ネコミミの魔法少女現れる
●寂しい少女とイタイ怨霊
守護使役。
どんな人間にもいるのだが、覚者にしか認識できない存在である。因子発現していない人間には認識できず、そういった人間の傍にはいるが沈黙している状態だ。
「覚者の皆さんは羨ましいですわね。傍にそういった御方がいらして……」
琴崎宮子は寂しそうにため息を吐く。その言葉には寂しさが陰っていた。
琴崎にも気の許せる学友はいる。覚者の友人もおり、いい関係を保っていると言えよう。だが、疎外感があることは否めない。自分にも守護使役のような存在が欲しい。会って話をしてみたい。だけどその存在を識る事すらできないのだ。
友人と別れて帰り道。家に着く間は自分一人だけ。まだ小さな琴崎にとって、寂しさを膨らませる時間でもあった。
そんな時――
「……まあ」
琴崎は中に浮かぶ幽霊のような存在を見た。そう言えば守護使役の中にはそういった形状のものいる、ということも思い出す。
「もしかして、貴方が私の守護使役かしら?」
寂しさを紛らすように問いかける琴崎。無論、それが守護使役でないことも理解しているし、おそらく古妖なのだろうことも分かっていた。小さなその姿は警戒心を薄れさせ、つい手を伸ばしてしまった。古妖に手が触れ――通り抜ける。
「え?」
そのまま体の中に侵入してくる古妖。憑依。悪霊と呼ばれる古妖は人の身体を乗っ取ってその身体を自由に扱うという。そしてその古妖の願望とは、
「魔法少女、マジカルみやこん! 正義の名のもとにがんばるにゃん!」
……めちゃくちゃイタイ系の魔法少女好きオタクだった。
●FiVE
「――とまあ、そういう経緯だ」
久方 相馬(nCL2000004)は頭痛を押さえるように集まった覚者達に告げる。
「状況を再確認するぞ。討伐対象は古妖。怨霊だ。御崎ねーちゃんの説によると死んだ人間の想いが古妖化したモノらしい。心霊系の妖と違う所は人間を襲うよりも、生前の願望を優先する所かな。
で、コイツがこの子に乗り移った。幻覚でふりふりひらひらの服を着せて、ネコミミ&肉球&尻尾も付けている」
一部覚者達の表情が半笑いになる。イタイ。凄いイタイ。
「あと幽霊っぽいお供を連れている。数は多いけど力は弱い。落ち着いて対処すれば問題ないはずだ。
怨霊本体は憑依している女の子を殴って倒すしか対処法はない。怨霊はバリアみたいなものを張って守ってるから、女の子を傷つけることはない。紳士っていうか自分のおもちゃを守りたい感覚だから、同情は不要だぜ」
手加減不要で思いっきり殴っていいとの事だ。
「ハロウィンが近いからって、こんな強制コスプレはノーサンキューだ。きっちりお仕置きしてやってくれ」
可愛いっちゃ可愛いけどな。そんな相馬の言葉を聞き流し、覚者達は会議室を出た。
守護使役。
どんな人間にもいるのだが、覚者にしか認識できない存在である。因子発現していない人間には認識できず、そういった人間の傍にはいるが沈黙している状態だ。
「覚者の皆さんは羨ましいですわね。傍にそういった御方がいらして……」
琴崎宮子は寂しそうにため息を吐く。その言葉には寂しさが陰っていた。
琴崎にも気の許せる学友はいる。覚者の友人もおり、いい関係を保っていると言えよう。だが、疎外感があることは否めない。自分にも守護使役のような存在が欲しい。会って話をしてみたい。だけどその存在を識る事すらできないのだ。
友人と別れて帰り道。家に着く間は自分一人だけ。まだ小さな琴崎にとって、寂しさを膨らませる時間でもあった。
そんな時――
「……まあ」
琴崎は中に浮かぶ幽霊のような存在を見た。そう言えば守護使役の中にはそういった形状のものいる、ということも思い出す。
「もしかして、貴方が私の守護使役かしら?」
寂しさを紛らすように問いかける琴崎。無論、それが守護使役でないことも理解しているし、おそらく古妖なのだろうことも分かっていた。小さなその姿は警戒心を薄れさせ、つい手を伸ばしてしまった。古妖に手が触れ――通り抜ける。
「え?」
そのまま体の中に侵入してくる古妖。憑依。悪霊と呼ばれる古妖は人の身体を乗っ取ってその身体を自由に扱うという。そしてその古妖の願望とは、
「魔法少女、マジカルみやこん! 正義の名のもとにがんばるにゃん!」
……めちゃくちゃイタイ系の魔法少女好きオタクだった。
●FiVE
「――とまあ、そういう経緯だ」
久方 相馬(nCL2000004)は頭痛を押さえるように集まった覚者達に告げる。
「状況を再確認するぞ。討伐対象は古妖。怨霊だ。御崎ねーちゃんの説によると死んだ人間の想いが古妖化したモノらしい。心霊系の妖と違う所は人間を襲うよりも、生前の願望を優先する所かな。
で、コイツがこの子に乗り移った。幻覚でふりふりひらひらの服を着せて、ネコミミ&肉球&尻尾も付けている」
一部覚者達の表情が半笑いになる。イタイ。凄いイタイ。
「あと幽霊っぽいお供を連れている。数は多いけど力は弱い。落ち着いて対処すれば問題ないはずだ。
怨霊本体は憑依している女の子を殴って倒すしか対処法はない。怨霊はバリアみたいなものを張って守ってるから、女の子を傷つけることはない。紳士っていうか自分のおもちゃを守りたい感覚だから、同情は不要だぜ」
手加減不要で思いっきり殴っていいとの事だ。
「ハロウィンが近いからって、こんな強制コスプレはノーサンキューだ。きっちりお仕置きしてやってくれ」
可愛いっちゃ可愛いけどな。そんな相馬の言葉を聞き流し、覚者達は会議室を出た。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.古妖五体の討伐
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
変身シーンは心の中で再生してください。
●敵情報
・『魔法少女、マジカルみやこん』(×1)
古妖に憑依された少女です。年齢は10歳。ネコミミ肉球尻尾&ふりふりひらひらの魔法少女服で、手にステッキを持っています。
元となった少女の名前は琴崎宮子。寂しさのあまり警戒することを忘れてしまい、古妖に体を奪われてしまいました。戦闘中、彼女の意識はありません。怨霊が完全に意識を乗っ取っています。
『全世界の人間が猫のようになれば、世界は平和になるにゃん』という設定の元に動きます。なんだそれ。
攻撃方法
猫猫百裂拳 物近単 肉球を連続で叩きつけてきます。【三連】
猫猫回転爪 物近列 回転して周囲の敵を引っ掻きます。【出血】
猫猫烈波弾 物近貫2 衝撃波を放ち、敵を穿ちます。(100%、50%)
猫猫咆哮波 特遠単 可愛らしい鳴き声を上げ、戦意を奪います。【混乱】
・スプーキー・ブギー(×4)
幽霊状の古妖。大きさ40センチほど。宙に浮いており、足止めするように動きます。
『マジカルみやこんのマスコットキャラ』……という設定です。
攻撃方法
お化けだぞー 神近単 口を広げて脅かします。【ダメージ0】【ノックB】
なめなめ 神近単 長い舌で舐めてきます。【Mアタック20】
●場所情報
住宅街の道路。時刻は昼下がりの下校時間。明かりや広さは戦闘に影響しません。人が来る可能性はそれなりに。
戦闘開始時、敵中衛に『マジカルみやこん』、敵前衛に『スプーキー・ブギー(×4)』がいます。敵前衛との距離は10メートルとします。
事前行動は一度だけ可能とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
3/6
3/6
公開日
2017年10月15日
2017年10月15日
■メイン参加者 3人■

●
紫のドレスに白のフリル。手にしたロッドは十字架を模した形。
軽く体を回転させれば光のエフェクトが舞う。ぴくんとネコミミが動き、尻尾が跳ねる。
頬に人差し指を当て、笑みを浮かべて彼女は叫んだ
「魔法少女、マジカルみやこん! 正義の名のもとにがんばるにゃん!」
そんな彼女を囃し立てるように四体の幽霊が飛び交った。きっと取り憑いている怨霊の脳内――いや霊体に脳ないけどまあとにかくそういう箇所――ではBGMとエフェクトが光っているのだろう。現実は子供にイタイ格好とポーズをとらせる色々こじらせた魔法少女アニメオタクだが。
「うん。夢見の情報通りだね。早く解放してあげよう」
その恰好に何も言うことなく『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)はやるべきことを再確認した。確かに事前情報無くコレをみれば精神的に動揺しただろう。実際に見れその酷さに癖癖するが、だからこそ早く対処しなくてはいけない。
一応正義と名乗っているから大丈夫だと思うが、妖精から授かった結界を展開して人祓いを行う。万が一戦闘に巻き込まれれば厄介なことになるし、それが取り憑かれている彼女の知り合いなら大変なことになる。憂いは可能な限り取り除くに越したことはない。
「でもまあ……やっぱりイタイよね、これ」
「まあ可愛いとは思うけどな」
フリフリの魔法賞与服を着た少女を見て『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)はそんな感想を漏らした。この状況の唯一の救いは、取り憑かれたのが魔法少女服が似合う少女だったと言う事か。もう少し年齢が上がれば、出来の悪いコスプレになっていただろう。
『朱焔』を抜刀し、みやこんに向ける。このまま放置するわけにはいかない。古妖のやっていることは悪戯レベルだが、かといって放置するわけにはいかない。取り憑かれている少女を古妖の趣味から解放し、元の生活に戻してやるのだ。
「せやけど、地味に面倒やなぁ。結構強いで、あれ」
「『魔法少女まじかるみやこん』と名乗っておきながら、バリバリの素手で殴る系魔法少女なんて。ゆねるんは認めないの!」
とご立腹な『スーパーコスプレ戦士』立花 ユネル(CL2001606)は、魔女のコスプレをしていた。小学生ながらコスプレイヤーとして活動しており、衣装も自分で作るというガチなレイヤーである。
ユネルは相手の格好を見る。ネコミミ&肉球&シッポのねこねこ三種の神器を手にして、そのうえで魔法少女のロッドと衣装。野生を主張する猫と清楚を主張する魔法少女。属性としては混ぜても効果は低い。
「コンセプトが滅茶滅茶なの! なんでも混ぜればいいなんて思わないでほしいの!」
「か、可愛いければ許されるにゃん!」
主張するみやこん……の中の古妖はコスプレの知識はあまりないようだった。ユネルの主張に圧されるように答える。
どうあれ話し合いでどうにかなる状況ではない。覚者達は古妖を許すつもりはなく、古妖も少女の身体を諦めるつもりはない。
覚者と古妖は同時に動き出す。
●
「ほないくで!」
一番最初に動いたのは凛だった。手にした刀を幽霊の古妖に向ける。刀で斬れるか不安だったが、心霊系妖とは違い刀は古妖を深く傷つける。中には物理的な攻撃に強い幽霊古妖もいるのだろうが、こいつらはそうではなかったようだ。
滑るように足を運び、回るように戦増で刀を振るう凛。刀の紋様が光を受けて仄かに赤く光り、それが薙ぐたびに戦場に緋が走る。縦に横に斜めに。言葉通りの縦横無尽に炎のような光が煌めいていく。その度に古妖が傷つき、倒れていく。
「おいたはそん位にしてさっさとその子から出ていきや!」
「みやこんの正義を阻む悪い人! ねこねこぱんちで目覚めさせてあげる!」
「すまんなぁ。あたしはとっくに猫とラブラブなんや」
言って凛は守護使役のにゃんたを軽く撫でる。仲の良さを示すように、守護使役は気持ちよさそうに力を抜いた。
「来ぃや、魔法少女。アンタの攻撃全部うちがはじいたるわ!」
「よーし、ねこねこひゃくれつけん!」
「うーん。あれが怨霊の趣味の表れだというのなら、周りに受け入れられずに寂しい思いをしたとかかな? その寂しさで都ちゃんと同調した?」
猫+格闘+魔法少女の組み合わせを見ながら理央は考える。あまりにニッチな趣味を持ち誰にも受け入れられずこの世を去った者がいたとしよう。その行動の根底は『誰かに受け入れられたい』という寂しさだ。その寂しさと『独りぼっち』という被害者の気持ちが同調してこの結果になったのではなかろうか……?
考えても詮無きことだ。全ては仮定であり、怨霊を説得する気はない。今やるべきは怨霊を倒すこと。そのために支援に回る理央。水の源素を活性化させ、仲間の傷を癒していく。そして隙あらば炎を放ち、スプーキー・ブギーに打撃を重ねていく。
「回復はボクがやるよ。皆は攻撃に回って」
「ひどーい。ブギーちゃん、一体前に出てあの陰陽術師を舐めてあげて!」
「いいよ。多少気力を削られても回復できるし」
水の源素だけではなく、天の源素も使える理央に隙はない。一点特化型ほどの爆発力はないが、様々な状況でも相応に立ち回れる。
「隙ありっ! 術式速度特攻戦士、ゆねるんの攻撃を喰らうの!」
術符を手にしてユネルが猛る。裂帛と共に突き出した神具を沿うように、衝撃波がユネルから古妖達の方に向かって跳ぶ。それはスプーキー・ブギーとその背後にいるみやこんを穿った。そのまま第三の瞳を開き、動きを封じていく。
回るように足を動かせば、それに合わせて魔女の衣装も揺れる。そのまま神具を振るえば、土が凝縮して弾丸となって放たれる。油断は緩やかな印象を与えるユネルだが、今回の闘いは怒りを感じていた。
「『魔法少女』で『まじかる』なら、術式攻撃の方が合ってると思うし、華があるとゆねるんは思うの!」
指差し指摘するユネル。怒りのポイントはそこだった。
「あえてその裏を狙ったのがみやこんだにゃん」
「そんなの美しくないの! それでも魔法少女なの!」
とコスプレイヤーのこだわりを主張した後に、
「それに寂しがってる女の子のその心につけ込むオタク心は、真のオタク心じゃないってゆねるんは思うの!」
「くっくっく。少女の清らかな願望に付け入る黒い背徳。素晴らしいじゃないか……だにゃん」
一瞬素で喋った後、誤魔化すように語尾をつけるみやこん。
「そんな悪い古妖には、ゆねるんが魔女コスプレと真のオタク心でお仕置きしちゃうの!」
「せやな。真のオタク心はともかく、きっついのくらわしたるわ」
「悪戯する古妖に注意喚起。立派なFiVEの仕事だね」
ユネルの言葉に頷く凛と理央。既に最後のスプーキー・ブギーを倒し、みやこんに迫っていた。
「みやこんピンチ! だけど愛と勇気でピンチで乗り切れば、第二段階に覚醒できるにゃん!」
よくわからないことを言いながら覚者を迎え撃つ古妖。
戦いの天秤は揺れる。戦いは少しずつ終局に近づいてきていた。
●
「これでも食らうにゃん」
「ほんまこれ、大丈夫なにやろうなぁ」
前線でみやこんと凛は切り結んでいた。徒手空拳(肉球グローブを付けているが)のみやこんの格闘技と凛の刀技がぶつかる。怨霊が取り憑いているとはいえ、いたいけな少女に刃を向けるのには抵抗があったが夢見の言葉通り傷つくのは古妖のようだ。
「ねこねこれっぱだん、だにゃん!」
「隙あり! 焔陰流『煌焔』! これが古流剣術焔陰流二十一代目継承者(予定)の一撃や!」
気弾を発射したみやこんの隙を縫うように、凛の三連撃が走る。一撃の重さは古妖が勝り、手数では凛が勝る。一進一退の攻防だが、凛は激しい動きとみやこんからの打撃で徐々に疲弊していく。
「ゆねるんも負けてないの!」
気弾の余波を受け、衝撃を受けるユネル。だけどここで倒れるわけにはいかない。相手が許せないという理由もある。コスプレイヤーとして負けられない意地がある。だけど真の理由は人の寂しさに付け入る古妖を許せないからだ。
(笑顔を作れないコスプレなんて許せないの!)
ユネルは幼いながらも多くのコスプレをして、多くの人の前でそれを披露してきた。それはキャラクターになり切るというのが楽しいということもあるが、やはり見ている人が笑顔を向けてくれるのが嬉しかった。一人ではない。他人がいるから続けることが出来た。
だけどこの怨霊のコスプレは違う。完全な独り善がりだ。見ている自分達も、着せられている琴崎も誰も笑うことはできない。寂しい思いが募るだけだ。
「待っててね。今すぐゆねるんがお友達になってあげるから!」
「守護使役を見れない寂しさ、か。覚者にはチョット分からない悩みだよね」
誰の傍にもいる守護使役。力に目覚めてなければ気付く事すらできない存在だ。だが覚者の中にも守護使役を道具か能力の一旦程度にしか考えていない者もいる。いないからこそ寂しく思い、いるからこそ粗雑に扱う。不憫な話だと理央はため息を吐いた。
理央は被害者の寂しさをどうこうするつもりはなかった。夢見の話を聞けば友達もいるようだし、覚者側から守護使役のことを話しても羨ましがられるだけだ。FiVEの覚者としてやることは怨霊を退治すること。その役割はきちんと果たすと神具を握る。
「少し過剰かもしれないけど、回復に徹するよ。気力が厳しくなったら言ってね」
支援に回り、裏方に回る。理央にとって大事なのは任務を果たし、平和を守ることだ。
盤石の支援に支えられ、覚者達はみやこんを追い詰める。数の優位性を失った古妖に逆転の手はなく、熟達した覚者の猛攻に削られていくのみ。
「こ、こんな時に仲間のひむらんが助けに来る設定で!」
混乱して語尾を忘れる程度に古妖が追い詰められていた。
「そろそろ終いや。妄想はあの世で続けるんやな!」
言葉と共に放たれる凛の一閃。刀を納める音が戦場に響くと同時、魔法少女の服と共に怨霊が消え去っていた。
●
幻影の魔法少女コスチュームが消えれば、普通の服を着た琴崎が気を失ったように倒れ込む。
「任務完了。そろそろ結界を解くね」
理央は念のために琴崎に近づき、傷の具合を確認する。夢見の言ったとおり、ダメージは全部怨霊が受け持ったようだ。その事に安堵した後に、展開していた妖精結界を解除してFiVEへと連絡を入れる。
「ん……。夢? 変なアニメみたいな夢だったなぁ」
「夢や夢。忘れときぃ」
目を覚ました琴崎が告げた言葉に、凛は手を振って告げる。憑依されていて意識はないとはいえ、断片的に記憶に残っていたようだ。夢と思わせた方がいいだろう。変な趣味の怨霊はもういないのだから。
「ま、でも気を付けた方がええで。一人で帰ると危険がいっぱいやからな。変なお兄さんに襲われるかもしれへんよ」
「うん。学校でも教えてもらった。その時は全力で逃げるか助けを求めるんだって」
琴崎の言葉に苦笑を浮かべる凛。まさか変な趣味の古妖がいるとは学校の先生でも思わなかっただろう。
「お嬢ちゃんの守護使役は『魚』系かー。こんな姿してるんやで」
凜は琴崎が認識していない自分の守護使役を見た。琴崎の傍で泳ぐ魚系の守護使役。その映像を手にしたに念写し、手渡した。
「え? 私の後ろにいるの? 守護使役」
「おるで。誰の傍にもおるんや。因子発現したら見ることできるで」
「産まれた時から守護使役はずっと一緒に居て、その子を見守っているの!」
ユネルが琴崎の手を取って守護使役のことを説明する。
「きっと琴崎ちゃんが寂しい様に、守護使役の子も寂しがってると思うの。
だって、見えなくても傍に居るのに見えないと傍に居ないって考えていたら、その子は存在を否定されている気持ちになってしまうと思うの」
「寂しい……守護使役が……」
「だから、信じてあげて欲しいと思うの。たとえ見ることも話すこともできなくても、琴崎ちゃんの守護使役は傍にいて見守ってくれているって」
琴崎はユネルに言われて守護使役がいる方を見る。その瞳に守護使役を写すことはないけれど――
「うん。わかった。信じてみる」
そこに何かがいると信じようと思うことはできた。
かくして事件は大きな被害もなく終結した。
琴崎宮子は日常に戻り、友達と一緒に平和な日々を過ごしている。
あの事件以降彼女の友人が一人増え、時折コスプレ会場で有名コスプレイヤーであるその友人と一緒に活動しているというが、それは別のお話である。
紫のドレスに白のフリル。手にしたロッドは十字架を模した形。
軽く体を回転させれば光のエフェクトが舞う。ぴくんとネコミミが動き、尻尾が跳ねる。
頬に人差し指を当て、笑みを浮かべて彼女は叫んだ
「魔法少女、マジカルみやこん! 正義の名のもとにがんばるにゃん!」
そんな彼女を囃し立てるように四体の幽霊が飛び交った。きっと取り憑いている怨霊の脳内――いや霊体に脳ないけどまあとにかくそういう箇所――ではBGMとエフェクトが光っているのだろう。現実は子供にイタイ格好とポーズをとらせる色々こじらせた魔法少女アニメオタクだが。
「うん。夢見の情報通りだね。早く解放してあげよう」
その恰好に何も言うことなく『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)はやるべきことを再確認した。確かに事前情報無くコレをみれば精神的に動揺しただろう。実際に見れその酷さに癖癖するが、だからこそ早く対処しなくてはいけない。
一応正義と名乗っているから大丈夫だと思うが、妖精から授かった結界を展開して人祓いを行う。万が一戦闘に巻き込まれれば厄介なことになるし、それが取り憑かれている彼女の知り合いなら大変なことになる。憂いは可能な限り取り除くに越したことはない。
「でもまあ……やっぱりイタイよね、これ」
「まあ可愛いとは思うけどな」
フリフリの魔法賞与服を着た少女を見て『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)はそんな感想を漏らした。この状況の唯一の救いは、取り憑かれたのが魔法少女服が似合う少女だったと言う事か。もう少し年齢が上がれば、出来の悪いコスプレになっていただろう。
『朱焔』を抜刀し、みやこんに向ける。このまま放置するわけにはいかない。古妖のやっていることは悪戯レベルだが、かといって放置するわけにはいかない。取り憑かれている少女を古妖の趣味から解放し、元の生活に戻してやるのだ。
「せやけど、地味に面倒やなぁ。結構強いで、あれ」
「『魔法少女まじかるみやこん』と名乗っておきながら、バリバリの素手で殴る系魔法少女なんて。ゆねるんは認めないの!」
とご立腹な『スーパーコスプレ戦士』立花 ユネル(CL2001606)は、魔女のコスプレをしていた。小学生ながらコスプレイヤーとして活動しており、衣装も自分で作るというガチなレイヤーである。
ユネルは相手の格好を見る。ネコミミ&肉球&シッポのねこねこ三種の神器を手にして、そのうえで魔法少女のロッドと衣装。野生を主張する猫と清楚を主張する魔法少女。属性としては混ぜても効果は低い。
「コンセプトが滅茶滅茶なの! なんでも混ぜればいいなんて思わないでほしいの!」
「か、可愛いければ許されるにゃん!」
主張するみやこん……の中の古妖はコスプレの知識はあまりないようだった。ユネルの主張に圧されるように答える。
どうあれ話し合いでどうにかなる状況ではない。覚者達は古妖を許すつもりはなく、古妖も少女の身体を諦めるつもりはない。
覚者と古妖は同時に動き出す。
●
「ほないくで!」
一番最初に動いたのは凛だった。手にした刀を幽霊の古妖に向ける。刀で斬れるか不安だったが、心霊系妖とは違い刀は古妖を深く傷つける。中には物理的な攻撃に強い幽霊古妖もいるのだろうが、こいつらはそうではなかったようだ。
滑るように足を運び、回るように戦増で刀を振るう凛。刀の紋様が光を受けて仄かに赤く光り、それが薙ぐたびに戦場に緋が走る。縦に横に斜めに。言葉通りの縦横無尽に炎のような光が煌めいていく。その度に古妖が傷つき、倒れていく。
「おいたはそん位にしてさっさとその子から出ていきや!」
「みやこんの正義を阻む悪い人! ねこねこぱんちで目覚めさせてあげる!」
「すまんなぁ。あたしはとっくに猫とラブラブなんや」
言って凛は守護使役のにゃんたを軽く撫でる。仲の良さを示すように、守護使役は気持ちよさそうに力を抜いた。
「来ぃや、魔法少女。アンタの攻撃全部うちがはじいたるわ!」
「よーし、ねこねこひゃくれつけん!」
「うーん。あれが怨霊の趣味の表れだというのなら、周りに受け入れられずに寂しい思いをしたとかかな? その寂しさで都ちゃんと同調した?」
猫+格闘+魔法少女の組み合わせを見ながら理央は考える。あまりにニッチな趣味を持ち誰にも受け入れられずこの世を去った者がいたとしよう。その行動の根底は『誰かに受け入れられたい』という寂しさだ。その寂しさと『独りぼっち』という被害者の気持ちが同調してこの結果になったのではなかろうか……?
考えても詮無きことだ。全ては仮定であり、怨霊を説得する気はない。今やるべきは怨霊を倒すこと。そのために支援に回る理央。水の源素を活性化させ、仲間の傷を癒していく。そして隙あらば炎を放ち、スプーキー・ブギーに打撃を重ねていく。
「回復はボクがやるよ。皆は攻撃に回って」
「ひどーい。ブギーちゃん、一体前に出てあの陰陽術師を舐めてあげて!」
「いいよ。多少気力を削られても回復できるし」
水の源素だけではなく、天の源素も使える理央に隙はない。一点特化型ほどの爆発力はないが、様々な状況でも相応に立ち回れる。
「隙ありっ! 術式速度特攻戦士、ゆねるんの攻撃を喰らうの!」
術符を手にしてユネルが猛る。裂帛と共に突き出した神具を沿うように、衝撃波がユネルから古妖達の方に向かって跳ぶ。それはスプーキー・ブギーとその背後にいるみやこんを穿った。そのまま第三の瞳を開き、動きを封じていく。
回るように足を動かせば、それに合わせて魔女の衣装も揺れる。そのまま神具を振るえば、土が凝縮して弾丸となって放たれる。油断は緩やかな印象を与えるユネルだが、今回の闘いは怒りを感じていた。
「『魔法少女』で『まじかる』なら、術式攻撃の方が合ってると思うし、華があるとゆねるんは思うの!」
指差し指摘するユネル。怒りのポイントはそこだった。
「あえてその裏を狙ったのがみやこんだにゃん」
「そんなの美しくないの! それでも魔法少女なの!」
とコスプレイヤーのこだわりを主張した後に、
「それに寂しがってる女の子のその心につけ込むオタク心は、真のオタク心じゃないってゆねるんは思うの!」
「くっくっく。少女の清らかな願望に付け入る黒い背徳。素晴らしいじゃないか……だにゃん」
一瞬素で喋った後、誤魔化すように語尾をつけるみやこん。
「そんな悪い古妖には、ゆねるんが魔女コスプレと真のオタク心でお仕置きしちゃうの!」
「せやな。真のオタク心はともかく、きっついのくらわしたるわ」
「悪戯する古妖に注意喚起。立派なFiVEの仕事だね」
ユネルの言葉に頷く凛と理央。既に最後のスプーキー・ブギーを倒し、みやこんに迫っていた。
「みやこんピンチ! だけど愛と勇気でピンチで乗り切れば、第二段階に覚醒できるにゃん!」
よくわからないことを言いながら覚者を迎え撃つ古妖。
戦いの天秤は揺れる。戦いは少しずつ終局に近づいてきていた。
●
「これでも食らうにゃん」
「ほんまこれ、大丈夫なにやろうなぁ」
前線でみやこんと凛は切り結んでいた。徒手空拳(肉球グローブを付けているが)のみやこんの格闘技と凛の刀技がぶつかる。怨霊が取り憑いているとはいえ、いたいけな少女に刃を向けるのには抵抗があったが夢見の言葉通り傷つくのは古妖のようだ。
「ねこねこれっぱだん、だにゃん!」
「隙あり! 焔陰流『煌焔』! これが古流剣術焔陰流二十一代目継承者(予定)の一撃や!」
気弾を発射したみやこんの隙を縫うように、凛の三連撃が走る。一撃の重さは古妖が勝り、手数では凛が勝る。一進一退の攻防だが、凛は激しい動きとみやこんからの打撃で徐々に疲弊していく。
「ゆねるんも負けてないの!」
気弾の余波を受け、衝撃を受けるユネル。だけどここで倒れるわけにはいかない。相手が許せないという理由もある。コスプレイヤーとして負けられない意地がある。だけど真の理由は人の寂しさに付け入る古妖を許せないからだ。
(笑顔を作れないコスプレなんて許せないの!)
ユネルは幼いながらも多くのコスプレをして、多くの人の前でそれを披露してきた。それはキャラクターになり切るというのが楽しいということもあるが、やはり見ている人が笑顔を向けてくれるのが嬉しかった。一人ではない。他人がいるから続けることが出来た。
だけどこの怨霊のコスプレは違う。完全な独り善がりだ。見ている自分達も、着せられている琴崎も誰も笑うことはできない。寂しい思いが募るだけだ。
「待っててね。今すぐゆねるんがお友達になってあげるから!」
「守護使役を見れない寂しさ、か。覚者にはチョット分からない悩みだよね」
誰の傍にもいる守護使役。力に目覚めてなければ気付く事すらできない存在だ。だが覚者の中にも守護使役を道具か能力の一旦程度にしか考えていない者もいる。いないからこそ寂しく思い、いるからこそ粗雑に扱う。不憫な話だと理央はため息を吐いた。
理央は被害者の寂しさをどうこうするつもりはなかった。夢見の話を聞けば友達もいるようだし、覚者側から守護使役のことを話しても羨ましがられるだけだ。FiVEの覚者としてやることは怨霊を退治すること。その役割はきちんと果たすと神具を握る。
「少し過剰かもしれないけど、回復に徹するよ。気力が厳しくなったら言ってね」
支援に回り、裏方に回る。理央にとって大事なのは任務を果たし、平和を守ることだ。
盤石の支援に支えられ、覚者達はみやこんを追い詰める。数の優位性を失った古妖に逆転の手はなく、熟達した覚者の猛攻に削られていくのみ。
「こ、こんな時に仲間のひむらんが助けに来る設定で!」
混乱して語尾を忘れる程度に古妖が追い詰められていた。
「そろそろ終いや。妄想はあの世で続けるんやな!」
言葉と共に放たれる凛の一閃。刀を納める音が戦場に響くと同時、魔法少女の服と共に怨霊が消え去っていた。
●
幻影の魔法少女コスチュームが消えれば、普通の服を着た琴崎が気を失ったように倒れ込む。
「任務完了。そろそろ結界を解くね」
理央は念のために琴崎に近づき、傷の具合を確認する。夢見の言ったとおり、ダメージは全部怨霊が受け持ったようだ。その事に安堵した後に、展開していた妖精結界を解除してFiVEへと連絡を入れる。
「ん……。夢? 変なアニメみたいな夢だったなぁ」
「夢や夢。忘れときぃ」
目を覚ました琴崎が告げた言葉に、凛は手を振って告げる。憑依されていて意識はないとはいえ、断片的に記憶に残っていたようだ。夢と思わせた方がいいだろう。変な趣味の怨霊はもういないのだから。
「ま、でも気を付けた方がええで。一人で帰ると危険がいっぱいやからな。変なお兄さんに襲われるかもしれへんよ」
「うん。学校でも教えてもらった。その時は全力で逃げるか助けを求めるんだって」
琴崎の言葉に苦笑を浮かべる凛。まさか変な趣味の古妖がいるとは学校の先生でも思わなかっただろう。
「お嬢ちゃんの守護使役は『魚』系かー。こんな姿してるんやで」
凜は琴崎が認識していない自分の守護使役を見た。琴崎の傍で泳ぐ魚系の守護使役。その映像を手にしたに念写し、手渡した。
「え? 私の後ろにいるの? 守護使役」
「おるで。誰の傍にもおるんや。因子発現したら見ることできるで」
「産まれた時から守護使役はずっと一緒に居て、その子を見守っているの!」
ユネルが琴崎の手を取って守護使役のことを説明する。
「きっと琴崎ちゃんが寂しい様に、守護使役の子も寂しがってると思うの。
だって、見えなくても傍に居るのに見えないと傍に居ないって考えていたら、その子は存在を否定されている気持ちになってしまうと思うの」
「寂しい……守護使役が……」
「だから、信じてあげて欲しいと思うの。たとえ見ることも話すこともできなくても、琴崎ちゃんの守護使役は傍にいて見守ってくれているって」
琴崎はユネルに言われて守護使役がいる方を見る。その瞳に守護使役を写すことはないけれど――
「うん。わかった。信じてみる」
そこに何かがいると信じようと思うことはできた。
かくして事件は大きな被害もなく終結した。
琴崎宮子は日常に戻り、友達と一緒に平和な日々を過ごしている。
あの事件以降彼女の友人が一人増え、時折コスプレ会場で有名コスプレイヤーであるその友人と一緒に活動しているというが、それは別のお話である。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『コスプレ写真』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:立花 ユネル(CL2001606)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:立花 ユネル(CL2001606)
