敬老の気持ちを込めて蹴る殴る
敬老の気持ちを込めて蹴る殴る


●老人六人の歓談
「どうやら儂の勝ちのようじゃ」
「ふん! 今のはあえて勝ちを譲ってやったのがわからンのか、このスケベジジイ!」
「まーまー、トキコさん。負けは素直に認めんと」
「あたしゃトミ子だよ! この耄碌ジジイ!」
「もう六時? ああ、そんな時間かの。じゃあそろそろご飯でも食うとするか。どこかええ所があるか知らんか?」
「儂か?」
「この辺に一番詳しいのはお前じゃろうが。なんとかって学園に世話になってるとか。……ゴレン?」
「五麟学園じゃな。あそこの学園長が儂の息子の知り合いでなぁ」
「なんでお前はあたしの名前を憶えないくせにそういうところは覚えとるんじゃ!」
 そんな会話をするのは、平均年齢九十八歳の老人たち。敬老の日と巨大連休を生かして、家族連れで京都に旅行に来ていた。なお、元から京都――というかFiVEにいる『気炎万丈』榊原・源蔵(nCL2000050)はその付き添いで……道場にいた。久しぶりに集まった親友同士、格闘の試合をしていたのだ。
「家族旅行で京都に来て殴り合いとか。正直どうかと思うがのぅ」
「ふ抜けたか、源蔵。あたしたちは死ぬまで現役じゃ。若いもんにはまだ負けん!」
「ふぇっふぇっふぇ。トキコさんの言う通りじゃよ。何なら今から若い輩に活を入れに行ってもいいんじゃよ」
「だからあたしはトミ子だって!」
「うむ。源素に頼る覚者の若人に戦闘というものを教えぬとな」
「ふぉっふぉ。『竜驤虎視』の再結成か。悪くないわい」
「……まあ、皆が言うなら」
 この老人たち、若いころはそれなりに名を連ねた武術家である。年を重ねて引退したが、いまだ鍛錬は怠っていないという。まあ、引退後に因子発現したのが理由の一つなのだが、老いてなお血気盛んなのは確かだ。本当にこのまま『若人狩』を始めかねない。
「あー。そこまで言うなら、若くてそれなりに強い奴を紹介するがどうじゃ?」
 背に腹は代えられない。このまま彼らを野に放って事件を起こさせるよりは、手頃な相手を用意して発散させた方がいい。あわよくば、倒してくれるとなおいい。
 許せ、FiVEの連中。これも敬老と思ってくれ。

●五麟学園剣道場にて
「……というわけで、儂らと戦ってくれ」
 非常にすまなそうな顔で嘆願する榊原であった。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.老人六人を戦闘不能にする。
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 敬老とは何だったのか。

●敵情報
『気炎万丈』榊原・源蔵
 火の精霊顕現。百歳男性。トンファー使いです。事の元凶。
 友人たちのガス抜きのために、FiVEの覚者を宛がいました。他の老人には『五麟学園で鍛錬している武闘派達』という紹介をしています。
『五色の彩』『醒の炎』『閂通し』を活性化しています。

『万夫不当』米沢・トミ子
 木の前世持ち。九十八歳女性。柔道家。ある意味すべての元凶です。
 源素に頼るなど軟弱の証、とばかりに体術を重視しています。
『連覇法』『小手返し』『霞返し』『物攻強化・壱』『物防強化・壱』を活性化しています。

『鴉天狗』久保田・大和
 天の翼人。九十八歳男性。元AAA。この状況を楽しんでいます。
 人の名前をわざと間違える意地悪ジジイ。後衛から攻めてきます。
『エアブリット』『纏霧』『演舞・清風』を活性化しています。

『堅牢なる十手』飯田・カナエ
 土の付喪。百歳女性。田舎で対妖の自警団長をしています。基本無言で、唯一の良識派。
 十手(ナイフ相当)を武器とし、防御に長けます。
『機化硬』『無頼』『蔵王』『命力分配』を活性化しています。

『物心一如』真淵・元
 水の変化。小さな剣道場を開いています。九五歳男性。覚者と戦えることに心躍っています。変化後の姿は『百歳の自分』です。
 自分の剣術に自信があるのか、水の術を使いません。
『B.O.T.』『斬・一の構え』『疾風斬り』『貫殺撃』を活性化しています。

『正鵠を射る』双葉・仁
 水の獣憑(未)。九六歳男性。国際大会で記録を残すほどの射撃手。ゴム弾が入った銃(スリングショット相当)を武器にしています。
 戦局を冷静に見て、攻撃や支援に動きます。
『水礫』『薄氷』『戦之祝詞』『風之祝詞』を活性化しています。

●補足事項
 基本的に神具で本気攻撃しても問題ありませんが、明確な殺意を込めるのは禁止。
 プレイングに『相手を倒したら殺します』旨のプレイングを書かない限りは、戦闘不能になっても死にません。

●場所情報
 五麟学園にある剣道場。許可はとってあります。人の目とかは気にしなくていいです。
 足場とか明るさとかは問題なし。便宜上、広さは二〇メートル四方とします。
 戦闘開始時、『榊原』『米沢』『飯田』『真淵』が前衛に。『久保田』『双葉』が後衛にいます。味方前衛との距離は五メートルほど。味方の初期配置はご自由に。
 事前付与なし。審判の試合開始合図と同時に行動です。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

(2015.9.28)
『気炎万丈』榊原・源蔵の装備スキル表示に不具合が生じていたため修正が行われました。
 
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年10月09日

■メイン参加者 8人■



「げんぞーさんが、達人を連れてきてくれたと聞いて!」
 知らせを聞いて剣道場に真っ先にやってきたのは華神 悠乃(CL2000231)だ。五麟学園でも格闘を行っている悠乃は、情報を聞いていの一番に駆けつける。経緯は聞いているが、そこは問題ではなかった。達人と戦える。それだけで十分だ。
「武の道を長く歩み続けた先人と相対せるとはこの上なく得難き事。その業を、武を身をもって教示頂けるとは。何と有難き賜わり物か」
 言って感涙するのは『卑金の魂』藤城・巌(CL2000073)。その涙も、握った拳も全て本気である。握った拳で涙をぬぐい、その拳を開くことなく直立する。そのまままっすぐ一礼し、瞑目した。
「どっちかというとそっちに近いんじゃが、まだまだ若輩者ってことでよろしくなのじゃ」
 帽子を胸に当て、軽く会釈する『自称サラリーマン』高橋・姫路(CL2000026)。御年五十七歳(二〇一五年一〇月現在)の姫路は、このメンバーでも最高齢だ。それでも相手の年齢からすれば折り返し。若輩を認め、だけど負けぬと笑みを浮かべた。
「竜驤虎視……なんだかすっごく強そうな名前だね!」
 京極 千晶(CL2001131)は老人たちの昔話を聞きながらうんうん頷いている。嘘か真かはわからないが、その話自体を千晶は楽しんで聞いていた。強い相手と戦えることは心が躍る。自分の抜刀術がどこまで通用するのか、今から楽しみだ。
「ボクも戦うのすきー」
 緊張感のない声で八百万 円(CL2000681)が手をあげる。声こそゆるりとしたものだが、その瞳と発する気迫は鋭い。不要な時は脱力して、狩りの時に牙をむく。円のそれは、まさに獣の如き態度だった。
「老いてなお盛ん、とはこの事か」
 経緯を聞いた八重霞 頼蔵(CL2000693)は老人たちを見て静かに呟く。悪意はない。老いて衰えるよりは、元気な方がいいに決まっている。もっとも、元気がよすぎて人狩りに向かうのは問題だ。黒の戦闘服を身にまとい、臨戦態勢を整える。
「残念でしたね! 私は人類と殴り合うのなんて、生まれて初めてなのですよ」
 車いすに乗ったままの状態で橡・槐(CL2000732)が胸を張る。言葉の真意はというと、妖などとは遣り合ったことはあるが対人戦は初めて、ということだ。その為対人の経験を積んでおきたいために、ここにやってきたという。
「若輩にこのような機会を与えていただいたことには深く感謝しております。ですが、こちらもみすみす負けるようなことはいたしませんので」
『狗吠』時任・千陽(CL2000014)は老人たちに一礼して、そして宣告する。英気盛んな老人たちの手ほどきだ。このような機会がなければ受けることはできないだろう。軍服を正して手袋をはめる。宣告通り、負けるつもりは毛頭ない。
「対戦形式はどうしますか? こちらとしては一対一を所望しますが」
「甘いこと言ってるんじゃないよ。そっちほうが数が多いんだ。まとめてかかってきな」
 タイマンバトルを提案する頼蔵に対し、あえて拒否する米沢。好きな相手に挑むのは許す。だが、その間戦わない相手が待つのはよろしくない。要するに一対一と余った者たちの乱戦だ。数の上では老人たちの方が不利だが、
「実戦ではよくあること。そんなことで文句を言うほど、こちとら若くないんじゃよ」
 とのことだ。覚者達は苦笑し、各々の戦いたい相手の前に陣取る。
 一礼し、構えをとる。試合開始の旗が振り下ろされ、覚者達は戦いの渦に身を躍らせた。


「なーなー。クボタってどれー?」
 円の質問に老人たちはいっせいに翼人の久保田を指す。久保田当人は榊原を指すが、多数決で決定とばかりに円は久保田の方に近づいた。有象無象の刀の中から二本を抜いて、垂らす様にだらりと構えた。
 土の因子を活性化させて土の鎧を身にまとう円。そのまま久保田に向かって突撃する。寝ぼけていた雰囲気はすでになく、円を包む空気は戦闘狂のそれ。獣のような笑みを浮かべ、爪を振るうように剣を久保田に叩きつける。
「やりおるやりおる。なかなかじゃのう」
「負ける気はないぞー。うおー」
「戦闘になれば男も女も老も若もあらへん。お互い手心はあらへんよってな」
 姫路が榊原に近づき半月斧を構える。武器を持って相対する以上、相手の状態など関係ない。全力を尽くすこと。それが相手への敬意なのだ。重心を意識して腰を下ろし、両手でしっかりと神具を握りしめた。
 体内の炎を燃やし、榊原を見やる。ともに炎の精霊顕現。一撃に特化した姫路と、動きやすさを重視した榊原。どちらが上ということではない。ただ今回は姫路の斧が榊原の肩を穿った。重い一撃を受けて、榊原の攻めが一瞬止まる。
「あいたたた。相手は若くてかわいい子がよかったんじゃがなぁ」
「すまんのぅ。しばらく付き合ってもらうぞ」
「真淵さん、自分の名前は京極千晶! お相手よろしくお願いいたします!」
 帽子をかぶって一礼する千晶。刀に手にかけ腰を下ろして構えを取った。千晶が習ったのは抜刀術。対し真淵は抜き身の刀を正眼に構えている。長年培ってきた芯の通った構え。それを感じ取りながら、千晶は一歩踏み込んだ。
 抜刀と同時に魂の炎を燃やし、身体を活性化させる。踏み込んだ足から膝、腰、背骨を通じて肩、そして手のひらから刀。伝達する力を刃先に乗せて、真淵の構えに叩き込む。刃同士が交差し、衝撃と同時に互いの気迫も交差する。
「楽しい戦いになるといいね!」
「その軽口、どこまで持つかの」
「それじゃあ、やりあいましょうか!」
 飯田を指さし悠乃が宣戦布告する。飯田がそれを受けるように足を向けたことを確認し、間合いを詰める悠乃。もう一歩踏み込めば蹴りの間合い。もう二歩踏み出せば拳の間合い。そんな場所から相手の動きを見やる。
 ステップを踏んで相手を翻弄しながらタイミングを計る。悠乃の動きに合わせて十手の先がゆらゆら揺れる。その揺れがブレたのを感じた瞬間に拳握って踏み込む悠乃。十手の防御は間に合わず、拳は飯田の胸部を打つ。
「私の牙を振るえる限り叩きつけます。なので防いでみせて欲しいな」
「いいわ。思いっきり来なさい」
「なんたる余裕! 心の広さ! これが達人と呼ばれる人たちの精神性なのか!」
 飯田の態度を若人に物を教える先駆者と受け取った巌が、大きく深く頷いている。なんという人たちか。あまつさえ戦う理由を『血気を発散させる為』等と言う口実に包む気遣い。まさに黄金の精神といえよう(巌視点)。
 皆が対戦を避けた米沢に一礼して挑む。相手は自分よりも小柄だが、だからと言って油断しない。己が無才であることを知り、しかし恐れずに進む巌。その体躯でもない、源素でもない。ただまっすぐな心と一撃こそが巌の最大の武器。
「無才のこの身、ただ全身全霊でお答えする事以外には持たぬ!」
「威勢がいいねぇ、若いの。そういうのは嫌いじゃないよ」
「時任千陽と申します。よろしくご指南お願いします」
 一礼して神具を構える千陽。顔をあげれば銃を構える双葉の姿。軍人ではないが、銃を使うことに慣れた立ち様と間合い。動けば撃つという蛇のような気迫を受けて、千陽は肌が凍るような感覚を覚えていた。動くな、いや動かねば。
 相対していた時間は実際の所、数秒程度だっただろう。だがその間、千陽と双葉の間で交差した隙の探り合い。双葉の手首が動く。それを待っていたかのように、千陽は腰を落として引き金を引いた。弾丸はまっすぐに双葉を穿つ。
「いい反応だの。軍の動きか」
「自分でも驚きです。鍛錬は裏切らない、というやつでしょうか」
「さて、多人数でのお相手になりますがよろしくお願いします」
 袖と襟を正し頼蔵が米沢の前に立つ。他の人たちは一対一で申し訳ない気分になるが、当の老人たちがそれで良いといったのだ。その好意に甘えるとしよう。サーベルを二本両手に構え、近づいていく。
 頼蔵のサーベルが地面を薙ぐように走る。相手の足を狙った一撃は読まれていたのかあっさり避けられる。だがその先に迫る二本目のサーベル。燕が弧を描いて飛ぶように、頼蔵の刃は剣の間合い内を翻り、米沢を傷つける。
「初手から仕留めさせてもらいます」
「そりゃ正しいね、あたしもそうさせてもらうよ!」
「それではいざ尋常に、行きまっしょい!」
 乱戦――というよりはタイマンバトルから少し外れたところに槐がいた。対人戦が初めてとはいえ、基本的な戦い方は変わらない。『車輪の上』を両手に構え、戦局をしっかり確認する。攻めに守りに。どちらでも対応できるのが槐だ。
 背筋を正し、呼吸を整える。リラックスした槐から風が吹き、鼻孔をくすぐる匂いがその風に乗って流れる。植物の生命を香りが肉体を安堵させる。それは体内の抵抗力を高めて敵の攻撃に耐える防御の術。新緑の風を吹かせ、槐は静かに告げる。
「少女臭というやつです。どうぞお受け取りください」
「儂、それ受け取りたいのぅ……」
 少女の言葉に榊原が悔しそうに告げるが、華麗にスルーされた。
 自分より多くの経験を積んだ老人たち。その動きを覚者達は受け止め、自らの経験に付け加える。勝った負けたは二の次だ。今はこの一打一打を全身で感じ取ろう。
 いつの間にか集まってきたギャラリーの歓声を受け、覚者達の戦いは加速していく。


 戦いは一対一の五戦プラス乱戦の形である。
 円VS久保田。
 姫路VS榊原。
 千晶VS真淵。
 悠乃VS飯田。
 千陽VS双葉
 頼蔵&巌VS米沢。
 そして離れたところから支援と防御を行う槐。槐は形勢的不利な覚者がいれば庇い役として立ちまわっていた。彼女が不利と判断した戦いは、
「薄い本を厚くするのは本意ではないのですが」
 よくわからないことを言いながら頼蔵をガードする槐。米沢の掌を『車輪の上』で受け止める。細い腕ながらも鋭く打ち出された米沢の掌打。それをしっかり受け止めて笑みを浮かべる槐。この程度では倒れてやりません、とばかりに。
(思念波を送って心を乱すか? いや……)
 頼蔵はサーベルで米沢に切りかかりながら、思念を送って相手の気を乱そうとして……それを行おうとすれば剣の動きが疎かになる為、やめることにした。左右の剣を交互に繰り出し、米沢を傷つけていく。
「うぉおお! 行くぞぉおお! ぬあああ!」
 気合。裂帛。咆哮。巌は拳を振るうたびに大声をあげて挑む。負けてられないという気負いもあるが、巌自身の性格もあった。だが声が大きいだけではない。その体躯から繰り出される一撃もまた、大きく鋭い。
「どんどん踏み込んでいきますよ」
 悠乃は飯田と離れることなく戦いを繰り広げている。悠乃の格闘技はコミュニケーションだ。最も近い場所で相手を理解する術。学んだ技術がその人間を示し、それを受けることでその人を理解する。だから悠乃は踏み込んでいく。
「別に殺す気はないけど死んじゃったらどんまい」
 加減無く久保田を攻め続ける円。元野生児の円は死生観が若干異なる。戦って死んでしまえば仕方ない。二本の神具を交互に繰り出す様に加減はない。明確な殺意こそないが、言葉通り死んだらその時考えようとばかりの攻め方だ。
「熱い、熱い、熱いね」
 源素の炎を燃やして姫路が肩に斧を構える。炎が体中の細胞を活性化させ、筋肉の出力を上げていく。自然と口に浮かぶ笑み。自分自身が一つの武器であるかのように、踏み込むと同時に叩き下ろされる斧。轟音と熱気が激しく渦を巻いた。
「こういうのはどうかな!」
 千晶は真淵と切りあいながら、戦い自体を楽しんでいた。自分の知らない技、自分の知らない攻め方。それを見て、受けて、そして返して。同じ刀を使う戦い方なのに、まったく異なる動き。それをどう倒すか。千晶は想像するだけでワクワクしていた。
「老獪とは、正にこの方たちのためにあるような言葉だな。攻めづらい」
 双葉と打ち合う千陽は攻めれば攻めるほど、深みにはまっていくのを感じていた。こちらの攻めを封じるように撃ち、相手の射撃に反応すればそれはフェイント。表と裏。裏と表。まさに老獪。果たして自分は攻めているのか、相手に攻めさせられているのか。
「あう……!」
「うおおおおおおおお! まだ負けぬ! 全力を尽くす!」
 千晶と巌が老人たちの攻撃で、気を失う。千晶はそのまま倒れ伏し、巌は命数を燃やして意識を取り戻し、雄たけびと同時に起き上がる。
「これでしまいー」
 円の剣撃が久保田を伏す。そのまま円は真淵の方に向かい、刀を振るう。
「限界を超えてこそ男じゃからな」
「まだ終わるつもりはありません」
 姫路と千陽も老人たちの攻撃で膝をついた。二人とも命数を削って戦線に復帰する。先達から学べる機会を放棄するなどもったいないとばかりに。
「どうやら私の防御を突破する火力はないようですね」
 ふふん、とばかりに槐は米沢に言う。完全に防ぐことはできないが、かなりの衝撃を止める槐の防御力を前に、米沢は攻めあぐねていた。
「すまないとは思うが、これも戦略だ」
 槐の防御に守られながら頼蔵が攻める。守られているとはいえ、迂闊な攻めはカウンターを喰らいかねない。注意しながらサーベルを振るう。
 一対一の戦いは互いの体力を削り、そして一人また一人と戦線離脱していく。天秤は若さなのかそれとも覚悟の差なのか、FiVEの覚者の方に傾きつつあった。一人、また一人と倒れてゆく老人たち、
「きゅー」
 全力で動いていた円が真淵の刀で力尽きるが、覚者の勝ちは揺るがない状態だ。
「流石防御に長けるだけのことはあるよね!」
 悠乃が飯田を攻めながら笑みを浮かべる。堅牢な飯田の防御を、多彩な攻めで追い込む悠乃。手首を押さえようとする十手の動きを、手首を回転させて流して拳を相手の胸に押し当てる。
「これが『私』です。ありがとうございました!」
 自らの全力。それこそが『華神悠乃』だと示すように、拳を強く握って突き出した。
 拳から飯田に衝撃が伝わる。それを受けた飯田は、見事と笑みを浮かべて崩れ落ちた。


 戦い終わってボロボロになった老人たちは、
「お。これ美味いのぅ。京都限定のジュースかの」
 千陽が用意したジュース類を飲みながら、歓談していた。
「源蔵さんの頼みでしたのです。奢るくらいはしますよね?」
 そして槐の一言でデリバリーを呼ぶことになり、大量の寿司が並んでいた。車いすに座り、もぐもぐと寿司を食べる槐。領収書を見て肩を落とす榊原の姿に、槐は笑みを浮かべていた。
「呆れるほど気持ちのいい方々だな」
 頼蔵はそんな老人たちを見て、こっそり肩をすくめていた。だが死にかけるよりは、活き活きしている方がいいのは確かだ。そう思いなおす。ともあれ満足して戴いたようなので、仕事としては成功か。
「また来年もあそぼーなー」
 目を覚ました円はしゅたっ、と手をあげて外に走り出す。そのまま狸と追いかけっこを始めた。敬老の日は老人たちと遊べる日。それを記憶する円。そんな間違いを抱いたまま、走り去っていった。
「お手合わせ、ありがとうございました! 己が未熟を痛感する次第です……! 我が拳、いまだ至らず! されどこの戦いにおいて多くのことを学びました! 才無き身故にどこまで活かせるかはわかりませんが――」
 巌が拳を握って、まっすぐに老人たちに一礼する。そして道場の外までに響き渡るほどの大声で感謝の言葉を返す。
「この高揚感と痛みは年に関係なく、生きてる実感じゃな」
 姫路がジュースをコップに注いで乾杯する。老いとは精神の在り方。満足して歩みを止めれば老いなのだ。足らぬから歩いていけるのだと姫路は思う。傷の痛みに体を震わせながら、その痛みを喜んでいた。
「自分は構え、照準、撃発の動きの中で照準を多少犠牲にしてもリリースを早めることを優先していましたが、照準も精度をあげることも考えるべきでしょうかね?」
「思うままにやってみぃ。ヌシはまだ若いんじゃ」
 千陽は双葉と銃のことについて話し合っていた。可能性を見つけたら行動しろ。絶対の回答はない。だからこそ常に思考しろ。双葉の言葉に頷く千陽。
「そっか。こういう攻め方もあるのか」
 戦いを思い出しながら体を動かす千晶。自分が使う抜刀術とは違う型だからこそ、知っておいて得になる。こう攻められれば、こう返す。そんなイメージトレーニングをしていた。
「一回限りじゃ勿体無いです。うちのスポーツクラブとか来ません?」
 悠乃は老人たちを自分の通っている体育施設に誘う。ここであったのも何かの縁だ。この機会を逃さず最大限に生かしたい。スポーツクラブの話を聞いて興が乗ったとばかりに老人たちは立ち上った。
「ほほう。まだ元気な覚者がおるというのか」
「若いもンに源素に頼らぬ戦い方を教えてやらンとなぁ」
「では行くとするか。『竜驤虎視』の旗を掲げるんじゃ!」

 ――そして、第二回戦のゴングが鳴る。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 どくどくです。
 キャラ名よりもステータスよりも、二つ名に時間がかかりました。
 そんな老人たちとの戦いでした。

 まさかのタイマンバトル。意外な提案に驚きました。
 これなら八人キャラ作った方がよかったかなぁ? 

 ハッスルな老人たちとの戦いお疲れさまでした。傷を癒してゆっくりとしてください。
 それではまた、五麟市で。



 ……え? また来年?




 
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