<<うしろのしょうめんだぁれ>>孤独メトリクス
●うしろのしょうめんだぁれ。
うしろのしょうめんだぁれ。
そう、そうなのね。
私が「そう」だったから。「そう」したのだけれども。
「そう」ならなかった。
残念。無念。
だって、邪魔をするのだもの、覚者が。
『私たちは、同じなのに』
そう、同じなの。だから、その先にいくの。ひとつ。もうひとつ、その先に。
そうしたら、この日本は素敵になるのに。
私も、ここじゃないところに行けるのに。
だって、もう後ろでずっと一人でいるのは、うんざりなの。
ねえねえ、はかなき、ひとゆめの子
そうおもわない?
だからね、ひとゆめの子
わたしはここから抜け出すために。あなたを使うわ。
ねぇ、ひとゆめの子。
●伏見稲荷奥宮
「なるほど。たしかに儂の眷属のコックリどもがさわいでおったわ」
『研究所所長』御崎 衣緒(nCL2000001)は一連の『うしろのしょうじょさま』事件において、こっくりさんによく似た儀式が使われていることに目をつけ、その関係性の深いキュウビ左輔にヒアリングをするという行動に出た。
「はっきり聞かせてもらうわ。大妖っていったい何なのかしら?」
「ふむ、そなたらはもう知るべき時であるのかもしれないのう。そなたら、ふぁいぶ、の覚者は強くなった。
強くなり、五行の力を行使しても破綻することもなく、ヒトのままじゃ。
なれば、そろそろ知る必要があるのかもしれないな。
大妖とは、それすなわち、なれの、果てじゃ」
「なれの、果て……」
「五行の力を得て、力を使い、そして暴走して、その先に達したもの」
「だとすれば……その、正体は」
「そういうことじゃ」
告げられる真実。破綻者という存在は今までいた。その深度が最高値まで進行してしまえば、もはや討伐するより他に手だてはない。
しかし、その破綻の先に到達したものがいたとしたら。破綻の先にも理性を残したまま生きながらえていたものがいたとしたら。それは……もう、人間ではない。魔の域に達したもの、すなわち『大妖』である。
●ひとゆめのしょうじょ
それはいつもの夢、だ。
陰鬱で、誰かの不幸がの訪れを見ることしかできない、夢だ。
少女がいた。黒い髪に隠れた赤い目がぎらぎらと光っている。
私は怖くて逃げてしまった。
これは夢だ。なのに怖かった。きっとあの予知の夢で私は夢見で、ちゃんとみんなに情報を届けないといけないのに。
私は夢の中で走る。
これは後になって思ったことなんだけれども。夢見の夢は基本的には第三者視点として見えるものだ。
未来に起こる不幸な出来事。何度も人が死ぬところをみた。でもそれは夢で変えることのできる未来だと信じて逃げずに、傍観者として見ているだけのものだ。
なのに私は『追いかけられている』。
だからその赤い目と地面をじゃりじゃりとこする大きな鋏が怖かった。
『みつけたわ。ひとゆめのこ』
「やだ、ちかづかないで」
『あなたの体を借りて、外にでようとおもうの』
「やめてやめてやめて」
うしろもふりかえらずに私は走る。
『うしろのしょうめんだぁれ』
だめだ、振り返るな。
『うしろのしょうめんだぁれ』
すぐ後ろの耳元で聞こえる声。
『かこめ、かこめ。かごのなかのとりは、いついつでやる』
でないで! でちゃだめ
『よあけのばんに、つるとかめがすべった』
足元がつんのめって、その場にたおれてしまう。
『うしろのしょうめんだぁれ』
いやだいやだいやだ。
『つぅかまえた』
●
「緊急事態だ!! 万里がいなくなったんだ!!」
悲壮な顔の久方相馬(nCL2000004)が覚者のもとに走ってくる。
「とにかく、いなくなった万里が現れるんだ!!!」
「それなら何も問題ないじゃないか?」
「ちがうんだ! 真昼間の繁華街に! なんか前にも戦ったことのある七星剣の女と戦ってたくさんの人が死ぬ!」
「ちょっとまて、万里は夢見だ。戦う力なんてないんだろ?」
「もう時間がないんだ!」
「それはわかった、だから落ち着いて、お前が見た夢を説明してくれ」
「俺だって混乱してる! なんでこんなことになるんだ!」
相馬はその言葉に深呼吸をして、自分が見た不可解な予知夢を語る。
●ゆめみ
「この体は便利ね。夢を自分がみれるなんて、久方ぶりだわ」
紅茶色の髪を二つに結んだ少女が嬉しそうに笑う。
FiVEの覚者であればすぐにわかるだろう。少女の名は『久方 万里』。FiVE最初の夢見の三兄弟の末っ子だ。
しかし、彼女はそんな笑い方はしない。
ましてや、夢見に攻撃の手段などはないはずだ。だというのに七星剣に名を連ねる隔者である女を追い詰めている。
「夢見を解剖するチャンスと思いましたのに。なんですか? あなたは」
女は即座に状況を理解し、夢見の少女の『うしろ』にいるものに問いかける。
「貴方の居場所は夢でみたの。夢渡(ゆめみ)の力というものは、とても便利ね。私はね。新しい『子』が欲しかったの。一緒にお話しできるようなお友達。
だって、ヨルナキもケモノもだめ。だって私と同じじゃないのだもの。継美なら友達になれたかもだけれども、私がこうなるまえに死んじゃった。大河原 鉄平なんてもっともっとだめ!
だってあの人は強さしか求めてない。
私はね、人なんてどうでもよかったのだけれど、あなた達をみていて『なかま』っていうものがうらやましくなったの。
だからね、お友達がほしいの。
でも私、どうやって『お友達』を増やせばいいかわからなくて
だったらね、
私がそうなったように、すれば『お友達』ができると思ったの。
だから、餌をまいたわ。なんでも願いをかなえてあげると。
みんな、そうよ。みんな悩みを抱えてる。いやなことだってある。
だからね。だからだから。簡単にひっかかちゃう
ひっかかったこたちの夢に入って自殺をそそのかしたの」
「はっきりと言ってくださいな。あなたのカコバナなんて聞きたくもないのでございます」
明らかにいらいらとした表情で女は卒塔婆を振るう。
少女と女の闘いの余波に巻き込まれ命を落としたものが立ち上がっていく。
「もう、せっかちね。あなたは私のお友達になれると思ったの」
「それは、くそくらえでございますわ!」
卒塔婆を少女に向け自分が逃げることのできる隙をつくろうと、女は死体をけしかけた。
「乱暴。でも、すてきよ。
私ね、いじめられていたの」
「でしょうね、そんな性格ではいじめられるでしょうね。オトモダチもできないとおもいますわ」
女は、翼をはためかせて、逃げに徹する。
「でね、自殺をしようとしたの。けれど、この世界の『神様』って意地悪なの。私、覚醒しちゃったの。
死ねなくて、悲しくて、私をいじめた子たちのところに行ったの。
そしたらね。いじめっこたちは言うの。
死ね、キモイ、怖い、ひとでなし。
私、かなしくなっちゃって、ついうっかりその子たち殺しちゃったの。
爪でひっかいただけなのに、両目を引き裂いてそのまま頭蓋骨も砕いて脳を破壊して。脳漿が私にかかったの」
「貴方の趣味は、まあ私の趣味に合致はいたしますが」
「まあ、そうなの? ならなおさらあなたが欲しくなったわ
その脳漿の温度は暖かくて、私、やっとひとの温かみに触れたと思ったわ。
だから、いっぱい殺したの。
10年位前の事件。覚えている? 覚醒したばかりの少女Aが破綻しとある学校の生徒を全員殺したっていうあれ」
「よく知っていますわ。わたくしが、翼をちぎられながら見たテレビの向こうの夢物語(げんじつ)。ああ、ああすればよかったのだと気づいた一歩の事件ですもの」
「まあ、そしてあなたは闇の世界に墜ちる。人を殺めて、こちら側。まるで運命の糸が私たちをつなげたのかしら? まるでよくできた映画(シネマ)のようね。
閑話休題。――少女Aは未だ消息はつかめていない。なぜなら。
破綻して、破綻して、破綻しきった私は、大妖とへ進化して、鏡を通って、夢の中に閉じ込められてしまったのだもの」
「ああ、大妖のメカニズムはそういうモノなんですわね。――少女Aに出会えるなんて、まるで夢のようではありますが。
残念ながら、わたくし、貴方のことは大嫌いでしかありませんわ。所詮は少女時代の夢だったわけですわね」
少女は死体に邪魔されてこちらには来ることはできないようだ。重要な話もきいた。これ以上ここにとどまるのは危険でしかない。
つまりはあの少女の狙いがどういうことかを、女には理解できたからだ。
この情報を持ち帰れば八神さんも喜ぶでしょうし。そろそろ分水嶺。
「だからね、女の子を自殺させて覚醒させて、追い詰めて……破綻者にさせるってやったのだけどFiVEの子たちが邪魔をするの。だからね。やり方を変えることにしたの。あなた達のようなはぐれものなら、あの子たちも邪魔をしないでしょうから。
ねえ、破綻しましょう? 新しい世界にいきましょう?」
少女は熱をもったようにうっとりと話している。
今を逃したらチャンスはないだろう、女は翼を大きくはためかせる。
『うしろのしょうめんだぁれ』
高く空に舞い上がったというのに。
耳元で少女の声が聞こえた。首元に細い手が巻き付く。
『うしろのしょうめんだぁれ』
「瞬間移動!? そんなのズルいではありませんか!」
「さあ、私とお友達になりましょう?」
うしろのしょうめんだぁれ。
そう、そうなのね。
私が「そう」だったから。「そう」したのだけれども。
「そう」ならなかった。
残念。無念。
だって、邪魔をするのだもの、覚者が。
『私たちは、同じなのに』
そう、同じなの。だから、その先にいくの。ひとつ。もうひとつ、その先に。
そうしたら、この日本は素敵になるのに。
私も、ここじゃないところに行けるのに。
だって、もう後ろでずっと一人でいるのは、うんざりなの。
ねえねえ、はかなき、ひとゆめの子
そうおもわない?
だからね、ひとゆめの子
わたしはここから抜け出すために。あなたを使うわ。
ねぇ、ひとゆめの子。
●伏見稲荷奥宮
「なるほど。たしかに儂の眷属のコックリどもがさわいでおったわ」
『研究所所長』御崎 衣緒(nCL2000001)は一連の『うしろのしょうじょさま』事件において、こっくりさんによく似た儀式が使われていることに目をつけ、その関係性の深いキュウビ左輔にヒアリングをするという行動に出た。
「はっきり聞かせてもらうわ。大妖っていったい何なのかしら?」
「ふむ、そなたらはもう知るべき時であるのかもしれないのう。そなたら、ふぁいぶ、の覚者は強くなった。
強くなり、五行の力を行使しても破綻することもなく、ヒトのままじゃ。
なれば、そろそろ知る必要があるのかもしれないな。
大妖とは、それすなわち、なれの、果てじゃ」
「なれの、果て……」
「五行の力を得て、力を使い、そして暴走して、その先に達したもの」
「だとすれば……その、正体は」
「そういうことじゃ」
告げられる真実。破綻者という存在は今までいた。その深度が最高値まで進行してしまえば、もはや討伐するより他に手だてはない。
しかし、その破綻の先に到達したものがいたとしたら。破綻の先にも理性を残したまま生きながらえていたものがいたとしたら。それは……もう、人間ではない。魔の域に達したもの、すなわち『大妖』である。
●ひとゆめのしょうじょ
それはいつもの夢、だ。
陰鬱で、誰かの不幸がの訪れを見ることしかできない、夢だ。
少女がいた。黒い髪に隠れた赤い目がぎらぎらと光っている。
私は怖くて逃げてしまった。
これは夢だ。なのに怖かった。きっとあの予知の夢で私は夢見で、ちゃんとみんなに情報を届けないといけないのに。
私は夢の中で走る。
これは後になって思ったことなんだけれども。夢見の夢は基本的には第三者視点として見えるものだ。
未来に起こる不幸な出来事。何度も人が死ぬところをみた。でもそれは夢で変えることのできる未来だと信じて逃げずに、傍観者として見ているだけのものだ。
なのに私は『追いかけられている』。
だからその赤い目と地面をじゃりじゃりとこする大きな鋏が怖かった。
『みつけたわ。ひとゆめのこ』
「やだ、ちかづかないで」
『あなたの体を借りて、外にでようとおもうの』
「やめてやめてやめて」
うしろもふりかえらずに私は走る。
『うしろのしょうめんだぁれ』
だめだ、振り返るな。
『うしろのしょうめんだぁれ』
すぐ後ろの耳元で聞こえる声。
『かこめ、かこめ。かごのなかのとりは、いついつでやる』
でないで! でちゃだめ
『よあけのばんに、つるとかめがすべった』
足元がつんのめって、その場にたおれてしまう。
『うしろのしょうめんだぁれ』
いやだいやだいやだ。
『つぅかまえた』
●
「緊急事態だ!! 万里がいなくなったんだ!!」
悲壮な顔の久方相馬(nCL2000004)が覚者のもとに走ってくる。
「とにかく、いなくなった万里が現れるんだ!!!」
「それなら何も問題ないじゃないか?」
「ちがうんだ! 真昼間の繁華街に! なんか前にも戦ったことのある七星剣の女と戦ってたくさんの人が死ぬ!」
「ちょっとまて、万里は夢見だ。戦う力なんてないんだろ?」
「もう時間がないんだ!」
「それはわかった、だから落ち着いて、お前が見た夢を説明してくれ」
「俺だって混乱してる! なんでこんなことになるんだ!」
相馬はその言葉に深呼吸をして、自分が見た不可解な予知夢を語る。
●ゆめみ
「この体は便利ね。夢を自分がみれるなんて、久方ぶりだわ」
紅茶色の髪を二つに結んだ少女が嬉しそうに笑う。
FiVEの覚者であればすぐにわかるだろう。少女の名は『久方 万里』。FiVE最初の夢見の三兄弟の末っ子だ。
しかし、彼女はそんな笑い方はしない。
ましてや、夢見に攻撃の手段などはないはずだ。だというのに七星剣に名を連ねる隔者である女を追い詰めている。
「夢見を解剖するチャンスと思いましたのに。なんですか? あなたは」
女は即座に状況を理解し、夢見の少女の『うしろ』にいるものに問いかける。
「貴方の居場所は夢でみたの。夢渡(ゆめみ)の力というものは、とても便利ね。私はね。新しい『子』が欲しかったの。一緒にお話しできるようなお友達。
だって、ヨルナキもケモノもだめ。だって私と同じじゃないのだもの。継美なら友達になれたかもだけれども、私がこうなるまえに死んじゃった。大河原 鉄平なんてもっともっとだめ!
だってあの人は強さしか求めてない。
私はね、人なんてどうでもよかったのだけれど、あなた達をみていて『なかま』っていうものがうらやましくなったの。
だからね、お友達がほしいの。
でも私、どうやって『お友達』を増やせばいいかわからなくて
だったらね、
私がそうなったように、すれば『お友達』ができると思ったの。
だから、餌をまいたわ。なんでも願いをかなえてあげると。
みんな、そうよ。みんな悩みを抱えてる。いやなことだってある。
だからね。だからだから。簡単にひっかかちゃう
ひっかかったこたちの夢に入って自殺をそそのかしたの」
「はっきりと言ってくださいな。あなたのカコバナなんて聞きたくもないのでございます」
明らかにいらいらとした表情で女は卒塔婆を振るう。
少女と女の闘いの余波に巻き込まれ命を落としたものが立ち上がっていく。
「もう、せっかちね。あなたは私のお友達になれると思ったの」
「それは、くそくらえでございますわ!」
卒塔婆を少女に向け自分が逃げることのできる隙をつくろうと、女は死体をけしかけた。
「乱暴。でも、すてきよ。
私ね、いじめられていたの」
「でしょうね、そんな性格ではいじめられるでしょうね。オトモダチもできないとおもいますわ」
女は、翼をはためかせて、逃げに徹する。
「でね、自殺をしようとしたの。けれど、この世界の『神様』って意地悪なの。私、覚醒しちゃったの。
死ねなくて、悲しくて、私をいじめた子たちのところに行ったの。
そしたらね。いじめっこたちは言うの。
死ね、キモイ、怖い、ひとでなし。
私、かなしくなっちゃって、ついうっかりその子たち殺しちゃったの。
爪でひっかいただけなのに、両目を引き裂いてそのまま頭蓋骨も砕いて脳を破壊して。脳漿が私にかかったの」
「貴方の趣味は、まあ私の趣味に合致はいたしますが」
「まあ、そうなの? ならなおさらあなたが欲しくなったわ
その脳漿の温度は暖かくて、私、やっとひとの温かみに触れたと思ったわ。
だから、いっぱい殺したの。
10年位前の事件。覚えている? 覚醒したばかりの少女Aが破綻しとある学校の生徒を全員殺したっていうあれ」
「よく知っていますわ。わたくしが、翼をちぎられながら見たテレビの向こうの夢物語(げんじつ)。ああ、ああすればよかったのだと気づいた一歩の事件ですもの」
「まあ、そしてあなたは闇の世界に墜ちる。人を殺めて、こちら側。まるで運命の糸が私たちをつなげたのかしら? まるでよくできた映画(シネマ)のようね。
閑話休題。――少女Aは未だ消息はつかめていない。なぜなら。
破綻して、破綻して、破綻しきった私は、大妖とへ進化して、鏡を通って、夢の中に閉じ込められてしまったのだもの」
「ああ、大妖のメカニズムはそういうモノなんですわね。――少女Aに出会えるなんて、まるで夢のようではありますが。
残念ながら、わたくし、貴方のことは大嫌いでしかありませんわ。所詮は少女時代の夢だったわけですわね」
少女は死体に邪魔されてこちらには来ることはできないようだ。重要な話もきいた。これ以上ここにとどまるのは危険でしかない。
つまりはあの少女の狙いがどういうことかを、女には理解できたからだ。
この情報を持ち帰れば八神さんも喜ぶでしょうし。そろそろ分水嶺。
「だからね、女の子を自殺させて覚醒させて、追い詰めて……破綻者にさせるってやったのだけどFiVEの子たちが邪魔をするの。だからね。やり方を変えることにしたの。あなた達のようなはぐれものなら、あの子たちも邪魔をしないでしょうから。
ねえ、破綻しましょう? 新しい世界にいきましょう?」
少女は熱をもったようにうっとりと話している。
今を逃したらチャンスはないだろう、女は翼を大きくはためかせる。
『うしろのしょうめんだぁれ』
高く空に舞い上がったというのに。
耳元で少女の声が聞こえた。首元に細い手が巻き付く。
『うしろのしょうめんだぁれ』
「瞬間移動!? そんなのズルいではありませんか!」
「さあ、私とお友達になりましょう?」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.久方万里から後ろに立つ少女を分離させる。
2.太刀花・死霊(たちばな・しだま)を破綻させない。
3.※破綻させた場合、覚者たちが撃破できたら条件クリア。
2.太刀花・死霊(たちばな・しだま)を破綻させない。
3.※破綻させた場合、覚者たちが撃破できたら条件クリア。
うしろのしょうめんクライマックス直前EXです。
この依頼は難易度「苦難」です。命数の大幅減少の可能性があります。覚悟を持ってご参加ください。
うしろのしょうじょが動き始めました。
今から向かえば、相馬が夢でみた状況の少し前の状況に介入できます。
●ロケーション
繁華街のど真ん中です。太刀花・死霊(たちばな・しだま)がランチ帰りにぶらぶらとウィンドウショッピングをしていたところを襲撃されました。
人は多いです。人払いは必要になってきます。戦闘になれば、太刀花は周囲を気にせずに戦うでしょうし、死体を増やすことができれば自分の軍勢になるので殺害には躊躇がありません。
死体が多いほどに太刀花は戦闘不能にはなりにくくなります。
太刀花と後ろに立つ少女がお互いに10m圏内。
皆様は20m離れたところから介入する形になります。
その中央にツジモリがいます。
太刀花の死体3体は太刀花のすぐそばに控えています。
●エネミー
後ろに立つ少女。
現在は久方万里に夢渡の力で憑依しています。
万里の夢見の力も得て予知力を得ているので、回避、命中がかなり高いです。
体は万里のものですが体力も火力も大きくなっています。
体にあたえたダメージは無茶をしない限りは開放したらある程度はなんとかなります。
(動きを止めるために足を集中的に攻撃するなどの無茶をしない限りはということです。戦闘で負った傷で死ぬことはありませんがやりすぎると病院送りになります)
基本的には太刀花に執着しており、彼女を破綻させようとしています。
太刀花が破綻化して、深度を3にまで深めることができた場合には、太刀花を連れて消えてしまいます。
『うしろのしょうめんだぁれ』
P:その言葉を発すると任意の人物の後ろに手番なしで移動することができます。
ブロックなどはできません。
攻撃手段は多彩にわたり、遠距離攻撃、全体攻撃も使えます。
また、10m圏内にいるものには常時弱体化がかかり、スキルの必要気力が2倍になります。(気力だけですので体力は通常通りになります)
近接攻撃は高火力になります。
また体力は高めです。
●ある程度以上のダメージを与えると、万里と分離させることができます。
キュウビから預かった銅鏡で分離された後ろに立つ少女を映すことで、ひとまず封印することはできます。銅鏡は一度しか使えません。
誰が使うかはしっかりと決めてください。あやふやですと使用することはできません。
その状況になるまでに立っていることが必要です。
大きさは直径30センチ程度。
あくまでも簡易的な封印ですのでこの後、封印を解き、後ろに立つ少女との決戦が控えています。
ツジモリ
参加PCと同じ数だけ現れます。体力はそこそこ。
ランク2。心霊系妖。
どかーん 物遠列 高い場所から落とされたような衝撃を受けます。
ぐるぐる 特遠単 落下するような浮遊感を受けます。【ダメージ0】【錯乱】
ささやき 特遠単 破綻者に囁きます。深度増加までのリミット時間が1ターン減少します。
太刀花が破綻化した場合には全員がささやきを最優先します。
太刀花・死霊(たちばな・しだま)
七星剣の隔者です。翼人×水行
中級ランクの術式を使用します。下記死体を前衛にして自分は後衛にいます。
彼女は目の前に現れた夢見の研究をしたいと思っていますので、覚者たちが後ろに立つ少女をなんとかした瞬間を狙ってはいますが、それ以前に状況が悪化すれば逃げます。
逃げた場合は破綻化せず対処したということで成功条件をクリアしたことになります。
その代わりに大妖の情報が伝わります。
覚者のいうことは聞きません。逃げろといわれれば逃げなくなりますのでご注意ください。
また余裕があれば逃げたふりをして、分離された万里を狙います。
後ろに立つ少女に反撃はしますが、皆様も攻撃範囲にはいります。共闘はできません。
太刀花の回復をしたり庇ったりしたとしても、共闘するなどはありません。
名声の高い方の戦い方は、研究済みです。隙あらば覚者の皆様のことも研究材料にしようとしていますのでご警戒ください。
一般人は優先的に殺し、自分の戦力に加えます。
完全に人払いがされていない場合、3ターンに一人死体を増やします。
彼女が一度戦闘不能になって、攻撃をされた状況になると破綻します。
破綻してから15ターン後に深度3になります。
深度2までの状態で撃破すればもとに戻すことができます。
戻すことができれば捕縛も可能です。
戻さずそのまま倒してしまっても構いません。
その状況で後ろの少女とツジモリがいる場合は破綻深度を上げることを狙われることになります。
太刀花が破綻した場合死体は死体に戻ります。下記神具は使うことができなくなります。
神具『死滅ストゥーパ』
卒塔婆型の武器です。術式攻撃含めすべての攻撃に致命を付与します。
近辺にある死体を操り使役することができます。
死体が新鮮であればあるほど、使役力と能力が強くなります。使役することに手番は消費しません
破滅クリオシティ(/quest.php?qid=1460)
にて登場しましたが特に見る必要はありませんがどのような性格であるかは確認できます。
死体
繁華街にいた一般人です。初手で殺されました。初期段階では3人。
なぐる 物理近接 ごく単純になぐります。
ける 物理遠貫通 けります。【弱体】
行動阻害 物理近接 だきついてうごけなくします【ダメージ0】【呪縛】
太刀花が集中攻撃されるようであれば守ります。
状況はとてもむつかしいです。項目ごとに最優先されることは何かをよく考えた上、作戦をくみ上げてください。
難度なりの状況です。覚悟をしてください。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
10日
10日
参加費
150LP[+予約50LP]
150LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
10/10
公開日
2018年09月15日
2018年09月15日
■メイン参加者 10人■

●昭倭83年 12月10日
『緊急速報です。本日、××市の××高校で、破綻した少女が同級生を襲う事件がありました。中継の中岡さん、お願いします』
『中継の中岡です。ただいま××高校にはバリケードが敷かれ厳重に警察の特殊部隊が待機しています。ああ、今一層高らかな悲鳴が上がりました。報道陣も悲鳴を上げるものもいます』
『AAAはどうした!?』
『出動しています! 今こちらに向かっています!』
『現場は騒然とした様子です。昨今ささやかれる覚者の破綻におけるこの悲劇は、今回だけではありません。覚者は危険なものではないのでしょうか? AAAの対応の遅さに加え、対応できる覚者が少数であるということは、我々一般市民が生活するうえで、問題があるのではないでしょうか? いったんスタジオに戻します』
『ひどいですね。すでに18人の生徒が破綻した覚者少女Aに殺害されたと情報が入っています』
『イレブンが過激すぎるという声もありますが、やはり覚者は危険だと思います。アイドルの覚者もいますが、彼女らがコンサートで破綻しないという確証はありますか? もし、大きなホールで破綻した場合、その危険性は……』
●昭倭93年 9月某日
『居待ち月』天野 澄香(CL2000194) は資料としてダウンロードした当時の少女Aの動画を端末で流しながらイヤホンから聞こえるいたたましい事件を反芻する。
よく覚えている事件だ。この後AAAが介入するも、少女Aに反撃を食らい撤退を余儀なくされた。警察の特殊部隊も介入をするが、結果は最悪。多数の死者を出し、手を出せぬままに生徒は全員殺された。まるで魔法のように少女Aはその場から消失し、事件はうやむやになる。その後事件における覚者への忌避からイレブンが台頭。さらにイレブンは過激になっていき、AAAが役にたたないと強くバッシング、銃器の持ち込みなどが増えた。最も日本が覚者によって荒れていた時期でもある。今はFiVEの功績によってイレブンは解体し、覚者に対する偏見はなくなっているとはいえ、彼女にとってはこの事件は人ごとではないのだ。ひとつボタンが掛け間違っていたのであれば、辻森綾香は自分だったのかもしれない。
私には名前を呼んでくれる人がいた。けれど、辻森綾香には――。
現場はごった返す人々で溢れている。叫び声が聞こえた。その瞬間さらなる悲鳴が上がる。
太刀花死霊が一般人を殺害したのだろう。
彼らは人を押しのけながら騒ぎの中心に向かう。『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080) は妖精結界を展開し、ワーズワースも用いながら、周囲の一般人を避難させる。
「皆さん、ここは危険な妖と隔者がいて危険です。ファイヴが対処いたしますので、直ちに避難をお願いします。もし自分の力に自信があっても決して立ち止まろうとはしないでください」
同時に最もファイブで有名である『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955) はていさつも使い、効率的にワーズワースも用い避難勧告を掛けていく。
彼らの言葉は大きな説得力を持って、周囲に伝播する。――そう、してしまったのだ。
一般人は思ったよりも早く引いていく。現場に居合わせた覚者もラーラの言葉に従い退避していった。
「あら、FiVEのみなさまごきげんよう。奏空君の声がきこえたとおもったら、やっぱり来ていましたのね!」
10体のツジモリを挟んだ向こう。久方万里――の中の後ろに立つ少女、辻森綾香と対峙しながら死滅ストゥーパを振るう太刀花死霊は嘯く。
3体の死体が女王を護るように配置した。
「以前に逃げられた敵と、こういう形で再開するとはねぇ。まさか大妖にスカウトされているなんて思ってもみなかったよ」
ワーズワースでの避難を手伝う『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)が心底驚いたようにつぶやいた。
「只でさえ面倒な相手だったのに、更に面倒さが増してますね」
どうにも彼の子猫ちゃん。『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695) はどうにも不機嫌な様子で尻尾を左右に振っている。これは子猫が不安を抱えている証左でもある。だから恭司は微笑んでなんでもないようにさり気なく言葉をかける。
「やらなくちゃいけない事は多いけれど、一つずつクリアしていかないとだね」
その言葉で十分だ。ほぐれた緊張感。今日の燐花は一人の戦士だ。愛する者への想いは封印する。
(マイナス面で力が作用し、破綻した先での力の安定……それが大妖。ならば、反転させることでもとにもどらないのだろうか?)
この期に及んですら、『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565) は優しい。
破綻の果て、その向こうにいってしまった少女が元に戻る手段がないのかと考えてしまう。それは無理だ。たとえ、魂の奇跡があったとしても、不可逆の過去には戻れないように、向こう側に行ってしまった者を戻す手段などありはしない。
――それでも。
(これから先の未来で、俺達覚者がどうなっていくのか……。
「大妖」と位置付けられている者とは、反転した力を宿した者になるのだろうか……?
俺達のこの先で、何が待ち受けているのか……。
それを、俺は知りたい…)
青年は真実を求める。
(大妖という存在、わかってみれば……結局ヒトの敵はヒトなのかなー……世界って窮屈)
『豪炎の龍』華神 悠乃(CL2000231) は両の手でほほをたたいて気合を入れなおす。分かり合うことのできない極北。それが大妖だ。
「それはそれとして、ランクアップしてようと破綻者風情に万里ちゃんは渡せませんよ?」
「また邪魔をしに来たのね。FiVE。隔者なら放置するとおもったのに」
「いやいや、そっちはともかくとして、万里ちゃんを返してほしいのよ」
眉を顰める辻森に悠乃はしれっと答える。
敵の数も、状況も、厄介すぎる。だから一つずつこなしていくしかない。だから彼女らは迅速に事前に打ち合わせた布陣を構築していく。
前に出る。当たり前のようにツジモリが前衛を抑えるためにこちらに出てくる。こちらの前衛は少女と死霊のもとに向かうことをブロックされたことになる。
残ったツジモリはふわふわと死霊のもとに向かった。
「人がお友達を作るというのに、邪魔するなんて、意地悪ね」
言って辻森は全体に衝撃波を放つ。その衝撃派にこちらの前衛と、死霊が巻き込まれ、死霊と覚者たちの中後衛は回復を余儀なくされる。ただ純粋な力の放出。故にそのダメージは甚大だ。
覚者たちは死霊も回復範囲に入れ回復を行う。
「どういうつもりですの? 哀れみですの?」
「敵の的が増えるのなら、回復する意味はあるからね」
「くそくらえですわ! 気持ちが悪いにもほどがあります!」
言って死霊は後ろに下がり、戦線が広がる。
「あれでは回復は届かない。かといって俺たちが前に出るのは本末転倒だな」
冷や汗を流しながら『白銀の嚆矢』ゲイル・レオンハート(CL2000415) はつぶやいた。
ツジモリにブロックされ、下がった少女と死霊、そして中後衛覚者たちの彼我の距離は20メートルを超える。
(後ろに立つ少女さん、本当の狙いは何なのでしょうか?)
『ともだち』という言葉に『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994) はツジモリと対峙しながら思う。友達がいれば温かい気持ちになれる。友達がいれば強くなれる。そして大好きな人がいたのであれば――。ここに向かう前に奏空がくれた優しい目配せをくれたことを思うとそれだけで胸が熱くなる。優しい気持ちとそして勇気が胸にあふれる。そういった温かいものを少女は求めたのだろうか?
「「お友達」が欲しい…としている様ですが、その方達が増えたとして、人に危害を加えようとするのでは無いのでしょうか……本当の理由は……?」
疑問がたまきの口から零れた。
「私の友達がヒトに危害を加えることのなにが悪いの? わたしは大妖。あなたたち人間とは違うわ。わたしたちとあなたたちは相いれない。それはわかっているでしょうに。
あなたたちはたくさんの人間で私たちを屠ろうとしている。ならば私たちも対応するにきまってるでしょう?
増やすのであれば同じ女の子がいい。それだけの話よ」
友達が欲しいだけであれば、友達になれるかもしれない。そうおもっていたのはなにもたまきだけではない。
「綾香ちゃん……」
澄香が彼女の名をよぶ。
「なあに、 澄香ちゃん? あなたも私の「友達」になってくれるの? 大歓迎よ。お友達だというのであれば破綻して頂戴。そこからはわたしが助けてあげる。大妖になるために」
にやりといやらしい笑いで 澄香を呼ぶ。その言葉に情などはない。無機質な響き。
「そういうことだったんですね。私達と同じ存在が破綻しつくした姿……そんな人をもう増やすわけにはいきません!参ります……良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を…イオ・ブルチャーレ!」
大妖が生まれるプロセスを思いラーラは激高しその思いを形にしたような召炎帝を解き放つ。怒れる獅子が業火となって、ツジモリたちを焼くがまだ健在だ。
「あはは、本当にFiVEっていうのはお人よしですわね。大妖というものはわたくしどもとは違う存在ですわ。そんな相手にあなた方のいう『情』が通じるわけがありませんでしょう? それともあるんですの? なら解剖させてくださいな!」
「あらあら、まぁまぁ!太刀花さん、お久し振りですわね。今回は「大妖」に付け狙われるなんて。普段の行いのせいでしょうか。精々頑張って逃げられると良いですわね。わたくし、同情致しますわ」
死霊に『優麗なる乙女』西荻 つばめ(CL2001243) が厄介なツジモリをいなしながら舌戦で対応する。
「お久しぶりですわ。マイフレンドつばめちゃん。あなた方の同情なんてくそくらえですわ! わたくしあなたがたと同じ情なんて持ち合わせてませんもの!」
どうやら、この状況を利用して引くつもりはないようだとつばめは思う。むしろ混戦になったことでチャンスが増えたとでも思っているのであろう。ならば、ツジモリをかたずけそちらに向かうまでだ。
「太刀花死霊、そちらばかりに気を取られているのはひどいわ。うしろのしょうめんだぁれ」
少女がすうと死霊の後ろに現れる。
「っ……! 守りなさいですわ」
死体が死霊をカバーし、少女の何気ない攻撃に散り散りに切り裂かれ一撃で動かなくなった。
「あれが、少女の攻撃」
一度なら耐えれるかなと計算しながら見つめる悠乃の細い目がさらに細められる。
死霊は周囲を見回し、盾にすることのできるあらたなる一般人(ぎせいしゃ)を探すが、周囲は繁華街だというのに人の姿はない。
「ちっ」
死霊は思いのほか下品な舌打ちをする。逃げたところで追いつかれてまた肉壁を壊されるだけだ。かといって覚者たちに助けなど求めようもない。
「万里ちゃん! 必ず助けるからね」
羅刹波斬で少女を狙う奏空は背中に背負う銅鏡の重さに緊張する。いや、実際の重さなんてたいしてない。しかしこの作戦を担う重要なアイテムだ。これを失うわけにはいかない。
状況はいいとはいえない。死霊を守る盾はあと二つ、回復ができる位置に向かうにはツジモリが邪魔すぎる。
彼らができることはツジモリと少女への攻撃ではあるが後衛の全体攻撃はツジモリは範囲にいれることができるが、少女は入れることができない。
「く、しかたないね。せめてツジモリは削りきるとするか」
恭司はやきもきとしながらも、脣星落霜を降らせ続ける。
幸いなことに、敵側のダメージディーラーである少女は死霊にかかりきりである。心配されていた死霊の高火力な攻撃も彼女自身耐えることに使われている。
ツジモリの攻撃がこちらへのダメージソースである状況ならまだ耐えることはできる。しかしそれはこちらから回復手段を与えることのできない死霊が追い詰められていることと同義でもあるのだ。予断を許す状況ではない。
彼らはできることは一刻も早くツジモリを除去することだ。
また、死霊の死体がひとつ破壊された。
嫌が応もなしに覚者たちの心がはやる。
秋人がエネミースキャンを走らせる。攻撃の片手間ではスキャンすることが不可能だと、彼は一手消費する。少女へはダメージは多少は通っているが、分離に至るまではかなりかかると判断する。
「レオンハートさん攻撃を」
秋人はゲイルに攻撃を促した。
「了解だ」
初手の閃光手榴弾から二度目の閃光手榴弾をゲイルは投擲する。
「ていっ!」
燐花の迅駿が戦場を駆ける。何度も使える技ではない。多少閃光手榴弾でマシにはなっているとは言え、彼女の攻撃はツジモリには効きづらい。早く少女のもとに向かいたいのにそれが叶わないことにイライラとする。
「太刀花さん。この前はろくにコイバナに付き合えなくてすみませんでした。あの子の後ろにいる存在を何とかできたら、話が出来るかもしれませんね」
だから軽口を死霊に投げかけることで自分をごまかす。しかし、普段より明らかに口数が多くなっていることが焦っている証拠だ。
「まあ、すてき! いいわ! あの人、恭司さんの心臓を開いて、あなたへの恋心を探してみましょう!! 心臓をびくびく弾ませてあなたへの想いを表してくれるに違いないわ! 右心室にあるのかしら? 左心室にあるのかしら? ねえ、恭司さん! どっちだと思う? うふふ、女の子とコイバナできるなんて素敵! とってもわたくし楽しくてよ! 心臓になければ脳を開きましょう! 私の予想では海馬にコイゴコロはあるとおもいますの。 だってそこは思い出のベッドなのですもの!!」
対する死霊も余裕がないのは見て取れる。故に彼女も口数は多い。
最後の三体目の死体が壊された。死霊を守るものはもういない。彼女がどれだけ耐えることができるかは、彼女自身のポテンシャル次第だ。
同時に前衛を抑えていたうちの3体のツジモリがたまきの無頼漢によって消滅した。
彼らは目配せをしあって、攻撃力が高く持久力もある前衛である燐花、悠乃、つばめを最前線に送り込み、戦線を引き上げる。
不格好な布陣ではあるが、回復範囲と全体攻撃範囲に死霊と少女を入れることができる。
たまきはそのままの位置で仲間に目配せしあいながら、彼らを阻む2体のツジモリに攻撃を集中させた。
そして、焦る死霊をみて奏空の中に一つの仮説が浮かんだ。
(もしかして、人々を逃がさずに、彼女の盾にすればもっと彼女は耐えることができたんじゃ……僕らが彼女の自衛手段を奪った)
もし、彼らが避難を中途で置いておいたら死霊は自らを守る盾を得ていただろう。
(そんなこと……そんなことできるわけがない!! 僕たちはFiVEだ!! 人を守るために、万里ちゃんを助けるためにここにいるんだ! そのために誰かを犠牲にしていいわけがない!!!)
工藤奏空という少年は何かを犠牲にして勝利を得るなんていう方法を考えることができる少年ではない。そりゃ正義とはなにか、敵と戦うことはどういう意味があるのか。少年らしいそんな悩みを抱えたまま戦ってきた。しかし自分の正義はだれかを守ることだと感じている。例えば大好きな人、例えば妖に襲われているひと。その思いに間違いはない。だったらなおさら何かを犠牲にしていいはずがないのだ。
状況は苦しい。そんなのはわかっている。
だから前を向く。できることは限られている。少女に穿つ一撃を放ち続けるだけだ!
前衛が少女の10メートル範囲に入ると一気にその場の空気が変わった。ぞっとするような空間。何もしなくても気力がそがれていくその感覚に吐き気がする。
死霊はこの空間で術式を使っていた。すでに彼女の気力は尽きる寸前だ。
ラーラはこの場での回復力は死霊本人のものが一番高いと判断し、大填気を死霊に送れば憎らし気な顔をするものの、文句はいわない。それどころではないのだ。
「私の影をこわしてきたの。そう。さすがね。FiVE」
少女は攻撃を受けながら、万里の顔で笑む。朗らかな彼女らしからぬ昏い笑みで。
「万里ちゃんはそんな顔で笑いません。……なんどもかかわったツジモリの事件。
あなたが万里ちゃんをそんな顔で笑わせるなんて……!
私は今まで助けてきた女の子たちと同じように、万里ちゃんも助けます!」
中衛から抜けてきた澄香の仇華浸香が少女に刺さる。
その術式を振り払うように飛び込むはつばめ。桜色の小袖が宙に踊る。
まるで舞踊のようなその太刀筋は少女の前で重なり、陣風を巻きおこした。
「ふぅん」
少女はダメージを受けた腕をさすりながら、口元だけで笑む。
「うしろのしょうめん」
再度少女はツジモリに襲われ混乱する死霊の後ろに出現すると、死霊の背中から細い腕を生やした。
「!!!」
覚者たちは息をのむ。
「太刀花さん!」
燐花が叫び走り寄る。
秋人がゲイルが回復を飛ばす。しかし間に合わない。
倒れて落ちる死霊に、少女が虚空からとりだした大きな鋏を突き立てる。
もし、誰かが死霊を庇うことも視野にいれていたのであれば未来は変わっていたのだろうか? 今、死霊を守るものはなにも、ない。
残る5体のツジモリたちがささやきはじめる。
「――」「――」「――」「――」「――」
低い、昏い、地獄の底に陥れるような声。
「あ、あ、あ、あ」
「――」「――」「――」「――」「――」
死霊の破綻が、始まる。150秒のうちの50秒がささやきで消費される。残された時間はあと100秒。
「みんな、手をとめないで!」
秋人の叱責が飛ぶ。彼らは武器を取り直し、死霊が破綻した場合の最優先事項……死霊の撃破に向かう。思うことがないわけではない。
(覚者・大妖……ヒトよりも妖・戦蘭丸の方が楽しく戦えた残念さは、あるよね)
違いない。相対しているその相手は、いつかの自分の姿、もしくは過去ありえたかもしれないその果てなのだ。楽しいなどと言える相手などでは決してない。
「まだ5体もツジモリは残っているわ。時間もないし、さくっといっちゃいましょ!」
それでも悠乃は気持ちを切り替え、矛先を死霊に向ける。気軽に言ってはみたものの、残された100秒で死霊を倒し切るのは容易ではない。ツジモリがいる限りはその時間は減る一方だ。
「太刀花さん……」
ギリと、歯ぎしりをして、燐花は両の小刀を振るい使い慣れた激麟を放つ。
気力が一気に持っていかれる。
今は回復にかかずらっている場合ではない。ゲイルも秋人も、恭司もラーラも澄香もたまきも一斉にツジモリごと巻き込んだ攻撃をする。
その猛攻撃に2体のツジモリが消滅する。これで残り時間に少しの猶予ができた。
しかし――。
「お友達とのデートを邪魔しないでちょうだい」
ずん、と底冷えのしそうな声で少女がつぶやき、全体に寒気をもたらすような……いや実際に冷気をまとった鋭い細雪が降る。
がちり、とたまきとラーラの体が凍った。
「たまきちゃん!!」
奏空は叫びながらも少女に攻撃を続ける。
「おちついて奏空君」
澄香は冷静に状況を立て直すために再生で、まずは前衛のたまきの凍結を解除する。
ゲイルと秋人は目配せし、回復を優先する。
「それはおあいにく様、邪魔をしないという選択肢はありませんわ。久方万里さんの体、返していただきますわ」
それでもつばめの攻撃する先は変わらず少女だ。
「うふ、あなたも素敵ね。ええ、そのおかっぱ頭もかわいいわ。袴すがたも素敵。私あなたのこと嫌いじゃないわ」
少女は嬉しそうにころころと笑う。
「そうですの? 私はそうでもないですわ」
「あ、ああ、ああ」
死霊が、ささやかれる言葉に抵抗するように、すべてに向けて死霊を中心に鋭利な氷柱を展開する。それは氷巖華とよばれる水行二式のそれによく似ているが、破綻することで効果範囲が離れた相手には減衰しているとはいえ全体に広がっている。
「くっ…!」
致命の付与こそはないがダメージは大きい。恭司の手番は回復にせざるを得ない。死霊の破綻深度は2に上昇しているのだろう。
時間の猶予は残されていない。
死霊を撃破するか、戻すか。彼らの意見は一致を見せてはいなかった。そのずれは次第に大きなひずみを深めていく。
そも、破綻深度2の状態で倒せば戻るというのは通説であるがただ無心に攻撃しているだけでは戻すことができないのもまた通説だろう。
彼らはあまのじゃくである死霊の性質を思い、戸惑い、かける言葉を持ち得ていなかった。
故に深度の進行をとどめるものはない。
少女はまたも細雪を降らせる。次は回復手のゲイルと秋人が凍る。
「ああっ、もう」
いつもは余裕を崩さない悠乃が焦った声を上げ、火柱を使い二人の凍結化を解除する。
追い打ちをうつかのように死霊の氷柱が展開される。その氷柱に貫かれたツジモリがすべて消滅した。
「もうすぐ、もうすぐなのに」
奏空はエネミースキャンを走らせる。秋人が凍ってしまった今少女の体力のモニターは自分がするしかない。
スキャンはあと少しであると指し示している。
「イオブルチャーレ!」
なんとか自己回復したラーラが鍵を開けた魔導書を掲げ、獅子の炎を展開する。
立て続けの全体攻撃に澄香も回復に手番を取られ、アタッカーはたまきとつばめと燐花とラーラの4人になってしまうがその攻撃の矛先は一致しない。たまきのカウンターで多少は攻撃が跳ね返るとはいえ、火力はたりない。
やがて、消費が二倍である前衛の気力も尽きる。大填気での補充はできるとはいえ、そうすると今度はアタッカーの手番が失われるという状況だ。
「やっかいだわ。ああ、やっかい。うしろのしょうめん、だぁれ?」
同じようにこの状況に焦れるのは少女も同じだ。状況を打開せんとすい、と少女は消えつばめのうしろに出現し、大鋏を突き立てた。
「なっ……!」
「ねえ、わたしと一緒に向こうにいきましょう?」
「だれが……っ!」
つばめは口から零れる鮮血をぬぐいながら命を燃やし、距離をとる。
連れていかれてなるものか。
「つれないのね」
がっかりした顔で少女はつぶやいた。
彼らは分水嶺に立たされる。
すなわち、万里を助け死霊をあきらめるか、死霊を撃破し万里をあきらめるか。
今はぎりぎりで回復と攻撃の天秤が膠着している状態だ。いつこのバランスが崩壊するかわからない。
しかもこちら側のほうが分が悪いのはみえている。気力はいつかは途切れる。そのカウントダウンはもうみえているが、相手にはその気配はない。
現に、数人は倒れて命数を消費している。その命数の消費量はいつもとは違う大きなものだ。これが大妖と対峙するということかと思うとぞっとする。
こんな大妖(バケモノ)があとまだほかに3体も残っているのだ。
彼らは決断する。
「万里の救助」と「一時的な封印」の実行を。大局的に状況を判断するのであれば、死霊にかかずらっている余裕はもうない。
「みんな、少女への攻撃にシフトして、太刀花死霊はあきらめよう」
悠乃がその苦渋の決断を皆に伝え八卦の構えをとる。これが自分がつかえる最後の術式だ。
「まあ、しかたないよね」
恭司は子猫の様子を見ながらも決断する。子猫は何も言わないが、納得すべきかどうか迷っているようだ。
奏空も歯ぎしりする。彼がなにを思っているのかがわかるたまきは奏空の手をぎゅっと握る。
「もとよりそのつもりです」
つばめは目を閉じて答える。
「万里さんを失うわけにはいきません」
ラーラの意思は固い。
「その通りです。万里ちゃんを助けることが最優先です」
澄香もうなずいた。
「しかたないね」
秋人は眉根を寄せる。ゲイルはなにも言わないがその決断に異論はない。
彼らは、少女へ各々の攻撃を仕掛けていく。
やがて、少女からはがれるように辻森綾香が分離する。
急いで悠乃が万里を確保すると、秋人とゲイルが防御を固める。
意識のない万里には細かい傷はあるが大事には至っていないようだ。
「あらあら、そんなにその子が欲しかったの? 夢見の子、便利だったんだけれど。じゃあ、あのこはもらっていくわね」
分離した辻森綾香が最高深度になってしまった死霊にむかって覚者たちの真ん中を通り歩をすすめた。
これで、手打ちにしましょう、と言わんばかりに。
その隙を見逃す彼らではない。
「いくよ! 辻森綾香!」
奏空の合図に覚者たちは構える。
「あんたが過去にどんな傷を負ったか知らないけど、今のあんたのやってる事は見過ごせない」
リュックの中のキュウビに持たされた銅鏡をまっすぐにたまきに支えられた奏空が辻森綾香に向けた。
「なに? それ」
少女が問いかけると同時に銅鏡から強い光が発せられ、周囲をましろに塗りつぶしていく。
数瞬のあと、あっけなく、驚くほどあっけなく辻森綾香はその場から消え去っていた。
最初からなにもなかったかのように。しかしそうではない。
銅鏡が物理的にも精神的にも重くなった気がする。
状況はまだ、終わってはいない。
これをFiVEに持ち帰らなくてはいけない。目の前には深度3の破綻者太刀花死霊。
FiVEの覚者として見過ごせるものではない。だが、だが――。
戦うか? と誰かが目で告げる。
ゲイルは撤退だ。と一言告げる。彼らは今や満身創痍だ。
無理をすれば戦うことはできる。しかしそれには大きな犠牲が生まれることになるだろう。
下手をすれば封印した銅鏡が破壊される可能性だってないとはいえない。そうなれば何もかもが水の泡だ。
そうすることはできない。
彼らは苦い思いをかみしめながら、撤退する。
あ、あ、あ、あ、あ。コイバナ、そう、コイバナをしましょう。
すてきな、コイのオハナし。
こイゴコロはどこに、あるの、かししししししし、ら?
太刀花死霊の声が遠くで聞こえた。
『緊急速報です。本日、××市の××高校で、破綻した少女が同級生を襲う事件がありました。中継の中岡さん、お願いします』
『中継の中岡です。ただいま××高校にはバリケードが敷かれ厳重に警察の特殊部隊が待機しています。ああ、今一層高らかな悲鳴が上がりました。報道陣も悲鳴を上げるものもいます』
『AAAはどうした!?』
『出動しています! 今こちらに向かっています!』
『現場は騒然とした様子です。昨今ささやかれる覚者の破綻におけるこの悲劇は、今回だけではありません。覚者は危険なものではないのでしょうか? AAAの対応の遅さに加え、対応できる覚者が少数であるということは、我々一般市民が生活するうえで、問題があるのではないでしょうか? いったんスタジオに戻します』
『ひどいですね。すでに18人の生徒が破綻した覚者少女Aに殺害されたと情報が入っています』
『イレブンが過激すぎるという声もありますが、やはり覚者は危険だと思います。アイドルの覚者もいますが、彼女らがコンサートで破綻しないという確証はありますか? もし、大きなホールで破綻した場合、その危険性は……』
●昭倭93年 9月某日
『居待ち月』天野 澄香(CL2000194) は資料としてダウンロードした当時の少女Aの動画を端末で流しながらイヤホンから聞こえるいたたましい事件を反芻する。
よく覚えている事件だ。この後AAAが介入するも、少女Aに反撃を食らい撤退を余儀なくされた。警察の特殊部隊も介入をするが、結果は最悪。多数の死者を出し、手を出せぬままに生徒は全員殺された。まるで魔法のように少女Aはその場から消失し、事件はうやむやになる。その後事件における覚者への忌避からイレブンが台頭。さらにイレブンは過激になっていき、AAAが役にたたないと強くバッシング、銃器の持ち込みなどが増えた。最も日本が覚者によって荒れていた時期でもある。今はFiVEの功績によってイレブンは解体し、覚者に対する偏見はなくなっているとはいえ、彼女にとってはこの事件は人ごとではないのだ。ひとつボタンが掛け間違っていたのであれば、辻森綾香は自分だったのかもしれない。
私には名前を呼んでくれる人がいた。けれど、辻森綾香には――。
現場はごった返す人々で溢れている。叫び声が聞こえた。その瞬間さらなる悲鳴が上がる。
太刀花死霊が一般人を殺害したのだろう。
彼らは人を押しのけながら騒ぎの中心に向かう。『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080) は妖精結界を展開し、ワーズワースも用いながら、周囲の一般人を避難させる。
「皆さん、ここは危険な妖と隔者がいて危険です。ファイヴが対処いたしますので、直ちに避難をお願いします。もし自分の力に自信があっても決して立ち止まろうとはしないでください」
同時に最もファイブで有名である『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955) はていさつも使い、効率的にワーズワースも用い避難勧告を掛けていく。
彼らの言葉は大きな説得力を持って、周囲に伝播する。――そう、してしまったのだ。
一般人は思ったよりも早く引いていく。現場に居合わせた覚者もラーラの言葉に従い退避していった。
「あら、FiVEのみなさまごきげんよう。奏空君の声がきこえたとおもったら、やっぱり来ていましたのね!」
10体のツジモリを挟んだ向こう。久方万里――の中の後ろに立つ少女、辻森綾香と対峙しながら死滅ストゥーパを振るう太刀花死霊は嘯く。
3体の死体が女王を護るように配置した。
「以前に逃げられた敵と、こういう形で再開するとはねぇ。まさか大妖にスカウトされているなんて思ってもみなかったよ」
ワーズワースでの避難を手伝う『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)が心底驚いたようにつぶやいた。
「只でさえ面倒な相手だったのに、更に面倒さが増してますね」
どうにも彼の子猫ちゃん。『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695) はどうにも不機嫌な様子で尻尾を左右に振っている。これは子猫が不安を抱えている証左でもある。だから恭司は微笑んでなんでもないようにさり気なく言葉をかける。
「やらなくちゃいけない事は多いけれど、一つずつクリアしていかないとだね」
その言葉で十分だ。ほぐれた緊張感。今日の燐花は一人の戦士だ。愛する者への想いは封印する。
(マイナス面で力が作用し、破綻した先での力の安定……それが大妖。ならば、反転させることでもとにもどらないのだろうか?)
この期に及んですら、『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565) は優しい。
破綻の果て、その向こうにいってしまった少女が元に戻る手段がないのかと考えてしまう。それは無理だ。たとえ、魂の奇跡があったとしても、不可逆の過去には戻れないように、向こう側に行ってしまった者を戻す手段などありはしない。
――それでも。
(これから先の未来で、俺達覚者がどうなっていくのか……。
「大妖」と位置付けられている者とは、反転した力を宿した者になるのだろうか……?
俺達のこの先で、何が待ち受けているのか……。
それを、俺は知りたい…)
青年は真実を求める。
(大妖という存在、わかってみれば……結局ヒトの敵はヒトなのかなー……世界って窮屈)
『豪炎の龍』華神 悠乃(CL2000231) は両の手でほほをたたいて気合を入れなおす。分かり合うことのできない極北。それが大妖だ。
「それはそれとして、ランクアップしてようと破綻者風情に万里ちゃんは渡せませんよ?」
「また邪魔をしに来たのね。FiVE。隔者なら放置するとおもったのに」
「いやいや、そっちはともかくとして、万里ちゃんを返してほしいのよ」
眉を顰める辻森に悠乃はしれっと答える。
敵の数も、状況も、厄介すぎる。だから一つずつこなしていくしかない。だから彼女らは迅速に事前に打ち合わせた布陣を構築していく。
前に出る。当たり前のようにツジモリが前衛を抑えるためにこちらに出てくる。こちらの前衛は少女と死霊のもとに向かうことをブロックされたことになる。
残ったツジモリはふわふわと死霊のもとに向かった。
「人がお友達を作るというのに、邪魔するなんて、意地悪ね」
言って辻森は全体に衝撃波を放つ。その衝撃派にこちらの前衛と、死霊が巻き込まれ、死霊と覚者たちの中後衛は回復を余儀なくされる。ただ純粋な力の放出。故にそのダメージは甚大だ。
覚者たちは死霊も回復範囲に入れ回復を行う。
「どういうつもりですの? 哀れみですの?」
「敵の的が増えるのなら、回復する意味はあるからね」
「くそくらえですわ! 気持ちが悪いにもほどがあります!」
言って死霊は後ろに下がり、戦線が広がる。
「あれでは回復は届かない。かといって俺たちが前に出るのは本末転倒だな」
冷や汗を流しながら『白銀の嚆矢』ゲイル・レオンハート(CL2000415) はつぶやいた。
ツジモリにブロックされ、下がった少女と死霊、そして中後衛覚者たちの彼我の距離は20メートルを超える。
(後ろに立つ少女さん、本当の狙いは何なのでしょうか?)
『ともだち』という言葉に『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994) はツジモリと対峙しながら思う。友達がいれば温かい気持ちになれる。友達がいれば強くなれる。そして大好きな人がいたのであれば――。ここに向かう前に奏空がくれた優しい目配せをくれたことを思うとそれだけで胸が熱くなる。優しい気持ちとそして勇気が胸にあふれる。そういった温かいものを少女は求めたのだろうか?
「「お友達」が欲しい…としている様ですが、その方達が増えたとして、人に危害を加えようとするのでは無いのでしょうか……本当の理由は……?」
疑問がたまきの口から零れた。
「私の友達がヒトに危害を加えることのなにが悪いの? わたしは大妖。あなたたち人間とは違うわ。わたしたちとあなたたちは相いれない。それはわかっているでしょうに。
あなたたちはたくさんの人間で私たちを屠ろうとしている。ならば私たちも対応するにきまってるでしょう?
増やすのであれば同じ女の子がいい。それだけの話よ」
友達が欲しいだけであれば、友達になれるかもしれない。そうおもっていたのはなにもたまきだけではない。
「綾香ちゃん……」
澄香が彼女の名をよぶ。
「なあに、 澄香ちゃん? あなたも私の「友達」になってくれるの? 大歓迎よ。お友達だというのであれば破綻して頂戴。そこからはわたしが助けてあげる。大妖になるために」
にやりといやらしい笑いで 澄香を呼ぶ。その言葉に情などはない。無機質な響き。
「そういうことだったんですね。私達と同じ存在が破綻しつくした姿……そんな人をもう増やすわけにはいきません!参ります……良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を…イオ・ブルチャーレ!」
大妖が生まれるプロセスを思いラーラは激高しその思いを形にしたような召炎帝を解き放つ。怒れる獅子が業火となって、ツジモリたちを焼くがまだ健在だ。
「あはは、本当にFiVEっていうのはお人よしですわね。大妖というものはわたくしどもとは違う存在ですわ。そんな相手にあなた方のいう『情』が通じるわけがありませんでしょう? それともあるんですの? なら解剖させてくださいな!」
「あらあら、まぁまぁ!太刀花さん、お久し振りですわね。今回は「大妖」に付け狙われるなんて。普段の行いのせいでしょうか。精々頑張って逃げられると良いですわね。わたくし、同情致しますわ」
死霊に『優麗なる乙女』西荻 つばめ(CL2001243) が厄介なツジモリをいなしながら舌戦で対応する。
「お久しぶりですわ。マイフレンドつばめちゃん。あなた方の同情なんてくそくらえですわ! わたくしあなたがたと同じ情なんて持ち合わせてませんもの!」
どうやら、この状況を利用して引くつもりはないようだとつばめは思う。むしろ混戦になったことでチャンスが増えたとでも思っているのであろう。ならば、ツジモリをかたずけそちらに向かうまでだ。
「太刀花死霊、そちらばかりに気を取られているのはひどいわ。うしろのしょうめんだぁれ」
少女がすうと死霊の後ろに現れる。
「っ……! 守りなさいですわ」
死体が死霊をカバーし、少女の何気ない攻撃に散り散りに切り裂かれ一撃で動かなくなった。
「あれが、少女の攻撃」
一度なら耐えれるかなと計算しながら見つめる悠乃の細い目がさらに細められる。
死霊は周囲を見回し、盾にすることのできるあらたなる一般人(ぎせいしゃ)を探すが、周囲は繁華街だというのに人の姿はない。
「ちっ」
死霊は思いのほか下品な舌打ちをする。逃げたところで追いつかれてまた肉壁を壊されるだけだ。かといって覚者たちに助けなど求めようもない。
「万里ちゃん! 必ず助けるからね」
羅刹波斬で少女を狙う奏空は背中に背負う銅鏡の重さに緊張する。いや、実際の重さなんてたいしてない。しかしこの作戦を担う重要なアイテムだ。これを失うわけにはいかない。
状況はいいとはいえない。死霊を守る盾はあと二つ、回復ができる位置に向かうにはツジモリが邪魔すぎる。
彼らができることはツジモリと少女への攻撃ではあるが後衛の全体攻撃はツジモリは範囲にいれることができるが、少女は入れることができない。
「く、しかたないね。せめてツジモリは削りきるとするか」
恭司はやきもきとしながらも、脣星落霜を降らせ続ける。
幸いなことに、敵側のダメージディーラーである少女は死霊にかかりきりである。心配されていた死霊の高火力な攻撃も彼女自身耐えることに使われている。
ツジモリの攻撃がこちらへのダメージソースである状況ならまだ耐えることはできる。しかしそれはこちらから回復手段を与えることのできない死霊が追い詰められていることと同義でもあるのだ。予断を許す状況ではない。
彼らはできることは一刻も早くツジモリを除去することだ。
また、死霊の死体がひとつ破壊された。
嫌が応もなしに覚者たちの心がはやる。
秋人がエネミースキャンを走らせる。攻撃の片手間ではスキャンすることが不可能だと、彼は一手消費する。少女へはダメージは多少は通っているが、分離に至るまではかなりかかると判断する。
「レオンハートさん攻撃を」
秋人はゲイルに攻撃を促した。
「了解だ」
初手の閃光手榴弾から二度目の閃光手榴弾をゲイルは投擲する。
「ていっ!」
燐花の迅駿が戦場を駆ける。何度も使える技ではない。多少閃光手榴弾でマシにはなっているとは言え、彼女の攻撃はツジモリには効きづらい。早く少女のもとに向かいたいのにそれが叶わないことにイライラとする。
「太刀花さん。この前はろくにコイバナに付き合えなくてすみませんでした。あの子の後ろにいる存在を何とかできたら、話が出来るかもしれませんね」
だから軽口を死霊に投げかけることで自分をごまかす。しかし、普段より明らかに口数が多くなっていることが焦っている証拠だ。
「まあ、すてき! いいわ! あの人、恭司さんの心臓を開いて、あなたへの恋心を探してみましょう!! 心臓をびくびく弾ませてあなたへの想いを表してくれるに違いないわ! 右心室にあるのかしら? 左心室にあるのかしら? ねえ、恭司さん! どっちだと思う? うふふ、女の子とコイバナできるなんて素敵! とってもわたくし楽しくてよ! 心臓になければ脳を開きましょう! 私の予想では海馬にコイゴコロはあるとおもいますの。 だってそこは思い出のベッドなのですもの!!」
対する死霊も余裕がないのは見て取れる。故に彼女も口数は多い。
最後の三体目の死体が壊された。死霊を守るものはもういない。彼女がどれだけ耐えることができるかは、彼女自身のポテンシャル次第だ。
同時に前衛を抑えていたうちの3体のツジモリがたまきの無頼漢によって消滅した。
彼らは目配せをしあって、攻撃力が高く持久力もある前衛である燐花、悠乃、つばめを最前線に送り込み、戦線を引き上げる。
不格好な布陣ではあるが、回復範囲と全体攻撃範囲に死霊と少女を入れることができる。
たまきはそのままの位置で仲間に目配せしあいながら、彼らを阻む2体のツジモリに攻撃を集中させた。
そして、焦る死霊をみて奏空の中に一つの仮説が浮かんだ。
(もしかして、人々を逃がさずに、彼女の盾にすればもっと彼女は耐えることができたんじゃ……僕らが彼女の自衛手段を奪った)
もし、彼らが避難を中途で置いておいたら死霊は自らを守る盾を得ていただろう。
(そんなこと……そんなことできるわけがない!! 僕たちはFiVEだ!! 人を守るために、万里ちゃんを助けるためにここにいるんだ! そのために誰かを犠牲にしていいわけがない!!!)
工藤奏空という少年は何かを犠牲にして勝利を得るなんていう方法を考えることができる少年ではない。そりゃ正義とはなにか、敵と戦うことはどういう意味があるのか。少年らしいそんな悩みを抱えたまま戦ってきた。しかし自分の正義はだれかを守ることだと感じている。例えば大好きな人、例えば妖に襲われているひと。その思いに間違いはない。だったらなおさら何かを犠牲にしていいはずがないのだ。
状況は苦しい。そんなのはわかっている。
だから前を向く。できることは限られている。少女に穿つ一撃を放ち続けるだけだ!
前衛が少女の10メートル範囲に入ると一気にその場の空気が変わった。ぞっとするような空間。何もしなくても気力がそがれていくその感覚に吐き気がする。
死霊はこの空間で術式を使っていた。すでに彼女の気力は尽きる寸前だ。
ラーラはこの場での回復力は死霊本人のものが一番高いと判断し、大填気を死霊に送れば憎らし気な顔をするものの、文句はいわない。それどころではないのだ。
「私の影をこわしてきたの。そう。さすがね。FiVE」
少女は攻撃を受けながら、万里の顔で笑む。朗らかな彼女らしからぬ昏い笑みで。
「万里ちゃんはそんな顔で笑いません。……なんどもかかわったツジモリの事件。
あなたが万里ちゃんをそんな顔で笑わせるなんて……!
私は今まで助けてきた女の子たちと同じように、万里ちゃんも助けます!」
中衛から抜けてきた澄香の仇華浸香が少女に刺さる。
その術式を振り払うように飛び込むはつばめ。桜色の小袖が宙に踊る。
まるで舞踊のようなその太刀筋は少女の前で重なり、陣風を巻きおこした。
「ふぅん」
少女はダメージを受けた腕をさすりながら、口元だけで笑む。
「うしろのしょうめん」
再度少女はツジモリに襲われ混乱する死霊の後ろに出現すると、死霊の背中から細い腕を生やした。
「!!!」
覚者たちは息をのむ。
「太刀花さん!」
燐花が叫び走り寄る。
秋人がゲイルが回復を飛ばす。しかし間に合わない。
倒れて落ちる死霊に、少女が虚空からとりだした大きな鋏を突き立てる。
もし、誰かが死霊を庇うことも視野にいれていたのであれば未来は変わっていたのだろうか? 今、死霊を守るものはなにも、ない。
残る5体のツジモリたちがささやきはじめる。
「――」「――」「――」「――」「――」
低い、昏い、地獄の底に陥れるような声。
「あ、あ、あ、あ」
「――」「――」「――」「――」「――」
死霊の破綻が、始まる。150秒のうちの50秒がささやきで消費される。残された時間はあと100秒。
「みんな、手をとめないで!」
秋人の叱責が飛ぶ。彼らは武器を取り直し、死霊が破綻した場合の最優先事項……死霊の撃破に向かう。思うことがないわけではない。
(覚者・大妖……ヒトよりも妖・戦蘭丸の方が楽しく戦えた残念さは、あるよね)
違いない。相対しているその相手は、いつかの自分の姿、もしくは過去ありえたかもしれないその果てなのだ。楽しいなどと言える相手などでは決してない。
「まだ5体もツジモリは残っているわ。時間もないし、さくっといっちゃいましょ!」
それでも悠乃は気持ちを切り替え、矛先を死霊に向ける。気軽に言ってはみたものの、残された100秒で死霊を倒し切るのは容易ではない。ツジモリがいる限りはその時間は減る一方だ。
「太刀花さん……」
ギリと、歯ぎしりをして、燐花は両の小刀を振るい使い慣れた激麟を放つ。
気力が一気に持っていかれる。
今は回復にかかずらっている場合ではない。ゲイルも秋人も、恭司もラーラも澄香もたまきも一斉にツジモリごと巻き込んだ攻撃をする。
その猛攻撃に2体のツジモリが消滅する。これで残り時間に少しの猶予ができた。
しかし――。
「お友達とのデートを邪魔しないでちょうだい」
ずん、と底冷えのしそうな声で少女がつぶやき、全体に寒気をもたらすような……いや実際に冷気をまとった鋭い細雪が降る。
がちり、とたまきとラーラの体が凍った。
「たまきちゃん!!」
奏空は叫びながらも少女に攻撃を続ける。
「おちついて奏空君」
澄香は冷静に状況を立て直すために再生で、まずは前衛のたまきの凍結を解除する。
ゲイルと秋人は目配せし、回復を優先する。
「それはおあいにく様、邪魔をしないという選択肢はありませんわ。久方万里さんの体、返していただきますわ」
それでもつばめの攻撃する先は変わらず少女だ。
「うふ、あなたも素敵ね。ええ、そのおかっぱ頭もかわいいわ。袴すがたも素敵。私あなたのこと嫌いじゃないわ」
少女は嬉しそうにころころと笑う。
「そうですの? 私はそうでもないですわ」
「あ、ああ、ああ」
死霊が、ささやかれる言葉に抵抗するように、すべてに向けて死霊を中心に鋭利な氷柱を展開する。それは氷巖華とよばれる水行二式のそれによく似ているが、破綻することで効果範囲が離れた相手には減衰しているとはいえ全体に広がっている。
「くっ…!」
致命の付与こそはないがダメージは大きい。恭司の手番は回復にせざるを得ない。死霊の破綻深度は2に上昇しているのだろう。
時間の猶予は残されていない。
死霊を撃破するか、戻すか。彼らの意見は一致を見せてはいなかった。そのずれは次第に大きなひずみを深めていく。
そも、破綻深度2の状態で倒せば戻るというのは通説であるがただ無心に攻撃しているだけでは戻すことができないのもまた通説だろう。
彼らはあまのじゃくである死霊の性質を思い、戸惑い、かける言葉を持ち得ていなかった。
故に深度の進行をとどめるものはない。
少女はまたも細雪を降らせる。次は回復手のゲイルと秋人が凍る。
「ああっ、もう」
いつもは余裕を崩さない悠乃が焦った声を上げ、火柱を使い二人の凍結化を解除する。
追い打ちをうつかのように死霊の氷柱が展開される。その氷柱に貫かれたツジモリがすべて消滅した。
「もうすぐ、もうすぐなのに」
奏空はエネミースキャンを走らせる。秋人が凍ってしまった今少女の体力のモニターは自分がするしかない。
スキャンはあと少しであると指し示している。
「イオブルチャーレ!」
なんとか自己回復したラーラが鍵を開けた魔導書を掲げ、獅子の炎を展開する。
立て続けの全体攻撃に澄香も回復に手番を取られ、アタッカーはたまきとつばめと燐花とラーラの4人になってしまうがその攻撃の矛先は一致しない。たまきのカウンターで多少は攻撃が跳ね返るとはいえ、火力はたりない。
やがて、消費が二倍である前衛の気力も尽きる。大填気での補充はできるとはいえ、そうすると今度はアタッカーの手番が失われるという状況だ。
「やっかいだわ。ああ、やっかい。うしろのしょうめん、だぁれ?」
同じようにこの状況に焦れるのは少女も同じだ。状況を打開せんとすい、と少女は消えつばめのうしろに出現し、大鋏を突き立てた。
「なっ……!」
「ねえ、わたしと一緒に向こうにいきましょう?」
「だれが……っ!」
つばめは口から零れる鮮血をぬぐいながら命を燃やし、距離をとる。
連れていかれてなるものか。
「つれないのね」
がっかりした顔で少女はつぶやいた。
彼らは分水嶺に立たされる。
すなわち、万里を助け死霊をあきらめるか、死霊を撃破し万里をあきらめるか。
今はぎりぎりで回復と攻撃の天秤が膠着している状態だ。いつこのバランスが崩壊するかわからない。
しかもこちら側のほうが分が悪いのはみえている。気力はいつかは途切れる。そのカウントダウンはもうみえているが、相手にはその気配はない。
現に、数人は倒れて命数を消費している。その命数の消費量はいつもとは違う大きなものだ。これが大妖と対峙するということかと思うとぞっとする。
こんな大妖(バケモノ)があとまだほかに3体も残っているのだ。
彼らは決断する。
「万里の救助」と「一時的な封印」の実行を。大局的に状況を判断するのであれば、死霊にかかずらっている余裕はもうない。
「みんな、少女への攻撃にシフトして、太刀花死霊はあきらめよう」
悠乃がその苦渋の決断を皆に伝え八卦の構えをとる。これが自分がつかえる最後の術式だ。
「まあ、しかたないよね」
恭司は子猫の様子を見ながらも決断する。子猫は何も言わないが、納得すべきかどうか迷っているようだ。
奏空も歯ぎしりする。彼がなにを思っているのかがわかるたまきは奏空の手をぎゅっと握る。
「もとよりそのつもりです」
つばめは目を閉じて答える。
「万里さんを失うわけにはいきません」
ラーラの意思は固い。
「その通りです。万里ちゃんを助けることが最優先です」
澄香もうなずいた。
「しかたないね」
秋人は眉根を寄せる。ゲイルはなにも言わないがその決断に異論はない。
彼らは、少女へ各々の攻撃を仕掛けていく。
やがて、少女からはがれるように辻森綾香が分離する。
急いで悠乃が万里を確保すると、秋人とゲイルが防御を固める。
意識のない万里には細かい傷はあるが大事には至っていないようだ。
「あらあら、そんなにその子が欲しかったの? 夢見の子、便利だったんだけれど。じゃあ、あのこはもらっていくわね」
分離した辻森綾香が最高深度になってしまった死霊にむかって覚者たちの真ん中を通り歩をすすめた。
これで、手打ちにしましょう、と言わんばかりに。
その隙を見逃す彼らではない。
「いくよ! 辻森綾香!」
奏空の合図に覚者たちは構える。
「あんたが過去にどんな傷を負ったか知らないけど、今のあんたのやってる事は見過ごせない」
リュックの中のキュウビに持たされた銅鏡をまっすぐにたまきに支えられた奏空が辻森綾香に向けた。
「なに? それ」
少女が問いかけると同時に銅鏡から強い光が発せられ、周囲をましろに塗りつぶしていく。
数瞬のあと、あっけなく、驚くほどあっけなく辻森綾香はその場から消え去っていた。
最初からなにもなかったかのように。しかしそうではない。
銅鏡が物理的にも精神的にも重くなった気がする。
状況はまだ、終わってはいない。
これをFiVEに持ち帰らなくてはいけない。目の前には深度3の破綻者太刀花死霊。
FiVEの覚者として見過ごせるものではない。だが、だが――。
戦うか? と誰かが目で告げる。
ゲイルは撤退だ。と一言告げる。彼らは今や満身創痍だ。
無理をすれば戦うことはできる。しかしそれには大きな犠牲が生まれることになるだろう。
下手をすれば封印した銅鏡が破壊される可能性だってないとはいえない。そうなれば何もかもが水の泡だ。
そうすることはできない。
彼らは苦い思いをかみしめながら、撤退する。
あ、あ、あ、あ、あ。コイバナ、そう、コイバナをしましょう。
すてきな、コイのオハナし。
こイゴコロはどこに、あるの、かししししししし、ら?
太刀花死霊の声が遠くで聞こえた。
■シナリオ結果■
失敗
■詳細■
MVP
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
みなさまのご尽力で万里の救出と一時封印は叶いました。
しかし、死霊は破綻深度を進める形になりました。
のちに討伐依頼は発出する可能性があります。
判定は本文に。
難易度苦難は小さな齟齬が大きく状況を左右することになります。
意思確認はしっかりと行うのが大事になると思うのです。
この度は参加ありがとうございました。
しかし、死霊は破綻深度を進める形になりました。
のちに討伐依頼は発出する可能性があります。
判定は本文に。
難易度苦難は小さな齟齬が大きく状況を左右することになります。
意思確認はしっかりと行うのが大事になると思うのです。
この度は参加ありがとうございました。
