≪島根動乱≫罪人はこれも試練と祈ってる
≪島根動乱≫罪人はこれも試練と祈ってる


●島根を襲う悲劇
 その日、島根県に妖の群れが跋扈した。
 千を超える妖は気配なく現れたかと思うと、嵐のように蹂躙を始める。突然の蹂躙に対応が遅れたのか、一日でかなりの死者が出た。慌てて覚者組織が対応するも、出来たことは一般人の避難とその拠点防衛が精一杯だった。
 島根周囲の覚者組織も対応に乗り出すが、妖を県外に逃がさないようにするのが精々で島根県内の妖駆逐には至らない。数の多さもあるが、個体としての強さも並の妖よりも強化されていた。
 刃。西洋の剣のような直剣ではなく、僅かに沿った和風の刀。
 体の一部にそれを生やした妖達。角の様に、爪の様に、牙の様に体の一部が刃となった妖。肩や腕から刃が生えて、武器のように振るう妖。その様子は様々だが、妖に日本刀が加えられているのは間違いない。
 そして妖のランクも多様だ。ランク1を従えるランク2。そのランク2を統括するランク3。そしてそのランク3さえも何かに従うように動いていた。
 そんな島根県の内部で――

●囚人達
「看守達は皆殺しか逃げ出したか。さてどうしたものか」
 荒れ果てた刑務所の入り口で一人の女性がため息をついた。日本人とは異なる色白の肌。それを隠すように修道女の服装に身を包んでいる。
 悲鳴と怒号が刑務所内に響き渡り、妖が刑務所内に侵入してきた。戦闘経験のある者は近くにある物を武器として戦うことで生き延びれたが、そうでない者は無残に殺されていた。何とか刑務所内の妖を駆逐し、生き残った者のみで終結したのだが……。
「シスター、どうしやすか? このまま逃げちまいません?」
 その後ろから問いかける男達。彼らも囚人服を脱ぎ、刑務所の人達が残した服装に身を包んでいる。
「罪から逃げるつもりはない。――だが、ここに留まるという選択肢はないな」
「え? え……えええええええええ!?」
 男達がシスターの視線を追うと、ゆっくりと近づいてくる人の死体――死体が妖化した看守と囚人たちが迫ってきていた。
「外に出すわけにはいかないが、さてこの数は厄介だな」
「冗談じゃねぇ、俺は先に逃げて……うわああああああああ!?」
 我先にと刑務所から逃げようとした囚人は、入り口に立っている石像に吹き飛ばされる。岩の自然系妖。専門家が見ればそう断ずる存在だ。妖はゆっくりとこちらに向かってきている。
「前に元人間。後ろに岩。これは面倒な状況だな」
「どどどどど、どうするんですかああああああ!」
 パニックを起こす囚人たち。修道女が落ち着いているのは戦闘慣れしているだけであって、活路を見出せているわけではない。
「これも神の試練か。あるいはこれがワタシの罪か。どちらにせよ――」
 手にしたスコップを構え、元憤怒者のシスターは妖に挑む。
 勝機がまるで見いだせなくとも、絶望に屈することだけはしないと矜持を見せるように。

●FiVE
 妖が暴れる島根県に入ったFiVEの面々は、破壊された刑務所を見つける。
 そしてそこを襲う岩のような妖を――



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.妖の全滅
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 本シナリオは≪島根動乱≫タグの依頼と同じ舞台で物語も連動していますが、参加の制限はありません。基本的に単一で楽しめる形になっています、

●敵情報
・リビングデッド(×10)
 生物系妖。ランク1。刑務所にいた囚人や看守が妖に殺され、その後妖化しました。
 手には刑務所内にはなかったはずの小刀が握られています。

 攻撃方法
 小刀 物近単 小刀で切り裂いてきます。【出血】
 噛む 物近単 噛み付き、毒素を流し込みます。【毒】

・岩人間(×2)
 自然系妖。ランク2。近くにあった岩が妖化しました。その指に爪の様に日本刀が生えています。
 動きは鈍重ですが、物理的な強度は高いです。

 攻撃方法
 爪刃 物近列  刃のような爪で切り裂いてきます。【出血】
 振動 特遠全  四股を踏むように足を下し、大地を衝撃で揺るがします。【ノックB】【ダメージ0】
 石槍 特遠貫2 鋭い槍のような石を投げてきます。(100%、50%)

●NPC
『マリートヴァ』リーリヤ・グラシェヴィーナ・シュリャピナ(×1)
 元憤怒者。白い肌を持つシスターです。FiVEとの対話の末に、罪を認め受刑中でした。妖が刑務所を襲ったため、囚人を誘導するために動きます。
 武装も手にしたスコップ以外はありません。

 攻撃方法
 スコップ 物近単 斬る、刺す、叩く、防ぐ。歩兵のお守り。【出血】 

・囚人
 刑務所の生存者です。数は三〇人弱。戦闘中は適当な所に隠れています。
 あわよくば逃げ出そうとするかもしれませんが、技能などで止めることは可能です。

●オブジェクト
・門
 敵中衛に存在しています。門の広さは人二名以上並んで戦闘することがでいない程度です。三人以上並べますが、その場合戦闘に関する判定や行動(回避含む)はできません。門にはリーリヤが陣取り、リビングデッドを出来るだけ逃がさないようにしています。

●場所情報
 島根県某所にる刑務所。その門。門扉は破壊され、開けっ放しになっています。足場や明るさなどは戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、敵前衛に『岩人間(×2)』、敵中衛に『リーリヤ(×1)』、敵後衛に『リビングデッド(×10)』がいます。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2018年05月03日

■メイン参加者 6人■



 島根県を妖の群れが占拠する事件が起きた。
 この報を受けたFiVEはすぐさま覚者を派遣し、同時に調査を開始する。島根県内への突破口を作り、島根県内を進んでいく。
「刃の妖? おもしろいじゃない」
 報告書を見ながら『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)は島根県を進んでいた。彼女自身も剣術を使うこともあって、妖の共通点である『刀』には興味をひかれた。そう言えば少し前にも似たような事件があった気がする。ええと、なんだっけ?
(喉元まで出かかってるのよね。えーと、あいつよあいつ!)
「なあ、あそこの刑務所で偉い騒ぎ起きとるで。……なんや、岩のお化けの後ろにシスターの格好した姉ちゃんが戦っとるみたいやな」
 額に手を当てている数多の横で、『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)がそんなことを言う。遠視の神秘を使って周囲を偵察していたようだ。こら助けに行かへんと、と守護使役から刀を受け取り、刑務所の方に走っていく。
「やばいであれ! 門の中に妖一杯や!」
「あれは……リーリヤさん!?」
『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)は刑務所の門で陣取るように戦っている女性を見て、驚きの声を上げた。かつて相対し、そして和解の道をたどった憤怒者。刑に服しているとは聞いていたが、まさかこんな再開をしようとは。
(先ずは術で治癒力をあげて……)
「中にいるのは……囚人でしょうか? それを守っているようですね」
 熱感知で刑務所内の様子を確認した『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994)が状況を伝える様に口を開く。囚人たちは唯一の出口が戦場となっているため、動けないでいるようだ。だが状況が変われば逃げに走る者もいるかもしれない。
「ともあれこの状況を解決しなくてはいけませんね」
「はい。とにかく急ぎましょう!」
『惑える魔女の衣』を身にまとい、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)が頷いた。今島根県は多くの妖に蹂躙されている。刑務所は犯罪者を捕らえる場所だが、彼らも一人の命であることには変わりない。見捨てるという選択はなかった。
「あの岩の妖はランク2。物理的な防御が高いなら私の炎で!」
「島根連戦! 気合入れていくぞ!」
 先ほどまで戦っていた疲労を感じさせない元気の良さで『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)はファイティングポーズをとる。今回は親友の彼女と自分の彼女(予定)がいる。そう思うとさらに気合が入ってくる。まあそれはそれとして、
(しかし……シスターって響き、なんかエロいな。数多センパイ、シスター服着ないかな)
 十七才の青少年として健全な余念が入ってしまうのは致し方のない事であった。
「思わぬ騎兵隊だな。神はまだワタシを見放してはいないようだ」
 スコップ片手に奮闘するシスターが笑みを浮かべる。とはいえ、前後を妖に挟まれて楽観はできない状況だ。
 覚者達は覚醒し、神具を握りしめる。そのまま一斉に妖に向かって駆け出した。


 覚者達は目戦と手ぶりで作戦を確認し、頷いたのちに行動を開始する。
「先ずは道を作りますね」
 言葉と同時にラーラが動く。いつもなら後衛で術を放つラーラだが、今回は岩の妖に向かい突撃した。門で戦うシスターへの道を作るために、妖に邪魔されないように立ちふさがる。敵の攻撃に晒される事になるが、それでも構わないという面持ちだ。
 無論、ただ立ち尽くすつもりはない。『煌炎の書』を手にして、体内の源素を一点に集中させる。燃え盛る炎が書物の表紙に生まれ、細かな赤の弾丸が形成された。至近距離からの炎の連弾。回避する暇さえ与えない高速連打が妖を襲う。
「皆さん、早く!」
「リーリヤさん、今助けに行きますから!」
 ラーラと同じく岩人間の行く手を塞ぎながらたまきが叫ぶ。実のところ、このシスターを助ける理由はない。だが理由がない事と、助けることは別の問題だ。妖の被害を食い止めるために身を張る彼女を見捨てるなど、たまきが選べるわけがなかった。
 両手に札状の神具を手にし、心を研ぎ澄ます。戦場の緊張を解くことなく、かつ激情に我を忘れぬ冷静さを宿し。動と静の二つの心をコントロールしながら源素を解き放つ。大地を走る衝撃が妖を襲う。振動が妖の足を止め、その動きを鈍くする。
「人死は、絶対に出しません!」
「ええ。例え囚人だとしても、むざむざ人を死なせたくはありません」
 門で食い止められているリビングデッドを見ながら澄香が自分の服をつかみ、口を開く。妖に殺された人たちが妖化したリビングデッド。あのような者達をこれ以上生み出すわけにはいかない。これ以上の犠牲を止めなくては。
 抑えられている岩人間の横を通過し、シスターの元に走る澄香。今までの闘いの激しさを示すかのように、その身体には傷痕が刻まれていた。その傷を癒すべく澄香は癒しの術を行使する。木漏れ日の様な光の帯が空から降り注ぎ、優しく傷を塞いでいく。
「リーリヤさん、ご無事ですか? 少し下がって私達と一緒に戦って頂けませんか」
「一人で抑えるんやったら確かにこの門使うのが一番やけど、数増えたんやったらそれ生かさなな」
 抜刀した凛が付け加えるように説得する。大人数のリビングデッドを外に出さないために狭い門に陣取っていたのだろうが、数が増えれば戦略も増える。元より合理的な性格だったのだろう。覚者の言葉に抗することなく門から離れた。
 門番交代、とばかりに笑みを浮かべた凛。迫るリビングデッドの小刀を弾き、返す刀で切り裂いていく。ただ刀を持っているだけの妖と、数十代にわたる剣術の伝承者。その技術差を示すかのように、妖は『朱焔』に刻まれていく。
「ホンマもんの刀使いを舐めんなよ!」
「はぁい! リーリヤさん随分ご機嫌ね」
 下がったシスターの肩を叩き、挨拶する数多。再会の約束をしたのだが、まさかこのような形になろうとは。感傷に浸るのは、刹那。抜刀と同時に意識は戦場に向けられる。『写刀・愛縄地獄』を妖に向け、一気に距離を詰めた。
 天、沢、火、雷、風、水、山、地――八卦の力を意識する。それはこの世界を司る因子そのもの。己を中心とした八方角に線を引き、踏み入る物を切り裂く結界とならん。数多に迫る妖はその結界に踏み入り、それと同時に切り裂かれていく。
「ゾンビみたいな男が趣味なの? 趣味わるいなあ。私は……あー」
「? どうしたんだ、数多センパイ?」
 急に言葉を濁した数多を不審がる遥。『うっさい! 働け遥!』という返事に首をかしげるが、確かに手を止めるわけにはいかない。シスターを含んでも此方の数よりも妖の数は多いのだ。気持ちを戦闘に切り替えて、拳を握る。
 リビングデッドを仲間に任せ、岩人間に向き直る遥。大きさや重量こそ異なるが、そのフォルムは人そのもの。ならば対人用の格闘術が通じぬ道理はない。相手の正中線を意識し、動きを予測する。振り下ろされた爪を避け、拳を正中線に叩きつけた。
「物理が効きにくい? なら特大の物理をぶち込めばいい!」
 善戦する覚者。それに気づいた囚人たちが色めき立つ。このまま妖を廃し、あわよくば逃げられるのではないだろうか。
 覚者達もその気配に気付いてはいるが、今は妖を廃する時だ。視線を妖からそらすことはない。
 刑務所の闘いは激化していく。


 リーリヤが門から離れたのを確認し、たまきとラーラは一旦岩人間から離れる。受けた傷は浅くはないが、戦闘続行には支障のない程度だ。
「流石に攻撃に転じる余裕はなさそうですね……!」
 澄香は仲間の傷を癒しながら汗をぬぐう。ランク2二体と多数のランク1。FiVEの覚者が如何に精鋭とはいえ、単純な物量戦で攻められれば余裕がなくなる。澄香は回復で手一杯になっていた。
「さすがに火力不足か」
 リーリヤも戦いに参加しているが、源素のつかえない覚者は威力で覚者に劣る。足手まといではないが、決定打に欠けることは否めない。
「はん! 合戦みたいになってええ修行や!」
 剣術は戦争の中で生まれ、研ぎ澄まされたという。周りじゅう敵だらけの戦場で、刀を用いて生き残るための術。足を止めることなく動かして次々と斬りかかる凛。傷が痛くないわけではないが、この状況を楽しむように笑みを浮かべていた。
 緋が走る。彼女の持つ神具『朱焔』の煌めき。十重に二十重に振るわれるたびに赤光が閃き、妖が傷ついていく。それは演舞のように美しく、剣舞の様に残酷。息つく間もなく振るわれる刃を前に、妖の滅びは加速していく。
「ただ刀持ってるだけの妖になんか負けへんで!」
「妖を解き放ったりはしません。ここで倒します!」
 ラーラの掛け声とともに炎が広がる。まるで意思を持っているかのように炎は覚者を避けて妖だけを襲い、包み込んでいく。炎熱が体力を奪い、肌を焼く。妖が如何に生物的に強固とはいえ、この炎を受けて無傷はいられない。
 ラーラの炎は受け継がれた技術の結晶。過去の魔女や古妖などが生み出した秘術や妖力。そこからラーラが生み出したたらしい炎。そして受け継いだのは技術だけではない。作った者の想いも受け継ぎ、次代に伝えるためにラーラは焔を放つ。故に、声高らかに彼女はこう叫ぶのだ。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
「これ以上の犠牲は出させません!」
 札を手にたまきが口を開く。大量の妖が発生した島根県。今なお妖の犠牲者は増え続けているだろう。力在る覚者として、陰陽術師としてそれを許すつもりはない。自分ができる最大限の力をもって、人を守るために。
 手にした符に力を込めて解き放つ。術式が込められた札は風に舞うようにラーラの元に飛び、彼女を守るように周囲を飛び回る。符は妖の攻撃に反応するように飛び、斬撃を受けると同時に力を放って打撃を加えていく。
「皆さん、もう一押しです!」
「はい。何とかなりそうです」
 肩で息をしながら澄香が答える。物理的な防御力が低い澄香は、岩人間の攻撃を受けるたびに大きくよろめいていた。命数を燃やして意識をと戦場に留めてはいるが、長くはもちそうにない。体は『あと一押し』まで耐えられるかどうか。
 背中越しの仲間の存在を意識しながら、源素を体内で回転させていく。タロットカードを手にして、意識を集中させた。破壊の爪痕はこの地には要らない。澄香の放つ癒しの術が覚者達の傷を癒していく。感謝の笑顔に答える様に澄香も微笑んだ。
「これが終わったら紅茶でも飲みません? 美味しいアップルパイがあるんですよ」
「いいわね。じゃあ私はケーキを用意するわ!」
 刀を振るいながら数多が言う。五麟市で喫茶店を営む数多の頭の中に、紅茶に合いそうなケーキがリストアップされていく。だがその前に、とばかりに刀を振るう。思うより先に体が動く。慣れ親しんだ剣術の修行の賜物か。
 ひらり、と刀が翻る。それは春風に舞う桜の如く。軽やかに見えてその刃は烈火の如く。触れるものを切り裂き、命を奪う剣舞也。踏み込みは一つ。剣閃は三つ。たん、という音とざん、という斬撃音が同時に響いた。
「――櫻火真陰流『櫻火繚乱』」
(はっ……一瞬見とれてた。流石センパイだ。負けてられないぜ!)
 息を吐き正面の妖を見る遥。好きな人の一面を見て目を奪われていたが、時間にすれば言葉通り一瞬き。むしろこっちもいい所見せてやるぜと気合が入った。大地をしっかりと踏みしめ、強く拳を握りしめる。
 拳を握り、強く突き出す。殴るという行為を単純化して突き進めた一打。空手の基本にして原点。何十何百何千何万と繰り返してもなお先のある型。突き出された拳は岩の身体に叩き込まれ、衝撃を伝わらせる。
「お前が倒れるまで幾らでも突いてやる!」
 背中合わせで戦う覚者達。数で圧す妖に飲まれることなく、確実に数を減らしていく。
 刑務所の中から湧き出るリビングデッドがいなくなれば、数の不利も消える。岩人間は防御力こそ高いが歴戦の覚者の攻撃を防ぎきれるものではない。攻撃の度に、岩の身体に少しずつ亀裂が入っていく。
「妖魔殲滅、急急如律令!」
 印を切り、たまきが妖を見る。その言葉に答える様に札が岩を纏い、矢のように妖に刻まれた日々に向かって飛んだ。強く鋭く穿たれた岩の矢が妖を貫いていく。
 どう、と大きな音を立てて最後の岩人間は崩れ落ちた。


 戦いが終わり、静寂が訪れる。それを見た囚人達はこれ幸いと門から逃げようとする――
「逃げんなこら」
 そんな囚人に凛は走って近づき、襟首をつかんだ。覚者の力に逆らうつもりがないのか、もともと罪悪感があったのか。ともあれあっさりと囚人はおとなしくなる。
「あーあー! 外に出たら妖に食われちまうから逃げない方がいいぞー!」
 遥は誰にというわけでもなく叫ぶ。逃げようと思っていた囚人は自分の事と思い、足を止める。
「え? 妖ってここだけじゃなかったのか?」
「はい。今島根じゅうに妖がいます。誰がいつ、どこでどれだけの妖に出くわすか分からないんです。ばらばらに逃げるのは得策じゃないとは思いませんか?」
 囚人の質問に答える様にラーラが囚人達を説得する。事情を知った彼らは完全に逃げることを諦め……どうしたものかと思案する。
「とりあえず県外に移送して、別の刑務所に送るのがいいんじゃないでしょうか?」
 腕を組んでたまきがそう提案する。法的な手続きは任せるとして、それが一番安全だろう。妖も島根から出るつもりはないようだし、身の安全は確保できる。
「っていうか馬鹿でしょう。あんな戦い方して死ぬつもりだったの? 約束したでしょ。 五麟でまた会おうって」
「忘れてはいない。これでも最善を尽くしたつもりだ」
 数多はリーリヤに詰め寄るように文句を言う。ここに通りかからなかったら、間違いなくこのシスターは死んでいただろう。それを思うともう少し何かを言ってやりたくなる。
「リーリヤさん、この妖達について何か気付いたことはありませんか……? 突然にこんなにたくさんの妖が発生して、しかも刀が埋め込まれてるなんて」
「むしろここまでの大事件だと知ったのが今初めてでね。だがまあ――」
 澄香が囚人が持っていた小刀を手にリーリヤに問いかける。首を振るシスターだが、リビングデッド化した囚人の顔を見てその共通点を口にする。
「妖化したのは全員殺人犯だ」
「……は?」
「ジャパニーズマフィアの一員だったり通り魔だったり。この子は男女間のもつれで、だったな。全員刃物か包丁などで人を殺した者達だ」
 弔いの祈りを捧げながらリーリヤは説明を続けた。
 澄香は改めて妖に埋め込まれていた刀を見る。何の変哲もない小刀だが、それが急に禍々しく思えてきた。
(刃で人を殺したことがある死体に取り憑いて、妖化した……?)
 ともあれ、この島根を襲う妖達のキーとなっているのは確かだ。FiVEに持ち帰って、もう少し調べなくては。
「リーリヤさん。これは私のわがままで、もちろんFiVEの総意と同じとは限りません」
 ラーラはそう前置きして、リーリヤに向き直る。
「今、ここ島根には無数の妖が跋扈し一般人がいつ犠牲になるとも分からない状況です。力をお貸しいただくことは出来ないでしょうか……?」
「ワタシも一応囚人なのだがな」
 ため息を吐くリーリヤ。元憤怒者の彼女は、数えきれないほどの覚者の命を奪ってきた。そこから目を背けるつもりはない――というのは確かだ。
「とはいえ、人が犠牲になると言われれば首を縦に振らざるを得まい」
『マリートヴァ』……祈りを意味する二つ名を持つ彼女は、多くの命を救おうとして覚者を根絶しようとしてきた。ここで足を止めることはその祈りを止めることに等しい。
「一緒に来ていただけるんですか!?」
「まさかこんな形で共闘することになるなんてね」
 以前リーリヤと相対していた澄香と数多は思わぬ展開に声をあげる。状況が状況とはいえ、かつて憤怒者だった者と手を取り合えるということは覚者と非覚者の関係を考えれば大きな一歩である。
 ――逆に言えば、それほど切迫している状況と言えた。

 リーリヤの活動は『FiVE覚者の監視下の元でなら黙認』という形に落ち着いた。妖が跋扈する現状において、元憤怒者の活動は優先順位が低い、という落とし所だ。
 リーリヤはエグゾルツィーズム――彼女が組織していた宗教母体の元憤怒者組織に働きかける形で妖に対抗しようとする。戦闘面ではなく物資輸送や情報収集と言った形のサポートだ。
 島根を襲った妖の数は、いまだ多い。
 だが少しずつ、希望の光は輝き始めていた。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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