《初夢語》前世のお話
《初夢語》前世のお話



 ムッフフフ~ン。
 明けましておめでとう。また会ったね。おや、初めての人もいるのかな? 初めての人も、お久しぶりの人もよろしく♪

 古妖・獏は恭しく頭を下げた。
 ここは夢空間。元日に一度だけ、獏に導かれし者だけが訪れることができる不思議な場所だ。
 獏は新年の挨拶を切り上げると、まだ夢見心地でいる貴方に用件を切りだした。
「年明け早々に申し訳ないけど、過去に飛んで『前世のキミたち』を助け欲しい」
 新年を祝うイベントの最中、たちの悪い古妖または妖が幼子を攫って幽玄の世界へ連れ去ってしまうという。その幼子というのが、『前世のキミたち』だ。
「そう、前世のキミとキミの守護使役だよ。前世のキミはごくごく普通の人間で、守護使役は見えていない。もちろん源素の力も持っていない。当然、古妖と戦うことはできない」
 だから過去にとんで前世の守護使役とともに『前世のキミたち』を助けてやって欲しいという。
「向かう先、年代は人それぞれ。日本以外もありうるね。だけどボクの力でいまと変わらず術を使うことができるから安心して。じゃ、頼んだよ」
 そう言うなり、獏の周りの空間がよじれ、光りだした。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:そうすけ
■成功条件
1.古妖を倒し、前世の自分と守護使役を助ける
2.なし
3.なし
■初夢依頼について
この依頼は参加者全員が見ている同じ夢の中での出来事となります。
その為世界観に沿わない設定、起こりえない情況での依頼となっている可能性が
ありますが全て夢ですので情況を楽しんでしまいしょう。
またこの依頼での出来事は全て夢のため、現実世界には一切染み出す事はありません。

※要約すると一夜限りの夢の出来事なので思いっきり楽しんじゃえ!です。


●敵・古妖
倒すべき敵をプレイングで設定してください。
仲間は今の守護使役と前世の守護使役のみです。
例)ドラキュラとか、狼男とか。ただの悪霊もOKです。

●場所と年代。
場所と年代をプレイングで指定してください。
日時は1月1日固定で、新年を祝うイベントが行われている設定は固定です。
例)フランスは凱旋門広場、革命後なナポレオン時代。

●前世のキミ
名前と性別、年齢をプレイングで指定してください。
守護使役の種類はいまの守護使役と同じです。ただし、守護使役には名前がありません。

●守護使役の擬人化
する場合は、擬人化時代の容姿と性別、貴方への呼び掛けかたをご記入ください。
過去にそうすけが出した初夢語依頼に入ったことがある方はその旨ご記入いただければ、詳細なしで大丈夫です。

●その他
前世の守護使役には、いまの守護使役にはない力を一つだけ持っています。
対象はいずれも味方一人です。回数に制限はありません。
以下の六つの中から一つだけ選んでプレイングに記入願います。

 ・守護の翼(簡易飛行付)
 ・守護の牙(物攻力UP)
 ・守護の花(特攻力UP)
 ・守護の膜(特防力UP)
 ・守護の鱗(物防力UP)
 ・守護の空(回避力UP)

●プレイイング記入例
・狼男
・フランスは凱旋門広場、フランス革命後のナポレオン時代
・シモン=ジタン、10歳の男の子
・擬人化なしで。
・守護の翼(簡易飛行付)
・両親と一緒に花火を見に来てはぐれたシモンが泣いていると毛深い男が近づいてきて……。
 広場には大勢の人が。シモンを庇いつつ、狼男を裏路地へ誘い込みます。

●その他
前世の自分たちを助けられなくても「現在」には全く影響しませんのでご安心を。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(4モルげっと♪)
相談日数
10日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2018年01月21日

■メイン参加者 6人■

『ゆるゆるふああ』
鼎 飛鳥(CL2000093)
『五麟マラソン優勝者』
奥州 一悟(CL2000076)
『エリニュスの翼』
如月・彩吹(CL2001525)
『緋焔姫』
焔陰 凛(CL2000119)


 『ゆるゆるふああ』鼎 飛鳥(CL2000093)は茜色にそまる景色の中へ足を踏み出した。
「飛鳥ちゃん、エピナーちゃんを探そう」
 一瞬、飛鳥は戸惑った。
 砂色の柔らかい髪にちょっぴり太めのこの少年は……守護使役のころんだ。古妖・バクの夢力によって人の姿になっていた。
 ここは18世紀のフランス・ジェヴォーダン地方、マルジュリド山地周辺。前世の飛鳥、エピナー・プチポワが暮らす村――。
 飛鳥は目をパチパチさせた。
「そ、そうだったのよ。ころんさん、張りきって行くのよ!」
 バクからは襲撃場所まで教えてもらっていない。とりあえず実家を訪ね、どのあたりで牛を放牧しているのかを聞きださなければならなかった。
 幸いにして、飛鳥たちはプチポワ家のすぐそばにいた。誰に訪ねなくともそこがプチポワ家であることが分かったのは、やはりバクの夢力によるものだろう。
「……ところであなた、どこからきたの?」
「ありがとうございますなのよ。では御機嫌よう」
 放牧場所をエピナーの母親から聞いた飛鳥は、そそくさと家を離れた。丘を下ったところで、納屋から干し草用ホークを拝借して来たころんと合流する。
「飛鳥ちゃん、恰好だけだからね。戦わないよ」
 ころんがぼやく。
 そこへ狼のうなり、いや悲鳴が聞こえて来た。
 森の端を回り込んだところで巨大な狼の姿が目に入った。狼の目の前に赤頭巾をかぶった金髪の少女がいた。エピナーだ。が、ちょっと様子がおかしい。
「くくく、ここであったが百年目なのよ。おばあさんの仇討め、なのよ」
 エピナーはスチャリと腕に下げた網籠から大きなナイフを取りだした。巨大狼が後すさる。
「ちょっと待ったー、なのよ! グリム童話はもっと後の時代なのよ!」
「こまけーとこはいいんだよ、なのよ!! ……って、誰?」
 助かった、とばかりにエピナーの守護使役ポアロが飛んできた。飛鳥たちの回りを跳ねながら、エピナーの暴走を止めてくれと懇願する。
 なんだかヤバそうな娘が二人に増えた。が、となりの男の子は美味しそうだ。
 そう思った大狼がころんめがけて飛びかかる。
 ポアロが守護の空をころんにかけた。
 鋭い牙を回避してころんだころんを飛び越し、飛鳥がウサギさんパンチ(猛の一撃)を、赤黒い毛に覆われた横っ腹へ叩き込む。
「うぉぉらっなのよ!!」
 大狼の尻尾をエピナーが切り落とす。
 飛鳥はトドメの水龍牙を放った。
「もう大丈夫、獣はあすかたちが退治したのよ。これは夢だけど全部終わったのよ」
「何を言っているのかわからないけど、あなたはウサギの耳、エピナーは狼の尻尾。いいお友達になれそうなのよ」
 切り落とした狼の尻尾を手に満足げなエピナーをみて、ころんとポアロが同時にため息をつく。
「さすが飛鳥ちゃんの前世……勇ましいというか、なんというか」
 ここで夢から覚めた。


 海坊主の触手に絡みつかれた開陽丸はすぐ目の前だ。
 古妖・バクの夢力によって人の姿になった大和が、『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)に細かく角度を指示する。
「大和! オレ、大砲打ったことねー!」
 大丈夫。多少の事はバクが夢力でなんとかしてくれる。
「いいから、一護に当てるなよ!」
「くそ、無茶ブリしゃがって!」
 無茶ブリと言えばもともとが無茶ブリだった。
 古妖・バクが突然夢の中に現れて、古妖に襲われる前世の自分を助けにいけと言った。返事をする前に視界が暗転、大和ともども目を覚ましたのが濡れた回天丸の甲板だ。
「げ、なんだあれ?」
 起き上がるなり大タコと触手に絡み捕らわれた少年の姿が目に入った。
 直観で捕まっている少年が自分の前世だと知った一悟は、助けに向かうべく立ちあがる。が、真冬の時化た海。しかも夜である。あっと思ったときにはバランスを崩して尻もちをついていた。
 即時の乗り込みをあきらめた一悟は大砲に目をつけた。とりあえず大和に手ごろな武器を拾わせると、自分は砲の後ろへまわったのだ。
 一悟は大砲の側面についた象限儀でなんとか角度を合わせた。次いで砲の中ほどについた照準器を覗き見る。
「いまだ、撃て!」
 耳をつん裂くばかりの爆発音をたてて、右二番砲が火を噴いた。
 朱い火が夜の闇に色を落とす。
 砲弾は大タコの腹を打ちぬいた。
 腹に開いた穴はすぐに復元しはじめた。が苦痛はしっかり与えたらしく、大タコは開陽丸に絡ませた触手の力を緩めた。
 波に寄せられて開陽丸と回天丸がぶつかる。
「行くぜ!」
 再び離れてしまう前に、一悟たちは開陽丸の甲板に飛び移った。
 いまだ大タコにつかまったままの前世の自分を助けるべく走るが、海水で濡れた甲板は滑りやすく、思うように進めない。
 一護の守護使役が飛んできて、守護の翼をかけてくれた。飛べばしけの影響はそれほど受けない。強い横風を計算しながら大タコに切りかかるだけだ。
「大和、助太刀頼む!」
 圧撃・改で襲い掛かる触手を打ち返しながら、大和とともに剣を振るって一護に絡みつく触手を切る。
 甲板に落ちた一護は、立ちあがるなり刀を構えた。
「勇気は認めるが古妖相手じゃ分が悪い。ここはオレと大和に任せてさっさと逃げろ」
 全員の退避まで時間を稼ぐと、トドメに炎柱を放って大タコを焼いた。
 浜に上がると、一護の姿を探して近づいた。
「土方さん?」
「ちげーよ。ま、オレも男前だけど……と、ご先祖様。五稜郭には戻らずこのまま国に帰れ」
 一悟たちが大タコを撃退した技を見て思うところがあったのだろう。
 一護は素直に頷いた。
「この国の本当の危機はまだまだ先の話だ。その時に備え――」
 そこで一悟の意識は夢の波にさらわれた。


(「この夢は前にも見た事がある……これは……俺の前世の夢だ」)
 『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は竹林の中にいた。ここが戸隠流忍者の隠れ里から少し離れた場所ということも、すんなり解った。
 奏空は守護使役のライライさんともに、古妖・バクの依頼で平安時代にタイムスリップしていた。
「あ、いたた。いたいよ、ライライさん。うん、わかってる。前世の俺が危ない目に合うって言うんだから助けにいかないとね」
 ライライさんが奏空の髪の毛をついばんで引っ張ったのは、どうして今年は人の姿になってないんだという抗議のためだったのだが、そのことに奏空は気づかない。
「この頃の俺はたしか……」
 記憶の引き出しを開けながら、ゆっくりと歩きだした。
 いつしか竹林を離れ、うっそうとした森の中へ。ここは前世の自分がいつも一人で修行していた場所だ。
 おぼろげだった記憶の風景が、鮮明に塗り替えられていく。懐かしさに胸が切なくなりかけた。
(「いた、俺だ」)
 金色の髪の少年が、立てかけた朽ち木にクナイを飛ばしていた。一つ飛ばしては涙をぬぐい、一つ飛ばしては涙をぬぐいしている。
 細い肩の上にはちょこんと、鳥の守護使役がとまっていた。一投ごとにうん、うん、と頷いて、相棒の少年には認知されていないながらも励ましていた。
 まだ幼顔にある目の色は赤。流す涙のためではなく、生まれついての赤色だ。
(「ははっ、また泣きながら修行してら」)
 周りの子とは明らかに違う自分の前世、奏空(そうくう)の風貌。それ故、物心つく以前から苛められていた。苛められる理由はいまも昔も変わらない……。
(「今に思えば泣き虫だった俺が、ある時を境に心境の変化が生じたのはこの頃だったりするんだよな」)
 木の陰からそっと修行を見守っていると、奏空(そうくう)の金の髪の上に影が落ちた。
 みるみるうちに広がって、空を仰いぐ少年の体を飲み込む。
「土蜘蛛、出て来たな!」
 奏空はマフラーで鼻と口元を隠すと、コートのフードを深く被り飛び出した。
 足を高く蹴り上げ、コマンドブーツの爪先を黒と黄色の縞をした腹に叩き入れる。間一髪。少年が押しつぶされる前に土蜘蛛を蹴り飛ばした。
「も、物の怪! そ、それに……」
 誰、と泣き顔で問う前世の自分に、フードの下の目を優しく細める。
「いいか、よく見ておけ」
 奏空は跳ねまわる土蜘蛛に対抗すべく、前世の守護使役に守護の空を指示した。
「これから先お前は大切な人に出会う。その人を守る為に強くなるんだ」
 そう、珠姫と――。
 奏空は風になった。目にもとまらぬ速さで吐きだされた糸の網を避け、四方から神速の蹴りを放つ。
 かまいたちが起こり、巨大な妖の体を切り裂いた。
(「いずれ訪れる死が二人を分かつとも……想いは時を越え再び廻るよ」)
 必ず。


 燃え盛る炎が屋敷を包み込み、闇の奥で男が高笑う。
 新年の神事の最中、賀茂家を厄災が襲った。
 家臣たちが袖で口と鼻を防ぎ、煙の中を賀茂家の一人娘、珠姫を探して走り回っている。
「珠姫さま、珠姫さまはいずこに!」
「どこにもお姿が……」
 平安時代のタイムスリップして来た『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994)は状況を把握すると、前世の自分を探して辺りを見回した。
(「それにしても……昔からよく見ていた火事の夢は、この事だったのだのですね」)
 古妖・バクは前世の幼い自分が突如、豹変した安倍晴明につれさられ殺害されると言った。もちろん、それを許すつもりは無い。そのために自分はここへ来たのだ。
「あれは!」
 木々の間を闇よりも黒い烏帽子が飛んで行くのが見えた。白地に紫の刺繍が施された狩衣の先、白く浮き出た手に幼く、やはり白い手が握られている。
 珠姫はこの時まだ五歳。神事で舞を奉納する事はあっても、陰陽術を使うことができない。このまま連れ去られてしまえば、抗うことすらできず殺されてしまうだろう。
 振り返った前世の守護使役と目があった。
 助けて――。
 たまきは自分に韋駄天足をかけた。
 あっというまに晴明に追いつき、狩衣より出た手首へ手刀を叩き込む。
「うっ! ……貴様は!?」
 こちらを睨む目が赤く燃え上がる。嫉妬に狂い狂気落ちた目は恐ろしいほど吊り上がっていた。
「正気を取り戻しなさい。あなたは悪霊に憑りつかれているのです」
「悪霊? 小娘が……この晴明が悪霊ごときに憑りつかれというか!」
 たまきは相手を睨み返しながら、怯える珠姫を胸に抱いて落ち着かせた。紫に輝くオーラを発して幼い姫に纏わせ、守る。その後、じりじりと間をとりつつ自身の力を高めた。
 守護使役がたまきに守護の花をかけ、力の底上げを図る。
 清明が黒い御符をとりだした。青白い炎が指先から立ち昇り、御符を焼く。焼け落ちる御符のなかからカラスが飛び出した。
「無駄、でしたか。……参ります!」
 背負ったカゴから杭を一本抜きとると、地面につき刺した。気合とともに杭が割れて、旗の様な大護符が空に放たれる。どん、と空気が弾けた。衝撃波が飛んできたカラスたちを叩き落としながら清明に迫る。
 清明は扇子を開いて振り下し、衝撃波を断ち切った。
「さすがですね。では、これはどうでしょうか? 隆神槍!!」
 清明の足元から若竹のような槍が飛び出て、憑いていた悪霊ごと貫いた。
「もう大丈夫よ。ひとりで御屋敷に戻れる?」
 横に振られる首。
 しかたなく珠姫の手を引いて獣道を引き返すが……。
 まだ燃える屋敷の手前でたまきの体が霞みだした。
 ありがとう。
 振り返った珠姫が小さく手を振った。


 『ニュクスの羽風』如月・彩吹(CL2001525) は霧に包まれたロンドンにいた。遠くにビックベンが朧げに見える。
(「私、暦因子じゃないんだけど……まあ、そういうこともあるか」)
 初夢の最中に古妖・バクが現れ、いきなり前世の自分がピンチだとまくし立てた。ああ、夢を見ているのだなと思いつつ、首を縦にふったとたんに飛ばされたのだ。
 困惑から三秒で立ち直ると、彩吹は守護使役のカグヤとともに、テムズ川の沿道を進む新年を祝うパレードを魅入る人々の中を歩いた。
 バクの話では前世の自分が両親とはぐれて泣いているそうなのだが、それらしき迷子が見つからない。
 背中の翼の羽は隠さなかった。彩吹はパレードの一員だと思われているようで、誰も翼を指さしたりはしなかったから。
 それにしても、人々が着ている服も建物も、やたら古めかしい。
 パレードが広場に入ったところで、見物に来ていた人にさりげなく声を掛け、いまがいつなのか尋ねた。
「19世紀後半?」
 彩吹はつい声を上げた。まさか、大好きな作家、コナン=ドイルが生きている時代にやって来る日がこようとは。
「サインとか欲しい!」
 ふと、目の端に「赤い髪に青い目」をしたカグラの姿が写った。だが、カグラは自分の隣にいる。
 紫の瞳を凝らしてみると、「赤い髪に青い目」の少女はもう一人いた。
「いた、あの子がリデル。前世の私。それに……もう一人はもしかして前世のカグヤ?」
「たぶん。さあ、早く! ふたりを安全な場所に連れてかなきゃ」
 そうね、といって彩吹は二人の元へ急いだ。
 リデルの後ろから声をかける。
「……とりさん?」
「そうよ。本物の鳥ほど上手には飛べないけどね」
 翼の羽に目を丸くするリデル。
 可愛くてくすりと笑う。
「ここにいて。いいと言うまで出てきちゃ駄目だよ」
「おねえちゃんは?」
 私は平気。前世のカグヤに守護の空をかけてもらい、リデルをカグヤに託して通りへ。
 ――と、建物の角に巨大な斧が食い込んだ。むふーっと生暖かく白い息が彩吹の顔にかかる。
 狙っていた得物を奪われてご立腹のミノタウロスだ。
 斧を引き抜くと、ビックベンを背景に巨大な斧を振りかぶる。
「残念。ロンドン塔のカラスと違って、私は飛べる」
 彩吹は天駆で能力を上げると同時に空へ飛んだ。
 空振りして道を割った牛男の頭に、鋭刃想脚を見舞う。前からどうっと倒れ込んだ古妖の背中に流れるような動作でトドメの疾風双斬!
 霧のロンドンに現れた古代ギリシャの怪物は塵となって消えた。
「広場まで送るよ」
 だが、どうやら時間切れのようだ。
 彩吹はしゃがみ込むと、リデルと目を合わせた。
「お父さんとお母さん 大事にね?」
 キョトンとするリデルをのこし、彩吹は元日の朝に戻った。
 

 ぺったん。ぺったん。
 持ちあげらた杵にひっついた餅が長く伸びる。
 ここは、江戸時代の奈良。柳生の里では新年の餅つき大会が行われていた。青空の下、老いも若きも一つになって笑いあう。
 その一団のなかに数人の武士に護られた一人の少女がいた。みるからにええ着物着て、きりりと少年めいた顔立ちをしている。
(「あれか!」)
 『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は遠くから前世の自分を眺めた。
(「……とバクが早口でまくし立てた話やとそろそろお邪魔虫が出てくる頃やけど」)
 古妖・バクから「前世の自分がピンチや」と下手な大阪弁でまくしたてられ、訳も分からぬうちに時のトンネルに放り込まれて今に至る。
 長閑な雰囲気がいきなりの悲鳴で一変した。
 餅つきに興じていた人々の輪が崩れ、バラバラに逃げ出す。すると臼の前に、人の背ほどもある毛むくじゃらの虫がいた。まるで深い沼の底から、獲物を求めて這い上がってきたかのような姿をしている。土蜘蛛だ。
 見ていると武士を中心に、里の手練れたちが古妖を囲んだ。
 なんと、その最前線に友恵の姿が。土蜘蛛の前に堂々胸を張って立っている。
 土蜘蛛は細い糸を繰り出して、友恵をがんじがらめにしようとした。
 覚醒した凛は韋駄天足で駆けつけると、蜘蛛の糸を焼き切り、友恵をお姫様抱っこした。
「あほう! あいつが狙っとるのはあんたや。行くで!」
 とにかく安全な場所へ。土蜘蛛をしばくのはあと。
「無礼者!」
 喚きちらす友恵に閉口しながらも、凛は土蜘蛛の追撃を振り切って林の中へ逃げ込んだ。木の陰と陰を渡り歩いて土蜘蛛を撒き、適当なところで友恵を降ろす。
「ここにおりや。ええな。そや、あんた」
 凛は友恵の守護使役に声をかけた。
「力かして。守護の空、あたしにかけて。頼むわ」
 友恵が不思議そうな顔をして、凛の視線の先へ目を向ける。とうぜん、発現していない友恵には見えるはずもなく……。
「誰と話をしておるのじゃ!」
「あんたの守護使役や。さ、にゃんた、行くで」
 凛はにゃんたの【しのびあし】を使い、こっそり少女を探す土蜘蛛の背後に回った。
 朱焔の刃に浮かぶ刃紋が揺れて赤く燃え上がる。焔陰流中伝にある三連撃、煌焔。奥義を炸裂させて、毛深い毛に覆われた土蜘蛛の足を切り飛ばした。
 狂ったように繰りだされる脚撃をさけつつ、技を繰りだして古妖から機動力を奪っていく。
 ――と、手足をもがれた土蜘蛛の前に、やる気満々で短刀を構える友恵が出て来た。
「蜘蛛のお化けよ、我も相手してやるぞ!」
「ちょ、あそこにおりやいうたやろ!」
 あわてて少女の前に回り込む。友恵を抱いて苦し紛れに吐きだされた糸を飛び交わした。 
「ええから隠れとけ!」 
 少女を無理やり背の後ろへ回すと名前通り「土に還れ」と活殺打をぶち込んで仕留めた。
「天晴じゃ!」
 やれやれ。こんなんがあたしの前世かいな。
「所であんた名前は」
「……友恵」
 凛の体が揺らぎだした。時間切れだ。が、なにやら寂しげな友恵の顔が引っ掛かる。
 消える寸前、友恵を探しに来たらしい鍔の眼帯をした少年が見えた。
「あ、七郎兄様!」
 あの少年、まさか……。
 ちょっと待って、と声を上げたときにはもう現代に戻ってきた後だった。

 バクのけちーっ!!

 ムフフ~ン、また来年。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
ここはミラーサイトです