白狐今昔語
●
平安時代末期、鳥羽上皇の女官として玉藻の前という女がいた。彼女は狡猾に立ち回りその美貌と才覚でもって鳥羽上皇の寵姫として愛された。だが彼女は九尾狐の化身であり、自らの立場を利用して政治に介入し、贅沢の限りをつくし、さらには上皇を呪い病の床につかせた。まさに、傾国の美女とは言ったもので、病に伏せる上皇に代わり行った政は民を圧し、疫病を流行らせ、多くの死人を出した。
そんな中、立ち上がった陰陽師安部泰成は玉藻の前が九尾の狐であることを看破し、真言を唱え、正体を明かし宮中から追い出すことに成功する。
逃げ延びた玉藻の前は下野国那須野原まで落ち延びるが、復讐を誓い近隣地の婦女子を浚い食い、田畑を荒らし悪徳の限りをつくしていた。それに対して鳥羽上皇は、三浦介義明、千葉介常胤、上総介広常を将軍に討伐軍を編成し、那須野に送りこむ。激しい戦いの末、三浦介が放った二つの矢が玉藻の前の脇腹と首筋を貫き、上総介の妖刀での斬撃がとどめになり、玉藻の前を追い詰めることに成功した。しかし、玉藻の前のこの世界への執着は強くその場に殺生石と化して、とどまることになる。その石を封印することで、討伐と相成ったが殺生石は毒石となり、その後も近づく人や動物の命を奪うようになった。石は鳥羽上皇の死後も存在し、呪詛を吐き続ける。高僧が玉藻の前の鎮魂のために真言を唱えにくるが、当の高僧すら呪い殺してしまう。
そして時代は南北朝に移り、会津の示現寺を開いた玄翁和尚が自らの死を顧みず、かの殺生石を破壊することに成功した。その破片は8つに分断され、キュウビの別れ尾として、それぞれ全国各地へと飛んでいった。
一つは京都は稲荷神社の左輔、一つは上越は土御門神社の文曲、一つは石川の稲荷神社の武曲といった具合にである。
だが、当世の主人格である貪狼は那須野の殺生石に縛られる結果になる。しかし、尾が分かたれたことで妖力が減少し、それまでのように人や動物の命を奪うことはできなくなりめでたしめでたしと、昔話は幕を閉じた。
だが、平安時代の封印の力は段々と弱まり、昨今の逢魔化の影響、雷獣結界の消失の影響で封印が解けるまで秒読みとなってしまったのだ。
封印の弱体化を察知した左輔は残り8本の尾を集め、自分が善なるキュウビの主人格になることで当世の憂いを断つことに決めた。だがしかし、同じく封印が解けつつある貪狼もまた、かつての悪徳を為そうと同じく尾を集めようとしていたのだ。
●
「貪狼は破軍を手に入れたのじゃ。破軍の力は儂らの尾の中では最も強い。そなたらの働きで儂の尾は5本になったとはいえ、正直貪狼には勝てぬじゃろう」
狐神左輔が告げる声は重い。巨門が言ったとおり、貪狼の中にある尾が馴染んでしまえば、昔のようにまた人を浚い、食い。力をつけてしまうだろう。放置はできない。
「じゃから、この神社の結界を緩め、小狐たちを方方に散らし、右弼の探索をさせておった。右弼は儂の兄弟尾でな。儂ら兄弟が一つに重なることができれば、破軍にも匹敵する力を得ることができる。それでも五分五分といったところではあるのだが。」
ふう、と一息ついて、左輔は呼び出したFiVEの面々の顔を眺めた。
「今しがた、小狐ハクより右弼を発見したとの報が届いた」
よかったと胸をなでおろす覚者たちの前にいる狐神左輔の声の緊張は変わらぬままだ。
「ハクと右弼は、貪狼の手先のオサキ狐に追われているという。頼む、一刻を争う事態じゃ。ハクと右弼を助けてくれ!」
●
山道を走る狐尾と狐子の左右と背後をピッタリと、幽体の狐の古妖――オサキ狐が追いかけてくる。
悪徳の狐。前回のキュウビの元締めであった妲己であり玉藻の前でもある人格、貪狼の放った使役だ。
「右弼様、逃げて。ぼくは大丈夫」
足を噛まれ、傷だらけのハクが、自分が右弼の足手まといになっていると気づき、自分をおいて逃げることを促す。
『今更、ぬしをおいて逃げたところで、儂もぬしも食い殺されるに変わらんわ……やっとみつけたこいつをあやつらに渡すわけにはいかん。それにお前をおいて逃げたと左輔に知られたら、儂が左輔に殺されるわ』
だから、一緒に逃げると、右弼は譲らない。
(ふぁいぶ、たすけて、たすけて!)
狐子は強く祈る。彼らの夢に届くように。
平安時代末期、鳥羽上皇の女官として玉藻の前という女がいた。彼女は狡猾に立ち回りその美貌と才覚でもって鳥羽上皇の寵姫として愛された。だが彼女は九尾狐の化身であり、自らの立場を利用して政治に介入し、贅沢の限りをつくし、さらには上皇を呪い病の床につかせた。まさに、傾国の美女とは言ったもので、病に伏せる上皇に代わり行った政は民を圧し、疫病を流行らせ、多くの死人を出した。
そんな中、立ち上がった陰陽師安部泰成は玉藻の前が九尾の狐であることを看破し、真言を唱え、正体を明かし宮中から追い出すことに成功する。
逃げ延びた玉藻の前は下野国那須野原まで落ち延びるが、復讐を誓い近隣地の婦女子を浚い食い、田畑を荒らし悪徳の限りをつくしていた。それに対して鳥羽上皇は、三浦介義明、千葉介常胤、上総介広常を将軍に討伐軍を編成し、那須野に送りこむ。激しい戦いの末、三浦介が放った二つの矢が玉藻の前の脇腹と首筋を貫き、上総介の妖刀での斬撃がとどめになり、玉藻の前を追い詰めることに成功した。しかし、玉藻の前のこの世界への執着は強くその場に殺生石と化して、とどまることになる。その石を封印することで、討伐と相成ったが殺生石は毒石となり、その後も近づく人や動物の命を奪うようになった。石は鳥羽上皇の死後も存在し、呪詛を吐き続ける。高僧が玉藻の前の鎮魂のために真言を唱えにくるが、当の高僧すら呪い殺してしまう。
そして時代は南北朝に移り、会津の示現寺を開いた玄翁和尚が自らの死を顧みず、かの殺生石を破壊することに成功した。その破片は8つに分断され、キュウビの別れ尾として、それぞれ全国各地へと飛んでいった。
一つは京都は稲荷神社の左輔、一つは上越は土御門神社の文曲、一つは石川の稲荷神社の武曲といった具合にである。
だが、当世の主人格である貪狼は那須野の殺生石に縛られる結果になる。しかし、尾が分かたれたことで妖力が減少し、それまでのように人や動物の命を奪うことはできなくなりめでたしめでたしと、昔話は幕を閉じた。
だが、平安時代の封印の力は段々と弱まり、昨今の逢魔化の影響、雷獣結界の消失の影響で封印が解けるまで秒読みとなってしまったのだ。
封印の弱体化を察知した左輔は残り8本の尾を集め、自分が善なるキュウビの主人格になることで当世の憂いを断つことに決めた。だがしかし、同じく封印が解けつつある貪狼もまた、かつての悪徳を為そうと同じく尾を集めようとしていたのだ。
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「貪狼は破軍を手に入れたのじゃ。破軍の力は儂らの尾の中では最も強い。そなたらの働きで儂の尾は5本になったとはいえ、正直貪狼には勝てぬじゃろう」
狐神左輔が告げる声は重い。巨門が言ったとおり、貪狼の中にある尾が馴染んでしまえば、昔のようにまた人を浚い、食い。力をつけてしまうだろう。放置はできない。
「じゃから、この神社の結界を緩め、小狐たちを方方に散らし、右弼の探索をさせておった。右弼は儂の兄弟尾でな。儂ら兄弟が一つに重なることができれば、破軍にも匹敵する力を得ることができる。それでも五分五分といったところではあるのだが。」
ふう、と一息ついて、左輔は呼び出したFiVEの面々の顔を眺めた。
「今しがた、小狐ハクより右弼を発見したとの報が届いた」
よかったと胸をなでおろす覚者たちの前にいる狐神左輔の声の緊張は変わらぬままだ。
「ハクと右弼は、貪狼の手先のオサキ狐に追われているという。頼む、一刻を争う事態じゃ。ハクと右弼を助けてくれ!」
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山道を走る狐尾と狐子の左右と背後をピッタリと、幽体の狐の古妖――オサキ狐が追いかけてくる。
悪徳の狐。前回のキュウビの元締めであった妲己であり玉藻の前でもある人格、貪狼の放った使役だ。
「右弼様、逃げて。ぼくは大丈夫」
足を噛まれ、傷だらけのハクが、自分が右弼の足手まといになっていると気づき、自分をおいて逃げることを促す。
『今更、ぬしをおいて逃げたところで、儂もぬしも食い殺されるに変わらんわ……やっとみつけたこいつをあやつらに渡すわけにはいかん。それにお前をおいて逃げたと左輔に知られたら、儂が左輔に殺されるわ』
だから、一緒に逃げると、右弼は譲らない。
(ふぁいぶ、たすけて、たすけて!)
狐子は強く祈る。彼らの夢に届くように。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ハクと右弼の救出
2.オサキ狐の撃破
3.右弼からアイテムを受け取る
2.オサキ狐の撃破
3.右弼からアイテムを受け取る
今回の任務は、全国に尻尾を探しにいった小狐のハク君と右弼がピンチです。
呼び出しがあったのと同じタイミングでとある夢見が、察知しております。
現場状況などはその夢見が予知したものになります。
・ロケーション
京都に向かう山道です。足元はあまりよくはありません。時間帯は昼間。
みなさんは急いで向かうことになります。
大まかな場所は特定されていますが、詳しい場所はわかりません。できるだけ早く合流してください。
・ハク君
狐神に仕える、子狐の姿をした古妖。人間の子供の姿にも化けられます。マイペースな男の子です。
現在は小狐の姿です。
もともと稲荷神社の結界は彼ら小狐を外に出ていかないように内側から閉じ込めるものでした。実は前回から彼らは探索していたのですが(なので、廉貞と巨門が奥宮まで入ってくることができました)やっと右弼を見つけて連絡をしたものの、その動きを貪狼に察知されてしまいました。傷だらけのボロボロ状態で、必死で右弼と逃げています。戦闘は出来ません。確保されたら全力防御で耐えます。
・右弼
キュウビの狐の尾の一本です。何らかのアイテムを左輔に渡そうと暫くの間いろいろ探し回っていたようです。その最中にハクと出会い、オサキ狐に襲われてしまいました。
オサキ狐の数が多いのと、アイテムを持っていることによるダメージと疲労で反撃することができません。オサキ狐からのダメージが一定以上を超えると撃破され、貪狼の尾になってしまいます。ハクを諦めようとはしていません。
FiVEが無事助けることができるのであれば、左輔に戻るつもりです。
確保して回復ができたら戦闘は出来なくもないですが、矢面にたたせることはできません。
・オサキ狐
尾先狐とも言われる幽体の狐の古妖です。
20体程度のオサキ狐が連携的に攻撃をしてきます。一回り大きな司令塔であるリーダーと配下が19体。
司令塔が倒されれば次の指令塔に指揮権が移ります。火力事態はそれほどでもありませんが、体力が低いわけでもなく物理攻撃が若干効きにくいのでご注意ください。
一人を集中的に狙ってきたりすることもあります。少数になれば退却します。
右弼を優先的に狙います。
激高 怒りBS 単体遠
噛みつき 出血BS 単体近
ひっかき 痺れBS 近列
貫き尻尾 貫通2 100% 50%
以上、少々面倒な事態ではありますが、よろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年03月03日
2018年03月03日
■メイン参加者 8人■

●
『ハク! 右弼! FiVEだ! 助けに来たぞ! どっちにいる!? 返事してくれ!』
聞こえた。遠くで声が聞こえた。
「右弼様!」
『きこえておる。ごおるは目の前じゃ。いや、すたあとがここからというべきかの?』
僕達は走る。
「ふぁいぶ! 僕たちはここだ!」
「南の方から聞こえたよ。返事」
聞き耳をしていた『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015) が鋭く察知し、皆に声をかける。
「同じく、聞こえました!」
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429) もまた、ハクの声を察知する。
覚者達は走る。狐の元へ。
守護使役での偵察、声域拡張での呼びかけ。そして鋭聴力での感知は覚者と狐達をランデブーさせるために有効的に働いた。
(歴史に聞く物語。それに関わることになるなんて変な気持ちですが……そんなことを考えている状況ではありませんね。早くお二人の安全を確保せねば!」
『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695) は誰よりも早く走る。指示された方向に一直線にと。
(燐ちゃんは心配だけど……右弼を貪狼に渡すわけにはいかないからね)
流線のごとく一直線に駆け抜ける燐花を恭司が心配そうに見つめた。今すべきことは一つだ。狐二体の確保。それが最優先事項。
少し遅れて『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994) は誰よりもこの狐たちの物語に大きく関わってきた人物の一人だ。だからこそ、左輔の願いを叶えるために走る。
「左輔さんのご兄弟である右弼さんを、貪狼さんの元へと、行かせる事は阻止しなくてはなりません」
その誓いは強い。大地への親和性を最大限に高め彼女は地形を把握していく。広く開けた場所で戦えるように誘導するために、心を大地と一体化させていく。
(左輔の頼みなら断れないよね。ハクと右弼。しっかり助けてみせないと)
『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525) は飛行しながら探索を続ける。
「いたっ!」
鷹の目が狐たちを捉えた。守護使役のカグヤもまた彼らをとらえ、主人に伝える。
「ありがとう、カグヤ。皆のもとに伝えにいくわよ」
ばさりと黒い羽をはためかせ、彩吹は急ぐ。
「助けを求める声があるなら行かねーわけにはいかねーだろ! オレ自身もそう思うし」
妹にも頼まれちまったからな。何としてでも助け出すぜ! 13歳のヒーロー、『白き光のヒーロー』
成瀬 翔(CL2000063) は強い想いと共に駆け抜ける。妹はこの場にそぐわないと思ったのだろう。そんなことはないと翔は思うが、妹はヒーローである兄に助けてあげて! と願った。その想いを無下にはできない。
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は煌炎の書を胸に強く抱えて走る。
(パワーバランスを考えると、悪い方の狐さんに右弼さんが取り込まれるのは何としても避けなければいけませんね。……何よりそれをご本人が望んでいない)
だから助ける。それは何よりもシンプルで純粋な思いだ。
(右弼とハクが貧狼の手先に狙われているとは……手遅れにならなかっただけでまだマシと思うべきか)
『白銀の嚆矢』ゲイル・レオンハート(CL2000415) もまた狐たちに深く関わってきた一人だ。
「一刻も早く救出に向かわねば……」
「貴方が、右弼さんとハクさんですね。Fiveの柳と申します。頼りない盾かもしれません。が、精一杯お守りいたします」
オサキ狐とハクの間に割り込んだ燐花は両の手に短刀を構え、防御の姿勢をとる。
「ハクさん、全力防御で耐えてください。私が必ず護ります」
「お取込み中失礼。右弼とハク、だよね? Fiveの者です。迎えに来たよ」
上空から彩吹は右弼の前に降り立つ。
「ありがとう、来てくれた。ふぁいぶ。右弼様、これで助かる!」
『うむ、然り』
微笑む彩吹に二体は頷く。
「お前たちは呼んでいないよ……さっさと帰れ」
先程の優しい微笑みとはうって変わって獰猛な笑みを彩吹は浮かべ、オサキ狐に宣言した。
到着した仲間たちと連携し右弼とハクを囲むよう円陣を組んでいく。
今回この儚い少女達に課せられた役割は身を呈して、狐達を守ること。
その場から動くことも叶わず、攻撃を避けることすら叶わぬその役目。
燐花は思う。今まで彼女は避けることを前提に速度でもって戦ってきた。その自負はある。守る戦い。それは彼女にとってはじめての経験だ。だというのに不安はない。
「終わりがくるまで、耐えてみせましょう」
それでも震える足。仲間がいる。たとえ私が倒れても誰かがその後を継ぎ、狐たちを守りきるのだと信じている。だから不安はないのだ。
それとは別に恐怖はある。全ての攻撃に晒される可能性。
「怖い?」
同じ役割を与えられたもう一人の少女が燐花だけに聞こえる声で問いかけた。だから――。
「いいえ、そんなことはありません」
だから、強がりが言えた。彩吹だって同じなのだ。もう震えはなくなった。
「そう? なら安心」
エリニュスの翼の少女は不敵に微笑む。頼りにしていると言われればこちらこそと答える。
「お二人ともご無事ですか? まずは一息ついてください。ここからはわたしたちがあれの相手を致します」
御菓子が癒やしのダンスを踊り、恭司が癒やしの霧を発動させて、傷だらけの狐たちをまずは癒やしていく。
『すまぬな』
「そんじゃ、いくか」
彩吹の前に立つ翔が右拳を左手に打ち付けて己を鼓舞し、前衛にでる。同じようにたまきとゲイルも前にでて、狐達に貫通攻撃が届く可能性を排除する。
雷撃がオサキ狐を打ち据えた。数体のオサキ狐が痺れ動きが止まる。しかしこれと言った手応えはまだ感じない。なるほど体力が高いこともあり、これは長期戦になるなとラーラは思い、ペスカから鍵を受け取ると魔術書の封印を解く。書が紅く燃えるように 煌炎の光を灯す。それはラーラの本気の証。
こちらには持久戦の準備はある。対してオサキ狐たちには回復の手段はない。じっくりと焦らず攻撃対象を重ねていくというのが覚者たちの作戦である。
オサキ狐達は数の利を利用し、円陣を組む彼らを更に取り囲んでいく。リーダーが高い声を上げればオサキ狐は一気に攻撃を開始した。統制の取れた攻撃というものは敵からしても味方からしても脅威である。
次々と右弼を狙い、貫き尻尾を突き立てていくオサキ狐たち。しかし円陣に阻まれ届かないと知れば、前衛――この場合円陣の外にいる全ての覚者がオサキ狐にとっての前衛に相当することになる――をその爪でひっかき排除しようとする。痺れるようなビリビリとした感覚が、覚者達の便宜上の前衛、中衛、後衛を問わずに襲いかかる。
特に、体力が比較的低いと判断される、御菓子、恭司、ラーラは集中的に攻撃される。その合間にも単発的に遠距離攻撃を右弼に使われ、庇う彩吹は怒りに震える自分を必死で押さえつける。
全体的にダメージが分散する状況に回復手である、御菓子とゲイルは回復に手を取られる状況だ。
故に、最大火力を誇るたまきは防御術式である桜華鏡符で体力が低い三人に強化を施すことに手番を取られる。とはいえ、持久戦を貫くというのであれば、防御に力を入れていく方針は初動がもたつくというデメリットは否めないが、それ以上のメリットをじわじわとパーティに齎す。特に今回のように攻撃力は高くはないが数を利用して攻撃を集中させる相手に対しては極限まで相手攻撃力を減衰させダメージをコントロールするという作戦は有効的に働く。
「やい! オサキ狐共! 諦めろ! この二人は絶対に渡さねーからな!!」
この二体の狐は自分たちを、FiVEを信じてくれた。翔はそれが嬉しかった。だから力を貸したいと思った。貫かれる傷が痛くないわけはないのだ。それでも、それ以上に狐たちの期待は彼を強くする。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
同じようにラーラもまた、普段はあまり負うことが少ないダメージをその身にうけながら、炎のエネルギー波を放出し、オサキ狐を焼きあげていく。
「皆、目を閉じろ!!」
徐々に余裕が覚者たちの間に広がっていく。ゲイルは全員に警告すると閃光手榴弾を投げると星群の軌跡で貫き起爆させる。閃光と爆音が、オサキ狐達の三半規管を刺激し、行動を制限すれば、更に攻撃力が落ちた。
「ところで、兄弟尾っていうのはなんだろうね? ある意味、キュウビ全てが兄弟みたいなものだと思ってたんだけれど…」
余裕があるからこそ恭司の口から質問がこぼれる。
『全部が兄弟尾か。まあそう思うのも無理はない。我らは紫微斗――北斗七星の名を冠した尾と補佐である吉星の二つの名を冠しているのは知っておるな。儂、右弼と左輔はその中でも兄弟星といわれておる。儂らはぬしらで言う『人格』を有しておる。人格というものは名前に縛られてしまうのじゃよ。故に、同じキュウビの中でも儂らは名に縛られ兄弟となる。右弼星と左輔星が同じ星宮に同すれば吉象を強化する。その概念に儂らは引っ張られる。真名を知れば魔物を従えることができる。などと安倍の陰陽師の話は聞いたことがあるじゃろう? 名前というものは強力な呪じゃ。儂らのような古い妖かしほどに、その効力は高いというわけじゃ。』
守られながらいけしゃあしゃあと右弼が答えた。
「なるほどね、それを聞いたらより一層、左輔に会わせてあげないとと思うよ」
『然り、故に破軍の勝利を齎す概念もまた、強く貪狼に効力を表わす。努々忘れぬことじゃ』
目の前のオサキ狐はゆっくりと、しかし確実に数を減らしていく。
「いい?無理は禁物よ。何かあったら直ぐに連絡をすること、先生との約束よ」
だからこそ御菓子は皆に警告する。緩んだ瞬間こそが最も危険なのだ。
「はい! 油断はしません」
それに元気よくたまきが答えれば、御菓子はよろしいと胸を張り、海の蒼炎の護りを前衛に施していく。
状況に焦いたオサキ狐達は、最もコンスタントにダメージを広範囲に振りまく存在。ラーラに火力を集中させる。御菓子の回復も間に合わず、ラーラは一度は膝をつくが、命を燃し立ち上がる。
「脅威と思っていただいたのでしたら、それは光栄と言うべきでしょうか?」
石炭の魔女は口から血を出しながらも悠然と笑い、炎柱で目の前のオサキ狐を焼き尽くした。
残りのオサキ狐の数は半数を切っている。
「ところで、右弼さんの持ってきたという、アイテムとは?」
ハクを護りながら、右弼に燐花が尋ねた。
『ああ、忘れておった。コレのせいで随分と力が削がれておってな』
剣呑な言葉にぎょっとする。
『そうじゃな、その娘の武器は……ほう、業物の妖刀か。少々長さは足りぬが、この際贅沢はいっておれぬの』
右弼から放たれた光が、燐花の双刃に宿る。
「これは……」
『それと、ほい、ほい』
たまきと、恭司。そしてゲイルの持つ武器にもまた光が宿る。
『ハクのお守りは儂にまかせよ。妖刀の娘よ。オサキを切るがよい。それとそこの三人はほれほれ、オサキ共を穿ってみせよ』
言われるがままに指名された彼らは、己が武器をオサキ狐に振るった。
「!?」
明らかに先程までとは切れ味が違うことに戸惑いを覚えたたまきが呆然と口を開く。
「あの、オサキ狐さんへのダメージ、が……」
『然様。これが儂が探し求めていたものじゃ』
「分かりました」
燐花の双刃が二連の軌跡を煌めかせオサキ狐を切り裂く。あれほど手間取っていたのがまるで嘘だったかのようなその打撃は痛打となってオサキ狐を屠る。
『玉藻の前(わし)を倒した上総介の刀の概念と三浦介の弓の概念の神通力じゃ。あとで、ふぁいぶの小僧どもらにも分けてやれ。持ってくるのは大変じゃったのだぞ。この概念は玉藻の前であった儂をも蝕む』
「だから、動きが悪かったってことか。そりゃ尾の争奪以前に狙われるに決まっている……だが、運んでくれて礼を言う」
「ゲイルさん! そろそろ、氣力も限界だろ?」
空気を読んだ翔がゲイルに氣力を充填すれば、その氣力でもって、ゲイルは目の前のオサキ狐を猛る一撃で粉砕する。
不利を察したオサキ狐達はケーンと一声吠える。その瞬間周囲の温度が下がった気がして、覚者達は身構えた。
『憎し』
オサキ狐から発せられるは怨詛の聲。地の底より湧き出す、嫉妬の奔流。
『憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し』
繰り返される呪詛の声は彼らに重力としてのしかかるような響きでもって、圧倒する。
『貪狼よ。憎しみを捨て左輔に下れ、と言っても聞く耳など持たぬことは承知じゃが』
右弼が忌々しげに呟く。
『悪狐としての悪徳と誇りを忘れ、ひとのこに与するか!』
「残念だけど、右弼は渡さない」
『小僧、ひとのこの割には随分な胆力よの』
震える心に鞭打って少年の純粋さでもって、翔は口を開く。いつもの覇気はない。根こそぎ貪狼の気迫に奪われているのだ。それでも必死で思いを『敵』に伝える。そうだ、あれは『敵』だ。あれがもし尾を全て手に入れたら……。それはゾッとするような未来が人間に襲いかかることは間違いない。だから阻止しなくてはいけない。
「わ、たし、たちは、諦めません。絶対に……!」
たまきもまた涙目で震える体を抱きしめながら歯を食いしばり宣言する。
『ほほ、なれば来い。決戦の地は下野国那須野原。ぬしら覚者をくろうてやる。来ないのであればそれで構わぬ。人を喰らうことができる程度には封印は解けておる。人を喰らい力を蓄え、こちらから伏見に征くだけよ』
「そんなこと……! させるもんか」
彩吹もまた震える心を奮わせ啖呵をきる
『ほほ、勇ましい。待っておるぞ』
貪狼の傀儡とされたオサキ狐はその場に倒れ二度と動かなくなる。残りのオサキ狐たちは司令官を別に替え、迅速に撤退していった。
ほう、とため息を最初についたのは誰だっただろうか。
今回の右弼の争奪戦は勝利に終わった。だが、まだ貪狼との戦いは続く。――那須野での決戦の宣戦布告。
完全体ではないというのに、あの妖気。中継点にされただけであのオサキ狐は命を失った。そして味方であるオサキ狐をそのように消耗品にしてしまう冷徹さ。
大妖とはまた違う脅威が産まれてしまうことだけは阻止しなくてはならない。
勝てるのだろうかと覚者達は思う。しかし勝たなくてはいけないのだ。
●
「ハク君って、小狐ってきいたのだけど?」
御菓子がくれたいなりを一心不乱に食べるハクを彩吹やゲイル、燐花が撫でている。ふとした疑問に彩吹は口を開いた。
「そうそう、俺もそう思ってたんだけど、でっかくなってるし」
その横から翔もいなりをぱくつきながら話に混ざる。
『成長の呪い(まじない)。儂が練ってきた術式じゃ。まあ、これはそなたらの守護をするものに使うためのものだったのだが、ぶっちゃけ狐子につかえばどうなるかは、わからんかった』
「右弼様!?」
いなりを口から落としハクが悲鳴を上げる。
『結果往来というのじゃろう? ……戯れじゃ、聞き流せ』
「えっと、そのつまりそれは……」
右弼はにぃと笑う。
――りぃん……。澄んだ鈴の音が響いた。覚者達の守護使役が、弾かれたようにその音に集中する。
ハクを覆っていた光がすうっと抜けて、覚者たちの目の前に浮かぶ。同時にハクは小狐の姿に戻る。
『これが、お前たちひとのこの光『進化の術』がふぁいぶへの贈り物の二つ目じゃ』
『ハク! 右弼! FiVEだ! 助けに来たぞ! どっちにいる!? 返事してくれ!』
聞こえた。遠くで声が聞こえた。
「右弼様!」
『きこえておる。ごおるは目の前じゃ。いや、すたあとがここからというべきかの?』
僕達は走る。
「ふぁいぶ! 僕たちはここだ!」
「南の方から聞こえたよ。返事」
聞き耳をしていた『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015) が鋭く察知し、皆に声をかける。
「同じく、聞こえました!」
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429) もまた、ハクの声を察知する。
覚者達は走る。狐の元へ。
守護使役での偵察、声域拡張での呼びかけ。そして鋭聴力での感知は覚者と狐達をランデブーさせるために有効的に働いた。
(歴史に聞く物語。それに関わることになるなんて変な気持ちですが……そんなことを考えている状況ではありませんね。早くお二人の安全を確保せねば!」
『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695) は誰よりも早く走る。指示された方向に一直線にと。
(燐ちゃんは心配だけど……右弼を貪狼に渡すわけにはいかないからね)
流線のごとく一直線に駆け抜ける燐花を恭司が心配そうに見つめた。今すべきことは一つだ。狐二体の確保。それが最優先事項。
少し遅れて『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994) は誰よりもこの狐たちの物語に大きく関わってきた人物の一人だ。だからこそ、左輔の願いを叶えるために走る。
「左輔さんのご兄弟である右弼さんを、貪狼さんの元へと、行かせる事は阻止しなくてはなりません」
その誓いは強い。大地への親和性を最大限に高め彼女は地形を把握していく。広く開けた場所で戦えるように誘導するために、心を大地と一体化させていく。
(左輔の頼みなら断れないよね。ハクと右弼。しっかり助けてみせないと)
『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525) は飛行しながら探索を続ける。
「いたっ!」
鷹の目が狐たちを捉えた。守護使役のカグヤもまた彼らをとらえ、主人に伝える。
「ありがとう、カグヤ。皆のもとに伝えにいくわよ」
ばさりと黒い羽をはためかせ、彩吹は急ぐ。
「助けを求める声があるなら行かねーわけにはいかねーだろ! オレ自身もそう思うし」
妹にも頼まれちまったからな。何としてでも助け出すぜ! 13歳のヒーロー、『白き光のヒーロー』
成瀬 翔(CL2000063) は強い想いと共に駆け抜ける。妹はこの場にそぐわないと思ったのだろう。そんなことはないと翔は思うが、妹はヒーローである兄に助けてあげて! と願った。その想いを無下にはできない。
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は煌炎の書を胸に強く抱えて走る。
(パワーバランスを考えると、悪い方の狐さんに右弼さんが取り込まれるのは何としても避けなければいけませんね。……何よりそれをご本人が望んでいない)
だから助ける。それは何よりもシンプルで純粋な思いだ。
(右弼とハクが貧狼の手先に狙われているとは……手遅れにならなかっただけでまだマシと思うべきか)
『白銀の嚆矢』ゲイル・レオンハート(CL2000415) もまた狐たちに深く関わってきた一人だ。
「一刻も早く救出に向かわねば……」
「貴方が、右弼さんとハクさんですね。Fiveの柳と申します。頼りない盾かもしれません。が、精一杯お守りいたします」
オサキ狐とハクの間に割り込んだ燐花は両の手に短刀を構え、防御の姿勢をとる。
「ハクさん、全力防御で耐えてください。私が必ず護ります」
「お取込み中失礼。右弼とハク、だよね? Fiveの者です。迎えに来たよ」
上空から彩吹は右弼の前に降り立つ。
「ありがとう、来てくれた。ふぁいぶ。右弼様、これで助かる!」
『うむ、然り』
微笑む彩吹に二体は頷く。
「お前たちは呼んでいないよ……さっさと帰れ」
先程の優しい微笑みとはうって変わって獰猛な笑みを彩吹は浮かべ、オサキ狐に宣言した。
到着した仲間たちと連携し右弼とハクを囲むよう円陣を組んでいく。
今回この儚い少女達に課せられた役割は身を呈して、狐達を守ること。
その場から動くことも叶わず、攻撃を避けることすら叶わぬその役目。
燐花は思う。今まで彼女は避けることを前提に速度でもって戦ってきた。その自負はある。守る戦い。それは彼女にとってはじめての経験だ。だというのに不安はない。
「終わりがくるまで、耐えてみせましょう」
それでも震える足。仲間がいる。たとえ私が倒れても誰かがその後を継ぎ、狐たちを守りきるのだと信じている。だから不安はないのだ。
それとは別に恐怖はある。全ての攻撃に晒される可能性。
「怖い?」
同じ役割を与えられたもう一人の少女が燐花だけに聞こえる声で問いかけた。だから――。
「いいえ、そんなことはありません」
だから、強がりが言えた。彩吹だって同じなのだ。もう震えはなくなった。
「そう? なら安心」
エリニュスの翼の少女は不敵に微笑む。頼りにしていると言われればこちらこそと答える。
「お二人ともご無事ですか? まずは一息ついてください。ここからはわたしたちがあれの相手を致します」
御菓子が癒やしのダンスを踊り、恭司が癒やしの霧を発動させて、傷だらけの狐たちをまずは癒やしていく。
『すまぬな』
「そんじゃ、いくか」
彩吹の前に立つ翔が右拳を左手に打ち付けて己を鼓舞し、前衛にでる。同じようにたまきとゲイルも前にでて、狐達に貫通攻撃が届く可能性を排除する。
雷撃がオサキ狐を打ち据えた。数体のオサキ狐が痺れ動きが止まる。しかしこれと言った手応えはまだ感じない。なるほど体力が高いこともあり、これは長期戦になるなとラーラは思い、ペスカから鍵を受け取ると魔術書の封印を解く。書が紅く燃えるように 煌炎の光を灯す。それはラーラの本気の証。
こちらには持久戦の準備はある。対してオサキ狐たちには回復の手段はない。じっくりと焦らず攻撃対象を重ねていくというのが覚者たちの作戦である。
オサキ狐達は数の利を利用し、円陣を組む彼らを更に取り囲んでいく。リーダーが高い声を上げればオサキ狐は一気に攻撃を開始した。統制の取れた攻撃というものは敵からしても味方からしても脅威である。
次々と右弼を狙い、貫き尻尾を突き立てていくオサキ狐たち。しかし円陣に阻まれ届かないと知れば、前衛――この場合円陣の外にいる全ての覚者がオサキ狐にとっての前衛に相当することになる――をその爪でひっかき排除しようとする。痺れるようなビリビリとした感覚が、覚者達の便宜上の前衛、中衛、後衛を問わずに襲いかかる。
特に、体力が比較的低いと判断される、御菓子、恭司、ラーラは集中的に攻撃される。その合間にも単発的に遠距離攻撃を右弼に使われ、庇う彩吹は怒りに震える自分を必死で押さえつける。
全体的にダメージが分散する状況に回復手である、御菓子とゲイルは回復に手を取られる状況だ。
故に、最大火力を誇るたまきは防御術式である桜華鏡符で体力が低い三人に強化を施すことに手番を取られる。とはいえ、持久戦を貫くというのであれば、防御に力を入れていく方針は初動がもたつくというデメリットは否めないが、それ以上のメリットをじわじわとパーティに齎す。特に今回のように攻撃力は高くはないが数を利用して攻撃を集中させる相手に対しては極限まで相手攻撃力を減衰させダメージをコントロールするという作戦は有効的に働く。
「やい! オサキ狐共! 諦めろ! この二人は絶対に渡さねーからな!!」
この二体の狐は自分たちを、FiVEを信じてくれた。翔はそれが嬉しかった。だから力を貸したいと思った。貫かれる傷が痛くないわけはないのだ。それでも、それ以上に狐たちの期待は彼を強くする。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
同じようにラーラもまた、普段はあまり負うことが少ないダメージをその身にうけながら、炎のエネルギー波を放出し、オサキ狐を焼きあげていく。
「皆、目を閉じろ!!」
徐々に余裕が覚者たちの間に広がっていく。ゲイルは全員に警告すると閃光手榴弾を投げると星群の軌跡で貫き起爆させる。閃光と爆音が、オサキ狐達の三半規管を刺激し、行動を制限すれば、更に攻撃力が落ちた。
「ところで、兄弟尾っていうのはなんだろうね? ある意味、キュウビ全てが兄弟みたいなものだと思ってたんだけれど…」
余裕があるからこそ恭司の口から質問がこぼれる。
『全部が兄弟尾か。まあそう思うのも無理はない。我らは紫微斗――北斗七星の名を冠した尾と補佐である吉星の二つの名を冠しているのは知っておるな。儂、右弼と左輔はその中でも兄弟星といわれておる。儂らはぬしらで言う『人格』を有しておる。人格というものは名前に縛られてしまうのじゃよ。故に、同じキュウビの中でも儂らは名に縛られ兄弟となる。右弼星と左輔星が同じ星宮に同すれば吉象を強化する。その概念に儂らは引っ張られる。真名を知れば魔物を従えることができる。などと安倍の陰陽師の話は聞いたことがあるじゃろう? 名前というものは強力な呪じゃ。儂らのような古い妖かしほどに、その効力は高いというわけじゃ。』
守られながらいけしゃあしゃあと右弼が答えた。
「なるほどね、それを聞いたらより一層、左輔に会わせてあげないとと思うよ」
『然り、故に破軍の勝利を齎す概念もまた、強く貪狼に効力を表わす。努々忘れぬことじゃ』
目の前のオサキ狐はゆっくりと、しかし確実に数を減らしていく。
「いい?無理は禁物よ。何かあったら直ぐに連絡をすること、先生との約束よ」
だからこそ御菓子は皆に警告する。緩んだ瞬間こそが最も危険なのだ。
「はい! 油断はしません」
それに元気よくたまきが答えれば、御菓子はよろしいと胸を張り、海の蒼炎の護りを前衛に施していく。
状況に焦いたオサキ狐達は、最もコンスタントにダメージを広範囲に振りまく存在。ラーラに火力を集中させる。御菓子の回復も間に合わず、ラーラは一度は膝をつくが、命を燃し立ち上がる。
「脅威と思っていただいたのでしたら、それは光栄と言うべきでしょうか?」
石炭の魔女は口から血を出しながらも悠然と笑い、炎柱で目の前のオサキ狐を焼き尽くした。
残りのオサキ狐の数は半数を切っている。
「ところで、右弼さんの持ってきたという、アイテムとは?」
ハクを護りながら、右弼に燐花が尋ねた。
『ああ、忘れておった。コレのせいで随分と力が削がれておってな』
剣呑な言葉にぎょっとする。
『そうじゃな、その娘の武器は……ほう、業物の妖刀か。少々長さは足りぬが、この際贅沢はいっておれぬの』
右弼から放たれた光が、燐花の双刃に宿る。
「これは……」
『それと、ほい、ほい』
たまきと、恭司。そしてゲイルの持つ武器にもまた光が宿る。
『ハクのお守りは儂にまかせよ。妖刀の娘よ。オサキを切るがよい。それとそこの三人はほれほれ、オサキ共を穿ってみせよ』
言われるがままに指名された彼らは、己が武器をオサキ狐に振るった。
「!?」
明らかに先程までとは切れ味が違うことに戸惑いを覚えたたまきが呆然と口を開く。
「あの、オサキ狐さんへのダメージ、が……」
『然様。これが儂が探し求めていたものじゃ』
「分かりました」
燐花の双刃が二連の軌跡を煌めかせオサキ狐を切り裂く。あれほど手間取っていたのがまるで嘘だったかのようなその打撃は痛打となってオサキ狐を屠る。
『玉藻の前(わし)を倒した上総介の刀の概念と三浦介の弓の概念の神通力じゃ。あとで、ふぁいぶの小僧どもらにも分けてやれ。持ってくるのは大変じゃったのだぞ。この概念は玉藻の前であった儂をも蝕む』
「だから、動きが悪かったってことか。そりゃ尾の争奪以前に狙われるに決まっている……だが、運んでくれて礼を言う」
「ゲイルさん! そろそろ、氣力も限界だろ?」
空気を読んだ翔がゲイルに氣力を充填すれば、その氣力でもって、ゲイルは目の前のオサキ狐を猛る一撃で粉砕する。
不利を察したオサキ狐達はケーンと一声吠える。その瞬間周囲の温度が下がった気がして、覚者達は身構えた。
『憎し』
オサキ狐から発せられるは怨詛の聲。地の底より湧き出す、嫉妬の奔流。
『憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し憎し』
繰り返される呪詛の声は彼らに重力としてのしかかるような響きでもって、圧倒する。
『貪狼よ。憎しみを捨て左輔に下れ、と言っても聞く耳など持たぬことは承知じゃが』
右弼が忌々しげに呟く。
『悪狐としての悪徳と誇りを忘れ、ひとのこに与するか!』
「残念だけど、右弼は渡さない」
『小僧、ひとのこの割には随分な胆力よの』
震える心に鞭打って少年の純粋さでもって、翔は口を開く。いつもの覇気はない。根こそぎ貪狼の気迫に奪われているのだ。それでも必死で思いを『敵』に伝える。そうだ、あれは『敵』だ。あれがもし尾を全て手に入れたら……。それはゾッとするような未来が人間に襲いかかることは間違いない。だから阻止しなくてはいけない。
「わ、たし、たちは、諦めません。絶対に……!」
たまきもまた涙目で震える体を抱きしめながら歯を食いしばり宣言する。
『ほほ、なれば来い。決戦の地は下野国那須野原。ぬしら覚者をくろうてやる。来ないのであればそれで構わぬ。人を喰らうことができる程度には封印は解けておる。人を喰らい力を蓄え、こちらから伏見に征くだけよ』
「そんなこと……! させるもんか」
彩吹もまた震える心を奮わせ啖呵をきる
『ほほ、勇ましい。待っておるぞ』
貪狼の傀儡とされたオサキ狐はその場に倒れ二度と動かなくなる。残りのオサキ狐たちは司令官を別に替え、迅速に撤退していった。
ほう、とため息を最初についたのは誰だっただろうか。
今回の右弼の争奪戦は勝利に終わった。だが、まだ貪狼との戦いは続く。――那須野での決戦の宣戦布告。
完全体ではないというのに、あの妖気。中継点にされただけであのオサキ狐は命を失った。そして味方であるオサキ狐をそのように消耗品にしてしまう冷徹さ。
大妖とはまた違う脅威が産まれてしまうことだけは阻止しなくてはならない。
勝てるのだろうかと覚者達は思う。しかし勝たなくてはいけないのだ。
●
「ハク君って、小狐ってきいたのだけど?」
御菓子がくれたいなりを一心不乱に食べるハクを彩吹やゲイル、燐花が撫でている。ふとした疑問に彩吹は口を開いた。
「そうそう、俺もそう思ってたんだけど、でっかくなってるし」
その横から翔もいなりをぱくつきながら話に混ざる。
『成長の呪い(まじない)。儂が練ってきた術式じゃ。まあ、これはそなたらの守護をするものに使うためのものだったのだが、ぶっちゃけ狐子につかえばどうなるかは、わからんかった』
「右弼様!?」
いなりを口から落としハクが悲鳴を上げる。
『結果往来というのじゃろう? ……戯れじゃ、聞き流せ』
「えっと、そのつまりそれは……」
右弼はにぃと笑う。
――りぃん……。澄んだ鈴の音が響いた。覚者達の守護使役が、弾かれたようにその音に集中する。
ハクを覆っていた光がすうっと抜けて、覚者たちの目の前に浮かぶ。同時にハクは小狐の姿に戻る。
『これが、お前たちひとのこの光『進化の術』がふぁいぶへの贈り物の二つ目じゃ』
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
大変な戦いお疲れ様でした。参加ありがとうございます。
次回は貪狼との決戦になります。
よろしくお願いします。リリースは3月中旬以降月末当たりを予定しています。
次回は貪狼との決戦になります。
よろしくお願いします。リリースは3月中旬以降月末当たりを予定しています。
