《金剛布武》大江山 鬼が来りて武を振るう
《金剛布武》大江山 鬼が来りて武を振るう


●大江山の鬼
 茨木童子という鬼がいる。
 平安時代に酒呑童子の家来として京都を荒らしまわったと言われる鬼の名だ。乱暴狼藉を働く鬼達は、源頼光と四人の家臣により討ち滅ぼされたが、茨木童子だけは逃げおおせたという。
 さて、この決戦の地と言われる大江山。鬼達が拠点としていたこの土地は地脈が交差し、そこから霊的な力を吸い上げることが出来る場所――いわゆる特異点と呼ばれる場所である。現在では妖にその場所を占拠されぬよう、熟練の覚者達がそこを守っていた。
 守っていた、のだ。ほんの数時間前までは。

「まさか、我々を二人で……だと」
 伏した状態でその覚者は口を開く。もはや指一本すら動かすことすらできず、最後の力を振り絞って情報を得ようとしていた。
「笑止。守りに徹し自らを鍛えることを怠った者に劣るつもりはない。
 我ら皆、金剛の元に研鑽を励み、幾多の戦場を歩んでいるのだ」
「そうか……。聞いたことがある。七星剣金剛直属の部下。それが貴様か。……ふふ、大江山に『鬼』か。なんたる皮肉……!」
 その言葉を最後に意識を手放す覚者。その視線は隔者の頭にある角を見ていた。
 鬼を想起させるその角は、しかし本物の鬼ではない。鬼の因子を持つ発現者の角。それを示すように、守護使役がその傍に浮かんでいた。

●FiVE
「七星剣の金剛が動き出した。部下を使い、特異点と呼ばれる場所を襲撃しているんだ」
 久方 相馬(nCL2000004)は少し青ざめた顔で集まった覚者を前に説明を開始する。どうも悲劇的な夢を見続けていることもあり、疲弊しているようだ。
「大丈夫。できる事なら美人のお姉さんが添い寝してくれると――ごめんごめん。
 京都にある大江山って所にある特異点。そこを守っていた覚者達が金剛直属の部下に倒されたんだ。地理的にも五麟市を攻める拠点になりかねないので、急いで奪還してほしい」
 五麟市に攻める、の所で相馬の顔色が悲愴に染まったが、すぐに持ち直す。冗談を言う余裕はあるようだが、それもカラ元気なのだろう。
「分かった。相手の情報は?」
「相手は茨木という隔者と朱天という覚者の二人だ」
 相馬の言葉に怪訝な顔をする覚者達。
「二人?」
「二人だ」
 相馬の顔色は変わらない。五麟市の危機を夢見た少年の恐怖は、残ったままだ。
 それは二人の隔者の脅威度を、無言で語っていた。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:どくどく
■成功条件
1.隔者二人の打破
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 久しぶりにストイックな隔者をお届けします。

●敵情報
『夜持』茨木竜一
 隔者。火の羅刹。四十代男性。白の道着に身を包み、少数で特異点を守る覚者組織を倒す猛者です。神具は刀状の神具を持っています。
 弱者に対し容赦がなく、ただ戦いの身を求めています。師である金剛でさえ、いずれ倒して乗り越える存在と認識しています。
 皆様が飛び込めるのは、OPの覚者が意識を失った後です。この後、隔者は一人ずつ片付けていくつもりです。弱い者に生きる資格はない、という価値観ですので、どう片付けるかはご想像の通りかと。

『殴打』『炎纏』『灼熱化』『圧撃・改』『烈空烈波』『白夜』『追撃(※)』『直死嗅ぎ』『剛腕』等を活性化しています。

※追撃 P このキャラクターに近接しているキャラクターが近接状態から離れる時、防御無視の150点ダメージを受ける。

神具『夜持(ヨモツ)』:この刀が触れたキャラ(使用者含む)は重傷率が増え、命数も余分に減少する。

『朱天』
 覚者。水の羅刹。二十代女性。二つ名だけしかわからない隔者です。紅色の胴着に身を包んでいます。神具は笛(楽器相当)。
 基本的に無言ですが、金剛のやり方や考え方に賛同しており弱い相手に容赦はありません。虫を潰すように人を殺していきます。

『殴打』『螺旋海楼』『超純水』『癒しの滴』『霞舞』『鎧通し』『剛腕』等を活性化しています。

神具『抱月』:笛型の神具。戦場全てのキャラに影響。全てのスキル使用コストが二倍になります。


●場所情報
 京都府北部にある大江山(正式には大江山連峰)にある和風の屋敷。そこの道場に隔者はいます。足場や広さ、明るさは戦闘に支障なし。そこを守っていた二十を超える覚者が意識を失い、伏しています。
 戦闘開始時、『夜持』『朱天』は敵前衛にいます。
 事前付与は可能ですが、その間にも時間は流れます。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
公開日
2018年03月30日

■メイン参加者 7人■

『涼風豊四季』
鈴白 秋人(CL2000565)
『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)
『想い重ねて』
蘇我島 恭司(CL2001015)
『想い重ねて』
蘇我島 燐花(CL2000695)
『雷麒麟』
天明 両慈(CL2000603)
『愛求独眼鬼/パンツハンター』
瀬織津・鈴鹿(CL2001285)
『緋焔姫』
焔陰 凛(CL2000119)


 戦術的にはFiVEの覚者達はすぐさま攻撃せず、時間をかけて準備をするのが正解なのである。相手の観察や付与などの準備ができ、上手くやれば不意もつけたかもしれない。
「ちょっと待ちや!」
 だがそれを良しとしない、とばかりに『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は声を張り上げる。この地を守っていた二〇人の覚者を凶刃から守るために己の存在をアピールする。それ以上の乱暴狼藉は、古流剣術焔陰流二十一代目継承者(予定)が許さないと。
「彼らをこれ以上傷つけさせない」
 特異点を守ってくれた覚者達を守ろうと、『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)が神具を構える。守護使役の『ピヨ』も、それに倣うように秋人の傍らで隔者を見ていた。一切の殺戮を許さない。瞳から感じる強い意志。
「戦術的に正しいとはいえ、さすがにね」
 関節をほぐすように伸ばしながら『眩い光』華神 悠乃(CL2000231)が歩を進める。戦いの中で工夫を凝らすことが多い悠乃だが、踏み越えてはいけない線は弁えている。戦った彼らを見捨てる選択はなかった。
「弱き者に対しての行動こそ、その者の本質である。正に貴様達は鬼そのもの、と言って過言では無い様だな」
 紫の瞳で隔者達を睨む『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)。相手の頭に生えているのは鬼の角。悪鬼羅刹の言葉の如く湯浴、そして容赦のないさまは鬼と呼ばれても致し方ない。暴れる鬼に引導を渡すべく、その手に雷光を宿した。
「さあ、行くの! 我が名は瀬織津鈴鹿! 鈴鹿山の『夜叉』前鬼と『鬼子母神』後鬼の娘なり!」
 双剣を抜き放ち、『愛求独眼鬼/パンツハンター』瀬織津・鈴鹿(CL2001285)が名乗りを上げた。それを証明するように夫婦刀を抜き、隔者に向ける。親の名前に恥じぬよう、ここで悪鬼を討たんと胸を張った。
「金剛という組織は、恐らくこの隔者にとっては居心地良いんだろうね」
 倒れ伏している覚者達を見ながら『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)がため息を吐く。力こそ正義。弱者に生きる資格なし。弱肉強食を絵にかいたような地獄図。自分ならなじめず、すぐに逃げ出しただろうと恭司は心の中で頷いた。
「気心知れた方々と日々を穏やかに過ごすのが私の望み。そして大多数の人の願い。それを壊すというのであれば、阻止するのみです」
 真っ直ぐに隔者を見て『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)が宣言する。弱者死すべし。そんな彼らの価値観は彼らの価値観。それ以外の価値観を否定する権利はない。自分の、そして大多数の人の願いを守るために、少女は刃に手をかける。
「成程、彼らが金剛が言っていた真の敵か。七星剣の野望や人類の未来などどうでもよいが、逆らうというのなら相手しよう」
 茨木はそういって日本刀を抜き、それに倣うように『朱天』も笛を取り出す。それだけで場の空気が重くなった。張り詰めたような空気は、決して神具の効果だけではない。
「鬼退治、と言ったな。自分が物語の如き英傑かどうか、その身で知るがいい」
 その言葉の後に落ちた沈黙は、僅か一秒。呼吸一つ程度の沈黙が、重く覚者に圧し掛かる。
 始まりの合図は何だったか。気が付けば鬼と覚者は動いていた。


「貴女が『朱天』さんですね」
 最初に動いたのは燐花だった。二本の妖刀を手に真っ直ぐに『朱天』に迫り、口を開く。頭に角を生やした女性の隔者。紅色の胴着は幾多の戦闘を超えている傷跡を残している。その傷跡が彼女の戦歴を語っているようだ。
 一瞬でそこまで見やった後に燐花の刃が翻る。右手で持った『疾蒼』を一閃振るう。だがそちらはフェイク。相手の位置を誘導し、体ごと回転させて左手の『電燐』が相手に迫る。まさに紫電一閃。その言葉に恥じぬ斬撃が紅の胴着に新たな傷をつけた。
「弱いものを相手取るのも、面倒でしょう? それよりも私達と一戦如何ですか?」
「…………」
「その気にはなったようですね」
 言葉こそ放たないが、『朱天』の意識はこちらに向いた。それを確認して秋人は弓型の神具を構えた。挑発に乗るほど短慮な性格とは思えない。むしろこちらの実力を察し、優先順位を切り替えたのだろう。
 弓の弦に手を当てて、イメージを強めていく。相手を打ち倒す強い意志。それが弓に宿って矢と変化する。そのまま弦を引き絞り、『朱天』に向けた。強い集中が自分と相手以外の景色を消す。真っ白な空間の中、矢は音もなく放たれる。
「FiVEの為に闘ってくれた覚者の人達を、これ以上傷付けさせる訳にはいかない」
「ならば守ってみよ、FiVE。言葉ではなくその刃で」
「ええ、そのつもり。刃だけじゃなく、知識も使ってね」
 茨木の言葉に応じながら悠乃が『朱天』の前に立つ。厄介なのは彼女が持つ神具『抱月』。あれがある以上、満足に術が使えない。それがこちらを焦らせるための隔者の策略だと分かっていても、厄介な事には変わりない。早急に潰しておこう。
 ガントレット型の神具を手に悠乃が動く。黒の炎を手のひらに纏わせ、鋭い爪を隔者に振るう。黒の爪痕が空間を焼いたかと思えば、もう片方の拳が『朱天』の肩を討つ。自分の因子。自分の源素。自分の経験。その全てをもって戦うのが、悠乃の格闘術。
「焦らない焦らない。獣のようにがっついたら勝機は逃げちゃうもんね」
「無茶をするなよ、悠乃さん」
 前で戦う悠乃に声をかける両慈。その手に握られているのは、戦い前に渡された指輪。獣憑は覚醒時に腕が変化するからと渡された物だ。前で戦う愛する人が傷つか無いようにと心配しながら、冷静に戦場を見渡す。
 前世との繋がりを強く意識し、己の身体能力を増す。その後に水の源素を活性化させて、傷を塞ぐ霧を放った。己の属性ではないうえに、敵の神具効果。気力が大きく削られていくのを感じながら、しかしまだやれると自分を鼓舞した。
「分かってはいたが、いつも以上に疲弊する……早く勝負を決めなくてはな」
「大丈夫なの。いざとなったら鈴鹿も回復するの!」
 には、と笑みを浮かべる鈴鹿。古妖の両親から生き別れた少女が、家族への親愛ともいえる笑みを浮かべるようになったのは何時からか。大好きだった人からの形見ともいえる着物を翻し、茨木の前に立ちふさがる。
『祓刀・大蓮小蓮』を手に白の胴着の鬼に向かう。二本び刀を時に同時に、時に交互に振るい鬼を攻め立てる。一撃の強さは鬼には敵わずとも、夫婦の刀とその娘で攻めればその牙城は崩せる。
「私は負けないの……色々な思いが、ここにあるから」
「思いで人は強くならない。殺した数だけ殺しの腕が高まる」
「それは否定できないな。技術は研鑽にのみ上昇する」
『LTNA-1Dg-C』を手にして、恭司が頷いた。気持ちや精神性では技術は向上しない。それは幾多の戦場を渡り歩いたからこそ実感できる悲しい事実。人を殺すのは想いではなく、弾丸。それ自体は否定しない。
 だが、と思いを込めて水の源素を展開する。癒しの力を霧状にし、戦場に散布した。入念に練られた源素は仲間たちの傷を塞いでいく。この技術も研鑽から得られたもの。幾多の戦場を乗り越えた力だ。
「だが、研鑽を積む原動力は強い思いだ。誰かのために戦う思いから来た力、ご覧あれさ」
「その思いも力の前で崩れ去る。事実、ここの連中は崩れ去った」
「おっちゃんらが強い、いうのは解ったわ。せやけど――!」
 茨木と斬り合いながら凛が叫ぶ。二〇人の覚者を相手取り、それに勝利する実力。何より今現在抗して相対して感じる圧力。その強さをひしひしと感じながら、それでも臆することなく凛は刀を振るう。
 此方の足運びに合わせるように、茨木も足を動かす。有利な間合を得て攻める。これは剣術に限らず、全ての闘いにおいての基本だ。斬撃を放ちながら足を動かし、間合を計っていく。それを計り損ねれば、首が飛ぶ。その恐怖に抗いながら凛は戦場を動き回る。
「弱い者に生きる資格が無いとか、ふざけた意見は許せんな」
「世の摂理だ。源素の力無き者は、いずれ淘汰される運命。それは汝らも感じているのではないか?」
 源素を操れる者。操れない者。その差による軋轢は覚者達も知っている。
 だからこそ――彼らはそれを否定する。その運命に抗い、良き結果に変えてきた者の意地として。
 その意志を刃に乗せて、二人の鬼に振り上げる。力による支配など許さない。弱きものを抱えて飛ぶことこそが、自分達の未来なのだと。
 大江山の戦いは終わらない。剣戟の音は、いまだ鳴りやみそうになかった。


 たった二人で二〇人の覚者集団を倒す鬼の因子を持つ二人組。その実力は高く、FiVEの覚者とはいえ無傷とはいかない。特に前衛の疲弊はかなりのものだった。
「あいたたた……さすがやな」
「まだ倒れません」
「流石に一筋縄じゃ行かないわね」
 凛、燐花、悠乃が命数を削られるほどの斬撃を受ける。何とか起き上がるが、このままでは再度倒れることは明白だ。
「回復役を狙ってくるか」
「まあ当然の戦略だけど、厳しいなぁ」
『朱天』の水の一撃を受けて、両慈と恭司も膝をつきそうになる。命数を燃やして活力に変え、何とか意識を保っていた。
 勿論、鬼の二人も無事ではない。覚者達の猛攻を受けて体中傷だらけだ。攻撃を受ける比重の多い、『朱天』は既に命数を燃やし、肩で息をしている状態だ。
「貴方達は……昔ここを支配していた鬼の末裔……なの? だから、ここの襲撃を行ったの?」
「さてな。だが茨木童子は逃げた後の行方は知れぬ。そういうこともあるやもしれんぞ」
 鈴鹿の問いかけに、表情を変えずに答える茨木。大江山の闘いの後、茨木童子がどうなったかの話は様々だ。はぐらされて不満に思う鈴鹿だが、それを追求する余裕はない。僅かな間に戦局は大きく傾いていくのだから。
「誰も目の前で死なせやしない」
 紫の瞳で隔者を睨みながら、両慈が仲間を癒していく。『朱天』の神具により疲弊が激しい。癒しの術を連発しているが、いずれ底が尽きるだろう。そうなる前に決着をつけなくては。
「強いってのは腕っぷしだけの話ちゃうやろ。この人達は確かにあんたらに負けたかもしれんけど、逃げずに最後まで戦ったその心は十分強いとあたしは思うで」
「では心のみで敵を倒してみろ。それが出来ねば戯言だ」
 茨木と切り結ぶ凛が唾競り合いごしに喋り、鬼がそれに答える。強さこそすべて。しかしその強さは力だけではない。心の強さもまた強さなのだ。だが鬼には届かない。悪鬼羅刹の隔者は心では止まらないとばかりに刃を振るう。
「倒れている人が武力面で弱かろうが、人として弱いかどうかは別だと思います」
 燐花は自分の後ろに立つ男を思いながら『朱天』に向かい口を開く。強い者はいる。しかし強いからと言って英雄というわけではない。人に尊敬される人間というのは、腕っぷし以外のなにかを持っているものだ。
(無茶をしてくれるなよ、燐ちゃん……!)
 仲間の傷を確認しながら恭司は『朱天』と切り結ぶ少女のことを思う。感情を出さない彼女が、自分に笑いかけるようになったのはいつからだろうか。未来を選んだ少女の門出を前に大怪我はさせられない。かといって、回復順序の贔屓はできない。
「せいや!」
 黒炎で生み出した熱風で『朱天』のバランスを崩す悠乃。力で押すだけが格闘技ではない。情報を得て相手のことを知り、有利を活かして不利を潰す。武術とは古来より、弱き者が強き者に抗う技術なのだ。
「――隙あり!」
 悠乃が生み出した『朱天』の隙。バランスを崩した女の鬼に向かい、秋人が走る。額と胸とお腹。その順番に指で印を描く。体内を通る源素の流れ、その要点。そこに源素を乱す印を描き、『朱天』の術式を封印する。
「…………」
 技を受けた『朱天』は自分の状態を確認するように手を閉じて開く。表情にこそ出さないが、未知の技を受けて驚いているようだ。茨木も同胞の攻撃の手が止まったことに眉を顰める。
「惜しいなぁ」
 声が聞こえた。今まで一言もしゃべらなかった『朱天』の声だ。
「このタイミングやなければ、決まってたかもなぁ」
『朱天』の身を守っているのは高純度の水。自然回復力を高める癒しの水。それが源素の螺旋を封じる印を解かしていく。
「バッドステータス対策の術式か……それが解除されるタイミングに打ち込んでいれば……!」
 覚者達は術式による回復を行う『朱天』の術式を封じ、展開を有利に運ぼうとした。隙を生み出し、タイミングを合わせた一撃。練りに練られた攻撃だったが、間が悪かった。隙を生み出す手間と、封印の術式。その労力が『抱月』により加算されて圧し掛かる。
 それはわずかな損失だ。覚者達の戦意をくじくものではない。
 だがそのわずかな損失の分だけ、覚者の手番が遅れることになる。
「すまない……あとは任せた」
 一番最初に倒れたのは両慈だった。一時期戦いから身を引いていたことが影響したのか、『朱天』の水の奔流をまともに受けてしまい、そのまま意識を失った。回復を担う両慈が倒れたことで覚者側の継戦能力が大きく減衰する。
「流石やなぁ。世の中は広いわ」
 そして茨木と相対していた凛が力尽きる。最後まで退くことなく挑み、全力を出し切った。その結果は確かに茨木の身体に刻まれている。
「これが私の最後の一撃。ならば」
 体力の限界を察した燐花は賭けとばかりに全身の力を使って『朱天』に斬りかかる。速度を刃と化す技。あまりの速度故に自らを傷つけながら、『朱天』の意識を刈り取った。そのまま道場の床に転がる燐花。
「まさか『朱天』を伏すとはな。貴様らを称賛しよう」
 倒れ伏す同胞を見て心からの賛辞を贈る茨木。だが戦いを止めるつもりはない。それは覚者も同じだ。残った四人は自らに活を入れて鬼に挑む。
「これで!」
 秋人、恭司、鈴鹿の回復を受けて持ち直した悠乃の拳が茨木の胸を穿つ。黒の炎が侵食し、鬼の生命力を奪っていく。その一撃にぐらりとよろめく茨木。
「見事」
 言葉と同時に刃が翻り、悠乃を逆袈裟に切り裂いた。あ、という声と共に倒れる悠乃。
「人相手に命数を削られるのは久方ぶりか」
 刀を振って血糊を払う茨木。これだけの刀傷を受けてなお、殺意は溢れあがる。鬼気迫る、とはこのことか。
 残った三人は神具を構えるが、勝機が薄いことを悟っていた。火の源素で威力を増した茨木の刀技は物理手防御力が高くない秋人と恭司と鈴鹿では長くはもたないだろう。そして全滅すれば、この隔者が何をするかは想像に難くない。
 破壊を生む鬼。その足を掴む者がいた。
「……む!?」
「――お逃げください!」
 茨木の足を掴んだのは、大江山を守っていた覚者達。重傷に鞭打って何とか腕を伸ばして隔者の足を掴んだのだ。他の覚者達も壁となるべく立ち上がる。
「無駄な事を。這う這うの体で何ができる。お前達が立ち上がったところで戦力にもならぬわ」
「承知の上。彼らはいずれお前達を、そして金剛を倒す英傑となる身。ここで殺させやしない」
 身を挺して自分達を逃がそうとする覚者達。FiVEの覚者は躊躇するが、最初に決意したのは恭司だった。燐花をに近寄り、抱え上げる。
「行こう。彼らの決意を無駄にしてはいけない」
 躊躇していた覚者達は、苦虫をかむような表情を浮かべた後に倒れていた仲間を抱え、走り出す。ここで意地を張って無駄死にするのが最悪のシナリオだ。それだけは避けなければならない。
 幸い、茨木はFiVEの覚者を追うことはなかった。

 ――そして大江山に鬼が巣食う。

■シナリオ結果■

失敗

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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