【儚語】その瞳に映った真実
【儚語】その瞳に映った真実


●世界は嘘で溢れている
 大人は皆嘘つき。それに気付いたのは大分前のことです。
 私――星河ミナトは養女です。今は父親の弟にあたる叔父さんの家に引き取られています。
 両親は10年前に交通事故で亡くなったと聞かされました。当時まだ1歳の赤ん坊だった私は、叔父夫婦の家に預けられていたので無事でした。
 けどそれは嘘です。両親は交通事故で死んでいません。本当は覚者という化け物に殺されました。
 両親の死の真実を知ったのは夢でした。最初はただの夢だと思っていたけど、それは現実世界で本当に起こる予知夢でした。
「どうした、ミナト。顔色が悪いぞ?」
「何でもありません。大丈夫です」
 叔父さんは良い人です。顔はちょっと怖いけどとても優しい人です。けど、嘘つきです。
 毎日家に帰ってくるのが遅いのはお仕事じゃなくて、叔母さんとは別の女の人と遊んでいるからです。
「ミナトちゃん。今日の夕食は中華よ。おばさん張り切っちゃうから」
「はい。楽しみにしています」
 叔母さんは明るい人です。お喋り好きでいつも私の話し相手になってくれます。けど、嘘つきです。
 叔父さんに買って貰ったと近所の人に見せびらかしていた綺麗な指輪。あれは私の本当のお母さんの物だからです。
「ミナト、出かけるのか?」
「ミナトちゃん。夕飯までには帰ってきてね?」
 そんな優しくても嘘つきな叔父さんと叔母さんに、私は初めて嘘をつきました。
「散歩です。大丈夫、すぐに戻ります」
 二度と帰って来れないことを知りながら、私は見慣れた玄関の扉を開けました。

●嘘が嫌いな少女
 少女は誰も人が近づかなくなった廃墟へと入っていった。
 数日前に妖が出たとニュースで報道されたおかげで今は不良や浮浪者すら近寄らない。それが少女にとっては好都合だった。
 少女は背もたれが壊れてなくなったパイプ椅子を見つけ、埃を払ってから少女はそれに腰を降ろす。
「尾行してきたのでしょう? 出てきてください」
 少女の独り言が廃墟の中で響いた。10秒近く経っても誰も姿を現さないし、物音1つしない。だがそれでも少女は座ったまま動かない。
 そして少女が言葉を発してから時計の秒針が一周しようとした頃、それは何の前触れもなく現れた。
「くくっ、どうやら本物みたいだな」
 壁からすり抜けるようにして現れた男は嬉しそうに口端を上げた。
 濃い髭を生やした如何にも柄の悪い男の笑みに、少女は嫌悪感を覚える。
「叔父さんと叔母さんには手を出さないでください。そうすれば私のことは好きにして構いません」
「話が早いな。オッケーだ。殺しはリスクが高いからな」
 まるで事前に打ち合わせをしていたかのように少女と男の話は進んでいく。
 そこで男は口に指を咥えると甲高い指笛を一度鳴らした。
「家を見張らせている奴らを呼びに行かせた。戻ってきたらすぐに出発だ」
「……」
 男の言葉に少女は沈黙で返した。もうこれ以上会話をする必要はないと言わんばかりに。
「おい、もっと愛想よくしろよ。俺らは悪い人間じゃないぜ? 今日だって誰かを傷つけるつもりなんてなかったしな」
 その言葉に少女はじっと男の顔を見つめる。
 少女は知っている。今夜この男が自分を浚う為に家に押し入ることを。
 少女は知っている。この男が抵抗した叔父と叔母を殺す事を。
 少女は知っている。叔父と叔母を殺したこの男が楽しそうに笑っていたことを。
 だから少女は一言だけ呟いた。
「嘘つき」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:そう
■成功条件
1.少女の救出
2.隔者の排除
3.なし
●依頼内容
 少女を救出する

●覚者の状況
 FiVEの依頼を受け、現場である廃墟へ向かっているところ。
 予知によると廃墟を訪れた少女は隔者組織に誘拐され、そして少女の家族は今夜中に殺されてしまう。
 何故この少女が隔者組織に狙われたのか。そもそも少女が何故廃墟を訪れたのかは不明な為、現在調査中である。

●依頼区域情報
 街の外れにある廃墟。時刻は昼過ぎ。天気は晴れ。
 何かの工場跡のようで、放置された機材や資材が転がっている。
 広さは学校の体育館程で、高さも同様。
 廃墟の周囲は長年放置されてた所為か背の高い草木が生い茂っている。
 廃墟正面の道路には車が止まっており、恐らく隔者の物だと思われる。

●隔者情報
 ・フォン
  彩の因子を持つ天行の隔者。中国語で『風』の名を持つ男。
  武器は拳銃、ナイフ、手榴弾と基本的に得物を選ばないタイプ。
  今回の誘拐事件のリーダー格で、現在どこの隔者組織に所属しているかは不明だが、
  これまでに何件もの殺人や誘拐に関わった人物として指名手配を受けている。

 ・隔者 3人
  因子、五行は何れも不明。低レベルであろうことは分かっている。
  1人は刀、1人は杖、1人はアサルトライフルで武装している。

●少女情報
 ・星河ミナト
  11歳の少女。
  当初は何の変哲もない普通の少女だと思われていた。
  しかし、誘拐直前の不自然な行動や隔者組織から狙われた点から何らかの力を有している可能性がある。

●補足
 この依頼で説得及び獲得できた夢見は、今後FiVE所属のNPCとなる可能性があります。

●STより
 皆さんこんにちわ、そうと申します。
 今回は隔者による少女の誘拐事件です。
 夢見の持つ力は弱く、少女の行動だけでは未来を変えることはできません。
 嘘が嫌いな優しい少女にどうか救いの手を。
 では、宜しければ皆様のご参加をお待ちしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
公開日
2015年10月08日

■メイン参加者 7人■


●罅割れた少女の心
 ぱしんと、頬を打つ音が廃墟の中に響いた。
「お嬢ちゃん、口の聞き方には気をつけろ」
 フォンは振るった手をぷらぷらと揺らしながら目の前の少女を睨みつける。
「……」
 腫らした頬を押さえながらミナトは顔を上げた。
 言葉は口にせず、睨むこともなく、ただ視線をフォンへと向ける。それが今彼女に出来る精一杯の抵抗だった。
 その時、廃墟の正面の扉が開く。ミナトの目には3人ばかり人影が入ってくるのが見えた。
「やっと来たか。遅いぞ」
 やや苛立っているのか、単に短気なだけか。フォンは彼の仲間らしい男達に文句を付ける。
 男達の方はそれにも慣れているのか、軽く笑いながら謝る程度だったが。
「まあいい。さっさとこんな陰気な場所とはおさらばだ。さあ、来い」
 フォンはミナトの腕を掴んで立ち上がらせる。その力は強く、未来が予知できるという以外は普通な少女のミナトに抵抗する術はなかった。
 半ば引きずられるようにして歩かされながらミナトはこれからの事を思う。
 恐らく想像通りの。もしくは想像以上の酷い扱いを受けるのだろう。きっと人を人と思わない、物のような扱いを。
 その事に関しては覚悟は出来ていた。だから悲しくない。涙だって出てこない。
「ああ、そうそう。お嬢ちゃんに1つ良いことを教えておいてやる」
 唐突にフォンは振り返りながら口を開く。その下種な笑みを浮べる表情が、ミナトの心に急激な不安を与える。
「お前を送り届けた後なんだがな。お前の家を襲うことになっている」
「っ! 何、で……!」
 ミナトは目を見開き、フォンを睨みつける。
「何でって。当たり前だろう? お前は元々そこで死ぬ予定だったんだ。大丈夫、代わりの死体はもう用意してある」
 実の両親は既になく、唯一の身寄りの叔父と叔母の夫婦がいなくなれば探す人間もいなくなる。
 その上で最後は家を燃やし、そこから少女の焼死体が出てきたらソレが『星河ミナト』となるだろう。
 その時始めて『星河ミナト』という個人がこの世界からいなくなったことになるのだ。
「嘘つき……嘘つきっ!」
「はははっ、いいね。その顔。老若男女、人が絶望した時の顔っていうのは最高だ」
 フォンはケラケラと笑いながらまたミナトの体を引きずり歩き出す。
 ミナトは何の抵抗もできず、その心は湧きあがる悔しさや喪失感から限界に達しようとしていた。
 そんな少女の心が壊れようとしていたその時、突然フォンが仰け反る様にして上体を反らした。その数瞬後に風切り音と共に見えない何かが通り過ぎる。
 そして更にそこに赤い閃光が走りこんできた。そして熱く揺らめく炎がフォンの横っ面を捉え、勢いのままに吹き飛ばす。
 ミナトを掴んでいたフォンの手はその勢いで離されたが、僅かに引っ張られた所為でミナトはその場に転んでしまった。
 ミナトが痛みに耐えながらゆっくりと顔を上げると、そこには緋色の袴に白い胴衣を着た女性が立っていた。
「この外道が。覚悟しいや!」
 その女性が啖呵を切ると共に、さらに刀に黒い炎を纏わせた男性がフォンの仲間の1人に斬りかかる。
 事態を飲み込めないミナトはただ一人、その場に座り込んだまま呆然とその光景を眺めていた。

●正義と悪は入り乱れ
「今よ! 由愛、ミナトちゃんをお願い!」
「はい!」
 その言葉を口にするのと同時に秋ノ宮 たまき(CL2000849)は床を蹴り舞い上がった。その腰に生える青き翼が羽ばたき、数枚の羽がひらりと落ちる。
 たまきの言葉に一気に走りこむ三峯・由愛(CL2000629)だったが、しかし襲撃を察知した刀を持つ男が立ち塞がる。
「貴方の相手は私だよ」
 そこで由愛の脇を追い抜き、刀持ちの男に肉薄した鳴神 零(CL2000669)はその大きすぎる太刀を大上段から思い切り叩きつけた。
 刀持ちの男はそれを左に飛んで避ける。だがそれで問題ない。その隙に由愛は座り込んでいるミナトの元へと走る。
 だが、そこまでだった。放たれた弾丸の雨が由愛に目掛けて横殴りに降り注ぐ。由愛はそれを大盾で防ぐが、抜かれると判断した瞬間にすぐに横に飛んで機材の裏へと隠れた。
「やってくれるじゃねぇか。何者だ、お前等?」
 頬の傷を拭ったフォンはハンドガンとナイフを抜きながら覚者達を睨みつける。
「十天が一、一色満月だ。貴様等七星剣か?」
 切り結んでいた杖持ちの男から僅かに距離を取り、一色・満月(CL2000044)は横目でフォンに視線を送る。
「十天? 一色? どっちも聞かない名だな。七聖剣かと聞くあたり、正義の味方気取りのようだが」
 フォンは品定めをするように覚者達を見渡す。
「答えは?」
「自分から名乗るなんて馬鹿のすることだ」
 満月の問いにフォンはこれが答えだとハンドガンを向けて引き金を引いた。
 額を狙ってきた弾丸を満月は頭を僅かに動かすだけで避ける。だが、更に杖持ちの男が放った数多の水の飛礫に数発は受ける覚悟を決めた。
「悪党な上に卑怯者か!」
「なら正義の味方なお前は正直者か?」
 焔のような波紋が無骨でシャープな刃とぶつかり合う。
 焔陰 凛(CL2000119)は一太刀目を防がれた瞬間、手首を返し素早く横薙ぎの二の太刀を放つ。
 刃の切っ先がフォンの胸元を浅く斬りつけるが、凛は三の太刀を放つ前に自分へと照準のあった銃口が目に入った。
「ちぃっ!?」
 凛は後ろに下がり、更に横へと飛ぶ。その動きに合わせるようにフォンは引き金を引き、放たれた銃弾は凛の体を掠めていく。
「不味いデスネー。ミナトちゃんが孤立してしまいマシタ!」
 銃撃を廃棄された機械の裏でやりすごしながらリーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)は視線の先に捉えた銃持ちの男へと波動弾を放ち応戦する。
 リーネの視界にはその男の後ろのほうで、茫然自失になっているのか身じろぎ1つしない座り込んだミナトの姿が見えていた。
「もう一度行きます。皆さん、援護をお願いします」
 その言葉と共に由愛が機材の影から飛び出した。
 銃持ちの男の視線が由愛へと向けられるが、そこに頭上から放たれた不可視の空気の弾丸がその肩を捉え、男はよろめきながら傍にあった廃機械の裏へと隠れる。
「今度こそ邪魔はさせませんよ!」
 たまきは男が隠れた場所へ更に水の飛礫を文字通り雨のように降らせる。
 男はそれに耐えながら銃で撃ち返してくるが、たまきも天井に伸びているダクトの裏に隠れてそれを防ぐ。
 一方で廃墟の一角で零と刀持ちの男は切り結んでいた。既に刀を打ち合わせた数は10を越えている。
「君は向こうに加勢に向かわなくてもいいのかな?」
 黒い狐面の奥から赤い瞳が男の背後で繰り広げられている戦闘へと向けられる。
 男はそれに対して何も答えず、ただ刀を正眼に構えなおした。
「なるほど。シンプルなのは大好きです」
 零は機械化した腕で大太刀の柄を強く握ると、それを体の横で地面と水平に構える。
「いざ、勝負!」
「十天、鳴神零! 推して参る」
 気合と共に零と男は同時に一歩踏み出し、相手の命を刈る為の一撃を放つ。

●虚実の種は蒔かれる
「目ぼしい物は何もなし、か」
 廃墟の正面に止められた車の中で天明 両慈(CL2000603)は独り言を零す。
 ある程度予想はしていたが車の中にはめぼしい物は何もなかった。そしてあまり見たくないモノを見つけてしまっていた。
 車のトランクに詰め込まれていた黒い大きな横長の袋。その袋のジッパーを半ばまで開けたところで両慈は眉を顰めた。
 人間の、子供の、少女の死体だ。この時点で両慈には何故死体が積んであるかは知る由もないが、この少女が悪事の犠牲になったのは確かだ。
 両慈はジッパーを閉めなおし、廃墟へと視線を向ける。廃墟内では既に戦闘は始まっているようで、剣戟や銃声の音がここまで聞こえてきていた。
 両慈はトランクを閉めて車の正面へ向かうとボンネットの上に手を置いた。
「早く終わらせよう。そして帰る」
 ボンネットの隙間から白い光が漏れ、それが止むと白い煙が溢れ出した。

「遅れたな」
 両慈が廃墟に入ると同時に建物内に軽い風が吹く。
「両慈! やっと来てくれましたネ! こっちに加勢して欲しいデース!」
 リーネは逸早く両慈の存在に気付くと、喜色の笑みを浮べて軽く手を振る。
 両慈はそれを目を細めて見てから、零のほうへと視線を向けた。
「大丈夫か?」
「勿論☆ それよりまだミナトちゃんを確保出来てないからそっちを優先して欲しいかな」
 肩や腹部から血を流しながらも零は陽気な声で返事を返した。そして目の前に迫った刀の切っ先を黒鉄の腕で強引に払う。
「分かった」
 両慈は短い言葉で応えると、手にした書物の表紙を撫でる。すると源素が天井近くで集束しだし、黒雲を作り出す。
 そして、雷が落ちた。
「ミナトちゃん、こっちへ!」
 敵の攻撃を掻い潜り、由愛はミナトの元へと辿り着いた。ただ、彼女は自発的に動こうとしない。
 由愛は仕方なく彼女の手を取ると、近くの廃材の裏へと走りこんだ。
「ミナトちゃん、聞こえていますか?」
 由愛が声をかけるがミナトからは全く反応がない。由愛の顔を見てはいるのだが、その瞳はまるで人形のように何も映していないかのように見える。
「あなたが身を差し出してもご家族は殺される……予知夢がありました。私達は、それを変えるために来たんです」
 それでもめげずに由愛はミナトに語りかける。すると『予知夢』という言葉に僅かに反応した。
「予知……未来を、変える?」
「そうです」
 片言のように喋るミナトに由愛は頷く。
「おいおい、騙されちゃいけないぜお嬢ちゃん。そいつらも俺達と同じで目当てはお前さんの力だけだぜ!」
 だがそこにフォンが嘲笑するような声と共にミナトの心を揺さぶりにかかる。
「アンタはいい加減その口を閉じんかっ!」
 凛の振るう刀がフォンの腕を斬る。だがその返しに凛のふとももを銃弾が貫き、2人の血が床へと零れる。
「分からない。だって、皆嘘つきだから」
「ミナトちゃん……」
 ミナトはその場で膝を抱えて顔を伏せてしまった。
「一先ず、こいつらを片付けるのが先みたいだな」
 満月はボロボロになった上着を脱ぎ捨て、シャツのネクタイを緩めた。
 杖持ちの男から放たれた水の飛礫がまた満月に迫る。だが今度はその飛礫の雨を体捌きだけで避け、その上で男の元へと距離を詰める。
「その技はもう見飽きた。目が慣れちまったよ」
 満月が放った目にも止まらぬ連撃が男の体を切り裂き、その膝を折らせる。
「さあ、集中砲火デース!」
 リーネの放つ波動弾が移動する銃持ちの男へ次々と放たれる。男がどこかに隠れようとも、両慈の生み出した雷雲からの雷が頭上から落ちそこからすぐに炙り出す。
 そして、廃墟の隅へと追いやられたところで男の頭上に影が差した。金属の軋む音に男が後ろに振り返ると、積み上げられていた廃材が今まさに崩れ落ちてきているところだった。
「一丁上がりね」
 廃材を纏めていたワイヤーを空気の弾丸で吹き飛ばしたたまきは、廃材に埋もれた男の姿を確認して満足げに頷いた。
「おいおい、頼りない奴等だな。まあ、信頼なんてしてなかったがな」
 2人の仲間がやられたのを見てもフォンはやれやれと溜息を吐きながら首を横に振るだけだった。
「もうフォンちゃん1人だけだし、諦めたらどうかな?」
 いつの間にか決着をつけたのか、血濡れの大太刀を肩に担いだ零が前へと出る。
「確かに、こりゃ勝てないな。分かった、降参だ」
 フォンは手にしていた銃とナイフを地面へと捨て、両手を軽く上げた。
「そのまま動くんやないで」
 凛が警戒しながらも確保の為に近づこうとした時、フォンの上着から何かが地面へとばら撒くように落ちた。
 円柱状の形をしたそれに視線がいった次の瞬間、それは眩い閃光を放ち周囲を白い光の世界へと変える。
「くそっ、閃光手榴弾かっ!?」
 その中で零と由愛だけが反応し、フォンへと攻撃を放つ。だが、その両方が空振り全く手応えがなかった。
 そして閃光が止んだ時、フォンの姿はどこにもなかった。
「……何処に消えたのでしょう?」
「んー、多分……ここかな?」
 零はフォンがいたはずの場所のすぐ足元にあるマンホールの蓋を靴の先で叩いた。
「逃がしてしもうたか」
「まあ、ミナトは確保できたし任務は成功だ」
 覚者達は一様にミナトへと視線を向けた。
 そこにはまだ幼い少女が膝を抱えて俯いていた。

●覚者達の言葉
「大丈夫デスカー? 怪我とかして無いデスカ?」
 リーネは座ったままのミナトの体を軽く触りながらどこにも怪我がないことを確認し、ほっと胸を撫で下ろす。
「……貴方達も、予知の力が欲しくて私を攫いに着たんですか?」
 そっと顔を上げたミナトは覚者達に向けてそう言った。このミナトという少女が夢見の力を持っているということは覚者達も薄々感じていたが、これでほぼ確信に変わった。
「そうだね。私達はさっきの男と同じことを思ってる。貴方が欲しい」
 一番にそう口にしたのは零だった。率直すぎる言葉に眉を顰める者もいたが、誰も止めはしなかった。
「そうだな。あわよくばという考えを否定はできない」
 満月もそれに同意した。なんと言葉を言い繕おうとその考えは否定できないからだ。
「そう……あなたのその力は夢見と呼ばれる、未来を見ることができる力です」
 由愛がそう続ける。そしてそれが覚者達の中でも希少であり、とても価値のある力であることを説明する。
「あたし達はな、夢見が告げる不幸な未来を『なんや嘘やったやん』と笑い飛ばす事が出来るように、その為に活動してるんや」
 夢見による予知、そして予知された災厄を防ぐことこそFiVEの掲げる理念の1つだ。
「あんたは嘘が嫌いみたいやけど、嘘になった方がええ事だってあるんやで」
 凛の言葉にミナトは僅かに反応した。
「そうです。嘘には二種類あるんです。自分のためにつく嘘と人のためにつく嘘」
 たまきは一呼吸置いて、ミナトの手を取って言葉を続けた。
「大人は嘘つきだっていうけど……貴女が貰った優しさが全部嘘だとは決めつけないで」
 果たしてその言葉は少女の心に届いているのだろうか。ミナトは俯いたまま何も答えない。
「ミナトちゃん、よければ私達の元に来てください。私達ならあなたもあなたのご家族も守れます」
 その言葉は果たして、少女にどのように聞こえているのだろうか。『嘘』に敏感な少女に真実は伝わっているのだろうか。
「うん、でもね。強制はしない。自分の好きなように出来ないのって息苦しいもんね」
 零はミナトの前でしゃがみこむと手を頭の後ろに回してお面の紐を緩めた。そして顔の左側だけを覗かせながらミナトと視線を合わせる。
「ね、君はどうしたい?」
 互いの瞳に相手の瞳が映りこむ。その中で零はミナトの瞳が少しだけ色を取り戻したように見えた。
「処理班が到着した。俺達は撤収だ」
 そこで両慈が皆にそう告げた。見れば廃墟の表のほうに何台もの車がやってきていた。
 まだ一般人であるミナトとの過度な接触は厳禁だ。仕方なしと覚者達は表に停まる迎えの車へと向かう。
「何かあれば俺を頼れ。一人で抱え込んで何になる」
 最後に満月はそう言い残し、廃墟から外へと出た。既に太陽は傾きだし、僅かにオレンジ色がかった太陽が世界を照らしている。
 諸々の引継ぎをして覚者達が全員車に乗り込み走りだしたところで、丁度毛布を羽織ったミナトが廃墟の入り口に現れた。
 スモークガラス越しでこちらは見えないはずだが、ミナトは覚者達の乗る車に向かって小さく口を開いた。
「―――――」
 だがその言葉は覚者達の耳には届かなかった。
 ただ、もし、再び彼女に会う機会があれば、その時に今聞こえなかった言葉が聞けるかもしれない。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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