火の怪
火の怪


●邪念の火
 それは夏の日差しの下、赤々と燃えていた。
「ホース急げ!」
「逃げ遅れた住民は居ないか!?」
 火の粉を浴びながら、銀の服の消防士達が声を張る。彼らの視線の先にあるのは燃える火の山、火災が発生した一軒の家である。
「住民の避難完了しました!」
「ポンプ定位置、ホース問題ありません。行けます!」
「よし、消火活動開始!」
 隊長格の人物の号令に合わせて一斉放水が始まった。肌を焼く熱い火を前にして、彼らは一歩も引かなかった。
「放水、止め!」
 しばらくの後、燃え盛る炎は鎮火する。
 火元となった建物こそ全焼したが、周囲の建物に目立った損傷もなく遠巻きの見物人達はホッと胸を撫で下ろした。
「燻ってる火がないか確認。消火器持っていくぞ!」
 不幸な事故。誰しもがそう思う中、消防士達は焼け跡となった場所へと足を踏み入れる。
 ――その時だった。

「燃え残っている火元を確認、消火を……なっ、うわっ!」
「どうし、うわあああ!!」
 炎を前にして恐れの声を一つも上げなかった彼らから、突如として恐怖の叫びが上がる。
 ホースの片付けで後続となった消防隊員がその様子をハッキリと目にしていた。
「火、火がひとりでに……!?」
 彼の口から零れた言葉の通りに、それは行われている。
「熱い熱い……! ぎゃーーー!!」
 火が、消防士達を呑み込み焼き尽くしていた。
 ある者は足元から巻き上がった火に全身を包み込まれて、ある者は逃れようとする背中に大きな火の塊を浴びて。
 それらはまるで意志を持っているかのように、消防士達を狙い澄まして焼いていた。
「まさかこれは。この火元は……!」
 それが、立ち尽くす消防隊員の最期の言葉となった。

●火消しの依頼
 会議室に集合した覚者達に向かい合い、夢見である久方 真由美(ID:nCL2000003)は席に着くよう促した。
「皆さん。集まってくれてありがとうございます。焦らず、慌てず、まずはお茶でもどうぞ」
 落ち着いた様子の彼女が、テーブルに人数分のお茶を用意し配っていく。それは戦いを前にして気持ちが逸る覚者への、彼女なりの気遣いだろう。
「資料はテーブルに、それでは説明を始めます」
 事務的でありつつも、真由美は生来の柔和さで言葉を紡ぐ。
 資料には古い絵巻の写真が貼られており、自らの体の炎で人々を焼き尽くす妖の姿が描かれていた。
「現れるのは自然系に属する妖で、火の具象した存在です。今作戦ではこれを鬼火と称します。外見はその絵にある通りで、大きさは成人男性の上半身から全身を覆う程度までで絶えず変化しています。数は三体、F.i.V.Eによるランク付けは全て1です。いずれも自らの体を武器にして相手を包み込む攻撃と火の塊を飛ばす攻撃を行ないます」
 格付けとしては最低、しかし真由美が見た内容を記した資料から危険度は十分。そも、妖を相手に油断は許されない。
「火事場であった事もあり、近しい所に人の姿も見えます。主戦場は焼け跡となった家屋の敷地ではありますが、万一にも一般の方に被害の及ばないよう配慮してください」
 さらに、と真由美は続ける。
「F.i.V.Eは現在、組織としてあまり目立つわけにはいかない立場にあります。ですので、基本的に自らの身分を明かすような真似は避けてくださるようお願いします」
 そこまで説明を終えて、真由美が改めて覚者達を見る。
「あの現場で妖に対抗しうる人はいません。皆さんの力だけが頼りです」
 彼女の見た惨劇を打ち破れるのは、目の前の覚者達をおいて他には無い。そう確信した言葉だった。
「怪我なく……とまではいかないでしょうけど、どうか気をつけてください」
 気遣う真由美の言葉を最後に、作戦行動は開始された。
 


■シナリオ詳細
種別:β
難易度:普通
■成功条件
1.妖の殲滅
2.なし
3.なし
初めましての方は初めまして。そうでない方も改めてよろしくお願いします。
みちびきいなりと申します。
新たなる舞台で、新たなる物語を紡いで参りましょう。

さて、今回の相手は火の玉です。火事の原因であり、人々に害する妖です。
遠慮せずに撃破してしまいましょう。

●戦場
焼け跡となった庭付き一軒家が舞台です。戦場としての広さは十分にあります。
時刻は昼過ぎ頃、天候は晴れており問題は特にありません。

●敵について
ランク1の自然系に属する妖、鬼火が三体存在します。
自然界に存在する火の具象した妖であり、物を燃やすという念に従い活動します。
以下はその攻撃手段です。

・炎撃
A:攻:物近単・炎を燃え盛らせ、近距離の相手に纏わりつく。物理中ダメージ。[火傷]

・火の玉飛ばし
A:攻:特遠単・分け火して、遠距離の相手に飛ばします。特殊小ダメージ。[火傷]

・火の怪
P:強:自・火の具象した妖です。物防+10% 追:[火傷無][飛行]

●一般人
直前の火事騒ぎで集まった一般人と、消火に当たった消防士達がいます。
好き好んで戦場に入り込むような人物はいませんが、対応があった方がより良いでしょう。

ただでさえ脅威となり得る自然が害意を持てば、人々にとってそれは災厄です。
皆さんの手でこれを打ち破り、脅威を掃って下さい。
如何にして勝つか。覚者の皆様、どうかよろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
(3モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
0LP[+予約0LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年08月16日

■メイン参加者 8人■


●火事場の闖入者
 轟々と燃え盛る火に、消防士達は果敢に放水し己の職務を全うする。
 誰かの見た夢の景色の通りに、遠巻きに眺める人々の視線の先、鎮火は完遂された。
 火の手の見えなくなった火事場で辺りにホッとした雰囲気が広がる中、焼け跡の中に居たそれらは獲物を狙う。
「燻ってる火がないか確認。消火器持っていくぞ!」
 隊を率いる男がそう声を掛けた瞬間から、悲劇の歴史はその色を変え始める。

 ――カッ!

 光が突如として弾けた。そして同時に強烈な爆裂音が辺りに響き渡る。
 燃え残りが弾けたか、どこかが倒壊したか、遠巻きに音と光を知った者は戸惑った。
 近くに居る者はその起こりが現場ではなく、消防士達の固まっていた場所、放水車の上だと理解し注目した。
「ッ!」
 光が収束したその場所には不敵に笑う少女が一人。器物化した右腕が戦闘服の内側からかすかに見える。
 少女、月歌 浅葱(CL2000915) は己の信じる正義に基るポーズを決めながら、人々の注目を一身に集めた。
 彼女の視界の先、この場に居る幾人かを除いて気づかぬ空を一羽の鳥が舞う。それは今回の任務を共にする仲間の守護使役であった。
 人ごみに紛れ、あるいは抜けて。『放浪人』遊馬 虎太郎(CL2000166)ら、彼女の仲間達が続々と戦場となる焼け跡となった家の敷地へと突入する。浅葱はそれを見届けながら、己に注目する人々へ声高に訴えた。
「皆、逃げるのですっ。ここは今から、戦場になるのですからっ」

「悪いが通して貰う」
「はいはい、とって食ったりしませんから~。どいて下さいねー」
 爆光を前にしてなお、己の職務を見失わなかった数名の消防士が再び現場に戻ろうとした所を、丁度さえぎるように男が二人。共に赤髪、鋭い目つきで物々しい雰囲気の男達。一方は褐色で短髪の男は腕に紋を走らせ、もう一方はぼさぼさの長髪もワイルドに豹柄のシャツを着こなしている。
 どう見ても堅気に見えない男達に止められてしまえば、彼らとて警戒し足を止めざるを得ない。
 そしてその数秒の時間で、彼らは新たな真実を白日に晒すのに十分な時を得た。
「八咫、でかした。敵はあの瓦礫の下だ!」
 先程先行していた鳥が、これまた赤茶けた髪の青年の元へ舞う。主である榊 祐也(CL2000685) の元へ。
「見つけたら、逃がさないんよ!」
 裕也の声に即応し、既に敷地内の己のポジションに陣取っていた茨田・凜(CL2000438) が術式を展開する。
 どこかのったりとした動きだが、人々を背に負うその位置取りに迷いもなければ気負いもない。さっきまでちょっと面倒くさそうな顔をしていただけだ。
 突如として発生した霧が裕也の指示した場所へ殺到し、直後。激しく空気を焼く異音を響かせる。
 その音の主は焼け跡の瓦礫の中から、ゴウと火の粉を散らして現れる。
 三体の炎の化身が、凛の手によって燻りだされたのだった。
「な、なんだ!?」
 次々と起こる出来事に戸惑いを隠せない消防士達に、男二人の内長髪の方、『ライオンヘッド(かっこいいだろ』結城 華多那(CL2000706) は人懐っこい笑みを見せて言う。
「今から犯人とっちめるんで、放火犯扱いとかは止めて下さいね~」
 その言葉に隣に立っていた褐色の方、『焔の鉄拳』鷺坂・郁未(CL2000115) は小さく息を吹いた。

「もう大丈夫ですよ」
 楚々とした女性の声。
 浅葱の訴えの直後、出現した妖の存在もあって、野次馬達は蜘蛛の子を散らすように逃げ始めていた。
 そんな中、転んで足を擦りむいていた少年におまじないと称して傷を癒す式宮 ひふみ(CL2000802) の姿があった。
「お姉ちゃん、もしかして……」
 言い切る前に、ひふみは口元に指を当て、小さく微笑む。その後、保護者の元へ少年を届けた後、彼女は再び戦場へと舞い戻る。
 すでに戦いは始まり、いくらかの轟音を伴う撃ち合いが発生している様だった。
 彼女にとって初めての戦いの場。大きなプレッシャーが襲ってくるが、震える己を鼓舞して前進する。
(彼に情けない姿は、見せられませんから)
 戦う力を持った者として、彼女もまた戦列へと加わった。

●火消しの覚者
 敵を認識した火の妖――鬼火達は眼前に見えた者達へと一斉に火を放ち、さらにはそれを目晦ましにして真っ直ぐに覚者達へと突撃してきた。
 その動きは無陣。低級の妖らしい、本能のままの動きである。
「行かせねぇぞ!」
 対応するべく躍り出た郁未と華多那であったが、二人では敵の全てを封じる事は出来ない。もう一人の前衛である浅葱や索敵を継続していた裕也はこの時まだ戦列に加われておらず、結果。残る一体が前衛を抜け、後衛に立つ凛へと迫っていた。
「うえ!? こっち来てるんよ」
「――五行相克、水克火!」
 そこに割り込み術式を展開する年の頃、二十歳に満たない男性。しかしその年に見合わぬ熟練の所作で術式を完成させるや否や、飛び掛かる鬼火へと放つ。
 高速で放たれた水弾が、鬼火を鋭く貫いた。
「お前達のような奴らを、この後ろに通すつもりはない」
 ホッと胸を撫で下ろす凛を背に、現の変化、『疾風のメス』龍月・凍矢(CL2000474) は言い放ち、再び術式を編み始めた。
「貴方の相手は私ですっ!」
 そこに飛び込んでくる浅葱。目にも留まらぬ二連撃を突撃の勢いと共に鬼火へ放ち、見事に二発叩きこむ。真っ当な手応えこそなかったが、形のない力の揺らぎのような物の塊を穿った感触を彼女は確かに感じた。
「さあっ、妖退治のお時間ですっ」
 高らかに宣言する浅葱に、同じく前衛で鬼火の進行を止めていた郁未達が呼応する。
「殴れるのなら話は早ぇ」
 郁未の拳に宿る赤い刺青が煌々と燃え盛る炎の色に彩られる。同属にして異質な火の意志に、対峙する鬼火が大きく揺らいだ。
「どっちの炎が強いか、てっとり早く決めさせて貰うぜ?」
 己を強化し、殴る。単純明快、故に強さも明瞭快々。迷いのない拳が揺らぐ鬼火を真っ直ぐに撃ち抜いた。
「―――――ッッ!!」
「おおっと」
 一方、飛び掛かって来た鬼火の一撃を寸でで直撃から外して、華多那は冷静に状況を分析する。
「自然系の妖だけあって、やっぱり物理的な攻撃には強めって所か……って!?」
 追いすがり火の玉を飛ばす鬼火の一撃が、避けようもない勢いで彼を焦がした。が、
(冷静に、熱くなりすぎんな。オレ……!)
 その身に火傷を負いながらも、彼の解析は止まらない。
「……だいたい、見切ったぜ」
 エネミースキャン。戦場にあって彼は見事に敵の解析を成功させる。
「こいつらはつるんじゃいるが、連携らしい連携を取るわけじゃない。だから――」
「だから一体ずつ、確実に倒していくのですね」
 華多那の言葉から繋げるように諳んじ、戦列に加わったひふみが後衛から浅葱の前に居る鬼火へと水礫を放った。
「続くぞ!」
 前衛に復帰した裕也がひふみを庇うように割り入り鬼火へと突進すれば、身を翻した浅葱に入れ替わりで牽制の小太刀を振るい敵の動きを前衛に縫い付ける。
 すぐさまヒット&アウェイの動作で間合いを外し、身を屈めた彼の背に手を置き浅葱が再び躍り出て連撃を放った。
 燕が無尽に空を舞うように流麗な動きから放たれる体術。初撃はフェイント、本命の二撃目が鋭く決まれば鬼火の炎の揺らめきが殊更に大きくなった気がした。
 そこに潜り込んでくる赤い影が一つ。その手に燃える炎を纏って、影の主、郁未は吼える。
「悪いが、拳で殴る以外は出来なくてなぁ!」
 炎撃、郁未の強烈なアッパーが炎の根元から火先までを削り取る。
「炎が飛ぶかはわかんねぇけど、ぶっ飛べよ!!」
 裂帛の気合と共に放たれた一撃に、弱っていたこの一体は抵抗する間も与えられずに中空に爆ぜ、消失した。
「ご苦労さんなんよ」
「これで傷は、癒せたはずだ」
 凛と凍矢の手厚い回復を受けて、消耗の激しかった華多那も体力を取り戻す。
 残す敵は2体。守るべき人々も戦闘を見届けるべく残った消防士の隊長を遠くに残したのを除き残らず退避させた。
「邪魔はもう入らないってことだな」
 傷を癒した華多那が、首の後ろを軽く手で撫でる。傍らの守護精霊が鼓舞するように跳ねた。
 もう遠慮はいらない。
「はっはー! やってやるぜ!」
 仲間達の次の狙いは、丁度自分を集中攻撃していた鬼火だ。彼もまた前衛として連携に加わった。

 数を減らした事で、鬼火達は危機を察したのかその攻撃の苛烈さを高めた。
 足場を問わぬ縦横無尽の飛行移動で前衛を翻弄し、隙あればその炎を押し付け火だるまにせんと迫りくる。
「悪いが、足場の把握は完了済みだ」
 場所によっては踏みにくく戦い辛い場面もあるだろうに、裕也の足運びには迷いがない。それは相棒である八咫と共に戦場を駆け巡り、戦いやすい場所を検めてきたからに他ならなかった。
 各々が足場に気をつける旨を理解しているのもあって、彼のもたらした情報によって覚者達が戦う足場の選定は盤石なものとなっていた。
「さっき倒した奴には弱体、効いてたはず……」
 相手の隙を見て、凛が再び天術、纏霧による敵の弱体を図る。発生した霧は再び鬼火達を絡め取り、そして。
「――――――ッッ?!?!」
「おっ、やっぱり効いてるやん」
 火の勢いが明らかに落ちたのを見て、凛がグッと拳を握る。彼女の術により鬼火達は確実に弱体化した。
 それでも報復とばかりに敵は火の玉を飛ばすが、
「通さんと言った!」
 寸分の狂いもなく凛を捉えたはずの赤い悪意は、体を張って後衛を護る凍矢によって阻害される。
 直後、ひふみの水術、水礫によって二体目が消失する。
「水の味は如何かしら? のぼせた頭もこれで冷えるでしょう?」
 その声音にどこか危うさも感じさせたが、間違いなくこの一撃で戦局は決すこととなった。
「――ッ! ―――ッッ!!」
「逃がさないって~の!」
 闘争心を揺らがせた鬼火の逃げ道を埋めるように、脇をすり抜けると同時に華多那の拳が鬼火の身を打ち払う。
「裕也さん! 郁未さん!」
「分かった」
「おう!」
 浅葱の掛け声に合わせ、華多那に続いて裕也と郁未が同時に駆け、すぐさま浅葱も迫っての左右正面の同時攻撃。
「本命は、さぁ、どれでしょうかっ」
 一つ、二つ、三つ。
 色彩を纏った裕也と郁未の一撃に、先んじて牽制の一撃、遅れて本命の一撃の浅葱の連撃が重なった三連撃。
 そのどれもが、鬼火の芯を捉えて打ち抜いた。浅葱が笑う。
「本命は一発でも二発でもいいのですっ」
「俺の炎の方が強かった。それだけだ」
「仲間との連携、それを怠ったのが貴様の敗因だ」
 そうして4人の覚者が駆け抜けた場所に、残す敵の姿はもうどこにもなかった。
 害悪の炎は、ここに鮮やかに討ち取られたのである。

●せいぎのみかた
 それから10分後、警察とマスコミが人だかりを連れて現場へと集まっていた。
 火事の時より喧騒は激しくなり、物好きな野次馬達の先頭でレポーターがしたり顔の刑事にインタビューしている。
 その様子を尻目に、自らの仕事を終えた消防隊の面々は帰途についていた。
「隊長、隊長はあの場に残って全部を見届けてたんですよね?」
 輸送車の助手席に座る若い消防隊員が、後部座席で寛いでいた隊長へ話しかける。
「結局あの子らって、何者だったんですかね?」
「さあな」
 思ったよりも冷たい返事に、若い消防隊員は口をへの字に曲げてぶーたれた。
「いきなり爆発音がしたと思ったら、光に包まれて女の子が出てきたり」
「親しみやすいヤンキーに気だるそうな女の子、そうそう、市民の退避に協力してた女性も彼らの仲間だったとか」
「あげてきゃきりない位に個性的な連中でしたねぇ」
 他の隊員達が口々に覚えている事を話していく。そのどれもがどこか親しみをもって語られていた。
「……覚えときゃいい話は一つだけだ」
 そんな中、ゆっくりと隊長が口を開く。
「俺達は、多分あいつらに助けられたんだってことを、な」
 その言葉に消防隊員達は皆口を噤み、そして静かに深く頷くのだった。

 一方その頃、喧騒から離れた路地を件の覚者達は歩いていた。
「落ち着いたか?」
「ええ、ありがとうございます」
 戦闘を終え、ようやく命のやり取りがあったのを自覚し体調を崩したひふみを庇いながら、裕也は歩いている。
「仕方ないやん。凛も狙われた時はドキドキしたし」
「一時的な症状だが、もし長引くようなら掛かりつけの医師に尋ねるといい」
 胸に手を当てている凛に、医師らしく気遣う凍矢。その二人の心遣いに改めてひふみは気合を入れ、一人で立った。
「やー、あの消防士のおっちゃんが話し分かる奴でよかったぜ」
「特に尋ねられるような事もなく行かせてくれたしな。結果は上々なんじゃねぇの?」
「正義は無事、完遂されたのですっ!」
 目的を果たせたことに安堵したり打ち震えたりと各々自由な反応を表す中、凛がため息とともに口を開いた。
「はぁー、それにしても夏の暑い時期に火事なんて超メイワクなんよ。おかげで汗だくやし」
 パタパタと胸元に風をひきこむべく行う動作はどこか挑発的で。
「あとでプールに行くつもりなんやけど、誰か一緒に行かへん?」
 彼女の提案にシンと静まり返る。
 数秒の間に聞こえるのは遠くを走る車の音と、どこかから響く蝉の声。
「あー、いいねぇ」
「報告終わったらすぐにでもっ!」
 暑さに負けてかプールの魅力故か、次々と賛同の声が上がる中、ひふみからも提案がある。
「でしたらその後、うちのお店に来ませんか? 喫茶店をしているんです」
「俺も手伝っているんだが、来るなら腕によりをかけて料理するぞ?」
 彼女の店を手伝っている裕也の言葉も繋がれば、もう否を語る者は誰一人としていなかった。

 人々を救った正義の味方達は、その戦いを多くに知られる事のないまま日常へと溶けていく。
 彼らが救った人々の心に、夏の暑さにも負けない温かさを残して。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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