<<うしろのしょうめん>>恋心 純真ゆえの殺意かな
●ウィジャ盤――
ウィジャとは、フランス語とドイツ語で肯定を意味する『ウィ』と『ジャ』から作られた造語である。
アルファベットと数字が書かれたボードの上にプランシェットと呼ばれる文字を指す器具。このプランシェットに複数人の指を乗せ、何かの質問をするとプランシェットがその答えを指差すという。
――夜の学校。
「ウィジャボード、ウィジャボード。飯田君の好きな人はだあれ?」
空き教室に集まった女生徒四人はスマートフォンのライトで照らされたウィジャ盤を囲み、そんな質問をしていた。
坂田美登里。飯田正敏の幼馴染。
奥村楓。飯田正敏が所属する将棋部の部員。
月島美奈。飯田正敏と同じクラス委員。
ミランダ・フォーバー。飯田正敏に一目ぼれした帰国女子。
それぞれが真剣な顔でプランシェットに指を乗せ、同じ問いかけをする。四人とも飯田に恋心を抱き、互いを友人と思い。そんな行き場のない思いをウィジャ盤に乗せて問いかける。
そして四人の指を乗せたプランシェットが動き、順番にアルファベットを指していく。
『T』『E』『A』『C』『H』『E』『R』――
「ティーチャー……?」
「もしかして、小暮先生の事……?」
「ウソ……」
動揺が走る少女達。確かにそれを思わせる行動があったのは確かだ。だけど……。
ウィジャ盤がこの四人の誰かを指したのなら、諦めはついた。そういう約束だからだ。だがこの四人以外を指すとは思わなかった。途方に暮れる四人は、思わず口にしてしまう。
「どうしよう……?」
その問いかけに答えるように、プランシェットが動き出す。
『D』『E』『A』『T』『H』……死。
それは、人を想うが故に思ってしまうくらい欲望。愛しているが故の反動。
先生が、死ねば、いいのに。
●FiVE
「――で、本当にこの小暮先生の所に妖がやってくるんだ」
若干青ざめた顔で久方 相馬(nCL2000004)は覚者に説明を開始する。
「ロケーションとかはまとめてあるから読んでくれ。あと本当に妖によって先生が殺されたら、責任感からかその四人も自殺してしまうらしい」
相馬の態度を怪訝に思う覚者。投げやりというよりは疲れていて説明がまばらになっている。
「うん、すまない。どうも今回の夢を見た時、酷い疲労感が襲って来たんだ。怖いとか恐ろしいとかそんなんじゃなく、ふっと体が浮いたような感覚」
夢見はその性質上、悲劇をよく見る傾向にある。人が死ぬ光景やそのエゴなどを目の当たりにするなどすれば、精神的な不安状態になることもある。だが、今の相馬の症状はそれとは別のようだ。見るからによろつき、椅子にもたれかかるようになっている。
疑問は尽きないが、先ずは妖だ。降霊遊びからの妖事件。似たような事件がどこかであった気がする。出てくる妖も、攻撃方法こそ異なるが似たような存在のようだ。関連性はあるかもしれない。
資料を受け取り、覚者達は会議室を出た。
ウィジャとは、フランス語とドイツ語で肯定を意味する『ウィ』と『ジャ』から作られた造語である。
アルファベットと数字が書かれたボードの上にプランシェットと呼ばれる文字を指す器具。このプランシェットに複数人の指を乗せ、何かの質問をするとプランシェットがその答えを指差すという。
――夜の学校。
「ウィジャボード、ウィジャボード。飯田君の好きな人はだあれ?」
空き教室に集まった女生徒四人はスマートフォンのライトで照らされたウィジャ盤を囲み、そんな質問をしていた。
坂田美登里。飯田正敏の幼馴染。
奥村楓。飯田正敏が所属する将棋部の部員。
月島美奈。飯田正敏と同じクラス委員。
ミランダ・フォーバー。飯田正敏に一目ぼれした帰国女子。
それぞれが真剣な顔でプランシェットに指を乗せ、同じ問いかけをする。四人とも飯田に恋心を抱き、互いを友人と思い。そんな行き場のない思いをウィジャ盤に乗せて問いかける。
そして四人の指を乗せたプランシェットが動き、順番にアルファベットを指していく。
『T』『E』『A』『C』『H』『E』『R』――
「ティーチャー……?」
「もしかして、小暮先生の事……?」
「ウソ……」
動揺が走る少女達。確かにそれを思わせる行動があったのは確かだ。だけど……。
ウィジャ盤がこの四人の誰かを指したのなら、諦めはついた。そういう約束だからだ。だがこの四人以外を指すとは思わなかった。途方に暮れる四人は、思わず口にしてしまう。
「どうしよう……?」
その問いかけに答えるように、プランシェットが動き出す。
『D』『E』『A』『T』『H』……死。
それは、人を想うが故に思ってしまうくらい欲望。愛しているが故の反動。
先生が、死ねば、いいのに。
●FiVE
「――で、本当にこの小暮先生の所に妖がやってくるんだ」
若干青ざめた顔で久方 相馬(nCL2000004)は覚者に説明を開始する。
「ロケーションとかはまとめてあるから読んでくれ。あと本当に妖によって先生が殺されたら、責任感からかその四人も自殺してしまうらしい」
相馬の態度を怪訝に思う覚者。投げやりというよりは疲れていて説明がまばらになっている。
「うん、すまない。どうも今回の夢を見た時、酷い疲労感が襲って来たんだ。怖いとか恐ろしいとかそんなんじゃなく、ふっと体が浮いたような感覚」
夢見はその性質上、悲劇をよく見る傾向にある。人が死ぬ光景やそのエゴなどを目の当たりにするなどすれば、精神的な不安状態になることもある。だが、今の相馬の症状はそれとは別のようだ。見るからによろつき、椅子にもたれかかるようになっている。
疑問は尽きないが、先ずは妖だ。降霊遊びからの妖事件。似たような事件がどこかであった気がする。出てくる妖も、攻撃方法こそ異なるが似たような存在のようだ。関連性はあるかもしれない。
資料を受け取り、覚者達は会議室を出た。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の全滅
2.(参加者四名以上の場合)小暮の生存
3.なし
2.(参加者四名以上の場合)小暮の生存
3.なし
†猫天使†STのイベントに乗っかりました。
●敵情報
・ツジモリ(×4)
少女の形の影をした妖です。おそらく心霊型妖。ランク2。
邪魔する者がいなければ小暮を狙いますが、覚者が邪魔をするならそちらを優先します。
攻撃方法
冷たい手 物近単 冷たい手で触り、生気を奪います。
凍える声 特遠全 冷えるような声を出して、体温を下げてきます。【ダメージ0】【氷結】
影の手 特遠単 対象の影から手を伸ばし、動きを封じます。【呪い】
死の指差 特遠単 DEATHの五文字を刻み、死の呪いを与えます。【致命】【必殺】【三連】【溜5】
逃サナイ P 呪う対象(小暮)が自分から20m以上離れた時、自分の行動開始時に対象の背後20mの位置に移動します。ブロック不可。
●NPC
・小暮祥子
26才女性。学校の先生です。件の飯田少年とは仲がいいです。ですがあくまで先生と生徒の関係で。
一般人です。ダメージを受ければ死亡します。なお参加者が3名以下の場合、彼女の生死は依頼の成否には関係ありません。
●場所情報
夜の住宅街。ツジモリが人を祓う夜の帳を生み出しているため、人気はなし。真っ直ぐに続く街の道路を延々と歩くイメージです。
戦闘開始時、敵前衛に『ツジモリ(×4)』が。味方中衛に『小暮』がいます。
急いでいるため、事前付与は不可とします。
皆様からのプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2018年07月10日
2018年07月10日
■メイン参加者 6人■

●
ウィジャ盤が導き出した英単語。それにより殺意を抱いてしまった四人の少女。
好きな人の振り向いてほしいから、貴方は死んで。
それは人間なら誰もが思う思い。ほとんどの人間はそれを理性で封じ、あるいは受け止めて別の形で昇華する。四人の少女も行動に移すほど強い殺意は抱かなかった。
だが――その想いをなぞるように妖が動き出す。
「死の呪いを操る……か」
背筋にぞくりと走るものを感じながら『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)は思考に耽る。隙だらけの技だが、だからこそ楽観できない。それだけ時間を有する術だからこそ、その威力は想像以上のものなのだろう。喪失、永遠の別れ、離別。その感覚を思い出し、強く拳を握る。
「先の報告書からすると、ツジモリは生徒達を自殺に追い込み破綻者を生み出そうとしているのでしょう」
『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)は過去の報告書を思い出す。ツジモリと呼ばれる個体が占いを通じて自殺を促し、破綻者を生み出したケース。あのツジモリとこのツジモリの関係までは不明だが、やろうとしていることの共通点は多い。敵の数が生徒と同じというのも、ある種の皮肉か。
「大妖……の、動きの一旦 なのかなぁ」
疑問符を浮かべながら『豪炎の龍』華神 悠乃(CL2000231)は夜道を走る。後手後手の対応なのはストレスがたまるが、それでも対応しないというわけにはいかない。何が起きて、それが何なのか。その取っ掛かりさえはっきり見えないのは霧の中を歩くようで不安がある。
「まず間違いなく、大妖『辻森綾香』が関わっている」
悠乃の言葉に断言するように『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が頷いた。過日の事件で見た古めかしいセーラー服のイメージ。直接姿を見たことはないが、うわさに聞く大妖の姿と一致する。こっくりさん、ウィジャ盤、そう言った降霊術を通じて人の心を惑わし、死に誘う。決して許されることではない。
「人を想う余り、人を呪い殺害しようとしてしまう……。今も昔も、人の想い。特に恋心に関しては、普遍なものなのでしょうか……」
深くため息を吐く『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994)。同じ女性として――否、人を愛する心を持つが故、少女達の気持ちは理解できる。そう言った思いが呪を生み、事件を生み出す。陰陽術師はそう言った事例を幾つも解決してきた。ならば今回もその呪いを打ち消そう。どこにでもある少女の恋を守るために。
「彼女達の想いの為に犠牲者が出て、彼女達が責任を感じて死を選ぶのだとしたら……それは見過ごせないね」
守護使役の『ピヨ』を傍らに飛ばし、夜道を進む『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)。責任の所在はどうあれ、妖が先生を殺したことで少女達が死を選ぶというのは頂けない。ましてやそういった事件が多発しているというのなら、そこには悪意がある。それを止めなくては。
「…………っ!」
四体の妖に迫られ、声を失っている小暮。死を覚悟したのか、崩れ落ちそうに足がふらついている。
「大丈夫ですか!?」
そこに割って入る覚者達。妖も覚者にターゲットを変えたのか少し距離をとる。
恋の殺意に導かれた妖と、覚者達。その力が交差する。
●
「行くよ!」
真っ先に動いたのは奏空だ。守護使役から受け取った装備はいつもの刀ではなく、二枚の巨大な盾だ。それを両手に装着し、小暮の前に立つ。そのまま小暮を庇うように立ちながらツジモリを見た。少女のような影。薄く浮かべる笑顔が恐怖を呼び起こす。
ツジモリの手が動くと同時に、奏空の影から手のような黒い何かが伸びる。振れた物の生気を奪う影の手。それを手にした盾で防ぐ。入念に固めた防御は影の手を弾き飛ばし、手は夜の闇に溶けて消えた。
「このままゆっくりと後ろに! でもあいつから離れすぎないで!」
「貴方達は……?」
「俺達はFiVEの覚者です。詳細は後で」
一礼して秋人が構えをとる。小暮が狙われるようになった原因を説明するには時間が足りない。今は目の前の妖の排除に専念すべきだ。真摯な態度とFiVEの名前が効いたのか、小暮は頷き指示に従う意思を示す。
その態度に頷き、秋人は術を展開する。ツジモリが与えてくる呪いの技。その呪いによって傷ついた者を射癒すべく水の源素を展開する。降り注ぐ小雨は癒しの力をもって覚者達の傷を冷やし、そして痛みを消していく。
「回復は俺に任せてくれ」
「では私は攻撃に専念しますね」
秋人の言葉に頷くたまき。ツジモリが影を媒体とした心霊系妖であるのなら、術式の防御は弱いはず。そう信じて防御を捨てての攻撃専念だ。勿論、頼れる仲間が他の行動を担ってくれると信じての判断でもある。
『大護符』を手に源素を調律するたまき。この世にある力。自分の中にある力。自然と自分を繋ぎ、力を融合させる。五行の一端を司り、その力の矛先を変えるのが陰陽術。符を通して大地に伝わった力が槍となり、ツジモリを穿つ。
「あなたが占いの結果に生まれたというのなら、それを止めるのが陰陽術師の使命です!」
「先生を、そして四人の生徒を守って見せます!」
小暮と妖の間に立ちふさがるいのり。ツジモリの狙いが少女を絶望させ、破綻者にさせる事ならばその絶望の原因を防げばいい。ここで先生を殺させないことが彼女達を救うのだ。先の事件では自殺を未然に防げなかった。今回こそは――
神具を振りかざし、天に向ける。いのりの体の中をめぐっていた源素が神具に集中するのを感じていた。天を向く神具に導かれるように源素は天に向かって飛び、空中で爆ぜて細かな鏃となる。それは流星の如く妖に降り注ぎ、細かな傷を与えていく。
「人を愛する気持ちをそんな事の為に利用するあなたは決して許せない!」
「そうだな。愛する気持ちが原因で悲劇が起きるのは許せるものではない」
いのりの言葉に頷く両慈。人を愛する気持ちはだれもが持っていて、だからこそ生まれた少女達の殺意も致し方ないものだ。それを利用して人の命を奪い、それを足掛かりに絶望に追いやる妖。そのような存在を許せるはずがない。
妖の指が『D』の文字を描く。その動作を見て両慈は攻勢に転じた。自らの二つ名である『雷麒麟』。その名に恥じぬ雷撃がツジモリを襲う。死の呪いともいえるウィジャ盤の五文字。それを描かせるわけにはいかないという強い感情と共に落雷が轟いた。
「死を、もう二度と俺の仲間に降り注がせてなるものか……! 気を付けろ、悠乃!」
「大丈夫。できればゆっくり時間をかけて調べたいけど……」
そんな余裕はない、と好奇心を押さえる悠乃。これが大妖の行動の一つで何らかの意図があるというのなら、それを調べることで解決の糸口がつかめるかもしれない。だが、この攻撃を黙って受けるつもりは流石になかった。
『幻想発現・人中驪竜』を手に源素を高めていく悠乃。大地を横に裂くように腕を振るうと同時に、高めた源素を解放する。悠乃の腕の動きを追うように地面に赤い線が走り、焔の柱が大地を走った。燃え盛る炎がツジモリを焼いていく。
「わかりあうことは決してできないのだろうけど、対応のために理解を深めないと」
悠乃を始めとして、覚者達はツジモリの言葉を聞き逃さまいと意識を高めていた。大妖が関係する妖だ。通常の妖とはまた理が違うのかもしれない。
だが、聞けたのは意味のない呟きだった。
「まさくんまさくんまさくんまさくん」
「飯田先輩飯田先輩飯田先輩」
「飯田君飯田君飯田君」
「ダーリンダーリンダーリン」
それぞれが違う言葉。最初は意味が解らなかった覚者達だが、顔を青ざめた小暮の一言で全てが理解できた。
「坂田さんに、奥村さん、月島さん、フォーバーさん……。まさか……」
四種類のツジモリの声は、四人の少女の愛する人に対する呼称だった。好きな人の名を呟きながら、自分を殺そうとする妖。その意味に気づかない小暮ではなかった。
「落ち着いてください! あれはただの妖です!」
パニックに陥りそうになった小暮を制したのは、いのりの一言だった。あれはただの妖。呟く言葉も意味を為さず、本能のままに人を襲う存在。ランク2の妖の特徴そのものだ。
「だけど――ああ……!」
パニックこそ起こさなかったが、小暮の精神的な傷は大きい。彼女達の愛する人と悪くない関係を結び、その恋心を傷つけてしまった事。知らなかった。そのつもりはなかった。だけど結果として自分は四人を追いやってしまい――
覚者達が割って入らなければ、小暮には逃げる選択すら生まれなかっただろう。自責に追いやられた小暮。その原因を作った少女の想い。それを目の当たりにした少女達もまた自責により自死を選ぶ。
だがその悲劇は迎えさせない。覚者達はその意思を込めてツジモリに向き直った。
●
ツジモリの事件はそれを見る夢見にジャミングをかけている。
予知そのものの阻害や、夢見本人に対する精神的な攻撃。それにより覚者の初動が遅れ、悲劇を生み出すことになる。
(うしろのしょうじょ……夢見に干渉できるなにか。辻森綾香が係わっているというのなら、その正体は――)
繋がりそうで繋がらない糸。直線状にあるように見えて、途切れそうなか細い道。仮説を証明するにはサンプルケースが足らなすぎる。
だから積み重ねるのだ。シャーロックホームズとて無から事件は解決できない。
「やっぱりこっちを狙ってくるか……!」
小暮をガードしていた奏空が死の指先を受けて膝をつく。ツジモリの狙いはあくまで小暮。優先順位度はその周りにいる者からなのだろう。まだ倒れるわけにはいかないと命数を燃やし、呼吸を整え立ち上がる。
奏空がツジモリの影を移そうとヘッドライトを向ける。しかしそこには何もなかった。光を受けた影自体が存在していないのだ。心霊系故に実体がないからなのだろうか。それとも『ここにはいない』ということなのだろうか。
「なんて非道! 純粋な思いを利用するなんて!」
激昂するいのり。かのじょもまた大きくダメージを受けていた。影の手に捕らわれて奏空が動けなくなっていた時、いのりが小暮を庇っていたからだ。その事もありツジモリは彼女も集中的に狙うことになる。
ただの人を因子発現させ、一気に破綻者化する。ただそれだけのためにどれだけの少女の心に傷をつけたのか。どれだけの命を奪って来たのか。夢見すら感知できない事件もあったのだろう。それを思うといのりは悔しくなる。この力は人を守るためにあるのだから。
「死の指先を使うツジモリを優先的に……かな」
状況を鑑みて秋人が攻撃対象を絞る。高い攻撃を行うために文字を描き始めるツジモリ。その個体を倒すために、いったん回復を止めて攻勢に出る。『豊四季式敷式弓』の弦をはじき、水龍を撃ち飛ばす。牙を向いた濁流が影の少女に襲い掛かる。
好きな人の事を知りたい。その為に占いをする。それ自体は許される行動だ。だが事がここまで大きくなるのなら放置はできない。先ずはこのツジモリを止めなくては。激しくなる攻撃に備え、秋人は回復に移行する。
「まだ……倒れません!」
ツジモリの冷たい手で体温を奪われ、たまきが意識を失いそうになる。命数を燃やして奪われた体温を取り戻し、なんとか意識を保った。呼吸を整えて符を構え、印を切ってツジモリに向ける。霊的な槍が影の少女を穿ち、無に帰した。
身体が痛む。意識が靄がかかったようにぼんやりとしてくる。それでも、とたまきは奮起した。負担を感じながらも未来を伝えてくれた夢見の為に。そして何の罪のない少女達に負担をかけないために。その意思を込めて頬を叩いた。
「悠乃! させてたまるかぁ!」
ツジモリの攻撃対象が悠乃に映った瞬間、態度が急変する両慈。回復を秋人に任せ、天の源素を限界まで練り上げる。源素は稲妻と化し、巨大な竜を形成する。両慈の怒りを示すように放たれた竜の雷吐息が地面を一掃する。
両慈の怒りは死への恐怖の裏返し。自分が死ぬのは怖くない。死によって生まれる喪失感への恐怖だ。自分の隣にあって当然の人。それが理不尽によって失われるのは耐えられない。死の恐怖を前に、喪われた人の顔がフラッシュバックする。
「大丈夫だから! だから回復に専念してー!」
愛する人の心配を受けながら悠乃が叫ぶ。心配してくれるのはありがたいが、戦場に立つ以上は怪我をするのは織り込み済みだ。その為に体を鍛え、危険を承知で踏み込んでいるのだ。そう、悠乃は踏み込む。相手を理解しようと。
でもこれは、と悠乃は思う。人間のように理解し合える相手ではない。わかりあえないというよりは、わかってはいけない何か。理解した瞬間に、今ある大事な何かを手放しかねない知識。根本的に人ではない何かだ。
小暮を守りながら、連携をとって攻める覚者達。ツジモリの数が減ればそれだけ覚者の勢いが増していく。
「くそ……!」
「いのりは最後まで御守りします……!」
護衛に専念していた奏空が倒れ、いのりが命数を燃やすことになるが妖の攻勢はここまで。
「これで終わりよ!」
最後の一体になったツジモリに悠乃が迫る。炎の拳を振り上げ、妖の胸に真っ直ぐ振り下ろした。闇を照らす光のように、炎がツジモリを貫き消滅させていく。
「さようなら。あなたのうしろでまってるわ――」
消滅の寸前、ツジモリの口からそんな言葉が聞こえた気がした。
●
戦いが終わり、脱力する覚者達。そして小暮もそれを察して糸が切れたように崩れ落ちた。
「私……あの子達を……」
生徒の恋心を傷つけたことを察し、落ち込む小暮。
「先生のせいじゃありませんよ。全ては妖が悪いんです」
秋人は落ち込む小暮にそう声をかける。人を好きになることが悪いわけではない。生徒に優しくするのも悪いわけではない。全てはそれを利用した妖のせいなのだ。
「お願いします。あの四人には……何も伝えないでください」
小暮の願いに頷く秋人。もし四人の少女がこのことを知れば、確かに占いは止めるだろう。願えば全国に発信して注意喚起もしてくれるだろう。だが、少女の心には『先生を殺しかけた』という傷が残る。そしてツジモリがそれを利用しないという保証はないのだ。
「そうですわね。四人の生徒に傷を残さないことが大事ですわ」
たまきも小暮の意見に同意する。真実を告げることが正しいわけじゃない。時には残酷な事実を伝えないことで守ることが出来ることもある。誰かを愛した想いが誰かを殺す毒となった。それを知ればもう誰も愛せなくなるだろう。
「悠乃、無事か! 呪いを受けていないか……!?」
戦闘終了後、両慈は悠乃に駆け寄り手当をしていた。一般的な病気や怪我はもちろん、今までの経験から呪いにかかっていないかなどを確認する。悠乃が終わった後は他の仲間を確認し始めた。
「……駄目か。死者じゃない相手に交霊術は届かないみたいだ」
奏空は残留思念と会話しようと交霊術を試みたが、返事はなかった。心霊系の妖ではあるが死者の霊ではないということなのだろう。それがかかっただけでも一つの手がかりだ。ツジモリは誰かの霊や想いではない。それを利用する別の何かなのだ、と。
「大妖や妖が人を襲う理由……」
たまきは呟き、思考に耽る。妖は人を襲う。その理由はいまだにわからない。ほとんどの妖は理性などなく会話が成立しないことが要因だ。知性や理性ある大妖なら何かしらの糸口がつかめるかもしれないが……。
「尻尾を掴むとまではいかなかったけど、取っ掛かりは得れたわね」
言って頷く悠乃。叫び声ではなく、明確に言葉を喋るランク2。心霊系のようで僅かに異なるカテゴリー。目的は人を殺すのではなく、自殺に追い込み破綻者を生むこと。FiVEが知る妖の行動に当てはまらない何か。明確な意図の元にツジモリは動いていた。そしてそれを操るのは――
●
「かごめかごめ」
一人を囲み、回転する人達。
「籠の中の鳥は、いついつ出やる」
囲まれている鳥(ひと)は何時どうやったら囲みから逃げられる?
「夜明けの晩に」
夜が明けるまで待つ? 晩まで待つ?
「鶴と亀が滑った」
長寿の鶴と亀も、滑っていなくなっちゃった。
「うしろのしょうめんだあれ?」
はいおしまい。
囲み(かご)の中の鳥(ひと)のうしろには、ひとりのしょうじょが――
ウィジャ盤が導き出した英単語。それにより殺意を抱いてしまった四人の少女。
好きな人の振り向いてほしいから、貴方は死んで。
それは人間なら誰もが思う思い。ほとんどの人間はそれを理性で封じ、あるいは受け止めて別の形で昇華する。四人の少女も行動に移すほど強い殺意は抱かなかった。
だが――その想いをなぞるように妖が動き出す。
「死の呪いを操る……か」
背筋にぞくりと走るものを感じながら『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)は思考に耽る。隙だらけの技だが、だからこそ楽観できない。それだけ時間を有する術だからこそ、その威力は想像以上のものなのだろう。喪失、永遠の別れ、離別。その感覚を思い出し、強く拳を握る。
「先の報告書からすると、ツジモリは生徒達を自殺に追い込み破綻者を生み出そうとしているのでしょう」
『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)は過去の報告書を思い出す。ツジモリと呼ばれる個体が占いを通じて自殺を促し、破綻者を生み出したケース。あのツジモリとこのツジモリの関係までは不明だが、やろうとしていることの共通点は多い。敵の数が生徒と同じというのも、ある種の皮肉か。
「大妖……の、動きの一旦 なのかなぁ」
疑問符を浮かべながら『豪炎の龍』華神 悠乃(CL2000231)は夜道を走る。後手後手の対応なのはストレスがたまるが、それでも対応しないというわけにはいかない。何が起きて、それが何なのか。その取っ掛かりさえはっきり見えないのは霧の中を歩くようで不安がある。
「まず間違いなく、大妖『辻森綾香』が関わっている」
悠乃の言葉に断言するように『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が頷いた。過日の事件で見た古めかしいセーラー服のイメージ。直接姿を見たことはないが、うわさに聞く大妖の姿と一致する。こっくりさん、ウィジャ盤、そう言った降霊術を通じて人の心を惑わし、死に誘う。決して許されることではない。
「人を想う余り、人を呪い殺害しようとしてしまう……。今も昔も、人の想い。特に恋心に関しては、普遍なものなのでしょうか……」
深くため息を吐く『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994)。同じ女性として――否、人を愛する心を持つが故、少女達の気持ちは理解できる。そう言った思いが呪を生み、事件を生み出す。陰陽術師はそう言った事例を幾つも解決してきた。ならば今回もその呪いを打ち消そう。どこにでもある少女の恋を守るために。
「彼女達の想いの為に犠牲者が出て、彼女達が責任を感じて死を選ぶのだとしたら……それは見過ごせないね」
守護使役の『ピヨ』を傍らに飛ばし、夜道を進む『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)。責任の所在はどうあれ、妖が先生を殺したことで少女達が死を選ぶというのは頂けない。ましてやそういった事件が多発しているというのなら、そこには悪意がある。それを止めなくては。
「…………っ!」
四体の妖に迫られ、声を失っている小暮。死を覚悟したのか、崩れ落ちそうに足がふらついている。
「大丈夫ですか!?」
そこに割って入る覚者達。妖も覚者にターゲットを変えたのか少し距離をとる。
恋の殺意に導かれた妖と、覚者達。その力が交差する。
●
「行くよ!」
真っ先に動いたのは奏空だ。守護使役から受け取った装備はいつもの刀ではなく、二枚の巨大な盾だ。それを両手に装着し、小暮の前に立つ。そのまま小暮を庇うように立ちながらツジモリを見た。少女のような影。薄く浮かべる笑顔が恐怖を呼び起こす。
ツジモリの手が動くと同時に、奏空の影から手のような黒い何かが伸びる。振れた物の生気を奪う影の手。それを手にした盾で防ぐ。入念に固めた防御は影の手を弾き飛ばし、手は夜の闇に溶けて消えた。
「このままゆっくりと後ろに! でもあいつから離れすぎないで!」
「貴方達は……?」
「俺達はFiVEの覚者です。詳細は後で」
一礼して秋人が構えをとる。小暮が狙われるようになった原因を説明するには時間が足りない。今は目の前の妖の排除に専念すべきだ。真摯な態度とFiVEの名前が効いたのか、小暮は頷き指示に従う意思を示す。
その態度に頷き、秋人は術を展開する。ツジモリが与えてくる呪いの技。その呪いによって傷ついた者を射癒すべく水の源素を展開する。降り注ぐ小雨は癒しの力をもって覚者達の傷を冷やし、そして痛みを消していく。
「回復は俺に任せてくれ」
「では私は攻撃に専念しますね」
秋人の言葉に頷くたまき。ツジモリが影を媒体とした心霊系妖であるのなら、術式の防御は弱いはず。そう信じて防御を捨てての攻撃専念だ。勿論、頼れる仲間が他の行動を担ってくれると信じての判断でもある。
『大護符』を手に源素を調律するたまき。この世にある力。自分の中にある力。自然と自分を繋ぎ、力を融合させる。五行の一端を司り、その力の矛先を変えるのが陰陽術。符を通して大地に伝わった力が槍となり、ツジモリを穿つ。
「あなたが占いの結果に生まれたというのなら、それを止めるのが陰陽術師の使命です!」
「先生を、そして四人の生徒を守って見せます!」
小暮と妖の間に立ちふさがるいのり。ツジモリの狙いが少女を絶望させ、破綻者にさせる事ならばその絶望の原因を防げばいい。ここで先生を殺させないことが彼女達を救うのだ。先の事件では自殺を未然に防げなかった。今回こそは――
神具を振りかざし、天に向ける。いのりの体の中をめぐっていた源素が神具に集中するのを感じていた。天を向く神具に導かれるように源素は天に向かって飛び、空中で爆ぜて細かな鏃となる。それは流星の如く妖に降り注ぎ、細かな傷を与えていく。
「人を愛する気持ちをそんな事の為に利用するあなたは決して許せない!」
「そうだな。愛する気持ちが原因で悲劇が起きるのは許せるものではない」
いのりの言葉に頷く両慈。人を愛する気持ちはだれもが持っていて、だからこそ生まれた少女達の殺意も致し方ないものだ。それを利用して人の命を奪い、それを足掛かりに絶望に追いやる妖。そのような存在を許せるはずがない。
妖の指が『D』の文字を描く。その動作を見て両慈は攻勢に転じた。自らの二つ名である『雷麒麟』。その名に恥じぬ雷撃がツジモリを襲う。死の呪いともいえるウィジャ盤の五文字。それを描かせるわけにはいかないという強い感情と共に落雷が轟いた。
「死を、もう二度と俺の仲間に降り注がせてなるものか……! 気を付けろ、悠乃!」
「大丈夫。できればゆっくり時間をかけて調べたいけど……」
そんな余裕はない、と好奇心を押さえる悠乃。これが大妖の行動の一つで何らかの意図があるというのなら、それを調べることで解決の糸口がつかめるかもしれない。だが、この攻撃を黙って受けるつもりは流石になかった。
『幻想発現・人中驪竜』を手に源素を高めていく悠乃。大地を横に裂くように腕を振るうと同時に、高めた源素を解放する。悠乃の腕の動きを追うように地面に赤い線が走り、焔の柱が大地を走った。燃え盛る炎がツジモリを焼いていく。
「わかりあうことは決してできないのだろうけど、対応のために理解を深めないと」
悠乃を始めとして、覚者達はツジモリの言葉を聞き逃さまいと意識を高めていた。大妖が関係する妖だ。通常の妖とはまた理が違うのかもしれない。
だが、聞けたのは意味のない呟きだった。
「まさくんまさくんまさくんまさくん」
「飯田先輩飯田先輩飯田先輩」
「飯田君飯田君飯田君」
「ダーリンダーリンダーリン」
それぞれが違う言葉。最初は意味が解らなかった覚者達だが、顔を青ざめた小暮の一言で全てが理解できた。
「坂田さんに、奥村さん、月島さん、フォーバーさん……。まさか……」
四種類のツジモリの声は、四人の少女の愛する人に対する呼称だった。好きな人の名を呟きながら、自分を殺そうとする妖。その意味に気づかない小暮ではなかった。
「落ち着いてください! あれはただの妖です!」
パニックに陥りそうになった小暮を制したのは、いのりの一言だった。あれはただの妖。呟く言葉も意味を為さず、本能のままに人を襲う存在。ランク2の妖の特徴そのものだ。
「だけど――ああ……!」
パニックこそ起こさなかったが、小暮の精神的な傷は大きい。彼女達の愛する人と悪くない関係を結び、その恋心を傷つけてしまった事。知らなかった。そのつもりはなかった。だけど結果として自分は四人を追いやってしまい――
覚者達が割って入らなければ、小暮には逃げる選択すら生まれなかっただろう。自責に追いやられた小暮。その原因を作った少女の想い。それを目の当たりにした少女達もまた自責により自死を選ぶ。
だがその悲劇は迎えさせない。覚者達はその意思を込めてツジモリに向き直った。
●
ツジモリの事件はそれを見る夢見にジャミングをかけている。
予知そのものの阻害や、夢見本人に対する精神的な攻撃。それにより覚者の初動が遅れ、悲劇を生み出すことになる。
(うしろのしょうじょ……夢見に干渉できるなにか。辻森綾香が係わっているというのなら、その正体は――)
繋がりそうで繋がらない糸。直線状にあるように見えて、途切れそうなか細い道。仮説を証明するにはサンプルケースが足らなすぎる。
だから積み重ねるのだ。シャーロックホームズとて無から事件は解決できない。
「やっぱりこっちを狙ってくるか……!」
小暮をガードしていた奏空が死の指先を受けて膝をつく。ツジモリの狙いはあくまで小暮。優先順位度はその周りにいる者からなのだろう。まだ倒れるわけにはいかないと命数を燃やし、呼吸を整え立ち上がる。
奏空がツジモリの影を移そうとヘッドライトを向ける。しかしそこには何もなかった。光を受けた影自体が存在していないのだ。心霊系故に実体がないからなのだろうか。それとも『ここにはいない』ということなのだろうか。
「なんて非道! 純粋な思いを利用するなんて!」
激昂するいのり。かのじょもまた大きくダメージを受けていた。影の手に捕らわれて奏空が動けなくなっていた時、いのりが小暮を庇っていたからだ。その事もありツジモリは彼女も集中的に狙うことになる。
ただの人を因子発現させ、一気に破綻者化する。ただそれだけのためにどれだけの少女の心に傷をつけたのか。どれだけの命を奪って来たのか。夢見すら感知できない事件もあったのだろう。それを思うといのりは悔しくなる。この力は人を守るためにあるのだから。
「死の指先を使うツジモリを優先的に……かな」
状況を鑑みて秋人が攻撃対象を絞る。高い攻撃を行うために文字を描き始めるツジモリ。その個体を倒すために、いったん回復を止めて攻勢に出る。『豊四季式敷式弓』の弦をはじき、水龍を撃ち飛ばす。牙を向いた濁流が影の少女に襲い掛かる。
好きな人の事を知りたい。その為に占いをする。それ自体は許される行動だ。だが事がここまで大きくなるのなら放置はできない。先ずはこのツジモリを止めなくては。激しくなる攻撃に備え、秋人は回復に移行する。
「まだ……倒れません!」
ツジモリの冷たい手で体温を奪われ、たまきが意識を失いそうになる。命数を燃やして奪われた体温を取り戻し、なんとか意識を保った。呼吸を整えて符を構え、印を切ってツジモリに向ける。霊的な槍が影の少女を穿ち、無に帰した。
身体が痛む。意識が靄がかかったようにぼんやりとしてくる。それでも、とたまきは奮起した。負担を感じながらも未来を伝えてくれた夢見の為に。そして何の罪のない少女達に負担をかけないために。その意思を込めて頬を叩いた。
「悠乃! させてたまるかぁ!」
ツジモリの攻撃対象が悠乃に映った瞬間、態度が急変する両慈。回復を秋人に任せ、天の源素を限界まで練り上げる。源素は稲妻と化し、巨大な竜を形成する。両慈の怒りを示すように放たれた竜の雷吐息が地面を一掃する。
両慈の怒りは死への恐怖の裏返し。自分が死ぬのは怖くない。死によって生まれる喪失感への恐怖だ。自分の隣にあって当然の人。それが理不尽によって失われるのは耐えられない。死の恐怖を前に、喪われた人の顔がフラッシュバックする。
「大丈夫だから! だから回復に専念してー!」
愛する人の心配を受けながら悠乃が叫ぶ。心配してくれるのはありがたいが、戦場に立つ以上は怪我をするのは織り込み済みだ。その為に体を鍛え、危険を承知で踏み込んでいるのだ。そう、悠乃は踏み込む。相手を理解しようと。
でもこれは、と悠乃は思う。人間のように理解し合える相手ではない。わかりあえないというよりは、わかってはいけない何か。理解した瞬間に、今ある大事な何かを手放しかねない知識。根本的に人ではない何かだ。
小暮を守りながら、連携をとって攻める覚者達。ツジモリの数が減ればそれだけ覚者の勢いが増していく。
「くそ……!」
「いのりは最後まで御守りします……!」
護衛に専念していた奏空が倒れ、いのりが命数を燃やすことになるが妖の攻勢はここまで。
「これで終わりよ!」
最後の一体になったツジモリに悠乃が迫る。炎の拳を振り上げ、妖の胸に真っ直ぐ振り下ろした。闇を照らす光のように、炎がツジモリを貫き消滅させていく。
「さようなら。あなたのうしろでまってるわ――」
消滅の寸前、ツジモリの口からそんな言葉が聞こえた気がした。
●
戦いが終わり、脱力する覚者達。そして小暮もそれを察して糸が切れたように崩れ落ちた。
「私……あの子達を……」
生徒の恋心を傷つけたことを察し、落ち込む小暮。
「先生のせいじゃありませんよ。全ては妖が悪いんです」
秋人は落ち込む小暮にそう声をかける。人を好きになることが悪いわけではない。生徒に優しくするのも悪いわけではない。全てはそれを利用した妖のせいなのだ。
「お願いします。あの四人には……何も伝えないでください」
小暮の願いに頷く秋人。もし四人の少女がこのことを知れば、確かに占いは止めるだろう。願えば全国に発信して注意喚起もしてくれるだろう。だが、少女の心には『先生を殺しかけた』という傷が残る。そしてツジモリがそれを利用しないという保証はないのだ。
「そうですわね。四人の生徒に傷を残さないことが大事ですわ」
たまきも小暮の意見に同意する。真実を告げることが正しいわけじゃない。時には残酷な事実を伝えないことで守ることが出来ることもある。誰かを愛した想いが誰かを殺す毒となった。それを知ればもう誰も愛せなくなるだろう。
「悠乃、無事か! 呪いを受けていないか……!?」
戦闘終了後、両慈は悠乃に駆け寄り手当をしていた。一般的な病気や怪我はもちろん、今までの経験から呪いにかかっていないかなどを確認する。悠乃が終わった後は他の仲間を確認し始めた。
「……駄目か。死者じゃない相手に交霊術は届かないみたいだ」
奏空は残留思念と会話しようと交霊術を試みたが、返事はなかった。心霊系の妖ではあるが死者の霊ではないということなのだろう。それがかかっただけでも一つの手がかりだ。ツジモリは誰かの霊や想いではない。それを利用する別の何かなのだ、と。
「大妖や妖が人を襲う理由……」
たまきは呟き、思考に耽る。妖は人を襲う。その理由はいまだにわからない。ほとんどの妖は理性などなく会話が成立しないことが要因だ。知性や理性ある大妖なら何かしらの糸口がつかめるかもしれないが……。
「尻尾を掴むとまではいかなかったけど、取っ掛かりは得れたわね」
言って頷く悠乃。叫び声ではなく、明確に言葉を喋るランク2。心霊系のようで僅かに異なるカテゴリー。目的は人を殺すのではなく、自殺に追い込み破綻者を生むこと。FiVEが知る妖の行動に当てはまらない何か。明確な意図の元にツジモリは動いていた。そしてそれを操るのは――
●
「かごめかごめ」
一人を囲み、回転する人達。
「籠の中の鳥は、いついつ出やる」
囲まれている鳥(ひと)は何時どうやったら囲みから逃げられる?
「夜明けの晩に」
夜が明けるまで待つ? 晩まで待つ?
「鶴と亀が滑った」
長寿の鶴と亀も、滑っていなくなっちゃった。
「うしろのしょうめんだあれ?」
はいおしまい。
囲み(かご)の中の鳥(ひと)のうしろには、ひとりのしょうじょが――
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
つ か ま え た
