《島根動乱》雷光が 神社に響き荒れ狂う
《島根動乱》雷光が 神社に響き荒れ狂う


●島根県
 島根県を妖が跳梁跋扈する。
 誰かに命令されたかのように組織だって動く妖の群れは建物を壊し、人々を恐怖に貶める。妖の恐ろしさは単純な戦闘力の高さもあるが、人に対する凶暴性が最も脅威と言えるだろう。言葉も通じず、ただ人を襲う何か。それに恐怖せすにはいられない。
 そして島根を襲った妖には一様にして一つの特徴があった。
 その肉体に日本刀のような刃を宿しているのだ。

●物部神社
「ったく、酷いもんだぜ」
 妖に占拠された神社を見て、その少女は頭を掻く。妖は何かに命じられているかのように神社に陣取り、近寄る者を攻撃していた。
(つーか、妙だよな。人を襲うよりも神社の守りを優先している。まるで何かに命令されているみたいだ)
 少女は怪訝に思うが、すぐにその疑問を脇に置いた。どうあれこの妖を放置する理由はない。積極的に人を襲うわけではないとはいえ、神社を占拠されていい気分にはなれない。ましてやここは――
「文武両道・鎮魂・勝負運の神様を祀る物部神社だ。そいつを穢そうなんざ、お天道様が許してもこの『雷太鼓』が許さねえ!」
 背に自身の象徴である雷太鼓を背負い、稲妻を放ちながら少女は妖に向かって突撃する。稲妻の爆発ともいえる源素の攻撃と、少女が振るう太鼓の撥が妖を撃退していく。
 だが彼女は気付かない。
 神社の奥から数体の妖が山奥に紛れる様に移動していることを。

●FiVE
「島根県の物部神社。そこを妖が占拠しているんだ」
 久方 相馬(nCL2000004)は島根県の地図を広げ、その一点を指差す。国道沿いにある神社と、その写真。十六メートルもある本堂は写真で見ても壮大さを感じさせる。
「で、それを良しとしない覚者が妖に突っ込んでいったんだ。かなりの実力者らしく勝負は拮抗している。
 問題なのはその覚者は七星剣所属で、何か裏がありそうな……なさそうな」
 なんだそれ、と問いかける覚者。
「七星剣の中でも戦闘狂とか武闘派が集まった組織の一人なんだ。戦えればいい、というのが本音だと思う。でも七星剣の命令を受けているかもしれない」
 考慮に入れて置いてくれ、と言ってから話を続ける相馬。
「第一目的は物部神社の妖打破。神社内の全てを退治し、神社を解放してくれ。
 あと気になった事なんだけど……その戦いに乗じて数体の妖が神社の社宝を盗んで逃げようとしているんだ」
 そいつらは無理に倒さなくていい、と相馬は告げる。神社の解放が第一義だ。
「七星剣の隔者は目的こそ一緒だが、完全な味方と思わない方がいい。
 ああでも、サラシっていいよなぁ……どう思う?」
 戯言を言う相馬を適当にあしらって、覚者達は現場に向かった。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.旋風剣三体の打破(白蜘蛛は条件に含まない)
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 島根動乱パワースポット編その一。

●敵情報
・旋風剣(×3)
 自然系妖。ランク2。二メートルほどの旋風の中で日本刀が飛び交っています。
 飛行能力を有し、飛行を持たないキャラのブロックを飛び越えます。

攻撃方法
かまいたち 特遠単 風が刃と化し、肌を裂きます。【出血】
音速剣   物近列 回転するように日本刀を振るい、周囲を切り裂きます。
飲み込む  物近単 刃飛び交う旋風の中に取り込み、四方から切り裂きます。【致命】【必殺】
飛行    P   同名のスキル参照

・白蜘蛛(×2)
 生物系妖。ランク2。大きさ一メートルの巨大な蜘蛛です。八本の蜘蛛の足の先が刃になっています。
 社宝を持って逃げようとしています。

攻撃方法
爪刃  物近単 八本の足で突き刺してきます。【三連】
唾液  特近単 噛み付き、毒性の高い唾液を体内に流し込みます。【猛毒】
蜘蛛糸 特遠単 粘性の高い糸を放ち、動きを封じてきます。【減速】

●NPC
『雷太鼓』林・茉莉
 天の付喪。一五歳女性。神具は背中に背負った和太鼓(楽器相当)。
 喧嘩好き。とにかく強い相手と戦いたい隔者です。七星剣武闘派『拳華』と呼ばれる組織で年齢不相応ながら『姉御』と呼ばれています。その実力でランク1をすべて打ち倒しましたが、気力と体力が半減しています。
『機化硬』『雷獣』『白夜』『活殺打』『林茉莉の喧嘩祭(※)』『雷纏』『恵比寿力』『電人』『絶対音感』などを活性化しています。

※ 林茉莉の喧嘩祭 特遠敵味全 やたらに雷太鼓を叩き、周囲に稲妻を放ちます。

●場所情報
 便宜上、戦場を『鳥居前』『裏山』の二つに分けます。
『鳥居前』では『旋風剣(×3)』と『雷太鼓』が戦っています。初期配置は敵中衛に『旋風剣(×3)』、敵前衛に『雷太鼓』となっています。
『裏山』では『白蜘蛛(×2)』が社宝をもって離脱しようとしています。2ターン以上妨害がなければ、そのまま離脱していきます。
 別の戦場に移動するには、3ターンの時間が必要になります。技能などによる連絡は可能です。
 事前付与は一度だけ可能とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2018年05月11日

■メイン参加者 6人■

『ファイブブラック』
天乃 カナタ(CL2001451)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)


「神社を妖に荒らされるなんて、いい気持ちは致しませんわ」
 口調こそおしとやかだが『優麗なる乙女』西荻 つばめ(CL2001243)は妖に対して怒りの感情を言葉に乗せていた。神社巡りが趣味のつばめにとって妖が神社を占拠することなど許しがたい。ましてや神社の宝に手をかけるとなれば言語道断だ。
「社宝も妖に悪用されては、気分が悪いですもの」
「妖が何を考えて社宝を盗んでいるかはわからないですが、放置していて碌なことはありませんよね」
 指に手を当てて『聖夜のパティシエール』菊坂 結鹿(CL2000432)は思考する。金銭に執着を持たない妖は盗みをする理由はない。金銭ではない別の価値が社宝にあるという事なのだろう。どうあれ止めなくてはいけないのは確かだ。
「それにしても、そんな指示を出す相手がいるなんて不気味ですね……」
「ひょっとして社宝は刀の類だったりするんだろうか」
『白銀の嚆矢』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は島根での事件を振り返り、そう推測する。島根を襲った妖は一様に彼方に類するものを身に宿している。ならば力在る刀を求めての盗難の可能性――ともあれ今は妖を倒さなければ。
「となると社宝は守らないとな。みんな、気合を入れていこう」
「おう、任しとき」
 ぽん、と胸を叩いて『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)がゲイルの言葉に答える。神事などに興味はないが、盗みを働くというのならそれは止めなくてはいけない。ましてやそれが妖によるものならなおのことだ。
「ま、あっちには茉莉がおるけど……あとでもいいか」
「その茉莉っつー女の子、何か知ってないかなぁ?」
 依頼のファイルを思い出しながら『ファイブブラック』天乃 カナタ(CL2001451)が呟く。見た目は可愛いが喧嘩好き。ならば島根でいろいろ戦って自分達の知らない情報を知っているのではなかろうか。とはいえ相手は七星剣だ。油断はできない。
「ま、そんなの関係なく助けるけどな!」
「おう! どんどん行くぜー!」
 拳を振り上げ『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)が歩を進める。島根の戦いを勝ち抜いてきた遥だが、ランク4妖の手がかりはようとして掴めなかった。そろそろ手掛かりが見つかるといいのだが。
「その社宝が何かしらの手がかりになるかもな! ってことで!」
 遥の合図と同時に、覚者達は二手に分かれる。神社正面を襲う刀の妖の方と、社宝を狙う蜘蛛の妖。遥とカナタと結鹿が刀の方に向かい、凛とつばめとゲイルが裏手に移動する。
「……おいおい。幻覚を見せる妖とかじゃねーだろうなぁ」
 先に戦っていた七星剣の隔者は、口元に笑みを浮かべてFiVEの覚者を見る。何処か嬉しそうな疑念の声をあげながら、雷撃を放ち妖を傷つける。
 島根県物部神社。文武両道を奉じる神社で、覚者達の戦いの幕が切って落とされた。


「よっ、久しぶりだなマツリ! 相変わらずハッスルしてるじゃねえか!」
 遥は『雷太鼓』に挨拶をした後に覚醒して神具を手にする。彼女の周りに伏している妖の死体を見て、その強さに感服する。克己心かライバル心か。負けてなるものかと自分を奮い立たせる遥。『雷太鼓』は七星剣の一員だが、敵愾心よりもそちらの感情が浮き出てくる。
 嵐の中で舞う日本刀。それは剣術家の持つ刀とは違い、あらゆる角度から攻め立ててくる。だからというわけではないが遥拳を握り、足を止める。妖が攻撃を仕掛けてくるタイミングに会わせて拳を突き出し、カウンター気味に叩き落とした。
「ま、今回は共闘といこうや。神様護りたいのはオレも一緒だからさ!」
「はっ、言うようになったね。あたいの足を引っ張るなよ!」
「わっかりやすい性格だよなぁ。傷治してやるから一旦下がってな」
 強気に応じる『雷太鼓』の啖呵を聞いてカナタは呆れるように納得した。喧嘩好きの隔者。バトルマニアが高じた七星剣の一員。正義ではなく自分の闘いのために戦う性格は、確かにFiVEのような場所には居辛いだろう。
 術符を手にして意識を沈めるカナタ。水の源素を体内で活性化させ、星を描くように神具を振るう。体内の源素を解放するように術符を天に掲げれば、同時に小雨が降り注ぐ。癒しの力を含んだ水が仲間と、そして『雷太鼓』の傷を癒していく。
「やっぱ一人で突っ込み過ぎんのは無茶があんだろ。結構可愛い女の子なんだし!」
「可愛、っ!? 馬っ鹿、変なこと言うんじゃねぇ!」
「あ、もしかして照れてる? そういうふうに言われるのは嫌いだと思ってたけど」
「乱暴に見えて年齢相応の女性なんですよ」
『雷太鼓』と年齢が近い結鹿が苦笑するように言う。荒々しい部分が目立っているが同じ女性。可愛いと言われて心が動かないほどの人間ではない事は知っている。こういう状況でなければもう少し話をしたくもあるが、今は妖が優先だ。
結鹿 は『蒼龍』を構え、歩を進める。疾風剣の動きはまさに風の如く。突如止まったかと思うと再び吹き荒れるように動き始める。だが龍はその風を統べる存在。善女龍王の刻印を持つ刃が風の剣を捕らえ、弾き飛ばす。
「あなたたちの刃が鋭いとしても、わたしの蒼龍には敵わないです。それ今、証明してみせます」
 神具を構えなおす結鹿。他の覚者も戦意を込めて妖を見る。

 一方その頃、神社の裏手では――
「やはり社宝は刀の類だったか」
 ゲイルは白蜘蛛が糸に絡めて引っ張っている物を見る。棒状の包みでその姿は解らないが、長さと反りを鑑みれば刀であろうことは確定的だ。白蜘蛛も覚者達を敵と認識したのか足を止め、威嚇するように口を動かす。
 蜘蛛の複眼がこちらを見ている。動物的な殺意がゲイルを貫いた。その圧力に臆することなくゲイルは体内の気を高め、拳を開く。開いた手の平に生まれた閃光が妖達の目をやいた。蜘蛛達は光に驚くように体を硬直させる。
「任せたぞ!」
「はい。夢路!」
 閃光で怯んだ隙をつくように、虚空からつばめの姿が現れる。守護使役の能力で透明化していたつばめが、その能力を解除して躍り出たのだ。息を止めている間は何もできないが、仲間と連携さえ取れればこうした奇襲も可能となる。
 大地をブーツで蹴って、小袖を翻しつばめが刃を翻す。右の刃で社宝を引っ張る糸を断ち、左の刃で白蜘蛛を斬る。蜘蛛の白い肌が自分自身の血で赤く染まった。痛みで怒声のような声をあげ、足を振り上げる妖。その一撃を払いながらつばめはさらなる一撃を叩き込む。
「社宝を妖に悪用されては、気分が悪いですわ。取りかえさせていただきます」
「これが神社の宝盗んだバチや!」
 叫びながら別方向から凛が斬りかかる。自分が進むべき足場を脳裏に浮かべ、そのままに足を進めていく。重心を崩さぬ剣術の補法。それは畳の上であろうが山道であろうが関係ない。滑るように敵に迫り、疾く斬りかかる。
 白蜘蛛が足を動かす。爪の部分につけられた刃と凛の『朱焔』がぶつかり合って、激しい金属音が響く。だが凛はそれを予測していたかのように手首を返し、横なぎに刀を振るう。流れるような動きに対応できず、妖は足を傷つけられた。
「足先が刃になっとるとか、けったいな蜘蛛やなぁ」
 妖の不条理さには慣れたつもりだが、それでも八本の足に刃が生えている蜘蛛は異常としか言いようがない。
 閃光から立ち直った妖がキチキチと歯を鳴らす。毒を持った唾液が地面に落ち、白い煙を生み出した。
 妖と覚者。その戦いはまだ始まったばかりだ。


「あ、無差別カミナリは勘弁な! やるなら、敵の数がオレらより多くなったときに頼むわ!」
「そん時はとっとと倒れてる奴ら連れて逃げるんだね。あたいはあんたらのことを気にする義理はないよ」
『雷太鼓』に広範囲の雷撃技をしなうよう釘を刺す遥。傷を癒してもらった義理返しということで承諾する。
 疾風のように舞う剣を『雷太鼓』の稲妻が穿ち、その一本を打ち落とす。
「うひー、すごい威力だな。くわばらくわばらってね」
 七星剣の隔者の技の威力に驚くカナタ。今は味方だが、これが敵に回るかもと思うと恐ろしくもあった。だからと言って、今日彼女を癒したことを後悔はしない。彼女が隔者というほど悪い奴とは思えない。その直感を信じていた。
 癒しは暫く不要と判断したカナタは手の平に炎を生み出す。赤い球は手のひらの中で高熱を発し、その余波がカナタの桃色の髪を揺らした。炎を押さえていた圧力を解き放ち、妖に向かって放出する。焔の波が妖を包み込む。
「……へっ。てっきりこっちに飛んでくると思ったけど、そうでもなかったな」
「妖は知能があるわけじゃありませんから。『回復役から倒す』という発想には至らないようですね」
 カナタの言葉に苦笑して結鹿が答える。人間並の知恵があるなら、回復を絶ってから攻めるのがセオリーだとばかりに攻めてくるだろうが、本能のみで動く妖はそこまで知恵が回らない。痛みを強く与えるものを中心にその刃を向けていた。
 妖の注意が攻撃をする自分達に向いているのなら、やるべきことはただ一つ。突破されないようにここで食い止め、そして倒すこと。霧の術式で相手の感覚を狂わせ、それに紛れるように刃を振るう。激しい金属音が戦場に鳴り響いた。
「小さいからといって侮ると痛い目を見るんですよ」
「さくっと倒して向こう側の応援に行かないとな!」
 山手の方を見ながら遥が口を開く。そちらの方では社宝を回収しようとしている仲間がいる。此方の妖を倒して応援に行けば、向こう側の損害が少なくなるだろう。島根の闘いはまだ続く。損害は少ないに越したことはない。
 拳を握って重心を下す。過剰に力を籠めても威力は出ない。重要なのは全体のバランス。足、膝、腰、脊髄、肩、肘、拳。踏みしめた瞬間に力が伝達するラインを意識し、その力を無駄なく拳から敵に伝える。
「どうしたどうした! オレはまだ元気だぞ!」
 妖を手招きするように誘う遥。その声には余裕がありそうだ。
 覚者達の身体に刻まれた刀傷は、決して浅くはない。だが――

 そして山手の方でも――
「喰らいな!」
 凛が『朱焔』を振るう。古流剣術焔陰流を示すと言ってもいい刀の影打。影打ではあるがその威力は並の神具のそれを凌駕している。だが何よりも凛自身の腕前がその切れ味を増していた。その姿、正に悪鬼を斬る修羅也。
 白蜘蛛の刀を捌きながら凛は刃を繰り出す。たとえ脚八本の刀があったとしても、バランスを崩さず一度に繰り出せる刀の数は多くて四本。それが分かればどう攻めればいいかも組み立てられる。
「要は四人に囲まれてる、思えばええんや。やったら怖ないで!」
「蜘蛛が三体いるということは一二人か」
 凛の言葉に頷くゲイル。凛の例えが間違っているという気はない。むしろ前で戦うプロがそういうのだから、間違いではないだろう。ならば癒し手としてはその推測から癒しのタイミングを計算し、仲間を守るのだ。
 目の前の景色を脳内で立体的に再現し、俯瞰するように見る。時が止まったかのような感覚の中、敵の位置や味方の位置を把握して最善手を思考する。実際には文字通り一瞬の事。ゲイルの神具が空を切り、横合いから仲間を攻撃しようとしていた妖を討つ。
「その動きは読んでいた」
「ありがとうございます。それでは――」
 たおやかな笑みを浮かべて礼を言うつばめ。『双刀・鬼丸』を構えて妖に迫る。神社を荒らす妖。元より妖に慈悲などつばめにはありはしないが、今年真似を襲った妖に関しては怒りを感じていた。
 タン、タン、と二歩進み、三歩目と同時に刀を振るった。掌から伝わる肉を裂く感触。同時にもう片方の刀を右肩を守るように動かす。蜘蛛の刃と刀が交差し、激しい音をたてた。白蜘蛛が動きを止めた隙を見計らい、体を回転させるように動きその胴を薙ぐ。
「神社に祀られた社宝を盗もうなど、許されることではありません」
 凛とした声で告げるつばめ。だが戦いの疲労は隠せない。肩で息をしながら妖を睨む。
 疲労度合いは他の覚者も同じだった。だが――

 だが――妖とてFiVEの覚者を前に無傷ではいられなかった。
「コイツを喰らいな!」
『雷太鼓』が背負った太鼓が叩かれ、そこから雷撃が走る。稲妻は弧を描くように妖の足元で爆ぜ、その動きを止める。
「ナイス!」
 止まった妖を逃がすことなく遥が迫る。風の妖とはいえ、その動きを止めていれば狙うことは容易い。振るった拳は竜巻の中にある刀の腹を穿った。そこが心臓部分だったのか、風は止み刀が地面に落ちる。
「よし。これで大丈夫だろ!」
 カナタは仲間の傷を癒し、ため息を吐く。これで勝利は見えたとばかりの安堵のため息だ。個々の戦闘力の高さもあるが、攻守のバランスの良さが安定した展開を生んだ。集中砲火されれば流石に危うかったが、余計な心配だったか。
「消えなさい、妖。これが善女龍王の一閃です!」
 鈴が鳴るような透き通った声。結鹿は自らの神具を手に妖に疾駆する。通り抜け様に刃を振るい、血糊を払うように大きく振るった。振った神具の音が消えると同時、最後の疾風剣が消え去る。からん、と力を失った刀が地面に転がった。

「キシャアアアアア!」
 白蜘蛛の吼え声。唾液の毒は覚者を疲弊させ、その爪は大地を血で濡らす。
 しかし、歴戦の覚者達の命脈まで奪うには至らない。
「俺がいる限り二人を倒させやしない」
 ゲイルは多種多様に立ち回って仲間を守っていた。術式による回復は言うまでもなく、閃光弾を放って妖の目を奪ったり、傷ついた蜘蛛の傷をさらに深めたり。ゲイルがいなければ覚者が受けたであろう傷は大きかったに違いない。
「感謝いたしますわ」
 にこりと微笑むつばめの刀が翻る。鋭い勘で妖の動きを察し、そこに先んじて刀を振るう。虚を突かれた妖の隙を縫うように、もう片方の刀で攻め立てた。双刀を時に攻防に、時に双方攻撃に、時に双方防御に。自由自在に二本の刀で戦場を彩っていく。
「往生際が悪いで。これで逝っときな!」
 白蜘蛛の刀を紙一重でかわしながら凛が吼える。刀の数が多いことが強さには比例しない。一刀を極めし者は多刀の攻めに勝る。それを証明するように白蜘蛛の刀を受け、弾き、避け、そして針の穴の隙を逃すことなく突きを放つ。
 その突きが、最後の妖の目を穿ち、絶命させた。


「お。応援はいらなかったか?」
 山手での戦闘が終わってしばらく後、境内で戦っていた覚者と『雷太鼓』がやってきた。
「よー、茉莉、久しぶりやな。いつもの連中は一緒やないんか?」
 水分補給をしていた凛が、軽く手をあげて『雷太鼓』に挨拶する。
「あいつらは別の神社に行ってるぜ。こっちはあたい一人で十分だったんでな」
「せやな。ほんまに撃退できたかもな」
 大口をたたく『雷太鼓』に笑って頷いた。
「で、お前らはこんな所で何してたんだ?」
「……あー」
『雷太鼓』の問いかけにどうしたものかと思案する覚者達。社宝のことを喋っていいものか考えているのだ。彼女は今回共闘したとはいえ七星剣の隔者。彼女自身が悪用せずとも、事を知った七星剣が悪用しないとは限らない。
「ま、いっか。お前達も『アレ』の事で来たんだろう?」
「? オレ達は島根の妖を倒しに来たんだぜ」
 あっけらかんと追及を止める『雷太鼓』。続けた問いかけに首をひねる遥。
「FIVEとしてはそっち優先か。ま、だったらあたいらが先にいただくとするか」
「何のことを言ってるんだ? いただくとか美味しい物でもあるのか? まさか神社から何か盗もうとかそう言うんじゃないだろうな?」
 気になって問いかけるカナタ。
「とりあえず社宝をどうするかだな」
「神社に戻すのは当然ですが……神主さんに許可を貰ってどんなもの見せてもらった方がいいかもしれませんわね」
「妖が再度現れるかもしれませんから、FiVEで保管するのも……」
『雷太鼓』に聞かれないように、ゲイル、つばめ、結鹿が社宝をどうするかを話し合っていた。明確に妖が持ち去ろうとした刀状のなにか。これが島根を襲った妖の目的と無関係とはとても思えない。
「ばーか。物部神社から盗もうなんて罰当たりなことしねーよ。そりゃ戦国武将からの奉納品とかあるけど……あー、でもあの太刀は見てみたいよな」
『雷太鼓』の言葉に覚者達の動きが止まる。
「大内義隆が武運長久を祈願して奉納した了戒銘の太刀と、加藤明成が送った雲上銘の太刀。どっちも戦乱を生きた武将の者だからなぁ。どんなものか見てみたいぜ」
 覚者達は約七〇センチほどの社宝を見る。成程これが。
(いわくつきではあるが……神具ほど強いというわけではなさそうか?)
 覚者ではない武将が使っていた武器だ。神秘を帯びているとは思えない。となると――何故?
「茉莉……歴女やったんやな」
「っていうか『アレ』って何だよ?」
「だからあれだよ。島根でスサノオに倒されたっていう大蛇の古妖――」
 神話に詳しくない人でも、その単語から推測される古妖は一体しかいない。

 ――ヤマタノオロチ。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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