新春五麟市
新春五麟市



 明けましておめでとうございます、なのだ!
 今年の目標は、僕は……少しでも女性として成長する事なのだ!
 みんなは今日、どういうふうに過ごしているのだろうな。気になるぞ。


■シナリオ詳細
種別:イベント
難易度:楽
担当ST:ももんが
■成功条件
1.イベシナを楽しむ
2.なし
3.なし
 工藤です。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

●状況
・新年を迎えた五麟市である。

 晴天、時刻は昼~夜。
 初詣に行くもよし、家で静かに過ごすもよし、お節料理を食べるもよし
 わりと自由なイベントシナリオです。

●NPC
・樹神枢、大神シロ、逢魔ヶ時氷雨の3名、プレイングで指定があれば絡みます

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。

 それではご縁がありましたら、よろしくお願いします
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
(2モルげっと♪)
相談日数
8日
参加費
50LP
参加人数
26/∞
公開日
2018年02月06日

■メイン参加者 26人■

『鬼灯の鎌鼬』
椿屋 ツバメ(CL2001351)
『涼風豊四季』
鈴白 秋人(CL2000565)
『ちみっこ』
皐月 奈南(CL2001483)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『シューター』
叶・笹(CL2001643)
『拳で語れ!』
叶・桜(CL2001644)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『エリニュスの翼』
如月・彩吹(CL2001525)
『想い重ねて』
蘇我島 恭司(CL2001015)
『緋焔姫』
焔陰 凛(CL2000119)
『烏山椒』
榊原 時雨(CL2000418)


 家に迎えに行くことも、こうして今か今かと待つことも、あと僅か。
 それでも扉が開くのを待ちわびていた鈴白 秋人は、永倉 祝の姿を見るなり目を瞠り、思わず言葉を漏らした。
「……綺麗だ……」
「似合ってますか? 和装ってあんまりしないから自信がなくて。
 ……秋人さんは、その……いつも素敵です」
 はにかんだ祝は、言葉通りの晴れ着――振り袖姿だ。秋人は内心で、同じように晴れ着を着てきて良かった、と思う。
 こうして同じような服を着て、似たような歩幅で歩く。それだけでもふたり寄り添っているということを強く実感できるのだから。

「2人共、明けましておめでとう。今年も居候生活だけど、宜しくお願いするわね」
「おう! あけましておめでとうだな! 今年も宜しくお願いします」
「明けましておめでとう。
 ――はい、これ。桜と魚子さんにお年玉だよ」
 屋敷の一室、重箱の置かれた机の前で揃って正座をし、ひとしきり挨拶の飛び交った後、あらたまった様子で叶・笹がそう切り出した。
「これも去年、一緒に頑張ったご褒美。こういうのもたまにはいいよね……」
「笹からお年玉……だと……?! けど、ま、今月の食費代の足しにはなるだろ」
「ふふ! 桜も、とっておきのご馳走、ありがとうね」
 お年玉に、サプライズなの? と目を丸くした立石・魚子が、どうにも言葉と表情がちぐはぐになった叶・桜と笹を見比べると小さく笑みを浮かべ、料理のねぎらいを口にする。何せ、笹ときたら桜の言に少しうるさそうな――かつ、賑やかさにまんざらでもなさそうな顔をしているのだ。
「まぁ、まずは俺の渾身の御節料理等等を食いやがれ! ってな。
 まだまだあるから、たらふく食えよな!」
 腕に自信のある桜はねぎらいを受けて笑みを浮かべ、重箱を広げ始める。
「お魚を焼いてくれたのね! あら、金目の煮付けまで!」
「これ、食べ切れるの……?」
 そのご馳走に、魚子は目を輝かせ、笹は軽い目眩を覚える。とはいえ、御節は一日で食べきるためのものではないし、桜もそれを承知で作っているから問題はなかったのだけれど。
「食べたら、腹ごなしにお参りでも行こうか?」
「初詣行くのか? なら俺は、ぜってぇ大大吉をこの手で引いてやる!」
 食事をしながら提案した笹に、桜が力強く賛成する。珍しい、と笹は思ったが、今年の桜には願掛けしたいことがあったのだ。
「てか、笹よりはいい物を絶対に引くのが本音!」
 それを素直に言うことは、しないのだけれど。
「おみくじ? 私はささやかな物でいいわ。
 紙一枚に運命を決められたくは無いもの。でも――引く楽しみは嫌いじゃないわ」
 魚子はそう言って見せながらも下唇に人差し指をあてて「そうねぇ……とりあえず金運アップでもお願いしとこうかしら」と言葉を漏らした。

 和室リビングで何かが動いた気配を感じ、蘇我島 恭司は作業を切り上げる。
「おはよう燐ちゃん。よく眠れた?」
「……おはようございます。すみません。寝すぎてしまいました」
 布団の上で目をこすった柳 燐花はそう言うけれど、時計はまだ昼を指していない。御来光を撮影するためにかなりの夜更かしをしたのだから、寝すぎたと言っても仮眠程度のものだ。無理をすることはないと恭司は思ったが――燐花の様子を見る限り、本当に平気そうだ。これが若さというものか。
「午後からどうしましょう? 初詣に出かけますか?」
「そうだねぇ……のんびり過ごすのも良いけれど、やっぱり初詣かな。
 今年も一年、無事に過ごせるように祈願しておきたいからね」
 少し早めの昼食にと御節を並べながら話し合う燐花は、ふと目に入った鏡餅に、京都あたりの鏡開きは4日だと聞いたことを思い出した。その頃には小豆を買ってきて、善哉を作るのも良いかもしれない。
「はい。それでは神様にご挨拶とお願い事をしに行きましょう。
 御神籤と、お守りも欲しいですね。その後はこたつでのんびり……ですね」
「多分まだ混んでるだろうから、暖かい恰好をして行かないとだねぇ。
 ……ついでにおみくじなんかもしてこようか。年の初めの運試し」
 燐花は頷くと、「神様には……そうですね」と呟いた。
「皆が平穏で笑って過ごせるように、お願いしましょうか」
 それを聞いた恭司は、御来光の眩い様を思い出し目を細めて笑った。

 テレビを見ながらお屠蘇を傾けるのも悪くはなかったが――気が向いたから。
 それだけを理由に瑞浪 花弥は矢羽根に梅の小紋に羽織を纏い、ぶらりと外を歩く。最近はこうして着物で出歩くのがマイブームなのだ。
「寒いね、サクラ。……うん? 寒いから帰りたい?」
 桜饅頭と名付けた守護使役にさらに愛称で呼びかける、花弥。
「じゃあ……もう少し、酔いが冷めたら帰ろうか。それくらいならいいだろう?」
 ふるる、と小さく揺れた守護使役を、花弥は、仕方ないなという顔で撫でた。
 嗚呼――新しい年、か。今年はどんな年になるんだろうね。


「正月といえばやっぱりコレだよなー!」
 餅つき大会、会場にて。
 そう言って杵を掴んだ鹿ノ島・遥が満面の笑みを浮かべたところに、工藤・奏空が勢い良く挙手した。
「実際に餅ついたりはした事ないからしてみたい!」
「ソラは餅つき未経験か? OK、OK! じゃあお前が突く人、オレ捏ねる人!
 さあ、杵を持て! 腰をすえて構えろ! そして一心不乱につきまくれ!」
 尋ねた遥に頷く奏空。小さい時に餅つき大会に参加して以来となれば、たしかにあの独特な道具を触ったことはないだろうと、遥は杵を奏空に渡した。
「お、遥が返してくれるのか?」
「オレの手は気にするな! バンバカ餅をこねてひっくり返してやっからよ!」
 謎の気合が高まっていく中、ふかしたもち米を運んできた餅つき大会主催者、皐月 奈南がふたりに声援を送る。
「遥ちゃん! 奏空ちゃん! ファイトー! なのだ!」
「奏空さんも、遥さんも頑張って下さいね!」
 餅取り粉を大きなパッドに広げたりと、搗いた後の準備に取り掛かりながら、賀茂 たまきも応援の声を上げる。
「よーし、俺の速さについてこれるかなー! うりゃぁぁ!!」
「よっ、ほっ、やっ、とああっ!」
 僅かな対峙の後、全力で杵を突く奏空と水に手を付け餅を返す遥。男の意地と意地がぶつかり合い、米はあっという間に形を失っていく!
 そして完成したものがこちらです。
「あちち! つきたてのお餅ってナナンが思ってたよりも熱いのだー!」
 搗きたての餅を一口サイズに分けようとした奈南が思わぬ熱に苦戦する。粉だ、ナナン! 餅取り粉を味方につけるのだ! そして勝利!
「ナナンはきな粉餅と磯辺焼き餅を作るのだ!」
「あ、オレの分も頼む!
 焼いたのを砂糖醤油塗ったやつと、黄な粉まぶしたやつが好きなんだ!」
「俺はお汁粉で!」
 杵と臼にべたっと残った柔らか餅に手を出しつつも、リクエストする功労者ふたり。搗きたて独特の、ほのかな甘みに似た味が口の中に広がる。
「あー、やっぱり出来たてのお餅って美味しいな~」
 つまみ食いという至高のスパイスが混じった餅に舌鼓を打つ奏空リクエストのお汁粉を準備しながら、たまきは思わず頬を緩ませ、慌てて頬をぺちぺち叩く。
(私も大人になって、もし、奏空さんとご一緒になる事が出来たなら、奏空さんと二人でお餅つきが出来るのかなぁ……)
 素早く気を引き締めたたまきだったが、それでも、誰にも気が付かれないなんてことはなく。真横でその様を目にした奈南はにっこり笑う。
「えへへー! ナナンは皆が笑顔だと、とっても嬉しいよぉ!」
 ――だからこそ、一番の笑顔は奈南自身が浮かべているのだ。


 大きな神社で演奏される雅楽は演奏者に結構厳しい既定や制限があるのだが、まあ大多数の神社は小さなもので、楽師の手伝いを呼ぶこともなくはない。たとえば今日も助っ人に呼ばれている向日葵 御菓子のように。
 神事のあいまに社務所で休憩を取っている中、尋ねてきた見知った顔に御菓子は微笑んで声をかける。
「二人は晴れ着姿でデートだなんてお正月から素敵ね」
「お姉ちゃんの演奏を、枢ちゃんと一緒に見ようと思うんです」
 菊坂 結鹿に「ね」と話し掛けられて、「そうなのだ」と同意に頷く枢は、寒さのせいか頬を紅潮させている。休憩用にと用意されていた温かいお茶を分けてやりながら、御菓子は結鹿の着物が見覚えのあるものだと気がついた。母が着付けてやったのだろう。
「二人が見てるんじゃみっともない演奏はできないわね。
 もっともいなくたって手を抜くわけはないんだけどね」
 御菓子は二人の今年の無事と健康、それから二人のお願い事がかなうようにと、願いを込めて演奏しようと考えながら、「楽しんでいきなさいね」とも付け加えた。

 お賽銭を投げて、二礼、二拍手。
 榊原 時雨は初詣のお願いを、心中で呟く。
(今年も平和に過ごせますように――)
 横で同じく手を合わせた楠瀬 ことこは、
「時雨ぴょんに素敵なカレシができますよーに☆」
「って、ことこさん声出てる!?」
 声に出してはっきりとお願いしたせいで、時雨にツッコミを入れられた。
「なんで怒ってんの。彼氏欲しいっしょ?」
「自分何言うとるんや!?
 ……とにかく、初詣のお願いやし、自分のこと祈っとこ?」
「自分のお願い事? ないんだもん☆
 だからことこちゃんの分も、時雨ぴょんのお願いに使っちゃえー! って」
 そう言って、ことこはニコニコと笑う。
「いやいや、それでうちの事っておかしいやろ!
 ……とはいえ、一応うちの為に祈ってくれとるんよな……」
 時雨としても、そこまであっけらかんと言われてしまっては怒るのも違うし今更照れるのもなんだか違う。とはいえ引きずるようなことでもないので、よし、と切り替えた。
「なら、ことこさんの事はうちがお願いしとくわ」
「ことこちゃんの事? 何お願いしてくれるの?」
 時雨ぴょん、なんだかんだ言っても優しいよねぇ――と、ほろりとこぼれた涙を拭うような仕草をしつつ尋ねることこに、時雨はものすっごい良い笑顔を向ける。
「それは秘密や」
「じゃあ、ことことずっとらぶらぶ! ってお願いしといて?」
「そのお願いはおかしいやろ!?」
 実際、言い方はともかく同じようなことを願っていた時雨の切り返しは、ちょっぴり切れ味が鈍っていたりもしたのだけれど。
 ことこは残りの一礼をすると、くるりとあいどるらしく可愛らしいターンを決めてから、隣にいる人を振り返る。
(――ねぇかみさま。
 こうやってずっと馬鹿言い合えるように、見守っといて?)

「そういえば家族と過ごさない年末年始って初めてだなー」
 ふと気付いたことを、真屋・千雪は頭上の守護使役、ましろへと語りかける。「まー、新年早々、僕は勝ち組なんだけどねー」などと付け足した千雪の服装もまた、和装。それも裏葉色の綿紬に角帯、藍色の羽織と、少々こだわりの伺える組み合わせ。その佇まい含め、千雪が人待ち姿なことは明らかだった。
「あけましておめでとう」
 そこにかけられた声に振り返った千雪は少しの間、見惚れて声が出なかった。
「あ……彩吹さん、あけましておめでとー。着物姿、すごく似合ってるね」
「馬子にも何とか、というのだけどね。千雪こそよく似合っている」
 如月・彩吹の服装はクリーム色に梅柄の小紋、梅柄帯にファー付きショールは臙脂色。
さらには長い髪をサイドにまとめて緋色の組紐で軽く結い――やはりこだわりが見えた。
「箪笥で眠っていたから――たまには着ないと、虫がついてしまう」
 着物が良いのだ、とでも言いたげな彩吹に千雪はゆっくりと首を振る。
「普段から綺麗だと思ってるけど、今日は特別に綺麗だ……っと、人すごいねー」
 そんな話をしながらも神社に向かい――たどり着いた頃には、一番参拝客の多い時間だったのだろう。多くの人で賑わっていた。千雪はさり気なく彩吹の手を取ると、へらりと笑う。
「はぐれたらいけないからねー」
 彩吹はそれには答えず小首をかしげ、そっと千雪の頬に手を伸ばす。
「――ふふ。風花の飾りなんて、風雅だね千雪」
 そう言って、千雪の髪に絡んだ雪のかけらをつまみ上げ、彩吹は笑う。
 他意のないその笑顔に、千雪は(無自覚小悪魔だ――)と内心、呟いた。

 五麟市の勝手が分からぬ万・星は、同じ寮の森宮・聖奈に初詣に行きたいと声をかけていた。新しい一年の始まりなのだ、何事も始めが肝心だと思えばこれもひとつの良い機会。
 確かにそれはその通りなのだが、その結果、なぜ私が着物を着ることになるのだろうかと聖奈は首を傾げる。星が着ないのかと聞いた時、「俺は着ない。晴れ着、一着しかないからな」と当たり前のように言ってみせたのだ。旧友が着付けを身に着けているのは知っていたが、だからといって友人に着せようというのは――星がどことなく楽しそうだからいいか、と、聖奈は苦笑混じりに思考を切り替える。
 初詣に向かった神社は人の姿も多く、その分、拝殿への流れができている。二礼二拍手一礼に、ふたりはかつての友との再会を、今日も友として隣にいることの感謝を込める。この初詣の間だけでも、見知った顔数名に新年の挨拶をすることもできた。人とのつながりというのは――案外、途切れることのないもの、なのかもしれない。
「……みんなが無事平穏でありますように」
「世界平和」
 小さな声で囁いた願い事を口にしながら、はっきりとした口調の――そして、結局は同じ意味の――星の願い事を耳にして、聖奈は穏やかに微笑んだ。


 椿屋 ツバメと焔陰 凛は、シロを連れて賽銭箱の前に立つ。
 ――というか、賽銭箱の前まで流れに押されて来てしまったシロを助け出した、のほうが正確かもしれない。
「シロ、賽銭持ってるか?」
 そう言いながら百円硬貨を渡すと、凛は自分の手にしていた硬貨を賽銭箱に投げ入れる。シロも、凛にひとつ頷くと同じように投げ入れて、手を何度叩いたものかと少し首を傾げる。最終的に4回叩いていたが、出雲大社は四拍だ。神社の神様も怒りはするまいと、凛は小さく笑いながら自分の願い事をする。
(――今年こそは流儀継承を認められますように)
 何時迄も(予定)じゃカッコがつかない。括弧だけに。いやそうじゃなくて真面目な話、凛自身、いつまでもそこで足踏みしていることはできないと感じているのだ。
「シロ、明けましておめでとう。今年も宜しく頼む」
 何かをお願いしたらしくどこか満足そうな顔を浮かべたシロの頭をなでてやりながら、ツバメは新年の挨拶をする。シロはぺこりと同じように、頭を下げた。

 天堂・フィオナは着物姿のシャーロット・クィン・ブラッドバーンの初詣体験の指導者という任務を見事完遂した。しかし人の多さに、並ぶだけでも随分と疲れてしまった――そういう流れで少女が二人いれば、周囲で見かけた可愛らしい喫茶店に足が向かうのは実に当然かつ自然な流れではないだろうか!(力説)
「シャーロット。お付き合い……って、した事あるか?」
「……コイバナというやつですね?」
 だからこそ、この流れだってごく当たり前のことなのだ、たぶん。
「うん……そうだな、コイバナ、だ!
 お付き合いって、何をしたらいいのか分からなくて……」
 顔を赤くして、戸惑いがちに切り出すフィオナに、シャーロットは少しだけ困ったような顔をしながら、運ばれてきた紅茶を傾ける。
 英国の紅茶の淹れ方を忠実に再現すると、この多湿の国では味が渋くなる。その点、この店は厳密なマナーを守るより、味を優先しているらしい。――そうだ。何もかもそのまま伝える必要はないのだ。
「ある国に、政略の駒でしかなかった姫君がいました。
 王様が、形だけはと護衛の騎士をつけたのですが……素行の悪い騎士は、姫君をこっそり街へ連れ出して、その度大暴れ。
 怒った王様は、ついに騎士を追放してしまいました。
 しかし、騎士に冒険の心を与えられた姫君は、もう大人しくはできません。
 剣をはじめ様々なことを自力で学び……ついにひとり、旅立っていきました。
 めでたしめでたし……未完ですが」
「……え? 未完? お姫様、どうなったんだろう」
 シャーロットの話を聞き終えて、何故かすっきりしない結末にフィオナは目を瞬かせ――そうしてふと、気がついた。
「あれ? そのお姫様って、もしかして……」
 問には何も答えず、シャーロットはただ微笑みを浮かべる。

 鈴を鳴らし、二礼、二拍手、一礼。
 氷門・有為はひとり、神妙に参拝する。
 大学受験は正月過ぎがラストスパート、今はまさに神頼みだってしたい時期だ。
 だから今日は学業成就のお参りと――ともに来る予定だったのだが突然の体調不良で寝込んでしまった知人の、体調快癒とを。
 ――ただ。
(やっと、未来の事を願う事をできるようになりました)
 そう、感じるのだ。
 だから、本当は、彼女とともにここに来たかった。
 最初は代償行為だったかもしれない、と。生きたかった、救われたかった、そして、愛されたかった――そういった全てを、投影していた、そんなふうに思うのだ。それがいつしか薄まっていったのは、いつ崩れてもおかしくなかった有為が今、こうして未来を見据えることができるようになるほどにしっかりとその両の足で立てるようになったのは、彼女の存在が支えとなっていたからなのだ、と。
「一度くらいは、ちゃんとお礼を言っておきたいですね」
 目元だけを細めて、有為はそう呟く。
 失ったものは戻らず、望んだものは手に入らないだろう。それでも。
(それでも――残るものも手に入ったものもあった。私は、それでいい)

 参拝を終えて帰路についた秋人と祝は、近くにあったお茶屋の軒先、縁台に敷かれた緋毛氈に腰掛け、甘味を楽しんでいた。振り袖は、着物に慣れている人でも疲れたりすることのある服装だ。秋人としても、祝に無理をさせるつもりは毛頭ない。――それに、こういうゆったりした時間をともに過ごすことが多いから、癒されるんだよな……と、秋人は内心、幸せに思う。
「写真をとりませんか?
 折角のお着物ですし――恋人同士でとる写真は最後になるでしょうから」
 そう提案した祝に、秋人も頷きを返す。
「恋人として出掛けるのはこれが最後になるけど、これからは夫婦として宜しくね」


 沈み始めた日が橙に染める道場に、芦原 ちとせはひとり、道着を身に着け正座をしている。
 この日、この時間に限っては、ちとせは修練をしにきたわけではない。
 誰もいない清廉な空気に包まれた道場の中、ただこうしていることで、気持ちが改まるような感覚があるのだ。いつしかこれがちとせの中で、毎年の習慣になっていた。
(あと、広い道場を独り占めしてるのがなんだか楽しいってのもあるかな)
 そう考えて、ふふ、と口の端を緩めると立ち上がり、開放された体を伸ばした。
「さて、今年はどんな年になるかな?
 どんな出会いがあって、どんなことが起きるのやら――楽しみだね」
 そうしてちとせは道場を去っていく。
 あとには誰もいない道場が、日の沈んだ影に飲み込まれていくばかりだった。


 ――その影が、どこか不穏に見えたとしても。
 このめでたい日には誰の目にもうつらない、ただの日常の一場面でしかない。
 あけましておめでとうございます。
 本年もどうぞ、よろしくお願いいたします。

〈了〉

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

代筆を担当させていただきました、ももんがです。
季節物をお返しするのにこれほどお待たせしてしまったこと、お詫びの言葉もありません。
また、代筆の都合上、全ての方の要望にお答えすることもできませんでした。
本当に、申し訳ありません。
ですが少しでも、楽しんでいただけたのなら、これ以上ない喜びです。
――ご参加、本当にありがとうございました。
本年もアラタナルを、どうか、よろしくお願いいたします。

【運営追記】
代筆の都合上、NPCとのコミニュケーションにつきましては描写しきれていない可能性がございます。
これまでの経緯など、PCの言動などに違和感を感じる事がございましたら、お手数をおかけいたしますが
お問い合わせ頂けますようお願いいたします。




 
ここはミラーサイトです