陽気な憤怒者『ベタに銀行を襲ってみた』
陽気な憤怒者『ベタに銀行を襲ってみた』


●銀行強盗ですって
「ヒャッハー! 死にたくない奴は床に伏せて動くんじゃねぇぞぉ!!」
 ばら撒かれる弾丸、耳をつんざく悲鳴、はじけ飛ぶ書類……真昼間から強盗に入った集団は出口を塞ぎ、銀行の職員と利用者をいくつかのグループに分けると、それぞれの管轄と言わんばかりに各部屋へと連れていく。
「はてさて、どうしてくれようかねぇ……」
 怯え切った女性職員の頬にナイフを当てた憤怒者は、嘲笑うように下卑た笑みを浮かべて手近な椅子にどっかと腰を掛けた。
「さぁ……来いよ覚者どもぉ!」

●クレイジーな挑戦状
「というわけで、皆に挑戦状が届いたんだ」
 久方 相馬(CL2000004)は事の次第を説明すると、憤怒者に襲われた銀行の間取図を取り出す。
「敵はいくつかの部屋に、何人かずつ待ち構えていて、皆に決闘を挑んでくる。もし負けるか、一定時間が経過すると人質を殺すって言ってきてるんだ。一度に相手にする人数が少ないから負ける事はないと思うんだけど、問題は時間の方だ」
 相馬は地図にいくつかの丸を付けて、そのポイントを別の紙に箇条書きにしていく。
「どういうわけか、あっちからどこで時間がかかるかを指摘してるんだよ。罠かもしれないけど、一応信用するなら受付、給湯室、金庫の三カ所での戦闘と、銀行に踏み込む為に入り口のシャッターを破壊すること、それから金庫内で待ち構えてる奴を狙う為の金庫の解錠だな」
 戦闘はまだしも、シャッターや金庫なら話にならない、と笑う覚者もいるが、相馬の表情は重い。
「どうやらシャッターとか金庫の扉のすぐ側に人質を配置してるみたいでさ、力任せに突破しようとすると被害者が出る。頑張って開けるか、もしくは何らかの方法で内側から開けさせる必要があるんだ」
 知恵と力、二つを問われる依頼になるような気がしないでもない……と、いいな。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:残念矜持郎
■成功条件
1.制限時間内の憤怒者全滅
2.なし
3.なし
今回はタイムアタック風……もとい、時間との闘いな依頼です

関門は

1:シャッターの解放(全員で押し上げる工夫か、相手に開けさせる話術が問われる)

2:受付(戦闘、敵が二十人)

3:給湯室(戦闘、狭い戦場で、敵が一人ずつ、五人出てくる)

4:金庫(ナンバータイプの南京錠と電子ロックと扉を固定してる知恵の輪)

5:金庫内(戦闘、敵が最初から五人いる)


の五つです

敵はそんなに強くないから、どうやって一掃するのか、という工夫を考えると楽しいかもしれません

なお、何故か制限時間が指定されていません

その理由を推理して的中すると……?
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
8日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/6
公開日
2018年02月10日

■メイン参加者 4人■


●そりゃすり抜けたら、そうなるな
 既に憤怒者によってシャッターが降ろされた銀行の前。芦原 ちとせ(CL2001655)がシャッターから離れた壁から内部へすり抜けていく様子を見届けて、『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)は憤慨する。
「銀行強盗というだけでも許せませんが、人質を取って立てこもるだなんて本当に猛省を求めます。本当に強盗の方が憤怒者なら覚者憎しっていうのは分かりますが、一般の方を巻き込む気持ちがさっぱりわかりません。正直に言って、正面から来ればよいのに……それならこちらも嫌な気持ちをせずにお相手できると思うんですが……」
「確かに何を企んでいるか分からんが、さっさと終わらせ人質を解放するに越したことはないな」
 万・星(CL2001658)も腕組みしてシャッターが上がるその時を待つのだが、森宮・聖奈(CL2001649)があることに気づく。
「そういえば、シャッターのスイッチってどこにあったんでしょう……芦原先生が先に開けてくださるという話でしたけど……まだ開かないのでしょうか?」
 ふと、結鹿と星が顔を見合わせた時、中から銃声が響いてくる。
「しまった、先に中に入っちまったら、先生は一人で憤怒者を相手にすることになるんじゃねぇのか!?」
 シャッターの昇降スイッチが、シャッターのすぐ側にあるとは限らない。今回はその例に当たってしまったのだろう。壁の向こうから怒号と悲鳴、銃声と爆音が響いてくるのをただ、見ている事しかできない覚者達だが、結鹿があることに気づく。
「そうだ、芦原さんが侵入した位置……あそこは、壁の向こう側が空間になっているはずですよね!?」
 黒髪を白銀に染めて、周囲に冷気を纏う結鹿は抜刀、刀の峰に指を添えて、刺突の構えを取る。
「どうか誰にも当たりませんように……!」
 人が一人通れる程度の円を描くように、銀行の壁に切っ先を叩きつけ、最後に刀の柄で突き飛ばすようにして突入口を開いた結鹿は得物を翻し、腰を落とす。その視線の先には鉛弾の雨に打たれて全身を真っ赤に染めながら、無数の火炎弾を放ち一人ずつ、着実に憤怒者を床に転がしていくちとせの姿。読みが甘かった、そう痛感しながらも、悲観にくれる暇はない。
「菊坂、参ります」
 宣言と同時にその身は乱戦の最中にあり。冷気がふわりと憤怒者の頬を撫ぜ、無数の打突が続きその膝を折る。
「さんきゅ、さすがに一人はキツイね……」
「間に合ってよかったです……」
 事前に強化を施し、突入に備えていた事が功を奏したと言えるだろう。臨戦態勢すらも整っていなければ、間に合わなかったかもしれない。残り半数にも満たない憤怒者達を、背中合わせに睨みつける二人だったが、聖歌にも似た荘厳でありながらどこか穏やかな子守歌が響いてくる。
「ちょ……そんなショートカット……ありかよ……」
 壁の穴の向こう、そこから祈るように両手を重ねて歌声を紡ぐ聖奈を見た憤怒者はそんなことを言い残して、眠りに落ちていった。
「先生!」
 星が中に飛び込んだ時には既に戦闘は終わっていて、困ったように微笑むちとせが頬の血を拭う。
「いやー、牽制すれば受付まで飛び込めるかと思ったんだけどさ。さすがに二十人を一人で相手にするのは無理だったわ」
「笑ってる場合じゃないだろ! まだいけるのか?」
「んー……まぁ、大丈夫かな?」
 割とボロボロだが、それでも笑って見せるちとせに、聖奈がインシュロックを差し出して。
「先生どうぞ、動画でやっていたんですが配線を結束するバンドで太いものだと人を拘束するのにも使えるみたいです。後ろから来られても大変ですし……これで留めておきましょう」
「お、気が利くじゃないか」
 ちゃっちゃと手早く後ろ手に両手首を固定したばかりか、複数人のインシュロックをインシュロックで束ねるという、地味に面倒な拘束法で戦線に復帰できないようにしておくちとせ。一方聖奈は。
「星は敵を『ぶちのめす』事しか考えてなかったよね?」
「う、うるせぇ!」
「フフッ、図星なんだ?」
 よく分かっている友人の顔を見つめて、星の方は頬を染めてプイとソッポを向いてしまった。

●これどう見てもただのリズムゲー
 覚者達が奥に進むと、看板の無い部屋が見えてきた。ドアはなく、ただ入り口を開けるそこは横道に逸れる形になっており、近づくまで中は見えない、が。
「他の部屋は全部看板がついていたのに、ここだけないっておかしいですよね……」
「多分ここが給湯室だろうね」
 結鹿が身構えるとちとせがそっと彼女を押しとどめて、インシュロックを構えた。
「それで戦うんですか?」
「いや、戦うのはそっちの二人」
 ちとせに示された星と聖奈は前後にコンビを組んで、慎重に入口へ近づいていく。奇襲を警戒して覗き込んだ二人を待ち受けていたのは……。
「来たな覚者共! ここにいるという事は受付の奴らを倒したのだろう。だが、ここから先へは進ません! 我ら給湯五人衆が一人、この……」
「オラァ!」
「ごふぁ!?」
 長々と口上を述べている隙に星が接近。手加減の為にナイフは収めたまま拳を握り、喋ってる最中の隙だらけな鳩尾に肘を叩きこんで、体を折った瞬間に顎に裏拳で追撃。意識を刈り取ってしまった。そのままぶっ倒れる憤怒者をちとせがずーるずーる、インシュlock☆
「ふ、やられたか。だがそいつは我ら五人衆の面汚し。貴様らの戦術を見極めるための……」
「えーい!」
「あばぁ!?」
 何か色々喋って星を警戒していた憤怒者だったが、後ろに隠れてた聖奈の放つ圧縮空気の砲弾を顔面に食らい、口がブワッとなって綺麗な歯茎と真っ白な歯を見せつけながら、気絶してちとせに回収されていく。
「な、お前ら二人がかりなんて卑きょ……」
「テメェらは五人いるだろうが!!」
「むぎゅっ!?」
 武器を構える間もなく膝蹴りの打ち上げと肘鉄の打ち落としで挟撃された憤怒者は、空気が抜けるぬいぐるみ染みた悲鳴を残してちとせの手により廊下のオブジェと化す。
「半分倒したくらいで調子に乗るなよ? 大体こういうものは後半になると強くな……」
「はいはい分かってますから!」
「ぐはぁ!?」
 いかにも屈強そうな憤怒者が出てきたが、聖奈の空気砲弾の前にヅラと意識を吹き飛ばされて重厚な音と共に倒れ。
「あ、これは無理」
 ちとせも回収を諦めてその場で拘束。
「ついに私の出番が来てしまったか。我ら給湯五人衆が最後の一人、我こそは……きゃっ!?」
「聖奈!」
「わかってる、合わせて!」
 ほっとかれた頑強風なスキンヘッド憤怒者に躓き、隙を晒した最後の憤怒者を聖奈の空気砲が捉えて吹き飛ばし、空中で受け身も取れない相手に星が追撃。一撃目で壁に叩き付け、二撃目で強烈な頭突きを叩きこむ。
「きゅう……」
 おでこを真っ赤にして目を回してしまった憤怒者をちとせが縛って転がし、ぱんぱんと手を叩く。
「さ、進もうか」
「こんなんでいいのでしょうか……」
 結鹿、気にしたら負けだ。

●まさかこんな結末になるとは
「ここまで来ましたね……」
 結鹿は目の前にたたずむ巨大な金庫を前に拳を握る。
「最後の関門、三つの鍵、か」
 知恵の輪に触れて弄ぶちとせ。さて、どうしたものかと手の中で転がしていると。
「あ、取れちった」
『速い!?』
 三人の声が重なり、呆気ない結末にちとせも苦笑。
「いや、よーく見てたらこうするしかないよなーって場所があって、その辺弄ってたら意外と簡単に……」
 まぁ、そうね。知恵の輪って外せる場所一カ所しかないものね。
「次は私の番ですね」
 両手を握り、ふんす、と気合を入れると電子ロックのキーパネルに触れる。
「わたしに解けない電子ロックはない……」
 ターン! エンターを打ちこむと、ビビーッ! あ、開いてませんね。
「な、なんちゃって」
『……』
 てへっ。舌を出して笑ってごまかす結鹿だが、三人の視線に耐えられずじわじわ赤くなっていく。
「だ、大丈夫です! 次は! 次は絶対に開きますから!!」
 ピーッ。本当に二回目で開いたからよかったものの、この手の専門的な機材を扱う時には気を付けた方がいい。結鹿は深く、深く心に刻むのだった。
「後はナンバーロックか……」
 星は適当に回してみるが、そう簡単に開くわけがない。
「聖奈、近くにヒントがないか探してみようぜ」
「いいけど……わざわざ敵に答えを教えるような事をするかな?」
「……確かに」
 星は心の中で、これはゲームのようなものだと思っていた。制限時間がある、といっておきながら時間を示さない。故に戦闘直前になって『制限時間以内に金庫内にいる俺に湯を入れたカップラーメンを持って来い』などと、最後の最後でタイムリミットがつくのではないか、と思ったからだ。そしてこれをゲームと仮定するのなら、攻略法が用意されているはずだ。だからこそ、どこかにヒントがあると思っていたのだが……。
「まさか四桁の暗証番号を全部試せっていうのか……?」
 カチカチ、カチカチ。
「いや待て、こういうのは一ケタだけの番号って事は少ないはずだ。だとしたら必ず二ケタ以上の……」
 カチカチ、カチ……カチ……ガチッ。
「あーもーめんどくせぇ!!」
 グシャァ! 覚者の握力を持って星が南京錠を握り潰してしまい、普通に千切れた。敵をぶちのめす、しか考えない脳筋って恐い。
「……開いたな!」
 星は何もなかったことにして金庫の扉を開くのだった。

●せめて最後まで言わせてあげてください
「ここまで来たってことは他の仲間は捕まったってわかるよね? 無駄な抵抗やめて投降しなさい」
 ちとせは無数の人質を背にした憤怒者五名に交渉を持ちかけるが、鼻で笑われてしまう。
「投降する程度の覚悟なら、こんなことはせん」
「しょうがないね。力の差を知ってもらわなきゃいけないね」
 ふぅ、ため息をこぼすちとせは己が身に宿す炎を猛らせて、防御をかなぐり捨てた大上段にワニの牙に似た小型の刃が無数に並ぶ斧を振りかざす。
「そんな大振りでいいのか? 隙だら……」
 カカカカカッ! 銃を向けた憤怒者だったが、吹き抜ける冷ややか風と甲高い金属音。いつの間にか背後に立つ結鹿は人質たちへ微笑んで。
「驚かせてすみません。救出に参りました」
 軽く刃を振り払えば憤怒者達の銃に刺突痕が刻まれ、使い物にならなくなってしまう。もはやただの金属塊と化した銃を投げ捨てて、格闘戦に持ち込もうとする憤怒者達だったのだが。
「落ち着いてください、今ならまだ間に合います」
 聖奈が立ちはだかり、改心を迫る。
「神は全てを見ておられます。あなた方にもこうせざるを得ない事情があったのでしょう。そう、あなた達もまたこの広い世界においては被害者なのです。さぁ、武器を降ろして拳を開き、対話を持つのです。敵を殺す為の剣ではなく、分かり合う為の舌剣をこそ振るい合う事こそが肝要であり……」
 何かありがたそうな話を始める聖奈だが、この手の話は……眠い。具体的には憤怒者の三人くらいがもうおねむになってるくらいには眠い。
「まだだ、まだ眠るわけには……」
「とっととおねんねしな!」
 必死に抗う憤怒者に足払いをかけ、空中で捉えた星はそのまま脳天から憤怒者を床に叩き付けてKO。違う意味で夢の世界へ……。
「く、もはや俺一人か……だが、まだ終わら……」
 彼の記憶は、斧の腹を向けて、鈍器として得物を振り降ろすちとせの姿で途切れている。

●答え合わせ
「どなたかに命令されたのですか? でなければ一般の方を巻きこんだのはなぜなんですか?」
 後ろ手に拘束された憤怒者達を正座させて、結鹿は腕組みして仁王立ち。聖奈が横合いから挙手。
「そう言えば制限時間のお話もありましたよね? もしかして動画配信とかしていて、視聴者が時間を決めるとか、そういうことでしょうか?」
「お嬢ちゃん、惜しいな」
 ボスと思しき憤怒者はニヤリ。
「俺たちの目的はお前達が弛まないようにしごいてやる事さ」
「……どういうことだ?」
 ギロリ、星が睨みを利かせると、憤怒者スッと表情を消す。
「俺たちはな、皆覚者に救われながら、助けられなかった連中なのさ」
「お前は何を言ってるんだ?」
 怪訝な顔をするちとせに、憤怒者は語り出す。
「事情はそれぞれあるが、皆覚者のお蔭で今を生きてる。だがな、俺たちは一緒にいた誰かを助けてはもらえなかった」
 時に友人、時に家族、時に恋人……一緒にいた者を失って救われた、生き残ってしまった。その想いは時に、救ってくれた恩人への憎悪へ変わってしまう。
「筋違いなのは分かってる。だがな、それでも考えずにはいられねぇ……あの時『どっちも助かったはずなんじゃないか』ってな」
 覚者とて、都合のいいヒーローではない。分かっていても割り切れない物はある。結果、感謝と疑念、憎悪が入り乱れた歪な感情を抱いた者。それがこの憤怒者達なのだ。
「しかしこっちは命の恩人を憎んでるわけじゃねぇ。しかしやり場のないこの想いをどうにかするために考えたのが、コレだ」
 そこで犯罪に走ったのか、と思いきや。
「俺たちと同じ思いをする奴が出なくていいように、お前達に訓練をつけてやろうと思ってな!!」
「なんでそうなるんですか!?」
 おーっと、ここで結鹿の方が憤怒者(めっちゃ怒ってる人の意味)になってしまったぞ!
「それならそうと最初から言っておけばこんな騒ぎになりませんでしたし、銀行の皆さまにも恐い思いをさせなくて済んだんじゃありませんか!? もっと他にやり方はあったはずでしょう!? 本ッ当に! 反省してくださいね!!」
「反省はするさ、後悔はしないがな!!」
「はいはい強がりは後で聞くよ」
 ちとせはぺちぺちと憤怒者を叩いて立たせ、自らの足で歩かせる。
「覚えてろよ、俺たちは必ず帰っ……」
「うっせぇ!」
「あうちっ!」
 星、最後くらい言わせてあげてよ……。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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