《金剛布武》その少女 命大事と人殺す
《金剛布武》その少女 命大事と人殺す


●命を刻む者
 命が一つずつ消えていく。
 火で燃やされ、氷の槍で貫かれ、稲妻で感電し、岩で押しつぶされる。
 それは覚者の術式。それを放った少女は、本型の神具に何かを書き込んでいく。そして満足したように微笑んで、また術を放って人を殺す。
 それは虐殺。それは殺戮。それは滅殺。
 生かすつもりなどない一方的な命の搾取。交渉の予知などない。命を乞うた者は凍り、子供だけはと情に訴える声は親子共々荼毘に付し、逃げ出す者は足を裂かれ。
 唯一反応があったのは、一矢報いようとした相手のみ。しかしそれとて結果は同じ。その刃が少女に届く前に、源素の一撃で死を告げられる。
 そして少女はまた本に何かを書く。
「ねえ、お姉さん。名前は? ボクは篠原カンナっていうんだ」
「……名前……?」
「うん。名前。ボク、殺した相手の事を記録しているの。名乗る前の死んじゃった人は星印にしているんだけどね。名前を聞けるなら書きたいなあ」
 言って少女は本型の神具を見せる。そこには大量の星印と、数名の人の名前。少女の言葉を信じるなら、それだけの数を殺してきたのか。
「この星二つは恋人同士で、互いを庇うようにしてたんだ。だから同時に殺してあげたの、
 こっちの星はお金をあげるから殺さないでくれ、って。ボク、お金いらないのになぁ。
 あ、この小島さんていう人は銃の使い手でね。肩を撃たれて、少し興奮しちゃった。
 この星は――」
 少女は記憶していた。今まで殺した人のことを。そしてそれを嬉しそうに語っていた。まるでコレクションを自慢するように。
「何故……何故、そのようなことを……?」
「何故? 命を奪うんだから、覚えておくのは礼儀じゃない? ああ、でも一番の理由は――」
 少女は無垢な笑顔を向けながら源素を回転させる。
「暴力って楽しいよね」
 その言葉を最後に抵抗を試みた覚者は――

●FiVE
「という夢を万里ちゃんが見たらしくてな」
 会議室に入った皆を出迎えたのは『気炎万丈』榊原・源蔵(nCL2000050)だった。夢見以外が依頼の説明をするのは珍しい、という疑問を察したのか説明を続ける。
「昨今、七星剣の金剛一派が大きく動いておってな。久方の子達はその夢を見続けておるそうじゃ。特に万里ちゃんはまだ子供だから、夢に潰されてしもうてな」
 夢見が見る夢は悲劇が多い。それが夢なら忘れられるのだが、夢見が見る夢はそう遠くない現実だ。そのプレッシャーに押しつぶされる者もいる。重症になれば夢と現実を混同してしまう事もある。
「そんなわけでワシが説明役じゃ。大阪北部を金剛の息がかかった隔者が占拠した。目的は特異点である古墳の占拠、及び五麟市侵攻への足掛かりじゃろうな。
 そこを守っていた覚者組織を倒した連中は『弱きものに生きる資格はない!』とばかりに街の人間を殺しにかかるようじゃ。見た目はカワイイのにのぅ……」
 榊原から渡された資料には、十を少し超えた程度の少女が写っていた。彼女が金剛一派のリーダーらしい。
「木火水土の術式を使う『まるちたいぷ』の源素使いじゃ。ワシは街の覚者を束ねて別動隊の隔者を足止めしておく。そっちに向かわせないようにしておくので、件の少女の取り巻き位しかおらんはずじゃ。
 万里ちゃんの悪夢を消す為にも、手を貸してくれんかの?」
 榊原の言葉に覚者達は――


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.隔者六名の撃破(逃亡も撃破に含みます)
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 久しぶりにイッちゃった系の隔者を……まだパンチ弱いか。

●敵情報
・『命刻む者』篠原カンナ(×1)
 隔者。女性十二歳。土の変化(変化時も十二歳)。命を奪うことに楽しみを見出し、同時に殺した相手を大事に思っています。殺した相手の情報を念写で本型神具に刻み、それを毎日読み返して思い出しています。
 金剛の下部組織の隔者です。その性格は組織内でも疎まれてはいますが、金剛一派が実力主義であるため文句を言う者はいません。
『B.O.T.』『鉄甲掌・還』『乱舞・雪月花』『圧撃・改』『螺旋海楼』『超純水』『瞬間記憶』『念写』等を活性化しています。

・隔者(×5)
 カンナに従う……というよりはおこぼれに預かろうとする隔者です。カンナについていけば好き勝手暴力を振るえるという理由で付き従っています。その為、HPが一定数以下になれば逃亡も視野に入れます。
 全員火の前世持ち、男性。年齢は二十歳から四十歳までとまちまち。武器はナックル。
『錬覇法』『灼熱化』『豪炎撃』『活殺打』『直死嗅ぎ』等を活性化しています。

●NPC
・『気炎万丈』榊原・源蔵
 別動隊を率いて、別の隔者グループを叩きに行っています。その為、こちらには加勢できません。

●場所情報
 大阪北部にある町。その路上。古墳が有名で、覚者界隈では特異点の一つであることが分かっています。覚者達は隔者達が街に攻め入る前にカンナ率いる隔者を叩く形になります。
 戦闘開始時、敵中衛に『カンナ(×1)』、敵前衛に『隔者(×5)』がいます。覚者との距離は10メートルとします。
 事前付与は一度だけ可能です。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2018年03月30日

■メイン参加者 6人■

『歪を見る眼』
葦原 赤貴(CL2001019)
『優麗なる乙女』
西荻 つばめ(CL2001243)
『ボーパルホワイトバニー』
飛騨・直斗(CL2001570)
『悪食娘「グラトニー」』
獅子神・玲(CL2001261)


「まるちたいぷ……ああ、苦手属性以外の術式を覚えている覚者のことですね」
 ぽん、と手を打って『優麗なる乙女』西荻 つばめ(CL2001243)は納得したように頷いた。覚者は誰でも自分の属性以外の属性術式を使うことが出来る。だがその負荷は大きく、あまり使おうとする者はいない。目の前の篠原はそのあまりいないタイプなのだ。
「ん? ボクに何か用?」
「用事、ある。この町で、暴れるの、止める」
 たどたどしいがハッキリと桂木・日那乃(CL2000941)は篠原をはじめとした隔者に告げる。ここで彼らを止めることは金剛一派の出足をくじくと同時に、この町の平和にも繋がる。何よりも悪夢と現実の境目で苦しむ夢見を救うことになるのだ。
「あ、そう。だったら殺すね」
「ギャハハハ! 俺と気が凄く合いそうなガキじゃねぇか!」
 篠原の言葉を聞いて『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)が笑う。元隔者にして殺し屋の直斗は篠原の性格や思考が理解できる。だからこそ反吐が出る。昔の自分を見ているようで。……まるで昔の自分を見せつけられているようで。
「むぅ。ボクはガキじゃないぞ。もう十二歳なんだから」
「…………信じがたい。何もかも理解できない」
 年相応に大人ぶる篠原を見て、『歪を見る眼』葦原 赤貴(CL2001019)は度し難いと眉をひそめた。暴力的な嗜好。それを受け入れる組織。その何もかもが理解できない。気分が悪いが、だからと言って目を逸らすつもりはない。
「酷いなぁ。本当に十二歳なんだよ」
「そうやってると、本当に子どもに見える……のに」
 ぷんぷん怒る篠原を見て、『悪食娘「グラトニー」』獅子神・玲(CL2001261)は重く答える。何も知らなければ、目の前にいる少女は普通に見える。だが暴力を好み、殺戮を良しとするその思考。笑って命を奪う存在なのだと誰が思おう。
「いいもーん。すぐに成長してないすばでぃになるんだから」
「ドウシテ……ドウシテ、命を弄ぶのデスカ!」
 堪え切れなくなった、とばかりに『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)が声を張り上げた。嗤いながら命を奪う篠原。暴力を好むその性格。それが全く理解できなかった。それさえなければ、普通の覚者にしかみえないからこその叫び。
「? ボクは弄んでないよ。一つ一つに向き合って、焼いて潰してその全部を覚えてるんだから」
 小首をかしげて篠原が答える。けして命を弄んではいない。むしろ真剣に向き合っているのだとばかりに。
「ねーねー。それより早くやり合わない? 暴力楽しいよ」
 遊びを前にした無邪気の子供の様に、篠原は覚者達に問う。――否、事実そうなのだろう。彼女にとってこれは楽しみの一つ。一片の汚れなく、暴力行為が楽しいのだ。
 野放しにはできない。覚者達はそれを再確認し、神具を構える。
 FiVEと金剛の能力者達の闘いの幕が、切って落とされた。


「オラァ! 死にたい奴からかかってこいや!」
 真っ先に動いたのは直斗だった。姉の名を冠した妖刀を手にして、隔者の元に一直線に向かう。口に笑みを浮かべ、五人の隔者の首を見た。何度も繰り返してきた首狩り行為。今日の犠牲者はお前達か、と笑う。
 殺意のオーラを発しながら、刀の鯉口を切る。獣憑の身体能力を最大限に発揮し、縦横無尽に戦場を駆ける。右に左に疾駆しながら刀を抜き、刃を振るっていく。三度の往復の後に納刀し、距離を開く。傷口からの出血が霧の様に広がった。
「その首全部刈り取ってやんよ!」
「あはは。じゃあボクは心臓を貰うね。だ・れ・に・し・よ・う・か・な」
「誰も殺させないデスヨ!」
 覚者達を指差し選ぶ篠原に向かい、リーネが決意を込めて叫ぶ。大事な誰かがいなくなる感覚。喪失という胸の穴。それをリーネは強く理解している。誰も死なせやしない。ここにいる仲間も、大事な人もすべて。
 自分自身に土の防壁を施し、篠原が指さした相手の前に立つ。放たれた水の一撃をその者の盾となって受け止めた。鍛えられた神具と土の術式、そしてリーネの強い意志が篠原の術式の衝撃を受け止める。
「もう……誰も、私の前で死なせません。死なせるものデスカ!」
「すごーい。ほとんど受け止められちゃった。おねーさんならボクの暴力に長く耐えれそうだね」
「その前にお前を止める」
 喜ぶ篠原の声に不快を感じながら赤貴は静かに呟く。暴力に喜ぶその姿に耐えられない。その喜ぶ顔を少しでも早く止めてやりたい。理解できない相手に対する生理的嫌悪。人の形をした人でない何か。その笑顔を潰したい。
 手のひらに源素を集め、地面に押し付ける様に伝わせる。源素が大地に広がり、地面から剣が生えたかのように組み替えられる。赤貴が隔者の方を睨むと同時に大地から剣が射出され、雨のように降り注ぐ。硬く鋭い大地の剣が篠原たちを襲った。
「逃げたい奴は好きに逃げろ。さもなくば首と胴が生き別れだ」
「あ、かっこいいな。ボクもそういうこと言った方がいい?」
「いいえ、結構ですわ。無理に考えなくてもよろしいですわよ」
 やんわりと篠原の思考を遮るつばめ。敵が口上を述べようが述べまいがかまわない。どうあれ相手は倒すべき存在なのだ。相手を強く怨んでないのか、それとも元々の性格なのか、その物腰は柔らかい。
 狙うべき篠原のいく手を遮る隔者を廃すべく、『双刀・鬼丸』を握りしめる。大地を蹴るブーツの音。それと同時に斬撃音が響き渡った。右が四、左が五、合計九閃の刃の軌跡。一瞬遅れて隔者達が呻き、傷口を押さえる。
「ですが降参の言葉なら、考えておいてもいいと思いますわ」
「そうだね。とりあえずお姉さんたちを倒してから考えることにするよ」
「わたしたち、たおすの、簡単じゃ、ないよ」
 抑揚のない声で呟く日那乃。どこか呆けているような彼女だが、決して気を抜いているわけではない。そのじーっと見つめている彼女の表情の下に、どのような感情が渦巻いているのか。それは余人には分からない。ただ『開かない本』を手に、戦いに身を投じる。
 日那乃の持つ本の表紙に、うっすらと文字が浮かび上がる。文字は呪文となって世界に刻まれ、そこから術式が生み出された。源素を含んだ雨が降る。雨は覚者の傷口を冷やすと同時に痛みを消し、その傷口を塞いでいく。
「夢見さんの夢見。ただの悪夢に、する。それが、わたしたち」
「夢見かぁ。夢の中でも暴力が振るえるならそれもいいかもね。夢と現実の二度おいしい! あ、でも夢見って自分の夢に関われないんだっけ?」
 友人に聞くように、覚者に問いかけてくる篠原。答える義務はない、とばかりに覚者は押し黙る。
 篠原の態度は、敵に対するそれではない。FiVEに憎しみではなく、むしろ好意的に話しかけてくる。だが攻撃の手は止めることはない。篠原にとって誰かを愛するという事と誰かに暴力を振るうことは同義なのだ。
 命を護る者と命を奪う者の闘いは、まだ終わりそうになかった。


 隔者は篠原を守るように前衛に留まる。覚者達を通さぬように立ち振る舞い、それぞれの拳で前衛を攻めていた。その後ろから飛ぶ篠原の術式が覚者達を攻め立てる。
「ん、さすがに、つらい」
 篠原の攻撃は後衛で回復を行う日那乃に集中していた。貫通する衝撃波を受けて膝をつく日那乃。命数を削ってよろよろと立ち上がり、変わらず感情の色がない声で戦いに挑む。
「悔しいデス! ワタシの身体が二つあれば両方守れるデスノニ!」
 リーネは前衛に立つ者を守ろうと自らを盾にして戦っていた。だが前衛にはリーネを覗いて二人おり、彼女が庇えるのは一人だけである。隔者達はリーネが庇わなかった方を集中的に攻めていた。それゆえ、前衛の二人にダメージが分散される形で蓄積されていく。
「気にしなくてもよりいですわ。被害は減っているのですから」
 そんなリーネに微笑むつばめ。集中砲火されるのは楽ではないが、その分他の仲間への攻撃は減っている。つばめも殴られてはいるが、まだ戦える。『双刀・鬼丸』を振るい、隔者に斬りかかる。
「僕の目の前で……仲間を死なせるような事、もう二度とさせない!」
 人形を握りしめて玲が回復の術式を放つ。篠原の攻撃を受けて命数を削ったその姿は痛々しいが、それを気にしている様子はない。痛いのは心。目の前で仲間の命が失われると思うだけで、心が重くなる。親友の名を呟きながら、泣きそうな顔で術を放つ。
「どうしたどうした! 早く逃げないと首狩るぞオラァ!」
 挑発するように笑いながら直斗が隔者に斬りかかっていく。神具に呪いを乗せて迫る隔者達に向かって振るう。刃の切っ先が相手の影を切り、肉を裂く。僅かな傷から呪いは体内に入り、病魔の如く侵略して隔者達の動きを止めた。
「そろそろ交代だ。効率を考えて動け」
 前衛のダメージ具合を見て、赤貴が交代するように前に出る。篠原は理解しがたい相手だが、効率よく相手を殺しうる戦術に長けている。そこを見誤るつもりはない。倒れる可能性をできるだけ減らなくては。
覚者達の猛攻を受け、敵わないとばかりに篠原を守る隔者は腰がひけていく。そして神具をしまって逃亡を計る。だが直斗が稲妻で動きを止め、逃亡を阻止する。
「『弱きものに生きる資格はない!』……なんだろ? なら、死ね」
『妖刀・鬼哭丸沙織』を振るい、稲妻で捕えた隔者の首を刎ねようと――
「どっかーん!」
 ――する前に、篠原の術が隔者達の命を奪う。正確には隔者を斬ろうとする直斗ごと、水の奔流に巻き込んだ。直斗は命数を削って耐え抜くが、隔者達はそのまま倒れ伏す。
「なっ!?」
 あまりの暴挙に言葉を失う覚者達。だがそんなことを意に介することなく篠原は本のページをめくる。
「安形さん、三ツ木さん、小暮さん、お疲れ様でした。ボクを守ってくれたこと、忘れないよ」
 篠原の言葉に二の句も告げない覚者達。自分を見捨てようとしたとはいえ、仲間だった者を容赦なく攻撃する。その精神性に怖気すら感じていた。
「どんどん行くよー。そーれぇ!」
 覚者達は傷ついた者を中衛に下がらせ、回復させるという戦法を取っていた。だがそれは『下がった者は体力が芳しくない』ことを示すことと同じだ。篠原の術は、下がった人間に集中して叩き込まれていく。
「やりますわね……っ!」
 衝撃波を受けてつばめが膝をつく。まだ倒れるわけにはいかないと、命数を燃やして立ち上がる。
「お姉さんが守ってる人、倒しちゃうよー」
「ソノ技、まさか……!」
 見方を守るリーネだが、篠原が放とうとする術を見て焦りを感じる。鉄甲掌の上級技。貫通した先の相手に最大威力を与えるガード泣かせの術式。リーネ自身のダメージは軽微だが、その後ろにいる者に大きなダメージが通る。いま彼女が守っているのは――
「まだ大丈夫。この程度なら想定内だ」
 気にするな、とばかりに赤貴が声をあげる。重い衝撃で命数を失ったが、戦う以上それは覚悟の上。無傷で倒せる相手とは思っていない。手にした斧を振るい、篠原を守る隔者の最後の一人を打ち倒す。
「戸隠さん、菱本さん、守ってくれてありがとう」
「あとはテメェだけだな。一騎打ちと洒落こもうじゃねェか」
 倒れた隔者に礼を言う篠原。そんな彼女に直斗が迫る。
「もう。みんなで殴る気満々のくせに」
「ギャハハ! 違ぇねぇ。苦しんで死ねぇ!」
 笑う直斗。それに篠原が気を取られている隙につばめが走る。一気に前に躍り出て、術式封印の一撃を叩き込んだ。
「これであなたの術式は封じました。悪さもこれまで……あら?」
「すごーい! そんな技もあったんだ! あとで教えて! あ、でも痛くないからいいか」
 つばめが施した封印は高純度の水の術式により洗い流される。自然治癒力を高める水の術式。それがつばめの技を凌いだのだ。
「問題、ない。そのまま、攻めるだけ」
 日那乃は術式封印が決まらなかったことを確認し、意に介さずとばかりに頷いた。決まらずともこのまま攻めれば勝てる。それまでに受けるダメージが大きいだけだ。鼓舞するように回復の術を飛ばす。
「うん。僕も皆を守るから!」
 ダメージの蓄積が多くなってきた事を察し、玲も回復にシフトする。誰も目の前で死なせやしない。その決意が戦いの原動力。だからこそ、理解できなかった。篠原の心が。暴力を好むその精神性が。
「どうして命を奪うことが楽しいの? 暴力が好きって……意味が分からないよ」
「どうして命を奪うことが楽しくないの? 暴力楽しいよ」
 玲の言葉に答える篠原。美味しい店のケーキを紹介するように明るい声で言葉を返す。
「理解しようとするだけ無駄だ」
 ため息とともに赤貴が言い放つ。篠原をそうせしめた要因。そう言った事柄はあるのかもしれない。だがそれを直すことはもうできない。ならばこれ以上の理解は意味がない。あれは倒すべき相手だ。それ以上の認識は必要ない。……自分自身に強く言い聞かせた。
「よく言われる。わかんないなー。ボクは普通に好きな事をしているのに」
「ああ、分かるぜ同類。テメェのような奴は闇の中で生きるべきなのさぁ!」
 篠原の正面に立ち、笑う直斗。背中で玲を隠し、玲から篠原が見えないようにしていた。光が当たる世界に出てはいけない者もいる。殺戮者は光届かぬ闇の中へ。
「死んじゃったら……もう、会えない、話せないのです。もう、あの素敵な笑顔を、見る事が出来ないのです」
「でも思い出すことはできるよ。ボクはこのノートを見るたびに、その人のことを思い出せるんだ」
 リーネのつぶやきに返ってきた答え。その言葉にリーネは落胆し、同時に篠原の異常性の正体を知る。篠原にとって他人の生死に意味はない。生きていようが死んでいようが構わないのだ。生死に境なく、そして他人の温もりさえ記憶に残し。
 生と死を同一視し、ノートの記号と己の記憶のみで他人を認識する。故に暴力を振るうことに躊躇がない。否、暴力を振るう事のみが彼女のコミュニケーション。殺してノートに書いて記憶することでようやく、篠原は『他人』を愛せるのだ。
「それじゃ、行くよー!」
 無邪気に笑い、源素を練る篠原。それに相対する六人の覚者。
 だが戦いの趨勢は既に決していた。数の戦力差もあるが、暴力を振るうことが目的の篠原に対し、仲間を殺させないと強い意志を持って挑む覚者の戦意の差は大きい。篠原に日那乃と玲の回復とリーネの守りの牙城を崩すだけの火力はなく、赤貴とつばめと直斗の攻撃を前に、命数を燃やすことになる。
「暴力が好きなのだろう? 楽しいのだろう? 思う存分味わうが良いさ」
「楽しい! 楽しい! 楽しいなぁ!」
 拳を振るう赤貴の打撃を受けながら、篠原は笑って反撃する。むしろ殴っている赤貴の顔の方が痛々しかった。容赦なく殴っているのは彼の方なのに。
「これで終いです」
 つばめが神具を構えて篠原に迫る。ブーツで篠原の足を払い、バランスを崩したところに斬りかかる。このタイミングでは避けることはできないだろう。篠原もそれが分かっているはずなのに、楽しそうに笑っていた。
「お眠りください。貴方達の歩みは、これで終幕です」
 一閃される刀。そして納刀する音が戦場を走る。
 暴力を愛した少女が倒れる音が、納刀の音にかぶさるように戦場に響いた。


「赤貴君ー! 無事デスカ!? 怪我とか無いデスカ!?」
「怪我はあるが問題ない」
 赤貴の身体をぺたぺた触って怪我の具合を確認するリーネ。赤貴派というとその度に傷が痛むのだが、リーネの心情を察してさせるがままにさせていた。
(……吐き気がする。こんな力を基準にして世を動かそうなぞ、本当に化け物じゃないか)
 そのまま赤貴は倒れている篠原を見おろしていた。力を振るうことを喜び、命を奪うことに躊躇がない。この力はそんな精神性を生み出してしまうのだ。
「みんな、ぶじ。よかった」
 よろよろしながら日那乃が全員の傷を治していく。覚者達のダメージは浅くはない。こんな性格でも金剛一派の先兵という所か。全員無事でよかったと、改めて思う。
「おい、起きろ。拷問タイムだ。てめぇも暴力が好きなら受ける身にもなるべきだろ?」
 気を失っている篠原の胸ぐらをつかみ、頬を叩いて起こそうとする直斗。手にした刀で篠原の四肢を壊そうとする。今までの所業を反省させ、後悔するように殺してやる。
「……直君……無理して悪ぶったりしなくていいんだからね?」
 だが刀の切っ先が篠原の腕を貫くよりも早く、玲が直斗の服を掴む。彼が本当は殺すのが嫌いな事を知っている。無理はさせたくない。してほしくない。無言で訴える玲の瞳。視線が交差し、直斗は刀を下した。
「そうですね。反省は法の下で行ってもらいましょう」
 慣れた手つきでつばめが篠原をはじめとした隔者達を拘束していく。ここで感情のままに彼らを殺してしまえば、篠原と同じだ。暴力を止め、裁きは法に委ねる。これが一番だ。
 作戦終了を告げる様に、後処理用の部隊から連絡が入ってきた。

 かくして金剛一派の隔者は討たれ、金剛が支配する未来はただの悪夢となった。
 篠原を始めとした隔者は専用の独房に入れられる。その後どうなるかは、法の判断だ。
 春風が覚者達の頬を撫でる。何事もない春の一日。隔者の暴力に怯える未来は、もう存在しない。
 その事実こそが、覚者達の最大の報酬だった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
ここはミラーサイトです