≪Vt2018≫皆でお菓子食べる感じのお話です。
●スイーツショップ、襲撃される。
「あー、故に、我々は今日、この日に起ったのであります」
と、男は拡声器を片手に演説をぶち上げた。
洋菓子店の前である。
このお店、『レープクーヘンハウス』は、何度か雑誌などでも取り上げられることもあった、五麟でもかなりおいしいと評判の洋菓子店である。
洋菓子店、とはいうものの、和洋中、兎に角お菓子であれば色々揃っている。「無い物など無い、無ければ作る」がモットーのパティシエたちにより、可能な限り顧客のニーズに応えた菓子を提供する、今評判のお店であるのだ。
それはさておき。
レープクーヘンハウスは、創業以来最大のピンチに襲われていた。
テロリストに襲撃を受けたのである。
それも、覚者犯罪者……隔者の、である。
隔者の手際は、実際見事な物であった。侵入、制圧、籠城。流れるようにスムーズにこなすその動きは、タダものではあるまい。
レープクーヘンハウスを占拠したテロリストたちは、やじ馬と警察たちの前に堂々と立ち、こう宣言したのである。
「バレンタインを中止すべきである」
タダものではないが、タダの馬鹿だった。
●覚者達、大いに呆れる。
「流石に馬鹿なんじゃないのか?」
と、頭を抱えたのは神林 瑛莉(nCL2000072)である。
「う、うーん……その、なんというか……」
事件の説明をする速水 結那(nCL2000114)も、流石に苦笑を浮かべた。
件のテロリストたちは、菓子店を占拠するや、何かブルジョアジーの搾取によるなんたからんたらに我々プロレタリアートの怒りの鉄槌がうんぬんかんぬん、羨ましい上にリア充はけしからんのでバレンタインを中止しろ、と喚いているらしい。
「連中が言ってる事は何一つわかんねーけど、とりあえずボコってくればいい、ってのだけは分かった」
「ら、乱暴な……でも、そういう事なんよ」
結那が言う。
「あ、事件を解決したら、お店の人がお礼にお菓子を振舞ってくれる、って言う話なんよ。それで、その」
結那が少々申し訳なさそうに、
「この時期限定のチョコレートケーキがあってな? よかったら、お土産に買ってきてくれると……」
「あいよ。じゃ、軽く片付けて、スイーツバイキングとでもしゃれ込むか」
瑛莉はそう言って、集まった覚者達に笑いかけたのであった。
「あー、故に、我々は今日、この日に起ったのであります」
と、男は拡声器を片手に演説をぶち上げた。
洋菓子店の前である。
このお店、『レープクーヘンハウス』は、何度か雑誌などでも取り上げられることもあった、五麟でもかなりおいしいと評判の洋菓子店である。
洋菓子店、とはいうものの、和洋中、兎に角お菓子であれば色々揃っている。「無い物など無い、無ければ作る」がモットーのパティシエたちにより、可能な限り顧客のニーズに応えた菓子を提供する、今評判のお店であるのだ。
それはさておき。
レープクーヘンハウスは、創業以来最大のピンチに襲われていた。
テロリストに襲撃を受けたのである。
それも、覚者犯罪者……隔者の、である。
隔者の手際は、実際見事な物であった。侵入、制圧、籠城。流れるようにスムーズにこなすその動きは、タダものではあるまい。
レープクーヘンハウスを占拠したテロリストたちは、やじ馬と警察たちの前に堂々と立ち、こう宣言したのである。
「バレンタインを中止すべきである」
タダものではないが、タダの馬鹿だった。
●覚者達、大いに呆れる。
「流石に馬鹿なんじゃないのか?」
と、頭を抱えたのは神林 瑛莉(nCL2000072)である。
「う、うーん……その、なんというか……」
事件の説明をする速水 結那(nCL2000114)も、流石に苦笑を浮かべた。
件のテロリストたちは、菓子店を占拠するや、何かブルジョアジーの搾取によるなんたからんたらに我々プロレタリアートの怒りの鉄槌がうんぬんかんぬん、羨ましい上にリア充はけしからんのでバレンタインを中止しろ、と喚いているらしい。
「連中が言ってる事は何一つわかんねーけど、とりあえずボコってくればいい、ってのだけは分かった」
「ら、乱暴な……でも、そういう事なんよ」
結那が言う。
「あ、事件を解決したら、お店の人がお礼にお菓子を振舞ってくれる、って言う話なんよ。それで、その」
結那が少々申し訳なさそうに、
「この時期限定のチョコレートケーキがあってな? よかったら、お土産に買ってきてくれると……」
「あいよ。じゃ、軽く片付けて、スイーツバイキングとでもしゃれ込むか」
瑛莉はそう言って、集まった覚者達に笑いかけたのであった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.テロリストを撃破する
2.振舞われたお菓子を堪能する
3.なし
2.振舞われたお菓子を堪能する
3.なし
お菓子を食べに行きましょう! 何やら変な人達がいますが、まぁ、特に問題にはならないでしょう。簡単依頼ですし。
●テロリストたちについて
一応隔者。総勢6名で、銃などで武装しています。
ですが、今や七星剣とも渡り合える実力者となったF.i.V.E.の覚者にとっては敵ではありません。
軽くひねれます。本当に。プレイングによっては、冒頭数行で「うわーやられたー」で退場する可能性すらあります。
●スイーツバイキングについて
むしろこっちが本番です。
事件解決のお礼に、お店の人達が貸し切りで、皆さんにお菓子を振舞ってくれます。便宜上スイーツバイキングと呼称。
レープクーヘンハウスは洋菓子がメインのお店ではありますが。リクエストがあれば和洋中、何でも作ってくれます。
興味がある方には、調理場を見学させてくれたり、スイーツ作成指導などもしてくれるそうです。
折角です、食べたり騒いだり、スイーツを作ってみたりするのもいいかもしれません。バレンタインですし。
●NPCについて
神林 瑛莉(nCL2000072)が同行します。特に指示がなければ、戦闘中には邪魔にならない程度に皆様のサポートを。
戦闘後には、スイーツバイキングにひとりで入った男子みたいな感じで、端っこの方で一人甘いものを堪能しています。
それでは、皆様のご参加お待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
5/8
5/8
公開日
2018年02月21日
2018年02月21日
■メイン参加者 5人■

●暴徒鎮圧。
「なんだかんだと理由づけしてますが……ようは貰えない男の人の僻みってことでいいんですよね?」
はい、その通りです。
頭に手をやり、少し呆れたように呟く『聖夜のパティシエール』菊坂 結鹿(CL2000432)の視線の先には、見事にお縄になって連行されていくテロリストたちの姿があった。
十数分ほど前の事。
現場に到着した覚者達は、展開していた警察達と情報共有するや即突撃。
「わたしはこれから大事な用事がありますので、問答無用であなた方を掃除いたします」
という結鹿の言葉通り、まさに問答無用、でも店に被害を出さぬよう注意を払い、一気にテロリスト隔者たちを鎮圧した。
十数分前の出来事、とは言ったが、実際に鎮圧にかかった時間は数分にも満たない。時間がかかったのは、警察への引き渡しや、人質であるパティシエたちの安全確認などが主だ。
「まったく……そんな事をしているから誰もチョコを下さらないのですわ」
と、少々憐みのこもった声で、『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)が言う。果たして、こんな事をしたからチョコを貰えないのか、チョコを貰えないからこんな事をしたのか。まぁ、どっちにしても貰えないので、その辺はどうでもよいのかもしれない。
「しかし、どんな理由があろうとも、せっかくのスイーツ食べ放題の日……じゃない、大切に思う人へ想いを伝える日をぶち壊しにしていい理由にはならんさ」
『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)が腕などを組みつつ、うんうん、と頷いた。
さて、憐れみとか生暖かい視線をかけられ連行されていく隔者たちに近づく一人の影があった。
「西園寺、皆さんにチョコレートを用意してきました」
西園寺 海(CL2001607)である。海はそう言って、一人一人に、手作りのチョコレートを手渡していった。
「今日はバレンタインデー。皆が幸せになってもいい日です。……あなた達がやった事はもちろん許されませんから、しっかり更生してきてください」
「い、いいのか……俺達なんかに……チョコレートを……」
「神かよ……女神だよ……」
「西園寺ちゃん……」
と、何やら感極まって泣き出す男もいる始末である。海はうなづくと、
「来年は、ちゃんともらえるように頑張ってください」
その言葉に、男たちは涙ながらに頷いた。よっぽど嬉しかったのだろう。男たちは、何処か晴れ晴れとした顔で連行されていく。来年は、ちゃんともらえるのだろうか。いや、無理だろう。流石に一年かそこらで刑務所から出てこれるとは思えないし。とは言え、しっかり更生はしてもらいたいものだ。
「なんか……残念な隔者さん達、だね……」
『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)が苦笑しながらつぶやくのへ、
「まぁ、世の中いろんなのがいるからなぁ……」
と、ぼやく神林 瑛莉(nCL2000072)である。
「ああ、皆さん、今日はありがとうございました!」
と、覚者達の元へやってきたのは、『レープクーヘンハウス』のオーナーにして、チーフパティシエである。
「いえ、戦闘中、怖い思いをさせてしまったかもしれません。ごめんなさい」
と、海が言うのへ、
「そんな! 私たちは全員無事ですし、内装の方にもほとんど被害がなく、お店も明日には営業が再開できる見通しですよ! 皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!」
つきましては、とチーフパティシエは言って、
「お礼と言っては何ですが……ぜひ、ウチのお菓子を食べて行ってください。もちろん、料金はいりませんとも」
来た。
と、覚者達の何人かは思ったかもしれない。
「お、おう……しかし、いいのかい?」
ちょっと上ずった感じの声で、ゲイルが言う。冷静さを装っているが、尻尾と耳がぴくぴくしていたりする。
「はい。流石に今日中の営業再開は無理です。となると、今日使う予定だった材料が無駄になってしまいます。それは私共としても無念です。ならば、皆様においしく食べていただく方が良いでしょう」
いいぞ。
と、覚者達の何人かは思ったかもしれない。
「そ、そうですわね! 断るのも失礼ですし」
と、遠慮がちに言いつつ、顔はにこにことしているいのりである。
「う、うん……疲れた後に、甘い物……いい、よね。ご厚意に、甘えちゃおう……か」
申し訳なさそうな顔をしつつ、ちょっと口元が緩んでいるミュエルである。
「……じゃ、じゃあ、皆、せっかくだからご馳走になろう」
ゲイルの言葉に、チーフパティシエは嬉しそうに頷いた。
「ぜひ! さぁ、店内へどうぞ。まだ少々散らかっていますが、そこは申し訳ありません。心行くまで、当店のスイーツ、お楽しみください!」
促されるまま、覚者達は、入店していく。
ある意味、今日の本番は此処から始まるのだ。
●お菓子パラダイス
店内は、甘い、とても甘い、良い香りで満たされていた。ただ、甘い、と言うだけでなく、その甘さにも種類がある。例えば、イチゴやオレンジなどのフルーツの香り。チョコレートの香り。果実酒の少し大人な甘さの香り。
店内に並ぶのは、その香りの元である、様々なスイーツたちだ。大きなケーキから、和菓子やお饅頭、中国菓子である月餅など。およそ『菓子』と名がつくものはすべてそろっている、と言わんばかりのラインナップ。
思わず、覚者達は目を輝かせた。
覚者達が大きなテーブルに腰かける。と、そこから離れて、隅っこの方にこっそりと座る瑛莉に、覚者達は気づいた。
「神林さん……どうしたの?」
小首をかしげるミュエルへ、
「あ、いや、なんつーか……その、変じゃないか?」
「変?」
今度はいのりが首を傾げた。
「その……オレが甘い物美味しそうに食べてるの。イメージ的な?」
若干顔を赤らめつつ瑛莉。どうやらこう、気恥ずかしいらしい。男子か。
「いやいや。甘いものの前ではみんな平等だぞ?」
そう言うゲイルの前には、いつの間に持ってきたのか、ティラミスなどが置かれている。
「そもそも、美味い物の前に性別だのイメージだのの垣根はないんだ。良い物はいい。そしてそれを食べることに制限はない。良いんだぞ。自分に正直になると良い。今日は特別な日だ」
と、ティラミスを一口、ゲイルが口に運ぶ。幸せそうに頬を緩め、
「うむ……評判通りだ……絶品……」
つぶやく。
「そうですよ、スイーツは楽しく皆で食べるものです。恥ずかしがらずに、さぁ」
にこにこと笑って、結鹿が言う。
「みんな一緒のほうが、きっと楽しいよ……?」
ミュエルも笑って声をかける。
「そうです、友達と食べる。幸せな事ですよ」
頷きながら、海が言う。
「さ、瑛莉様もご一緒に♪」
と、いのりは瑛莉の手を引っ張って、皆のテーブルに連れて行こうとする。
「わ、わかった、わかったよ!」
まだ顔を赤らめつつ、瑛莉が着席。一つのテーブルに、今日の事件を解決した覚者達が、全員そろった形となった。
「さて……先に一口頂いてしまって済まないが、改めて、はじめるとするか」
ゲイルが言う。覚者達は頷いて、各々スイーツを注文し始めたのである。
さて、テーブルには様々なスイーツが、所狭しと並んでいた。
ミュエルが頼んだ、期間限定のチョコレートケーキ。ケーキの上には可愛らしいチョコ細工の乗った、大きなホールケーキを、ミュエルが皆に切り分けていく。
「美味しいです」
海が呟く。手元には、海がオーダーしたオレンジペコの紅茶が、良い香りを漂わせていた。お菓子に合う飲み物も用意してくれるのが、このお店の良い所である。
「さ、瑛莉様♪ あーんしてください」
と、いのりが瑛莉へ食べさせようとするのへ、
「いや、流石にそれは恥ずいって!」
と、再び顔を赤くする瑛莉である。
「結那がお土産に欲しい、と言っていたチョコレートケーキ、これで良いのでしょうか?」
海が小首をかしげるのへ、
「うん……期間限定のケーキ、これで大丈夫、だよ」
ミュエルが言う。
「なるほど。ありがとうございます。これに合う紅茶も合わせて、買って帰ろうと思います」
楽し気に、海が言う。
「アタシも、お土産にしようと、思う……」
想い人の事を考えているのか、ミュエルの口がほころぶ。
「しかし……最高だな……このチョコレートケーキもそうだが、並んでいる品が全て絶品……」
ゲイルが一口一口を噛みしめるように、スイーツを口へと運んでいく。チョコレートパフェ。ティラミス。アップルパイにイチゴのミルフィーユ。色々な種類のスイーツを並べながら、さながら天国にでも訪れたかのような表情で、ゲイルはそれらを堪能する。
「こんな店を貸切りにできるとは……最高か……今日は最高の日か……」
守護使役の小梅にもスイーツを分け与えながら、ゲイルが呟く。
「最近は、大変なお仕事ばかりだから……今日はその、ご褒美、かもね」
ミュエルが言った。確かに、ここ最近の世の動向は些かきな臭い。
そんな厳しい戦いの中に身を置く覚者達だ。今日はいい息抜きになっただろう。
パーティはまだまだ続く。海の頼んだフランボワーズケーキで口をさっぱりとさせた後は、いのりがクリームブリュレをオーダー。ミュエルは好奇心もあり、上生菓子とゴマ団子をオーダー。洋菓子とはまた違った味わいに、覚者達は舌鼓をうつ。
「みなさん、良かったら、食べてほしいんですけれど……」
と、結鹿がトレイを手に、やってくる。
トレイに乗っていたのは、見事なオペラ風ケーキと、イチゴがたっぷりのフレジェだ。
「美味しそうです……もしかして、菊坂が作ったのですか?」
尋ねる海に、結鹿が頷く。
「はい。丁度いい機会でしたので、お店のパティシエさんにも指導してもらいながら……やっぱりプロの方は凄いですね。わたしもまだまだだって、思い知らされました」
「いえいえ、確かな技術をお持ちですよ。ウチで働いてもらいたいくらいです」
パティシエの一人が、微笑を浮かべつつ、結鹿の腕を褒める。
「では、早速、ひとつ……」
と、ゲイルがオペラ風ケーキにフォークを伸ばした。パクリ、と一口。良く味わう。
「うん……美味い……これは、マーマレードの風味か?」
尋ねるゲイルに、
「はい、本来はリキュールシロップを使うんですが、わたし含めて未成年の方が多いですから……代わりにマーマレードを」
「このふれじぇ、って言うのも美味いな? 普通のケーキとは違うのか?」
尋ねる瑛莉に、
「はい! 一般的なショートケーキに比べると、カスタードクリームやバタークリームを混ぜ合わせた「ムースリーヌ」という濃厚なクリームを使うんです。このクリームのコクのある甘さがいちごの酸味を引き立て、すっととろける味を演出するんですよ」
自作のケーキについて解説する結鹿。腕はもちろん、その知識も確かなもののようだ。
「そうだ、良かったら皆さんも、厨房を見学なさいますか? よろしければ、簡単ですが、作り方などをお教えしますが」
パティシエの提案に、覚者達は頷いた。
これだけおいしいスイーツを作る現場だ。確かに気になる。
厨房では、パティシエたちが覚者達を歓迎してくれた。先ほど隔者達から救出されたこともあり、パティシエたちは心から覚者達に感謝しているようであった。
パティシエたちは、デモンストレーションも兼ねて、チョコレートケーキを一つ、目の前で作ってくれた。繊細な作業を、素早く、手際よく行い、あっという間にチョコレートケーキを完成させる。
これには、覚者達も感心した。流石はプロ、と言った所だろう。
「ううむ、凄いな……まるで魔法のごとし、か」
ゲイルがうなる。
「あの、先ほど作ったケーキの感想とか改善点とか……教えてもらえると嬉しいんですが……」
おずおずと結鹿が言うのへ、パティシエ達は喜んで頷いた。
そのまま厨房の奥の方で、結鹿とパティシエ達は先ほどのケーキの味や改善点について議論を始める。
一方、いのりはパティシエに頼んで、シュークリームの作り方を教えてもらっていた。上手く皮が膨らませられない、という事らしい。
パティシエは、いくつかコツを説明ながら、丁寧に、いのりと共にシュークリームを作っていった。果たして数十分後。そこには、立派に膨らんだ、美味しそうなシュークリームが出来上がっていたのである。
「やりましたわ♪」
手を叩いて、いのりは喜んだ。
覚者達が、出来上がったシュークリームを試食する。オーソドックスで、素朴な味わいのシュークリームだ。
「うん、美味いぞ、秋津洲」
瑛莉が言うのへ、
「ふふ。実はお爺様がシュークリームをお好きなのです。今度、色々とお世話になっているお礼に作って差し上げようと思っていましたの」
いのりの言葉に、
「うん、おじいさん、きっと喜ぶと思う……」
ミュエルが微笑んだ。
さて、厨房見学ツアーを終えた覚者達は、再びのスイーツバイキングへと取り掛かる。とは言え、流石にそろそろ限界が近い。ほどなくお腹いっぱいになった覚者達は、食後のお茶をたのみ、ゆったりとした時間を楽しんでいた。
「皆様、楽しんでいただけましたか?」
チーフパティシエが覚者達に声をかける。
「はい。とても」
海が言う。
「ああ、本当に素晴らしいスイーツたちだった……出来たら、また来たいと思っている」
ゲイルが言うのへ、チーフパティシエは嬉しそうに、
「ええ、皆様でしたらいつでも歓迎いたします」
というのであった。
かくして、覚者達の休日――いや、戦いはあったので、仕事ではあったのだが、実質休日にカウントしてもいいだろう――は、穏やかに終わりを告げようとしていた。
明日からは、また厳しい戦いが始まるだろう。
それでも、今日のような穏やかな日々を守るため、覚者達は戦い続けるのだ。
とはいえ、今はまだ。
この、甘い、幸せな時間に浸っていてもいいだろう。
「なんだかんだと理由づけしてますが……ようは貰えない男の人の僻みってことでいいんですよね?」
はい、その通りです。
頭に手をやり、少し呆れたように呟く『聖夜のパティシエール』菊坂 結鹿(CL2000432)の視線の先には、見事にお縄になって連行されていくテロリストたちの姿があった。
十数分ほど前の事。
現場に到着した覚者達は、展開していた警察達と情報共有するや即突撃。
「わたしはこれから大事な用事がありますので、問答無用であなた方を掃除いたします」
という結鹿の言葉通り、まさに問答無用、でも店に被害を出さぬよう注意を払い、一気にテロリスト隔者たちを鎮圧した。
十数分前の出来事、とは言ったが、実際に鎮圧にかかった時間は数分にも満たない。時間がかかったのは、警察への引き渡しや、人質であるパティシエたちの安全確認などが主だ。
「まったく……そんな事をしているから誰もチョコを下さらないのですわ」
と、少々憐みのこもった声で、『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)が言う。果たして、こんな事をしたからチョコを貰えないのか、チョコを貰えないからこんな事をしたのか。まぁ、どっちにしても貰えないので、その辺はどうでもよいのかもしれない。
「しかし、どんな理由があろうとも、せっかくのスイーツ食べ放題の日……じゃない、大切に思う人へ想いを伝える日をぶち壊しにしていい理由にはならんさ」
『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)が腕などを組みつつ、うんうん、と頷いた。
さて、憐れみとか生暖かい視線をかけられ連行されていく隔者たちに近づく一人の影があった。
「西園寺、皆さんにチョコレートを用意してきました」
西園寺 海(CL2001607)である。海はそう言って、一人一人に、手作りのチョコレートを手渡していった。
「今日はバレンタインデー。皆が幸せになってもいい日です。……あなた達がやった事はもちろん許されませんから、しっかり更生してきてください」
「い、いいのか……俺達なんかに……チョコレートを……」
「神かよ……女神だよ……」
「西園寺ちゃん……」
と、何やら感極まって泣き出す男もいる始末である。海はうなづくと、
「来年は、ちゃんともらえるように頑張ってください」
その言葉に、男たちは涙ながらに頷いた。よっぽど嬉しかったのだろう。男たちは、何処か晴れ晴れとした顔で連行されていく。来年は、ちゃんともらえるのだろうか。いや、無理だろう。流石に一年かそこらで刑務所から出てこれるとは思えないし。とは言え、しっかり更生はしてもらいたいものだ。
「なんか……残念な隔者さん達、だね……」
『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)が苦笑しながらつぶやくのへ、
「まぁ、世の中いろんなのがいるからなぁ……」
と、ぼやく神林 瑛莉(nCL2000072)である。
「ああ、皆さん、今日はありがとうございました!」
と、覚者達の元へやってきたのは、『レープクーヘンハウス』のオーナーにして、チーフパティシエである。
「いえ、戦闘中、怖い思いをさせてしまったかもしれません。ごめんなさい」
と、海が言うのへ、
「そんな! 私たちは全員無事ですし、内装の方にもほとんど被害がなく、お店も明日には営業が再開できる見通しですよ! 皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!」
つきましては、とチーフパティシエは言って、
「お礼と言っては何ですが……ぜひ、ウチのお菓子を食べて行ってください。もちろん、料金はいりませんとも」
来た。
と、覚者達の何人かは思ったかもしれない。
「お、おう……しかし、いいのかい?」
ちょっと上ずった感じの声で、ゲイルが言う。冷静さを装っているが、尻尾と耳がぴくぴくしていたりする。
「はい。流石に今日中の営業再開は無理です。となると、今日使う予定だった材料が無駄になってしまいます。それは私共としても無念です。ならば、皆様においしく食べていただく方が良いでしょう」
いいぞ。
と、覚者達の何人かは思ったかもしれない。
「そ、そうですわね! 断るのも失礼ですし」
と、遠慮がちに言いつつ、顔はにこにことしているいのりである。
「う、うん……疲れた後に、甘い物……いい、よね。ご厚意に、甘えちゃおう……か」
申し訳なさそうな顔をしつつ、ちょっと口元が緩んでいるミュエルである。
「……じゃ、じゃあ、皆、せっかくだからご馳走になろう」
ゲイルの言葉に、チーフパティシエは嬉しそうに頷いた。
「ぜひ! さぁ、店内へどうぞ。まだ少々散らかっていますが、そこは申し訳ありません。心行くまで、当店のスイーツ、お楽しみください!」
促されるまま、覚者達は、入店していく。
ある意味、今日の本番は此処から始まるのだ。
●お菓子パラダイス
店内は、甘い、とても甘い、良い香りで満たされていた。ただ、甘い、と言うだけでなく、その甘さにも種類がある。例えば、イチゴやオレンジなどのフルーツの香り。チョコレートの香り。果実酒の少し大人な甘さの香り。
店内に並ぶのは、その香りの元である、様々なスイーツたちだ。大きなケーキから、和菓子やお饅頭、中国菓子である月餅など。およそ『菓子』と名がつくものはすべてそろっている、と言わんばかりのラインナップ。
思わず、覚者達は目を輝かせた。
覚者達が大きなテーブルに腰かける。と、そこから離れて、隅っこの方にこっそりと座る瑛莉に、覚者達は気づいた。
「神林さん……どうしたの?」
小首をかしげるミュエルへ、
「あ、いや、なんつーか……その、変じゃないか?」
「変?」
今度はいのりが首を傾げた。
「その……オレが甘い物美味しそうに食べてるの。イメージ的な?」
若干顔を赤らめつつ瑛莉。どうやらこう、気恥ずかしいらしい。男子か。
「いやいや。甘いものの前ではみんな平等だぞ?」
そう言うゲイルの前には、いつの間に持ってきたのか、ティラミスなどが置かれている。
「そもそも、美味い物の前に性別だのイメージだのの垣根はないんだ。良い物はいい。そしてそれを食べることに制限はない。良いんだぞ。自分に正直になると良い。今日は特別な日だ」
と、ティラミスを一口、ゲイルが口に運ぶ。幸せそうに頬を緩め、
「うむ……評判通りだ……絶品……」
つぶやく。
「そうですよ、スイーツは楽しく皆で食べるものです。恥ずかしがらずに、さぁ」
にこにこと笑って、結鹿が言う。
「みんな一緒のほうが、きっと楽しいよ……?」
ミュエルも笑って声をかける。
「そうです、友達と食べる。幸せな事ですよ」
頷きながら、海が言う。
「さ、瑛莉様もご一緒に♪」
と、いのりは瑛莉の手を引っ張って、皆のテーブルに連れて行こうとする。
「わ、わかった、わかったよ!」
まだ顔を赤らめつつ、瑛莉が着席。一つのテーブルに、今日の事件を解決した覚者達が、全員そろった形となった。
「さて……先に一口頂いてしまって済まないが、改めて、はじめるとするか」
ゲイルが言う。覚者達は頷いて、各々スイーツを注文し始めたのである。
さて、テーブルには様々なスイーツが、所狭しと並んでいた。
ミュエルが頼んだ、期間限定のチョコレートケーキ。ケーキの上には可愛らしいチョコ細工の乗った、大きなホールケーキを、ミュエルが皆に切り分けていく。
「美味しいです」
海が呟く。手元には、海がオーダーしたオレンジペコの紅茶が、良い香りを漂わせていた。お菓子に合う飲み物も用意してくれるのが、このお店の良い所である。
「さ、瑛莉様♪ あーんしてください」
と、いのりが瑛莉へ食べさせようとするのへ、
「いや、流石にそれは恥ずいって!」
と、再び顔を赤くする瑛莉である。
「結那がお土産に欲しい、と言っていたチョコレートケーキ、これで良いのでしょうか?」
海が小首をかしげるのへ、
「うん……期間限定のケーキ、これで大丈夫、だよ」
ミュエルが言う。
「なるほど。ありがとうございます。これに合う紅茶も合わせて、買って帰ろうと思います」
楽し気に、海が言う。
「アタシも、お土産にしようと、思う……」
想い人の事を考えているのか、ミュエルの口がほころぶ。
「しかし……最高だな……このチョコレートケーキもそうだが、並んでいる品が全て絶品……」
ゲイルが一口一口を噛みしめるように、スイーツを口へと運んでいく。チョコレートパフェ。ティラミス。アップルパイにイチゴのミルフィーユ。色々な種類のスイーツを並べながら、さながら天国にでも訪れたかのような表情で、ゲイルはそれらを堪能する。
「こんな店を貸切りにできるとは……最高か……今日は最高の日か……」
守護使役の小梅にもスイーツを分け与えながら、ゲイルが呟く。
「最近は、大変なお仕事ばかりだから……今日はその、ご褒美、かもね」
ミュエルが言った。確かに、ここ最近の世の動向は些かきな臭い。
そんな厳しい戦いの中に身を置く覚者達だ。今日はいい息抜きになっただろう。
パーティはまだまだ続く。海の頼んだフランボワーズケーキで口をさっぱりとさせた後は、いのりがクリームブリュレをオーダー。ミュエルは好奇心もあり、上生菓子とゴマ団子をオーダー。洋菓子とはまた違った味わいに、覚者達は舌鼓をうつ。
「みなさん、良かったら、食べてほしいんですけれど……」
と、結鹿がトレイを手に、やってくる。
トレイに乗っていたのは、見事なオペラ風ケーキと、イチゴがたっぷりのフレジェだ。
「美味しそうです……もしかして、菊坂が作ったのですか?」
尋ねる海に、結鹿が頷く。
「はい。丁度いい機会でしたので、お店のパティシエさんにも指導してもらいながら……やっぱりプロの方は凄いですね。わたしもまだまだだって、思い知らされました」
「いえいえ、確かな技術をお持ちですよ。ウチで働いてもらいたいくらいです」
パティシエの一人が、微笑を浮かべつつ、結鹿の腕を褒める。
「では、早速、ひとつ……」
と、ゲイルがオペラ風ケーキにフォークを伸ばした。パクリ、と一口。良く味わう。
「うん……美味い……これは、マーマレードの風味か?」
尋ねるゲイルに、
「はい、本来はリキュールシロップを使うんですが、わたし含めて未成年の方が多いですから……代わりにマーマレードを」
「このふれじぇ、って言うのも美味いな? 普通のケーキとは違うのか?」
尋ねる瑛莉に、
「はい! 一般的なショートケーキに比べると、カスタードクリームやバタークリームを混ぜ合わせた「ムースリーヌ」という濃厚なクリームを使うんです。このクリームのコクのある甘さがいちごの酸味を引き立て、すっととろける味を演出するんですよ」
自作のケーキについて解説する結鹿。腕はもちろん、その知識も確かなもののようだ。
「そうだ、良かったら皆さんも、厨房を見学なさいますか? よろしければ、簡単ですが、作り方などをお教えしますが」
パティシエの提案に、覚者達は頷いた。
これだけおいしいスイーツを作る現場だ。確かに気になる。
厨房では、パティシエたちが覚者達を歓迎してくれた。先ほど隔者達から救出されたこともあり、パティシエたちは心から覚者達に感謝しているようであった。
パティシエたちは、デモンストレーションも兼ねて、チョコレートケーキを一つ、目の前で作ってくれた。繊細な作業を、素早く、手際よく行い、あっという間にチョコレートケーキを完成させる。
これには、覚者達も感心した。流石はプロ、と言った所だろう。
「ううむ、凄いな……まるで魔法のごとし、か」
ゲイルがうなる。
「あの、先ほど作ったケーキの感想とか改善点とか……教えてもらえると嬉しいんですが……」
おずおずと結鹿が言うのへ、パティシエ達は喜んで頷いた。
そのまま厨房の奥の方で、結鹿とパティシエ達は先ほどのケーキの味や改善点について議論を始める。
一方、いのりはパティシエに頼んで、シュークリームの作り方を教えてもらっていた。上手く皮が膨らませられない、という事らしい。
パティシエは、いくつかコツを説明ながら、丁寧に、いのりと共にシュークリームを作っていった。果たして数十分後。そこには、立派に膨らんだ、美味しそうなシュークリームが出来上がっていたのである。
「やりましたわ♪」
手を叩いて、いのりは喜んだ。
覚者達が、出来上がったシュークリームを試食する。オーソドックスで、素朴な味わいのシュークリームだ。
「うん、美味いぞ、秋津洲」
瑛莉が言うのへ、
「ふふ。実はお爺様がシュークリームをお好きなのです。今度、色々とお世話になっているお礼に作って差し上げようと思っていましたの」
いのりの言葉に、
「うん、おじいさん、きっと喜ぶと思う……」
ミュエルが微笑んだ。
さて、厨房見学ツアーを終えた覚者達は、再びのスイーツバイキングへと取り掛かる。とは言え、流石にそろそろ限界が近い。ほどなくお腹いっぱいになった覚者達は、食後のお茶をたのみ、ゆったりとした時間を楽しんでいた。
「皆様、楽しんでいただけましたか?」
チーフパティシエが覚者達に声をかける。
「はい。とても」
海が言う。
「ああ、本当に素晴らしいスイーツたちだった……出来たら、また来たいと思っている」
ゲイルが言うのへ、チーフパティシエは嬉しそうに、
「ええ、皆様でしたらいつでも歓迎いたします」
というのであった。
かくして、覚者達の休日――いや、戦いはあったので、仕事ではあったのだが、実質休日にカウントしてもいいだろう――は、穏やかに終わりを告げようとしていた。
明日からは、また厳しい戦いが始まるだろう。
それでも、今日のような穏やかな日々を守るため、覚者達は戦い続けるのだ。
とはいえ、今はまだ。
この、甘い、幸せな時間に浸っていてもいいだろう。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『期間限定チョコレートケーキ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
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取得者:全員
