南国の 潮風が吹き草香る
●南国の島
友ヶ島――
紀淡海峡に浮かぶ地ノ島、虎島、神島、沖ノ島の総称名で、戦時に作られた砲台跡が残る静かな島だ。広大な自然と煉瓦の建物の融合は、時代を飛び越えたかのような感覚に陥る。
FiVEは毎年この時期に福利厚生と称してここにキャンプに来ていた。名目は『友ヶ島に発生した妖の退治』だ。去年は呪いの人形によりバタバタすることになったが、今年は何事もなく妖退治も終了する。
夏がもうすぐ終わりだと感じさせない熱気の中、海から吹く風は心地良い納涼を与えてくれる。広大な自然は、それだけで人の心を癒してくれるのだ。
一泊二日の静かな旅行。海に山に森に遺跡に。歩く場所はたくさんある。泳ぐ場所はたくさんある。空を飛んでもいいだろう。自然を壊さない事さえ守れば、源素等を使ってもいい。
今年の夏はどう過ごそうか――
友ヶ島――
紀淡海峡に浮かぶ地ノ島、虎島、神島、沖ノ島の総称名で、戦時に作られた砲台跡が残る静かな島だ。広大な自然と煉瓦の建物の融合は、時代を飛び越えたかのような感覚に陥る。
FiVEは毎年この時期に福利厚生と称してここにキャンプに来ていた。名目は『友ヶ島に発生した妖の退治』だ。去年は呪いの人形によりバタバタすることになったが、今年は何事もなく妖退治も終了する。
夏がもうすぐ終わりだと感じさせない熱気の中、海から吹く風は心地良い納涼を与えてくれる。広大な自然は、それだけで人の心を癒してくれるのだ。
一泊二日の静かな旅行。海に山に森に遺跡に。歩く場所はたくさんある。泳ぐ場所はたくさんある。空を飛んでもいいだろう。自然を壊さない事さえ守れば、源素等を使ってもいい。
今年の夏はどう過ごそうか――

■シナリオ詳細
■成功条件
1.南国の島を楽しむ
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
南の島で十分に癒されてください。
※このイベントシナリオは、命数が3点回復します。
●説明っ!
和歌山県にある友ヶ島。そこに発生した妖を退治した(描写不要)貴方達は、残りの時間を使って自然を楽しむことにしました。FiVE毎年恒例の夏休みです。
きれいな海で泳ぐのもいいでしょう。浜辺で楽しむのもいいでしょう。水着を披露するのもいいでしょう。
森林浴もいいでしょう。草原を歩くのもいいでしょう。煉瓦の建物(砲台跡)を見て回るのもいいでしょう。
空を飛び回るのもいいでしょう。海の中をダイブするのもいいでしょう。動物と戯れるのもいいでしょう。
夜空を見上げるのもいいでしょう。花火をするのもいいでしょう。源素を使って楽しむのもいいでしょう。
レジャー施設のような人工の遊び場こそありませんが、自然の中を謳歌する楽しみがあります。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】という タグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
8日
8日
参加費
50LP
50LP
参加人数
19/∞
19/∞
公開日
2018年09月12日
2018年09月12日
■メイン参加者 19人■

●
夏の終わりを感じさせない潮風が離宮院・太郎丸(CL2000131) の頬を撫でる。
世の中の乱れを感じさせない自然の光景は、まるで時間が止まったかのようだ。この平和を守るために自分達は戦っている。
だが今はそれを忘れ、静かにこの風を謳歌しよう。太郎丸は目をつぶり、友ヶ島の空気を肺一杯に吸い込んだ。
●
「たしかリスや鹿等の小さな動物がいるときいたのだけれども……」
森の中を歩く『月々紅花』環 大和(CL2000477)。特に目的などなく、小動物に会えればいいな、ぐらいの散策だ。だが小動物はその身体の小ささを活かし、木の陰などに隠れている。ただ何となく探して見つかる者ではない。だが――
大和の視界にかじられた松ぼっくりが写る。三日月のような形になっているのは、かじられたため。削られた部分を見ると、鋭い歯でかじられた跡があった。となるとこの辺りに……。
「貴方達が食べたの? 面白い食べ方をするのね」
微笑む大和。その視線の先には木の上でこちらを見ているリスがいた。丸い二対の瞳が様子をうかがうようにこちらを見ている。
「可愛いわね。脅かさないからゆっくりお食事してね」
大和の言葉が分かったのか脅威ではないと判断されたのかははわからないが、リスたちは木の上で食事を再開する。 一心不乱にかりかりと木の実を削るようにして食べる姿は、それだけで癒される。大和はその姿を飽きることなく見ていた。
「森の中はひんやりして、気持ちええですね!」
「ふふ、ほんと気持ちいいですね」
森の日差しを浴びながら伸びをする『幸福の黒猫』椿 那由多(CL2001442) を見ながら、『深緑』十夜 八重(CL2000122)は頬を緩める。猫のようだと言えば那由多は怒るだろうか? そんなことを考えながら森の中を歩く。
緑のカーテンは現実から切り離されたかのように静かだ。聞こえてくるのは風にそよぐ葉が擦れる音と、鳥のさえずり。そして二人が落ち葉を踏む音だ。しばらくはそうして森林浴を楽しんでいた。
「こないだの麒麟の戦い、来てくれて心強かったです」
ふと、那由多が口を開く。先の闘いの事を思い出し、落ち込むようにため息をついた。
「やっぱりうちは、八重さんがおらんとダメですね」
「何を言っているんですか。ひとに頼るのは悪いことじゃないですよ」
そんな那由多に八重はさも当然とばかりに言葉を返す。
「那由多さんが大変な戦いに行くときに手伝わないほど薄情じゃないですからね?」
「八重さん……」
それが当然だ、とばかりに帰ってきた言葉に那由多は胸に手をやる。今までそこにあったつかえが取れたかのように、その表情は安堵に満ちていた。
「一人でも大丈夫、いつかそう言える日が来るとええのやけど……でも、呼べる口実がのうなってしまうよって、今のままでもええんかなぁとか」
「別に口実なんて必要ないですよ? 呼びたいなら呼べばいいですし、その方が私も嬉しいです。一人でも大丈夫なものは、二人なら楽なものですし」
「ふふ。八重さんは本当に頼りになりますわあ。あ、そういえばお弁当持ってきたんやけど――」
近くの岩に腰掛け、弁当を広げる那由多。八重もその隣に腰掛け、その中身を見る。
新緑の風が二人を優しく包み込んでいた。
●
「結那……残念です……」
ため息を吐く西園寺 海(CL2001607)。友人を誘ったのだが已む無い用事があり参加できなかったのだ。一緒に海で遊ぼうといろいろ計画を立てていたのだが……。
「こうなったらミミーと一緒にあそぶのです」
言ってぬいぐるみを抱えて砂浜を歩く海。来年の夏こそは一緒に友達と海で遊ぼう。そう決意するのであった。
「よっしゃー! 今日は思いっきし泳ぐで!」
赤いビキニ姿となった『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119) はその勢いのままに海に飛び込んだ。目の前に広がる青い水中の景色。体を包む浮遊感。暫くその感覚を楽しんだ後に、凛は両手両足を使って水をかき、泳ぎ始める。
「ん? ……うぉ!?」
妙に水の抵抗が大きいと思って自分の身体を見てみると、いつの間にか水着が脱げてしまっていた。凛の形のいい胸がぷかりと浮かぶ。そっかー、脂肪って海水よりも比重が軽いんだねー。などと現実逃避するわけにもいかない。
「そや! これやったら大丈夫やろ!」
言って凛は海に潜り、適当な海草を胸に巻く。そのまま堂々と陸に泳ぎ始めた
「これでアラタナルの健全さは守られたやろ!」
アウト……セーフ……セウト!
「かき氷、マリンもいっしょに、食べる?」
桂木・日那乃(CL2000941)は海の家で守護使役と一緒にかき氷を食べていた。つい先ほどまで泳いでいたのだが、疲れもあって戻ってきたのだ。
「海、綺麗だった」
日那乃は泳いだというよりは海で遊んだ、という表現が正しい。水中メガネとシュノーケルを借りて海の中を潜ってその景色を見て楽しんだり、浮き輪で日を浴びながら浮かんでいたり。それも海の楽しみ方である。
この海の家もFiVEが即興で作ったものだ。すぐに解体出来るような組み立て式である。そう言ったこともあり、料理の数は少ない。
「手伝えることあるなら、やる」
その様子を見て日那乃は手伝いを申し出る。休みの時でも、彼女の本質は変わらない。
「お魚綺麗なのー!」
野武 七雅(CL2001141)は目の前に広がる青の光景に感動していた。シュノーケルを使ってダイビングを楽しんでいるのだ。
透明度の高い海水が太陽光を受けてキラキラと輝く。波打つ水がその光を様々な形に変え、七雅の周りを彩っていた。そしてその光を魚が受け、魚が輝くような錯覚を受ける。青に黄色に銀色に。水のキャンパスに描かれた自然の絵画は、七雅が想像していた以上の色彩があった。
「あ、綺麗な貝殻!」
広大な海の中、七雅の興味は尽きることはない。
「ブートキャンプだ!」
黒いバックレースアップのホルターワンピース水着。黒い羽を広げた『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)が砂浜で仁王立ちしていた。砂浜のダッシュや運動は足腰の鍛錬委一番だ。その表情がそう語っていた。
「折角海に来たのに うちの妹は色気も何もない……」
ブートキャンプ用の音楽を鳴らすラジカセを用意しながら『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575)はため息を吐く。育て方を間違えたかと、草葉の陰にいる父母に謝罪した。もう少しそちら方面での話があってもいいのだけどなぁ。
(彩吹さんの水着やばくない? やばない?)
そんな蒼羽の心配など知ることなく『呑気草』真屋・千雪(CL2001638)は彩吹の水着に見惚れていた。しかし惜しいかな、その想いは未だ届かない。あとブートキャンプとか断固拒否。早々に離脱する理由を考えていた。
「鍛錬か。悪くない」
ブートキャンプの申し出に頷く篁・三十三(CL2001480)。夏休みとはいえ、気を緩めるつもりはない。遊ぶときにあそび、鍛えるときに鍛える。そのメリハリが重要なのだ。寸暇を惜しんで鍛える気でないと。
「ブートキャンプ? そんな楽しそうなこと混ぜろよー!」
ブートキャンプと聞いて燃え上がる『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)。体を動かすことが大好きな翔は、こういった鍛錬を見逃さない。魂の炎のままに、走り出す。どんな鍛錬でも乗り越えてみせる。むしろどんとこい!
「あー、お兄ちゃん! いいもん、つむちゃんに遊んでもらうもん!」
走り出した翔を見ながら『モイ!モイ♪モイ!』成瀬 歩(CL2001650)は頬を膨らませる。せっかく海で一緒にあそぼうと楽しみにしていたのに。怒り七割哀しみ三割の表情を浮かべ、兄に背を向ける。
「あー……しょうがないね、一緒に砂のお城でも作ろうか」
チョコミントカラーのバンドゥビキニ、白いノースリーブロングパーカー、髪型はポニーテール。海の完全武装で挑む『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)は肩透かしを食らったかのような声をあげる。
そんな【四葩】の夏は、ブートキャンプの音楽とともに始ま――
「あの彩吹さん。日焼けするからこれ着て」
――る前に千雪が彩吹に自分のパーカーを肩にかける。
「日焼けって……夏だし、海だし多少焼けても気にしないけど。でもありがとう」
首をかしげて考えてた彩吹だが、千雪の行為を善意と受け取ったのか微笑んで礼を返す。
(……真屋ちゃんドンマイ……)
そんな様子を見ながら紡はこっそり溜息をついていた。彩吹が恋愛方面に疎いのは知っているが、ここまで鉄壁だと苦労するだろうなぁ。
ともあれ始まるブートキャンプ。よくあるエクササイズの延長と思いきや、
「足を広げて、脇をしめる。はい左右に振ってー」
蒼羽がプログラムを読み上げる。ブートキャンプのサポートを買って出た蒼羽は、プログラムの全容を見て妹の本気さを感じ取っていた。しかし途中リタイアをさせるつもりはない。事実ついて来ている人もいるし。
「おっしゃー!」
「うん。これぐらいならAAAの時にもやったね」
掛け声をあげてついていく翔。昔を思い出しながら体を動かす三十三。そして――
「ふー。危ない危ない……。お城作りまぜてー」
如月兄妹式ブートキャンプが始まる前に離脱した千雪。歩と紡が手を振って迎える。
「ちゆきくん、おつかれさまー」
「ま、ひと時の休息だったね。残念」
「へ……? ひと時って……」
千雪が振り向くと、彩吹がこちらを見下ろしている姿があった。
「千雪、参加しないのか?」
彩吹にじっと見つめられて返答に困る千雪。ブートキャンプで仲睦まじく(若干個人的な補正あり)している彩吹と三十三を見て即答しかねている所に、
「千雪くん頑張れ。体力つけて悪い事はないよ」
「遠慮すんなって!」
蒼羽と翔に引っ張られる形で強制参加させられてしまうのであった。
「うん。まあ、千雪さんに誤解されるよりはいい……のかな?」
言って頬を書く三十三。色恋沙汰は色々難解だ。
その後、プログラムはスイムに移る。砂遊びに飽きた歩と紡も救出役で参加し、【四葩】の七人は海に飛び込んだ。遠泳に勤しむ者、救助を楽しむ者、鍛錬に没頭する者、それぞれの海があった。
「ふー。疲れた……って……」
ひと段落し、翔は紡の姿を見る。先ほどまで浮き輪で海に浮かんでいた紡の姿は濡れ、肌を滑るように水が滴っている。チョコミントカラーのバンドゥビキニに包まれた体は一六歳(外観年齢)の女性を彩っていた。
「いぶちゃんと澄ちゃんに選んでもらったんだよー……かわい?」
翔の視線に気づいて、微笑む紡。翔は返答しようとして言葉が出なかった。落ち着け、俺。
「に――」
「に?」
「に……似合うんじゃね?」
視線を逸らし、ようやくその言葉を紡ぎ出す翔。
(そっかー。似合うって言ってくれたかー)
その言葉に満足したように紡は笑みを浮かべていた。
「あれ? お兄ちゃん、なんか顔赤いよ? どうしたの?」
「何でもねえよ、歩! さあ帰るぞ! もうすぐ夜だしな!」
歩の指摘に誤魔化すように叫んで背を向ける翔。首をかしげる歩と、笑みを浮かべたまま後をついていく紡。
友ヶ島はゆっくりと夜の帳に包まれていく。
●
「いつ来ても南の島ってわくわくするよね!」
「ふふ。奏空さんはいつも元気ですね」
夜の浜辺を歩く『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)と『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994)。昼間は互いに新しい水着を見せ合い、そして水辺を謳歌した。そのあと少し休憩して、誰もいない砂浜を二人歩いていた。
「秋にはアンドロメダ座が見えるんです。海の怪物ケートスの生贄に捧げられたアンドロメダはペルセウスに救われ、その後二人は結ばれたんです」
「ロマンがあるなぁ。助けたお姫様と結婚だなんて」
夜の天幕を見ながら二人はそんな話をしていた。空を遮るスモッグもなく、きれいな星空が浮かんでいる。
「来年から私は大学生で、奏空さんと離れ離れになりますが、共に同じ方向を向いて歩ける方ですから、大丈夫……」
たまきは言葉を続けようとして、奏空がこちらを真剣に見ていることに気づき言葉を止めた。三年前はまだ幼いと感じた奏空の視線に、心奪われるたまき。今となっては彼がいない生活など想像もできない。
「たまきちゃんと出会ってこうしてずっと一緒にいるけど――」
奏空の心臓が跳ねる。このまま言えと言ってしまう心と、今の関係を崩すなと言う自分がいる。不安を感じさせる流れだからこそ言うべきか、だからこそ言わざるべきか。
心の思うままに。そう思ったと同時に朽ちは動いていた
「――やっぱり君が大好きで大切な存在だっていつも思うよ」
「奏空さん……」
目を閉じたのはどちらからか。
気が付けば、二人の唇は優しく重なり合っていた。
吸い込まれるような夜空と青い海。それを一望できる大展望台。
「二年間、あっという間だったねぇ……いや、燐ちゃんはもうちょっと長く感じてるのかな?」
「前にこのベンチに座ってから、二年が経ったのですね。あっという間だったような。遠い昔の事のような」
『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)と『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)は大展望台にあるベンチに座り、この二年を思い出していた。二年。約七百日。それだけの間二人は共にあったのだ。
「歳をとると、年々一年が短く感じちゃうからね」
「そういうものですか?」
「理由は色々あるみたいだけど、人によって体感時間に差はあるらしいよ?」
恭司は言いながらこの二年間を思い出す。最初の関係は保護者と被保護者だった。FiVEの覚者として戦い、そしてその関係も変化していく。今の関係も長くは続かないだろう。だけど――
「でしたら……年を取ったらまたここに来て『前に来た時から色々あったね』と一緒に笑えたらなと」
「そうだねぇ。それなら、いくら思い出話をしても尽きないくらい、沢山の思い出を作っていかないとだね」
互いを離すまいと握られた手。燐花の視線を受け止めながら恭司は頷いた。変化する関係の中でも、変わらない想いはある。その想いが二人を繋ぎとめるなら――
「照れていらっしゃいます?」
「ちょっと恥ずかしい事を言っちゃったかなって……これからも、一緒に思い出を作っていこうね」
「はい。一緒に沢山、ですね」
きっと歩いて行ける。少なくともそう信じれるだけの想いがあった。
●
迎えの船がやってくる。楽しかった友ヶ島での休暇もこれで終わり。
ゆったりとした空気で癒された覚者達は、また戦いに身を投じる。この平和な時間を守るために。
夏は終わり、秋を感じさせる風が静かに吹き始める。冷たさを含んだ風が。
だけどまた風は暖かくなる。終わらない夏がないように、永久凍土も訪れさせない。
潮風が頬を撫でる。また来年もここで――
夏の終わりを感じさせない潮風が離宮院・太郎丸(CL2000131) の頬を撫でる。
世の中の乱れを感じさせない自然の光景は、まるで時間が止まったかのようだ。この平和を守るために自分達は戦っている。
だが今はそれを忘れ、静かにこの風を謳歌しよう。太郎丸は目をつぶり、友ヶ島の空気を肺一杯に吸い込んだ。
●
「たしかリスや鹿等の小さな動物がいるときいたのだけれども……」
森の中を歩く『月々紅花』環 大和(CL2000477)。特に目的などなく、小動物に会えればいいな、ぐらいの散策だ。だが小動物はその身体の小ささを活かし、木の陰などに隠れている。ただ何となく探して見つかる者ではない。だが――
大和の視界にかじられた松ぼっくりが写る。三日月のような形になっているのは、かじられたため。削られた部分を見ると、鋭い歯でかじられた跡があった。となるとこの辺りに……。
「貴方達が食べたの? 面白い食べ方をするのね」
微笑む大和。その視線の先には木の上でこちらを見ているリスがいた。丸い二対の瞳が様子をうかがうようにこちらを見ている。
「可愛いわね。脅かさないからゆっくりお食事してね」
大和の言葉が分かったのか脅威ではないと判断されたのかははわからないが、リスたちは木の上で食事を再開する。 一心不乱にかりかりと木の実を削るようにして食べる姿は、それだけで癒される。大和はその姿を飽きることなく見ていた。
「森の中はひんやりして、気持ちええですね!」
「ふふ、ほんと気持ちいいですね」
森の日差しを浴びながら伸びをする『幸福の黒猫』椿 那由多(CL2001442) を見ながら、『深緑』十夜 八重(CL2000122)は頬を緩める。猫のようだと言えば那由多は怒るだろうか? そんなことを考えながら森の中を歩く。
緑のカーテンは現実から切り離されたかのように静かだ。聞こえてくるのは風にそよぐ葉が擦れる音と、鳥のさえずり。そして二人が落ち葉を踏む音だ。しばらくはそうして森林浴を楽しんでいた。
「こないだの麒麟の戦い、来てくれて心強かったです」
ふと、那由多が口を開く。先の闘いの事を思い出し、落ち込むようにため息をついた。
「やっぱりうちは、八重さんがおらんとダメですね」
「何を言っているんですか。ひとに頼るのは悪いことじゃないですよ」
そんな那由多に八重はさも当然とばかりに言葉を返す。
「那由多さんが大変な戦いに行くときに手伝わないほど薄情じゃないですからね?」
「八重さん……」
それが当然だ、とばかりに帰ってきた言葉に那由多は胸に手をやる。今までそこにあったつかえが取れたかのように、その表情は安堵に満ちていた。
「一人でも大丈夫、いつかそう言える日が来るとええのやけど……でも、呼べる口実がのうなってしまうよって、今のままでもええんかなぁとか」
「別に口実なんて必要ないですよ? 呼びたいなら呼べばいいですし、その方が私も嬉しいです。一人でも大丈夫なものは、二人なら楽なものですし」
「ふふ。八重さんは本当に頼りになりますわあ。あ、そういえばお弁当持ってきたんやけど――」
近くの岩に腰掛け、弁当を広げる那由多。八重もその隣に腰掛け、その中身を見る。
新緑の風が二人を優しく包み込んでいた。
●
「結那……残念です……」
ため息を吐く西園寺 海(CL2001607)。友人を誘ったのだが已む無い用事があり参加できなかったのだ。一緒に海で遊ぼうといろいろ計画を立てていたのだが……。
「こうなったらミミーと一緒にあそぶのです」
言ってぬいぐるみを抱えて砂浜を歩く海。来年の夏こそは一緒に友達と海で遊ぼう。そう決意するのであった。
「よっしゃー! 今日は思いっきし泳ぐで!」
赤いビキニ姿となった『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119) はその勢いのままに海に飛び込んだ。目の前に広がる青い水中の景色。体を包む浮遊感。暫くその感覚を楽しんだ後に、凛は両手両足を使って水をかき、泳ぎ始める。
「ん? ……うぉ!?」
妙に水の抵抗が大きいと思って自分の身体を見てみると、いつの間にか水着が脱げてしまっていた。凛の形のいい胸がぷかりと浮かぶ。そっかー、脂肪って海水よりも比重が軽いんだねー。などと現実逃避するわけにもいかない。
「そや! これやったら大丈夫やろ!」
言って凛は海に潜り、適当な海草を胸に巻く。そのまま堂々と陸に泳ぎ始めた
「これでアラタナルの健全さは守られたやろ!」
アウト……セーフ……セウト!
「かき氷、マリンもいっしょに、食べる?」
桂木・日那乃(CL2000941)は海の家で守護使役と一緒にかき氷を食べていた。つい先ほどまで泳いでいたのだが、疲れもあって戻ってきたのだ。
「海、綺麗だった」
日那乃は泳いだというよりは海で遊んだ、という表現が正しい。水中メガネとシュノーケルを借りて海の中を潜ってその景色を見て楽しんだり、浮き輪で日を浴びながら浮かんでいたり。それも海の楽しみ方である。
この海の家もFiVEが即興で作ったものだ。すぐに解体出来るような組み立て式である。そう言ったこともあり、料理の数は少ない。
「手伝えることあるなら、やる」
その様子を見て日那乃は手伝いを申し出る。休みの時でも、彼女の本質は変わらない。
「お魚綺麗なのー!」
野武 七雅(CL2001141)は目の前に広がる青の光景に感動していた。シュノーケルを使ってダイビングを楽しんでいるのだ。
透明度の高い海水が太陽光を受けてキラキラと輝く。波打つ水がその光を様々な形に変え、七雅の周りを彩っていた。そしてその光を魚が受け、魚が輝くような錯覚を受ける。青に黄色に銀色に。水のキャンパスに描かれた自然の絵画は、七雅が想像していた以上の色彩があった。
「あ、綺麗な貝殻!」
広大な海の中、七雅の興味は尽きることはない。
「ブートキャンプだ!」
黒いバックレースアップのホルターワンピース水着。黒い羽を広げた『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)が砂浜で仁王立ちしていた。砂浜のダッシュや運動は足腰の鍛錬委一番だ。その表情がそう語っていた。
「折角海に来たのに うちの妹は色気も何もない……」
ブートキャンプ用の音楽を鳴らすラジカセを用意しながら『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575)はため息を吐く。育て方を間違えたかと、草葉の陰にいる父母に謝罪した。もう少しそちら方面での話があってもいいのだけどなぁ。
(彩吹さんの水着やばくない? やばない?)
そんな蒼羽の心配など知ることなく『呑気草』真屋・千雪(CL2001638)は彩吹の水着に見惚れていた。しかし惜しいかな、その想いは未だ届かない。あとブートキャンプとか断固拒否。早々に離脱する理由を考えていた。
「鍛錬か。悪くない」
ブートキャンプの申し出に頷く篁・三十三(CL2001480)。夏休みとはいえ、気を緩めるつもりはない。遊ぶときにあそび、鍛えるときに鍛える。そのメリハリが重要なのだ。寸暇を惜しんで鍛える気でないと。
「ブートキャンプ? そんな楽しそうなこと混ぜろよー!」
ブートキャンプと聞いて燃え上がる『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)。体を動かすことが大好きな翔は、こういった鍛錬を見逃さない。魂の炎のままに、走り出す。どんな鍛錬でも乗り越えてみせる。むしろどんとこい!
「あー、お兄ちゃん! いいもん、つむちゃんに遊んでもらうもん!」
走り出した翔を見ながら『モイ!モイ♪モイ!』成瀬 歩(CL2001650)は頬を膨らませる。せっかく海で一緒にあそぼうと楽しみにしていたのに。怒り七割哀しみ三割の表情を浮かべ、兄に背を向ける。
「あー……しょうがないね、一緒に砂のお城でも作ろうか」
チョコミントカラーのバンドゥビキニ、白いノースリーブロングパーカー、髪型はポニーテール。海の完全武装で挑む『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)は肩透かしを食らったかのような声をあげる。
そんな【四葩】の夏は、ブートキャンプの音楽とともに始ま――
「あの彩吹さん。日焼けするからこれ着て」
――る前に千雪が彩吹に自分のパーカーを肩にかける。
「日焼けって……夏だし、海だし多少焼けても気にしないけど。でもありがとう」
首をかしげて考えてた彩吹だが、千雪の行為を善意と受け取ったのか微笑んで礼を返す。
(……真屋ちゃんドンマイ……)
そんな様子を見ながら紡はこっそり溜息をついていた。彩吹が恋愛方面に疎いのは知っているが、ここまで鉄壁だと苦労するだろうなぁ。
ともあれ始まるブートキャンプ。よくあるエクササイズの延長と思いきや、
「足を広げて、脇をしめる。はい左右に振ってー」
蒼羽がプログラムを読み上げる。ブートキャンプのサポートを買って出た蒼羽は、プログラムの全容を見て妹の本気さを感じ取っていた。しかし途中リタイアをさせるつもりはない。事実ついて来ている人もいるし。
「おっしゃー!」
「うん。これぐらいならAAAの時にもやったね」
掛け声をあげてついていく翔。昔を思い出しながら体を動かす三十三。そして――
「ふー。危ない危ない……。お城作りまぜてー」
如月兄妹式ブートキャンプが始まる前に離脱した千雪。歩と紡が手を振って迎える。
「ちゆきくん、おつかれさまー」
「ま、ひと時の休息だったね。残念」
「へ……? ひと時って……」
千雪が振り向くと、彩吹がこちらを見下ろしている姿があった。
「千雪、参加しないのか?」
彩吹にじっと見つめられて返答に困る千雪。ブートキャンプで仲睦まじく(若干個人的な補正あり)している彩吹と三十三を見て即答しかねている所に、
「千雪くん頑張れ。体力つけて悪い事はないよ」
「遠慮すんなって!」
蒼羽と翔に引っ張られる形で強制参加させられてしまうのであった。
「うん。まあ、千雪さんに誤解されるよりはいい……のかな?」
言って頬を書く三十三。色恋沙汰は色々難解だ。
その後、プログラムはスイムに移る。砂遊びに飽きた歩と紡も救出役で参加し、【四葩】の七人は海に飛び込んだ。遠泳に勤しむ者、救助を楽しむ者、鍛錬に没頭する者、それぞれの海があった。
「ふー。疲れた……って……」
ひと段落し、翔は紡の姿を見る。先ほどまで浮き輪で海に浮かんでいた紡の姿は濡れ、肌を滑るように水が滴っている。チョコミントカラーのバンドゥビキニに包まれた体は一六歳(外観年齢)の女性を彩っていた。
「いぶちゃんと澄ちゃんに選んでもらったんだよー……かわい?」
翔の視線に気づいて、微笑む紡。翔は返答しようとして言葉が出なかった。落ち着け、俺。
「に――」
「に?」
「に……似合うんじゃね?」
視線を逸らし、ようやくその言葉を紡ぎ出す翔。
(そっかー。似合うって言ってくれたかー)
その言葉に満足したように紡は笑みを浮かべていた。
「あれ? お兄ちゃん、なんか顔赤いよ? どうしたの?」
「何でもねえよ、歩! さあ帰るぞ! もうすぐ夜だしな!」
歩の指摘に誤魔化すように叫んで背を向ける翔。首をかしげる歩と、笑みを浮かべたまま後をついていく紡。
友ヶ島はゆっくりと夜の帳に包まれていく。
●
「いつ来ても南の島ってわくわくするよね!」
「ふふ。奏空さんはいつも元気ですね」
夜の浜辺を歩く『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)と『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994)。昼間は互いに新しい水着を見せ合い、そして水辺を謳歌した。そのあと少し休憩して、誰もいない砂浜を二人歩いていた。
「秋にはアンドロメダ座が見えるんです。海の怪物ケートスの生贄に捧げられたアンドロメダはペルセウスに救われ、その後二人は結ばれたんです」
「ロマンがあるなぁ。助けたお姫様と結婚だなんて」
夜の天幕を見ながら二人はそんな話をしていた。空を遮るスモッグもなく、きれいな星空が浮かんでいる。
「来年から私は大学生で、奏空さんと離れ離れになりますが、共に同じ方向を向いて歩ける方ですから、大丈夫……」
たまきは言葉を続けようとして、奏空がこちらを真剣に見ていることに気づき言葉を止めた。三年前はまだ幼いと感じた奏空の視線に、心奪われるたまき。今となっては彼がいない生活など想像もできない。
「たまきちゃんと出会ってこうしてずっと一緒にいるけど――」
奏空の心臓が跳ねる。このまま言えと言ってしまう心と、今の関係を崩すなと言う自分がいる。不安を感じさせる流れだからこそ言うべきか、だからこそ言わざるべきか。
心の思うままに。そう思ったと同時に朽ちは動いていた
「――やっぱり君が大好きで大切な存在だっていつも思うよ」
「奏空さん……」
目を閉じたのはどちらからか。
気が付けば、二人の唇は優しく重なり合っていた。
吸い込まれるような夜空と青い海。それを一望できる大展望台。
「二年間、あっという間だったねぇ……いや、燐ちゃんはもうちょっと長く感じてるのかな?」
「前にこのベンチに座ってから、二年が経ったのですね。あっという間だったような。遠い昔の事のような」
『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)と『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)は大展望台にあるベンチに座り、この二年を思い出していた。二年。約七百日。それだけの間二人は共にあったのだ。
「歳をとると、年々一年が短く感じちゃうからね」
「そういうものですか?」
「理由は色々あるみたいだけど、人によって体感時間に差はあるらしいよ?」
恭司は言いながらこの二年間を思い出す。最初の関係は保護者と被保護者だった。FiVEの覚者として戦い、そしてその関係も変化していく。今の関係も長くは続かないだろう。だけど――
「でしたら……年を取ったらまたここに来て『前に来た時から色々あったね』と一緒に笑えたらなと」
「そうだねぇ。それなら、いくら思い出話をしても尽きないくらい、沢山の思い出を作っていかないとだね」
互いを離すまいと握られた手。燐花の視線を受け止めながら恭司は頷いた。変化する関係の中でも、変わらない想いはある。その想いが二人を繋ぎとめるなら――
「照れていらっしゃいます?」
「ちょっと恥ずかしい事を言っちゃったかなって……これからも、一緒に思い出を作っていこうね」
「はい。一緒に沢山、ですね」
きっと歩いて行ける。少なくともそう信じれるだけの想いがあった。
●
迎えの船がやってくる。楽しかった友ヶ島での休暇もこれで終わり。
ゆったりとした空気で癒された覚者達は、また戦いに身を投じる。この平和な時間を守るために。
夏は終わり、秋を感じさせる風が静かに吹き始める。冷たさを含んだ風が。
だけどまた風は暖かくなる。終わらない夏がないように、永久凍土も訪れさせない。
潮風が頬を撫でる。また来年もここで――
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
