水の流れる荒れ果てた遺跡
水の流れる荒れ果てた遺跡


●その遺跡はすでに荒らされて……
 奈良県のとある遺跡群。
 その中央に、古妖「麒麟」が鎮座する遺跡がある。
 真下に自身と同じ姿をした大妖らしき存在を封じている彼は何らかの影響もあって自我を失い、荒れ狂ってしまっていた。
 先日、F.i.V.E.の覚者達がこの地の調査を行う最中に麒麟を鎮め、彼と話をしたことでようやく、この遺跡群についてその存在意義などが徐々に明らかになってきつつある。
 その四方にはそれぞれ、似たような構造の遺跡が確認されていた。
 遺跡の奥に妖がいるのであれば、対処をして欲しいと麒麟から依頼を受けている状況だ。
 現在、北の大亀遺跡、南の朱鳥遺跡を調査、それぞれ奥にいた妖、大亀と朱鳥を撃破しており、西の遺跡の白虎も先日の探索で討伐が完了している。
 現状、未探索は東の遺跡のみ。
 覚者達は水が流れるという遺跡へと向かう。

 水の遺跡前に到着したF.i.V.E.の覚者達。
「これはどうしたことでしょうか……?」
 『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059)が目の前の光景に、そんな一言。
 この地の遺跡を前にしたメンバー達は、これまでとは大きく違う遺跡の光景に唖然としてしまう。
 台地にあるその遺跡は数メートル下にあるのだが、それが遺跡の外側からでも所々が露出してしまっている状況で、膝くらいまでの高さまで水が流れている通路が見える。
 そして、通路には水でできた蛇のような妖の姿があった。
 前回、遺跡調査を行う女性覚醒者、MIAの2人はこの東の遺跡も難儀な状況にあると話してはいたのだが……。
 そこに、その当人、MIA、翼人の水玉・彩矢と酉の獣憑である荒石・成生が姿を現す。
「いよいよ、最後の遺跡ね」
「気合入れていこー」
 腕を振り上げる2人だが、覚者達はこの状況の説明が欲しいと彼女達に尋ねると、2人は嘆息しつつ口を開いて。
「とりあえず、この遺跡の呼び名だけど」
 これまで、遺跡の大ボスとなっている敵の姿をとって遺跡の通称としてきた。
 それもあって、前回の西の遺跡を白虎遺跡、今回この東の遺跡も水竜遺跡と呼称しようと彩矢が告げる。
「初めての人もいるかもだからー、おさらいするとー……」
 遺跡は中央に麒麟のいる遺跡。そして、東西南北に遺跡が発見されている。
 この4つの遺跡は損壊を除けば、ほぼ同じような構成をしているようだ。
 正方形の通路、上辺と下辺の中央から垂直に通路が延び、それぞれ元々の入り口と大部屋がある。
 そして、頂点から対角線上に伸びる通路、その先にそれぞれ部屋がある。
 他の遺跡には、ここに勾玉、鏡などが置かれていたのだが……。
「ただ、すでに盗掘にあって、それらしき遺物は残されていないね」
 彩矢の説明に、覚者達の視線がMIAの2人に集まる。
 彼女達は元々、遺跡盗掘を専門とした隔者だった過去があるのだ。
「ちがうよー。ここは発見した時にはこうなってたんだよー」
 そこで、成生が否定する。
 実際、西の白虎遺跡よりもこちらの水竜遺跡の方が発見は早かった。
 だが、彼女達の経歴もあり、東西合わせて手つかずの状態にしていた理由がここにある。
「その代わりに、水で構成された獣のような妖が配置されているようなんだよ」
 4ヶ所それぞれに妖がおり、これらは遺跡の機能を停止させる為に倒す必要がある。
「通路は今でもトラップが生きていてー、鉄砲水がとても危ないんだよー」
 どうやら遺跡通路だけではなく、奥の大部屋までトラップ発動の可能性があるとのこと。これが遺跡が破壊する原因となってしまったのだろう。
 奥にいる水竜と戦う前に、解除しておきたいところ。だからこそ、先に妖を叩いておきたい。
 今回はできるだけ鉄砲水が出てくる通路を介せず、ロープで直接小部屋の近くに降り立ち、トラップが発動しない南東と南西の2部屋を叩く。
 2戦としたのは戦闘の疲弊もそうだが、北側、つまり奥は比較的遺跡の破損が少ないのが要因としてある。
 こちらは通路を歩く距離が長くなり、それだけ鉄砲水を浴び、妖と戦う頻度が増えてしまうのだ。
「妖は夢見の坊やに予めデータを出してもらっているから、そっちで確認して」
 この場には、データを提供した『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)の姿はない。危険な現場とあって、ここまで出てこられなかったのだろう。
 説明は、以上とのこと。
 厄介な状況ではあるが、対処できないという事態ではなさそうだ。
「あたし達は通路にでる水蛇……妖を潰しておくから」
「皆は小部屋の妖をー、よろしくねー」
 微笑むMIAの2人は覚者達が動き出したのを見て、宣言どおりに目に見える場所に現れた妖の対処をすべく、遺跡に降り立っていくのだった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:なちゅい
■成功条件
1.自然系妖、巽、坤を討伐する。
2.なし
3.なし
覚者の皆様、こんにちは。なちゅいです。

東の遺跡はすでに荒れており、
盗掘にもあっている模様ですが……。
まずは、宝の代わりに配置されている
妖の討伐を願います。

経緯はありますが、
端的な状況だと2つの小部屋で純戦を行うシナリオですので、
これまで関連シナリオにご縁のなかった方も
ご協力いただければ幸いです。

●妖(自然系)
小部屋でそれぞれ、ランク2強1体、ランク2弱3体と交戦します。

◎ランク2強
 それぞれ、全長3mほどある妖です。
○【南東】巽(そん)
 頭が龍、胴体が蛇を思わせる水でできた妖です。
・嘶き……特全・鈍化
・締め付け……物近単・痺れ
・猛襲爆流……特遠列

○【南西】坤(こん)
 頭が羊、胴体が猿を思わせる水でできた妖です。
・とびかかり……物近列・出血
・巻き角……物近貫3[100・60・40%]
・破水飛沫……特全・毒

◎ランク2弱
○水蛇……南東、南西に各3体
 全長1.2m程度の妖です。
(なお、通路には60cm程度のランク1がいますが、今回は交戦しません)
 同じランク2ですが、
 上記の巽、坤よりは格下の相手です。
・食らいつき……物近単
・飲み込み……特遠単・負荷
・のしかかり……物近単2[100・50%]

●NPC
○河澄・静音(nCL2000059)
 基本、皆様の支援に動きますが、
 何かありましたらご要望にお応えさせていただきます。

◎『MIA』……発現者女性2人組。
名前は彼女達の苗字、頭文字から。
両者共にかなりの力を持つようです。

今回は、遺跡全域に現れるランク1~2の水蛇の対応の為、
覚者達とは別行動を取ります。

○水玉・彩矢(みずたま・あや)翼×水
飛行、物質透過をセット済み。
ぐいぐい引っ張るタイプのちょっと露出高めの女性。
戦闘では回復支援を行いつつ、弓矢、波動弾を放ちます。

○荒石・成生(あらいし・なるき)獣(酉)×土
面接着、守護空間をセット済み。
相棒の彩矢に振り回されがちな気弱な性格で、露出が小さな服を着た女性。
前に立って直接拳で殴りかかり、防御態勢を取ります。

それでは、よろしくお願いいたします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2018年03月21日

■メイン参加者 6人■

『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『ちみっこ』
皐月 奈南(CL2001483)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)

●水竜に挑む為の前哨戦
 奈良県のとある遺跡群。
 遺跡が頻発して発見されたこの地で、調査に当たっていたF.i.V.E.の覚者達。
「よーし、今度は水が流れる東の遺跡!」
 『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が眼下に広がる荒廃した遺跡を見下ろす。
「……次は水の遺跡の妖ですね。はい、分かりました」
 大辻・想良(CL2001476)は小さく頷き、仲間を追って歩く。
「次の遺跡は水竜か」
 『白き光のヒーロー』成瀬 翔(CL2000063) は途中参加だが、それでも、この遺跡調査について乗りかかった船であり、竜に会うまで付き合うと意気込みを見せていた。
「まあ、今回は竜に会う前の前哨戦ってとこかな!」
 この遺跡奥にいる水竜を倒せば、四方全ての遺跡の妖を倒したことになる。
 それによって、中央にいる古妖、麒麟にどのくらい影響を与えるのか。奏空はそれを考え、胸を躍らせていたようだ。
「なんだかワクワクして来た! 麒麟待っててね!」
 残るステップを1つずつクリアして、麒麟の解放を。
 それを目指す奏空は、全身に力を漲らせていた。
「今回は、ここの主と戦う前に厄介者の排除までといった所か」
 水蓮寺 静護(CL2000471) は今作戦について、小さく唸りつつ考える。
 ここから見える通路にも腰の高さほどの緩やかな水の流れがあるが、時折、勢いよく水が噴出している音がここからも聞こえてきていた。
 また、所々には水蛇の姿をした妖が蠢いており、奥に行く為の障害にもなる。
「確かに、一度に進むのは大きな負担を強いられる」
「……って事で、今回は4つのうち二つの小部屋の妖だな」
 水竜と戦う為にも事前準備は必要だろうと静護が告げると、奏空が作戦を確認する。
 すでにボロボロな遺跡の南側は、上からロープを垂らして降りることで通路のトラップも回避して小部屋に接近できる状況だ。
 4ヶ所の小部屋にいる妖などは復活するわけでもなさそうなので、一つ一つ確実にコマを進めるほうが正しいのかもしれないと静護は考える。
「きりんちゃんの為に、ソンちゃんとコンちゃんをやっつけるよぉ! えいえいおー! なのだ!」
「思いっきり戦闘に集中させて貰うよ!」
「そうですね。全力を尽くしたいです」
 『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)が楽しげな様子で叫ぶと、奏空と『聖夜のパティシエール』菊坂 結鹿(CL2000432)がにこやかに応じる。
 奈南が言う、『ソンちゃん』、『コンちゃん』とは、今回討伐対象の妖、『巽(そん)』、『坤(こん)』のこと。
 意気揚々と遺跡に臨むメンバー達を、『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059)はにこにこと見つめていて。
「……河澄さんはわたしたちと一緒で……」
「はい、頑張りましょう」
 想良の呼びかけに、静音も両手に力を込めて気合を入れていた。
「そうそう、その意気よ」
「皆でがんばろうねー」
 MIAの2人、翼人の水玉・彩矢と酉の獣憑である荒石・成生も覚者達に発破をかける。
 そんなMIAは、後の為に通路の妖の駆除を進めるとのこと。
「よろしく、お願いします。気をつけて……」
「MIA達も、他の水蛇の対応気を付けてね!」
 想良、奏空が声をかけると、MIAの2人は互いの武運を信じ、妖討伐に当たり始めたのだった。

●南東の妖、巽
 覚者達は比較的簡単に向かうことができる南側の小部屋2ヶ所へと向かうことになる。
 その前にメンバー達は案を出し合い、毒が面倒な南西の坤を後回しにしようと話す。
「俺達はソンちゃんから叩く! ナナンちゃんがちゃん付けで呼ぶから俺もそう呼んで見た!」
「そうだねぇ! 最初にソンちゃんの方から行くよぉ!」
 奏空が元気よく提案するのに、奈南も同意する。
 結鹿、静音も異論を出さず、決定に従う様子だ。
「先に巽から全員で倒して、坤はその次に行く……ということだな」
「連戦になるから、気をひきしめねーとな!」
 静護が確認を取ると、翔は腕を鳴らす。
 そうした話し合いの結果、一行は南東の小部屋から向かうことにした。
 遺跡の外周を回りこむようにしてメンバーは南東部へと近づき、ロープを垂らして降りることになる。
 翔は念の為にと、ハイバランサーを使用しつつ飛び降りていく。
 その下は常に水の流れる通路で、その隅にはコケも生えている。滑りやすそうな通路でも、彼はバランス感覚を活かして歩いていた。
 想良は白い翼を羽ばたかせ、水に浸かることなく移動する。それに倣ってか、静音も水面に足をつけないように飛行していたようだ。
 部屋へと入る直前、覚醒して髪を金に染めた奏空が仲間全員を瑠璃光で包み込み、さらに奏空自身に英霊の力を強く引き出す。
 そして、一行はゆっくりと扉を開く。
 どうやら、小部屋の中にも水は入り込んでいたようだが、遺跡を水で満たさぬ為か小部屋の端に溝があり、奥に地下へと水が流れ落ちるようになっている。
 小部屋内にいる間は、水を気にする必要はなさそうだ。それもあって想良も静音も地面へと降り立つ。
 さながら、休憩ポイントを意識した造りになっているのだろう。
 だが、この場で今、休憩などできようはずもない。小部屋の中央には、水でできたランク2の妖が4体いた。
 手前には、蛇のような形の個体が3体。
 そして、後方には頭が龍、胴体が蛇を思わせる危険な妖が鎮座している。こいつが事前の話にあった巽だろう。
 先手必勝とばかりに、奏空は眠りへと誘う空気で妖を包み込むと、水蛇1体の意識が途絶えて眠りについてしまう。
 そこで、動きを止めていない水蛇へと長い髪を銀色に変色させた結鹿が前に飛び出し、黒い瞳で見据えた相手を蒼龍の刃で切りかかる。
 相手は物理攻撃が通りにくい自然系とあって、彼女は因子の力を込めた一撃を与えていく。
(後ろの大物も気にはなるが……)
 青く刺青を輝かせた静護も取り巻きの撃破を優先し、自らの体内に宿る炎を灼熱化して力を高める。
 そうして彼は鋭利な氷柱をいくつも作り出し、活動し続ける水蛇と後ろの巽を纏めて射抜いていく。
「グアオオオォォォォォ……!」
 大きく嘶くようなモーションを取った巽は耳をつんざくような雄叫びを上げ、覚者達の動きを鈍らせようとする。
 そこへ、水蛇が素早く飛び掛り、前線に立つ翔や結鹿へと襲い掛かる。
 彼らの傷を中央に布陣する奈南が刺青を白く輝かせ、回復へと当たっていく。
「静音ちゃんも、回復組として一緒に頑張ろうねぇ!」
「はい、精一杯皆様をサポートしますわ」
 奈南達の役目は攻撃よりも妖のもたらす異常を取り去ること、そして、傷つけられた仲間の体力回復だ。
 とはいえ、奈南も仲間の傷の浅い状況ならば、閃光手榴弾を投げ飛ばして妖達の弱体化をはかる。
(攻撃面は僕達が請け負う、君は安心してそっちに専念して欲しい)
 静音はそんな静護からの事前の依頼もあり、癒しの滴を振り撒いて終始仲間の回復に動く。
 後方から仲間のサポートを受けながら、23歳の姿に変貌していた翔は龍の形をした雷を呼び出し、敵全体へと叩き落としていった。
 無数の龍と水の蛇がぶつかる。しかしながら、多少のことでは妖どもは怯まない。
(……エアブリットでもいいかもですけど、やっぱり痺れ狙いで)
 同じく、雷を呼び起こす想良は敢えて巽を狙い撃つ。状況的に感電がこちらには及ばないと彼女は判断したのだ。
「水蛇の方は任せてくれ。できる限り早めに終わらせる!」
 仲間達へと呼びかけながら、静護は水の因子の力を存分に発揮し、妖へとぶつけていくのである。

 相手は普通どおりに戦えば、覚者は十分互角以上に戦う可能性のある相手。
 ただ、逆に言えば、油断や隙があるとそれだけで一気に攻め崩される危険もある敵だ。
 前線で戦ってはいた結鹿は巽の巨体で締め付けられ、身体を拘束されてしまう。
 水の龍にも拘らず、その瞬間に電流のようなものを走らせ、彼女の体に痺れを駆け巡らせた。
「確か、『巽』はたつみ、五行的には金……オレの天行と似たような性質だよな」
 だから、痺れ攻撃を持っているのかと翔は呟き、警戒を強める。
 そこへ、目を覚ましていた水蛇達が一気に攻め入った。
「大変、大変だー!」
 奈南が静音と協力して、結鹿の気の流れを正常に戻し、さらに深層水の力で癒しに当たる。
 だが、立ち回りが冴えない彼女はなおも妖達の的となってしまって。
「すみま……せん……」
 2体の水蛇に食らいつかれ、さらにその旨に巽の締め付けを再度受けてしまい、全身に痺れを走らせた結鹿は気を失って崩れ落ちてしまう。
 そのフォローができぬままに、メンバー達は一気に水蛇を攻め落とす。
 翔は敵陣の頭上に雷雲を巻き起こし、鮮烈なる雷を叩き落として水蛇を弱らせ、2体を霧散させてしまう。
 もう1体には静護が接近戦を仕掛け、一気に日本刀『絶海』で両断して水蛇にトドメを刺してしまった。
「こちらの排除は終わった、援護する!」
 一人が倒れ、覚者達も本気での立ち回りで応戦する。
 想良は雷を落としながら、合間にエネミースキャンを試みていた。
「……もう一息です」
 相手の体力が減ってきたと察した彼女は、前線メンバーへとそう呼びかける。
 巽も激しい水の流れとなって、覚者達に襲い掛かってきていた。
 死力を尽くした一撃にも覚者達は耐え切り、奏空が幾度目かの雷で相手の体を打ち落とす。
 その目から光が消え、妖は形を保てなくなって小部屋の床へと飛び散ってしまったのだった。

●態勢を立て直して……
 南東の小部屋にいた妖を全て倒した覚者達。
 だが、その最中で結鹿が倒れてしまった。
 翔などはこの小部屋の探索を希望していたものの、倒れた彼女を放置するわけにもいかず、MIAと別れた最初の地点まで戻ることにする。
 想良、翔、奏空が皆に大填気を使って気力を回復しつつ、樹の滴や癒力大活性で傷もしっかり癒す。
 その一方で、静音が結鹿の治療に当たるものの、彼女が目覚める様子はない。
「起きて、起きてよぉ!」
 奈南が呼びかけるも、結鹿は小さく呻くだけ。
「一旦、彼女は安静にするしかないだろう」
 静護がそう判断していた時、丁度こちらの異変を察したMIAの2人も戻ってくる。
「あやー、手当てをー」
「仕方ないね。彼女はあたし達に任せて」
 MIAは妖討伐の手を止めて彼女を預かり、覚者達を2つ目の小部屋へと送り出すのだった。

●南西の妖、坤
 南東と同様に、遺跡を西側へと回りこむ形で降り立つメンバー達。
 こちらでも、部屋へと入る前に奏空が瑠璃光で仲間を包み込み、英霊の力で自己の強化に当たる。
 そして、小部屋の扉を開け、覚醒した覚者達が中へと突入して見たものは、先ほどと同じ水蛇3体。
 その後ろには水で身体を構成した妖。頭は羊に体は猿というなんとも奇妙な姿をした相手だった。
 先ほど同様、奏空が眠りの雲で敵全体を包み込むが、翔がまたも雷の龍を呼び起こして敵全体へと雷を浴びせかける。
 それによって、奏空が眠らせた敵を起こしてしまったのは、連携が取れぬ部分といったところか。
 翔はそれをやや悔やみながらも、改めて奥の強敵を見つめた。
「『坤』はひつじさる……。こいつの見た目まんまだな」
 次なる攻撃のタイミングをはかる翔が語るには、この坤の五行は木にあたる。出血や毒は木行が得意としている技でもある。
「……てことは北の二部屋にいるのって、乾(けん)とか艮(ごん)とか……か?」
 陰陽師を目指す翔は、五行陰陽をしっかり学んだからこそ、そうした発想がすぐに考え付くのだろう。
 宝があったはずの小部屋へと意味深に配置されている妖。それは、宝を盗んだ相手が置いて行ったのではないかと彼は懸念していた。
 その間、水蛇は鎌首をもたげ、大きく口を開いて噛み付こうとしてくる。
 また、後ろの坤も翔が懸念する飛び掛りによる鋭い爪で覚者達の体を素早く引っかいて血飛沫をとばし、さらに全身を飛沫に変えて突撃することでメンバー全員に毒を与えようとしてくる。
「ナナン達の出番だねぇ!」
 奈南も先ほど同様に一度閃光手榴弾を投げた後は、仲間の出血、毒を見てその治療へと当たった。とりわけ、静音はメンバーが万全な状態で戦えるようにと深層水を一人ずつ振り撒いていたようだ。
「縦に並ばないよう気をつけませんと……」
 後方に位置しているのは、想良1人。
 それもあって、彼女は他メンバーよりは動きやすい位置にあるが、坤が時に繰り出す巻き角が仲間を貫き自分にまで及ぶ危険がある。
 仲間がうまく敵を抑えてくれる間に、想良はその坤目掛けて呼び起こす雷雲から雷を落としていく。
 現状、3体全てが動いている状況。
 ならばどれを狙っても一緒だと、静護は纏めて神秘の力を込めて生成された水竜を浴びせかける。
 水と水のぶつかり合い。それに妖は耐え切ってみせたものの、徐々にその体力は削がれ、形を保てなくなってきていたようだ。

 坤は初対戦であったとしても、基本的な立ち回りは南東の部屋の巽戦とさほど変わらない。
 奈南は仲間の異常を取り払う片手間で、真空をも切り裂く気弾を敵陣へと浴びせかけていくと、1体の水蛇が単なる水と化して側溝へと流れ落ちていく。
 奏空が雷獣をコンちゃんこと坤へと落としている間に、想良がじっと敵の体力を見つめつつ、彼女もまた相手を雷で攻め立てる。
 中衛で仲間の状態を見ながら、戦いを繰り広げる静護も抜刀の構えから踏み出し、閃光の如き斬撃を見舞って水蛇を霧散させていった。
 2戦目とあって、覚者達の疲弊状況は大きくなっていたが、慣れも手伝って1戦目よりも手早く相手を片付けていく。
 静護の刃でさらにもう1体の水蛇を切り伏せてしまえば、残るは坤のみ。
 全身を直接ぶつけてくる攻撃ばかりを仕掛ける坤は、覚者達の体力を削っていたが、それでもそいつのみとなれば、覚者達は勢いで畳み掛ける。
「これで、終わりだぜ!」
 想良のエネミースキャンで、トドメを確信した翔が波動弾を発射した。
 その一撃で猿の胴体を撃ち抜かれた坤は、身体を維持できなくなってしまう。
 どろりと溶けるようにしてそいつは全身を崩し、部屋の側溝を流れる水と共に流れ落ちていったのだった。

●この遺跡群について調査、考察を
 2戦を終えた覚者達は、南西の小部屋にしばし滞在する。
 翔は先ほど小部屋をチェックできなかったこともあり、この小部屋の調査を希望していたのだ。
 小部屋にあったはずの何らかの力をもつアイテムを盗んだ盗賊。その痕跡が残っていないかと翔は考えたのだが……。
 なお、後に聞いたMIAの2人の話も総合すると、この遺跡が荒れたのは最近のことではないようで、盗賊達による盗掘はかなり前に行われたと思われる。
 数十年前にはアイテムがなくなっていたのは間違いないようで、盗人が妖を置いていった線はかなり薄そうだ。
 翔も盗人がこの場に何の足跡も残していないとの結論にたどりつき、考えを改め直すことにしていた。
「残るは、二部屋か」
 奏空もまた翔と同様に、今回倒した妖の名からすれば、北東に艮、北西に乾となるのだろうと想像する。
「とすると……艮は牛と虎っぽくて、乾は犬っぽいのかな?」
 想像通りの可能性も高いが、北側の通路は今回みたいにロープで直接降りられそうにはない。実際に確かめるのは次回となりそうだ。
「……もしかして」
 想良もまた、別の考察をしていて。
「封印されてる大妖の、漏れた妖気が遺跡の影響で……白虎とか水竜とかになってるってことは、ないですよね……?」
 その可能性は否めないと考える覚者だったが。そこで、奈南が叫ぶ。
「ナナン! 折角奈良に来たから、鹿せんべいを買ってから行くのだ!」
 いつの間にか、鹿に1袋あげてしまったと言う彼女は、麒麟にも1袋あげたいと仲間達に訴えかける。
 とはいえ、重傷人もいる状況もあり、覚者達は一旦MIAと合流の後、中央遺跡の麒麟と会いに行くことにした。
「本当にすみません……」
 なお、MIAの妖討伐が進まなかったことに、結鹿が謝罪の言葉を口にしていた。
「食べてくれるかなぁ?」
 奈南はにこやかに、麒麟が鹿せんべいを食べる姿を思い浮かべていたのだった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

この後、中央の遺跡にて、
奈南さんがあげた鹿せんべいを、麒麟はありがたく頂いたようです。

参加した皆様、
本当にありがとうございました!




 
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