≪花骨牌暗躍≫子を守る思いを煽り鳥を撃つ
●鳥の古妖と人間と
姑獲鳥(うぶめ)――
『夜行遊女』とも言われる鬼神の一種で、子供を攫い魂を奪って病魔に犯すと言われている。
人を襲う古妖としてはメジャーなモノで、その発生と共に覚者を中心とした討伐隊が組まれるほどである。
そしてまた、鳥のような何かが子供を攫うという事件が勃発する。
「姑獲鳥だ!」
「見たぞ! あそこの山に逃げて行った!」
その町の近くにある山。いくつもの証言や映像などから人間達はその古妖の居場所を特定していく。だが、その流れに反する意見もあった。
「待ってくれ! あそこにいる鳥の古妖と言ったら……五位さまのことじゃないか?」
「五位さまが子供を攫うなんてありえない! もう少し調べた方がいいよ!」
五井、と言う鳥の古妖は山の近くにするものからすれば守り神のような存在だ。だが不鮮明だが映像はその古妖に似ている部分もある。何よりも大多数の子供を守りたいという声に強く出ることはできなかった。
かくして山の古妖を狩るために討伐隊が組まれることになる。討伐と言ったが殺す必要はない。山から古妖を追い出し、安全を確保するのだ。
その熱を確認した五人の隔者は頷き、街を出る準備をする。
「後は仮面を処分すれば終わりだ」
カバンの中に入った『五位』に似た青い鳥の仮面。町から離れた場所でこれを処分すれば、任務完了だ。
「これで『花骨牌』様も喜んでくれるな」
たおやかにほほ笑む七星剣幹部の顔を想像し、隔者は唇をゆがめた。
●FiVE
「扇動を試みた七星剣隔者を捕まえてください」
久方 真由美(nCL2000003)は集まった覚者を前に説明を開始する。
「とある町に『子供を攫う鳥の古妖が現れる』と言う噂を流し、鳥の仮面をかぶった翼人が子供を攫うという事件が起きました。その子供は衰弱した状態で発見されています。その後、街近くに住む鳥の古妖を襲うよう扇動しました。
討伐隊が編成される前に隔者を取り押さえてください」
フリップボードに関係を書きながら説明する真由美。『町の人』『鳥の古妖』そして『隔者』。三つの因果関係は理解できたし、やるべきことも示された。だが――
「なんで隔者はそんなことをしたんだ? 古妖を殺したいとかか?」
「分かりません。少なくとも町の人も古妖を殺すつもりはないようです。今まで山の守り神的な存在だったらしく、山から追い出して近づけさせないようするようです」
ますますわからない。だがこのまま行き違いがあってはいけないだろう。町の人への説得も、これが扇動だという証拠を用意した方がいいだろう。
「気を付けてください。何かが動いている。そんな気がします」
真由美の言葉に頷き、覚者達は会議室を出た。
姑獲鳥(うぶめ)――
『夜行遊女』とも言われる鬼神の一種で、子供を攫い魂を奪って病魔に犯すと言われている。
人を襲う古妖としてはメジャーなモノで、その発生と共に覚者を中心とした討伐隊が組まれるほどである。
そしてまた、鳥のような何かが子供を攫うという事件が勃発する。
「姑獲鳥だ!」
「見たぞ! あそこの山に逃げて行った!」
その町の近くにある山。いくつもの証言や映像などから人間達はその古妖の居場所を特定していく。だが、その流れに反する意見もあった。
「待ってくれ! あそこにいる鳥の古妖と言ったら……五位さまのことじゃないか?」
「五位さまが子供を攫うなんてありえない! もう少し調べた方がいいよ!」
五井、と言う鳥の古妖は山の近くにするものからすれば守り神のような存在だ。だが不鮮明だが映像はその古妖に似ている部分もある。何よりも大多数の子供を守りたいという声に強く出ることはできなかった。
かくして山の古妖を狩るために討伐隊が組まれることになる。討伐と言ったが殺す必要はない。山から古妖を追い出し、安全を確保するのだ。
その熱を確認した五人の隔者は頷き、街を出る準備をする。
「後は仮面を処分すれば終わりだ」
カバンの中に入った『五位』に似た青い鳥の仮面。町から離れた場所でこれを処分すれば、任務完了だ。
「これで『花骨牌』様も喜んでくれるな」
たおやかにほほ笑む七星剣幹部の顔を想像し、隔者は唇をゆがめた。
●FiVE
「扇動を試みた七星剣隔者を捕まえてください」
久方 真由美(nCL2000003)は集まった覚者を前に説明を開始する。
「とある町に『子供を攫う鳥の古妖が現れる』と言う噂を流し、鳥の仮面をかぶった翼人が子供を攫うという事件が起きました。その子供は衰弱した状態で発見されています。その後、街近くに住む鳥の古妖を襲うよう扇動しました。
討伐隊が編成される前に隔者を取り押さえてください」
フリップボードに関係を書きながら説明する真由美。『町の人』『鳥の古妖』そして『隔者』。三つの因果関係は理解できたし、やるべきことも示された。だが――
「なんで隔者はそんなことをしたんだ? 古妖を殺したいとかか?」
「分かりません。少なくとも町の人も古妖を殺すつもりはないようです。今まで山の守り神的な存在だったらしく、山から追い出して近づけさせないようするようです」
ますますわからない。だがこのまま行き違いがあってはいけないだろう。町の人への説得も、これが扇動だという証拠を用意した方がいいだろう。
「気を付けてください。何かが動いている。そんな気がします」
真由美の言葉に頷き、覚者達は会議室を出た。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.隔者5名の打破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
あんやくーあんやくー。
●敵情報
・隔者(×5)
七星剣所属の隔者です。鳥の仮面をかぶって子供を誘拐したり、ワードワースなどを用いて町の人を扇動したりしています。目論見が全て終わり、街から逃げようとしている状態です。
『自分達の目論見を知っている』覚者を逃すつもりはなく、逃亡する気はありません。
・『青の炎翼』青野・開成(×1)
火の翼人。男性。青い羽根を生やし、体術中心で攻めてきます。鳥の仮面はコイツが持っています。
『飛行』『灼熱化』『爆刃想脚』『炎纏』『ステルス』等を活性化しています。
・『ふたりはずっといっしょだから』生島ヒカリ&生島ヒカル(×1ずつ)
天の精霊顕現。女性の双子。バッドステータス主体。
『五織の彩』『乱舞・雪月花』『迷霧』『雷獣』『ワーズ・ワース』『シンクロ』等を活性化しています。
・部下(×2)
土の獣憑(戌)。パワーファイターです。
『猛の一撃』『鉄甲掌・還』『紫鋼塞』『無頼漢』『土の心』『結界』等を活性化しています。
●余談
『五位』と言う古妖は『青鷺火』と呼ばれるサギの古妖です。
夜に青く光りと言われています。
●場所情報
街中の駐車場。車の前で待ち受ける形になります。時刻は昼。足場と広さは戦闘に支障ありません。人が来る可能性はそれなりに。
戦闘開始時、敵前衛に『青野(×1)』『部下(×2)』が。後衛に『ヒカリ』『ヒカル』がいます。事前付与は一度だけ可能とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
5/6
5/6
公開日
2018年10月21日
2018年10月21日
■メイン参加者 5人■

●
鳥の仮面をかぶり、子供を誘拐する。返す子供にはわざわざ病魔で弱らせたかのような毒を加える。しかもその姿を監視カメラや人の目に留まるように行い、さらには姑獲鳥の噂まで流す。
婉曲的だが技能に秀でた覚者の能力はこういったときに発揮される。大事なのは事実ではない。真実でもない。虚であっても万人が信じれば黒は白になる。まして相手は人との接触をあまり行わない古妖なのだ。弁解する機会が少なく、その間に噂は浸透する。
何よりも――姑獲鳥に対する恐怖と古妖に関する無知があった。鳥の古妖、というだけで姑獲鳥と五位を同一視してしまうのは古妖に関する知識不足がある。人は興味のないことは一括りにしてしまいがちなのだ。
ともあれ、隔者の仕込みは完璧だった。あとは証拠の品を処分するだけだ。
そこに――
「何や手の込んだ事してるみたいやけど、人を騙すのは感心せんな」
行く手を阻むように『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が道を阻む。隔者の狙いはわからないが、相手が七星剣である以上はただの憂さ晴らしと言うわけではないだろう。ここで食い止め、その企みを止めるまでだ。
「洗い浚い町の人に本当の事吐いてもらうで」
「お前らが何の罪もない古妖に罪をなすり付けようとしてる悪者だ、って事だけはハッキリしてるよな!」
拳を握って『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)が声を張り上げる。七星剣がどういう絵図を描いているかは想像もつかないが、古妖を貶めようとしていることは事実だ。翔の心に渦巻く正義の炎が、それを許さないと燃え上がっていた。
「だったらヒーローとしちゃ黙ってらんねーぜ!」
「翼人が五位さまのフリをして悪者に仕立て上げて追い出させる……」
黒の翼を広げ、『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)は敵の翼人を見る。聞き伝えでしか古妖の事を知らなければ『上半身が人型の鳥古妖』として騙されることはあるだろう。同じ翼人として、胸がモヤモヤする。
「翼を悪い事に利用されるのは、正直とても嫌な気持ちになりますね」
「悪いけどこのまま帰せないよ」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)の一言は、宣戦布告と同時にここに集まった覚者達の意志だ。ここで隔者を返せば、七星剣に何かしらの利が出る。それ以前に罪のない古妖が迫害されるのは許せない。
「あんた達の目論見、阻止させて貰う」
「ひ、人払いは任せてくださいっ!」
『ノートブック』を手に離宮院・太郎丸(CL2000131)が結界を展開する。妖精から伝授された空間掌握術。その範囲内にいる者を遠ざけようとする空間。形成された術は精神的に駐車場から離れようと人の心に作用していく。
「FiVEか……なら誤魔化すのは無理のようだな!」
隔者は言って神具を構える。ここでFiVEを退けなければこれまでの暗躍が明るみに出る。殺気を乗せて覚醒し、戦いの布陣を展開していく。
暗躍する者と真実を知る者。両者の刃が今、交差する。
●
「行くぞ、翔!」
「任せろ、奏空!」
奏空と翔は頷きあい、隔者に迫る。狙いは青野の部下二人。持っていた武器を守護使役に渡し、無手で相手の攻撃範囲に迫る。拳で殴ると思っていた部下たちは腕をあげて防御の構えをとるが、奏空と翔は人差し指を立ててそれを突き立てる。
体を流れる源素。その通り道を阻害するように指を向けて印を斬を切る。大事なのは源素を散らすこと。一方向に流れる源素を拡散させることで、術式に必要な源素を集めさせないようにする技。覚醒者捕縛用に作られた封印術。
「術式封じ……だが消耗も激しいはずだ!」
「待ちいや、炎使い。あたしの炎を喰らいや!」
手に青い炎を宿す翼の隔者。その炎に対抗するかのように凛の刀に赤い炎が宿る。燃え盛る炎が肉体を強化し、闘志が瞳を輝かせる。剣と拳では領域は違うが、相応の技量を持つ相手であることには違いない。
赤と青の炎がぶつかり合う。その一合で凛は隔者の実力を推し量る。心は腐っているが、それなりに武に傾倒した相手だ。ならばとばかりに深く踏み込み、『朱焔』を振るう。焔陰流連獄波。赤の炎が隔者達を巻き込み燃え上がる。
「しっかし古妖が邪魔ならアンタらで倒せばええんと違うんか?」
「そういう命令なんだよ。殺さないように煽って追い出せってな」
「なんやそれ? ようわからんわ」
「では山自体に何かがある……? いいえ、古妖を生かす理由にはならないですね……」
隔者の言葉を受けて思考する澄香。何かしらの目的があるのは確かだが、その目的が分からない。七星剣が何を求め、どういう計画を行っているのか。とにかく情報を集め、推測するしかない。何よりも、彼らを逃すわけにはいかない。
天の術式を駆使して、仲間に変調を与え続ける双子の隔者。その足止めを解除すべく澄香は術式を展開する。手に宿る暖かい炎。澄香は灰から復活する炎の鳥をイメージしていた。朽ちても飛びあがる鳥の炎。そのぬくもりが仲間を縛る術式を解除していく。
「おいたはそれまでですよ。双子ちゃん」
「何あの術!? 強すぎる!」
「大人しくすれば痛い目は見ずに済みますからね」
「って言って大人しくしてくれる相手じゃないな」
従姉の言葉を継ぐように翔が口を開く。相手の目や態度がまだ戦意に満ち溢れているからだ。完全に倒れるまで戦いを止めるつもりはないのだろう。だったら最後まで付き合ってやるぜ、と気合を入れて翔は術式を練る。
『DXカクセイパッド』を手に源素を体内で練り上げる。パットが術式に必要な陣と音を形成し、翔が放つ源素がそれに連動する。電子と人力。デジタルとアナクロが融合した新たな術者。現在日本の陰陽術師が生む稲妻が、双子姉妹を穿つ。
「痺れどか混乱とか嫌らしいったらないぜ!」
「これも戦術よ。私たち二人のバッドステータス地獄、味わいなさい!」
「どんどんこい! そんなもん効かねーよ!」
「後ろにいる双子は任せたよ!」
言いながら奏空は刃を抜き、隔者達に刃を向ける。術式を封じているとはいえ、七星剣幹部に厳選された者達だ。こういった荒事に対応す能力も皆無ではない。油断すれば大やけどを負うだろう。
刀を構え、隙を伺う奏空。連携する隔者の隙を見つけ、神具を振るう。穴はわずかな隙間。一秒にも満たない認識の齟齬程度。しかしそれを逃す奏空ではない。疾く走り、素早く一閃し、間隙を突く。驚く隔者の顔を見ながら、更なる追撃を加えていく。
「男なのに乳母め? とかやってもすぐにわかるんだよ」
「酷いわー。開成ちゃん頑張って女装したのに」「胸パット入れてスカートまではいたのに」
「……隔者って大変なんだね」
「そう思うなら通してほしいんだがな!」
半ばキレそうになりながら青野が叫ぶ。勿論受け入れるつもりはないが。
拮抗する覚者と隔者。剣戟と術式の音が駐車場に響き渡る。激しい戦いの根底に宿るのは組織に対する忠誠心か己の正義か。どちらにせよ言葉では止まれない気迫がそこにあった。ふざけているような態度に見えても、隔者の気迫は真剣そのものだ。
勿論覚者も同様だ。ここで彼らを逃すつもりはない。無実の古妖が迫害され、裏切りの傷を負って消えていく。そんな未来を阻止するために自分達はここにいるのだ。隔者の気迫と暴力に飲まれるわけにはいかない。
戦いはゆっくりと、しかし確実に決着に向かっていく。
●
一進一退の攻防戦。
生島姉妹の与えるバッドステータス攻撃を澄香が癒し、凛と青野の炎が交差する。奏空の刃が隔者を裂き、翔の稲妻が敵を穿つ。
相手の術式と体術を封じながら戦う覚者達だが、その分一手遅れてしまい威力に対しての消耗も激しい。だが相手の攻撃を封じている分、敵から受ける損害も少なかった。
だが覚者側も生島姉妹のバッドステータスに足を引っ張られることもあり、澄香はその対応にひっきりなしだった。長引く勝負は互いの気力が切れる寸前まで続く。先に力尽きてバランスを崩した方が負ける。双方ともにそれを自覚していた。
「騙した人達や酷い目に遭った子供に謝らせてやる!」
怒りの声と共に翔の稲妻が走る。彼らが行ったことは古妖の信頼を落とすと同時に、色々な人に迷惑をかけている。命を奪うような真似はしなかったが、だからと言って許されるものではない。その怒りをぶつけるように雷鳴がとどろいた。
「騙す? 違うわ、古妖は危険よ。いつ何時、牙を向くかわからないわ」
「いい加減な事を言うな! お前達が正しくないことは明白だろうが!」
「私達は悪人だけど、古妖よりはマシよ。彼らは偶々人を襲わないだけのケダモノ。その気になれば、人なんか気にかけないわ。
そう考えれば、まだ『悪い』だけの人間の方が接しやすくないかしら?」
翔の怒りにかぶせる様に生島姉妹が言葉を放つ。古妖は人間ではない。今は敵対してないけど、何かあれば敵対するかもしれないのだ。価値観が図れない相手よりも価値観が図れる相手の方が接しやすい。それは一理あるのだろうが――
「んなわけあるか! 分かんなくても悪いことしなけりゃ通じ合えるかもしれないんだよ!」
多くの闘いを経てそれなりの『答え』を持っている翔はそれを一蹴する。理があろうがなかろうが、悪いことをする者は罰を受ける。それだけだ。
「ええ。人と古妖は違います。もしかしたらそういうことがあるかもしれない」
真っ直ぐに隔者の方を見て澄香が口を開く。古妖の人に対する態度は様々だ。餌としか思っていない古妖もいる。人間を忌む古妖もいる。完全に味方とは言えないと言われれば、それは確かだ。だけど――
「だけど、分かり合えるかもしれません。少なくとも五位さまはその可能性があります」
「可能性? どの程度? 人じゃないんだよ?」
「ええ。分かっています。山に住む以上、人と深く接していないのでしょう。人間を疎んでいるかもしれません。でも分かり合える可能性はゼロじゃない。
その可能性をゼロにしようとする貴方達の行為は、許しておけません」
「FiVEは酔狂だな。源素の研究に古妖と仲良しこよしになる必要はないだろうに」
FiVEが妖や隔者と戦うのは、表向きは『源素を用いた戦闘のサンプル集め』だ。覚者発生と同時に生まれた妖や、同じ覚者同士の闘いはデータ積み重ねになる。しかし古妖を助ける、と言う行為は源素のデータ集めには無関係だ。
「はい、ありません。だからこそ、組織の利益なしに助けるのです」
利などない。だからこれは澄香自身の誠意なのだ。困っている人や古妖、誰かを助けることが誠意であり使命なのだと胸を張る。
「そういうこと! 悪いけど押さえさせてもらうよ!」
地を蹴って走る奏空。誰よりも先んでて危険に身を晒す彼も、自分自身の利益や名誉ではなく『助けたい』と言う思うから動いていた。探偵とは偵い探す者。悪意と言う暗い闇の中、泣いている子を見つけて光の下に導く存在だ。
「あんた達の他でも暗躍してるみたいだね」
「FiVEが如何に優秀で夢見の数が多くとも、花骨牌様の動きを全て止めるなんて不可能さ」
「止めてみせるよ。それが俺達だ。何が目的かを調べ上げてやる。
七星剣の悪事は全て止めてみせる!」
裂帛の叫びをあげて刀を振るう奏空。企みなんて全然わからないけど、体が動けばいつかは真相にたどり着ける。そう信じて奏空は前に進んでいく。それに戦うのは自分一人だけじゃない。頼れる仲間だってここにはいるのだから。
「まあ考えても分からんことやしな。剣士ならこれで聞くのが一番や!」
言って笑みを浮かべる凛。そのまま刀を振るい、隔者を傷つけていく。剣戟で攻める凛はまさに水を得た魚、野を焼き払う燎原の炎の如く。振るわれる剣術は二〇代以上続く歴史ある剣術。歴代の剣士を追うように、凛の動きは加速していく。
「おっちゃんもいい腕してるで。鳥の芝居するには惜しいぐらいや」
「舐めるな小娘。こちとらお前が生まれる前から拳握ってたんだよ!」
「せやな。やけど強さは年数とちゃうで。どれだけ濃い戦いしてたかや。
悪事で楽して勝負決めるようなぬるま湯戦法じゃ、一〇年たってもあたしの一年に及ばんわ!」
FiVE創立から戦いに身を置いてきた凛。その一年と青野の一年は違う。戦いの中で研ぎ澄まされた凛の一撃には重みがある。自分よりも強い妖に挑み、視線を潜ってきた一閃。その一閃が隔者を討つ。
「くそ……!」
青野の部下が凛の刃を受けて倒れ伏す。これにより隔者の攻撃が減り、覚者達がじわじわと押し始める。
「あたしの剣を止めるには、全然炎が足りへんで!」
途中、青野と戦っていた凛が命数を削られるほどの傷を受けるが、リジェクタたちの猛攻はそこまで。復活した凛の刃に青野が倒れ、返す刀でもう一人の部下を切り倒す。
前衛全員が戦闘不能になれば、隔者の火力が激減する。生島姉妹は術者としては優れているが、総合火力でFiVEの覚者を倒し切る術は有していない。必死に抵抗するが、押されていくのは明白だ。
「これで決めさせてもらうぜ! ――雷よ、荒れ狂え!」
疲弊した隔者を指差し、源素を解放する翔。その指先に稲妻が宿り、真っ直ぐに隔者達を穿った。その一撃で意識を失う生島姉妹。
「うっしゃ! お前ら、しっかり反省しろよ!」
倒れ伏した隔者を前に、翔は腰に手を当てて言い放った。
●
「悪いのはこの人達です」
「証拠ならここにあるで」
覚者達は古妖討伐隊が編成されていると言われている場所に向かい、捕らえた隔者と鳥の仮面を見せつける。彼らが平和を守るために戦っているFiVEの覚者であることも含め、事はあっさりと進行した。
「……つまり、姑獲鳥はいなかったということで?」
「はい。その噂も含めて彼らが仕込んだことです」
隔者達からの反論はない。証拠を押さえられた以上、何を言っても後の祭りだということは解っているのだろう。町の人の怒りを受けた後に刑に服す。それから逃れる術はない。
「そのようなことがあったのでちゅね」
その後、覚者達は狙われていた古妖の元に赴き、事情を説明する。燐のように青く輝く青い鳥。確かに仮面はこれを模して作ったのだなぁ、と思わせる格好だ。幼い子供のような口調でしたりと頷いた。
「でもそれは解決した事なのでちゅね。ありがたうごじゃいます」
頭を下げる五位。先導されそうになった事は気にしていないようだ。
「しっかし……前にも同じ話を聞いたことがあるような……てるてる坊主だったか」
翔はしばらく前にあった事件を思い出す。夏の暑さに耐えきれず日照りを起こす古妖を迫害した事件。それと今回の事件はなんとなく似ている。あの時は熱さで判断力が鈍ったからだと思ったが、今回のように煽られてたのでは……?
「何かこの山に何か特別なものがあったりは……」
「お宝と遺跡かないんか」
澄香と凛はこの山に何かあるのではないか、と言う疑いを持っていた。だがそのような物はなく、青鷺火がここにいるのも夜道を照らす為だという。現在では車のライトや街灯が発達しており、お役御免とばかりにゆったりとしていたとか。
「結局、わからんままか。しゃーないな」
覚者達は手掛かりのないまま帰路につく。だが古妖と人間の仲を守った事実は大きい。
何も起きない平和な日々。これこそが覚者達の得た最大の報酬――
(仮説だけど……目的は古妖を孤立させること。人の目に触れなくする利点は何だ?)
帰り際、奏空は無言で考えていた。事実はいきなり目の前にあるのではない。僅かな糸口から全体像を想像する事。僅かな理を推(お)して進む。これが推理なのだ。
(人目に触れず……襲う為。古妖を殺すだけならそれならいつもの力技でいい。それがばれないようにするということは、そこに秘せねばならない何かがあるからだ)
七星剣が秘さなくてはいけない事。つまり、組織として重要な事項。それは――
(首魁である八神本人が持つ何か。おそらく神具七星剣に関する事……でもあの剣の能力は解っている。雨風を吹かせる能力だ。それは報告書にもあったから間違いない――
違う……そうではないとすれば?)
前提条件が違う。剣の能力が雨風を吹かせる能力じゃないとすれば――
(殺した古妖の能力を……使用できる?)
先の八神との接触時、その直前に竜と戦っていたという報告がある。暴雨を司ると言われた竜の力。それを剣が奪ったのなら……。
「……証拠はない、けど」
小さくつぶやく奏空。全ては推測だ。
『大妖を廃し、人の手でこの国を支配することだ』
八神はかつてそう言った。
人の手で。そこに古妖は含まれない――
鳥の仮面をかぶり、子供を誘拐する。返す子供にはわざわざ病魔で弱らせたかのような毒を加える。しかもその姿を監視カメラや人の目に留まるように行い、さらには姑獲鳥の噂まで流す。
婉曲的だが技能に秀でた覚者の能力はこういったときに発揮される。大事なのは事実ではない。真実でもない。虚であっても万人が信じれば黒は白になる。まして相手は人との接触をあまり行わない古妖なのだ。弁解する機会が少なく、その間に噂は浸透する。
何よりも――姑獲鳥に対する恐怖と古妖に関する無知があった。鳥の古妖、というだけで姑獲鳥と五位を同一視してしまうのは古妖に関する知識不足がある。人は興味のないことは一括りにしてしまいがちなのだ。
ともあれ、隔者の仕込みは完璧だった。あとは証拠の品を処分するだけだ。
そこに――
「何や手の込んだ事してるみたいやけど、人を騙すのは感心せんな」
行く手を阻むように『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が道を阻む。隔者の狙いはわからないが、相手が七星剣である以上はただの憂さ晴らしと言うわけではないだろう。ここで食い止め、その企みを止めるまでだ。
「洗い浚い町の人に本当の事吐いてもらうで」
「お前らが何の罪もない古妖に罪をなすり付けようとしてる悪者だ、って事だけはハッキリしてるよな!」
拳を握って『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)が声を張り上げる。七星剣がどういう絵図を描いているかは想像もつかないが、古妖を貶めようとしていることは事実だ。翔の心に渦巻く正義の炎が、それを許さないと燃え上がっていた。
「だったらヒーローとしちゃ黙ってらんねーぜ!」
「翼人が五位さまのフリをして悪者に仕立て上げて追い出させる……」
黒の翼を広げ、『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)は敵の翼人を見る。聞き伝えでしか古妖の事を知らなければ『上半身が人型の鳥古妖』として騙されることはあるだろう。同じ翼人として、胸がモヤモヤする。
「翼を悪い事に利用されるのは、正直とても嫌な気持ちになりますね」
「悪いけどこのまま帰せないよ」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)の一言は、宣戦布告と同時にここに集まった覚者達の意志だ。ここで隔者を返せば、七星剣に何かしらの利が出る。それ以前に罪のない古妖が迫害されるのは許せない。
「あんた達の目論見、阻止させて貰う」
「ひ、人払いは任せてくださいっ!」
『ノートブック』を手に離宮院・太郎丸(CL2000131)が結界を展開する。妖精から伝授された空間掌握術。その範囲内にいる者を遠ざけようとする空間。形成された術は精神的に駐車場から離れようと人の心に作用していく。
「FiVEか……なら誤魔化すのは無理のようだな!」
隔者は言って神具を構える。ここでFiVEを退けなければこれまでの暗躍が明るみに出る。殺気を乗せて覚醒し、戦いの布陣を展開していく。
暗躍する者と真実を知る者。両者の刃が今、交差する。
●
「行くぞ、翔!」
「任せろ、奏空!」
奏空と翔は頷きあい、隔者に迫る。狙いは青野の部下二人。持っていた武器を守護使役に渡し、無手で相手の攻撃範囲に迫る。拳で殴ると思っていた部下たちは腕をあげて防御の構えをとるが、奏空と翔は人差し指を立ててそれを突き立てる。
体を流れる源素。その通り道を阻害するように指を向けて印を斬を切る。大事なのは源素を散らすこと。一方向に流れる源素を拡散させることで、術式に必要な源素を集めさせないようにする技。覚醒者捕縛用に作られた封印術。
「術式封じ……だが消耗も激しいはずだ!」
「待ちいや、炎使い。あたしの炎を喰らいや!」
手に青い炎を宿す翼の隔者。その炎に対抗するかのように凛の刀に赤い炎が宿る。燃え盛る炎が肉体を強化し、闘志が瞳を輝かせる。剣と拳では領域は違うが、相応の技量を持つ相手であることには違いない。
赤と青の炎がぶつかり合う。その一合で凛は隔者の実力を推し量る。心は腐っているが、それなりに武に傾倒した相手だ。ならばとばかりに深く踏み込み、『朱焔』を振るう。焔陰流連獄波。赤の炎が隔者達を巻き込み燃え上がる。
「しっかし古妖が邪魔ならアンタらで倒せばええんと違うんか?」
「そういう命令なんだよ。殺さないように煽って追い出せってな」
「なんやそれ? ようわからんわ」
「では山自体に何かがある……? いいえ、古妖を生かす理由にはならないですね……」
隔者の言葉を受けて思考する澄香。何かしらの目的があるのは確かだが、その目的が分からない。七星剣が何を求め、どういう計画を行っているのか。とにかく情報を集め、推測するしかない。何よりも、彼らを逃すわけにはいかない。
天の術式を駆使して、仲間に変調を与え続ける双子の隔者。その足止めを解除すべく澄香は術式を展開する。手に宿る暖かい炎。澄香は灰から復活する炎の鳥をイメージしていた。朽ちても飛びあがる鳥の炎。そのぬくもりが仲間を縛る術式を解除していく。
「おいたはそれまでですよ。双子ちゃん」
「何あの術!? 強すぎる!」
「大人しくすれば痛い目は見ずに済みますからね」
「って言って大人しくしてくれる相手じゃないな」
従姉の言葉を継ぐように翔が口を開く。相手の目や態度がまだ戦意に満ち溢れているからだ。完全に倒れるまで戦いを止めるつもりはないのだろう。だったら最後まで付き合ってやるぜ、と気合を入れて翔は術式を練る。
『DXカクセイパッド』を手に源素を体内で練り上げる。パットが術式に必要な陣と音を形成し、翔が放つ源素がそれに連動する。電子と人力。デジタルとアナクロが融合した新たな術者。現在日本の陰陽術師が生む稲妻が、双子姉妹を穿つ。
「痺れどか混乱とか嫌らしいったらないぜ!」
「これも戦術よ。私たち二人のバッドステータス地獄、味わいなさい!」
「どんどんこい! そんなもん効かねーよ!」
「後ろにいる双子は任せたよ!」
言いながら奏空は刃を抜き、隔者達に刃を向ける。術式を封じているとはいえ、七星剣幹部に厳選された者達だ。こういった荒事に対応す能力も皆無ではない。油断すれば大やけどを負うだろう。
刀を構え、隙を伺う奏空。連携する隔者の隙を見つけ、神具を振るう。穴はわずかな隙間。一秒にも満たない認識の齟齬程度。しかしそれを逃す奏空ではない。疾く走り、素早く一閃し、間隙を突く。驚く隔者の顔を見ながら、更なる追撃を加えていく。
「男なのに乳母め? とかやってもすぐにわかるんだよ」
「酷いわー。開成ちゃん頑張って女装したのに」「胸パット入れてスカートまではいたのに」
「……隔者って大変なんだね」
「そう思うなら通してほしいんだがな!」
半ばキレそうになりながら青野が叫ぶ。勿論受け入れるつもりはないが。
拮抗する覚者と隔者。剣戟と術式の音が駐車場に響き渡る。激しい戦いの根底に宿るのは組織に対する忠誠心か己の正義か。どちらにせよ言葉では止まれない気迫がそこにあった。ふざけているような態度に見えても、隔者の気迫は真剣そのものだ。
勿論覚者も同様だ。ここで彼らを逃すつもりはない。無実の古妖が迫害され、裏切りの傷を負って消えていく。そんな未来を阻止するために自分達はここにいるのだ。隔者の気迫と暴力に飲まれるわけにはいかない。
戦いはゆっくりと、しかし確実に決着に向かっていく。
●
一進一退の攻防戦。
生島姉妹の与えるバッドステータス攻撃を澄香が癒し、凛と青野の炎が交差する。奏空の刃が隔者を裂き、翔の稲妻が敵を穿つ。
相手の術式と体術を封じながら戦う覚者達だが、その分一手遅れてしまい威力に対しての消耗も激しい。だが相手の攻撃を封じている分、敵から受ける損害も少なかった。
だが覚者側も生島姉妹のバッドステータスに足を引っ張られることもあり、澄香はその対応にひっきりなしだった。長引く勝負は互いの気力が切れる寸前まで続く。先に力尽きてバランスを崩した方が負ける。双方ともにそれを自覚していた。
「騙した人達や酷い目に遭った子供に謝らせてやる!」
怒りの声と共に翔の稲妻が走る。彼らが行ったことは古妖の信頼を落とすと同時に、色々な人に迷惑をかけている。命を奪うような真似はしなかったが、だからと言って許されるものではない。その怒りをぶつけるように雷鳴がとどろいた。
「騙す? 違うわ、古妖は危険よ。いつ何時、牙を向くかわからないわ」
「いい加減な事を言うな! お前達が正しくないことは明白だろうが!」
「私達は悪人だけど、古妖よりはマシよ。彼らは偶々人を襲わないだけのケダモノ。その気になれば、人なんか気にかけないわ。
そう考えれば、まだ『悪い』だけの人間の方が接しやすくないかしら?」
翔の怒りにかぶせる様に生島姉妹が言葉を放つ。古妖は人間ではない。今は敵対してないけど、何かあれば敵対するかもしれないのだ。価値観が図れない相手よりも価値観が図れる相手の方が接しやすい。それは一理あるのだろうが――
「んなわけあるか! 分かんなくても悪いことしなけりゃ通じ合えるかもしれないんだよ!」
多くの闘いを経てそれなりの『答え』を持っている翔はそれを一蹴する。理があろうがなかろうが、悪いことをする者は罰を受ける。それだけだ。
「ええ。人と古妖は違います。もしかしたらそういうことがあるかもしれない」
真っ直ぐに隔者の方を見て澄香が口を開く。古妖の人に対する態度は様々だ。餌としか思っていない古妖もいる。人間を忌む古妖もいる。完全に味方とは言えないと言われれば、それは確かだ。だけど――
「だけど、分かり合えるかもしれません。少なくとも五位さまはその可能性があります」
「可能性? どの程度? 人じゃないんだよ?」
「ええ。分かっています。山に住む以上、人と深く接していないのでしょう。人間を疎んでいるかもしれません。でも分かり合える可能性はゼロじゃない。
その可能性をゼロにしようとする貴方達の行為は、許しておけません」
「FiVEは酔狂だな。源素の研究に古妖と仲良しこよしになる必要はないだろうに」
FiVEが妖や隔者と戦うのは、表向きは『源素を用いた戦闘のサンプル集め』だ。覚者発生と同時に生まれた妖や、同じ覚者同士の闘いはデータ積み重ねになる。しかし古妖を助ける、と言う行為は源素のデータ集めには無関係だ。
「はい、ありません。だからこそ、組織の利益なしに助けるのです」
利などない。だからこれは澄香自身の誠意なのだ。困っている人や古妖、誰かを助けることが誠意であり使命なのだと胸を張る。
「そういうこと! 悪いけど押さえさせてもらうよ!」
地を蹴って走る奏空。誰よりも先んでて危険に身を晒す彼も、自分自身の利益や名誉ではなく『助けたい』と言う思うから動いていた。探偵とは偵い探す者。悪意と言う暗い闇の中、泣いている子を見つけて光の下に導く存在だ。
「あんた達の他でも暗躍してるみたいだね」
「FiVEが如何に優秀で夢見の数が多くとも、花骨牌様の動きを全て止めるなんて不可能さ」
「止めてみせるよ。それが俺達だ。何が目的かを調べ上げてやる。
七星剣の悪事は全て止めてみせる!」
裂帛の叫びをあげて刀を振るう奏空。企みなんて全然わからないけど、体が動けばいつかは真相にたどり着ける。そう信じて奏空は前に進んでいく。それに戦うのは自分一人だけじゃない。頼れる仲間だってここにはいるのだから。
「まあ考えても分からんことやしな。剣士ならこれで聞くのが一番や!」
言って笑みを浮かべる凛。そのまま刀を振るい、隔者を傷つけていく。剣戟で攻める凛はまさに水を得た魚、野を焼き払う燎原の炎の如く。振るわれる剣術は二〇代以上続く歴史ある剣術。歴代の剣士を追うように、凛の動きは加速していく。
「おっちゃんもいい腕してるで。鳥の芝居するには惜しいぐらいや」
「舐めるな小娘。こちとらお前が生まれる前から拳握ってたんだよ!」
「せやな。やけど強さは年数とちゃうで。どれだけ濃い戦いしてたかや。
悪事で楽して勝負決めるようなぬるま湯戦法じゃ、一〇年たってもあたしの一年に及ばんわ!」
FiVE創立から戦いに身を置いてきた凛。その一年と青野の一年は違う。戦いの中で研ぎ澄まされた凛の一撃には重みがある。自分よりも強い妖に挑み、視線を潜ってきた一閃。その一閃が隔者を討つ。
「くそ……!」
青野の部下が凛の刃を受けて倒れ伏す。これにより隔者の攻撃が減り、覚者達がじわじわと押し始める。
「あたしの剣を止めるには、全然炎が足りへんで!」
途中、青野と戦っていた凛が命数を削られるほどの傷を受けるが、リジェクタたちの猛攻はそこまで。復活した凛の刃に青野が倒れ、返す刀でもう一人の部下を切り倒す。
前衛全員が戦闘不能になれば、隔者の火力が激減する。生島姉妹は術者としては優れているが、総合火力でFiVEの覚者を倒し切る術は有していない。必死に抵抗するが、押されていくのは明白だ。
「これで決めさせてもらうぜ! ――雷よ、荒れ狂え!」
疲弊した隔者を指差し、源素を解放する翔。その指先に稲妻が宿り、真っ直ぐに隔者達を穿った。その一撃で意識を失う生島姉妹。
「うっしゃ! お前ら、しっかり反省しろよ!」
倒れ伏した隔者を前に、翔は腰に手を当てて言い放った。
●
「悪いのはこの人達です」
「証拠ならここにあるで」
覚者達は古妖討伐隊が編成されていると言われている場所に向かい、捕らえた隔者と鳥の仮面を見せつける。彼らが平和を守るために戦っているFiVEの覚者であることも含め、事はあっさりと進行した。
「……つまり、姑獲鳥はいなかったということで?」
「はい。その噂も含めて彼らが仕込んだことです」
隔者達からの反論はない。証拠を押さえられた以上、何を言っても後の祭りだということは解っているのだろう。町の人の怒りを受けた後に刑に服す。それから逃れる術はない。
「そのようなことがあったのでちゅね」
その後、覚者達は狙われていた古妖の元に赴き、事情を説明する。燐のように青く輝く青い鳥。確かに仮面はこれを模して作ったのだなぁ、と思わせる格好だ。幼い子供のような口調でしたりと頷いた。
「でもそれは解決した事なのでちゅね。ありがたうごじゃいます」
頭を下げる五位。先導されそうになった事は気にしていないようだ。
「しっかし……前にも同じ話を聞いたことがあるような……てるてる坊主だったか」
翔はしばらく前にあった事件を思い出す。夏の暑さに耐えきれず日照りを起こす古妖を迫害した事件。それと今回の事件はなんとなく似ている。あの時は熱さで判断力が鈍ったからだと思ったが、今回のように煽られてたのでは……?
「何かこの山に何か特別なものがあったりは……」
「お宝と遺跡かないんか」
澄香と凛はこの山に何かあるのではないか、と言う疑いを持っていた。だがそのような物はなく、青鷺火がここにいるのも夜道を照らす為だという。現在では車のライトや街灯が発達しており、お役御免とばかりにゆったりとしていたとか。
「結局、わからんままか。しゃーないな」
覚者達は手掛かりのないまま帰路につく。だが古妖と人間の仲を守った事実は大きい。
何も起きない平和な日々。これこそが覚者達の得た最大の報酬――
(仮説だけど……目的は古妖を孤立させること。人の目に触れなくする利点は何だ?)
帰り際、奏空は無言で考えていた。事実はいきなり目の前にあるのではない。僅かな糸口から全体像を想像する事。僅かな理を推(お)して進む。これが推理なのだ。
(人目に触れず……襲う為。古妖を殺すだけならそれならいつもの力技でいい。それがばれないようにするということは、そこに秘せねばならない何かがあるからだ)
七星剣が秘さなくてはいけない事。つまり、組織として重要な事項。それは――
(首魁である八神本人が持つ何か。おそらく神具七星剣に関する事……でもあの剣の能力は解っている。雨風を吹かせる能力だ。それは報告書にもあったから間違いない――
違う……そうではないとすれば?)
前提条件が違う。剣の能力が雨風を吹かせる能力じゃないとすれば――
(殺した古妖の能力を……使用できる?)
先の八神との接触時、その直前に竜と戦っていたという報告がある。暴雨を司ると言われた竜の力。それを剣が奪ったのなら……。
「……証拠はない、けど」
小さくつぶやく奏空。全ては推測だ。
『大妖を廃し、人の手でこの国を支配することだ』
八神はかつてそう言った。
人の手で。そこに古妖は含まれない――
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
――フラグ成立
