関ヶ原ゴーストウォー
●関ヶ原の怨霊
琵琶湖の東、関ケ原町。
かつて徳川家によっておこった大合戦の中心地である。
しかし太古の戦はどこ吹く風で、今日も町には平和に新幹線が走っている。
だが、それも。
今日までのこと。
東海道新幹線走行路のすぐ脇にあった神社が大爆発をおこした。
運悪く走行中だった新幹線はそのあおりをうけ脱線。およそビル三階の高さから転落した車両は乗客約三百名が死亡、その他四百名あまりが重軽傷を負う大事故へと発展した。
この事件を予知したファイヴの夢見は鉄道会社に運休を申請したが、本当に止めるべきは新幹線の運行予定などではなかった。
関ヶ原町にうずまく日本各地より集まった大量の怨念。
それが妖化したことが、真の原因であった。
●怨念を削り去るべし
「教科書にも載っているほど有名な『関ヶ原の合戦』。それはかの地を中心に日本各地へ波及しました。
東北、北陸、近畿、四国、九州……関東とて例外ではありません。
そんな広大な影響力をもった戦いの中心地には、数え切れないほどの怨念が渦巻いています。
数々の寺や神社にて供養され続けたそれらは時には悪性古妖という形で危害をもたらすことがありましたが……今回は別。
巨大な妖化現象が、おころうとしています」
もし関ヶ原全体の怨念がフルパワーのまま妖化してしまえば大妖級は確実。ファイヴはおろか日本国が大きく傾きかねない。
だがしかし、『起こる』と分かっているのなら対処のしようはある。
「今から各地で小規模な妖化を起こさせ、いずれ発生するであろう関ヶ原大妖のパワーソースを削ってしまうのです」
これはいわゆる、大妖を生まれるまえに倒すという重大な作戦なのだ。
「ファイブはこれまで数々の悪性組織と戦ってきましたが、その中には妖化を促進ないしは強制する技術に触れる機会もありました。
それらの研究を進めることで、我々なりに妖化を促進することがきわめて限定的ながら可能になりました」
方法としては、妖化が起きやすいスポットに起きやすいアイテムを集め数日かけてひたすら儀式めいたことをして妖化を待つという非常に地味かつ遠回りな作業だが、今回のように大妖候補のリソースを削り取る作戦にはとても有効だった。
「妖化の促進ができそうな土地がいくつかピックアップされています。
今回はそのひとつ、宮城県は『白石城』で儀式を行ないます」
この儀式によって現われる妖は、強力な将軍妖一体と侍妖数体、そして多くの足軽妖である。
これらを倒しきることができれば、この土地から送られるであろうパワーを大きく削り取ることができるだろう。
「これは巨大なプロジェクトの第一歩です。この作戦が成功すれば、国からより多くのリソースを得て作戦を推し進めることができるでしょう。
皆さん、どうかよろしくお願いします」
琵琶湖の東、関ケ原町。
かつて徳川家によっておこった大合戦の中心地である。
しかし太古の戦はどこ吹く風で、今日も町には平和に新幹線が走っている。
だが、それも。
今日までのこと。
東海道新幹線走行路のすぐ脇にあった神社が大爆発をおこした。
運悪く走行中だった新幹線はそのあおりをうけ脱線。およそビル三階の高さから転落した車両は乗客約三百名が死亡、その他四百名あまりが重軽傷を負う大事故へと発展した。
この事件を予知したファイヴの夢見は鉄道会社に運休を申請したが、本当に止めるべきは新幹線の運行予定などではなかった。
関ヶ原町にうずまく日本各地より集まった大量の怨念。
それが妖化したことが、真の原因であった。
●怨念を削り去るべし
「教科書にも載っているほど有名な『関ヶ原の合戦』。それはかの地を中心に日本各地へ波及しました。
東北、北陸、近畿、四国、九州……関東とて例外ではありません。
そんな広大な影響力をもった戦いの中心地には、数え切れないほどの怨念が渦巻いています。
数々の寺や神社にて供養され続けたそれらは時には悪性古妖という形で危害をもたらすことがありましたが……今回は別。
巨大な妖化現象が、おころうとしています」
もし関ヶ原全体の怨念がフルパワーのまま妖化してしまえば大妖級は確実。ファイヴはおろか日本国が大きく傾きかねない。
だがしかし、『起こる』と分かっているのなら対処のしようはある。
「今から各地で小規模な妖化を起こさせ、いずれ発生するであろう関ヶ原大妖のパワーソースを削ってしまうのです」
これはいわゆる、大妖を生まれるまえに倒すという重大な作戦なのだ。
「ファイブはこれまで数々の悪性組織と戦ってきましたが、その中には妖化を促進ないしは強制する技術に触れる機会もありました。
それらの研究を進めることで、我々なりに妖化を促進することがきわめて限定的ながら可能になりました」
方法としては、妖化が起きやすいスポットに起きやすいアイテムを集め数日かけてひたすら儀式めいたことをして妖化を待つという非常に地味かつ遠回りな作業だが、今回のように大妖候補のリソースを削り取る作戦にはとても有効だった。
「妖化の促進ができそうな土地がいくつかピックアップされています。
今回はそのひとつ、宮城県は『白石城』で儀式を行ないます」
この儀式によって現われる妖は、強力な将軍妖一体と侍妖数体、そして多くの足軽妖である。
これらを倒しきることができれば、この土地から送られるであろうパワーを大きく削り取ることができるだろう。
「これは巨大なプロジェクトの第一歩です。この作戦が成功すれば、国からより多くのリソースを得て作戦を推し進めることができるでしょう。
皆さん、どうかよろしくお願いします」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖軍団の全滅
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●敵戦力
総て心霊系妖。将軍の指揮下で妖たちが戦う。
歴史背景や物理法則を大胆に無視して新規に妖化しているため、動き方やリロードタイム等に史実的弱点はない。
・将軍妖:R3。馬にのった鎧武者の妖。特に強力。刀が武器。
・侍妖:R1。大槍使い、二刀流、火縄銃使い、一刀流剣豪……の四体
・足軽妖:R1。槍を装備した妖の集団。戦力は低いが数が多く、ほとんどが侍や将軍の盾になる。列や全攻撃ではじめに全滅させるが吉。
●立地
白石城二ノ丸跡を利用。
建物は一切残っていない土だけの広場。
その周囲に専用スタッフによる雷獣結界をはるため周囲への被害は心配いらない。
●おまけ
こちらは関ヶ原系列のシナリオ第一弾となります。
集まる客層(主にPCの趣味)に応じて路線を整えていく予定ですので、俺はバトル大好きだぜという方は今回あえて趣味全開で挑んでいただけるとお楽しみ頂けると思います。
勿論ビギナー覚者も大歓迎です。ふるってご参加くださいませ。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
7/8
公開日
2017年12月10日
2017年12月10日
■メイン参加者 7人■

●未来の悲劇をとりかえせ
宮城県は白石、土地にも縁深きは白石城。
防災センターの駐車場から東門前の道を抜け、カバーをした軽トラックが進んでいく。
その後ろに続く形で走るワゴン車に、『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)たちは乗せられていた。
左手側にはいまだ堂々と聳え立つ白石城。現代に残る城は(一部の例外を除いて)戦を耐えきった強き城。ここもまた、かつての大合戦を生き延びた痕跡をあちこちに残している。
その大合戦のひとつが、関ヶ原合戦とその波及戦である。
「白石城かー、白石城つったら片倉小十郎だよなー」
「そうなんですか?」
「ちげーの?」
窓にはりついて見る翔と森宮・聖奈(CL2001649)。
片倉小十郎もとい片倉景綱は1600年代に白石城の城主であった。
遡ると関ヶ原合戦の波及戦『白石城の戦い』にて伊達政宗が上杉景勝から奪い取る形で権利が移り、その後側近である片倉景綱が城主となったという経緯がある。
その後も明治の動乱やら昭和の戦争やら平成の大震災やらをなんとかかんとか生き延びて今日の姿があるのだが……。
「こうしてみると、普通の観光地なのですよね。とても人が死んだ場所のようには見えません」
有名な城ほどではないにしろここも観光地。文化財指定されていないため修繕費その他はすべて自力で賄わねばならず、結局の所観サイドに大きく傾いていた。
バスが二ノ丸跡でとまり、扉が開く。
下りた桂木・日那乃(CL2000941)はすぐそばの城を見上げた。
「将軍の、妖、って。ここの、お城のひと、な、の?」
「さあな。妖ってたしか幽霊にとりついて……ん? とりつかれて? どっちだっけ」
「『霊素を媒介にして発生する』だよ」
軽トラックから降りてきた女性にそう声をかけられ、翔たちは誰だろうという目で見やった。女性がぱたぱたと手を振ってくる。
「能登です。宿命館大学で神具研究をしてるよ。今回協力させてもらう、よろしくね」
白衣を着たボブカットの女性だ。煙草をくわえて手を振る姿からは五麟大学の教授みたいな雰囲気を感じたがどうやら協力関係になる別大学の教授らしい。
能登が軽トラの荷台から出してきたのはなんと言うことの無い鉄くずや土、塩、酒、その他諸々である。
興味深そうに覗き込む『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)。
「へえ、儀式って、ほんとに『儀式!』って感じなんだ。お正月のやつみたい」
「もっと直接的な方法はあるはずなんだろうけど、人類の妖学はそこまで進んでないからねー」
『精神医療より浅いからねー』と言いながら榊やら玉串やらほんとに儀式臭いアイテムをあちこちに並べていく。興味を示した翔たちも手伝って、祭壇的ななにかが完成した。
なんだか白髪の巫女っぽい人が別に現われて、祭壇の前で儀式めいたことを始める。
『めいた』と表現するのは正式な作法を外れて色々な宗教観が混じっているためだ。
「ファイヴが妖化を促すことができるようになっていたとは、驚きましたが……」
儀式の様子を遠目に見守る『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)。
能登は携帯灰皿に煙草をねじ込みながら応えた。
「雨乞いってあるでしょ。雨が降るまで祈るやつ。ほとんどアレに近いんだ。ただ手順や作法を整えると確率を大きく引き上げることができる。うーん……あと30時間は待機ってところかな。最悪一週間くらい近くで待ってて」
「長っ!」
それから実に80時間後。
近くのホテルで寝泊まりしたりなんだりで『でたよー』というコールに応じて駆けつけると、既に雷獣結界による封じ込めが始まっていた。
苦笑してあたまをかく『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)。
「ファイヴの研究成果がこういう風に役立つとは。……さて、次は僕らの出番ってことかな」
顔を洗ってしゃっきりとした『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)も、腕まくりをして結界の中へと立ち入った。
内部では妖がうごうごと形成を始めており、徐々に人の形をつくっていた。
「この妖を倒すことで大妖の誕生を回避できる……壮大なガス抜き作戦というわけですね。わかりました――」
ラーラの手元には魔導書が生まれ、姿を見せた守護使役ペスカの召喚に応じて魔女の衣装にチェンジ。目と髪が炎のごとく染め上がった。
「全力でお相手します!」
●群雄割拠の亡霊
大地からわき出すように生まれたガイコツのような集団。彼らは甲冑とは名ばかりの布服と傘を纏い、和槍を手に突撃をしかけてきた。
一体一体はとるにたらない低級妖だが、群れとなれば話は別。多少心得のある覚者であっても圧倒されてしまうだろう。
しかし――!
「『戦って勝てば』『大事故は起こらない』! すげーシンプルだけど大好きだぜ、こういうの!」
「頭沢山使うのはシュミじゃないしねー」
翔と紡は正面を向いたまま拳をごつんとぶつけ合い、足下から吹き上がるようなエネルギーに包まれて同時覚醒。
紡はどこからともなく取り出したステッキをくるくると回し、翔はベルト固定していたタブレットPCを起動した。
「ファイヴ期待の星、成瀬翔! いざ尋常に勝負!」
「推して参る、ってね」
ホログラムで形成された術式霊刀を掴んで走り出す翔。一方で紡は急速に飛翔し、ステッキの先端につけたスリングショットを引き絞った。
「速攻全力! 合体技だ!」
空中に電流によってズバンと描かれた龍と凰の文字が重なり、巨大な雷の翼竜が発生。足軽たちに電撃のブレスをはき出した。
右から左に、砂塵を吹き払うがごとくである。
相手がいかに妖の群であろうとも、こちらはファイヴ選りすぐりのエースたちだ。
味方同士を盾にした妖たちが猛攻をくぐり抜け翔へ迫る。
無数の槍の突撃を霊力刀で弾くも肩にずぶりと突き刺さる。一体二体、十数体で団子状になって押し込まれる。
「足軽の、妖。味方ガード、したり、する。なら……」
日那乃が錬丹書を開いて術式を展開。
彼女の展開した潤しの雨が降り注ぎ、翔の傷を急速に修復していく。
いくら無理矢理ダメージを通しても、それを超える速度で回復できてしまうのだ。
足軽程度では、もはや相手にならない。
初手を譲る形でゆっくりと身体をほぐしていた燐花が、ここでようやく動き出した。
「蘇我島さん、後ろは任せます」
「ん、いっといで」
カメラの設定を手早くいじる恭司。
燐花はごく小さく頷いて、弾丸の如く走り出した。
彼女に対応できた妖はごくごく僅かだ。先頭の先頭。本能的に突きだした槍が残像を貫き、実態が槍の上を走り自らの頭上に飛び上がったのが燐花だと……そう気づいたのが最初である。
燐花は空中でぐるりと回転すると、手の中に持っていた大量の釘を投擲。
気力によって強化された釘はライフル弾を上回る。足軽たちの陣形はたちまちの内に崩れていった。
そうした光景を撮影し続ける恭司。
外周を回り込むかたちで画角におさめていくたび、カメラに内蔵された霊視レンズや呪願センサが即席の除霊手順を完了させ、たちまちに足軽たちの霊素を奪っていく。人間で言えばタンパク質やミネラルを急に気化されたようなものだ。
「流石に皆さん、お強いですね……」
若干気後れしていた聖奈だが、恭司の頭上に伴う形で飛行していた。
「麻弓ちゃんにも言われてたけど、気にしなくていいよ。誰だって1レベルから始まるものだからね。手伝ってくれるかな、位置はあと1メートル右で」
「はい!」
聖奈は空中を慣性でスライドしてから、はばたきによって制動。目の中で大量の足軽をロックオンすると、力の粒をたくさん握って投げつけるような要領で召雷を放った。
ちなみに、このとき投げつけているのはマイナスイオンである。インチキ商品から出てるリラックスパワーのあれじゃなくて、雷が落ちるときファラデーの電気分解理論で定義されたあっちのほうである。要するに、雷の行き先である。
ドンという音とと共にはねる足軽たち。
ラーラはここぞとばかりに地面に描いた五芒星魔方陣の上でステップを踏んだ。乾坤元亨利貞の六歩。モロに陰陽術だが、図式も動きも西洋魔術のペンタグラムとトリックステップである。
複雑に発動した魔方陣が起動し、炎の獅子が次々と現われて足軽たちを食いちぎっていく。
そうして開かれた道筋の先には、四人の侍妖と馬上の将軍妖。
将軍妖が軍配を振り下ろし、侍妖たちは一斉に襲いかかってきた。
最も素早く仕掛けてきたのは二刀流侍だ。
自らをタツマキのように回転させ、風圧をまき散らしながら突っ込んでくる二刀流を、自らをライフル弾のごとく射出させた燐花が迎え撃つ。
金属音とは思えないガドンという音と共にエネルギーが瞬間圧縮。開放されたエネルギーが放射状に散らされ、周囲の木々が傾いていく。
二人は離れること無くその場で打ち合いを開始。燐花の小太刀が秒間八十八打打ち込まれ、相手も小太刀を同じレベルの速度で打ち返している。
空中で止まっているかのように見えるが、エネルギーの放出と風圧によってホバリング状態にあるだけだ。
入り込むのが困難な『競り合い』だが、そもそも入り込んでいる暇などない。
続いて打ち込んできた火縄銃使い。彼は一直線に突進しながら銃撃を仕掛けてきたのだ。
狙いをぴったりあわせるべく。それも恭司やラーラといった中衛を潰すための攻め込みだ。
後衛を直で潰さずここから来るということは、戦力をそぎ落とすのが狙いだろう。そんなことR1の妖が考えるワケないので、恐らくは将軍妖の戦略である。
「火縄銃なのに連射できるのは、ちょっと時代考証が雑なんじゃないかな」
恭司は軽口を述べながらも、右へ左へロール回避をかけながら霊力弾を回避。反撃にカメラによる流し打ち(この場合は流し撮り)をしかけるが、突進する相手というのは案外当てにくいものである。
有効打が入ったかと思うと籠手でがちがちに固めた腕で払うように防御されてしまう。
「回復なしではしのげません。日那乃さん、お願いします!」
ラーラは恭司とは別方向に走りながら、飛んでいる日那乃に呼びかけた。
「ん……回復に、集中、する」
日那乃は深想水による自己防衛を捨て、さらには気力の温存も捨てて潤しの雨の連発に切り替えた。
ダメージ量と回復量の競り合いになるが、気力が尽きたらこちらの負けだ。見たところ相手は燃費が悪そうだが、こちらもそれほど良いわけではない。(単体攻撃に全体回復で応じている時点で)結構ロスが多いのだ。
格下相手では楽にしのげる戦いも、ギリギリの競り合いでは慎重になる必要が出てくる。
……というか、R1の妖がやけにがつがつ戦えているものである。
「将軍の、妖が、何か、してる?」
「こっちです! 私が相手になります!」
側面に回り込んだラーラが手のひらに描いた目のような魔方陣を起動。火縄銃使いに向けて突進を始めた。同じような戦法に、思わず対応してしまう火縄銃使い。この辺りの知能の低さはR1である。
ラーラは差し違えてでも討ち取る……というような姿を見せつつ、目で恭司に合図を送った。
こくりと頷いた恭司がカメラを構える。すると彼の足下に描かれた魔方陣が起動し、カメラレンズの周囲に大量の魔術文字が出現した。
シャッターボタンを押し込むと、肉眼で見えるほどの激しい光が筋となって火縄銃使いを飲み込んだ。どころか、その先にいる二刀流侍までも飲み込んでいった。
腕を焼き切られていく二刀流使い。その隙は致命的なものとなり、燐花は彼の首を一瞬ではねとばしていった。
……と、いうような競り合いが別の場所でも行なわれていた。
「おっとお、思ったよりヤバいんだけど?」
大槍使いの妖と紡ががちがちのぶつけ合いに発展していた。
といっても大槍による突きと払いをクーンシルッピの先端(三日月型のスリングショットフレーム)でひっかけるようにして防ぎ続けるという状態だ。
そのすぐ後ろでは、紡の背に隠れるようにして聖奈が癒しの滴を連発していた。填気と癒滴の1対2ペースを守っているので気力切れの心配はないが、それでもなかなかしんどい競り合いである。
「大丈夫ですかっ? 回復はまだまだできますから!」
「おっけー森宮ちゃん。けどちゃんと後ろについててね」
「紡!」
駆け寄ろうとする翔だが、間に割り込むように一刀流の侍妖が刀を水平に構えて守りの姿勢をとった。
「どけっ、こいつ……!」
霊力刀で斬りかかる翔。
相手はそれを打ち払い、ショルダータックルを叩き込んできた。
「紡ひとりじゃ妖の猛攻を防ぎきれない。けど俺が割り込むには妖が邪魔で届かない。どうする。こうなったら……!」
口元に流れた血を手の甲でぬぐい、翔は……ニヤリと笑った。
「て、考えたってしかたねーか。紡! まかせるぜ!」
翔は妖との打ち合いを放棄すると、術式タイプを変更。大地に投影した回復用陰陽陣が激しく発光した。
「ほいきた」
紡は一転、防御を捨てた完全攻撃スタイルにチェンジ。
彼女を盾にした聖奈がエネルギーの弾を練り、フルメタルジャケットよろしくその周囲にエネルギーの殻を纏わせていく紡。
二人はそれらをスリングショットにかけ、がんぜんの大槍使いめがけて発射した。
大槍使いが腹に穴を開けて消滅し、それに気を取られた一刀流も横から打ち込まれた炎や雷撃によって消滅。
残った将軍妖は、軍配を捨ててカカと笑った。
馬がいななき、走り出す。
対して覚者七人はそれぞれに展開。
ラーラと恭司が魔法とカメラ除霊術を複合させたショットを放ち、翔と燐花が刀によるクロススラッシュをたたきこみ、日那乃と聖奈、そして紡が三方向からトライアングルエアブリットを叩き込む。
圧倒的なまでの集中砲火に、将軍妖はたちまち消滅していった。
「おそらく、自らの体力を代償に味方を強化する能力を使っていたのでしょう。強力ですが、しかし軍勢を破られれば……」
塵となって消えていく妖。
しかしそのさなか、妖の力に縛られていた『どこかのだれかたち』の霊が解き放たれ、天へのぼっていくように思えた。
ちょっと強引ではあるが、この土地に染みついた怨念を浄化できたということなのかも、しれない。
かくして白石城を舞台とした大妖発生回避作戦――別名『関ヶ原作戦』の第一弾は終了した。
しかし関ヶ原の怨念が散っているのは日本各地。
覚者たちは次なる戦いをめざし、再び旅立つのだ。
宮城県は白石、土地にも縁深きは白石城。
防災センターの駐車場から東門前の道を抜け、カバーをした軽トラックが進んでいく。
その後ろに続く形で走るワゴン車に、『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)たちは乗せられていた。
左手側にはいまだ堂々と聳え立つ白石城。現代に残る城は(一部の例外を除いて)戦を耐えきった強き城。ここもまた、かつての大合戦を生き延びた痕跡をあちこちに残している。
その大合戦のひとつが、関ヶ原合戦とその波及戦である。
「白石城かー、白石城つったら片倉小十郎だよなー」
「そうなんですか?」
「ちげーの?」
窓にはりついて見る翔と森宮・聖奈(CL2001649)。
片倉小十郎もとい片倉景綱は1600年代に白石城の城主であった。
遡ると関ヶ原合戦の波及戦『白石城の戦い』にて伊達政宗が上杉景勝から奪い取る形で権利が移り、その後側近である片倉景綱が城主となったという経緯がある。
その後も明治の動乱やら昭和の戦争やら平成の大震災やらをなんとかかんとか生き延びて今日の姿があるのだが……。
「こうしてみると、普通の観光地なのですよね。とても人が死んだ場所のようには見えません」
有名な城ほどではないにしろここも観光地。文化財指定されていないため修繕費その他はすべて自力で賄わねばならず、結局の所観サイドに大きく傾いていた。
バスが二ノ丸跡でとまり、扉が開く。
下りた桂木・日那乃(CL2000941)はすぐそばの城を見上げた。
「将軍の、妖、って。ここの、お城のひと、な、の?」
「さあな。妖ってたしか幽霊にとりついて……ん? とりつかれて? どっちだっけ」
「『霊素を媒介にして発生する』だよ」
軽トラックから降りてきた女性にそう声をかけられ、翔たちは誰だろうという目で見やった。女性がぱたぱたと手を振ってくる。
「能登です。宿命館大学で神具研究をしてるよ。今回協力させてもらう、よろしくね」
白衣を着たボブカットの女性だ。煙草をくわえて手を振る姿からは五麟大学の教授みたいな雰囲気を感じたがどうやら協力関係になる別大学の教授らしい。
能登が軽トラの荷台から出してきたのはなんと言うことの無い鉄くずや土、塩、酒、その他諸々である。
興味深そうに覗き込む『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)。
「へえ、儀式って、ほんとに『儀式!』って感じなんだ。お正月のやつみたい」
「もっと直接的な方法はあるはずなんだろうけど、人類の妖学はそこまで進んでないからねー」
『精神医療より浅いからねー』と言いながら榊やら玉串やらほんとに儀式臭いアイテムをあちこちに並べていく。興味を示した翔たちも手伝って、祭壇的ななにかが完成した。
なんだか白髪の巫女っぽい人が別に現われて、祭壇の前で儀式めいたことを始める。
『めいた』と表現するのは正式な作法を外れて色々な宗教観が混じっているためだ。
「ファイヴが妖化を促すことができるようになっていたとは、驚きましたが……」
儀式の様子を遠目に見守る『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)。
能登は携帯灰皿に煙草をねじ込みながら応えた。
「雨乞いってあるでしょ。雨が降るまで祈るやつ。ほとんどアレに近いんだ。ただ手順や作法を整えると確率を大きく引き上げることができる。うーん……あと30時間は待機ってところかな。最悪一週間くらい近くで待ってて」
「長っ!」
それから実に80時間後。
近くのホテルで寝泊まりしたりなんだりで『でたよー』というコールに応じて駆けつけると、既に雷獣結界による封じ込めが始まっていた。
苦笑してあたまをかく『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)。
「ファイヴの研究成果がこういう風に役立つとは。……さて、次は僕らの出番ってことかな」
顔を洗ってしゃっきりとした『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)も、腕まくりをして結界の中へと立ち入った。
内部では妖がうごうごと形成を始めており、徐々に人の形をつくっていた。
「この妖を倒すことで大妖の誕生を回避できる……壮大なガス抜き作戦というわけですね。わかりました――」
ラーラの手元には魔導書が生まれ、姿を見せた守護使役ペスカの召喚に応じて魔女の衣装にチェンジ。目と髪が炎のごとく染め上がった。
「全力でお相手します!」
●群雄割拠の亡霊
大地からわき出すように生まれたガイコツのような集団。彼らは甲冑とは名ばかりの布服と傘を纏い、和槍を手に突撃をしかけてきた。
一体一体はとるにたらない低級妖だが、群れとなれば話は別。多少心得のある覚者であっても圧倒されてしまうだろう。
しかし――!
「『戦って勝てば』『大事故は起こらない』! すげーシンプルだけど大好きだぜ、こういうの!」
「頭沢山使うのはシュミじゃないしねー」
翔と紡は正面を向いたまま拳をごつんとぶつけ合い、足下から吹き上がるようなエネルギーに包まれて同時覚醒。
紡はどこからともなく取り出したステッキをくるくると回し、翔はベルト固定していたタブレットPCを起動した。
「ファイヴ期待の星、成瀬翔! いざ尋常に勝負!」
「推して参る、ってね」
ホログラムで形成された術式霊刀を掴んで走り出す翔。一方で紡は急速に飛翔し、ステッキの先端につけたスリングショットを引き絞った。
「速攻全力! 合体技だ!」
空中に電流によってズバンと描かれた龍と凰の文字が重なり、巨大な雷の翼竜が発生。足軽たちに電撃のブレスをはき出した。
右から左に、砂塵を吹き払うがごとくである。
相手がいかに妖の群であろうとも、こちらはファイヴ選りすぐりのエースたちだ。
味方同士を盾にした妖たちが猛攻をくぐり抜け翔へ迫る。
無数の槍の突撃を霊力刀で弾くも肩にずぶりと突き刺さる。一体二体、十数体で団子状になって押し込まれる。
「足軽の、妖。味方ガード、したり、する。なら……」
日那乃が錬丹書を開いて術式を展開。
彼女の展開した潤しの雨が降り注ぎ、翔の傷を急速に修復していく。
いくら無理矢理ダメージを通しても、それを超える速度で回復できてしまうのだ。
足軽程度では、もはや相手にならない。
初手を譲る形でゆっくりと身体をほぐしていた燐花が、ここでようやく動き出した。
「蘇我島さん、後ろは任せます」
「ん、いっといで」
カメラの設定を手早くいじる恭司。
燐花はごく小さく頷いて、弾丸の如く走り出した。
彼女に対応できた妖はごくごく僅かだ。先頭の先頭。本能的に突きだした槍が残像を貫き、実態が槍の上を走り自らの頭上に飛び上がったのが燐花だと……そう気づいたのが最初である。
燐花は空中でぐるりと回転すると、手の中に持っていた大量の釘を投擲。
気力によって強化された釘はライフル弾を上回る。足軽たちの陣形はたちまちの内に崩れていった。
そうした光景を撮影し続ける恭司。
外周を回り込むかたちで画角におさめていくたび、カメラに内蔵された霊視レンズや呪願センサが即席の除霊手順を完了させ、たちまちに足軽たちの霊素を奪っていく。人間で言えばタンパク質やミネラルを急に気化されたようなものだ。
「流石に皆さん、お強いですね……」
若干気後れしていた聖奈だが、恭司の頭上に伴う形で飛行していた。
「麻弓ちゃんにも言われてたけど、気にしなくていいよ。誰だって1レベルから始まるものだからね。手伝ってくれるかな、位置はあと1メートル右で」
「はい!」
聖奈は空中を慣性でスライドしてから、はばたきによって制動。目の中で大量の足軽をロックオンすると、力の粒をたくさん握って投げつけるような要領で召雷を放った。
ちなみに、このとき投げつけているのはマイナスイオンである。インチキ商品から出てるリラックスパワーのあれじゃなくて、雷が落ちるときファラデーの電気分解理論で定義されたあっちのほうである。要するに、雷の行き先である。
ドンという音とと共にはねる足軽たち。
ラーラはここぞとばかりに地面に描いた五芒星魔方陣の上でステップを踏んだ。乾坤元亨利貞の六歩。モロに陰陽術だが、図式も動きも西洋魔術のペンタグラムとトリックステップである。
複雑に発動した魔方陣が起動し、炎の獅子が次々と現われて足軽たちを食いちぎっていく。
そうして開かれた道筋の先には、四人の侍妖と馬上の将軍妖。
将軍妖が軍配を振り下ろし、侍妖たちは一斉に襲いかかってきた。
最も素早く仕掛けてきたのは二刀流侍だ。
自らをタツマキのように回転させ、風圧をまき散らしながら突っ込んでくる二刀流を、自らをライフル弾のごとく射出させた燐花が迎え撃つ。
金属音とは思えないガドンという音と共にエネルギーが瞬間圧縮。開放されたエネルギーが放射状に散らされ、周囲の木々が傾いていく。
二人は離れること無くその場で打ち合いを開始。燐花の小太刀が秒間八十八打打ち込まれ、相手も小太刀を同じレベルの速度で打ち返している。
空中で止まっているかのように見えるが、エネルギーの放出と風圧によってホバリング状態にあるだけだ。
入り込むのが困難な『競り合い』だが、そもそも入り込んでいる暇などない。
続いて打ち込んできた火縄銃使い。彼は一直線に突進しながら銃撃を仕掛けてきたのだ。
狙いをぴったりあわせるべく。それも恭司やラーラといった中衛を潰すための攻め込みだ。
後衛を直で潰さずここから来るということは、戦力をそぎ落とすのが狙いだろう。そんなことR1の妖が考えるワケないので、恐らくは将軍妖の戦略である。
「火縄銃なのに連射できるのは、ちょっと時代考証が雑なんじゃないかな」
恭司は軽口を述べながらも、右へ左へロール回避をかけながら霊力弾を回避。反撃にカメラによる流し打ち(この場合は流し撮り)をしかけるが、突進する相手というのは案外当てにくいものである。
有効打が入ったかと思うと籠手でがちがちに固めた腕で払うように防御されてしまう。
「回復なしではしのげません。日那乃さん、お願いします!」
ラーラは恭司とは別方向に走りながら、飛んでいる日那乃に呼びかけた。
「ん……回復に、集中、する」
日那乃は深想水による自己防衛を捨て、さらには気力の温存も捨てて潤しの雨の連発に切り替えた。
ダメージ量と回復量の競り合いになるが、気力が尽きたらこちらの負けだ。見たところ相手は燃費が悪そうだが、こちらもそれほど良いわけではない。(単体攻撃に全体回復で応じている時点で)結構ロスが多いのだ。
格下相手では楽にしのげる戦いも、ギリギリの競り合いでは慎重になる必要が出てくる。
……というか、R1の妖がやけにがつがつ戦えているものである。
「将軍の、妖が、何か、してる?」
「こっちです! 私が相手になります!」
側面に回り込んだラーラが手のひらに描いた目のような魔方陣を起動。火縄銃使いに向けて突進を始めた。同じような戦法に、思わず対応してしまう火縄銃使い。この辺りの知能の低さはR1である。
ラーラは差し違えてでも討ち取る……というような姿を見せつつ、目で恭司に合図を送った。
こくりと頷いた恭司がカメラを構える。すると彼の足下に描かれた魔方陣が起動し、カメラレンズの周囲に大量の魔術文字が出現した。
シャッターボタンを押し込むと、肉眼で見えるほどの激しい光が筋となって火縄銃使いを飲み込んだ。どころか、その先にいる二刀流侍までも飲み込んでいった。
腕を焼き切られていく二刀流使い。その隙は致命的なものとなり、燐花は彼の首を一瞬ではねとばしていった。
……と、いうような競り合いが別の場所でも行なわれていた。
「おっとお、思ったよりヤバいんだけど?」
大槍使いの妖と紡ががちがちのぶつけ合いに発展していた。
といっても大槍による突きと払いをクーンシルッピの先端(三日月型のスリングショットフレーム)でひっかけるようにして防ぎ続けるという状態だ。
そのすぐ後ろでは、紡の背に隠れるようにして聖奈が癒しの滴を連発していた。填気と癒滴の1対2ペースを守っているので気力切れの心配はないが、それでもなかなかしんどい競り合いである。
「大丈夫ですかっ? 回復はまだまだできますから!」
「おっけー森宮ちゃん。けどちゃんと後ろについててね」
「紡!」
駆け寄ろうとする翔だが、間に割り込むように一刀流の侍妖が刀を水平に構えて守りの姿勢をとった。
「どけっ、こいつ……!」
霊力刀で斬りかかる翔。
相手はそれを打ち払い、ショルダータックルを叩き込んできた。
「紡ひとりじゃ妖の猛攻を防ぎきれない。けど俺が割り込むには妖が邪魔で届かない。どうする。こうなったら……!」
口元に流れた血を手の甲でぬぐい、翔は……ニヤリと笑った。
「て、考えたってしかたねーか。紡! まかせるぜ!」
翔は妖との打ち合いを放棄すると、術式タイプを変更。大地に投影した回復用陰陽陣が激しく発光した。
「ほいきた」
紡は一転、防御を捨てた完全攻撃スタイルにチェンジ。
彼女を盾にした聖奈がエネルギーの弾を練り、フルメタルジャケットよろしくその周囲にエネルギーの殻を纏わせていく紡。
二人はそれらをスリングショットにかけ、がんぜんの大槍使いめがけて発射した。
大槍使いが腹に穴を開けて消滅し、それに気を取られた一刀流も横から打ち込まれた炎や雷撃によって消滅。
残った将軍妖は、軍配を捨ててカカと笑った。
馬がいななき、走り出す。
対して覚者七人はそれぞれに展開。
ラーラと恭司が魔法とカメラ除霊術を複合させたショットを放ち、翔と燐花が刀によるクロススラッシュをたたきこみ、日那乃と聖奈、そして紡が三方向からトライアングルエアブリットを叩き込む。
圧倒的なまでの集中砲火に、将軍妖はたちまち消滅していった。
「おそらく、自らの体力を代償に味方を強化する能力を使っていたのでしょう。強力ですが、しかし軍勢を破られれば……」
塵となって消えていく妖。
しかしそのさなか、妖の力に縛られていた『どこかのだれかたち』の霊が解き放たれ、天へのぼっていくように思えた。
ちょっと強引ではあるが、この土地に染みついた怨念を浄化できたということなのかも、しれない。
かくして白石城を舞台とした大妖発生回避作戦――別名『関ヶ原作戦』の第一弾は終了した。
しかし関ヶ原の怨念が散っているのは日本各地。
覚者たちは次なる戦いをめざし、再び旅立つのだ。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
