五麟市に凍てつく冬がやってきた
五麟市に凍てつく冬がやってきた


●五麟市、兵糧攻め
「失敗、失敗、大失敗。あかんなあ、うちの計画だいなしやわ」
『花骨牌』は報告書を読みながら、笑みを浮かべていた。正確には、その結果を見て。
 彼女が行ったのは古妖と人の仲を裂き、互いに反目させようという計画だ。人から離反した古妖を八神の七星剣で殺し、その魂を吸収して力にする。それが成せば、八神はさらなる力を得る。
 だが、結果はFiVEの妨害にあい、そのほとんどが潰えていた。それなりに強い隔者を派遣させていたのだがFiVEの介入により誤解は解かれ、古妖を手出しできないように保護された。
 逆に言えば、保護された古妖を五麟市に集中させたという状況を生み出している。
「ほんま、あの人たちはやさしいわあ。それが自分の首を絞めていると知っても守ろうとするんやから」
 微笑む『花骨牌』。報告書からFiVEに保護された古妖達を確認し、リストアップしていく。
「兵糧攻め、ぼちぼち効いてくるんちゃうかな?」
 この一か月で五麟市に集まった古妖の数は二〇〇を超える。生まれや伝承や価値観の異なる生き物が、二〇〇。そうなれば生活維持にかかる手間も大きい。FiVEが如何に財を持ち、土地を有しようが関係ない。生きている以上、保護にかかる人手はどうしても必要になるのだ。
 アニマルホーダーという言葉がある。過剰多頭飼育者とも言われ、管理可能な限度を超えて動物を飼育する人の事だ。限界を超えた動物飼育は衛生面や医療ケア、食事やスペースなどが不十分となる。結果、自分のみならず周囲まで迷惑をかけてしまう人達だ。
 FiVEはこれまでの戦いで多くの支援を得て、古妖とのつながりも深い。そういった関係と連携しているが、限界はある。
「失敗、失敗、大失敗。この失態、拭わへんと旦那さんに殺されてまうわ」
 言いながら、煙管をふかして紫煙を吐き出す。煙が人の姿を形どり、そこから冷風が荒れ狂う。
「コハネちゃんの二番煎じやけど、許したってな。
 でもこれで古妖の何匹かが死んだら、それはそれでFiVEにとっても得やしな」
 冷たい風がまるで意思を持ったかのように、五麟市に向かって吹き始めた。

●FiVE
「信じられないとは思いますが、ここで『花骨牌』を止めないと五麟市は未曽有の寒波に見舞われます」
 久方 真由美(nCL2000003)は集まった覚者を前に説明を開始する。
「『花骨牌』が連れている個体――姿から『冬将軍』と命名しました。それが五麟市に向けて冷風を飛ばしています。予想される気温はマイナス30℃。交通網は完全にマヒし、暖房が不十分な環境では凍死も予想されます」
 北海道でも稀と言われるほどの低温。充分な準備をしても活動するには厳しい環境だ。
「幸い雪を扱うのが得意な古妖が手伝ってくれるそうです。現場までの道のりや戦場の確保などは何とかなりそうです。
 とはいえ、寒波そのものをどうにかすることはできない為、発生源を早急に叩く必要があります」
 雪女や氷柱女、その他幸運を司る座敷童などがFiVEのためにと手を貸してくれる。だが戦闘自体は不慣れなため、そこからは遠巻きに見ているしかできないようだ。
「『花骨牌』は明確に五麟市を疲弊させようとしています。これまでの隔者とは異なり、個人の部下を有していない策謀家のようです」
 じわじわと毒を染み入らせるようにFiVEを攻める。直接的な傷こそないが、だからこそ気付いた時には致命傷となる。そんな隔者だ。
 道を作ってくれる古妖とともに、覚者達は現場に向かった。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:どくどく
■成功条件
1.冬将軍の打破
2.なし
3.なし
 どくどくです。
『花骨牌』二戦目。火攻めならぬ冬攻め。

・敵情報
冬将軍(×1)
『花骨牌』の煙管から出された煙が形どった何かです。青い馬に乗り、青い鎧兜を纏った老将を形どっています。馬含めて一つのキャラクターです。
 一定期間低温を溜め(20ターン)、放出することで大災害を起こします。

攻撃方法
突く 物近貫2 槍を突き刺し、敵を穿ちます。【致命】
払い 物近列  槍を払い、周囲の敵を薙ぎ払います。
踏み 物近単  馬が前足を振り上げ、踏んできます。【必殺】【二連】
冷風 特遠列  冷たい風が吹き荒れ、体力を奪います。【凍傷】
氷柱 特遠単  空から氷柱を降らし、押しつぶします。
槍技 P    振るわれる長槍が行く手を阻みます。4名までブロック可能。 
冬王 P    我は冬の化身。火による攻撃のダメージ増加。水や氷による攻撃のダメージ減少。
人馬一体 P  華麗な馬裁きと武の融合です。1ターン3回行動。

・『花骨牌』(×1)
 七星剣幹部。女性。その他の情報は不明。彼女の言葉を信じるなら、日本に覚者や妖が現れたのは彼女の行動の結果だとか。
 基本的に冬将軍と覚者の攻防を見ています。攻撃されればやり返しますが、そうでなければ見ているだけです。冬将軍の支援などは一切行いません。

●NPC
・古妖達
 雪女と氷柱女、そして座敷童です。
 雪女は周囲の雪をどけてくれて、氷柱女は地面のしもを払ってくれます。座敷童が幸運を運んで、最短ルートで現場に急行できます。
 戦闘能力はないので、戦闘中は離れて隠れています。

●場所情報
 五麟市より北方にある山中中腹にある広場。雪系の古妖達が周囲の雪をどけてくれるので、若干寒い程度で戦場のペナルティはなし。
 戦闘開始時、敵中衛に『花骨牌』が、敵前衛に『冬将軍』がいます。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

2018.12.3
冬将軍の攻撃方法の攻撃範囲に付いての誤記を修正いたしました。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(3モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/8
公開日
2018年12月11日

■メイン参加者 6人■

『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『居待ち月』
天野 澄香(CL2000194)
『緋焔姫』
焔陰 凛(CL2000119)
『五麟マラソン優勝者』
奥州 一悟(CL2000076)


 雪の古妖達が道を開き、座敷童の幸運が最短ルートを導き出す。その先に一人の女性と冬将軍が待ち構えていた。
「雪女さん、氷柱女さん、座敷童ちゃん、協力ありがとうございます」
 道を切り開いてくれた古妖達に礼を言う『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)。ここから先は危険ですよと告げて、戦場に歩を進める。寒波を生み出す『花骨牌』と冬将軍。これを打破し、五麟市を守るのだ。
「わたしは、寒いのは嫌いじゃない、けど。マイナス30℃は無理」
 桂木・日那乃(CL2000941)はマイナス30℃の世界を想像して、身を震わせた。寒いのではなく痛い空気。低温の風そのものが人体を傷つけ、生活を麻痺させる。そんな低温災害が来れば、どのような被害が生まれるか。
「兵糧攻めとは古風だね」
 傍に立つ『花骨牌』に向けて『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は言葉をかける。FiVEの資財を削り、摩耗させる兵法。実際に五麟市を取り囲んで流通を止めているいるわけではないが、それで手間が取られているのも事実だ。
「五麟を疲弊させる。ある意味戦うよりも確実な成果が上がりそうですね」
『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)は『花骨牌』の作戦をそう評価した。単純な攻防による戦いではなく、FiVEの組織力を疲弊させる攻め方。今までの隔者とは異なるがゆえに、後手に回らざるを得まい。
「西洋の死神みたいな真似しよって。ここは日本やで!」
 刀の切っ先を青い馬の冬将軍に向けて『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が叫ぶ。勿論冬将軍は死神などではないが、結果として死人が出る事には違いない。ここできっちり倒してしまわなければ、五麟市が大変なことになる。
「そうだな。とっとと溶けてもらおうか!」
 トンファーに炎を纏わせ、『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)は怒りの声をあげる。マイナス30℃の災害など、起こさせるわけにはいかない。源素で生み出したこの炎で、全て溶かし尽くしてやる。鋭い視線がそう語っていた。
「驚きやわあ、まさかここまで早う来るとは。てっきり雪で迷うとは思うたけど……ま、ええわ」
『花骨牌』は言って煙管を口にくわえる。その動作に反応するように冬将軍は槍を構えた。
(支援をするつもりはないようだ。……だけど、『花骨牌』の動作に連動しているということは、彼女が生み出して操作しているということか……だとすると?)
 思考に耽る余裕はない。冷気を溜め始めた冬将軍。これを止めなければ、五麟市は大災害に見舞われる。
「あんじょうよろしく。ほなら、始めよか」
 まるで茶会でも始めるような明るい『花骨牌』の声。その声と共に冬将軍が動き出す。
 覚者達もその動きに合わせるように、神具を手にして動き出す。


「冬将軍……ですか。ちょっと寒さが厳しすぎやしませんか?」
 一番最初に動いたのは燐花だ。二本の刀を持ち、冬将軍との間合いを詰める。長い槍をかいくぐり、刀の間合にまで接近した。五麟市には守るべき人がいる。愛する人がいる。それを守るためにと、刀を握る手に力を込めた。
 馬が足を振り上げる。それに反応するように燐花は大きく横に飛んだ。着地と同時に体を回転させながら跳躍し、刃を振るう。回転の勢いを殺すことなく冬将軍を刻み、追撃とばかりにさらに刃を突き立てる。この素早さこそが燐花の最大の武器。
「生き物が生きていけない環境は何ももたらさないと思うのです」
「大丈夫よ。そん時は死人が闊歩する場所になるだけやし」
「それは勘弁願いたいね」
『花骨牌』の軽口に応えるように奏空が刀を構える。気さくに声をかけるようにしながら、その瞳は観察を怠らない。この隔者が何者で、何を知っているのか。今までの七星剣隔者とは毛色が違い過ぎる。
 冬将軍の槍を刀で受け止める奏空。刀に力を込めて、冬将軍と力比べの体勢を取る。実際に唾競り合いになったのは一秒足らず。奏空は力を抜き、槍の勢いを逸らすようにして体勢を崩す。人間ならバランスを崩し、体術がつかえなくなる。その隙を逃さず、切りかかった。
「この状態でも体術が使える……? 純粋な人間じゃないから当然と言えば当然だけど……!」
「上手い上手い。流石手練れやわ。映画見てる気分になってきたよ」
「『花骨牌』……貴女の能力は覚者の域をこえています。まさか……」
 相手の術式に驚きながら澄香は『花骨牌』を見る。妖に似た何かを煙から生み出し、古妖を封じた結界を解く技術を持つ。人間技ではない、と言う以前の問題だ。そうなれば逆に、正体を絞ることが出来る。
 冬将軍の凍える風が仲間を包み込む。動きを止めた仲間の姿を見て、澄香は炎を生み出した。火の鳥を想起させる再生の炎。それが冷気で足を止める仲間の足に力を入れた。白い息を吐き、呼吸を整えながら思考を展開していく。
「貴女は、もしかして古の時代から生きてたりしないでしょうか。遥か昔、源素の力が封印されてしまう前の時代から」
「半分あたりで半分外れ。『この体』はほんまもんの人間よ。せやけど『うち』は封印前の知識をもっとる……と言うか、知識そのもの?」
「つまりあれか。何かが取り憑いてるってパターンか!」
 吼えるように叫びながら一悟が炎を生み出す。白い風の中、それに抗うように燃える赤い炎。それこそが命の輝き。冬の悪意から仲間を守るため、源素を燃やして立ち向かう。その心を示すように炎は熱く周囲を照らしていた。
 源素の炎を燃やしながら、それをさらに圧縮する。一点に集中し、高熱を発する小さな赤の一点。それをトンファーの先端に宿らせて冬将軍に飛びかかる。叩きつけられた炎熱が爆発し、冬将軍の身体を燃やす。
「封印をといて源素を解放したのは、何か目的があったからだろ」
「間抜けな話やけどなぁ……源素自体は知らんかってん。目的、言うよりは結果的に開放してもうた、言う感じ?」
「姐さん、ようわからんで。ま、その辺りは後で聞かせてもらうけどな!」
 吹雪を切り裂くように凛の刀が翻る。代々続いた古流剣術焔陰流。その当主予定を誇る一閃が冬将軍を切り裂いた。剣先に炎を宿し、鍛え抜かれた剣術で斬りかかる。まさに冬を切り裂く刃となっていた。
 槍の距離。刀の距離。馬の足の長さ。それら全てを脳内にイメージし、凜は間合いを計る。間合の差から生まれた隙を逃すことなくすり足で相手に迫り、重心を崩さぬように刀を振るう。紅の軌跡が雪を裂き、炎が冬将軍を蹂躙する。
「ほんま、冬将軍の勝ち負けにはこだわらんのやな」
「そうよ。うちは弱いからなあ。じわじわ弱らせへんとあかんねん」
「弱い……とか、嘘。一気に攻めないのも、目的ある?」
 仲間を癒しながら日那乃が問いかける。『花骨牌』と言葉を交わして分かったことは、決してこちらの問いを無視しないということだ。ただ真実を伝えきらないだけで。会話を引き延ばすのも、何かの目的があるのだろうか?
『開かない本』を手に、体内の水源素を回転させる。螺旋を描くように源素を一点に集中させ、霧状にして放出する日那乃。水は冬将軍の冷気に犯されることなく広がり、仲間の傷に触れて痛みを取り除いていく。
「目的あるよ。じわじわ攻めれば、その分今を楽しめるさかい」
「今、楽しい? 八神さんが、古妖さんたちを倒して、力を手に入れたら。花骨牌さんの目的、叶う?」
「楽しいよ、ほんまに。出来る事やったらもう少し楽しみたいけど……旦那はんは性急やからなぁ。こんなうちの目的を『本当に』叶えようとしはるんや。
 覚者と妖。その根幹の源素を消したい、言ううちの望みを」
 言って笑みを浮かべる『花骨牌』。
「……おねーさん、何者なんだい? 妖みたいなものを生み出したり、それに命令したり」
「……貴女は……大妖、なのでは……?」
「ちゃうよ。大妖なんかやあらへん」
 問いかける覚者の言葉に、煙管をふかして答える『花骨牌』。
「組織『九頭竜』の頭、あまねく妖の頂点。そのなりそこないや」


 妖にも組織がある。
 低ランクの妖は知能がなく、人間並の思考を持つのはランク4と呼ばれる存在から。組織だって動いているというよりは、動物が群れる感覚で集まっているのが妖の群れだ。
『九頭竜』と呼ばれる組織があり、それに従う妖がいることは知っている。だがその動きはようとして知れなかった。
 そのトップが――今目の前にいる。
「『この体』は封印を守る一族の子でなあ。でも何を封印してるかを失伝してたんや。『昔の陰陽術者が封印した物がある』程度しか知らんくて。で、だいたい二十五年ぐらい前にそこに押し入り強盗が入ったんよ。
 家族全員皆殺し。『この体』も死を待つのみ。そやから、すがったんやろうなぁ。『封印された何か』に。せやけどそれが源素の封印で、世に妖を振りまくとは想像もできへんかったんや」
 喋る『花骨牌』の声は、どこか楽しそうだった。その時のことを思い出しているのだろうか?
「『うち』は最初に現界して近くにあった『この体』を妖化しようとした。せやけどこの子、生きとってなあ。意識が混じってもうたんや。間抜け間抜け大間抜け。お陰でうちは妖であると同時に覚者、いうけったいな状態になったんよ。人の良心もった妖。妖の気持ち背負った人。お陰で『九頭竜』はほぼ暴走状態。好き勝手暴れ取るけど、まあしゃあないわな。
 で、旦那はんとおうたんはこの時や。なんでも強盗した奴らは旦那の部下やったらしくてなあ。旦那の命令無視して先走ったんやって。ほんま、おかしな話やわ」
 くすくすと、実に楽しそうに笑う。
「かくして源素は世に放たれ、あいつ等は最大の枷を外された。古の再来や。あれだけ苦労して封じたモンが、また動き出した。
『この体』はその責任を感じて、源素を封じたい思ってるんよ。それが『うち』の目的。まあ『うち』もこのなりそこないの状態から離れたい、言うのもあるけどな」
 覚者達は『花骨牌』が笑う理由が、なんとなくわかった。この笑みは妖の笑みだ。自己の衝動のままに生きる妖。『目的』の為に何の躊躇もしないブレーキの外れた存在。それが人間ならば、こうなるのか。
「人間は妖化しないはずだけどね」
「せやな。人間は内包している因子があるから覚者になる。源素を受け止めて力にする為の受容体が存在するから妖にはならへん。死んでもうたら別やけど、この子はギリギリ生きとった。
 でもまあ、この一族が封印に使用していたのは『因子』そのものだったんよ。当人たちも理解していない血肉を捧げる儀式。それによってこの子の因子は『うち』を受け止めるだけの力は持ってなかったんや」
 おしゃべりの時間は終わりよ、とばかりに煙管に口をつける『花骨牌』。その動作に反応する冬将軍。
「今の話が真実だとして……あなたが七星剣に従う理由は何なのですか!?」
 頭の中で内容を整理しながら澄香が問いかけた。『花骨牌』が妖だったとして、七星剣にくみする理由が分からない。八神は日本を制しようとし、『花骨牌』は源素を封じようとする。目的が一致するとは思えない。
「旦那はんのやり方が、一番効率ええからなあ。FiVEみたいに『平和的』に場を収めたら色々問題が起きんねん」
「平和に解決して何が悪いのさ! 悪が強くて人が不安になるよりずっといいじゃないか!」
 怒りを込めて奏空が叫ぶ。七星剣は悪路をもって日本を制しようとしている。弱い存在を虐げ、強者のみが栄華を得る支配。多くの弱者を生み出す支配など訪れさえてはいけない。それが何故問題なのか。
「不安が消えると、戦う理由がなくなるやろ? それを望まへんのがおんねん」
「それは大妖のことですか?」
 刃を振るいながら問いかける燐花。槍をさばき、間隙をついて刃を振るう。戦いが好きな大妖がいることは知っている。そういう存在からすれば、平和な時代は訪れてほしくないのだろう。だが『花骨牌』は首を振る。
「ちゃうよ。……ああ、でもそうなんか。大河原の『条件』はそうやしなぁ」
「なんや、大妖の『条件』? あいつら何かあるんか?」
 効きなれない言葉に首をひねる凜。満身創痍の状態だが、それでも構わず刀を振るう。倒れそうな状態でも引くことを良しとしないのは武士の心かそれとも仲間を信じているが故か。決意の炎が冷気を切り裂く。
「あいつらが本気で暴れたら、この国の覚者総出でも押さえきれへんやろ? せやけどそうはなってへん。なんでや思う?
 あいつ等は暴れるのに『条件』があんねん。一定の条件を満たしたら、枷が外れるんよ」
「……大妖に、枷……?」
 言葉を反芻する日那乃。『花骨牌』が言うように大妖が常に暴れれば日本はどうしようもない状態になる。ならば言っていることは正しいのだろう。その条件が何なのかと言うこともあるが、それより重要なことがある。
「その枷……つけたの、誰? 封印した……陰陽術士……?」
「人間やないよ。そやな……神様、言うんが分かりやすいかなあ?」
「神……? なんだよそれは」
 唐突に出てきた『花骨牌』の言葉に疑問を浮かべる一悟。或いは唐突に出るのが正しいのだろうか。神なんて言葉に触れる機会はないし、考えることもない。人間の理解外にある何か。
「八百万の神様、言うやろ。物や場所や自然に宿る言うやつ。妖も似たようなもんと思わへん? 器物系や心霊系。ありとあらゆるものに宿る何か」
「……まさか『花骨牌』の姉さんは、その神様をどうにかしようとしてるのか?」
「うまく出し抜いて封印まで持っていきたいんやけどなぁ。あんさんらが頑張ってくれるお陰で台無しやわ。
 大河原の『条件』である闘争率は減る。ケモノ四〇六の『条件』である死亡率も減る。ヨルナキは『月齢』やからしゃあないし、辻森はその性格とあり方自体が枷やからなぁ……そういえば辻森最近どうしたんやろ? 夢でいい人見つけたんかなぁ?」
「さあ、どうしたんだろうね!」
 会話を打ち切るように神具を振るう覚者達。『後ろに立つ少女』がどうなったかを知られれば、どういう行動に出るかわからない。言葉を信じれば表立って敵対はしないだろうが、完全な味方と判断できるものではない。
 何よりも、今は五麟市を襲う敵なのだ。
 覚者達は最大の難所を馬の一撃とみて動いていた。回復できない傷を受けることを恐れ、それを受けないことを軸に戦略を組み立てる。他の攻撃によるダメージは回復と防御で堪え、確実にダメージを積み重ねていった。
「貴女がどんな策を弄そうと、私たちはそれを全て潰して見せます」
『花骨牌』に向かい静かに告げる燐花。七星剣としてこちらの邪魔をするのなら、その企みは全て潰す。大事な人を守るため、少女は決意を込めて構えを取る。圧倒的な速度を刃に変える龍の秘技。
「貴女達には絶対屈しません」
 横一閃に流れる刀。それが冬将軍の首を薙ぎ、冷気の塊を霧散させた。


「あーあ、また負けてもうた。敵わんなあ」
 言って笑う『花骨牌』。勝ち負けなどどうでもいい、と言う笑みだ。
「もう逃げないのか?」
「手品の種は出し尽くしたわ。歴戦の覚者に囲まれて、うちは絶体絶命よ」
 問いかける覚者に戦闘放棄とばかりに手をあげる『花骨牌』。その態度を逆に怪しむ覚者達。その気になれば逃げられる。ふてぶてしい余裕が、そう印象付けられる。
「おねーさんが二十五年前に解いた……というか解いてしまった封印の場所について教えてもらうよ」
 慎重に奏空が質問する。所長は日本の中心と予測していた。だが『中心』の定義によってその場所は変わる。地理的な中心地。海岸線から一番遠い場所。重心。最北と最南を直線引きし、そのど真ん中。臍部分。緯度経度原点……日本の中心を名乗るスポットは数多くあるのだ。
「山梨にあるもう廃墟になった神社よ」
 日本最北と最南、最東と最西。その交点にある場所だという。
「難しいかもしれへんけど、うちらは人も古妖も全部護るで。その時何が起きようがな」
『花骨牌』に向かい、そう宣言する凛。それはこの場にいる覚者全ての代弁だった。FiVEが保有する施設は多い。それをフル稼働すればまだ余裕はある――
「せやな、難しいやろう。一か月は大丈夫かもしれへんけど、半年すれば息切れしはじめる。一年すれば手一杯。二年で限界を超えるんちゃう?
 もううちが手を下すまでもない。あんたらは自分自身の正義に溺れてまうんや」
 余裕の笑みを浮かべる『花骨牌』。だがその笑みは何かに気づいたかのように驚きの顔に変わる。
「……まさか、旦那はん……ああ、ほんまあの人はアホやなあ……」
 脱力するように崩れ落ちる。何事かと思っていた覚者達の端末に驚きの連絡が入った。

『題名:緊急連絡!
 From:中 恭介
 八神勇雄を頭とする隔者集団が五麟市に攻め入る予知が出た。直ちに帰還し、襲撃に備えてくれ』


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
ここはミラーサイトです