<冷酷島AF>初心者歓迎、第二期妖討伐依頼
<冷酷島AF>初心者歓迎、第二期妖討伐依頼


●冷酷島と呼ばれて
 黎刻ニューアイランドシティ。
 九州地方の港湾部に建設されたこの都市型人工島は、セキュリティの欠如から一時妖の占領状態を招いていた。
 しかしファイブの長期にわたる活躍によって妖の首魁は除去され、残る妖も少しずつ除去されつつある。島の物理的ないし政治的復旧は間近とされていた。

「今回は島の外縁部からもう少し踏み込み、工業エリアと遊園地の除去作業を行ないたい。
 ここには以前の大戦に関わらなかったやや強力な妖も残っているからな。工事を進める上でスタッフへの危険はできるだけ避けておきたいんだ」
 部下たちにそう話すのは、島の建設に関わっていた事務方 執事(nCL2000195)。
「前回はファイヴの覚者たちが除去作業にあたってくれたおかげで外縁部と本土の接続がスムーズになった。ここから一気に、と思うんだが……」

●第二期妖討伐依頼
 所変わって、ファイヴの会議室。中 恭介(nCL2000002)は集まった覚者に呼びかけていた。
「皆、冷酷島を巡る戦いご苦労だった。神秘解明や社会救済、その他色々な面で活躍してくれたな。
 今回はその冷酷島の再建事業を行なっている企業から妖討伐依頼がきた。
 オオモノもいるが、皆で協力すれば充分にこなせる分量だ。
 興味のある者は応募してくれ」

 対象となるのは島北東部にある工業エリア。そして遊園地である。
 この一帯にはいぜんの大戦に関わらなかった弱い妖が多数残存しており、復旧工事の妨げになっている。
「多くはR1の低級物質系妖なんだが、遊園地の中央には『デッドコースター』というR3妖が残っている。
 とはいえランクの割には戦闘力の低いタイプだから、チームで力を合わせれば充分に倒せるだろう」

 期間は一泊二日。
 島内に建設された安全なシェルターに宿泊できる。
 一日目に低級妖の除去。
 二日目にデッドコースターへのトライ。
 除去の如何に関わらず、その後撤収となる。

「シェルターには電気やガスも通っていて、ジムカタたち常駐スタッフもいる。
 だから気力や体力に関しても心配ない。ファイヴに来たばかりの者も、戦闘やチームプレイに慣れるつもりでぜひ参加してくれ。以上だ!」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.妖をトータルで20体以上倒すこと
2.なし
3.なし
 こちらは冷酷島シリーズのアフターシナリオ。
 かつて妖に占拠された島は、そのトップを失い順調に浄化運動が進んでいます。
 浄化運動というのは主にがれきを撤去したり、電線や水道管を復旧したりといった地道な作業です。
 その道のプロがめっちゃやってくれています。こういうのは覚者よりもプロ土建さんのほうが向いてるので任せておきましょう。
 しかし彼らにはどうにもできないのが、妖の退治です。
 その道のプロ、というとちょっぴり語弊がありますが、百戦錬磨のファイヴさんの出番というわけですね。
 ……というシナリオをつい最近やったばかりですが、その第二期。
 『雑魚を沢山倒す』からもう一歩進んで『沢山倒したあとでボスにもトライ』です。

●島の風景と妖
 元々都市として作られ、最新の設備があちこちにあります。信号、ガードレール、電話ボックス、みな新しいものです。
 (妖はそういうの興味ないので)電気や水道も通っていますが、当然ながら人は居ません。都市から人だけ消えたような、がらーんとした空気が漂っています。

 今回はそのうちの工業地帯。
 島の建設に関わっていたGM建設の作業場や、その他の重機リース会社のヤードなどが対象です。
 出現するのはみなR1物質系妖。
 スレッジハンマーを持った鉄くずマンやフォークリフトがトランスフォームした怪獣といった、メカメカしい妖ばかりです。
 攻撃方法は多種多様ですが、特別手強い敵はいないので自分なりのスタイルを貫いて大丈夫です。ビギナーさんでも安心です。

 遊園地は野球場一つ分くらいの小規模なもので、デッドコースターというR3妖がいます。
 空を飛ぶムカデのような妖で、攻撃方法も純粋な突進(物近列)のみです。
 スペックは硬くてタフという典型的なタイプでダメージを沢山与えて倒しましょう。

●作戦のオススメ
 一応こちら除去作業を依頼されておりますので、
 一日目は『2~3人ごとのチームに分かれて』工業地帯での妖退治を行ないましょう。
 効率面からいっても、各個人の活躍具合からいっても、ついでに実戦経験の密度からいってもお勧めです。
 休憩をちょいちょい挟み全回復しつつ戦うので、「連戦だからHPもMPもからからだよー」ということはそうないでしょう。

 安全なシェルターの中で宿泊します。
 軽く数ヶ月くらい生活できる宇宙船みたいな施設なので、シャワーや食事の心配はございません。
 ご興味ありましたら、修学旅行っぽく楽しんでいただいてもOKです。

 二日目は今回のオオモノ、デッドコースターへ挑みます。
 参加者全員で力を合わせて戦いましょう。
 (※念のため、依頼人数が成立ギリギリでビギナーさんだけだったなら、トライせずに帰還してもOKです。一日目にしっかり働いていれば依頼は成功判定となります)
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2017年12月22日

■メイン参加者 8人■


●黎刻ニューアイランドシティ浄化運動
「っし、準備バンタン!」
 叶・桜(CL2001644)はガントレットの分解点検を終えると、ばしんと拳を左手に叩き付けた。
 ふと窓の外を見ると、近代的な人工島の姿が見える。中央部がかなり派手に壊れているが、それを除けば住みやすそうな都会だ。いや、妖がまだうようよしているのだったか。
「また来たぜレーコク島! 前より強くなった分、腕試しだ! ……余計なのもついてきちまったけど」
「誰が余計なものですか」
 靴底に鉄板を仕込んだショートブーツでこんこんと足場を叩いて、叶・笹(CL2001643)は桜をにらんだ。
「二人は兄妹なんだよね、ソックリだけど双子さんなのかなぁ?」
 向かいに座っていた『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)がかくんと首を傾げる。
 肘や膝のサポーターや耐衝撃ベスト。格好からしてアイスホッケーでも始めそうな装いだが、こうみえてベテラン覚者である。
「まあそんなところです。今日は桜が心配になったので……」
「なかよしなんだねぇ!」
 にこにこと笑って言う奈南に、応とも否とも言えずにもごもごする笹。
 そんな様子を、『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)は独特の渋みをもった笑みで眺めていた。
「しかし、妖退治も随分進んだねえ。さすがに島一つとなるといっぺんにってわけにはいかないみたいだけど……」
「そうですね。はやく一般の方が暮らせる場所になるよう、頑張りましょう」
 ごくごく当たり前に言う『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)。
「なにやら、色々あったと聞いております」
 二人の会話にそっと混ざるようにして、『美獣を狩る者』シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)が両手を膝の上に置いた。
「一度潰えたとはいえ、力強い再起はよいものですね。それに、楽しんでやる苦労は苦痛を癒やすといいます」
 そこにはない剣の柄をなでるように指を動かす。
「ワタシの剣はとても利己的ですが、それがよいことにつながるのであれば……」

 ヘリが目的地へ近づく。
 窓から見える小さな遊園地には、レールの上をはうようにして巨大なムカデ型妖があった。
 大辻・想良(CL2001476)は目を細め、ゆっくりと息を吐く。
「まだ、こんな妖が残っていたんですね。初めて見ますが……妖は倒します」
「そうか。発見された場所から動いてなかったんだな。僕はこれで二度目だ」
 水蓮寺 静護(CL2000471)が瞑目したまま刀の柄を撫でる。
「丁度いい、ことのついでに、倒してしまおう」
 それできっとスッキリとする。
 そんな風に言って、静護は眼鏡のブリッジを指で押した。

●鋼
 ねじくれた鉄パイプたちが人の形に練り上がる。螺旋状に組み合わさった棍棒を握り、五人組で駆け寄ってくる。
 対して――。
「ガシガシいくぜ! ……覚醒!」
 空色の精霊刺青を燃え上がらせ、格闘の構えをとる桜。瞬時に装着されたガントレットを握り込むと、先頭の敵が顔めがけて繰り出した棍棒をかがんで回避。
 二匹目の追撃をガントレットの甲で受け止めると、ぐるりと回転しながら二匹の間をくぐり抜ける。
 急に眼前に出てきた桜のあわをくった残り二匹の隙をつくように腹に拳一撃、頬に追撃、回転を加えて裏拳で更に追撃。
 ようやく対応を終えた残り二匹が棍棒を振り上げるが、その時には桜は拳を真っ赤にヒートアップさせていた。
「受けてみな、俺の術式!」
 正拳突きのフォームで繰り出した炎の拳が妖にクリーンヒット。
 火だるまになったまま吹き飛んでいく。
 が、残り一匹がここぞとばかりに棍棒を繰り出してきた。
「うおっとしまった!」
「ああ、しまったな」
 しかし棍棒が彼にヒットすることはなかった。
 横から差し込まれた刀が棍棒を受け止め、ねじるようにからめて棍棒を取り上げてしまったからだ。
 誰の刀か? 他ならぬ静護の刀――妖刀『絶海』である。
「踏み込みが甘いぞ。先の先を読んで戦うんだ」
「わかってるっての!」
 そこへここぞとばかりに集まってくる鉄パイプ妖の群れ。
 二人を囲み、一斉に構える。
 静護と桜は一度背中合わせになると、小さく振り返りあってから頷いた。
「同時にいくぞ。そっちは任せた」
「よっしゃあ!」
 二本指に水気を固め、刀の背を滑らせる静護。
 一方でガントレットを散弾モードにして構える桜。
 桜のパンチと静護の一文字斬りが鋼の散弾と水気の散弾となり、鉄パイプ妖を一斉に薙ぎ払った。
 そんな彼らへむけ一直線に突っ込んでくる軽トラック。
 いや、軽トラックから生まれた妖だ。
 全速力で走ったかと思えば直前で六本足を生やし、運転席をがばりと開いて蜘蛛のように食らいついてくる。
 が、その直前に目を覆うようなフラッシュが炸裂。
 狙いを外した軽トラ妖は盛大に空振りし、転倒したまま地面をすべっていく。
「いいタイミングだ」
「男の友情みたいで、邪魔したくなかったんだけどねえ」
 振り返る静護。視線の先で、コンテナの影から恭司があたまをかりかりとやりながら姿を見せた。
 手にしているのはデジタル一眼レフカメラだが、れっきとした神具である。
「これを最初に見たのもこの辺りだったかな。なんだか、懐かしくなるよ」
「詳しく聞きたい思い出話だが……どうやら後回しになりそうだな」
 刀を構え、視線を周囲に走らせる静護。
 軽トラ妖が起き上がり、同じく三体の軽トラ妖が集まってきていた。
「そうみたいだ」
 恭司はすかさずカメラを連写モードで撮影しながら走り始める。彼をなぎ倒さんばかりに腕が振り込まれるが、それをスライディングで回避しながら撮影を継続。追って、撮影した全ての箇所がばちばちとスパークし軽トラ妖が爆発四散した。
「これを片づけてから、かな」

 ネイルガン(木材などに釘を打ち込む機械)を装備した木材妖が釘を乱射しながら突っ込んでくる。
 奈南がそれをホッケースティックの人薙ぎで打ち払うと、風圧によって周囲の砂塵が舞い上がった。
「想良ちゃん、そっちはどぉ?」
「ちゃん……」
 表情こそ変わらないが、なにかピンときたような目をする想良。位置は奈南のすぐ頭上、ブロック状に積まれたスチールスクラップの上に立っていた。
 周囲へざっと視線を回す。肉眼にプラスして守護使役スキルの『ていさつ』を使ってのサーチである。
「八時方向から敵。赤いやつです。前にスキャンした鉄板と同タイプ……」
「体力たくさんあるんだねぇ、まかせて!」
 くるりとピボットターンをかける奈南。
 その一方で、想良が雷獣の術式を行使した。
 奈南の後方。シャッと飛び出してきたコピー機のヤドカリみたいな妖だ。
「ついでに一時方向から一体だけ。術式耐性が低かったので、今倒しました」
「ありがとねぇ。今度はナナンの番、せーのっ!」
 姿を見せた赤い鉄板妖。しかし出現のタイミングを把握していた奈南はタイミングよくスティックを叩き込んだ。
 もろにくらってのけぞった所に更にもう一発。
 大地を軽くめくるほどの衝撃に、鉄板妖たちがたちまちバラバラになっていく。
「名コンビだねぇ、想良ちゃん!」
 想良はどう反応したものかという沈黙を挟んだあと。
「……どうも」
 とだけ言った。

 フォークリフトががちゃがちゃと変形し、人間のように手足を伸ばした。人間シルエットとの大きな違いがあるとすれば、荷物を運ぶためのフォークバーを剣のように両手に装備したことだ。
 大上段に振り上げ、アスファルト地面を壊す勢いで叩き込む。
 しかしフォークリフト妖がとられたのは、目標の残像――燐花の残像のみだった。
 接触寸前に右側によけた燐花は跳躍とともにフォークリフト妖のボディを切り裂いていく。小太刀で走らせた小さな傷もスピードが加わることで強烈な断裂へと発展するのだ。
 そうしてぱっくりと二分割されたフォークリフト妖が爆発。
 飛び散る破片を背に、燐花はちらりとアイコンタクトを送った。
 送り先は笹だ。
 爆発によって飛び散る破片に本能的な反応として顔(?)を腕で覆ったドラム缶妖に向け、ここぞとばかりに笹が駆け込んでいく。
 途中にあった自動車の上をロールをかけて一瞬で乗り越えると、その勢いのままダッシュキックを叩き込む。
 ばきんと音をたててへこみ、吹き飛んでいくドラム缶妖。
 ホースを編み上げた大蛇のような妖が横から食いついてくるが、アーケード街を歩くような気軽い足取りで割り込んできたシャーロットが刀を『すいっ』と振った。
 大蛇の喉に刺さった刀のきっさきが流れるように腹からしっぽにかけて進んでいく。
 ぱっくりと開かれたホース妖が、ゴムホースの破片になって散っていく。
「す、すごい」
「それほどでも……あ、後ろです」
 ちらりと視線込みで笹の後ろを示すシャーロット。咄嗟に後ろに意識をやると、ドラム缶妖が飛び上がって笹に襲いかかるところだった。
 豪快な後ろ回し蹴りで対空。べこんと音を立ててドラム缶妖はへこみ、まがり、力尽きてもとのドラム缶へと戻っていった。
「ふう……一対一ならそろそろなんとか……」
「そういう都合を、あまり考えてくれない方々のようで」
 がちゃがちゃと音を立て、ドラム缶妖が団子状に固まって突撃をかけてくる。
「リンカ。たしかワタシの剣を見たいと」
「はい。また近くでみたいな……と」
「では」
 ダンスを誘うかのように手を翳すシャーロット。
 燐花はそれに応じるかのように手を取り、かくして同時にその場から消えた。
 と思ったら、ドラム缶妖の群れが突如として爆発四散した。
 否。
 凄まじい拘束でドラム缶妖の群れへと突っ込み、そこからシャーロットが燐花もろとも振り回し凄まじい破壊力をまき散らしたのだ。
 それゆえ、爆発四散しとびちる残骸の雨にさらされつつも、燐花とシャーロットは手を取りあったまま小さく礼をしていた。
「そう……一つ、確認しておきたいのですが」
 礼をしたままの姿勢で笹を見るシャーロット。
「ササ、とお呼びしても?」

●夜
「シャーロットさんシャーロットさん! それでそれで、その時どうしたんですか!」
 笹がグーにした両手を上下に振りながら目を光らせていた。
 こちらレーコク島に設けられたシェルター施設。
 日頃から多少の浄化作業はしているらしく毎日誰かしら常駐しているという、軍事中継基地みたいな施設だった。
 どこからそんなお金が、と思ったけどどうやらファイヴ基金とかいうものがあるらしい。国の出資とはまた別に。
 ……などと考えていたら笹がぐっと顔を寄せてきた。
「シャーロットさん」
「はい……すみません、ササ。なんの話でしたか」
「剣士の動きを見て学んだこと、の所です!」
「はい……『計算された恋は卑しいものですが、計算された斬撃は美しい』と」
「なるほど!」
 がしがしとメモり始める笹。若さの輝きに、ちょっと目を焼かれそうだった。

「あいつなにはしゃいでんだ……仕事中くらい落ち着けってんだよな」
 本人が聞いたら全力のトーゥユーをかましてきそうなことを言いつつ、桜はレトルトカレーを電子レンジから取り出していた。
「俺、知らなかったよ。レンジでチンするだけでいいレトルトパックがあるとかさ。簡単すぎるだろ。どうなってんだよ日本の技術は」
「妖が出てもファミコンが発売されるような社会だものねえ。よく考えたらすごい政治判断だよ。戦時下で日常を優先するなんて」
「ふぁみ……? なんだそれ?」
「えっ」
 粉ココアにお湯を注いでいた恭司が桜を二度見した。
「ともかく、暖かいご飯とベッドがあるのはありがたいことです。おかげで今日はゆっくりと眠れます」
 燐花がレトルトパックからカレーをご飯に注ぎかけていた。
「……うん、そうだね」
 カレーライスが電子レンジ一個で作れる時代である。
 恭司は、自分がアラフォーであることを自覚した。

 シャワールームから出てきた奈南が、髪をドライヤーで乾かしている。
「想良ちゃん、次いいよぉ」
「……はい、どうも……」
 ご飯は持ち込んだおやつやお弁当ですませた想良は、奈南に言われてシャワールームのドアを開いた。
 電話ボックス程度の広さで、やや頑丈そうな作りをしたシャワールームだ。
 レバーをひねると暖かいお湯が出てきた。
 扉の外から奈南の声がする。
「想良ちゃん。ベッド隣同士にしようねぇ」
「……え」
「寝るまでお話するのだ!」
「……はい。わたしでよければ」
 想良は目を瞑って、お湯を浴びた。

 暗く静かな都市。
 本来なら無数の明かりが夜景を彩るであろうレーコク島は、まだ街灯の光すら灯っていない。
 電気や水道は通っているとはいえ、住民がいない以上灯す意味をもたないのだ。
 だが……。
「僕がはじめに来たときに比べれば、ずっと人間のすみからしい」
 静護はシェルターの外に出て、冷たい夜風にあたっていた。
 ここにやがて明かりが灯り、並び立つビルの窓まで明るくなる日がくるのだろうか。
 妖や隔者の問題なんかより、残業時間や会社付き合いを気にするような日が。
「……いや、僕が考えるようなことでもない、か」
 静護は苦笑し、シェルターへと戻った。

●遊園地
 翌朝、元気いっぱいになった覚者たちは遊園地へ繰り出した。
 ……などと書くとものすごく遊びに行ってるっぽいが、モチロン立派なお仕事である。
 がらがらががんとレールの上を走るムカデ型妖『デッドコースター』。高いレールの上からこちらを見下ろすと、金属をひっかいたような奇声をあげて飛びかかってきた。
「先制するつもりでしょうか」
「させません」
 飛びかかるデッドコースターに向けて垂直発射でジャンプする燐花。
 空中で無理矢理姿勢を制御すると、デッドコースターの頭上に『着地』してそのまま駆け上がっていった。
 軌跡をなぞるようにして刀の傷が開き、ばちばちとスパークを起こす。しかしそこはランク3の妖。無理矢理傷口を接合させると、大地にやや歪んだかたちで着地した。
「想良ちゃん、一緒にいくよぉ!」
「はい……」
 空へと飛び上がる想良。
 反対側へと走り出す奈南。
 吠えるデッドコースターを相手に、本件最後の戦いが始まった。

「ぜえ、ぜえ、なんだこいつタフだな……!」
「がんばって、えいえいおー!」
 体力切れで疲れ切った桜の背中をばしんと叩き、元気よく応援する奈南。
 奈南の応援はなんでか体力がぐぐっと戻ってくる気がした。現に三割近く回復しているのでむりはない。
「想良ちゃん、そっちはどうかなぁ」
「弱点は割り出しました。今から言うところを攻撃してください」
 飛行して距離をとりつつ、デッドコースターをよく観察して味方の攻撃精度を上げていく想良。
 恭司はそれを受けて、デッドコースターの間接部や接合したばかりの傷口などを重点的に狙っていった。
「しかし、こうして撮影した画像は残せるわけだから……後でアルバムでも作ったら記念になりそうだねえ」
 島での戦いに長く関わった恭司はそれだけ島の色んな風景を撮影してきた。
 戦いの姿や、傷ついた街や、助けた人々。もしかしたら、とても歴史的な場面の中心に自分は立っているのかも……などと、ふと思った。
「よっしゃ、攻撃チャンス!」
 恭司のショットによってひるんだデッドコースターへ桜がここぞとばかりに接近。顔面に全力パンチを叩き込んだ。
 がきんと音をたてて歪むフレーム。
 直後、桜の肩を踏んで跳躍する笹。
「うおおっ、俺を踏み台に!?」
「いい位置にいたので」
 回転をかけフライングキックを叩き込む笹。
「夕飯のおかずもらうからな! 一品!」
「安いものです。シャーロットさん、どうぞ!」
「お言葉にあまえて」
 ここぞというタイミングを狙って力をためにためていたシャーロットは、限界まで研ぎ澄ました剣をデッドコースターのボディに叩き込んだ。
 大きく切断されるボディ。
 接合も間に合わず、びたびたとのたうつデッドコースター。
 それでもなんとか笹や桜にくらいつこうとする様に、静護は生命のあがきを見た。
「シャーロット君、二人に見せ場を譲ったのか?」
「ええ、『空気を読む』というのでしょう。最近覚えた言葉です」
「それもいいが、そろそろ終わりにしよう」
 長いこと放置して悪かったな、と呟いて静護は星のごとく駆けた。
「『四の刃・閃』」
 駆け抜けた後、刀を納める。
「空を断ち、音を裂き、光を穿つ。貴様には、見切れなかったようだな」
 静護が目を閉じると、デッドコースターがばらばらに砕けて散った。

 かくして、レーコク島工業地区の浄化は終了した。
「もう随分妖の数も減ったんじゃないか? 人を入れるなら、もう同じ失敗は起こさないようになればいいな」
 誰かがそんな風に語って、本件は完了である。
 そう遠くない未来、この島には人々が住み、覚者の警備員が見回るような光景が広がるだろう。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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