<<うしろのしょうめん>>盤面メディケイション
●
「囲め、囲め。 妖(かごのなかのとり)はいついつでやる
夜暁の番に、弦と仮面が すべった。後ろの正面、だぁれ?」
●
少女たちは文字の書かれた紙の上に乗せた銅の硬貨に指を乗せる。
「うしろのしょうめんだぁれ。うしろのしょうめんだぁれ」
その言葉に反応して、硬貨は動きはじめる。
「ねえ、あのこの好きなひとはだれ?」
「明日のテストはどこがでる?」
「明日の天気はなぁに?」
他愛のない質問。うしろのしょうじょ様は少女たちの質問に答える。
その的中率はおおよそ99%。
「ねえ、うしろのしょうじょ様、あいつをひどい目にあわせて」
「ねえ、うしろのしょうじょ様。いじめっ子を、いなくして」
やがて、万能性を帯びたその概念に、相手の死を願うものも現れる。その願いは果たされる。
強い力には代償がある。
その代償は――。
●
「皆さん、あつまってくださってありがとうございます~」
おっとりとした口調で 久方 真由美(nCL2000003)が君たちに話しかける。しかしいつもより精彩がない。疲れているようにもみえる。
「みなさんはこっくりさんとかウィジャボードとかエンジェルさんとか、いわゆるテーブルターニングって知っていらっしゃいますか?」
それは1970年台に爆発的に少女たちの間で流行った降霊遊びのことである。
日本ではそれはこっくりさんとよばれ、文字の書かれた紙の上に置かれたコインに参加者全員で指を置き質問するとコインが動き、その質問の答えがわかるというオカルト的な遊びだ。
その遊びが40年の時を経て、最近使われるSNSで拡散され少女たちの間でブームを起こしているのだ。
「それが遊びだけなら、問題はないのですけど~」
遊びだけなら、深層心理だの、集団催眠だのいくらでも理由がつく。しかし違うから覚者たちがよびだされたのだ。
「政府の方からも禁止の通達は出しているのですが、それでもこのブームは止められなくて」
「で、何がおこるの? 政府がでるってことはただならないことなんでしょ?」
「はい、集団自殺です」
「集団自殺?」
「このこっくりさん、彼女らは『うしろのしょうじょ様』と呼称しているのですが、それをやった少女たちは必ず集団自殺を起こします。それに――」
真由美は目を伏せ言葉を区切る。
「うしろのしょうじょ様で人を殺すことを願うとそれがかなってしまうのです」
「まじかよ」
「あと……」
「あと?」
「なぜか、完全には夢見のちからが働きません。普通なら止めれる集団自殺も見えないことがあります」
もともとヒトユメのその力は狙って、確実に、ピンポイントにその事件を夢見るわけではない。とは言え、集団自殺。それも妖が関わっているような事件を見逃してしまうことが少なくないというのはいくらなんでもおかしすぎる。
「今回の件は、その集団自殺起こってしまいました」
真由美は一層いたましげに眉を顰めた。事前に予知できなかった自分の無力さが悔しい。
「集団自殺をした中の一人は助かりました」
「よかった」
「はい、よかったのですが、彼女は覚者となりました。暫くは病院に入院していたのですが、姿が消えました。その彼女が、人を殺します。お願いします。せめてそれだけは止めてください」
集団自殺から覚者になることによって助かった少女は、繁華街に出て無差別の殺戮を行おうとしている。半分破綻者になりかけている彼女は、どうやら何者からか、囁かれているらしい。
その存在がいることがわかるのだが、夢にノイズがはいりそれも定かではないのだ。
そのノイズの原因も含め調べることも任務のうちである。
「みなさん、よろしくおねがいします」
言って真由美は深々と頭を下げた。
●
「ねえ、どうして貴方だけのこったの? 皆、皆、死んでしまったのに。貴方だけ生き残って
それでいいの? ねぇ? 酷いわ。酷いわ。酷いわ」
「囲め、囲め。 妖(かごのなかのとり)はいついつでやる
夜暁の番に、弦と仮面が すべった。後ろの正面、だぁれ?」
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少女たちは文字の書かれた紙の上に乗せた銅の硬貨に指を乗せる。
「うしろのしょうめんだぁれ。うしろのしょうめんだぁれ」
その言葉に反応して、硬貨は動きはじめる。
「ねえ、あのこの好きなひとはだれ?」
「明日のテストはどこがでる?」
「明日の天気はなぁに?」
他愛のない質問。うしろのしょうじょ様は少女たちの質問に答える。
その的中率はおおよそ99%。
「ねえ、うしろのしょうじょ様、あいつをひどい目にあわせて」
「ねえ、うしろのしょうじょ様。いじめっ子を、いなくして」
やがて、万能性を帯びたその概念に、相手の死を願うものも現れる。その願いは果たされる。
強い力には代償がある。
その代償は――。
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「皆さん、あつまってくださってありがとうございます~」
おっとりとした口調で 久方 真由美(nCL2000003)が君たちに話しかける。しかしいつもより精彩がない。疲れているようにもみえる。
「みなさんはこっくりさんとかウィジャボードとかエンジェルさんとか、いわゆるテーブルターニングって知っていらっしゃいますか?」
それは1970年台に爆発的に少女たちの間で流行った降霊遊びのことである。
日本ではそれはこっくりさんとよばれ、文字の書かれた紙の上に置かれたコインに参加者全員で指を置き質問するとコインが動き、その質問の答えがわかるというオカルト的な遊びだ。
その遊びが40年の時を経て、最近使われるSNSで拡散され少女たちの間でブームを起こしているのだ。
「それが遊びだけなら、問題はないのですけど~」
遊びだけなら、深層心理だの、集団催眠だのいくらでも理由がつく。しかし違うから覚者たちがよびだされたのだ。
「政府の方からも禁止の通達は出しているのですが、それでもこのブームは止められなくて」
「で、何がおこるの? 政府がでるってことはただならないことなんでしょ?」
「はい、集団自殺です」
「集団自殺?」
「このこっくりさん、彼女らは『うしろのしょうじょ様』と呼称しているのですが、それをやった少女たちは必ず集団自殺を起こします。それに――」
真由美は目を伏せ言葉を区切る。
「うしろのしょうじょ様で人を殺すことを願うとそれがかなってしまうのです」
「まじかよ」
「あと……」
「あと?」
「なぜか、完全には夢見のちからが働きません。普通なら止めれる集団自殺も見えないことがあります」
もともとヒトユメのその力は狙って、確実に、ピンポイントにその事件を夢見るわけではない。とは言え、集団自殺。それも妖が関わっているような事件を見逃してしまうことが少なくないというのはいくらなんでもおかしすぎる。
「今回の件は、その集団自殺起こってしまいました」
真由美は一層いたましげに眉を顰めた。事前に予知できなかった自分の無力さが悔しい。
「集団自殺をした中の一人は助かりました」
「よかった」
「はい、よかったのですが、彼女は覚者となりました。暫くは病院に入院していたのですが、姿が消えました。その彼女が、人を殺します。お願いします。せめてそれだけは止めてください」
集団自殺から覚者になることによって助かった少女は、繁華街に出て無差別の殺戮を行おうとしている。半分破綻者になりかけている彼女は、どうやら何者からか、囁かれているらしい。
その存在がいることがわかるのだが、夢にノイズがはいりそれも定かではないのだ。
そのノイズの原因も含め調べることも任務のうちである。
「みなさん、よろしくおねがいします」
言って真由美は深々と頭を下げた。
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「ねえ、どうして貴方だけのこったの? 皆、皆、死んでしまったのに。貴方だけ生き残って
それでいいの? ねぇ? 酷いわ。酷いわ。酷いわ」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.破綻者の少女が破綻しきらない
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
自分でも正式名称をタイプするのめんどいです。
繁華街で暴れる破綻者になりかけの少女をなんとかしてください。
皆様と出会い2ターン後に破綻します。破綻したてで深度は低いのですが、どうも様子がおかしいです。
夢見はそれがなにかはわかりませんが現地についたらわかるのでエネミー詳細は以下に。
破綻者になりかけの少女
翼の因子の火行の覚者です。状況的には隔者ですが。破綻しかかっています。
皆さんの到着後2ターンで破綻します。
火行の中級の術式を使います。術式が強いかんじで体力も低くはありません。
体術で回復もできます。
彼女はどうも追い詰められているようです。
追い詰められてなにもかもがわからなくなってしまって強行に及ぶようです。
ツジモリ
妖 ランク2が4体。
少女の形の影です。一般人を操れます。一般人にとっては彼女のいうことは聞かないといけないとおもわせます。
覚者にも声はきこえます。今回の少女はその言葉をはねのけることもできずにどんどん追い詰められています。
貫通攻撃、全体に弱体化を促す攻撃などがあります。
ツジモリがいなくならない限りは少女の破綻度はどんどん上がっていきます。
深く深く破綻して深度3になってしまったら、失敗です。
破綻した彼女は呼び声に答えどこかに消えてしまいます。
ロケーション
繁華街の横断歩道のどまんなか。AAAの職員も出てきて一般人の避難は手伝ってくれます。
もたつくと一般人に死者はでますが、今回は破綻者の少女を止めることが最優先ですので
一般人が死んでも失敗にはなりません。
以上よろしくおねがいします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
8日
8日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年07月01日
2018年07月01日
■メイン参加者 8人■

●
「少女時代特有の、一種の集団ヒステリーがもたらした悲劇……と言うには厄介ですね」
40年前のブームの時はそのような解釈がされ、徐々にブームは去っていった。こっくりさん。狐狗狸。狐の化かしごとの管轄だ。
事前に左輔に尋ねれば、40年前のそのブームと今回の差異について、何らかの答えは得ることができたかもしれない。
それはともかくとして、しょうじょさまに願いを叶えてもらう対価は自らの命。釣り合いが取れているとは到底思えない。
『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695) は後ろを走る『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015) をちらりと見る。
「燐ちゃんは、学校でこういうおまじないって聞いた事はあるのかな?」
その視線に答え、女の子はオカルトが好きそうだけど、と恭司が質問をする。燐花が通っているのは五麟学園である。早々に教員から注意のお達しは受けている。彼女とてその話題はそのときに知ったばかりだ。
「ん……。名前を聞いたことがある……くらいでしょうか」
そもそもオカルトには興味はない。――道聴塗説、街談巷説。いわゆるオカルトが日常と化している覚者であればそうなってしまうのも無理はない。彼ら、彼女らにとって、オカルトと現実の差異などないも同然だ。
とまれ、現場についた燐花は目を細め、踏み込んだその勢いのままに少女の影を両の手に持つ小刀を交差させ竜の御業でもって斬りつけた。
『うしろのしょうめんだぁれ。うしろのしょうめんだぁれ』
どこからか聞こえる聲。姿は見えない。けれどどこかにいると思えるその聲の主の行方はわからない。
『眩い光』華神 悠乃(CL2000231) と『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570) 、『月々紅花』
環 大和(CL2000477) のエネミースキャンが空間を走る。
少女の影が『ある』。それはわかる。どのような能力をもつのか。おおよその体力値は理解できる。それほどまでに強い敵ではない。
なのに、だというのに、『その場所にいない』とスキャン結果は示しているのだ。
「なに、これ……? こんなの見たことない。あるのに、見えているのに、いない」
悠乃が呆然とつぶやく。
「ああ、俺らの目がおかしくないんならそいつはそこにいる」
直斗も同じようにつぶやく。
「……うしろにたつ少女、ツジモリアヤカ……。不確定名称、とりあえずツジモリと呼ぶわ。とにかく放置はできないのだから、たおしましょう」
考えるのはあとだと、大和も告げる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの!」
悲鳴のような少女の声。彼女は姿の見えない聲に唆され、覚者としてのあり方を崩していっている。両手を振り回しなにかから逃げているようにもみえる。
「皆さん、ここは危険です! 俺たちは『FiVE』です! 事態収拾に来ました! 皆さんに危険は及びません! AAAの指示に従って移動してください!」
転びそうになっている子供を助け起こしながら、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955) はワーズワースを用いて避難誘導を手伝う。
FiVE、そしてAAAの名前は今や日本を守護する対アヤカシの専門組織であると広まっている。その上工藤・奏空という少年は、そのFiVEでも有数の有名人だ。一般人達は素直に彼の誘導に従って避難経路に急ぐ。
(うしろのしょうじょというキーワードから導き出されるのは大妖『後ろに立つ少女』辻森綾香。十中八九そいつが関わっているって思うけど)
とにかく今は一般人の退避が重要だ。
『悪食娘「グラトニー」』獅子神・玲(CL2001261) もその誘導にあわせ結界を展開していく。これでこの騒ぎによって興味をひかれて近づいてくる一般人は少しは減らすことができるはずだ。
(ふざけた、手口……追い詰めて、破綻させて……そんなの……)
彼女は元破綻者である。それによって失ったものがある。この少女だってこのまま破綻してしまえば、何かを失う。
いや、彼女はすでに『一緒にうしろのしょうじょ様を遊んだ友人たち』を無くしている。
ぞくりと背筋が凍る。怖い。怖い。怖い。きっと後悔をするだろう。やり場のない怒りと苦しみが襲うだろう。それが怖い。
「玲さん!」
温かい声が聞こえる。恋人の声が。この声があるから頑張れる。
目元に浮かんだ涙を片手で拭って、直斗に頷く。
当の直斗は、様子のおかしかった恋人が持ち直したことにホッとする。
(……ったく! ぶっちゃけツジモリなんざ興味はねえ。集団自殺なんてどうでもいい。だけど、玲さんは人一倍「破綻者」に感情移入しちまう人だ。放っておいたら玲さんが傷ついちまうんだよ)
とは言え、相手のことはこの世界にいてこの世界にはいないというどうにも気持ちの悪い結果がでただけだ。しかしツジモリは倒せる相手だ。全部全部、ぶっ殺してやる。
仇華浸香が直斗を中心に広がり、ツジモリの動きを鈍くさせていく。
「悠乃」
前衛達がツジモリをブロックし、状況が整ったところで、言葉少なに、『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603) が愛しい妻の名を呼べば悠乃はうん、と頷き少女の元へ向かう。
「私は悠乃。こっちは両慈さん。周りのみんなも、ファイヴの覚者よ。あなたは?」
「やだ、やだ。私、だって! 飛び降りて、気がついたら病院で、みんないなくて!」
「落ち着け、大丈夫だ」
「私、私、死ねって、生きていちゃだめなの? だって一人残って」
「お前は生きていて良い。お前達は道を誤ったが、誤ったらまた戻れば良いのだ。それが、人なのだ」
「間違ったの? 好奇心で、ただ、テストが何が出るかきいただけなのに……!」
少女の姿がじわじわと変形していく。翼が肥大し、羽毛がボロボロと抜け落ちて、骨になる。異形の姿になっていく。
――破綻。
追い詰められた覚者が堕ちる、『そちら側』。
『そうよ、そうよ。そうなればいいの。『こちらがわ』にいらっしゃい。可愛い子。もっともっと、もっとこっちに』
どこからか聞こえる聲は一層嬉しそうに響く。
「こちら、側?」
その不自然な言葉に悠乃は疑問符を浮かべる。
彼女はもともと源素について調べてきた。この源素の解明が彼女の覚者たる目的でもあった。
何かが、何かが繋がりそうな気がする。しかし筋道のたった仮説すら思い浮かばない。もう少し。もう少しなにかがあれば。
ちからある悪意。もしくは、質量のある悪意。それがくらやみの向こうから手招きをしているような気がする。
この戦いに時間はかけれない。燐花はそう思う。
直感的にこのツジモリを消せば少女の破綻深度は止まるだろうことはわかる。
「貴方は、少女たちをみんな自殺に見せかけて殺すつもりが、覚者になって失敗したのですか?」
疑問が口をついてでる。
『いいえ、いいえ。成功よ。成功したの』
「成功……?」
『うふふ。本当ならもっともっと成功してイイはずなのに。少女たちは素材よ』
「素材、ねえ」
雷獣を展開し、中衛から攻撃を重ねている恭司がその言葉に反応する。
「その『素材』とやらは少女でないとだめってことか」
彼は自分で『うしろのしょうじょ様』を試すつもりだったが、少女ではない彼では無理であろう。だとしたら大切にしている子猫なら……いやいやありえない。彼女が危険な目にあうのは看過できない。それに、ツジモリは言った。
『集団自殺を経て、そのうちの一人が覚者になったことが成功であると』。
少女は素材。集団自殺は調理、出来上がったものは覚者。そして破綻をさせようとしている。
「いやいや、なんて、悪趣味な」
思い描いたその連想を恭司は首を振って否定する。妖が、いや大妖である辻森綾香は何をしようとしているのだ。
少女の破綻者を増やす? どういった理由で?
「破綻してしまったのね」
大和は長い睫毛を伏せ、いたましげに少女を見る。ならばやることは変わらない。
破綻者への対応は手慣れたものだ。
まだ少女は戻ることができる。声をかけながら、一度戦闘不能にして暴走した源素を落ち着かせる。
『聲』はいまだ少女を追い詰めている。ここからは時間との勝負だ。ツジモリを排し、少女を戦闘不能にする。それを迅速に行わなくてはならない。故に雷獣を脣星落霜に切り替え少女への攻撃も始めた。
「破綻してしまったのなら仕方ないわ。まだ治せるのならそうするべきよ」
その言葉に少女に対応していた悠乃と両慈も頷き少女への攻撃へシフトする。
奏空も、少女に「必ず助けるから」と送受信・改を送るが、杳として少女の返答はない。しかし、彼女の思考の断片から受け取るそのヴィジュアルは銀色の大きな鋏。
(やっぱり、裏には辻森綾香が潜んでいる……!なら……)
奏空はその思考の先をツジモリに向ける。
「……ッ!」
見えたヴィジュアルはノイズ。思考を侵食する、ノイズだ。奏空は即座にその接続を破棄する。
夢見の夢とは違うのだろうが、こんなのを夢見たちは拾い上げていたのか? 自我を持ったまま、ノイズに追われて侵食に抵抗しながら。疲れ果てた真由美の表情を思い出す。
こんなのにさらされて疲れないはずはない。当の奏空ですら、体を倦怠感が取り巻いている。ツジモリに攻撃を仕掛けるが思った程のダメージはでていない。
フォローするように恭司と大和が雷獣と、脣星落霜を振らせ、玲の演舞・舞音が、奏空の倦怠感を取り除かんと発動される。
戦況は変わらない。何がおかしいのか嗤い続けるツジモリをかき消すために覚者たちは自らの得意とする攻撃を叩き込む。
ダメージがかさめば、両慈と恭司の回復が皆を癒やす。落ち着いて戦えば決して負けるような相手ではない。なのに不安感だけがいや増す。
何度目かの燐花の激鱗によって、影がかき消えた。しかしまだ聲はとまらない。
『あなたはひどい子よ。他の子はみんな死んだのに。貴方だけが生き残った。裏切り者。裏切り者は、こちらにしかこられない』
ツジモリ達はなおも少女を苛む。故に少女は暴れ続ける。体術は封じられた。自分にできることがなにかは少女にはもうわからない。裏切り者の私はしぬのが正しいの? そう思った瞬間だった。
「生き残って何が悪いの!!」
大声で否定したのは玲だ。
「お願い! その声に耳を傾けちゃダメ! 貴方だけが生き残ってしまった事に罪悪感を感じるかもしれない……それでも貴方は生きて……幸せになるの!そうしなきゃ! 亡くなった人たちも浮かばれないの!」
それは心からの叫び。自分に言い聞かせているようなものだ。
もしかすると彼女が、彼女の友達はツジモリに誰かの死を願ったのかもしれない。それでも。それでも。
友人の死は、集団自殺はそのリスクに対するリターンだ。自業自得なのかもしれない。それでも、生き残ったのだ。だから命は大切にしてほしい。生き残ることが罪であるのならば、その贖罪は幸せに生きることだ。
「いいの?」
「いいに決まってるでしょう? ゆっくり呼吸して。大丈夫、あんなヤツらに連れて行かせなんて、しないよ」
自らに触れる悠乃の手は温かい。ぽろぽろと涙が溢れる。彼女は自らの怪我を顧みず、側にいてくれた。
少女が起きてからこっちずっと生き残ったことを責められ続けてきた。覚者たちの優しい言葉は今になってゆっくりと少女に染み込んでいく。
「私を助けて」
少女は懇願する。
「当たり前だっつの!」
直斗はその後に小さく玲さんのためにだけどな、と付け加えるが。
「痛いかもしれねえが、我慢しろよ!」
白兎は、深化した獣の因子の奥義を少女に叩き込む。その後は無防備になるがしったこっちゃねえ。助ける。そう決めたから後のことは気にしても仕方ない。
その一撃をくらった少女は昏倒する。
『覚者、覚者、また邪魔をするのね、そう」
聞こえるのは夢うつつから聞こえていたような聲とは違う、質量を持った聲。
「いいわ。今日のところは……」
磨かれた燐花の小刀に白い女の横顔が映る。
「燐ちゃん!」
恭司はすぐに燐花に駆け寄り、小刀を手から棄てさせた。
「また、会いましょう、うしろのしょうめんで』
周囲の残っていたツジモリが消える。
まるで今までなにもなかったかのようにあっけなく。
「悠乃! 無事か!?」
ツジモリが消えるやいなや両慈が傷だらけの悠乃と少女のもとにかけより応急手当をする。
「ちょっと大げさよ! 両慈さん」
そういいながらも悠乃はまんざらでもなさそうだ。
両慈は医療知識でもって、少女の応急手当を終えるとAAAを呼び、然るべき病院への搬送を依頼する。
「悠乃」
「なに?」
「あんまり無茶はするな」
そういった彼の目があまりにも深刻だったから。
悠乃はくすりと目を細めた。
「……ッ!」
「よくやった、玲さんは頑張ったぜ」
自らの腕の中で泣きじゃくる玲の頭を撫でながら、直斗が驚くほど優しい声で慰めている。
「玲さんはほんとによく頑張った」
腕の中の少女は何度も何度も頷いた。助けることができた。
それが嬉しくて、嬉しくて仕方なかった。
大和は思う。少女たちの好奇心をくすぐるなんて許せないと。彼女の瞳は静かな闘志を湛えてツジモリが消えたその場所を見つめていた。
奏空は未だ倦怠感の残る体に鞭打ち、その場に念の為エネミースキャンを走らせる。ノイズがないかと。
しかしそこにはなにもない。
綺麗さっぱり。まるで夢のように消えてしまったのだ。
夢のように。
自分でしたその形容に奏空は引っかかりを感じる。
夢見へのノイズ。
それは夢見が観測することのできなかったツジモリであることは理解した。
燐花の小刀に映し出された少女。やけに古めかしいセーラー服の朱いスカーフが目についたその大妖が動き始めている。
「まだ、七星剣もいるっていうのに」
そのスカーフの朱の不吉さを奏空はそう毒づくことで、払拭した。
●
後日のことである。
燐花は恭司とともに花束を抱えて少女の病室に向かう。
その時の話を聞くなんて、少女にとっては厳しいことかもしれない。だけれでもその情報が、未来に齎される不幸を回避できる一手になるかもしれないのだ。
少女は思ったよりも快く話をし始めた。二人はその言葉を逃さぬように集中する。
「その時のことですか? よくわからないままにうしろのしょうじょ様を終えた私達はそのまま家に帰りました。そして夢を見ました。私を呼ぶ夢。怖い、昏い場所へ。それから夢か現実か曖昧になっていきます。数日後の夜、校舎の屋上にいました。いえ、時間軸を後できいたら数日後だったようです。正直夢か現実か私には判断できませんでした。友達も一緒で同じ時間に校舎の屋上。でも、夢じゃなかったんですね。地面にうちつけられる瞬間私だけ、覚者として発現し、浮かび上がりました。その時聞いたんです。『ああ。私と同じ』だって」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
