秋の訪れ、夜の月
秋の訪れ、夜の月



 酒盃に映る月を肴に、丸い団子をかじり、夜空の星々を眺める――

 中秋の名月は、毎年秋に日本各地で行われる行事だ。
 かつて中国より伝わったこの催しは、秋の訪れの代名詞として今なお人々から親しまれている。
 月見団子を頬張る子供、夜空の星座を探す青年、秋の夜をのんびりと月を見る夫婦――
 日々の暮らしを少し外れた、小さな非日常の世界がそこにはある。

 鈴虫の鳴き声が蝉時雨に取って代わり、月が白銀に輝く頃。
 月見の季節がそろそろと五麟にやって来た。


「市内の神社でお月見が開催されます。皆さん、一緒に月を見に行きませんか?」
 教室に集まった覚者たちに、参河 美希(nCL2000179)は言った。
 催しが開かれるのは学園にほど近い場所にある古い神社だ。昔から月見の名所として知られ、秋のシーズンになると京都の内外から月を眺めに客が訪れる。
 境内には即席の御茶所が設けられ、お茶や団子を友に月見を楽しめる。すぐ傍には芝生が広がっているので、そこでのんびりと夜空を見上げるのもいいだろう。当日の月は十三夜月といい、ほぼ満月に近い上弦の月だ。
 開催時刻は日没後17時から21時まで。風にそよぐススキの音を聞きながら、名物の月見団子や月見酒で秋の一時を楽しもう。
「私は境内を散策していますから、気軽に声をかけて下さいね。それでは、よろしく」


■シナリオ詳細
種別:イベント
難易度:楽
担当ST:坂本ピエロギ
■成功条件
1.秋の月見を楽しむ
2.なし
3.なし
ピエロギです。もうすっかり秋の気配ですね。
というわけで今回は、秋のお月見イベントをお送りします。

●ロケーション
五麟学園の近くにある神社。時刻は日没の直後です。
灯りがともった境内は静かな空気に包まれていて、あちこちを自由に散策できるほか、
即席の御茶所では団子やお茶などの軽食も楽しむことができます。

●行動リスト
キャラクターの行動については、以下の1~3のいずれかを選択し、
プレイングまたはExにて番号の指定をお願いします。
指定がない場合、STの判断で割り振りを行いますのでご了承ください。

1.月見
境内を散策し、のんびりと月を鑑賞します。
神社から望遠鏡を借りて、夜空の星々を眺めることも出来ます。

2.食事
月を眺めながら、食事を楽しみます。持ち込みも可。
未成年の飲酒喫煙はご遠慮ください。

3.その他
月見、食事以外の行動を取る場合、こちらを選択して下さい。


NPCの参河 美希(nCL2000179)は、境内を散策しています。
会話を希望する場合は、プレイングにてご指定下さい。

●お土産の発行について
イベントに関連するアイテム(月見団子、思い出の品など)をお土産として発行します。
発行希望者は【発行希望】・名称・設定の3点を必ずご記載下さい。
(プレイング欄・EXプレイング欄、どちらの記載でも構いません)

・字数上限は名称(全角14文字以内)、設定(全角64文字以内)とします。
・記載事項に漏れがあった場合、アイテムは発行されません。
・字数オーバー、内容に問題がある場合はSTが修正を行う場合があります。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】という タグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
(3モルげっと♪)
相談日数
10日
参加費
50LP
参加人数
18/30
公開日
2017年10月04日

■メイン参加者 18人■

『涼風豊四季』
鈴白 秋人(CL2000565)
『想い重ねて』
蘇我島 燐花(CL2000695)
『想い重ねて』
蘇我島 恭司(CL2001015)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『花屋の装甲擲弾兵』
田場 義高(CL2001151)
『居待ち月』
天野 澄香(CL2000194)
『エリニュスの翼』
如月・彩吹(CL2001525)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)
『機械仕掛けの狂天使』
成瀬 舞(CL2001517)

●境内にて
 日が沈み、夜の帳が五麟の山々に落ちる頃。
 月明かりが青白く照らす神社の境内を、桂木・日那乃(CL2000941) はのんびり散策していた。
「秋の、夜。すずし、い」
 鈴虫の鳴き声に耳を傾けながら、日那乃はそっと芝生に身を横たえる。
 夜空を泳ぐ守護使役のマリンも、心なしか気持ちがよさそうだ。
 ゆらゆらと漂う守護使役の桜色の尾びれは、幻想的な美しさを湛えていた。
「……月の光、綺麗、ね? マリン、も、綺麗」
 月を背に宙を泳ぐマリンを掴もうとした日那乃の手が、そっと芝生に落ちた。
 秋の夜風に撫でられて、ふいに睡魔が襲ってきたのだ。
「……むにゃ。眠、い」
 芒のそよぐ音が風に乗って聞こえてくる。
 日那乃はそのまま、まどろみの中へ落ちていった。

 月光が青く照らす境内を、菊坂 結鹿(CL2000432)はのんびりと散策していた。
 ぼんぼりで砂利道を照らしながら、そっと闇に耳をすませば、鈴虫の鳴き声が聞こえてくる。
(『お月見は五感で楽しむのがいいね』ってお姉ちゃんが言うから来てみたけど……すごい綺麗)
 ひと歩きして芝生に腰を下ろし、ふと空を見上げる。
「わあぁっ」
 結鹿の瞳が、黒羅紗紙に散らした金箔のように輝く星々を映した。ずっと見つめていると、まるで自分も星の仲間になったようだ。
 一緒に神社に来た結鹿の「お姉ちゃん」も、きっと今頃、同じ空の月を眺めていることだろう。
(御茶処で食事をしてくるって言ってたから、後でたっぷりお話を聞いてもらおうっと)
 ぼんぼりの灯りが、秋の夜空を眺める結鹿をそっと照らしていた。

「お月見団子の味はどう? お茶もあるからね」
「うん、おいしい。お月様にもお裾分けしたいくらいだよ」
 永倉 祝(CL2000103)の料理に、鈴白 秋人(CL2000565)はそっと微笑んだ。
 シートに座って、ふたりで見上げる満天の星空は、吸い込まれるように美しい。
 団子だけではない、今の自分たちの幸せも月に分けたいくらいだった。
「式場も決まったし、後は招待状を出すだけだね」
「……ん」
 月見団子を食べながら、祝はこくりと頷いた。
 来年の初めに、祝と秋人は結婚式を挙げる予定でいる。
「祝。本当に、良かったかな?」
「ん、何が?」
 秋人の問いかけに、祝は首を傾げた。
「俺みたいな年上と一緒で不安じゃないか、ってさ。やり残した事とかは、ないかな?」 
「んー。不安は、特に」
 三歳上の未来の夫に、祝は呟くように言う。
「やりたい事は、これから秋人さんと一緒にしていけばいいことだし。していきたいし」
 ふいに祝は、くすりと笑った。
(自分と一緒で不安じゃないか……か)
 秋人の言葉は、祝がそのまま秋人に感じていたことだった。
 祝は月明かりから隠れるように、ほんのすこし顔を伏せ、思った言葉を口にする。
「秋人さん。月が綺麗だね」
「本当に。死んでもいい――なんて言ったんじゃ、縁起が悪いかな」
 祝の言葉に、秋人が微笑む。
「一緒に幸せな家庭を築いていこう、祝」
「よろしく。秋人さん」
 握った秋人の手をそっと月にかざす祝。
 二人の結婚指輪が、青い光で輝いた。

 境内の砂利道に、ふたつの足音が響く。
 天堂・フィオナ(CL2001421)と、八重霞 頼蔵(CL2000693)だ。
「お月様、綺麗だな! 頼蔵と遊ぶのは久し振りで、やっぱり嬉しい!」
 はしゃぐフィオナに、頼蔵は小さく肩を竦めた。この少女ときたら何がそんなに楽しいのやら。
 灯篭の明かりを道標にしばらく小道を歩いていると、ふいにフィオナが声を弾ませた。
「あ、向こう! 彼岸花だ!」
 指さした先の道端には、赤い線香花火のような花々が咲いている。
 駆け寄ったフィオナは赤い花弁そっと指でなぞると、ふいにしょんぼりと項垂れた。
「去年の秋も、月と一緒に彼岸花を見たよな。でも、あれから背は全然伸びなくてな……」
(ふむ。確か天堂君の背丈は、同年代の平均身長を上回るはずだが――)
 とはいえコンプレックスに悩む人間に、そんな理屈は何の慰めにもならない。
 そこで、それまで聞き役に回っていた頼蔵は、少し口を開くことにした。
「天堂君。成長とはね、肉体の話だけではないよ」
「えっ?」
「この一年は……天堂君を、前より少しだけ魅力的にしたのでは」
「え、魅力的になれた……かな」
 フィオナの問いかけに、頼蔵は答えない。
 悪戯っぽい微笑を浮かべる頼蔵に、フィオナは胸の小さな高鳴りを覚える。
「えっと……あ……!!」
 そして気づいた。周囲に人の気配がないことに。
 自分がいま、頼蔵とふたりきりだということに。
「こ、これじゃまるでこいび……いや、なんでもない! それより彼岸花だ!」
 紅葉を散らしたようになった顔を慌ててそらし、フィオナは半ば強引に話を戻す。
「ひ、彼岸花を見ると……貴方を思い出すんだよな」
「よりによって、死と縁深い花とは。私が死神か何かに見えるという意味かね?」
「いいい、いや……何となく、スラッと伸びてる所とか!」
 頼蔵は含み笑いを漏らした。
 フィオナの慌てる姿を見ると、つい意地悪を言いたくなってしまう。
 そんな頼蔵の心を知ってか知らずか、フィオナはますますしどろもどろになっていく。
「それに、『天上に咲く花』とか素敵な意味もあるんだぞ! ……あ、でも、天上に行っちゃダメだ! 絶対、嫌だからな!」
「くくく、はははは……」
「な、なにがおかしい!」
 堪えきれずに笑う頼蔵。
 ますます顔を赤くするフィオナ。
 ふたりの声が、月の夜空に吸い込まれて消えていった。

「やっぱりこの時期のお月様っておっきてくて綺麗だねー!」
「はい。綺麗なお月様ですね」
 工藤・奏空(CL2000955)と賀茂 たまき(CL2000994)は、境内を二人で散策していた。
「そういえば、どうしてお月様にお供え物をするんだろう? たまきちゃん、知ってる?」
「昔、お母様から聞きました。芒とお団子をお供えするのは、豊作と子孫健康を願ったものだと」
「そっか。俺がお月様だったら、美味しいお団子さえ貰えればどんな願いも叶えちゃうよ!」
 奏空は無邪気に笑うと、空に輝く月を見上げた。
 雲ひとつない夜空に浮かぶ上弦の月には、灰色の影模様がはっきり見える。
「お月さまの影模様、本当にウサギに見えてくるね」
「お月様に兎さんが見えるのは、火に飛び込んで、帝釈天へと身を捧げた兎さんが、月に昇ったからだそうです」
 夜空を見上げる奏空を追い越すように芝生をそっと歩きながら、たまきが話し出した。
「私、そのお話を聞いた時は悲しくて……」
「たまきちゃん?」
 奏空は怪訝そうな顔をした。うまく言葉にできずとも、直感で感じ取ったのだ。
 たまきは奏空に、何かを伝えたがっている。それも、とても大事な話を。
「私は、最後は、素敵なお話になるお話の方が好きです。そして――」
 ほんのひととき間を置いて、たまきが口を開く。
「奏空さんと私の、これからの物語も……素敵なお話にしていきたいと、思っているのです」
「……!!」
 奏空は、自分の心臓が高鳴る音をはっきりと聞いた。
 たまきの手が、奏空の手にそっと重なる。
「今迄も沢山の素敵を下さった奏空さんと、これからも共に過ごしていきたい。お爺さん、お婆さんになるまで……それを、許してくれますか……?」
「うん。俺はね……」
 目をそらさずに、奏空は伝えた。自分の偽りのない気持ちを。
「これからもずーっと、おじいちゃんおばあちゃんになっても……お月見の日には、たまきちゃんの隣でお月見団子食べてるって……」
 たまきの手を取って、奏空は力強く頷いた。
「約束するよ。月のウサギさんに誓って!」
「奏空さん……」
 まなじりの光るたまきの顔を両手で優しく覆い、額にそっと口づけする奏空。
 ふたりだけの時間を、月の兎が見守っていた。

●御茶所でのひと時
 お茶処は、畳張りの部屋に卓を置いた一室だった。
 縁側の外には玉砂利の庭が広がり、月の明かりが庭石を青く照らしている。

(結鹿ちゃん、今頃なにをしているかな)
 向日葵 御菓子(CL2000429)の瞳には、銀の盆のような月が映っていた。
 御茶処の卓に腰かけて、涼しい空気を肌で感じていると、秋風にのって鈴虫の声が聞こえてくる。
(五感をフルに活用して楽しむなんて、とっても素敵なことじゃない?)
 月を見ながら楽器でも奏でて――そんな考えが一瞬、御菓子の頭をよぎったが、虫のコーラスを邪魔するのも野暮と思い、やめた。
 代わりに御菓子は、五感のひとつである『味覚』を思い切り楽しもうと決めた。
(お酒……たまにはいいかな? いいよね……)
 神社から振舞われた酒は、格別の味だった。1杯が2杯に、2杯が4杯に……そんな調子で飲み続け、御菓子はあっという間にへべれけになってしまった。
「ふふ、なんだか楽しくなってきちゃった!」
 ろれつの怪しい声が、境内に流れて――。
 翌朝、御菓子は結鹿の小言で目を覚ますことになるのだが、それはまた別の物語だ。

「月見っていえば月見酒なしにゃ始まらんよな」
 田場 義高(CL2001151)は、白く丸い月見団子をあてに、酒を飲んでいた。
 ここ最近は騒がしかったので、月を見ながらひとり酒を楽しむ算段なのだ。
(ま、伝統と風情を楽しむためのマナーってやつだよなぁ?)
 義高は盃に酒を注ぎ、卓の料理を見回した。
 満月に見立てた里芋の衣かつぎ、さつまいもとカボチャの含め煮、旬の根菜とキノコをふんだんに使った煮物――。旬の味覚が、卓を綺麗に彩ってゆく。
「せっかくだ、こいつも添えるとするか」
 そう言って義高が取り出したのは、自宅から持ってきた初穂の飯と七草の料理だ。女郎花の若葉のお浸しなどは、特にいい塩梅に出来ていた。
「大地の実りを有難う。いただきます」
 盃に注いだ酒に月を映し、一口。
 卓の料理に箸を伸ばした義高の頬が綻んだ。
「一緒にどうだ、お月様よ?」
 盃を掲げて微笑む義高を、月光が優しく照らしていた。

 蘇我島 恭司(CL2001015)と柳 燐花(CL2000695)は、御茶処の座布団に腰を下ろした。
「来てくれて嬉しいよ、燐ちゃん」
「こちらこそ。お誘いありがとうございます、蘇我島さん」
 嬉しさを隠し切れず、燐花はニッコリと微笑んだ。
 夜に外出と恭司から聞いた時は、何の用事かと思ったが、月見と聞けば得心である。
「燐ちゃんの料理には負けちゃうけど、食べてもらえたら嬉しいかな?」
 そう言って恭司が持ってきたのは、二人分の手作り弁当だ。
 恭司の言葉に燐花は顔を赤くして、わたわたと恥ずかしそうに首を振った。
「ま、負けるなどとんでもないです……!」
「ははは。まあ、開けてみて」
「はい。……わぁっ」
 恭司に勧められ、そっと蓋を外した燐花の顔がぱあっと輝いた。
 レパートリーは、燐花が普段作らない洋食メイン。ちりばめるように並んだ料理は、どれも恭司らしい細かな仕事と心遣いが伺える出来だった。
「嬉しいです、蘇我島さん」
「良かった。今回は僕がお弁当を用意して、燐ちゃんを驚かせたかったからねぇ」
 恭司は破願した。燐花の笑顔を観られただけで、苦労した甲斐がある。
「それじゃあ、燐ちゃんと月を観ながら一緒に……いただきます」
「はい。いただきます、蘇我島さん」
 とりとめのない会話を交わしながら、食事をするうち、燐花はくすりと微笑んだ。
 恭司の料理が、彼の人となりと笑ってしまうくらい同じだったからだ。
 誠実で、妥協せず、温かい。それがとても、燐花の心を惹きつける。
(お慕いする方と過ごす、幸せな時間。この気持ちを、どう表現しましょうか……。ああ、そうだ)
 燐花は恭司を見つめて、そっと口を開いた。
「蘇我島さん。月が綺麗ですね」
 恭司はすぐに、燐花の言葉を察する。
(これは……夏目漱石のアレだろうねぇ)
 ならば、返す答えは決まっていた。
「うん、僕もそう思ってたところだよ」
 恭司の笑みに、燐花は思わず赤面した。
 伝わったという喜びと同時に、気恥ずかしさを感じてしまう。
「月が綺麗だね。燐ちゃん」
「はい。本当に綺麗です」
 微笑みを交し合いながら、二人の時はゆっくりと流れてゆく。

 天野 澄香(CL2000194)たちの宴は、たけなわを迎えつつあった。
「秋とくれば、お酒は欠かせないよね。もう一杯どう?」
「ちょーだい。このお酒おいしい」
 そっと尋ねる如月・彩吹(CL2001525)に、麻弓 紡(CL2000623)が頬に朱の差した顔で応えた。少し前まで大判ストールに身を包んで震えていたのが噓のようだ。
「綺麗な月に、美味しい御飯……極楽だねえ」
「ふふ、私のとっておきだからね」
 彩吹は、湯煎器から取り出した三毛猫徳利の燗酒を、とくとくと紡の猪口に注いでいく。
「ああ、極楽だねえ。道具係のボクとしても、用意した甲斐があったよ」
「最高の燗具合だよねえ。お酒もきっと喜んでるよ」
「ほら、いぶちゃん、つむちゃん! 澄ちゃんと私の料理、遠慮しないでどんどん食べて!」
 二段の重箱にちりばめられた旬の味覚に、栗御飯のおむすび、燗酒と肴……
 成瀬 舞(CL2001517)が、卓の料理を取り箸で分けながら言った。
「澄ちゃんのお弁当、凄く美味しいんだから。全部食べないと勿体ないよ!」
「ありがとうございます。お月見弁当、結構張り切ってきちゃいました」
 澄香は恐縮しているが、彼女の重箱弁当は、宴の目玉というべき料理だった。
 下段は、きのこを混ぜた五目御飯の稲荷寿司。
 上段は、中秋の名月を食材で描いた、一幅の絵ともいうべき料理だ。
 満月をあしらった薄焼き卵の上で、スライスチーズの雲に隠れて、海苔の兎が餅をついている。それを、ウズラの卵で作った4羽の兎が地上から眺めていた。兎たちが踏みしめるのは、鶏の唐揚げやサツマイモの煮物で作った地面だ。
 思わず箸をつけるのを躊躇してしまいそうな出来栄えだった。
「澄香はまたすごいものを作ってきたね、美味しそう」
「ふふっ、今の私達を現してみました。どんどん食べて下さいね」
「私の料理もどうぞ。栗名月ということで、栗ご飯のおにぎりです!」
 澄香と舞の料理に箸が進み、4人の笑い声が部屋に満ちた。
 彩吹から勧められた酒を、ゆっくりと味わって飲む澄香。
 そこへ紡が、コンロで炙ったエイヒレをそっと差し出した。
「七味マヨもあるからね?」
 いっぽう舞は猪口のふちをかじるように、ちびちびと酒を飲んでいた。
 弱くはないが、酔うほど飲んでは皆に迷惑がかかってしまう……そんな事を考えながら空を眺めていると、ふいに彩吹が月を指差した。
「あ、兎が見えた」
「どれどれ……ほんとだ。あれ、海外だとカニとか女性の横顔に見えるって話よね……」
 目を凝らす舞のとなりで、紡も外に顔を出す。
「でもここからだと、よく見えないね。望遠鏡でも借りてくる?」
「ううん、もっといい方法があるよ」
 黒鳥のような黒翼を広げ、彩吹がニッコリと微笑んだ。
「折角の月だもの。特等席で見ない?」
「特等席……って、まさか?」
「そ。舞さんは私が運ぶよ。二人はどうする?」
 彩吹の提案に、澄香と紡も笑って翼を広げる。
「賛成です。行きましょう」
「いいね。ボクも兎さんに、ご挨拶と行こうかな」
 彩吹を先導に、4人は窓から空へと羽ばたいた。
 真珠のような月。穏やかだが、僅かに寒さを孕んだ風。
 季節はすっかり秋のそれだ。
「いぶちゃん、ありがとう。最高の特等席だよ」
「どういたしまして。青空もいいけれど、夜空も素敵だな」
「ふふ、贅沢な時間の使い方ダネ?」
 笑いさざめく声が夜空へ溶けてゆく。それにつられて笑うように、星々もちかちかと瞬いた。
 澄香は思う。この時間がいつまでも続くといいのに、と。
 4人の影が、十五夜の夜空をいつまでも舞っていた。

●思わぬ出来事
 一方その頃。
 境内の外れでは、ちょっとした事件が起こっていた。

「やれやれ……いったい、何をやっているのですか?」
「何をって、ときちか。それは――」
 時任・千陽(CL2000014)の呆れ混じりの声に、切裂 ジャック(CL2001403)は悪びれずに笑った。
「月があまりにも綺麗だから獲ってこようとしたんやけど。駄目やわ! 空には届かんな」
 千陽の両腕に抱えられ、傍の大木を見上げるジャック。彼はつい先ほど、木の天辺から落ちたところを千陽に受け止められたのだ。
(自分が傍にいなければ、どうなっていたことやら)
 毎度毎度こんな無茶に付き合わされては身がもたない。
 千陽は少しばかり、ジャックに現実を教えようと思った。
「切裂。月までの距離を知っていますか?」
「んー? 難しいことはよう分からんけど、手を伸ばせば届くくらい!!」
 恐ろしいことに、ジャックは本気でこれを言っている。千陽は盛大な溜息をついて、客観的な事実を述べた。
「およそ38万キロメートル。地球を約10周できる距離です」
「そら遠すぎたわ、あかん。よし次は星にするわ」
「……ふう。そうまでして、天を求めますか」
 ふと千陽は、蝋の翼で自由に空を飛んだというギリシャ神話の人物を思い出した。掴もうとした太陽に蝋を溶かされ、墜落して死んだ男の話を。
「古今東西、天に手を届かせようとするのは、人の業なのでしょうね」
「業なあ。ときちかは、ヒトの営みが恋しいんやな!」
「そうですね。きっと好きなのだと思います。それに、業なくして科学の発展はありませんから」
 千陽は、両手に抱えたジャックを天に向かって抱え上げようとした。
「なんなら持ち上げてみましょうか? 俺の身長分近くはなりますよ」
「やめて! 軽々持ちあげんな! ちょっと傷つく!」
「それなら体を鍛えることです。ちゃんと食べていますか?」
「なにい! 決まっとる、ちゃんと食べて――」
 グウウゥゥゥ――。
 大きな腹の虫が、ジャックの言葉を遮った。
「食べて無いです! わかった! 鍛えればええんやろ!! こらぁ!」
「月見団子だけでも腹に収めるといい。確か、御茶処で頂けたはずです」
「だから子供扱いすんな! 離せ! ひとりで歩ける、平気やき!」
 ジャックを境内の中へと引きずってゆく千陽。
 果たしてそれから、ジャックと千陽は、無事に団子を食べられたのだろうか?
 その答えを知っているのは、二人だけだ。

●宴の終わり
 こうして、覚者たちの夜は過ぎていった。
 昭倭92年の日本、とある秋の一日の物語である。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『月下の契り』
取得者:鈴白 秋人(CL2000565)
『月下の契り』
取得者:永倉 祝(CL2000103)
『また一緒に、あの月を』
取得者:賀茂 たまき(CL2000994)
『また一緒に、あの月を』
取得者:工藤・奏空(CL2000955)
『月がこの手に届くなら』
取得者:切裂 ジャック(CL2001403)
特殊成果
『思い出の写真』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:柳 燐花(CL2000695)
『思い出の写真』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:蘇我島 恭司(CL2001015)
『星明かりぼんぼり』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:菊坂 結鹿(CL2000432)
『守り鈴』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:天野 澄香(CL2000194)
『守り鈴』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:如月・彩吹(CL2001525)
『守り鈴』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:麻弓 紡(CL2000623)
『守り鈴』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:成瀬 舞(CL2001517)




 
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