牛の顔持つ鬼
牛の顔持つ鬼


 新藤敬の趣味は釣りである。
 ただ「好き」と「得意」は別でそれほど、上手くはない。ただ、家の近くに磯場があり、昔からやっていたので大学生になった今でも好きで続けているという程度の腕前だった。

 ある日、敬はいつものように夜釣りのために磯場へ出かけた。
 波も穏やかで今日は絶好の釣り日和だろう。敬は垂らした糸に期待を込めながら魚を待つ。それからほどなくして竿がグッとしなった。獲物がかかったのだ。敬はすぐに竿を引き魚を釣り上げた。
 それからというものヒット、ヒットの連続。まるで入れ食い状態、次々と魚が釣れた。 
「なんだ、なんだ? 俺の時代がとうとう来たか~」
 自分でも怖いくらいに今日は釣れる。そんな風に思いながらも、ニヤニヤが止まらない。
が、釣れた魚が持ってきたバケツに入りきらなくなったとき今度はそれが奇妙に思えてきた。
 自分でも怖いぐらいに釣れるとは思ったがこれだけ釣れると流石に偶然だけでは片づけられないような気がしたからだ。
「本当に今日はよく釣れるな……」
 そろそろ帰ろうか。敬がそう思った時だった。
「ねぇ」と後ろから声をかけられた。
 慌てて振り向くと黒い髪の長い女性が赤ん坊を抱いて立っていた。ただ、女の体はどうしてかずぶ濡れで服の裾からは雫が滴っていた。
「あ、あの……どうかされましたか?」
 敬が女の姿を疑問そうに見ていると女が「もしよければその魚を一匹この子に譲ってくれませんか?」と言った。
 敬は全身ずぶ濡れでまだ赤ん坊の子供に魚を譲れというこの女を怪しく思ったが、その異常さ故に拒否した時に何をされるかわからないと思い、ついさっき釣ったばかりの魚を女に渡した。すると赤ん坊は女から与えられた魚をそのままボリボリと頭からまるまる一尾を食べきってしまった。
「おいおい、嘘だろ?」
 流石に目の前の異様な光景に敬は今まで感じたことのない恐怖を覚え始めた。そんな敬の反応などお構いなしに女はもう一度手を差し出して言う
「もう一匹、頂けませんか?」
 こうなればもう魚などくれてやるから立ち去ってくれ。そう思って敬がバケツごと魚を差し出すと、女はバケツ一杯の魚を赤ん坊に与える。するとやはり同じように頭からペロリと対れげていく……
 バケツ一杯こぼれんばかりにあった魚は一匹残らず、赤ん坊が平らげてしまった。そして女は満足そうに微笑むと続ける。
「この子を抱いては戴けませんか?」
 敬が拒もうとしても女が強引に押し付けてくる。敬はそれに抗うことができずに、赤ん坊を抱いてしまう。すると女はまるで暗い夜に溶けていくようにすうっと消えていった。
 もう何が何だかわからなくなった敬は赤ん坊を地面に置き、この場から離れようとした。
 だがその時、ざぁっという音がして振り向くと、海が大きいく盛り上がり、そうかと思うと中から牛の形を模した鬼とでも表現すればいいのかそんな、形相をした化け物が敬の前に現れた。
「牛鬼……」
頭が牛で首から下は鬼の胴体を持つ目の前の化け物のようなものを、昔そんな名前の妖怪が出てきた漫画を思い出した。
漫画や話の中の存在が目の前に存在する。あぁ、笑えない。敬はもう声すらあげることもできなかった。

「みなさーん。お集まりありがとうございます」
 久方 真由美(nCL2000003)はまるで何かのイベントの始まりのような緩い口調で始めた。正直聞いているこちらの気が抜けてしまう。
「状況は先ほど話した通り、今回はみなさんい元凶となる古妖、牛鬼を討伐してもらいます。これ以上、被害が増えないためにもみなさんには早急に対処していただく必要があります」
 これ以上被害を出さない……あなたは緩んだ気持ちを引き締める。
「それではみなさんよろしくお願いしますね」
 真由美がそう告げると皆一斉に立ち上がる。牛鬼討伐の任務開始だ。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:雨傘流
■成功条件
1.牛鬼の討伐
2.なし
3.なし
 初めまして、雨傘流と申します。

 今回の任務は、磯場周辺で人を襲う古妖、牛鬼の討伐です。
 また牛鬼と行動している濡れ女も同時に行動しているため、そちらにも注意しなければならないでしょう。
 濡れ女の脅威レベルは低いですが、これも討伐しておいたほうがいいでしょう。

 また、海の近く、相手は夜に行動をしているため、視界等、戦闘を行う上で障害となりえるかもしれません。

 戦闘場所 磯場。 時間深夜。

 討伐対象 牛鬼 ランク2
      攻撃方法 物理攻撃 噛みつき、パンチ、体当たり
      水中に潜り身をひそめてからの突進

      濡れ女 ランク1
      攻撃方法 物理攻撃 パンチ キック
 
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(1モルげっと♪)
相談日数
5日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
3/6
公開日
2018年11月20日

■メイン参加者 3人■


 例の磯場に着いた三人はまず、牛鬼をおびき寄せるために海に糸を垂らしていた。
「全然釣れんやんけ、これ本当にこの辺に牛鬼がいるんやろうな」
 そう愚痴をこぼしたのは焔陰凛(CL2000119)だった。早くも釣りに飽きたらしい。
「でも報告にあったのはこの磯場近辺で間違いないみたいですし、もう少し頑張ってみましょう」
 隣にいた高比良優(CL2001664)がなだめるように言う。その仕草は女性的だが、中世的な見た目も相まって、はたして彼女なのか彼なのか、周りからは区別できない。
「しかしまぁ、牛鬼ねぇ。名前くらいは知ってるんやけど実際目にするのは初めてやな」
「確かにそうですね。最近は古妖を装った事件が多いみたいですし……」
「ともあれどんな奴が相手でも人を害する存在を放ってはおけんからな。気張っていくで!」
 大声を張り上げる凜に良優は少し照れ臭そうに「はい」と答えた。
「しかしなかなか出てきそうにないですね……魚も釣れないとなると凜さんがダレちゃう気持ちもわかります」
 二人の横で熱心に釣りに勤しんでいた離宮院太郎丸(CL2000131)も流石に退屈そうにつぶやいた。
「せやなぁ……なんか牛鬼が一発でおびき出されるいい方法はないもんかねぇ」
 凜がため息をついた瞬間だった。凜の竿がしなる感触。魚が餌に食いついたのだ。
「おお、来た来た! しかもこれ結構デカいで!」
 凜が興奮気味に竿を握る。
「凜さん頑張って!」
 良優が応援するとさらに凜の闘志も燃え上がる。
「これでどうや!」
 格闘すること約二分あまり、ついに海面から魚が現れた。
「どんなもんや」
 凜が自慢げに言う。二人も自分の竿を置いて凜の元に集まった。
 体長五十センチはくだらないアジだ。この辺では十分大物と言えるだろう。
「やりましたね凜さん!」
 太郎丸が興奮気味に言う。
「かっこよかったです!」
「せやろ? せやろ?」
 良優に褒められて凜が上機嫌い笑う。
 すると、置いてあった良優と太郎丸の竿が同時にしなった。
「おっ、二人の竿も魚がかかたみたいやで」
「本当ですね」
 そう言って良優が竿を掴もうとした時だった。
 ぺタッ……ぺタッ……という足音がかすかに聞こえた。
「二人とも静かに!」
 太郎丸が叫ぶと三人の背後に気配。驚いて振り向くとそこには全身ずぶ濡れの女が立っていた。
「やっと僕たちの前に出てきてくれたみたいですね」
 太郎丸がふうっと息を吐きながら言う。
「濡れ女」

「私を知っているの?」
 濡れ女が言う。
「そりゃそうやろ、あたしらはあんたを倒しに来たんやからな」
「へぇ……私を倒す……」
 濡れ女は不敵にほほ笑むとさらに続けた。
「それは無理ね。だってあなたたち……」
「皆さん、強い殺気を感じます!」
 太郎丸の感情探査が水中から発せられる確かな意識を感じ取った。
「食べられちゃうから」
「避けてください!」
 太郎丸が叫ぶと同時に海中から巨体が現れ三人めがけて突っ込んできた。三人はそれを間一髪で避ける。
「危な! ヒヤヒヤするで、まったく……」
 凜がそう言いながら海から現れたそれに向かい合う。
 牛の頭に、鬼の体。その巨体は化け物というのが相応しい。
「報告通りですね人を襲う古妖、牛鬼。そして濡れ女」
 良優が言う。
「ぐぁあああッ」
 牛鬼が吠える。咆哮が夜の闇に響き渡る。
 そしてすぐさま、その拳を振り上げる。
「躱すで!」
 凜がそう言い、牛鬼の攻撃を躱す。だがその動きは普段の動きとは違った。
 慣れない磯場での戦いに体を思うように動かせないのだ。出撃前にわかっていたことだが、実際に戦ってみると戦い辛さがよくわかる。
「ああ、しゃんとしやあたし!」
 そう言って自分を鼓舞し前に出る。出撃前に前衛で戦うと宣言したのだ。ここで引くわけにはいかない。牛鬼に向かって駆ける。足場を意識したギリギリの疾走。だが、牛鬼の懐に飛び込むには十分だ。
 そして放つ。
 煌焔。焔陰流にある三連撃の技。振るった朱焔の刃紋が焔のように輝く。
「ぎゃぁぁっ」
 牛鬼に命中。牛鬼が悲鳴を上げながら反撃。パンチを繰り出し、凜を追い詰める。何発か凜にヒットする。
「凜さん!」
 良優の火焔連弾。遠距離からの、攻撃が牛鬼を襲う。
「オォォォォォッ」
 牛鬼は叫ぶと水の中り身を潜めた。
「太郎丸さん。感情探査は?」
「大丈夫です。感知できてます。四時の方向、来ます!」
 太郎丸の言葉とほぼ同時に海面が盛り上がる。だが出現場所さえ分かっていればこちらにも戦い方がある。
 凜は現れた巨体を躱しつつ、カウンターで煌焔を放つ。
「ガァッ」
 牛鬼が声を上げて地面に倒れた。
「これでしまいやな」
 動かなくなった牛鬼を見て凜が言う。
「ああ……」
 牛鬼の敗北に濡れ女が動揺し後ずさる。
「えい!」
 強力な後ろ盾を失って動揺している濡れ女に良優の火焔連弾が命中し、濡れ女も倒れた。

 戦闘が終わり、三人は撤収作業をしていた。
「凜さん大活躍でしたね。これだけ足場の悪い中前衛で戦うなんてすごいです」
 良優に褒められ凜が少し照れる。
「いやいや、良優の遠距離攻撃のおかげやで、牛鬼結構喰らってたみたいやし」
「私なんて微々たるもので……本当三人いてよかったなって思いました。僕一人じゃ倒せなかったかもしれないです」
「せやなみんなの勝利や。太郎丸もめっちゃ頑張ってくれたしな。回復、おおきにな」
「気づいていたんですか?」
 太郎丸が少し驚いたように言う。
「戦闘に夢中でしたから気づいてないのかと……」
「こんだけ回復してて気づかへんわけないやろ。ほんまおおきにな」
 そう言われて太郎丸がは少し照れ臭そうに「そうですね」笑った。
「まぁ何にせよ一件落着や。ぱーっと打ち上げでもしよか?」
 凜がそう言って笑って歩き出し、二人もそれに続いた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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