DANCING EVILS
●“光る女の胸元に 昂り隠せない俺はWolf
スパンコールのキラ☆メキが eXstasyを掻き立てる“
“Endless Midnight 太陽を追い払って ミラーボールの月が回る”
“Endless Midnight 踊り狂うのさ 酒池肉林のVivid Dance Hole!”
ジュークボックスが狂ったようにネオンを明滅させ、牙の揃った口からミュージックを吐き出す。
血のように赤いミラーボールとサイケデリックな鬼火に彩られたホールは快楽的な狂乱に包まれていた。
人の綴った言葉なぞ てんでわかりゃあしないけど
髄も震えるこの音に 体が勝手に動き出す
なんて愉快な宴の場 躍り倒せや世の終わりまで
●うち捨てられた廃ビルは、まるで巨大な墓石のように見えた。
「ここがまるまる放置されてんのかよ」
スキンヘッド、サヤマの言葉の端には訝りと期待が滲んでいた。
「ゴーストタウンさ」
先導していた男、ゴライは口を開く
「ニュータウン計画で造られた街の一画だ。もっとも、ここだけ開発が頓挫して取り残されているわけだが」
朽ち果てた建造物の入口、正確には地下に繋がる階段から音楽が聞こえてくる。
「随分古臭い曲だな。いつの時代だよ」
腰にぶら下げた大量のチェーンを弄りながら、スドウが鼻で笑う。
「この下に何がいるんだ? 絶対まともじゃねぇだろ」
メンバー1のハザマダの巨躯は、その肝の小ささを隠せていない。
「何が怖いんだ? 警察か? 妖か? それともホームレスか?」
スドウの煽りに便乗するようにどっと笑いが起こる。
「この“街”はこれから俺たち『Dread Bot』のものになるんだ。無断で営業しているテナントは取り締まらないとな。そうだろ、リーダー」
ゴライの視線の先、並んで歩く男たちの後ろにもう一つ人影がある。
その男だけ、ジャケットではなくロングコートだった。プラチナの長髪がうっすらと闇に映える。その下に隠れた口元が幽かに笑った。
「警察だろうが、妖だろうがF.i.V.Eだろうが、俺の力でねじ伏せてやる」
男たちは全員黒いレザーに身を包み、チェーンやメタルの装飾を物々しく身にまとっている。それが隔者ゼンガを中心としたギャング集団、「Dread Bot」のユニフォームだ。
「ゼンガがいれば何も怖くねぇさ。邪魔するやつがいたら、お前の“ぶっといの”をお見舞いしてくれよ」
サヤマがわざといやらしく笑いながら、ゼンガの右腕をこづく
怖いモノ知らずのDread Botが、地下の闇に消えていく。
重い扉の向こうから、ズン、ズン、ズン、ズンとリズムが響いている。
「こんなところで乱痴気騒ぎなんて確かにまともじゃねぇかもな」
スドウの呟きには応えず、ゴライがドアノブを回す。だが、扉は開かない。内側から鍵がかかっているのか。
ゴライが振り向き被りを振り、開かないとわかるとゼンガは男たちを押しのけ扉の前に立つ。
ゆっくりと右腕をかざす。キリ、キリ、カチリ、ガキン、その音はゼンガにだけ聞こえた。自分の身体のメカニズムが起動する音。
瞬間、かざした腕の袖が布切れになってはじけ飛んだ。
現れたのは、ごつごつと起伏した装置と、そこから伸びる銀色の鉄杭――パイルバンカー。
ゼンガが気合を込めると、変化した右腕の内部が駆動し、炸裂音。衝撃とともに鉄杭が打ち出され、重い防音扉を風に吹かれた紙屑のように吹っ飛ばした。
扉の先にこんな光景があると、誰が想像しただろうか。
血に染まったようなダンスホールの中で魑魅魍魎たちが踊り狂っているなどと。
ハザマダの悲鳴は音楽にかき消された。妖たちが一斉にこちらを振り向きダンスのリズムのままに迫ってくる。ゼンガは迎え撃とうとホールに入り込む――その姿にメンバーは微かな安堵を感じていた。
勢い任せに右腕を振りパイルバンカーを炸裂させるが、妖は踊りながら躱してしまう。
横からとびかかる妖をゼンガはバンカーの本体で薙ぎ払う。
本物の妖など、相手にしたことは今まで一度もない。
妖が二体、三体と、躍りながら迫ってくる。ゼンガはバンカーを立て続けに撃つがどれも虚空を貫くだけだった。
「くそが、当たれよ! この野郎!」
ゼンガの怒号とも悲鳴ともつかない叫びは誰にも届かない。
バンカーの重みにつられて姿勢を崩した。焦りと恐怖でゼンガは振り向く。
眼前に広がった狂喜の面、それがゼンガの見た最期の光景だった。
●“Endless Midnight 太陽を追い払って ミラーボールの月が回る”
“Endless Midnight 踊り狂うのさ 酒池肉林のVivid Dance Hole!”
ジュークボックスが狂ったようにネオンを明滅させ、牙の揃った口からミュージックを吐き出す
なんて愉快な旋律よ
躍っていれば飯もくる
飲んで食ったらまた踊れ
この世の終わりまで踊れ
肉の塊をかじり、杯を満たす血をうまそうに啜りながら妖たちは宴に興じる。……。
スパンコールのキラ☆メキが eXstasyを掻き立てる“
“Endless Midnight 太陽を追い払って ミラーボールの月が回る”
“Endless Midnight 踊り狂うのさ 酒池肉林のVivid Dance Hole!”
ジュークボックスが狂ったようにネオンを明滅させ、牙の揃った口からミュージックを吐き出す。
血のように赤いミラーボールとサイケデリックな鬼火に彩られたホールは快楽的な狂乱に包まれていた。
人の綴った言葉なぞ てんでわかりゃあしないけど
髄も震えるこの音に 体が勝手に動き出す
なんて愉快な宴の場 躍り倒せや世の終わりまで
●うち捨てられた廃ビルは、まるで巨大な墓石のように見えた。
「ここがまるまる放置されてんのかよ」
スキンヘッド、サヤマの言葉の端には訝りと期待が滲んでいた。
「ゴーストタウンさ」
先導していた男、ゴライは口を開く
「ニュータウン計画で造られた街の一画だ。もっとも、ここだけ開発が頓挫して取り残されているわけだが」
朽ち果てた建造物の入口、正確には地下に繋がる階段から音楽が聞こえてくる。
「随分古臭い曲だな。いつの時代だよ」
腰にぶら下げた大量のチェーンを弄りながら、スドウが鼻で笑う。
「この下に何がいるんだ? 絶対まともじゃねぇだろ」
メンバー1のハザマダの巨躯は、その肝の小ささを隠せていない。
「何が怖いんだ? 警察か? 妖か? それともホームレスか?」
スドウの煽りに便乗するようにどっと笑いが起こる。
「この“街”はこれから俺たち『Dread Bot』のものになるんだ。無断で営業しているテナントは取り締まらないとな。そうだろ、リーダー」
ゴライの視線の先、並んで歩く男たちの後ろにもう一つ人影がある。
その男だけ、ジャケットではなくロングコートだった。プラチナの長髪がうっすらと闇に映える。その下に隠れた口元が幽かに笑った。
「警察だろうが、妖だろうがF.i.V.Eだろうが、俺の力でねじ伏せてやる」
男たちは全員黒いレザーに身を包み、チェーンやメタルの装飾を物々しく身にまとっている。それが隔者ゼンガを中心としたギャング集団、「Dread Bot」のユニフォームだ。
「ゼンガがいれば何も怖くねぇさ。邪魔するやつがいたら、お前の“ぶっといの”をお見舞いしてくれよ」
サヤマがわざといやらしく笑いながら、ゼンガの右腕をこづく
怖いモノ知らずのDread Botが、地下の闇に消えていく。
重い扉の向こうから、ズン、ズン、ズン、ズンとリズムが響いている。
「こんなところで乱痴気騒ぎなんて確かにまともじゃねぇかもな」
スドウの呟きには応えず、ゴライがドアノブを回す。だが、扉は開かない。内側から鍵がかかっているのか。
ゴライが振り向き被りを振り、開かないとわかるとゼンガは男たちを押しのけ扉の前に立つ。
ゆっくりと右腕をかざす。キリ、キリ、カチリ、ガキン、その音はゼンガにだけ聞こえた。自分の身体のメカニズムが起動する音。
瞬間、かざした腕の袖が布切れになってはじけ飛んだ。
現れたのは、ごつごつと起伏した装置と、そこから伸びる銀色の鉄杭――パイルバンカー。
ゼンガが気合を込めると、変化した右腕の内部が駆動し、炸裂音。衝撃とともに鉄杭が打ち出され、重い防音扉を風に吹かれた紙屑のように吹っ飛ばした。
扉の先にこんな光景があると、誰が想像しただろうか。
血に染まったようなダンスホールの中で魑魅魍魎たちが踊り狂っているなどと。
ハザマダの悲鳴は音楽にかき消された。妖たちが一斉にこちらを振り向きダンスのリズムのままに迫ってくる。ゼンガは迎え撃とうとホールに入り込む――その姿にメンバーは微かな安堵を感じていた。
勢い任せに右腕を振りパイルバンカーを炸裂させるが、妖は踊りながら躱してしまう。
横からとびかかる妖をゼンガはバンカーの本体で薙ぎ払う。
本物の妖など、相手にしたことは今まで一度もない。
妖が二体、三体と、躍りながら迫ってくる。ゼンガはバンカーを立て続けに撃つがどれも虚空を貫くだけだった。
「くそが、当たれよ! この野郎!」
ゼンガの怒号とも悲鳴ともつかない叫びは誰にも届かない。
バンカーの重みにつられて姿勢を崩した。焦りと恐怖でゼンガは振り向く。
眼前に広がった狂喜の面、それがゼンガの見た最期の光景だった。
●“Endless Midnight 太陽を追い払って ミラーボールの月が回る”
“Endless Midnight 踊り狂うのさ 酒池肉林のVivid Dance Hole!”
ジュークボックスが狂ったようにネオンを明滅させ、牙の揃った口からミュージックを吐き出す
なんて愉快な旋律よ
躍っていれば飯もくる
飲んで食ったらまた踊れ
この世の終わりまで踊れ
肉の塊をかじり、杯を満たす血をうまそうに啜りながら妖たちは宴に興じる。……。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.小鬼、戎狗僕巣(ジュークボックス)の討伐
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
ロケーション
ダンスホール
ゴーストタウンとなった街の、とあるビルの地下にあるダンスホール。
バブリーなダンスミュージックがやかましく流れています。
食い殺してきた人間の残骸や遺留品が隅っこに転がっています。
ホール内の空間は広く、天井も高いので多人数が戦っても特に支障はありませんが、長い間放置されているので耐久性はあまりよくありません。壁や天井に覚者の攻撃が直撃すれば破砕する可能性があります。
敵情報
小鬼(ランク1)
ホール内に十体程度。攻撃はひっかき(近距離)のみ。通常攻撃でも一撃で倒せますが、音楽にノリノリですばやいです。
戎狗僕巣(ランク2)
ジュークボックスに取りついた妖です。口(スピーカー)から絶えず大音量でダンスミュージックを流しています。
戦闘になると蜘蛛の如く足を生やして動き出します(本体が重いので動き自体はのろいです)
攻撃法は
・足による薙ぎ払い、刺突(近距離)
・内部から飛ばしてくるレコード型の円輪(遠距離単体)
・音楽の音量を急に上げ、爆音で敵をけん制することもあります。
口を破壊すると音楽がやみ戦闘力を失います。
戎狗僕巣の討伐か、口の破壊により音楽がとまると妖たちの動き(ノリ)は著しく鈍くなります。
はじめての依頼で至らぬところが多々あると思いますが、少しでも皆さんが楽しめれば……と思います。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
9日
9日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/6
4/6
公開日
2017年11月10日
2017年11月10日
■メイン参加者 4人■

●Guests Who’s Coming To Partyー招かれざる覚者
快楽主義なナンバーが轟くのは、危険な紅い灯りに包まれたダンスホール。そこで踊り倒しているのは、人を食らう魑魅魍魎ども。
「まったく……悪趣味だぜ」
加減を知らない大音量に顔をしかめながら、『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)は呟く。
「……ダンス、ミュージック? ふーん……。……音楽、よく、わからない」
桂木・日那乃(CL2000941)のささやかな声は、その小さな口から発せられるより先にかき消されてしまう。
「……あれ、倒せば、音楽、止まる?」
ネオンを明滅させ、スピーカーから音楽を吐き出している古びたジュークボックス。たった一台の機械から、この空間を包むだけの音を出力することなど不可能だ。それができるのは、それが人の造りしものから逸脱してしまっているからである。
ジュークボックス、否、“戎狗僕巣”こそこの狂った宴の元凶。
ダンスホールの隅に散らかった、引き裂かれた服や、カバン、靴、アクセサリー……そうした物が、この宴の犠牲者たちがかつてどういう人物だったのかを訴えている。
「ここに迷い込んだ人たちの……ひどい……」
「プロ級ショコラティエール」菊坂結鹿(CL2000432)の、凛々しさと幼さを併せ持った貌に、怒りが滲んだ。
「放っておけないよね。このままにしておくともっと多くの被害が出ちゃうかもだし。……これ以上の被害を出さないよう、ここで私達がけりを付けないと」
『天使の卵』栗花落渚(CL2001360)も同様だ。言葉はくだけていても、犠牲となったものへの悲しみと、邪悪なものへの憤りは隠せない。
「その通りだ! こんなイカれたパーティはお開きだぜ!」
悪鬼跋扈する宴に終止符を討つものが並び立つ。
「好き勝手はここまでです。今すぐこの騒ぎを終えていただきます」
結鹿の凛とした声が戦いの始まりを告げる。
●The Show Begining
「いきます!」
この空間の邪気を振り払うように、結鹿の髪は銀色を帯びる。清冽のごとく冴えた刀、蒼龍を携え妖の群れに向かっていく姿は、彼女が十三の少女ということを忘れさせる。その実、彼女にはかつての英霊の力が宿っているのだ。
「悪い妖さんたちには私がお注射打ってあげる!」
バレル、そしてブランジャー、渚はその二つを合わせ、巨大な注射器を抱えて駆けだす。華奢な肢体にアンバランスな大きさには意味がある。即ち、打つは打つでも、その意味合いは異なるのだ。
「俺たちがもっとイカしたダンスをキメさせてやる、覚悟しな!」
颯爽と出陣する二人の少女とは相反し、刺青(しせい)を燦然と輝かせた義高は蔵王・戒によって岩の鎧をまとい、かつて鎮めた獣の魂が込められた斧、ギュスターブを構えて力強く敵へと直進していく。
それを合図に小鬼たちは奇声を上げて覚者に向かってくる。敵意ではなく、狂気の歓声だ。
サポートに徹するため後衛に座する日那乃は不意に、小鬼たちの背後に、血痕のついたレザージャケットや、鈍く光るチェーンが打ち捨てられているのを見つける。
「もう、遅い。……の、ね?」
肩口から広がる黒い翼の中に、憂いがみえる。
戎狗僕巣は暴力的に音楽を吐きながらその場を動かず、小鬼たちは2つの集団に分かれ、一方が結鹿と渚の前に壁となって立ち塞がる。宴の主催者を守るため? 否、今夜の“ごちそう“にありつくため。
しかし、並んだにやけ面は冷たい霧に覆われたかと思った刹那、銀色の閃光とともに吹き飛んだ。
結鹿の迷霧と重突が小鬼たちを容赦なく蹴散らした。雑魚には一瞥もくれず、戎狗僕巣の姿を見据える。そして、結鹿が開いた突破口が、渚の射線となる。
「悪いけど、パーティはもうおしまい!」
渚は息を吸い、祈りを込める。プーリァマリートヴァで戎狗僕巣のスピーカーを狙えば、戦局は一気にこちらに傾く。
「くっ、うぉ!」
雑兵を一手に引き受けた義孝。ダンスのステップに合わせて動き回る小鬼たちは思いのほか厄介だった。禍々しく湾曲した小鬼の爪が、岩の鎧の隙間に傷を与えて通り過ぎる。
「っ! そんなもんかい? こんどこっちの番だ!」
斬・二の構えをとった義高はギュスターブの一撃を振り下ろす。
「!」
ダンスホールの床タイルが飛沫のように跳ね上がる。着地の瞬間を狙ったにもかかわらず、小鬼は攻撃をかわした。
「~~中々いいステップじゃねえか!」
そんな義高の背後から別の小鬼がとびかかる。五指の爪がミラーボールの光を受けて鈍く煌めいた瞬間。強烈な空気のかたまりが小鬼に直撃した。日那乃のエアブリットが炸裂したのだ。
「ふぅっ!あぶねぇあぶねぇ、俺としたことが、ありがとよ」
「小鬼、皆、義孝に向かってくるから、それを、狙えば、外れ、ない」
各々、敵に引けを取らない、むしろ優勢だ。
渚が力の高まりを感じる。このまま一気に押し通す!
●Selfish Audio Monster
覚者たちは思わず両耳を塞いだ。何かが爆発したのだと直感した。しかしそうではなかった。
戎狗僕巣の口、すなわちスピーカーから吐き出される音楽が突如ボリュームをあげ、爆発のような衝撃を起こしたのだ。
日那乃と義高は何とかこらえたが、戎狗僕巣に接近していた結鹿と渚は脳を振り回されたような感覚に襲われ思わず体勢を崩す。
「~~~~~ッ!」
「渚さんッ……大丈夫ですか?」
結鹿が駆け寄る。術式発動に集中していた分、突然の爆音はこたえただろう。
「結鹿ちゃんの方こそ……大丈夫?」
「なんとか……」
ガシャンッ、ガキッ、ガンッ、コンッ、と不穏な金属音を立てて戎狗僕巣は体を揺らし、側面から蜘蛛のように細く鋭利な脚が伸ばす。
「動き出しましたね……」
「歩くジュークボックスか……妖でなければ色々便利なんだろうが」
「……気持ち、悪い」
ふらふらと左右に揺らめいたのち、戎狗僕巣はガシャガシャ音を立てながら巨体を前に進めた。
「やっぱり、あのスピーカーをどうにかしないと……!」
結鹿は蔵王・戒で身を固めて戎狗僕巣に仕掛ける。刀身が鞭のようにしなる、そう錯覚させるほどの速度で蒼龍が振り下ろされる。危険な鋭さをもつ戎狗僕巣の前脚がそれを受けとめた。華麗に着地する結鹿に対して戎狗僕巣はネオンをビカビカ点滅させてよろめく。
「さて、俺もいいとこみせないとな!」
斬・二の構え。研ぎ澄まされた一撃が跳ねまわる小鬼の心中線を一閃した。にやけ面がそのまま真っ二つになって消滅する。
「ダンス勝負は俺の勝ちだ。さぁどんどんかかってきな……っておい!」
数体の小鬼が義高を放って、結鹿、渚の方へ走ってゆく。戎狗僕巣と対峙していた二人が背後から迫る気配に気づき咄嗟に防御する。その隙を狙って、戎狗僕巣上部のウィンドウから円盤が飛び出した。おそらくはレコードなのだろうが、弧を描き、風切り音を曳きながら飛ぶそれは明らかに殺傷能力をもっている。結鹿は辛うじてそれをかわすが、もう一枚が渚の腕に赤い筋をつくった。
「っ!」
すかさず日那乃が潤しの滴を発動し渚の傷を癒す。
「渚……私、も、攻撃、する」
「ごめん日那乃ちゃん、お願い!」
渚は戎狗僕巣から距離を置き、
「義高さん!」
伸ばした手から清浄な青き光が生まれる。渚の祈りを受けて、光は仲間の傷を癒すため一羽の鳥となって飛んでいく。
「……助かるぜ! さぁ、まだまだ付き合ってやるよ!」
渚の回復を受けた義高が景気の良い一撃をお見舞いする。直撃はしなかったものの、肩口から胸元に大きな刀傷ができる。
しかし、それでも小鬼はげらげら笑いながらステップをとめない。
「ったく……よほどダンスが好きらしいな」
渚のサポートを受けて義高は小鬼の群れを相手する一方、結鹿は少数の小鬼を捌きながら戎狗僕巣と対峙し、日那乃が遠距離から隙を狙う。
「大体、こんなダンスホールを汚したままだなんて…あなたたちはホールに対する感謝とか、想いはないんですか。汚したままでいる時点でホールを使う資格がありません。反省なさい!」
叱りの声とともに重突をきめる。小鬼たちが蹴散らされるとほぼ同時に戎狗僕巣の脚が地面と平行に流れ、結鹿の華奢な体を薙いだ。
「……っ!」
「結鹿……!」
日那乃の声にかすかな焦りと怒りが垣間見え、エアブリットがとぶ。集中による精度と結鹿の作ったチャンス。
「お願い……当たって、……!」
金属が激しく打たれる音が響く。命中した。その響きは四人に戦局の好転を予感させる。
しかし、それは一瞬のことだった。
爆音が再びダンスホールにこだまする。
戎狗僕巣の横腹は大きくひしゃげ、その余波を受けて脚が数本根元から折れている。ダメージは確実だった。しかし、その口からは依然けたたましい叫びが発せられる。
「そんな、もう少し……」
結鹿の口から思わずこぼれた。
戎狗僕巣は怒り狂ったかのように音楽を爆発させる。
「……! これ、怒ってるのかな?」
渚の声は爆音にかき消され、周りにも、自分にすら聞こえない。戎狗僕巣から流れる音楽が、より激しいナンバーに変わる。それに応じて、小鬼たちが俄然勢いをつけて襲ってくる。
「くそ、ますます元気になりやがった!」
「ごめん、なさい。攻撃、当たらなかった。せっかく、結鹿、隙、作ってくれた、のに、……」
日那乃の表情が翳る。
「謝らないで、日那乃ちゃん。ダメージは確実に入ってる。もう少し、頑張ろう!」
仲間を励まし、結鹿は蒼龍を構える。
●Party in full swing But……
――鬼たちを相手に立ち回る義高、渚も加勢する。
日那乃から回復と援護射撃のサポートを受けながら舞う結鹿。
小鬼の数も気が付けば半分まで減っていた。戎狗僕巣も挙動がふらつき始める。
しかしそれでもなお妖たちは勢いを止めることなく、四人におそいかかる。
「くぅ、思ったよりてこずるぜ。一匹一匹はどうってことないが、こうもちょろちょろされると……」
「ビルがぼろぼろになってることも考えるとでたらめに攻撃することも出来ないし、なかなか厄介な状況かも。話には聞いてたけど、実際に見てみると敵は思った以上にすばしっこいみたいだしね。……!」
戎狗僕巣はダメージを受けてからより凶暴になり結鹿を攻めたてる。そのうえ遠距離にいる日那乃にレコード円輪を飛ばし集中の隙を与えない。ピンチになると爆音で牽制してくる戎狗僕巣に、結鹿と日那乃は決定打をうちこめない。
「日那乃ちゃん、大丈夫!?」
「そろそろ、まずい……かも」
結鹿を回復しながらエアブリットを使用していた日那乃は気力を消耗していた。声をかける結鹿も、小さなダメージが蓄積している。
「まだ踊ろうってのかい……。いい加減家に帰りな!」
巨大な得物で一撃を入れていく義高。多人数を相手取る義高を援護すべく、回復に攻撃を交える渚。しかし小鬼たちは攻撃を受けても、致命傷にならない限り勢い衰えることなく襲い掛かる。
「このままじゃ私たちの方が先にへばっちゃうよ。どうしたら……」
傷を増やしながら渚は考える。このまま戦っていても埒があかない。何か、この泥沼の状況の突破口は……!
戎狗僕巣の薙ぎ払いがとぶ。結鹿はふらつきそうな体に力を込め、すんでのところでそれをかわす。標的を失った脚がダンスホールの壁を砕いた。
「! いけない……!」
攻撃を受けた壁面がごろごろと破片をこぼす。
「下手に避けたら建物が……。……!」
そのとき、結鹿の脳裏に見えた。この状況を打破する突破口が――。
●Forward To Final Act
結鹿は咄嗟に天井を見上げた。ミラーボールの反射光が泳いでいる。高さは十五メートルといったところか……。
「渚さん! 天井を攻撃してください」
「え!? でもそんなことしたら……! そっか、わかった! 義高さん、ここよろしく!」
渚は地烈で小鬼たちを振り払い戦線を離脱する。
「なんだかよくわからないが、任された!」
真意をはかりかねたが、仲間がすることなら信じる。義高はより気合を込めてギュスターブを振るう。
小鬼たちから離れ、戎狗僕巣の頭上を見つめて、渚は再び祈りを込める。
「……。ダンスミュージックはいいですけど、自分がのれないのはいただけませんね。そもそも、わたしはあなたの流すリズムより速いし、激しいです」
そういって、結鹿は一層速度を上げて戎狗僕巣に立ち向かう。レコード円輪をくぐり、刺突、薙ぎ払いをすんででかわし、その足を確実に攻める。攻撃するたびに、戎狗僕巣の脚は損傷し、挙動が鈍っていく。
「邪魔、させない」
義高から離れ渚に近づこうとする小鬼を日那乃のエアブリットが叩く。
「……きた! いっけぇー!」
プーリァマリートヴァ。祈りを込めた一撃が放たれる。しかし、標的は戎狗僕巣ではない。
その軌道は結鹿の頭上を抜け、激しい破砕音とともに天井を穿った!
「義高さんと結鹿ちゃんホールの中央! 日那乃ちゃんは後ろに下がって!」
三人は迷うことなく指示された位置へ駆け、渚もその場を離れる。
穿たれた天井が、めきめきと音を立てて崩れる。巨大な瓦礫がダンスホールに次々と落下していき、戎狗僕巣がコンクリートの塊の下敷きになった。
「大当たり! やったね!」
渚が思わずガッツポーズをとる。
危険予知の力で仲間を安全な位置に誘導したうえで、戎狗僕巣の頭上の天井を崩落させたのだ。結鹿が脚を攻め立てていたのは戎狗僕巣が逃げるチャンスを潰すためだったのだ。
義高が戎狗僕巣の前に立つ。
「妖はさておき、ダンスホールにジュークボックスなんだろ? そらノリノリのビートでバブリーなダンスミュージックってのもわかる」
瓦礫の中から、戎狗僕巣が這いだしてくる。上部のネオンがほとんど砕け、バチ、ジジジ、とショート音とともに弱光をほのめかせている。
「でもな、メロウでムーディーなミュージックも交えてくってのがマナーじゃないのかい?熱くしたら、クールダウンするのが作法じゃないのかい? これじゃただの乱痴気騒ぎにしか見えんし、ただ踊らせたいなら盆踊りをながしゃいいのさ、違うかい?」
義高はぼろぼろの戎狗僕巣になおも続ける。
「結局、お前さんは音楽が好きなんじゃなくて、ただ音楽を流すことができるだけの妖でしかないんだな……アップビートも聞き飽きた。そろそろ口をつぐんでもらうぜ」
義高の言葉に怒ったように激昂するジュークボックス。しかしその口から発せられるメロディはノイズと雑音が混じり、さきほどまでの勢いは失せていた。
義高の全身に気がみなぎる。爆発しそうなエネルギーを制御し、眼前の標的を見据える。灼彩錬光によって絞り出した力を込め、振り下ろされたギュスターブがスピーカーを直撃する。
悲鳴の代わりにボンッ、という破裂と電流のショートがほとばしる!
「小鬼たち……動き、とまった」
さっきまであれだけ元気に踊り狂っていた小鬼たちが、魂が抜けたようにその場に立ち尽くしている。
「さーて、もう逃がさないよ?小鬼さん達はみんなそこに並ぶように!」
いうやいなや、渚は瓦礫の山をものともせず急接近、地烈を放ち、躍ることをやめた小鬼たちを一網打尽にした。
そして、義高の背後から、白銀のシルエットが迫る。
「これで終わらせます!」
無機質なホールの床から、微細な氷の粒が湧き上がる。結鹿の周りをうずまき、蒼龍に結集する。結鹿はダイアモンドの尾を曳きながら、疾風の如く的に接近。
氷穿牙が一直線にとどめの軌跡を描く!
けたたましい金切音を断末摩に、戎狗僕巣はとうとう沈黙した。……。
●Moon Night Fever
夜の沈黙が、煙のようにダンスホールに満ちていく。
「やっと、静か、に、なった」
日那乃が小さく息を吐く。
「厄介な敵だったね……。もう疲れちゃった」
渚が「ん~~」と背中を伸ばす。
「それにしても、天井を壊して妖の動きを封じるなんて、よく思いついたね」
「一か八か、でしたけどね。渚さんがいてくれたおかげです」
パーティが終わったはずのダンスホールに、再びミラーボールが輝いた。
一同が見上げる。崩れた天井から光が射している。天井だけでなく、一階の壁までもが崩れていた。そこから差し込む月の光がミラーボールに反射したのだ。
「いいねぇ。やっぱこのキラメキだな!」
義高がミラーボールの下にたち、右手を上げ、絶妙な腰のラインを描く。
「義高、何、してる、の?」
日那乃が首をかしげる。
「知らないのかい?ダンスホールじゃこれと決まってるのさ」
Ah,ha,ha,ha, stayin’ alive stayin’ alive……。義高は気分良さそうに口ずさむ。
「義高さん、まだ踊るつもりなのー?」
渚が苦笑し、戦いが終わり平穏がもどったことを実感する。
その後、四人はホールに打ち捨てられた犠牲者たちの遺品を拾い集めた。
あの狂った宴のためにこれだけの人が理不尽に命を踏みにじられたということを思い知る。
自分たちの知らない場所で、同じような悲劇が、今も起こっているかもしれない。
少しでも、止める。一人でも助ける。それが自分たちF.i.V.Eの、力をもつものの為すべきことなのだ。
四人の覚者たちは、闇を照らす月光にその意志を誓った。
快楽主義なナンバーが轟くのは、危険な紅い灯りに包まれたダンスホール。そこで踊り倒しているのは、人を食らう魑魅魍魎ども。
「まったく……悪趣味だぜ」
加減を知らない大音量に顔をしかめながら、『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)は呟く。
「……ダンス、ミュージック? ふーん……。……音楽、よく、わからない」
桂木・日那乃(CL2000941)のささやかな声は、その小さな口から発せられるより先にかき消されてしまう。
「……あれ、倒せば、音楽、止まる?」
ネオンを明滅させ、スピーカーから音楽を吐き出している古びたジュークボックス。たった一台の機械から、この空間を包むだけの音を出力することなど不可能だ。それができるのは、それが人の造りしものから逸脱してしまっているからである。
ジュークボックス、否、“戎狗僕巣”こそこの狂った宴の元凶。
ダンスホールの隅に散らかった、引き裂かれた服や、カバン、靴、アクセサリー……そうした物が、この宴の犠牲者たちがかつてどういう人物だったのかを訴えている。
「ここに迷い込んだ人たちの……ひどい……」
「プロ級ショコラティエール」菊坂結鹿(CL2000432)の、凛々しさと幼さを併せ持った貌に、怒りが滲んだ。
「放っておけないよね。このままにしておくともっと多くの被害が出ちゃうかもだし。……これ以上の被害を出さないよう、ここで私達がけりを付けないと」
『天使の卵』栗花落渚(CL2001360)も同様だ。言葉はくだけていても、犠牲となったものへの悲しみと、邪悪なものへの憤りは隠せない。
「その通りだ! こんなイカれたパーティはお開きだぜ!」
悪鬼跋扈する宴に終止符を討つものが並び立つ。
「好き勝手はここまでです。今すぐこの騒ぎを終えていただきます」
結鹿の凛とした声が戦いの始まりを告げる。
●The Show Begining
「いきます!」
この空間の邪気を振り払うように、結鹿の髪は銀色を帯びる。清冽のごとく冴えた刀、蒼龍を携え妖の群れに向かっていく姿は、彼女が十三の少女ということを忘れさせる。その実、彼女にはかつての英霊の力が宿っているのだ。
「悪い妖さんたちには私がお注射打ってあげる!」
バレル、そしてブランジャー、渚はその二つを合わせ、巨大な注射器を抱えて駆けだす。華奢な肢体にアンバランスな大きさには意味がある。即ち、打つは打つでも、その意味合いは異なるのだ。
「俺たちがもっとイカしたダンスをキメさせてやる、覚悟しな!」
颯爽と出陣する二人の少女とは相反し、刺青(しせい)を燦然と輝かせた義高は蔵王・戒によって岩の鎧をまとい、かつて鎮めた獣の魂が込められた斧、ギュスターブを構えて力強く敵へと直進していく。
それを合図に小鬼たちは奇声を上げて覚者に向かってくる。敵意ではなく、狂気の歓声だ。
サポートに徹するため後衛に座する日那乃は不意に、小鬼たちの背後に、血痕のついたレザージャケットや、鈍く光るチェーンが打ち捨てられているのを見つける。
「もう、遅い。……の、ね?」
肩口から広がる黒い翼の中に、憂いがみえる。
戎狗僕巣は暴力的に音楽を吐きながらその場を動かず、小鬼たちは2つの集団に分かれ、一方が結鹿と渚の前に壁となって立ち塞がる。宴の主催者を守るため? 否、今夜の“ごちそう“にありつくため。
しかし、並んだにやけ面は冷たい霧に覆われたかと思った刹那、銀色の閃光とともに吹き飛んだ。
結鹿の迷霧と重突が小鬼たちを容赦なく蹴散らした。雑魚には一瞥もくれず、戎狗僕巣の姿を見据える。そして、結鹿が開いた突破口が、渚の射線となる。
「悪いけど、パーティはもうおしまい!」
渚は息を吸い、祈りを込める。プーリァマリートヴァで戎狗僕巣のスピーカーを狙えば、戦局は一気にこちらに傾く。
「くっ、うぉ!」
雑兵を一手に引き受けた義孝。ダンスのステップに合わせて動き回る小鬼たちは思いのほか厄介だった。禍々しく湾曲した小鬼の爪が、岩の鎧の隙間に傷を与えて通り過ぎる。
「っ! そんなもんかい? こんどこっちの番だ!」
斬・二の構えをとった義高はギュスターブの一撃を振り下ろす。
「!」
ダンスホールの床タイルが飛沫のように跳ね上がる。着地の瞬間を狙ったにもかかわらず、小鬼は攻撃をかわした。
「~~中々いいステップじゃねえか!」
そんな義高の背後から別の小鬼がとびかかる。五指の爪がミラーボールの光を受けて鈍く煌めいた瞬間。強烈な空気のかたまりが小鬼に直撃した。日那乃のエアブリットが炸裂したのだ。
「ふぅっ!あぶねぇあぶねぇ、俺としたことが、ありがとよ」
「小鬼、皆、義孝に向かってくるから、それを、狙えば、外れ、ない」
各々、敵に引けを取らない、むしろ優勢だ。
渚が力の高まりを感じる。このまま一気に押し通す!
●Selfish Audio Monster
覚者たちは思わず両耳を塞いだ。何かが爆発したのだと直感した。しかしそうではなかった。
戎狗僕巣の口、すなわちスピーカーから吐き出される音楽が突如ボリュームをあげ、爆発のような衝撃を起こしたのだ。
日那乃と義高は何とかこらえたが、戎狗僕巣に接近していた結鹿と渚は脳を振り回されたような感覚に襲われ思わず体勢を崩す。
「~~~~~ッ!」
「渚さんッ……大丈夫ですか?」
結鹿が駆け寄る。術式発動に集中していた分、突然の爆音はこたえただろう。
「結鹿ちゃんの方こそ……大丈夫?」
「なんとか……」
ガシャンッ、ガキッ、ガンッ、コンッ、と不穏な金属音を立てて戎狗僕巣は体を揺らし、側面から蜘蛛のように細く鋭利な脚が伸ばす。
「動き出しましたね……」
「歩くジュークボックスか……妖でなければ色々便利なんだろうが」
「……気持ち、悪い」
ふらふらと左右に揺らめいたのち、戎狗僕巣はガシャガシャ音を立てながら巨体を前に進めた。
「やっぱり、あのスピーカーをどうにかしないと……!」
結鹿は蔵王・戒で身を固めて戎狗僕巣に仕掛ける。刀身が鞭のようにしなる、そう錯覚させるほどの速度で蒼龍が振り下ろされる。危険な鋭さをもつ戎狗僕巣の前脚がそれを受けとめた。華麗に着地する結鹿に対して戎狗僕巣はネオンをビカビカ点滅させてよろめく。
「さて、俺もいいとこみせないとな!」
斬・二の構え。研ぎ澄まされた一撃が跳ねまわる小鬼の心中線を一閃した。にやけ面がそのまま真っ二つになって消滅する。
「ダンス勝負は俺の勝ちだ。さぁどんどんかかってきな……っておい!」
数体の小鬼が義高を放って、結鹿、渚の方へ走ってゆく。戎狗僕巣と対峙していた二人が背後から迫る気配に気づき咄嗟に防御する。その隙を狙って、戎狗僕巣上部のウィンドウから円盤が飛び出した。おそらくはレコードなのだろうが、弧を描き、風切り音を曳きながら飛ぶそれは明らかに殺傷能力をもっている。結鹿は辛うじてそれをかわすが、もう一枚が渚の腕に赤い筋をつくった。
「っ!」
すかさず日那乃が潤しの滴を発動し渚の傷を癒す。
「渚……私、も、攻撃、する」
「ごめん日那乃ちゃん、お願い!」
渚は戎狗僕巣から距離を置き、
「義高さん!」
伸ばした手から清浄な青き光が生まれる。渚の祈りを受けて、光は仲間の傷を癒すため一羽の鳥となって飛んでいく。
「……助かるぜ! さぁ、まだまだ付き合ってやるよ!」
渚の回復を受けた義高が景気の良い一撃をお見舞いする。直撃はしなかったものの、肩口から胸元に大きな刀傷ができる。
しかし、それでも小鬼はげらげら笑いながらステップをとめない。
「ったく……よほどダンスが好きらしいな」
渚のサポートを受けて義高は小鬼の群れを相手する一方、結鹿は少数の小鬼を捌きながら戎狗僕巣と対峙し、日那乃が遠距離から隙を狙う。
「大体、こんなダンスホールを汚したままだなんて…あなたたちはホールに対する感謝とか、想いはないんですか。汚したままでいる時点でホールを使う資格がありません。反省なさい!」
叱りの声とともに重突をきめる。小鬼たちが蹴散らされるとほぼ同時に戎狗僕巣の脚が地面と平行に流れ、結鹿の華奢な体を薙いだ。
「……っ!」
「結鹿……!」
日那乃の声にかすかな焦りと怒りが垣間見え、エアブリットがとぶ。集中による精度と結鹿の作ったチャンス。
「お願い……当たって、……!」
金属が激しく打たれる音が響く。命中した。その響きは四人に戦局の好転を予感させる。
しかし、それは一瞬のことだった。
爆音が再びダンスホールにこだまする。
戎狗僕巣の横腹は大きくひしゃげ、その余波を受けて脚が数本根元から折れている。ダメージは確実だった。しかし、その口からは依然けたたましい叫びが発せられる。
「そんな、もう少し……」
結鹿の口から思わずこぼれた。
戎狗僕巣は怒り狂ったかのように音楽を爆発させる。
「……! これ、怒ってるのかな?」
渚の声は爆音にかき消され、周りにも、自分にすら聞こえない。戎狗僕巣から流れる音楽が、より激しいナンバーに変わる。それに応じて、小鬼たちが俄然勢いをつけて襲ってくる。
「くそ、ますます元気になりやがった!」
「ごめん、なさい。攻撃、当たらなかった。せっかく、結鹿、隙、作ってくれた、のに、……」
日那乃の表情が翳る。
「謝らないで、日那乃ちゃん。ダメージは確実に入ってる。もう少し、頑張ろう!」
仲間を励まし、結鹿は蒼龍を構える。
●Party in full swing But……
――鬼たちを相手に立ち回る義高、渚も加勢する。
日那乃から回復と援護射撃のサポートを受けながら舞う結鹿。
小鬼の数も気が付けば半分まで減っていた。戎狗僕巣も挙動がふらつき始める。
しかしそれでもなお妖たちは勢いを止めることなく、四人におそいかかる。
「くぅ、思ったよりてこずるぜ。一匹一匹はどうってことないが、こうもちょろちょろされると……」
「ビルがぼろぼろになってることも考えるとでたらめに攻撃することも出来ないし、なかなか厄介な状況かも。話には聞いてたけど、実際に見てみると敵は思った以上にすばしっこいみたいだしね。……!」
戎狗僕巣はダメージを受けてからより凶暴になり結鹿を攻めたてる。そのうえ遠距離にいる日那乃にレコード円輪を飛ばし集中の隙を与えない。ピンチになると爆音で牽制してくる戎狗僕巣に、結鹿と日那乃は決定打をうちこめない。
「日那乃ちゃん、大丈夫!?」
「そろそろ、まずい……かも」
結鹿を回復しながらエアブリットを使用していた日那乃は気力を消耗していた。声をかける結鹿も、小さなダメージが蓄積している。
「まだ踊ろうってのかい……。いい加減家に帰りな!」
巨大な得物で一撃を入れていく義高。多人数を相手取る義高を援護すべく、回復に攻撃を交える渚。しかし小鬼たちは攻撃を受けても、致命傷にならない限り勢い衰えることなく襲い掛かる。
「このままじゃ私たちの方が先にへばっちゃうよ。どうしたら……」
傷を増やしながら渚は考える。このまま戦っていても埒があかない。何か、この泥沼の状況の突破口は……!
戎狗僕巣の薙ぎ払いがとぶ。結鹿はふらつきそうな体に力を込め、すんでのところでそれをかわす。標的を失った脚がダンスホールの壁を砕いた。
「! いけない……!」
攻撃を受けた壁面がごろごろと破片をこぼす。
「下手に避けたら建物が……。……!」
そのとき、結鹿の脳裏に見えた。この状況を打破する突破口が――。
●Forward To Final Act
結鹿は咄嗟に天井を見上げた。ミラーボールの反射光が泳いでいる。高さは十五メートルといったところか……。
「渚さん! 天井を攻撃してください」
「え!? でもそんなことしたら……! そっか、わかった! 義高さん、ここよろしく!」
渚は地烈で小鬼たちを振り払い戦線を離脱する。
「なんだかよくわからないが、任された!」
真意をはかりかねたが、仲間がすることなら信じる。義高はより気合を込めてギュスターブを振るう。
小鬼たちから離れ、戎狗僕巣の頭上を見つめて、渚は再び祈りを込める。
「……。ダンスミュージックはいいですけど、自分がのれないのはいただけませんね。そもそも、わたしはあなたの流すリズムより速いし、激しいです」
そういって、結鹿は一層速度を上げて戎狗僕巣に立ち向かう。レコード円輪をくぐり、刺突、薙ぎ払いをすんででかわし、その足を確実に攻める。攻撃するたびに、戎狗僕巣の脚は損傷し、挙動が鈍っていく。
「邪魔、させない」
義高から離れ渚に近づこうとする小鬼を日那乃のエアブリットが叩く。
「……きた! いっけぇー!」
プーリァマリートヴァ。祈りを込めた一撃が放たれる。しかし、標的は戎狗僕巣ではない。
その軌道は結鹿の頭上を抜け、激しい破砕音とともに天井を穿った!
「義高さんと結鹿ちゃんホールの中央! 日那乃ちゃんは後ろに下がって!」
三人は迷うことなく指示された位置へ駆け、渚もその場を離れる。
穿たれた天井が、めきめきと音を立てて崩れる。巨大な瓦礫がダンスホールに次々と落下していき、戎狗僕巣がコンクリートの塊の下敷きになった。
「大当たり! やったね!」
渚が思わずガッツポーズをとる。
危険予知の力で仲間を安全な位置に誘導したうえで、戎狗僕巣の頭上の天井を崩落させたのだ。結鹿が脚を攻め立てていたのは戎狗僕巣が逃げるチャンスを潰すためだったのだ。
義高が戎狗僕巣の前に立つ。
「妖はさておき、ダンスホールにジュークボックスなんだろ? そらノリノリのビートでバブリーなダンスミュージックってのもわかる」
瓦礫の中から、戎狗僕巣が這いだしてくる。上部のネオンがほとんど砕け、バチ、ジジジ、とショート音とともに弱光をほのめかせている。
「でもな、メロウでムーディーなミュージックも交えてくってのがマナーじゃないのかい?熱くしたら、クールダウンするのが作法じゃないのかい? これじゃただの乱痴気騒ぎにしか見えんし、ただ踊らせたいなら盆踊りをながしゃいいのさ、違うかい?」
義高はぼろぼろの戎狗僕巣になおも続ける。
「結局、お前さんは音楽が好きなんじゃなくて、ただ音楽を流すことができるだけの妖でしかないんだな……アップビートも聞き飽きた。そろそろ口をつぐんでもらうぜ」
義高の言葉に怒ったように激昂するジュークボックス。しかしその口から発せられるメロディはノイズと雑音が混じり、さきほどまでの勢いは失せていた。
義高の全身に気がみなぎる。爆発しそうなエネルギーを制御し、眼前の標的を見据える。灼彩錬光によって絞り出した力を込め、振り下ろされたギュスターブがスピーカーを直撃する。
悲鳴の代わりにボンッ、という破裂と電流のショートがほとばしる!
「小鬼たち……動き、とまった」
さっきまであれだけ元気に踊り狂っていた小鬼たちが、魂が抜けたようにその場に立ち尽くしている。
「さーて、もう逃がさないよ?小鬼さん達はみんなそこに並ぶように!」
いうやいなや、渚は瓦礫の山をものともせず急接近、地烈を放ち、躍ることをやめた小鬼たちを一網打尽にした。
そして、義高の背後から、白銀のシルエットが迫る。
「これで終わらせます!」
無機質なホールの床から、微細な氷の粒が湧き上がる。結鹿の周りをうずまき、蒼龍に結集する。結鹿はダイアモンドの尾を曳きながら、疾風の如く的に接近。
氷穿牙が一直線にとどめの軌跡を描く!
けたたましい金切音を断末摩に、戎狗僕巣はとうとう沈黙した。……。
●Moon Night Fever
夜の沈黙が、煙のようにダンスホールに満ちていく。
「やっと、静か、に、なった」
日那乃が小さく息を吐く。
「厄介な敵だったね……。もう疲れちゃった」
渚が「ん~~」と背中を伸ばす。
「それにしても、天井を壊して妖の動きを封じるなんて、よく思いついたね」
「一か八か、でしたけどね。渚さんがいてくれたおかげです」
パーティが終わったはずのダンスホールに、再びミラーボールが輝いた。
一同が見上げる。崩れた天井から光が射している。天井だけでなく、一階の壁までもが崩れていた。そこから差し込む月の光がミラーボールに反射したのだ。
「いいねぇ。やっぱこのキラメキだな!」
義高がミラーボールの下にたち、右手を上げ、絶妙な腰のラインを描く。
「義高、何、してる、の?」
日那乃が首をかしげる。
「知らないのかい?ダンスホールじゃこれと決まってるのさ」
Ah,ha,ha,ha, stayin’ alive stayin’ alive……。義高は気分良さそうに口ずさむ。
「義高さん、まだ踊るつもりなのー?」
渚が苦笑し、戦いが終わり平穏がもどったことを実感する。
その後、四人はホールに打ち捨てられた犠牲者たちの遺品を拾い集めた。
あの狂った宴のためにこれだけの人が理不尽に命を踏みにじられたということを思い知る。
自分たちの知らない場所で、同じような悲劇が、今も起こっているかもしれない。
少しでも、止める。一人でも助ける。それが自分たちF.i.V.Eの、力をもつものの為すべきことなのだ。
四人の覚者たちは、闇を照らす月光にその意志を誓った。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
魅力的なキャラクターたちを少しでも魅力的に活躍できるよう、新参者なりに誠意をもって造ったつもりですが、もし至らぬところがあったらごめんなさい。精進します……。
また皆さんと物語を造れるときを楽しみにしています。
ST只野小平でした。改めてよろしくお願いします。m( )m
また皆さんと物語を造れるときを楽しみにしています。
ST只野小平でした。改めてよろしくお願いします。m( )m
