かけた仲間達へと、声をかけた。

「あのね。聖なる夜に『約束事』や『誓い事』をするなら、そのお相手にリボンを巻くのがおすすめですよ!」

 ロマンチックだと思いませんか? と問いかけておいて、嵐のように走り去る。

「あ、それと。メリークリスマス!!」


■シナリオ詳細
種別:イベント
難易度:楽
担当ST:巳上倖愛襟
■成功条件
1.約束事や誓いと共に、相手の指にリボンを巻く。
2.戦闘はしない。
3.なし
皆様こんにちは。巳上倖愛襟です。
聖なる夜は、ぜひ素敵なお相手と素敵な夜をお過ごし下さい。


■場所
場所はどこでも結構です。特に場所がどこかを記して頂く必要はありませんが、こだわりがある場合などはご記入下さい。

■時間帯
夜。雪が降っています。

■持ち込み品について
今回は、装備されていないアイテムも持ち込み可となります。
リボン以外にも、お相手へのプレゼントなど、何かある場合はお持ち下さい。

■リボン
リボンは必ずどちらかは相手の指に巻くようにして下さい。(グループの場合は、どなたか1人でも構いません)
誓いや約束事以外にも、リボンの色に意味を持たせる、巻く指に意味を持たせる等、色々と工夫して頂ければ嬉しいです。

■名前・描写について
基本的には、参加者のみの描写となります。
相手が一般人の場合など、キャラクター登録が出来ない場合などでどうしてもお名前を出して欲しい場合は、『EXプレイング』にてその旨をご記入下さい。
EXプレイングに書かれていない場合や、マスタリング判定の結果で等、描写出来ない場合もございます。
ご了承下さいませ。

■NPC
こちらも巳上のシナリオに登場した事のあるNPC以外は描写が出来ませんので、他ST様のNPCは登場出来ません。巳上のNPCで会っても良い者などがおりましたなら、ご指名下さい。

■刹那&悟
走っておりますが、お呼びがないのにバッタリお会いする、などはありませんのでご安心下さい。バッタリ会っても良い方は、プレイングにご記入下さい。

■ルファ
本来は兵庫県の南東部、西宮市郊外にある小さな教会の司祭です。
教会におりますので、教会に行かない限り、偶然会ったりする事はございません。

■イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。


以上です。
それでは皆様が大切な方と素敵な時間が過ごせますよう、お祈りしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
(0モルげっと♪)
相談日数
9日
参加費
50LP
参加人数
8/∞
公開日
2019年01月02日

■メイン参加者 8人■

『エリニュスの翼』
如月・彩吹(CL2001525)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『想い重ねて』
蘇我島 燐花(CL2000695)
『想い重ねて』
蘇我島 恭司(CL2001015)


「リボンか紐ってありますか?」
 それは恋人の家で聖なる夜を過ごしていた、柳 燐花のふとした思い付き。
 買い物から帰ったばかりの蘇我島 恭司は、テーブルへと袋を置きながら不思議そうに燐花を見つめた。
「一応、今日買ったプレゼントの包装にリボンが使われてたけど……何に使うのかな?」
「学校で聞いたんですが『クリスマスに、指に何かを巻くと願い事が叶う』そうです」
「へぇ……最近流行ってるおまじないかな?」
 確かに学生に人気が出そうな内容だな、と思いながら、恭司はリボンを取りだし恋人へと手渡す。
「ありがとうございます」
 はにかむように受け取った黒猫の耳が、嬉しそうにパタパタと揺れた。
 真剣な顔で。恭司の小指にくるくるっとリボンを巻いてゆく。

「蘇我島さんの日常が幸せでありますように」

 できた、と。
 それは誓いでも、約束事でもなかったけれど。ささやかながらも大切な願い事を込めた。
 目を細め微笑みながら。恭司は興味深げに巻いてもらったリボンを眺める。
「燐ちゃんと一緒に楽しく過ごせますように……とかね」

 ――僕の幸せな日常は、燐ちゃんと一緒にありたいからねぇ。

 そのセリフに、燐花の頬が淡く染まる。
 ……ええと。そう来ますか。
「じゃあ、お揃いにして貰ってもいいですか? 一緒のお願い事にしたいです」
 リボンの余りを差し出せば、「うん、喜んで!」と恭司が笑った。
 願いを込めながら小指にリボンを巻いてくれる恋人は、いつでも余裕で、大人で。
 見惚れてしまうのも、日常で。いつでも自分を包み込んでくれる。

 2人がかりでかけたお願い事。きっと叶うはずだと思った。

「解くの勿体無いから、もうすこしこのままで」
「そうだねぇ……願いが叶うよう、暫く付けたまま過ごそう」

 心と共に。小指へとリボンが結ばれた手も重ねて。
 2人だけの小さなイベントと、くすぐったいような幸せ。
 そんな嬉しさに、瞳を見交わし笑い合った。



 ヘルプでピアノを弾いた、ジャズバーのイベント帰り。
 如月・彩吹の聞いてみたいというおねだりに、真屋・千雪が選んだ曲は『アメイジング・グレイス』。

 教会の中。

 長くて綺麗な指が、パイプオルガンの鍵盤の上を滑る。
 楽しそうに千雪の指を見つめていた彩吹が、「あ」と声を洩らした。
「この曲は知ってる。綺麗な曲だよね」
 大好き、の言葉には、なんだか嬉しくなってしまう。
 演奏には、美しい声が重なった。
 心から楽しむように。
 彩吹の歌声は教会に広がり浸透していく。
(僕の方が、プレゼントをもらった気分だよねー)
 千雪が笑い見上げれば、藍色の瞳が細められ、微笑みが返る。
 しかしピタリと、突然歌声が止まった。
 顔を上げた彩吹が、目を瞠っている。
「ルファ神父……!?」
 暗闇の中に立つ男に近づいて。まるで幽霊かどうかを確かめるように、肩や背中をばしばしと叩きだした。
「生きてる? 生きてるよね」
 疑うように叩き続ける彩吹に、男がクスリと笑う。
「残念ながら、ね」
 途端、彩吹が怒った顔をする。
 バシリと一際強く叩いて、「痛……」と洩れた声には「痛いのは生きてる証拠だ」と厳しく言った。
 しかし次の瞬間には、優しい声を出す。
「生きなきゃだめだよ、ルファ」
 にこり笑んだ顔が魅力的なのは、心の美しさや優しさが見せる綺麗さゆえであろう。
「生きていたら、何度だってやり直せる――神様はそう言うんだろう?」
「……さあ? 神の声は、もう私には聞こえない」
 けれどあなたの言葉で、浮かんだ顔達があります、と笑みを浮かべた。
「私の――唯一の少女の為に駆け付けてくれた方々がいた。自分の電話番号を教え、助けを求めた私の電話に応えて来てくれた方がいた。無茶はしないでと、心配してくれた方がいた。友情と、言ってくれた方がいた。他にも、たくさん。あなた方F.i.V.E.との思い出は、全て忘れたくない私の宝物ですよ」
 今夜の事も含めて、と。
 会話の邪魔にはならぬようBGM演奏に徹してくれている千雪にも、感謝の笑みを向けた。
「そういえば先程素敵なカップルが、誓いと約束にと、リボンを指に巻いておられましたよ」
 微笑んだ男に、千雪が首を傾げる。
(それっぽいけど……彩吹さん、疎いからなー……)
 それでもムズムズと。試したくなるのが、男心というもので。
 ――いやこの場合、乙女心かもしれないが。
 戻ってきた彩吹の手を、大事そうに持ち上げた。

「来年も、再来年も。クリスマスも、バレンタインも、普通の日も、彩吹さんの隣にいるから」

 巻かれたリボンは多くの女性の憧れの色。幸せの卵の色『ロビンズエッグブルー』とも呼ばれる色だ。
 綺麗な水色に、巻かれた左手の薬指を持ち上げ見つめる彩吹と、それを見守る千雪。
 しかし次の瞬間。カクンと不思議そうに彩吹の首が傾げられた。
「――クリスマスプレゼント? ありがと」

 しばらくの沈黙。

「おやおや」
 少しの驚きと、同情籠る男の呟き。
「いや、わかってた。頬染めてるように見えたのは幻だって僕、わかってたよー」

 さて。次のリベンジは、バレンタイン?
 幸運を祈る。



「クリスマスに教会ってやっぱりなんだか厳かだね」
 緊張ぎみの工藤・奏空の呟きに、隣を歩く賀茂 たまきは「そうですね」と答える。

 恋人の緊張を、ほぐすように。
 しかし空気は、壊さぬように。

 たまきが口遊んだのは『サムシングフォー』。
 からめるように、指先で奏空の指先に触れて。
 祭壇の前へと向かった。
 そっと、触れていた相手の手を持ち上げて。
 たまきは彼の左手の薬指へと綺麗な水色のリボンを滑らせる。
 されるがままに身を任せ、奏空は細く白い指が器用に自分の指へとリボンを結んでいくのを、ただ黙って見つめた。
 けれど見つめるその顔の、照れくさげな表情はどうにも隠しようがなくて。
「えっと……水色のリボンってどんな意味があるの?」
 問うた声には、「ふふ……!」と恋人からいたずらを含んだような笑い声が返る。
「奏空さんは花嫁さんではありませんが……」
 水色のリボンが結ばれた指に手を添えて、持ち上げた。
「サムシングブルーを身に付けた花嫁さんは、一生幸せになれるという、西洋のおまじないなのですよ……?」
 チロリと上目遣いに見てくる顔は、とても可愛くて。
 そして散りばめられた『結婚』のニュアンスは、鼓動が早まってしまうほど意識せずにはいられないものだった。

「奏空さんの事は、私がお守りして、支えたいと思いますから……」

 まるで王子様のような彼女の誓いは、恋人を赤面させる。
「え! そそそ、そうなんだ……! えっとえっと……じゃあ、待ってね。んと……」
 傍から見れば、彼の動きは挙動不審かもしれない。けれどたまきは不審がることなく、彼の動きを見守っていた。
「はい! これでたまきちゃんと一緒だよ!」
 にっこりと笑う彼の指に結ばれていたリボンの先が、たまきの指へと巻かれていた。

 教会の扉が開いて、恋人達は外へと歩を踏み出す。
「雪……ですね」
「うん」
 寄り添い歩く奏空とたまきのリボンが巻かれた指は、離れることなく、ずっと握られたまま。
 暖かな幸せを、分け合い続けていた。



 慌て駆けながら、成瀬 翔は腕時計を確認する。
 ――せっかく二人きりなのにそんな格好じゃダメ!
 そう言った妹から、何度も何度もダメ出しされて。
 OK貰うのに時間が掛かってしまったのだ。
「まったく、あいつのせいで……」

 なんだよ。二人きりって。二人きりって。二人きりって。――二人っきり?

 ぼぼぼっっと。勢いよく顔に熱を持ったのは、きっと走っているせいだ。
「……間に、合った、か?」
 駆け込んで来てゼェゼェと肩で息をする相棒に、麻弓 紡は少し驚いた顔をする。
「なんか……」
 ――いつもより、お洒落さん?
 首を傾げる紡には、翔が焦りだした。
「どっか変か? やっぱ似合わねーよな?」
 自分の服装を見下ろし、前髪をかき上げる。
「とりあえず、荷物オレ持つから、それくれ」
 ケーキを受け取ろうと、手を差し出した。
「ん。……けど、似合ってる」
 ケーキの紙袋を預けながら、紡は笑顔を浮かべる。
 更に赤くなった顔は、紡に見られることはなかった。

 なぜなら。

「あのねあのね。もし聖なる夜に『約束事』や『誓い事』をするなら、そのお相手にリボンを巻くのがおすすめですよ! ――じゃあ、お邪魔しましたー」
 メリークリスマス! と手を振りながら駆けていった少年に、顔を見合わせる。
「リボン、ねぇ……」
「リボン巻いて誓うって変わってんなー」
 遠ざかる背中を見送り、2人で呟いた。
「もし紡が願うならどんな事だ?」
 それはほんの思い付きで。好奇心で問うただけ。
「……え、ボク?」
 うーん、と首を傾げた紡の指が、青色のマフラーに触れる。

「翔の背中は、ボクが護るから……いつまでも、ボクのヒーローでいてね」

 笑顔で口にした、誓いと願い事。
 それは翔にとって、意外なほど嬉しい言葉で。
「おー、任せとけ!」
 すぐにでも誓ってやりたい、けれど。
 リボンなんて……と周りを見回し、「あ!」と声をあげた。
「あとでちゃんとしたの買ってくるからとりあえずこれ!」
 ケーキの箱の赤いリボンを、誓いの言葉と共に相棒の小指へと巻いていく。

「紡の事もオレが守るからな!」

 加えられた彼の決意は、純粋に嬉しくて。
 2人で肩を並べ歩きだしながら、紡がリボンの巻かれた手を持ち上げた。
「なんで小指?」
「邪魔かなって思って――」
 そこまで言った翔が、「小指に、赤い……」とある伝説を思い出す。
「いや、そういうんじゃっ」
 セルフ突っ込みに、思わず紡が笑み零す。
 じゃれ合うように、小突き合いながら笑い合って。
 同じ歩調で、今日一番の笑顔で。2人は進んでいく。
 
 ――ねぇ。もしこれが、本物だったなら。
 ボクたちずっと、ずっと一緒に、いられるのかな……。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『千雪からの誓いのリボン』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:如月・彩吹(CL2001525)
『たまきからの誓いのリボン』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:工藤・奏空(CL2000955)
『奏空からのリボン』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:賀茂 たまき(CL2000994)
『翔からの誓いのリボン』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:麻弓 紡(CL2000623)
『恭司からのリボン』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:柳 燐花(CL2000695)
『燐花からのリボン』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:蘇我島 恭司(CL2001015)




 
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