《金剛布武》籠の中の鳥
●救出作戦
「えっと、それじゃ、作戦の説明を始めるな?」
F.i.V.E.のブリーフィングルームに集められた覚者達へ、速水 結那(nCL2000114)は言った。
七星剣幹部の金剛擁する勢力が、F.i.V.E.を包囲するため、五麟近隣の覚者組織を襲撃。支配下に置いているという。
金剛は「弱肉強食」をモットーとする幹部であり、かなりの武闘派である。
制圧した覚者組織の者たちは、「弱者である」と言う理由から相当ひどい扱いを受けているようだ。
「そこで、今回、皆にお願いしたいのは、この襲撃された地域に向かって、囚われている覚者を救ってほしいんよ」
「さて、じゃ、ここからはオレから説明させてもらうぜ」
と、結那の言葉を、神林 瑛莉(nCL2000072)が引き継いだ。
「救出作戦、とは言ったけど、実際に救出するのはオレ達Bチームだ。皆には戦闘能力では及ばないけど、こういった裏方仕事には慣れてる連中だ。信用してくれ。Aチームの皆には、オレ達が救出を終えるまでの、陽動と時間稼ぎを頼みたい」
瑛莉が言うには、救出部隊であるBチームが潜入後、派手に暴れて、敵の注意を引き付けてほしいとの事だ。
今回向かう施設に駐留しているのは、金剛直属の配下が一人に、配下の隔者連合数名。
直属の配下、識別名『グラップラー』は、隔者連合の人員が全滅するまでは、表に出てこないという。
「オレ達相手には隔者連合でも十分、と舐められてるみたいだが……同時にチャンスだ。グラップラー相手じゃ、皆でも相当骨が折れるはずだ。それに比べれば、隔者連合の連中なんて雑魚も雑魚。コイツらとうまく遊んで、時間を稼いだら撤退してくれ」
もちろん、と瑛莉は続けると、
「隔者連合の連中を全滅させて、グラップラーを釣りだしてもいい。ただ、さっきも言った通り、グラップラーは相当の実力者らしいから、十分以上に覚悟をしてくれ。今回の作戦は、あくまで救出作戦だから、無理はしない方がいいと思うが……まぁ、よろしく頼む。信用してるぜ」
そう言って、ウインク一つ。瑛莉は説明を終えた。
「えと、そういうわけで。難しい作戦やけど、くれぐれも気をつけてな。……皆、どうか、無事で」
そう言って、結那は頭を下げた。
「えっと、それじゃ、作戦の説明を始めるな?」
F.i.V.E.のブリーフィングルームに集められた覚者達へ、速水 結那(nCL2000114)は言った。
七星剣幹部の金剛擁する勢力が、F.i.V.E.を包囲するため、五麟近隣の覚者組織を襲撃。支配下に置いているという。
金剛は「弱肉強食」をモットーとする幹部であり、かなりの武闘派である。
制圧した覚者組織の者たちは、「弱者である」と言う理由から相当ひどい扱いを受けているようだ。
「そこで、今回、皆にお願いしたいのは、この襲撃された地域に向かって、囚われている覚者を救ってほしいんよ」
「さて、じゃ、ここからはオレから説明させてもらうぜ」
と、結那の言葉を、神林 瑛莉(nCL2000072)が引き継いだ。
「救出作戦、とは言ったけど、実際に救出するのはオレ達Bチームだ。皆には戦闘能力では及ばないけど、こういった裏方仕事には慣れてる連中だ。信用してくれ。Aチームの皆には、オレ達が救出を終えるまでの、陽動と時間稼ぎを頼みたい」
瑛莉が言うには、救出部隊であるBチームが潜入後、派手に暴れて、敵の注意を引き付けてほしいとの事だ。
今回向かう施設に駐留しているのは、金剛直属の配下が一人に、配下の隔者連合数名。
直属の配下、識別名『グラップラー』は、隔者連合の人員が全滅するまでは、表に出てこないという。
「オレ達相手には隔者連合でも十分、と舐められてるみたいだが……同時にチャンスだ。グラップラー相手じゃ、皆でも相当骨が折れるはずだ。それに比べれば、隔者連合の連中なんて雑魚も雑魚。コイツらとうまく遊んで、時間を稼いだら撤退してくれ」
もちろん、と瑛莉は続けると、
「隔者連合の連中を全滅させて、グラップラーを釣りだしてもいい。ただ、さっきも言った通り、グラップラーは相当の実力者らしいから、十分以上に覚悟をしてくれ。今回の作戦は、あくまで救出作戦だから、無理はしない方がいいと思うが……まぁ、よろしく頼む。信用してるぜ」
そう言って、ウインク一つ。瑛莉は説明を終えた。
「えと、そういうわけで。難しい作戦やけど、くれぐれも気をつけてな。……皆、どうか、無事で」
そう言って、結那は頭を下げた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.20ターン経過後、撤退、もしくはグラップラーを倒す
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
捕らわれた覚者の救出作戦になります。
●本シナリオ特別ルールについて
本シナリオの戦闘中において、『1ターン=1分』で定義されます。
と言っても、別にスキルの使用・付与時間などが変わるわけではありません。
あくまで、そう言ったフレーバーである、とお考え下さい。
●Bチームについて
NPC率いるBチームは、プレイヤーの皆様が所属するAチームが、20ターン未満の状態で撤退・全滅しない限り、確実・的確に任務を遂行し、必ず20分=20ターンで救出を成功、脱出します。
●敵について
隔者連合隔者 ×12
内訳としては、
火行隔者 ×5 前衛。攻撃を担当。やけどなどを付与
土行隔者 ×3 前衛。攻撃と防御を担当
水行隔者 ×2 後衛。回復を担当
木行隔者 ×2 後衛。妨害を担当
となっております。
グラップラー ×1
彩の因子 土行
体術をメインに戦う男格闘家です。
非常に強力なので、引っ張り出さない方が無難です。
もし戦って倒すのであれば、それ相応に難易度は跳ね上がります。
以上となります。
それでは、皆様のご参加お待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
7/8
公開日
2018年04月01日
2018年04月01日
■メイン参加者 7人■

●作戦、開始前
ある街中を、三台のワゴン車がが走っていた。これより作戦に向かう覚者達を乗せた、F.i.V.E.所有の車両である。
車内から、外の景色を見てみる。七星剣が事実上支配している地域とはいえ、漫画やゲームの類で見る様な、わかりやすく荒廃したような景色ではないが、人通り少なく、住民たちもどこか怯えているように見えるのは、その手の無法者と遭遇する確率が高いから、であろう。
さて、覚者達を乗せたワゴンは、空地へと駐車した。降り立ったのは、12名の男女である。攻撃を担当する、Aチーム、7名の覚者達。そして、救出を担当する、Bチーム、5名の覚者達である。
「さて、作戦開始だ」
『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575) が言った。
「20分、だったね。確実に時間を稼いでみせるよ」
蒼羽の言葉に、
「頼りにしてるぜ」
神林 瑛莉(nCL2000072)が答えた。
「オレ達は、皆が戦闘を開始してから潜入する。攻撃のタイミングはそっちで決めてくれ」
瑛莉の言葉に、
「まかせてよ、神林君」
真屋・千雪(CL2001638)が言う。
「双方生かさず殺さず20分耐久とか高難度の縛りプレイみたいだしねー、頑張るよー」
あはは、と笑う千雪である。
「神林さん……、いい?」
と、『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)は言いながら、瑛莉の手を握った。
――えっと、わかる?
心に言葉を思い浮かべる。瑛莉は一瞬、はっとした表情をしてから、
「ああ、送受信か……あ」
と、咳払い一つ。
――えーと、OKだ。助かるぜ、明石。
改めて、心の中で思い直す。
ミュエルは頷いて、意思の疎通が図れていることを確認した。
「じゃあ、皆……無理しないでくれよ」
瑛莉がそう言って、Bチームのメンバーと共に行こうとするのへ、
「瑛莉様も……いえ、Bチームの皆様も。くれぐれもお気をつけて」
『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)の言葉に、Bチームメンバーはそれぞれ感謝と、心配の言葉をかけてくれた。
「私達も行きましょうか」
Bチームを見送りながら、『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)が言った。
「そうだね。Bチームの皆の為にも、捕まっている人達を助けるためにも、僕たちが頑張らないと、ね」
宮神 羽琉(CL2001381)が頷きながら言う。その言葉に、覚者達は頷いた。かくして、目標の施設へと向かって、移動を開始する。
「やはり、何処か寂しい気持ちのする街ですね」
西園寺 海(CL2001607)が言った。車中から見た時も思ったが、やはり実際歩いてみると、何処か活気がないようにも思える。
「力が強い人が、力の弱い人達を支配する……西園寺は、この力を、力のない人のためにこそ使いたいです。きっとそれを、あの子も望んでいるはずだから」
海が、手にしたぬいぐるみを抱きしめた。
「強い人が偉い、みたいなのは、ゲームの世界だけの考えで十分かなー」
千雪が答えた。
「そう、だね……アタシも、金剛さんの考え方、受けれ入れられない……」
俯くミュエルに、羽琉がそっと寄り添った。
「その結果が、この静かな町だというのなら――」
澄香が言った。
「こんな世の中にしてはいけません。まずはその一歩。この作戦を、必ず成功させましょう」
力を込めて、澄香が言う。覚者達は、その言葉に、決意を新たにするのであった。
それからほどなくして、覚者達は目標の施設に到着した。Bチームもすでに所定の位置についているころだろう。
「では、はじめましょう」
いのりが言った。覚醒。その姿がたちまち大人のそれへと変わり、
「なるべく派手にまいりましょう? その方が、敵の気もそれますものね」
にこり、と笑う。
「同感だね」
蒼羽が同意した。
「ある意味で宣戦布告だ。思いっきり目をひいてやろうじゃないか」
拳をグッと握り、蒼羽は笑った。
●作戦、開始
施設の隅で、覚者達のスキルが爆発した。目標は、手近に居た隔者である。
なるべく派手に、目につくように……しかし致命打は与えぬよう。これから20分、大立ち回りを演じなければならないのである。精々派手に踊ってやろう、と覚者達は思った。勿論、ダンスの相手はしてもらう。
「隔者の方々ですわね。御覚悟願いますわ!」
杖をつきつけ、大声でいのりは言った。その声に驚いた隔者の男が、
「テメェらどこの……F.i.V.E.の連中か!?」
叫んだ。
「君たちを全員倒せば 仲間を助けられる訳だ?」
蒼羽がにこり、と笑う。
「金剛とやらは好き勝手してくれているようだし。ここで片付けられたら一石二鳥だよね」
蒼羽がの言葉に、
「ははぁ、テメェら、あの覚者連中を助けに来たってわけか! いい度胸だ、全員ぶっ殺してやる!」
わらわらと、隔者たちが飛び出してくる。総勢、12名。予定通りの人数だ。
「あはは、いいねー。テンプレ悪役、って感じのセリフだねー」
と、千雪。
「あなた達の悪行、見過ごすわけにはいきません! あなた達こそ、今日ここまでです!」
あえて挑発する様に、強い言葉を使う澄香。同時に、清廉珀香を使用する。味方への援護であると同時に、おおよその時間経過を図るための、タイマーの役割でもある。
戦闘中に、時計を気にしている素振りなどみせるわけにはいかない。千雪の体内時計による計測もあるが、複数人である程度、時間を把握していた方がいいだろう。
――瑛莉様、頼みましたわよ。
胸中でつぶやき、いのりは弱体術式を展開した。ねばりつくような霧が隔者たちの身体に付着する。
「くそっ、術か!」
毒づく隔者へ、
「不要かとは思いますが念のため」
いのりは、あえて見下すような言葉をかける。こちらが自信満々で仕掛けてきた、と思わせておいた方が色々と都合が良い。
相手の自尊心に働きかけ、序盤を侮辱を、そしてこちらが不利になる演技をする後半戦には優越感を、それぞれ相手に植えつける。兎に角、相手に冷静になられたり、弱気になられては面倒だ。感情の起伏もうまく利用し、兎に角こちらへ敵を釘付けにする。
――そのためなら、どんな道化でも演じて見せますわ!
いのりが胸中で決意する。それは、この場にいる覚者、全てに共通する決意でもあった。
「レンゲさん……やる、よ……!」
まかせなさい! とばかりに、ミュエルの守護使役、レンゲさんが羽ばたいた。
ミュエルの術式により発生した中和薬は、霧状になり覚者達に降り注ぐ。『カラミンサ・ネペタ』。その名の通り淡紫色を思わせる霧は、覚者達の自然治癒能力を向上させる。
耐えなきゃいけないから、準備はしっかりしないと。
そう考えるミュエル。殲滅するだけなら容易いが、今回は持久戦である。準備をしてしすぎるという事はあるまい。
「僕は物理攻撃が専門でね。術式攻撃は苦手なんだ」
蒼羽が手を天に掲げるや、突如として黒い雷雲が発生した。轟音とともに降り注ぐ雷の矢は、『雷神ノ檻』と言うその名のままに、敵を封じ込めるようにその身体能力を削ぐ。
「……嫌がらせ以外、だけどね?」
やはり挑発するように笑う蒼羽。
「演舞・清爽。援護します」
海は援護の術式を展開し、
「さて、新技……試させてもらおうかなー」
と、千雪が放つは、黒いモヤである。隔者たちの合間を縫うように移動し、惑わせるそのモヤは、相手を混乱状態に陥れる効果を持つ。実際、何名かの隔者が、混乱したような様子を見せ始めた。
――どれだけ必要に迫られても、ひとごろしはやっぱり嫌なもので……。
羽琉は胸中で呟く。
――だからこそ、誰かを救出するために、加減して戦うのなら……気持ちはずいぶんと楽だよね。
「痛いのも嫌は嫌ですけど、治せる範囲なら、まだ頑張れますし」
聞こえぬよう、小声でつぶやく。後は、押し黙った。下手に喋って演技がばれるといけない、と言う配慮である。
「行くぞテメェら! 生かして帰すな!」
隔者の男の怒号が響き、隔者達の攻撃が始まる。
隔者一人一人の戦闘能力は、覚者達に並ぶべくもない。しかし、数は覚者達の倍近くである。単純に戦うだけでは、双方無事に20分目を迎える事はなかっただろう。そう言った意味で、覚者達はしっかりと作戦を立てていたし、それは機能していた。
ばれぬように立ち回り、上手く敵をあしらう。
「今解除しますから……!」
慌てたように澄香が言う。その腕を振るうと、ふと桜の花があたりに舞い落ちた。だが、桜の木など周囲にはない。『乱舞桜吹雪』。その術式によって生み出された桜吹雪は、見る者の障害を癒すという。
「いのり達相手にこうまで戦えるとは、思ったよりやりますわね」
額の汗をぬぐいつつ、いのりが言う。
「ははは、さっきまでの威勢はどうしたよ!」
嘲笑う様に、隔者の男が言った。
「まだ……だよ。あなた達の攻撃なんて、全然痛くないよ……? アタシが、倒れない限り……こっちを倒すなんて、無理、だからね……!」
挑発と、負け惜しみの演技を兼ねて、ミュエルが言った。
「まいったね……なかなかやるようだ」
蒼羽がぼやくように言った。
「西園寺には……まだ力不足だったのでしょうか……」
悔し気に、海が言う。
「諦めずに頑張ろうよー。まだ十分も戦ってないよー」
千雪が励ますように――その実、経過時間をさりげなく伝える。
「……皆っ……!」
羽琉がつい、言葉を口にしてしまい、慌てて口を噤んだ。
だがその様子は、相手に回復役が、回復の手が足りず、慌てているという印象を与えたようであった。
戦闘は膠着状態に陥った。それは、覚者の予定通りである。そうして、時間は少しづつ、しかし確実に過ぎて行った。20分。長いようで、短い時間。だが、終わりの時は訪れる。
――聞こえるか?
ミュエルの心に、声が届いた。
同時に。
「もうダメだ、限界だよー!」
千雪が言った。
――こっちは作戦を完了した! そっちも早く撤退してくれ!
――了解……!
ミュエルは心中で声に応えた。
「もう、お終い……! 逃げよう……!」
限界。お終い。それはつまり、作戦の終わりの合図だ。
その言葉に、覚者達は一斉に動いた。
「わかりました。西園寺、撤退します」
海はぬいぐるみをふりまわし、隔者から一気に距離をとる。
「今日はここまでかな? しんがりは任せて。早く皆は撤退を」
蒼羽がけん制しつつ、言う。
「逃がすと――」
隔者の男が言うのへ、
「悪いねー、逃げさせてもらうよー」
同じくしんがりにつき、敵をけん制しながら、千雪が言った。
「覚えていなさい……!」
悔し気に澄香が言う。しんがりの2人に回復術式をかけ、撤退の準備に入る。
「次はこうはいきませんわ!」
いのりが言う。
「これで、満タン……かな……? お願い、ね……」
しんがりの2人の傷を癒しつつ、ミュエルが言った。
「レディ・ファーストだよ。皆、はやく!」
羽琉が仲間たちに撤退を促す。
「逃がすな!」
隔者達の男が叫ぶ。だが、隔者達も相応にダメージを受けているため、即追撃にうつることができないようだ。
その隙をついて、覚者達は撤退を開始したのだった。
●
覚者達は、自分達の不利を悟るや、逃げ出したらしい。
隔者の男は、自らの功績を、内心誇っていた。
F.i.V.E.覚者、言うほどではない。
それは、自身の強さを表せたという事であり、金剛をトップとする組織においては、必要不可欠な行為である。
「よう、何してんだ?」
と。
そんな男のもとに、施設の中から、筋骨隆々とした一人の男が、けだるげに現れた。この施設を管理する、金剛直属の部下である。
「は、はい! 先ほどF.i.V.E.の覚者どもの襲撃を受けたんですけど、追っ払ってやりましたよ! 奴ら、慌てて逃げていきやがって!」
興奮してまくしたてる男の方を、金剛の部下――F.i.V.E.識別名、『グラップラー』がつかんだ。
「そうか。奴らは逃げたか」
ニッ、と笑う。心底楽し気な笑みであった。
ふと。
男の視界の中で、その顔が、激しく上に吹っ飛んだ。衝撃。続いて見えたのは、空だ。
投げられたのだ、と気づいた時に、痛みがやってきた。
「な、なにを……」
呻いた時には、関節を片っ端からあらぬ方向に極められていた。いつの間に投げられたのか、いつの間に体中を固められたのか、それすら分らぬほどの早業。
『グラップラー』。それは、掴み技を極めた闘士につけられる称号。
「いやいやいや、お前、目が悪いのか。あれは、逃げたんじゃねぇよ。勝利の凱旋、って奴だ」
めきり、と、男の身体が鳴った。グラップラーが力を籠める。男の体中が痛みを訴えた。
「ハハハ。施設の中は空っぽだぞ。笑えるぜ。お前も見て来いよ」
男が悲鳴をあげる。
「いや、悪い。別にお前にキレてこんなことしてるるわけじゃないんだ。あいつらをナメてお前らに丸投げしたのは俺だからよぉ。落ち度は俺にあるんだ。これはほら、準備運動だ。柔軟するだろう? 動く前に。それだよ。俺が、お前で、準備運動してるんだ」
関節が逆に曲がる一歩手前までひねられて、男がたまらず涙を流す。
「むしろ面白れぇよ。なかなかやるじゃねぇか、F.i.V.E.ってのも。なぁ? 戦争が楽しみだぜ」
グラップラーが笑った。
牙をむき、心底嬉しそうに、笑った。
隔者の男は、恐怖と痛みのあまり、失禁していた。
●作戦、完了
「よかった! 全員無事か!」
合流場所へと帰還した覚者達を迎えたのは、Bチームの面々と、見覚えのない十名ほどの男女達だ。彼らはそろってやつれ、或いは傷ついた様子である。彼らが、捕まっていたという覚者組織のメンバーだろう。
その中の一人、年若い男性が、覚者達に声をかけた。
「あ、ありがとうございます。囮を引き受けてくれていたと……」
「礼は後だ。とにかく、今は撤退しよう」
蒼羽が言う。
「簡単にですけれど、傷の手当てをしましょう。車に分かれて乗って……私と、明石さん、宮神さんで」
澄香の言葉に、ミュエルと羽琉が頷いた。
「まか、せて……!」
「うん。さぁ、こっちへ」
羽琉が、救出された覚者達を誘導する。
「お弁当を……と思いましたけれど、囚われていた皆さんはそんな状況ではなさそうですわね……」
心配そうに、いのりが言った。
「ですが、作戦は無事成功しました。あの人達が、これ以上苦しむことはないです」
海が言った。
「……あの子の負担も、少しは……減ったかな……」
ぬいぐるみを抱きしめて、思うは大切な夢見の友の事。
「さぁ、行こうかー。この街から脱出するまでが作戦だよ、なんてねー」
千雪が言う。
かくして、覚者達は離脱の途につく。
金剛に支配された街。そこから救出した仲間たちを乗せて。
次にこの街に来る時は、もっと多くの人々を解放する時だ。
その決意と共に、今はひとまず、作戦の成功を喜ぶのであった。
ある街中を、三台のワゴン車がが走っていた。これより作戦に向かう覚者達を乗せた、F.i.V.E.所有の車両である。
車内から、外の景色を見てみる。七星剣が事実上支配している地域とはいえ、漫画やゲームの類で見る様な、わかりやすく荒廃したような景色ではないが、人通り少なく、住民たちもどこか怯えているように見えるのは、その手の無法者と遭遇する確率が高いから、であろう。
さて、覚者達を乗せたワゴンは、空地へと駐車した。降り立ったのは、12名の男女である。攻撃を担当する、Aチーム、7名の覚者達。そして、救出を担当する、Bチーム、5名の覚者達である。
「さて、作戦開始だ」
『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575) が言った。
「20分、だったね。確実に時間を稼いでみせるよ」
蒼羽の言葉に、
「頼りにしてるぜ」
神林 瑛莉(nCL2000072)が答えた。
「オレ達は、皆が戦闘を開始してから潜入する。攻撃のタイミングはそっちで決めてくれ」
瑛莉の言葉に、
「まかせてよ、神林君」
真屋・千雪(CL2001638)が言う。
「双方生かさず殺さず20分耐久とか高難度の縛りプレイみたいだしねー、頑張るよー」
あはは、と笑う千雪である。
「神林さん……、いい?」
と、『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)は言いながら、瑛莉の手を握った。
――えっと、わかる?
心に言葉を思い浮かべる。瑛莉は一瞬、はっとした表情をしてから、
「ああ、送受信か……あ」
と、咳払い一つ。
――えーと、OKだ。助かるぜ、明石。
改めて、心の中で思い直す。
ミュエルは頷いて、意思の疎通が図れていることを確認した。
「じゃあ、皆……無理しないでくれよ」
瑛莉がそう言って、Bチームのメンバーと共に行こうとするのへ、
「瑛莉様も……いえ、Bチームの皆様も。くれぐれもお気をつけて」
『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)の言葉に、Bチームメンバーはそれぞれ感謝と、心配の言葉をかけてくれた。
「私達も行きましょうか」
Bチームを見送りながら、『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)が言った。
「そうだね。Bチームの皆の為にも、捕まっている人達を助けるためにも、僕たちが頑張らないと、ね」
宮神 羽琉(CL2001381)が頷きながら言う。その言葉に、覚者達は頷いた。かくして、目標の施設へと向かって、移動を開始する。
「やはり、何処か寂しい気持ちのする街ですね」
西園寺 海(CL2001607)が言った。車中から見た時も思ったが、やはり実際歩いてみると、何処か活気がないようにも思える。
「力が強い人が、力の弱い人達を支配する……西園寺は、この力を、力のない人のためにこそ使いたいです。きっとそれを、あの子も望んでいるはずだから」
海が、手にしたぬいぐるみを抱きしめた。
「強い人が偉い、みたいなのは、ゲームの世界だけの考えで十分かなー」
千雪が答えた。
「そう、だね……アタシも、金剛さんの考え方、受けれ入れられない……」
俯くミュエルに、羽琉がそっと寄り添った。
「その結果が、この静かな町だというのなら――」
澄香が言った。
「こんな世の中にしてはいけません。まずはその一歩。この作戦を、必ず成功させましょう」
力を込めて、澄香が言う。覚者達は、その言葉に、決意を新たにするのであった。
それからほどなくして、覚者達は目標の施設に到着した。Bチームもすでに所定の位置についているころだろう。
「では、はじめましょう」
いのりが言った。覚醒。その姿がたちまち大人のそれへと変わり、
「なるべく派手にまいりましょう? その方が、敵の気もそれますものね」
にこり、と笑う。
「同感だね」
蒼羽が同意した。
「ある意味で宣戦布告だ。思いっきり目をひいてやろうじゃないか」
拳をグッと握り、蒼羽は笑った。
●作戦、開始
施設の隅で、覚者達のスキルが爆発した。目標は、手近に居た隔者である。
なるべく派手に、目につくように……しかし致命打は与えぬよう。これから20分、大立ち回りを演じなければならないのである。精々派手に踊ってやろう、と覚者達は思った。勿論、ダンスの相手はしてもらう。
「隔者の方々ですわね。御覚悟願いますわ!」
杖をつきつけ、大声でいのりは言った。その声に驚いた隔者の男が、
「テメェらどこの……F.i.V.E.の連中か!?」
叫んだ。
「君たちを全員倒せば 仲間を助けられる訳だ?」
蒼羽がにこり、と笑う。
「金剛とやらは好き勝手してくれているようだし。ここで片付けられたら一石二鳥だよね」
蒼羽がの言葉に、
「ははぁ、テメェら、あの覚者連中を助けに来たってわけか! いい度胸だ、全員ぶっ殺してやる!」
わらわらと、隔者たちが飛び出してくる。総勢、12名。予定通りの人数だ。
「あはは、いいねー。テンプレ悪役、って感じのセリフだねー」
と、千雪。
「あなた達の悪行、見過ごすわけにはいきません! あなた達こそ、今日ここまでです!」
あえて挑発する様に、強い言葉を使う澄香。同時に、清廉珀香を使用する。味方への援護であると同時に、おおよその時間経過を図るための、タイマーの役割でもある。
戦闘中に、時計を気にしている素振りなどみせるわけにはいかない。千雪の体内時計による計測もあるが、複数人である程度、時間を把握していた方がいいだろう。
――瑛莉様、頼みましたわよ。
胸中でつぶやき、いのりは弱体術式を展開した。ねばりつくような霧が隔者たちの身体に付着する。
「くそっ、術か!」
毒づく隔者へ、
「不要かとは思いますが念のため」
いのりは、あえて見下すような言葉をかける。こちらが自信満々で仕掛けてきた、と思わせておいた方が色々と都合が良い。
相手の自尊心に働きかけ、序盤を侮辱を、そしてこちらが不利になる演技をする後半戦には優越感を、それぞれ相手に植えつける。兎に角、相手に冷静になられたり、弱気になられては面倒だ。感情の起伏もうまく利用し、兎に角こちらへ敵を釘付けにする。
――そのためなら、どんな道化でも演じて見せますわ!
いのりが胸中で決意する。それは、この場にいる覚者、全てに共通する決意でもあった。
「レンゲさん……やる、よ……!」
まかせなさい! とばかりに、ミュエルの守護使役、レンゲさんが羽ばたいた。
ミュエルの術式により発生した中和薬は、霧状になり覚者達に降り注ぐ。『カラミンサ・ネペタ』。その名の通り淡紫色を思わせる霧は、覚者達の自然治癒能力を向上させる。
耐えなきゃいけないから、準備はしっかりしないと。
そう考えるミュエル。殲滅するだけなら容易いが、今回は持久戦である。準備をしてしすぎるという事はあるまい。
「僕は物理攻撃が専門でね。術式攻撃は苦手なんだ」
蒼羽が手を天に掲げるや、突如として黒い雷雲が発生した。轟音とともに降り注ぐ雷の矢は、『雷神ノ檻』と言うその名のままに、敵を封じ込めるようにその身体能力を削ぐ。
「……嫌がらせ以外、だけどね?」
やはり挑発するように笑う蒼羽。
「演舞・清爽。援護します」
海は援護の術式を展開し、
「さて、新技……試させてもらおうかなー」
と、千雪が放つは、黒いモヤである。隔者たちの合間を縫うように移動し、惑わせるそのモヤは、相手を混乱状態に陥れる効果を持つ。実際、何名かの隔者が、混乱したような様子を見せ始めた。
――どれだけ必要に迫られても、ひとごろしはやっぱり嫌なもので……。
羽琉は胸中で呟く。
――だからこそ、誰かを救出するために、加減して戦うのなら……気持ちはずいぶんと楽だよね。
「痛いのも嫌は嫌ですけど、治せる範囲なら、まだ頑張れますし」
聞こえぬよう、小声でつぶやく。後は、押し黙った。下手に喋って演技がばれるといけない、と言う配慮である。
「行くぞテメェら! 生かして帰すな!」
隔者の男の怒号が響き、隔者達の攻撃が始まる。
隔者一人一人の戦闘能力は、覚者達に並ぶべくもない。しかし、数は覚者達の倍近くである。単純に戦うだけでは、双方無事に20分目を迎える事はなかっただろう。そう言った意味で、覚者達はしっかりと作戦を立てていたし、それは機能していた。
ばれぬように立ち回り、上手く敵をあしらう。
「今解除しますから……!」
慌てたように澄香が言う。その腕を振るうと、ふと桜の花があたりに舞い落ちた。だが、桜の木など周囲にはない。『乱舞桜吹雪』。その術式によって生み出された桜吹雪は、見る者の障害を癒すという。
「いのり達相手にこうまで戦えるとは、思ったよりやりますわね」
額の汗をぬぐいつつ、いのりが言う。
「ははは、さっきまでの威勢はどうしたよ!」
嘲笑う様に、隔者の男が言った。
「まだ……だよ。あなた達の攻撃なんて、全然痛くないよ……? アタシが、倒れない限り……こっちを倒すなんて、無理、だからね……!」
挑発と、負け惜しみの演技を兼ねて、ミュエルが言った。
「まいったね……なかなかやるようだ」
蒼羽がぼやくように言った。
「西園寺には……まだ力不足だったのでしょうか……」
悔し気に、海が言う。
「諦めずに頑張ろうよー。まだ十分も戦ってないよー」
千雪が励ますように――その実、経過時間をさりげなく伝える。
「……皆っ……!」
羽琉がつい、言葉を口にしてしまい、慌てて口を噤んだ。
だがその様子は、相手に回復役が、回復の手が足りず、慌てているという印象を与えたようであった。
戦闘は膠着状態に陥った。それは、覚者の予定通りである。そうして、時間は少しづつ、しかし確実に過ぎて行った。20分。長いようで、短い時間。だが、終わりの時は訪れる。
――聞こえるか?
ミュエルの心に、声が届いた。
同時に。
「もうダメだ、限界だよー!」
千雪が言った。
――こっちは作戦を完了した! そっちも早く撤退してくれ!
――了解……!
ミュエルは心中で声に応えた。
「もう、お終い……! 逃げよう……!」
限界。お終い。それはつまり、作戦の終わりの合図だ。
その言葉に、覚者達は一斉に動いた。
「わかりました。西園寺、撤退します」
海はぬいぐるみをふりまわし、隔者から一気に距離をとる。
「今日はここまでかな? しんがりは任せて。早く皆は撤退を」
蒼羽がけん制しつつ、言う。
「逃がすと――」
隔者の男が言うのへ、
「悪いねー、逃げさせてもらうよー」
同じくしんがりにつき、敵をけん制しながら、千雪が言った。
「覚えていなさい……!」
悔し気に澄香が言う。しんがりの2人に回復術式をかけ、撤退の準備に入る。
「次はこうはいきませんわ!」
いのりが言う。
「これで、満タン……かな……? お願い、ね……」
しんがりの2人の傷を癒しつつ、ミュエルが言った。
「レディ・ファーストだよ。皆、はやく!」
羽琉が仲間たちに撤退を促す。
「逃がすな!」
隔者達の男が叫ぶ。だが、隔者達も相応にダメージを受けているため、即追撃にうつることができないようだ。
その隙をついて、覚者達は撤退を開始したのだった。
●
覚者達は、自分達の不利を悟るや、逃げ出したらしい。
隔者の男は、自らの功績を、内心誇っていた。
F.i.V.E.覚者、言うほどではない。
それは、自身の強さを表せたという事であり、金剛をトップとする組織においては、必要不可欠な行為である。
「よう、何してんだ?」
と。
そんな男のもとに、施設の中から、筋骨隆々とした一人の男が、けだるげに現れた。この施設を管理する、金剛直属の部下である。
「は、はい! 先ほどF.i.V.E.の覚者どもの襲撃を受けたんですけど、追っ払ってやりましたよ! 奴ら、慌てて逃げていきやがって!」
興奮してまくしたてる男の方を、金剛の部下――F.i.V.E.識別名、『グラップラー』がつかんだ。
「そうか。奴らは逃げたか」
ニッ、と笑う。心底楽し気な笑みであった。
ふと。
男の視界の中で、その顔が、激しく上に吹っ飛んだ。衝撃。続いて見えたのは、空だ。
投げられたのだ、と気づいた時に、痛みがやってきた。
「な、なにを……」
呻いた時には、関節を片っ端からあらぬ方向に極められていた。いつの間に投げられたのか、いつの間に体中を固められたのか、それすら分らぬほどの早業。
『グラップラー』。それは、掴み技を極めた闘士につけられる称号。
「いやいやいや、お前、目が悪いのか。あれは、逃げたんじゃねぇよ。勝利の凱旋、って奴だ」
めきり、と、男の身体が鳴った。グラップラーが力を籠める。男の体中が痛みを訴えた。
「ハハハ。施設の中は空っぽだぞ。笑えるぜ。お前も見て来いよ」
男が悲鳴をあげる。
「いや、悪い。別にお前にキレてこんなことしてるるわけじゃないんだ。あいつらをナメてお前らに丸投げしたのは俺だからよぉ。落ち度は俺にあるんだ。これはほら、準備運動だ。柔軟するだろう? 動く前に。それだよ。俺が、お前で、準備運動してるんだ」
関節が逆に曲がる一歩手前までひねられて、男がたまらず涙を流す。
「むしろ面白れぇよ。なかなかやるじゃねぇか、F.i.V.E.ってのも。なぁ? 戦争が楽しみだぜ」
グラップラーが笑った。
牙をむき、心底嬉しそうに、笑った。
隔者の男は、恐怖と痛みのあまり、失禁していた。
●作戦、完了
「よかった! 全員無事か!」
合流場所へと帰還した覚者達を迎えたのは、Bチームの面々と、見覚えのない十名ほどの男女達だ。彼らはそろってやつれ、或いは傷ついた様子である。彼らが、捕まっていたという覚者組織のメンバーだろう。
その中の一人、年若い男性が、覚者達に声をかけた。
「あ、ありがとうございます。囮を引き受けてくれていたと……」
「礼は後だ。とにかく、今は撤退しよう」
蒼羽が言う。
「簡単にですけれど、傷の手当てをしましょう。車に分かれて乗って……私と、明石さん、宮神さんで」
澄香の言葉に、ミュエルと羽琉が頷いた。
「まか、せて……!」
「うん。さぁ、こっちへ」
羽琉が、救出された覚者達を誘導する。
「お弁当を……と思いましたけれど、囚われていた皆さんはそんな状況ではなさそうですわね……」
心配そうに、いのりが言った。
「ですが、作戦は無事成功しました。あの人達が、これ以上苦しむことはないです」
海が言った。
「……あの子の負担も、少しは……減ったかな……」
ぬいぐるみを抱きしめて、思うは大切な夢見の友の事。
「さぁ、行こうかー。この街から脱出するまでが作戦だよ、なんてねー」
千雪が言う。
かくして、覚者達は離脱の途につく。
金剛に支配された街。そこから救出した仲間たちを乗せて。
次にこの街に来る時は、もっと多くの人々を解放する時だ。
その決意と共に、今はひとまず、作戦の成功を喜ぶのであった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
