新神具ロールアウト、コマンドブーツ!
●靴タイプの神具
ファイヴ会議室。
ここに、四人の覚者が集められていた。
ファイヴの母体である学園の事務員として、数々の事件に目を通してきた田中 倖(CL2001407)。
ファイヴの大ベテランにして奇跡の空手家、鹿ノ島・遥(CL2000227)。
五麟大学考で歴史学を専攻する女子大生でありながら、優秀な覚者として活躍を続ける鐡之蔵 禊(CL2000029)。
同市内の博物館で案内係と警備員を務める美女、如月・彩吹(CL2001525) 。
一見してなんの関わりもなさそうな四人が、『なぜ自分たちが?』という顔で彼らを集めた人物……つまるところファイヴの責任者というか責任をとる係の中 恭介(nCL2000002)を見つめた。
「コホン。いや、そんな目で見られても困るんだ。お前たちを集めろをと言ったのは俺じゃくて――」
「私よ」
大きなワゴンを押して現われたのは御崎 衣緒(nCL2000001)。五麟大学考古学研究所の所長であり、ファイヴを創立した人間である。いわゆる真の責任者だ。
急にかちこちに緊張する倖。
「しょ、所長!? 僕、なにかしましたでしょうか……」
「なにかしたのか? 俺はそんななにも……あっ、訓練場の壁壊したっけ。もろいんだよあそこ」
「遥からしたら大体の建物はもろいでしょ」
ぐいっと遥の袖をひっぱる禊。
一方の彩吹は涼しい顔で相手の出方を待っている。最上の上司が出てきた倖はともかく、さすが年長者の風格である。
「この顔ぶれでなんとなく分かったんだけど……もしかして四人の共通点って?」
「そうね。お察しの通りよ」
衣緒はワゴンのカバーを開き、中に固定された四つのアイテムを取り出した。
足袋、スニーカー、ブーツ……形は違えどどれも靴に類するものだ。中には戦車のようなキャタピラがついたものまである。
「この装備を、試して貰うためよ」
●実戦試験
「色んな組織の技術を取り込んできたファイヴだけど、長年作ろうとして作れなかった靴系の装備が完成したわ。その名も『コマンドブーツ』。
妖術や科学の力を使ってジェット噴射やホイール回転を操作する、いわゆる機動力特化武器ね。
できれば両手があけば最高だったんだけど、パーツの操作に片手を使うことが多いから、カテゴリーとしては片手武器に類することになるのかしら……」
会議室には先程の四人に加え、数人の覚者が集まっている。
新しい神具に興味を示した者。なんだかおもしろそうだと思った者。それに付き合った者……などだ。
「今回はこの神具を使った実戦試験を行なうことになったわ。丁度良く妖の発生報告が出ているから、現場に向かって妖と戦闘をしてほしいの。
その際この神具を貸し出すけれど、今まで使っている自分の神具で戦うメンバーがいてもいいわ。連携に組み込みやすいかどうかも見ておきたいから」
そこまで説明すると、肝心の妖について説明を始めた。
「発生報告は二箇所よ。チームを二つにわけて行って貰うけど……そうね、チーム分けはメンバー内で相談して決めてもらっていいわ」
A地点は人の少ない山岳地帯に発生した『岩石の猿』のような生物系妖。
B地点は市街地に発生した人型の物質系妖だ。泥やガードレールなどの複合体で出来ている。
「戦闘に特別苦労するところはないと思うから……地形をうまく利用して立ち回ったり、使い心地を単純に楽しんだりという気分で構わないわ。自分なりの感想をくれたらベストね」
衣緒はそこまで説明して、ワゴンをざっと示した。
「さ、使う武器を選んでちょうだい」
ファイヴ会議室。
ここに、四人の覚者が集められていた。
ファイヴの母体である学園の事務員として、数々の事件に目を通してきた田中 倖(CL2001407)。
ファイヴの大ベテランにして奇跡の空手家、鹿ノ島・遥(CL2000227)。
五麟大学考で歴史学を専攻する女子大生でありながら、優秀な覚者として活躍を続ける鐡之蔵 禊(CL2000029)。
同市内の博物館で案内係と警備員を務める美女、如月・彩吹(CL2001525) 。
一見してなんの関わりもなさそうな四人が、『なぜ自分たちが?』という顔で彼らを集めた人物……つまるところファイヴの責任者というか責任をとる係の中 恭介(nCL2000002)を見つめた。
「コホン。いや、そんな目で見られても困るんだ。お前たちを集めろをと言ったのは俺じゃくて――」
「私よ」
大きなワゴンを押して現われたのは御崎 衣緒(nCL2000001)。五麟大学考古学研究所の所長であり、ファイヴを創立した人間である。いわゆる真の責任者だ。
急にかちこちに緊張する倖。
「しょ、所長!? 僕、なにかしましたでしょうか……」
「なにかしたのか? 俺はそんななにも……あっ、訓練場の壁壊したっけ。もろいんだよあそこ」
「遥からしたら大体の建物はもろいでしょ」
ぐいっと遥の袖をひっぱる禊。
一方の彩吹は涼しい顔で相手の出方を待っている。最上の上司が出てきた倖はともかく、さすが年長者の風格である。
「この顔ぶれでなんとなく分かったんだけど……もしかして四人の共通点って?」
「そうね。お察しの通りよ」
衣緒はワゴンのカバーを開き、中に固定された四つのアイテムを取り出した。
足袋、スニーカー、ブーツ……形は違えどどれも靴に類するものだ。中には戦車のようなキャタピラがついたものまである。
「この装備を、試して貰うためよ」
●実戦試験
「色んな組織の技術を取り込んできたファイヴだけど、長年作ろうとして作れなかった靴系の装備が完成したわ。その名も『コマンドブーツ』。
妖術や科学の力を使ってジェット噴射やホイール回転を操作する、いわゆる機動力特化武器ね。
できれば両手があけば最高だったんだけど、パーツの操作に片手を使うことが多いから、カテゴリーとしては片手武器に類することになるのかしら……」
会議室には先程の四人に加え、数人の覚者が集まっている。
新しい神具に興味を示した者。なんだかおもしろそうだと思った者。それに付き合った者……などだ。
「今回はこの神具を使った実戦試験を行なうことになったわ。丁度良く妖の発生報告が出ているから、現場に向かって妖と戦闘をしてほしいの。
その際この神具を貸し出すけれど、今まで使っている自分の神具で戦うメンバーがいてもいいわ。連携に組み込みやすいかどうかも見ておきたいから」
そこまで説明すると、肝心の妖について説明を始めた。
「発生報告は二箇所よ。チームを二つにわけて行って貰うけど……そうね、チーム分けはメンバー内で相談して決めてもらっていいわ」
A地点は人の少ない山岳地帯に発生した『岩石の猿』のような生物系妖。
B地点は市街地に発生した人型の物質系妖だ。泥やガードレールなどの複合体で出来ている。
「戦闘に特別苦労するところはないと思うから……地形をうまく利用して立ち回ったり、使い心地を単純に楽しんだりという気分で構わないわ。自分なりの感想をくれたらベストね」
衣緒はそこまで説明して、ワゴンをざっと示した。
「さ、使う武器を選んでちょうだい」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
今回の実戦試験を経て、調整や量産を行ない、暫くしてから神具庫に並ぶことになるでしょう。
(具体的にはリプレイ公開からしばらーくしてからパッと並ぶかんじです)
ということで、試験対象となる戦闘任務を解説していきます。
●A地点
山岳地帯。土と草と砂利が多く、むき出しになった岩などでこぼこが目立つ地形です。
岩石猿というR1生物系妖が大量に現われ、接近した人間を襲おうとしています。
もともと山道から外れているので人がくることはそうそうないのですが、やっぱりでこぼこしてるのでちょっと戦いづらいかもしれません。
暫く岩石猿を倒していると、ひときわ強くて巨大な大岩石猿(R2)が現われます。こいつを倒せばミッションコンプリート、となります。
●B地点
市街地。スクランブル交差点、陸橋、ガードレールや自販機、周囲に並ぶビル……と都会めいた場所です。
住民はさっさと避難を終えているので、妖退治に集中できるでしょう。
人型の妖(R1物質系)で、腕を高速で伸ばして掴みかかったり殴りつけたりといった攻撃を行ないます。
数は沢山いますが、沢山居るというだけでそれほど脅威ではありません。
脅威になるのは、そこから割と離れた場所から移動してくるショベルカーの妖です。
見た目はショベルカーそのものなのですが、アームや各部をありえないぐらい動かして攻撃してきます。これをしこたま破壊すればミッションクリアとなります。
●『コマンドブーツ』について
この依頼ではコマンドブーツを装着して戦うことができます。
データ上でハッキリ装備するわけじゃないのでピンとこないかもしれませんが、今装備している武器が反応速度寄りになったんだなーくらいの感覚でいってみてください。
モチロン、「自分は今の装備のままで戦うよ」というのもOKなので、その場合はそのようにプレイングを書いてください。(逆に何も言わなかった場合はブーツを装備する扱いになります)
まだ調整や量産にはいってないので暫定的な性能なのですが、テストタイプのブーツはこんな性能だよという情報を先にお伝えします。プレイングの参考になさってください。
コマンドブーツは反応速度を高めることのできる武器です。
カスタマイズ(勾玉配置)によって色々な能力を付与することができると思いますが、今のところ特別な能力はありません。
(戦闘コマンドの『移動』の距離が伸びたり、ハイバランサーの変わりになったりとか、従来の神具の常識を壊すほどのことはないよという話です)
デザインも沢山用意されており、足袋やスニーカー、ブーツ、メカメカしいものや鎧っぽいものまで様々です。自分にあったものを選んで装備してみてください。
具体的にいうとプレイングで『こういうブーツを貸してね』って書くとそれが反映されます。
あとお持ち帰りはできません。できることなら全員に配りたいけどオトナの事情なんですごめんなさい。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
7/8
公開日
2017年12月31日
2017年12月31日
■メイン参加者 7人■

●蹴りは人類の技
動物は主に腕や口、尻尾などで攻撃する。時として足で突っ張るようにして蹴りを出すことはあるが、刀のように蹴る技を持っているのは人類だけだ。
そしてその技を有効に活用できるのもまた……。
「そらっ、四方蹴り!」
『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は右足を高く振り上げると、相手の首を刈り取るような繰り出した。
そのまま鞭でもしならすように戻し、顎突き上げ、腰折り、最後に身体ごと反転しての後ろ回し蹴りを繰り出した。
相手の岩石猿はなすすべも無く全弾命中。ぐっと足を突き出した姿勢のまま、遥は鼻頭を親指で払った。
「っくー、ありそうでなかったこの感覚。蹴り技には靴武器がピッタリだよなー!」
奇跡の空手少年こと遥は、バトルスタイルの地盤が空手というだけあって一撃必殺の蹴り技を多く体得していた。
岩場の影から次々と姿を見せる岩石猿たち。
遥は一度構えを戻すと、くいくいと手招きをしてやった。
拳を硬くして殴りかかる岩石猿。
遥はその突きを腕ガードのクッションで一瞬うけつつ片手で払い落とす。その動作から流れるように肩、胴、踵まで回転を伝えるような蹴りでカウンターを叩き込んだ。
「いい感じだぞこれ! いつもの空手みたいだ!」
「空手ってなんでしたっけ」
『アイティオトミア』氷門・有為(CL2000042)はあえてのハンドポケットでずんずんと岩石猿たちへと接近。
遥はスニーカータイプを履いていたが、有為はまるで全身鎧の足部分だけを切り取ったようなコマンドブーツを装着していた。膝部分からつま先までのパーツセットである。
「あれ、氷門のは鎧っぽいんだな」
「普段使うのはほぼ斧(というか斧そのもの)でしたから、重量と重心が似ているものが良いか、と――」
ぐん、と足を振り上げる。
岩石猿が警戒して飛びかかってきたのだ。
顔の高さまで飛んだ相手を、有為の踵がとらえる。否、打ち落とした。
空中に縦長の8ノ字を描くように腰をひねりつつ振り上げ、振り込む勢いをそのまま転換、最後は重力も加えて振り落とすという一撃必殺の踵落としだ。
部位こそ足ではあるものの、有為はガチガチの斧使いなのだ。
「やはり斧がついていないと取り回しに違和感がありますね。けれど、そこは……」
有為はポケットに入れていた有線コントローラーを握り込んだ。
岩石猿が一撃でノされた隙をつくかのように二匹いっぺんに飛びかかってくる。有為がコントローラーのボタンを押し込むと、ブーツの踵からジェットが噴射。つま先からすねにかけてのラインにブレードが露出した。
蹴り上げの動作がそのまま加速され、勢いよくムーンサルトキックが繰り出された。
飛び上がり、眼下に敵を見る。空振りした敵にきゅっと目を細め、一回転した有為はスタンプキックによって岩石猿にトドメをさした。
「機動力でバランスをとれそうです」
(あくまでテストタイプの話になるが)コマンドブーツは反応速度に優れた武器。反応速度が高いということは、それだけ相手よりも先手を取りやすく、あるラインを超えれば連続攻撃へと進化する。手数が多いということは、それだけで有利なのだ。
「ふーん? なんかムズい話してる? まいっか!」
『デアデビル』天城 聖(CL2001170)は両手を腰の後ろに回し、グローブ型のコントローラーをくいくいと操作した。
スニーカータイプのコマンドブーツが淡く輝き、次々と飛びかかる岩石猿を次々とスタンプキックで迎撃していく。
元々一メートル強の浮遊状態で蹴り技を使いまくっているので、岩石猿には文字通りの上から目線。スタンピングし放題マウント取り放題である。
「私ね、前にトンファーで靴神具作ってトンファーキック的なアレしたことあるんだよね――っとお!」
勢いよくジャンプしてきた岩石猿に両足スタンプを打ち込んでから、大きく飛び退いて危険な範囲から離脱。
空中をくるくると回るようにして翼ブレーキをかけた。
「へー、結構おもしろいかも? 足が勝手にしゃかしゃか動く」
有為のコマンドブーツは空圧式。対して聖のコマンドブーツは妖力式だ。古妖のもつ『足の速くなるおまじない』や『鋭いキックが出せるおまじない』を細かく複合し、必要に応じて発動させているのだ。
「じゃ、こんなのはどーかな!」
追いかけてくる岩石猿たち。
聖が見えないサッカーボールを蹴る要領で空振りキックを繰り出すと、空気を固めたボールが蹴り出されて岩石猿へと直撃した。
蹴り技によるエアブリットである。
「へへっ、二人とも心強いぜ」
遥はニッと笑って鼻頭を払った。
遥のミニスカート。
有為のタイトスカート。
それぞれを見て、深く頷く。
「本当に、心強いぜ!」
しばらくそうして岩石猿を文字通り蹴散らしていると、近くの大岩が持ち上がって勢いよく飛んできた。
「おっとお」
坂を駆け上がる要領で受け流す聖。
飛んできた方向を見ると、これまでの岩石猿の三倍は大きい大岩石猿が身体を起こしていた。
グオオと叫び、近くの岩を掴み上げる。
「飛び道具だ! 投げる前にたたき落とせ!」
「簡単に言うけど……あっ」
聖はスニーカーのつま先がピリッとしたのを感じた。雷獣を放つときの指先にかかる感覚と同じだ。
「もしかしてだけど、こうかな?」
大きく踵を引き、先程の空圧サッカーキックよろしくイメージ。
翼と妖力による加速飛行で急速に距離を詰めると、スニーカーにバチバチと激しい雷の刃を纏わせた。
「ほいっと!」
蹴り技が大岩石猿の手首にクリーンヒット。思わず開いた手が岩を取り落とし、バランスの崩れた大岩石猿は派手に転倒した。
「あの技は……雷斬か!」
目をきらんと輝かせる遥。
「負けてらんねー! オレも行くぜ!」
全身躍動。全神経、全力集中。意識がぶっ飛んでもいい覚悟で踏ん張って、大砲みたいに――。
「ドン!」
踏んだ大地がひび割れ、蹴った大地が爆ぜ、飛んだ空が歪み、遥は暴力の塊となって飛んだ。
狙いはひとつ。
大岩石猿の額だ。
「オレの、最大出力!」
遥の飛翔蹴りが直撃した。
電流によって活性化された足の筋肉が通常以上の速度を出すという電流式コマンドブーツ・スニーカー型。その感覚に、遥は既になじんでいた。
かつて彼のためにデザイン・制作されたカラテブーツだ。コマンドブーツの技術は、あの時既に培われていたのだ。
首から上がなくなって、慌てて腕を振り回す大岩石猿。
「頭を飛ばしても死なないとは。なら、徹底的に破壊するまでですね」
ジェット推進で素早く距離を詰める有為。
腹に突っ張るように足裏を押しつける。
その構えに、遥が燃えるように目を光らせた。
「あの構えは、天吼砲(ハウリング・カノン)!」
膝部分から踵まで。機械化した有為の足が的確に機能する。コマンドブーツはそれをサポートする強化パーツと化していた。
大砲と化した有為の足が、大岩石猿の腹を爆裂させ、木っ端みじんに吹き飛ばした。
ぱっと髪をはらう有為。
「トドメ用の技ではなかったんですが……まあ、いいでしょう」
「…………」
一方、いい技見れたぜっていう顔でガッツポーズをとっていた遥。
彼の肩を、聖が後ろから叩いた。
「ところでハルカ。今日の私の下着、何色だった?」
「おいおい俺はファイターだぜ! 蹴り技の時は軌道を見るんだ。下着なんて見てるはずが――」
「当てたらご褒美アゲル」
「黒!」
その日、遥は空を飛んだ。
●走ることは娯楽
有史以来、人間は走ることに熱狂した。長く走ること、早く走ること。
その熱狂は、人類が音より早く移動できる時代になっても変わらない。
その理由をあえてひとつつけるとするならば――。
「気持ちいいから、かな!」
全力ダッシュからの跳び蹴り。
ガードレール妖を蹴っ飛ばして、『ニュクスの羽風』如月・彩吹(CL2001525)は口の端だけで笑った。
靴底に鉄板を仕込んだきわめて頑丈なミリタリーブーツ。
彩吹の翼の色にあわせてか真っ黒な、すねを覆うほどのそのブーツは、不思議と彩吹の足にぴったりとフィットした。
まるで靴なんてはいてないかのような軽さ。肌と一体化したかのようなフィット感。そしてなにより、自らの足が直接強化されたかと思うような手応え。
装着者の感覚にフィットし、ポテンシャルを引き上げる妖力を仕込んだコマンドブーツなのだ。
コンクリートや土が固まった人型妖が周囲から腕を伸ばして掴みかかってくる。彩吹の手首を掴まれるが、なんてことはない。
鋭い回し蹴りを繰り出せば腕をぶった切り、流れるように旋風脚へ繋げば周囲の妖がたちまち吹き飛んでいった。
「つま先からナイフが出たりすれば楽しいかも。カスタマイズ次第、かな?」
ひゅんひゅんとご機嫌に蹴りを出してみる彩吹。
そんな彼女の一方で、『願いの花』田中 倖(CL2001407)はウサギ脚にぐっと力を込めていた。
足を覆うメカメカしいコマンドブーツ。
低く唸るような音と共に、脚部キャラピラが高速回転を始めた。
豪速の突撃に、妖が構える――が、突撃の方が早い。もはや自動車がアクセルべた踏みで突っ込んだようなものだ。
クロスアームタックルによって突き飛ばされた妖はそのままビルの壁に激突。
べしゃんと潰れて土へと戻った。
勢い余った倖はターンをかけて停止。眼鏡の位置を中指でゆっくりと直すと、熱い息をついた。
「新武器のテストにお招きいただけるとは……折角の機会、隅々まで試させて頂きましょう」
そう言いつつも慎重に防御を固め、的確に敵を倒していくのが倖の性格である。しかし……。
「倖さんかっけーな! ロボットアニメみてーだ!」
「……でしょう?」
テンションを上げる『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)に対して、キラリと光る眼鏡。
覚醒時のウサギレッグをちょっと気にしていたのか、メカっぽくなるのが嬉しいらしい。
ショットガントレットを足用に改造して使うほどなので、今回の装備には気持ちも入るというものだ。
建物の影から妖がわらわらと現われる。
「そこですか」
倖はキッと振り返り、片足を振り上げた。
しかし走るでも飛ぶでもなく、大地を強く踏みつける。
大地に走ったエネルギーがモグラのように走り、妖たちの足下で爆発。
一斉にひっくり返していく。
「これでミサイルも出ればマジでロボットアニメだな。よっしゃ、負けてらんねー!」
翔はガッガッと地面を踏みつける動作をした。
彼が装着しているのはスニーカー型のコマンドブーツ。それもサッカーやなんかに使うスパイクシューズだ。
だがただの靴ではない。狐のおまじないやお地蔵さんの加護といった、地味だけど結構効果のある俊足妖術が込められた靴である。運動会で大活躍間違いなしだ。
そしてそれは、戦闘にだって役立つ。
「まずはお前からだ!」
マンホールから這い出てきた石のような人型妖。
彼らに跳び蹴りを繰り出し、その衝撃が拡散して周囲の妖までまとめて吹き飛んでいく。
苦し紛れに腕を振り回してくる妖。
対して翔は素早くかがみ攻撃を回避。足払いをかけて転倒させた。
「いつもと感覚違うけど、これもこれでいいな!」
翔は元々、反応速度のあるほうだ。前衛で格闘することの多い彩吹と比べても高いくらいで、その速度は(あんまり取り上げられることはなかったが)中衛からの牽制攻撃という形でかなりの活躍を出していた。主に先制雷獣が凶悪で――。
「このスピードなら、誰より早く打ち込める!」
術式で固めた雷のサッカーボール。それを、翔は勢いよくシュートした。
妖たちに命中アンド爆裂。一気にひっくり返り、痺れてばたばたとのたうった。
「コンボでつなげ!」
「任せてください!」
叶・笹(CL2001643)がダッシュをかけ、横たわる妖にショートブーツで蹴りを叩き込んだ。
彼女は出発前に滑り込んだ参加者で、コマンドブーツを装着した翔たちとは別に自分でカスタムした靴型武器で戦っていた。といっても、カスタムの仕様上思いっきり鈍器っぽく見えちゃうのは仕方ないところだ。コマンドブーツが仕上がったら、これをベースに作り直してみるのもいいだろう。
「それにしても……周りの人が反応速度を高めると、連携が回しやすいですね」
「そっか? あー、確かに最初から先制するって分かってると楽かも」
反応速度に特化すると、並の相手には先制できる。味方どうしで言っても、100の差がつけば確実に先に動くようになるだろう。
今回のように『翔がしびれさせて→笹がトドメをさす』といったプレイが容易にできるのだ。
今はそういうのはないが、しびれ状態や毒状態の敵に特攻効果のある技なんかがあった場合、かなり有効な作戦が組めるだろう。
(そうでなくても、BSによる防御ダウンの後に攻撃するだけで既に有利だ)
「さて……そろそろ例のアレが出てくる頃だと思いますけど」
笹が身構える。
すると、どこからかゴゴゴゴゴという音と共にショベルカーが走ってきた。
通常のショベルカーとは思えない速度。そして形状だ。
あちこちが歪み、その歪みが増しに増して、アームをぐるんぐるんと像の鼻よろしく振り回していた。
「倖さん、防御は!?」
「術式の切れ目でしたが、問題ありません――先制します」
『速度の速い防御型』の恐い所は、防御の切れ目を狙えない所だ。防御効果が切れればかけ直すというスタイルはどうしても切れ目が弱点になるが、速度があればその隙を縮めることができる。
倖は再び肉体をガチガチに固めると、キャタピラによってショベルカーに突撃。
アームアタックに対して蹴りによって相殺した。
「隙あり!」
翔は一瞬とまったアームにジャンプで飛び乗り、アームをがんがん駆け上がる。
頭と思しき部分を見つけ、鋭いキックを叩き込んだ。
べこんと音を立てて飛んでいく頭。
しかしそこは妖。頭が飛んでも構わずアームを振り回し始める。
「もう大人しくして下さい!」
後ろに回り込んでいた笹がエンジン部分を蹴りつける。厳密に機械ではなくなったとはいえ、急所っぽい所を蹴られて平気なやつはいない。妖は慌ててアームを振り上げた。
その見え見えの動作が、大いなる隙となる。
「もらった」
上唇を舐める彩吹。
コマンドブーツを炎が包み、炎が彩吹を包み込み。ひとつの流星となって、妖をズドンと打ち抜いたのだ。
大穴をあけ、軋む音をたてて倒れる妖。
大地をかるくえぐりつつ、彩吹はブレーキをかけた。
「これにて一件落着……って、ところかな」
●実験終了!
覚者たちはコマンドブーツの使用感をまとめて神具の開発チームへと伝えた。
暫くの後、みんなの前に薫ちゃんがあの笑顔と共にコマンドブーツを持ってくることだろう。
動物は主に腕や口、尻尾などで攻撃する。時として足で突っ張るようにして蹴りを出すことはあるが、刀のように蹴る技を持っているのは人類だけだ。
そしてその技を有効に活用できるのもまた……。
「そらっ、四方蹴り!」
『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は右足を高く振り上げると、相手の首を刈り取るような繰り出した。
そのまま鞭でもしならすように戻し、顎突き上げ、腰折り、最後に身体ごと反転しての後ろ回し蹴りを繰り出した。
相手の岩石猿はなすすべも無く全弾命中。ぐっと足を突き出した姿勢のまま、遥は鼻頭を親指で払った。
「っくー、ありそうでなかったこの感覚。蹴り技には靴武器がピッタリだよなー!」
奇跡の空手少年こと遥は、バトルスタイルの地盤が空手というだけあって一撃必殺の蹴り技を多く体得していた。
岩場の影から次々と姿を見せる岩石猿たち。
遥は一度構えを戻すと、くいくいと手招きをしてやった。
拳を硬くして殴りかかる岩石猿。
遥はその突きを腕ガードのクッションで一瞬うけつつ片手で払い落とす。その動作から流れるように肩、胴、踵まで回転を伝えるような蹴りでカウンターを叩き込んだ。
「いい感じだぞこれ! いつもの空手みたいだ!」
「空手ってなんでしたっけ」
『アイティオトミア』氷門・有為(CL2000042)はあえてのハンドポケットでずんずんと岩石猿たちへと接近。
遥はスニーカータイプを履いていたが、有為はまるで全身鎧の足部分だけを切り取ったようなコマンドブーツを装着していた。膝部分からつま先までのパーツセットである。
「あれ、氷門のは鎧っぽいんだな」
「普段使うのはほぼ斧(というか斧そのもの)でしたから、重量と重心が似ているものが良いか、と――」
ぐん、と足を振り上げる。
岩石猿が警戒して飛びかかってきたのだ。
顔の高さまで飛んだ相手を、有為の踵がとらえる。否、打ち落とした。
空中に縦長の8ノ字を描くように腰をひねりつつ振り上げ、振り込む勢いをそのまま転換、最後は重力も加えて振り落とすという一撃必殺の踵落としだ。
部位こそ足ではあるものの、有為はガチガチの斧使いなのだ。
「やはり斧がついていないと取り回しに違和感がありますね。けれど、そこは……」
有為はポケットに入れていた有線コントローラーを握り込んだ。
岩石猿が一撃でノされた隙をつくかのように二匹いっぺんに飛びかかってくる。有為がコントローラーのボタンを押し込むと、ブーツの踵からジェットが噴射。つま先からすねにかけてのラインにブレードが露出した。
蹴り上げの動作がそのまま加速され、勢いよくムーンサルトキックが繰り出された。
飛び上がり、眼下に敵を見る。空振りした敵にきゅっと目を細め、一回転した有為はスタンプキックによって岩石猿にトドメをさした。
「機動力でバランスをとれそうです」
(あくまでテストタイプの話になるが)コマンドブーツは反応速度に優れた武器。反応速度が高いということは、それだけ相手よりも先手を取りやすく、あるラインを超えれば連続攻撃へと進化する。手数が多いということは、それだけで有利なのだ。
「ふーん? なんかムズい話してる? まいっか!」
『デアデビル』天城 聖(CL2001170)は両手を腰の後ろに回し、グローブ型のコントローラーをくいくいと操作した。
スニーカータイプのコマンドブーツが淡く輝き、次々と飛びかかる岩石猿を次々とスタンプキックで迎撃していく。
元々一メートル強の浮遊状態で蹴り技を使いまくっているので、岩石猿には文字通りの上から目線。スタンピングし放題マウント取り放題である。
「私ね、前にトンファーで靴神具作ってトンファーキック的なアレしたことあるんだよね――っとお!」
勢いよくジャンプしてきた岩石猿に両足スタンプを打ち込んでから、大きく飛び退いて危険な範囲から離脱。
空中をくるくると回るようにして翼ブレーキをかけた。
「へー、結構おもしろいかも? 足が勝手にしゃかしゃか動く」
有為のコマンドブーツは空圧式。対して聖のコマンドブーツは妖力式だ。古妖のもつ『足の速くなるおまじない』や『鋭いキックが出せるおまじない』を細かく複合し、必要に応じて発動させているのだ。
「じゃ、こんなのはどーかな!」
追いかけてくる岩石猿たち。
聖が見えないサッカーボールを蹴る要領で空振りキックを繰り出すと、空気を固めたボールが蹴り出されて岩石猿へと直撃した。
蹴り技によるエアブリットである。
「へへっ、二人とも心強いぜ」
遥はニッと笑って鼻頭を払った。
遥のミニスカート。
有為のタイトスカート。
それぞれを見て、深く頷く。
「本当に、心強いぜ!」
しばらくそうして岩石猿を文字通り蹴散らしていると、近くの大岩が持ち上がって勢いよく飛んできた。
「おっとお」
坂を駆け上がる要領で受け流す聖。
飛んできた方向を見ると、これまでの岩石猿の三倍は大きい大岩石猿が身体を起こしていた。
グオオと叫び、近くの岩を掴み上げる。
「飛び道具だ! 投げる前にたたき落とせ!」
「簡単に言うけど……あっ」
聖はスニーカーのつま先がピリッとしたのを感じた。雷獣を放つときの指先にかかる感覚と同じだ。
「もしかしてだけど、こうかな?」
大きく踵を引き、先程の空圧サッカーキックよろしくイメージ。
翼と妖力による加速飛行で急速に距離を詰めると、スニーカーにバチバチと激しい雷の刃を纏わせた。
「ほいっと!」
蹴り技が大岩石猿の手首にクリーンヒット。思わず開いた手が岩を取り落とし、バランスの崩れた大岩石猿は派手に転倒した。
「あの技は……雷斬か!」
目をきらんと輝かせる遥。
「負けてらんねー! オレも行くぜ!」
全身躍動。全神経、全力集中。意識がぶっ飛んでもいい覚悟で踏ん張って、大砲みたいに――。
「ドン!」
踏んだ大地がひび割れ、蹴った大地が爆ぜ、飛んだ空が歪み、遥は暴力の塊となって飛んだ。
狙いはひとつ。
大岩石猿の額だ。
「オレの、最大出力!」
遥の飛翔蹴りが直撃した。
電流によって活性化された足の筋肉が通常以上の速度を出すという電流式コマンドブーツ・スニーカー型。その感覚に、遥は既になじんでいた。
かつて彼のためにデザイン・制作されたカラテブーツだ。コマンドブーツの技術は、あの時既に培われていたのだ。
首から上がなくなって、慌てて腕を振り回す大岩石猿。
「頭を飛ばしても死なないとは。なら、徹底的に破壊するまでですね」
ジェット推進で素早く距離を詰める有為。
腹に突っ張るように足裏を押しつける。
その構えに、遥が燃えるように目を光らせた。
「あの構えは、天吼砲(ハウリング・カノン)!」
膝部分から踵まで。機械化した有為の足が的確に機能する。コマンドブーツはそれをサポートする強化パーツと化していた。
大砲と化した有為の足が、大岩石猿の腹を爆裂させ、木っ端みじんに吹き飛ばした。
ぱっと髪をはらう有為。
「トドメ用の技ではなかったんですが……まあ、いいでしょう」
「…………」
一方、いい技見れたぜっていう顔でガッツポーズをとっていた遥。
彼の肩を、聖が後ろから叩いた。
「ところでハルカ。今日の私の下着、何色だった?」
「おいおい俺はファイターだぜ! 蹴り技の時は軌道を見るんだ。下着なんて見てるはずが――」
「当てたらご褒美アゲル」
「黒!」
その日、遥は空を飛んだ。
●走ることは娯楽
有史以来、人間は走ることに熱狂した。長く走ること、早く走ること。
その熱狂は、人類が音より早く移動できる時代になっても変わらない。
その理由をあえてひとつつけるとするならば――。
「気持ちいいから、かな!」
全力ダッシュからの跳び蹴り。
ガードレール妖を蹴っ飛ばして、『ニュクスの羽風』如月・彩吹(CL2001525)は口の端だけで笑った。
靴底に鉄板を仕込んだきわめて頑丈なミリタリーブーツ。
彩吹の翼の色にあわせてか真っ黒な、すねを覆うほどのそのブーツは、不思議と彩吹の足にぴったりとフィットした。
まるで靴なんてはいてないかのような軽さ。肌と一体化したかのようなフィット感。そしてなにより、自らの足が直接強化されたかと思うような手応え。
装着者の感覚にフィットし、ポテンシャルを引き上げる妖力を仕込んだコマンドブーツなのだ。
コンクリートや土が固まった人型妖が周囲から腕を伸ばして掴みかかってくる。彩吹の手首を掴まれるが、なんてことはない。
鋭い回し蹴りを繰り出せば腕をぶった切り、流れるように旋風脚へ繋げば周囲の妖がたちまち吹き飛んでいった。
「つま先からナイフが出たりすれば楽しいかも。カスタマイズ次第、かな?」
ひゅんひゅんとご機嫌に蹴りを出してみる彩吹。
そんな彼女の一方で、『願いの花』田中 倖(CL2001407)はウサギ脚にぐっと力を込めていた。
足を覆うメカメカしいコマンドブーツ。
低く唸るような音と共に、脚部キャラピラが高速回転を始めた。
豪速の突撃に、妖が構える――が、突撃の方が早い。もはや自動車がアクセルべた踏みで突っ込んだようなものだ。
クロスアームタックルによって突き飛ばされた妖はそのままビルの壁に激突。
べしゃんと潰れて土へと戻った。
勢い余った倖はターンをかけて停止。眼鏡の位置を中指でゆっくりと直すと、熱い息をついた。
「新武器のテストにお招きいただけるとは……折角の機会、隅々まで試させて頂きましょう」
そう言いつつも慎重に防御を固め、的確に敵を倒していくのが倖の性格である。しかし……。
「倖さんかっけーな! ロボットアニメみてーだ!」
「……でしょう?」
テンションを上げる『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)に対して、キラリと光る眼鏡。
覚醒時のウサギレッグをちょっと気にしていたのか、メカっぽくなるのが嬉しいらしい。
ショットガントレットを足用に改造して使うほどなので、今回の装備には気持ちも入るというものだ。
建物の影から妖がわらわらと現われる。
「そこですか」
倖はキッと振り返り、片足を振り上げた。
しかし走るでも飛ぶでもなく、大地を強く踏みつける。
大地に走ったエネルギーがモグラのように走り、妖たちの足下で爆発。
一斉にひっくり返していく。
「これでミサイルも出ればマジでロボットアニメだな。よっしゃ、負けてらんねー!」
翔はガッガッと地面を踏みつける動作をした。
彼が装着しているのはスニーカー型のコマンドブーツ。それもサッカーやなんかに使うスパイクシューズだ。
だがただの靴ではない。狐のおまじないやお地蔵さんの加護といった、地味だけど結構効果のある俊足妖術が込められた靴である。運動会で大活躍間違いなしだ。
そしてそれは、戦闘にだって役立つ。
「まずはお前からだ!」
マンホールから這い出てきた石のような人型妖。
彼らに跳び蹴りを繰り出し、その衝撃が拡散して周囲の妖までまとめて吹き飛んでいく。
苦し紛れに腕を振り回してくる妖。
対して翔は素早くかがみ攻撃を回避。足払いをかけて転倒させた。
「いつもと感覚違うけど、これもこれでいいな!」
翔は元々、反応速度のあるほうだ。前衛で格闘することの多い彩吹と比べても高いくらいで、その速度は(あんまり取り上げられることはなかったが)中衛からの牽制攻撃という形でかなりの活躍を出していた。主に先制雷獣が凶悪で――。
「このスピードなら、誰より早く打ち込める!」
術式で固めた雷のサッカーボール。それを、翔は勢いよくシュートした。
妖たちに命中アンド爆裂。一気にひっくり返り、痺れてばたばたとのたうった。
「コンボでつなげ!」
「任せてください!」
叶・笹(CL2001643)がダッシュをかけ、横たわる妖にショートブーツで蹴りを叩き込んだ。
彼女は出発前に滑り込んだ参加者で、コマンドブーツを装着した翔たちとは別に自分でカスタムした靴型武器で戦っていた。といっても、カスタムの仕様上思いっきり鈍器っぽく見えちゃうのは仕方ないところだ。コマンドブーツが仕上がったら、これをベースに作り直してみるのもいいだろう。
「それにしても……周りの人が反応速度を高めると、連携が回しやすいですね」
「そっか? あー、確かに最初から先制するって分かってると楽かも」
反応速度に特化すると、並の相手には先制できる。味方どうしで言っても、100の差がつけば確実に先に動くようになるだろう。
今回のように『翔がしびれさせて→笹がトドメをさす』といったプレイが容易にできるのだ。
今はそういうのはないが、しびれ状態や毒状態の敵に特攻効果のある技なんかがあった場合、かなり有効な作戦が組めるだろう。
(そうでなくても、BSによる防御ダウンの後に攻撃するだけで既に有利だ)
「さて……そろそろ例のアレが出てくる頃だと思いますけど」
笹が身構える。
すると、どこからかゴゴゴゴゴという音と共にショベルカーが走ってきた。
通常のショベルカーとは思えない速度。そして形状だ。
あちこちが歪み、その歪みが増しに増して、アームをぐるんぐるんと像の鼻よろしく振り回していた。
「倖さん、防御は!?」
「術式の切れ目でしたが、問題ありません――先制します」
『速度の速い防御型』の恐い所は、防御の切れ目を狙えない所だ。防御効果が切れればかけ直すというスタイルはどうしても切れ目が弱点になるが、速度があればその隙を縮めることができる。
倖は再び肉体をガチガチに固めると、キャタピラによってショベルカーに突撃。
アームアタックに対して蹴りによって相殺した。
「隙あり!」
翔は一瞬とまったアームにジャンプで飛び乗り、アームをがんがん駆け上がる。
頭と思しき部分を見つけ、鋭いキックを叩き込んだ。
べこんと音を立てて飛んでいく頭。
しかしそこは妖。頭が飛んでも構わずアームを振り回し始める。
「もう大人しくして下さい!」
後ろに回り込んでいた笹がエンジン部分を蹴りつける。厳密に機械ではなくなったとはいえ、急所っぽい所を蹴られて平気なやつはいない。妖は慌ててアームを振り上げた。
その見え見えの動作が、大いなる隙となる。
「もらった」
上唇を舐める彩吹。
コマンドブーツを炎が包み、炎が彩吹を包み込み。ひとつの流星となって、妖をズドンと打ち抜いたのだ。
大穴をあけ、軋む音をたてて倒れる妖。
大地をかるくえぐりつつ、彩吹はブレーキをかけた。
「これにて一件落着……って、ところかな」
●実験終了!
覚者たちはコマンドブーツの使用感をまとめて神具の開発チームへと伝えた。
暫くの後、みんなの前に薫ちゃんがあの笑顔と共にコマンドブーツを持ってくることだろう。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
