《初夢語》散り際が華と誰かが言いました
《初夢語》散り際が華と誰かが言いました


●絶望の軍団
 妖の群れが迫る。その数は万を下らない。
 第六次妖討伐抗争。あるいは人類最終戦争。後世においてこの戦いは何と呼ばれるだろうか? ともあれ無謀ともいえる戦いは一つの終わりを告げようとしていた。
 教会に迫る妖の群れ。退路はなく、増援も来ない。通信網は破壊され、他の戦況がどうなっているかなど分からない。孤立無援。四面楚歌。八面六臂の闘いをしてもなお足りぬ。逃げようにも蟻のはいでる隙間もなく、これを何と呼ぶかだけは皆知っていた。
 絶望。
 もはや死は免れまい。どれだけ戦った所で勝機はない。妖に言葉は通じず、命乞いも意味はない。あるのはただ死のみ。妖に蹂躙されるより前に、今ここで命を絶つのも一つの選択だろう。
 戦力差は千倍以上。戦術も戦略も何もかも意味を為さない数字。圧倒的な数の暴力。
 だがそんな状況でも――否、そんな状況だからこそ彼らは立ち上がる。
 たとえ結果が見えていても、諦めないことが人としての矜持なのだと。

 さあ。
 いつも通り、戦いを始めよう。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.力尽きるまで……駆け抜けろ!
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 最初は『マシンガン ガガガガガガガ ガガガガガ!』とかいうシナリオだったのですが、書いているうちにこうなりました。

●説明!
 妖が大挙して攻めてきました。いがみ合っていた人類は一致団結する間もなく蹂躙されていきます。
 貴方達と十数名の一般人は教会に立てこもって耐え凌いでいましたが、業を煮やした妖が大軍を引き連れてやってきます。完全包囲され逃げることなどできません。戦っても、守っても、死が確定しています。
 そんな中、貴方達は戦いに挑みます。何のために? 一匹でも多くの妖を倒すために? 一秒でも長く教会に居る人を護るために? ただ暴れたいから? その答えは貴方の心の中にのみ存在します。
 メタな事を言うと、このリプレイは『いかに死ぬか』がメインになります。どれだけ優れたプレイングを書こうとも、死は確定しています。如何に華々しく散るか。自分の死をどう演出するか。それがメインです。自分のキャラを(夢とはいえ)散らせたくないのなら、依頼参加はお控えください。

●敵情報
・超強いランク4妖
 超強いランク4妖です。リーダー的存在です。

・妖軍団
 ランク3妖一体に率いられた、ランク2妖百体と、ランク1妖千体。この軍団が十部隊。

 数に意味はありません。敵リーダーに挑むか、軍勢を足止めするか。どちらが映えるかを考えて挑んでください。
 基本的に様々な作戦は受け入れます。橋を落として一度に相手する人数を減らすことや、敵の側面から統率者を狙うなどいろいろあるでしょう。成功はしますが、多勢に無勢は変わりません。

■初夢依頼について
 この依頼は参加者全員が見ている同じ夢の中での出来事となります。
 その為世界観に沿わない設定、起こりえない情況での依頼となっている可能性がありますが全て夢ですので情況を楽しんでしまいしょう。
 またこの依頼での出来事は全て夢のため、現実世界には一切染み出す事はありません。

※要約すると一夜限りの夢の出来事なので思いっきり楽しんじゃえ! です。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/6
公開日
2018年01月15日

■メイン参加者 4人■



 妖の群れが迫る。その数は万を下らない。
 第六次妖討伐抗争。あるいは人類最終戦争。後世においてこの戦いは何と呼ばれるだろうか? ともあれ無謀ともいえる戦いは一つの終わりを告げようとしていた。
(あー、こら死んだな)
 そんな軍勢に歩を進めながら『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は自分で思っているより冷静に死を悟っていた。死を避けることができないこの状況に陥り、むしろ腹をくくったか。今まで共に戦って来た『朱焔』を抜刀し、慣れ親しんだ道を歩くように妖の軍勢に近づいていく。
(ランク4の奴に近づくまでどんだけおんねん、って話や。ほんま、勘弁してほしいわ)
 脳裏によぎるのはそんなことだ。この軍勢を突破して妖の統率者にたどり着き、その首を刎ねれば勝利は掴めるかもしれない。その為にはこの軍勢を突破し、その上でランク4に勝たなくてはいけない。しかも頭を倒したところで妖が雲散霧消してくれる保証はない。暴走する妖に殺されるのは確実だ。凛に生存の道はない。それでも――
「ま、やるか。古流剣術焔陰流二十一代目継承者(予定)焔陰凛、いざ参る!」

「拙いなぁ」
 妖の軍勢を前に『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)が口にした言葉だ。宿題を家に忘れてきたような、そんな声。死が目前に迫っていることは理解している。だけど死を前にしてそれ以上の感想は浮かんでこなかった。もう助からない。そうと分かっていても、それ以上の感情は浮かび上がらなかった。
(狂っているのかな、俺は)
 生きる事への執着が薄い。そんな自分を自覚して、ジャックは静かに思う。繰り返される戦い。失われた命。友人とも別れ離れになり、『友人帳』に書かれた者との連絡も取れない。それら全てを含め、『この状況なら仕方ない』と割り切っていた。それは諦念から来る割りきりなのかもしれない。それもどうでもいい。
「まあここまで頑張ったんや、ここで死ぬのならそれまでの命」

「私はこれから敵中に飛び込み、一矢報いたいと思います」
 斧を構えた芦原 ちとせ(CL2001655)は教会で祈りを捧げる人達にそう告げる。戦える者はここにはいない。傷ついた者、戦意を失った者、諦めた者。ちとせはそれを責めるつもりはなかった。むしろそれが当然とも思っていた。
「もし、逃げる道ができたら、ためらわず逃げて……そして希望の灯を消さないで」
 もし。仮定の話だ。妖の軍勢から逃げることが出来るのなら。誰かが生きていれば反撃の機会も生まれる。いいや、ただ生きているだけでいい。例え日の当たらない場所であっても、生きているのならそれは未来につながる。その為なら、この命は惜しくない。ずっしりと重い斧を抱え、教会の扉を開ける。
「私は最後まであきらめない」

「すごい数。もう、逃げられないか」
 窓の外を見つめ、『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)は呟く。今までは逃げながら傷ついた人達を癒していたが、これ以上ここで癒し続けても意味はない。彼らを一秒でも長く生かすなら、一秒でも多くあの軍勢を止めるしかない。だが……。
「さすがにさ……こんなに来ちゃったら勝てないのは私にも分かるかな」
 止められる時間はどれだけだろうか。一分? 三十秒? 十秒? どうすれば一番効率がいいかを考えて、すぐに頭を振った。作戦よりも行動だ。休むことなく体を動かし、力尽きるまで戦うのみ。勝つことが目的ではない。妖を少しでも足止めすることが目的だ。そもそも作戦を立てている時間すらない。
「行こう、きらら。最後まで一緒に戦おう」


 刃を振るう。緋が走る。斬撃が血飛沫を上げ、妖だったものが骸に変わる。
 屍山血河を築くは凛の刀。唐竹、袈裟切り、逆袈裟、右薙ぎ、左薙ぎ、左切り上げ、右切り上げ、逆風、刺突。剣術における九つの攻撃方法。それを繰り出すたびに悲鳴が上がり、それに煽られて妖の怒声が上がる。
 焔陰流・逆波。地を這う一閃からの波が跳ね上がるような斬撃。
 焔陰流・電光。鋭く素早い突きは、回避の暇すら与えない。
 焔陰流・穿光。稲妻のような突きをさらに加速させ、牙のように穿つ。
 焔陰流・廻焔。回転する演舞は紅の竜巻。刃の天災が戦場に降臨する。
 焔陰流・連獄波。煉獄とは生と死の狭間。償いを受ける苦しみの場。刃が生み出す苦しみは、死を前に苦しみを与える。
 一歩。また一歩と凛は歩を進めていく。その度に妖が襲い掛かり、そしてそれを切り伏せていく。
 凛自身も無傷ではない。妖の攻撃を受けて体中に傷を受け、服もボロボロだ。内臓にダメージが通ったのか口からは血を吐き、引きずるようにしている足の骨は、おそらく折れている。
 それでも、凛は前に進む。根拠があったわけではない。だが凛はついにたどり着いた。
「最後に戦うには丁度ええ相手やで」
 ランク4の妖。この軍勢を統率する長。
「無様だな。満身創痍のその身体でこの俺に挑もうとは」
「そんなん関係あらへん。どんな状況だろうが負けるつもりはないで」
 深呼吸をして、全身に酸素をいきわたらせる。刀の柄を強く握りしめ、呼気と共に踏み込んだ。
『墓石』が槍と化して地面から生え、凛の眼前に迫る。それを刀で受け止め、払いながらランク4に走る。
「俺の名は石識(セキシキ)。墓標を産む妖だ」
「ほうか。その名前をあんたの墓石に刻んだるわ!」
 石と炎。死と生。妖と人。けして交わらぬ二者がぶつかり合う。

 万を超える妖の群れ。対抗するのはジャック一人。
 単純な実力だけで乗り切れるか? 無理だ。
 それを覆す策はあるか? ない。
 では誰かが助けに来てくれるのか? それもない。
 この状況を覆すには、奇跡も奇跡、大奇跡が要求される。人知及ばぬ何かが声をかけ、何らかの代償と共に力を与える。そんな都合のいい奇跡。ジャックはそれを――当然起きるとは思っていない。
 ここに居れば死ぬ。今から逃げても同じことだが、それでも一秒は多く生きれるかもしれない。勝ち目のない勝負に挑むのは愚行だ。その愚行の果てに得られるのは、僅かに稼いだ時間だけ誰かを護れること。
 その数秒で、大事な誰かが逃げ切れるかもしれない。
「ならそれでいい」
 その可能性は薄くとも、希望があるなら顔を上げれる。
 顔をあげれば、表情が見える。その表情は、諦めの色ではなく希望の色だ。
 繰り返そう。ここ居れば死ぬ。英雄的な勝利はなく、ただ妖の軍勢に襲われ、砕かれ、無残に血肉となるだけだ。そこに希望などない。逃げてくれるという可能性も、ジャックの希望的な意見だ。そもそも逃げたところでその先が続くかもわからない。
 それでも、ジャックの顔は希望に満ちていた。
 死なない、などと思っていない。ここで終わりだとわかっていて、それでもなお。
「俺は醜く足搔き続ける。命の火、最後のともしびがなくなるまで、命数が切れるまで死を繰り返そう」
 それが自分の役割だと。その役割を果たすのだから、絶望はしない。
 自分を不幸だとは思わない。この一年、古妖の山から下りて色々な経験をした。色々な人に出会った。様々な事件にかかわった。多くの驚きがあった。友人もできた。安心できる人もいた。その経験が胸にあるのだ。ならば自分は不幸ではない。
「ばっちゃ――」
 誰もいない虚空に、親しみを込めてジャックは語りかける。
「俺、結構がんばったよ。そう思わない?」
 答えの声はない。ジャックの声は妖の鬨の声に紛れて消えた。
 それでも、ジャックの顔には希望と喜びの光があった。

『人の死すべき時至らば、潔く身を失いてこそ勇士の本意なるべし』
 関ヶ原の戦いを前に真田信繁――真田幸村の名前の方が有名だが――が真田一族の行く末を父・兄の三人で語り合った『犬伏の密議』のときの言葉だ。命を捨てて挑まねばならないことがあるのなら、潔く玉砕することが勇士というものだ。
『今はこれで戦は終わり也。あとは快く戦うべし。狙うは徳川家康の首ただひとつのみ』
 同じく真田信繁の言葉だ。一六一五年大阪夏の陣において豊臣陣に属した信繁。戦の趨勢は既に決しており、敗北は避けられない。しかしそれでもあきらめることなく敵の大将である徳川家康への突撃を敢行する。この突撃は三倍以上の兵力を有した徳川本陣を三里退却させ……三度の突撃の後に信繁は討ち取られたという。
 ちとせはそんな言葉を思い出しながら、赤いコートを羽織る。信繁が突撃の際に纏った赤備えだ。死を覚悟した者が纏う晴れ姿。『ツツジノ花ガ咲キタルガ如ク』赤い服は戦場を鮮やかに彩っていく。
 勝ち目などないことなど、ちとせは理解している。
 だが座して死ぬことが正しいとは、とても思えない。覚者の力などなくとも、圧倒的な軍勢を前に退くことがなかった猛者がいることを知っている。命がここで尽きることが無駄ではないことを示してくれた偉人がいることを知っている。
 それは歴史の中では敗者と言われた者だ。時代を動かすことが出来なかった戦国の一人でしかない。
 それでもその生き様は後世に何かを伝えてくれる。打って出ること。挑むこと。命とは、その為にあるのだと。
 鰐の装飾を持つ斧は何も語らない。見てくれるものは何もない。教会の人間が逃げてこのことを誰かに伝えられるかはわからない。
 それでもちとせは歩を進める。この命は、ここが燃やし時なのだと。
「さあ、行くよ――」

 教会の入り口の扉を閉める。簡素なバリケードを敷く。
 渚一人とバリケードなど、妖の前には無意味だろう。それでもわずかな時間が稼げるのならそれでよかった。
「これは私のエゴだよ」
 短く渚は告げる。命を守りたい。自分の命を護りたいのではなく、他人の命を守りたい。自分の目の前で誰かが死んでいくことは耐えきれない。少しでも長く生きてほしい。だから一人でここに来た。誰かが死ぬ前に、盾となってここで戦おうと。
 看護師になりたかった。誰かの命を守りたかった。
 最初は自分を助けてくれた看護師へのあこがれだったのだろう。だけど他人の命を救っていくに連れて、それは少しずつ渚自身の目標へと変わっていた。この手で誰かを救いたい。その為には看護師という仕事が一番だ。源素を使って誰かを癒し、戦い続けてきた。
 だけど現実は非情だ。
 渚の手は妖の暴威から守るには細すぎて。
 渚の術は妖の爪から命を守るには弱すぎて。
 渚の愛はこの絶望を塗り変えるには小さすぎて。
 だからこれはエゴなのだ。渚は誰も救えない。せめてできることをするだけなのだ。
 もし、教会に抜け道があって逃げることが出来るのなら。それだけが渚の小さな希望だった。そんな奇跡があったのなら、感謝してもいい。せめて一人だけでも生きていれば……生きてその後どうなるかは分からないけど、少なくとも希望は繋ぐことが出来る。
 生きるということは、希望をつなげることだ。凶弾から救われた渚が、誰かを癒して助けたように。今ここで渚が命を賭して助けた誰かが、他の誰かを救うのかもしれない。
 たとえエゴでも構わない。
 誰かを救いたい、というこの気持ちだけは渚が抱いてきた本当の気持ちなのだから。
「何処まで頑張れるか……体力勝負だね」


「……ちぃ」
 果敢に挑んだ凛だが、実力差は明白だった。
 刀の間合に踏み込まねばならない凛に対し、妖は好きな場所に『墓石』を突き出すことが出来る。仮に近づけたとしても、身体能力の差ですぐに弾き飛ばされるか距離を離されてしまう。なによりも――
「くそ、今まで受けた傷が厳しいわ……」
 ここまで来るまでに受けた傷。それが凛の動きを蝕んでいた。動くたびに傷口から血は流れ、疲労は少しずつ思考能力を奪っていく。自分でも限界が近いことは理解できる。残された時間は、少ない。
(落ち着くんや。機会を待たな。無駄に突撃しても犬死や!)
 凛は耐え忍びながらずっと機会を待っていた。具体的にそれがどういうものかはわからない。だけどそれは必ず来る。そう信じていた。そして――
「今や!」
 凛を足止めするために地面から生えた大量の『墓石』。それはバリケードとして凛を足止めする――はずだった。凛の瞳が『墓石』の上に道を見出す。普通の人なら進めないだろうが、卓越したバランス能力を持つ自分なら進める道。躊躇うことなく凛は『墓石』の上に足を乗せ、生まれた『道』を突き進む。
「コイツを喰らいな!」
 そのまま相手の懐に到達した凛は、体に残ったすべての力を使って刀を相手の心臓めがけて突き立てる。妖の口から噴き出す赤い液体。だが同時に凛の足元から生えた『墓石』が凛の胸を殴打した。頭が真っ白になり、力が抜けていくのが分かる。
(ここまでか。おとんに勝てんかったのが唯一の心残りやで……ま、あの世で修行して待ってるわ)
 薄れていく命の輝きの中、そんなことを思いながら凛は笑みを浮かべていた。

 痛い。
 爪が痛い。牙が痛い。蹴りが痛い。角が痛い。拳が痛い。頭突きが痛い。突撃が痛い。振り回された剛腕が痛い。鋭い針が痛い。炎が痛い。氷が痛い。雷が痛い。岩が痛い。毒が痛い。刃が痛い。呪いが痛い――
 あらゆる苦痛。あらゆる攻撃。あらゆる悪意。それがジャックを襲う。万を超える妖の軍勢からの攻撃は、万を超える攻撃方法。ジャックの身体に傷がない部分はなく、流れた血は大地を赤く染める。その血すら妖が吐き出された炎で炭化し、酸の唾で溶かされる。ジャックがここにいる痕跡すら消し去ろうとする容赦のない暴力。
 その嵐の中、ジャックは笑っていた。
 痛みは生きている証拠だ。なら自分はまだ生きている。生きているのならまだ戦うことが出来る。
 立つことが出来なくなったのなら、腕を使って移動しよう。腕が折れたのなら、歯で神具を噛んで戦おう。目が見えなくなったら、音を頼りに戦おう。耳がやられたら、血の匂いで狙いを定めよう。何もわからなくなったら、出鱈目に術を放とう。どのみち周りに仲間はいない。敵だらけの状況なのだ。
(殺されるなら親友に殺してもらうのが夢っつか、約束やってんのに)
 薄れゆく意識の中、ただ一つの後悔が頭をよぎる。
(ま……仕方ないか。ツケだな、これは)
 そんな小さな悔いの想いを抱き、ジャックは痛みを感じなくなった。

 突撃。
 猪突猛進と言われるように力押しに思われる戦略だが、それを可能とするには一定の条件が必要になる。逆に言えば突撃を可能とするだけの力が必要となり、結果力押しに見えてしまう。だが突撃は高度な読みと高密度の鍛錬が必要とされる作戦なのだ。
 先ずは機動力。敵陣を突破しうるだけの突撃力。そして壁を突破するだけのパワー。最後に敵の大将の居場所を見つける洞察力。この三つがあって初めて突撃という作戦は成立するのだ。
 赤備えを着たちとせの手には、鰐の紋様が描かれた斧。そして覚者として鍛えられた肉体。異常ともいえる観察眼。それがこの突撃を支えていた。
 鬨の声をあげて突き進むちとせ。迫る妖の攻撃を最低限の動作でいなし、道をふさぐ妖を斧の一撃で吹き飛ばす。一歩、また一歩。確実に敵陣を突き進み、敵の大将へと近づいていく。知性のない妖は恐れを知らない。ただ本能のままにちとせの前に立ち、そして斧の一撃で散っていく。
 そしてついに、妖の総大将の元にたどり着く。身にまとった赤備えはもはやボロボロだが、ちとせの傷口から流れる血がそれを補っていた。
 打ち合ったのは十五合。時間にすれば数十秒。
 敵リーダーの腕を断ち、胴に渾身の一撃を叩き込んだちとせだが、度重なる攻撃でちとせの心臓は止まっていた。
 しかしその猛攻は、確かに妖の進行を止めていた。

『妖器・インブレス』……それが渚の持つ神具。
 とある戦いで手に入れた神具で、愛しき者を抱きしめない誓いによって維持されている。
 だがそれは誓いではなく呪いの類なのだろう。何かを愛さない人はいない。その想いを抱きながら、しかしそれを表に出してはいけない。その神具を維持するためには、その呪いを受ける必要があるのだ。
 だがその呪いがあるからこそ、今こうして戦うことが出来る。迫る妖の群れに『妖器・インブレス』を振るい、その数を減らしていた。
「妖器・インブレス。私の妖刀。愛しい者を抱きしめないって誓いで手に入れた、罪のない人達を守るための力。今こそ働いてもらうからね」
 インブレスを振るう度に妖が倒れる。倒れた妖は霧のように消え去り、そこにさらに妖がやってくる。まるで土砂降りの雨だ。次々とやって来て渚の体力を奪っていく。切りがないと思いながらも逃げるつもりはない。
 無限を思わせる猛攻を前に、渚が尽き果てたのは肉体が先か、精神が先か。倒れ伏した渚の耳に、背後でバリケードが破壊される音が聞こえた。
「ここまで、かな。……あのさ、きらら」
 最後の力を振り絞り、渚は自分の守護使役の名を呼んだ。
「ずっと我慢してきたけど最期だしいいよね。私、きららのこと抱っこしたい」
 その言葉に従い、きららは渚の胸元に近づく。何とか動く腕で、それを抱きしめた。
『妖器・インブレス』が砕け散る。それと同時に、渚ときららの命も散った。

 死は無慈悲に訪れる。
 されどその生き様は、きっと誰かの心に残るだろう――


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 そんな夢を見た。




 
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