≪福利厚生2017≫人形流し
●
この島は完全に掌握され、安全だったはず。少なくともそう聞かされている。だからこそ、こうして五麟市以外の土地を夢見である自分が、誰にも付き添われず自由に動き回れるのだが。
ではいま、波に洗われる足首に小さな手を食い込ませているこの『首なし人形』は一体何なのか?
眩は月明りの下で声を立てずに嗤った。
沖へ目を向けたとたん、波に乗って海岸に近づいてくる無数の人形たちの姿が見えたのだ。
ああ、ファイヴのお偉方も認識が甘い。
妖や古妖は自然そのもの。人が『完全』にコントロールできるものではないのだから。
眩は濡れた帯を掴んで小さな妖を持ち上げた。
手足をばたつかせる様をしばし観察した後、ぽい、と夜空へ放り投げる。
落ちて来たところをいつも手にしている弟の大腿骨――の模造品で打った。
とりあえず、誰かに話をして供養準備をする時間ぐらいはあるだろう。
ゆったりと大きく上下する波に妖が落ちた音を確認して、眩はキャンプ場へ引き返した。
●
日本人形といえばすぐに思い浮かぶおかっぱ頭の女童子に、散切り頭の男童子、日本舞踊を舞う女がいれば槍と大酒杯を手に黒田節を舞う武士がいる。かと思えばレース飾りが愛らしいドレスのフランス娘の横に熊、猫、たぬき、象があったりと、実にバラエティだ。材質も木から布まで様々ではあるが、どれもみな、首から上がない事だけは共通していた。
「対岸の加太から流れて来たんでしょうね。たくさんあったみたいだから、あの時に逃げたした個体がいくつかあったんでしよう」
先日、淡島神社で大規模な妖討伐があった。その時、覚者たちと戦わずに逃げ出した妖たちの成れの果てではないか、と眩はいう。
「どうして首から上がなくなっているのかは解らないけど」
妖といっても『首なし人形』たちに攻撃力はない。首を無くしているためであろうか、わずかな未練で現世にしがみついているだけである。
「攻撃力はない……けれど、妖のことだからそのまま放置すれば、いずれは力を取り戻すわ。だから今のうちにきっちり供養して」
確かに。ファイヴとしても、発見した以上は速やかに対処しなくてはなるまい。
「夢見の私が一人でもできる、と一瞬思ったのだけれども、数が多くて……ちょっと面倒なのよ。だから供養がてら、夜の海岸をちょっと散歩してきてほしいの。流れ着いた人形を見つけたら、無くなった顔を想像しながら海へ流して頂戴」
流された人形は、長く伸びた黒髪ような流れに絡めとられて沖へ運ばれ、海の底へ足から沈んでしまい、二度と浮かび上がってこないという。
「離岸流に土用波。ほら、聞いたことがあるでしょ、お盆を過ぎたら海に入っちゃダメっていう諺。危険だからここの浜からは海に入らないでね。クラゲもいるし」
お盆を過ぎたら海に入ってはいけない。これは諺ではなく、海難事故を防ぐために昔から言われ続けている警句だ。
ちなみに、眩が想像した人形の顔はウーパールーパーだったらしい。当然、妖はお気に召さなかったようだが……。
「何でもいいいのよ、顔さえ思い浮かべて流してあげれば。でも、傍にいる人や自分の顔は一瞬でも思い浮かべないでね。人形の呪いがかかるわよ」
人形の呪い、それは履いているパンティ、あるいはパンツを消されてしまうというものらしい。水着しか来ていなかった場合、たいへん恥ずかしい姿でキャンプ場へ戻らなくてはならなくなるので要注意だ。
「よく晴れた夜空だけど、すべてを供養し終えるまで浜はとても暗いわ。懐中電灯を持っていくか、暗視を活性化するか。どちらも用意ではない人には提灯の貸し出しをするから私に言ってちょうだい。じゃ、お願いね」
この島は完全に掌握され、安全だったはず。少なくともそう聞かされている。だからこそ、こうして五麟市以外の土地を夢見である自分が、誰にも付き添われず自由に動き回れるのだが。
ではいま、波に洗われる足首に小さな手を食い込ませているこの『首なし人形』は一体何なのか?
眩は月明りの下で声を立てずに嗤った。
沖へ目を向けたとたん、波に乗って海岸に近づいてくる無数の人形たちの姿が見えたのだ。
ああ、ファイヴのお偉方も認識が甘い。
妖や古妖は自然そのもの。人が『完全』にコントロールできるものではないのだから。
眩は濡れた帯を掴んで小さな妖を持ち上げた。
手足をばたつかせる様をしばし観察した後、ぽい、と夜空へ放り投げる。
落ちて来たところをいつも手にしている弟の大腿骨――の模造品で打った。
とりあえず、誰かに話をして供養準備をする時間ぐらいはあるだろう。
ゆったりと大きく上下する波に妖が落ちた音を確認して、眩はキャンプ場へ引き返した。
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日本人形といえばすぐに思い浮かぶおかっぱ頭の女童子に、散切り頭の男童子、日本舞踊を舞う女がいれば槍と大酒杯を手に黒田節を舞う武士がいる。かと思えばレース飾りが愛らしいドレスのフランス娘の横に熊、猫、たぬき、象があったりと、実にバラエティだ。材質も木から布まで様々ではあるが、どれもみな、首から上がない事だけは共通していた。
「対岸の加太から流れて来たんでしょうね。たくさんあったみたいだから、あの時に逃げたした個体がいくつかあったんでしよう」
先日、淡島神社で大規模な妖討伐があった。その時、覚者たちと戦わずに逃げ出した妖たちの成れの果てではないか、と眩はいう。
「どうして首から上がなくなっているのかは解らないけど」
妖といっても『首なし人形』たちに攻撃力はない。首を無くしているためであろうか、わずかな未練で現世にしがみついているだけである。
「攻撃力はない……けれど、妖のことだからそのまま放置すれば、いずれは力を取り戻すわ。だから今のうちにきっちり供養して」
確かに。ファイヴとしても、発見した以上は速やかに対処しなくてはなるまい。
「夢見の私が一人でもできる、と一瞬思ったのだけれども、数が多くて……ちょっと面倒なのよ。だから供養がてら、夜の海岸をちょっと散歩してきてほしいの。流れ着いた人形を見つけたら、無くなった顔を想像しながら海へ流して頂戴」
流された人形は、長く伸びた黒髪ような流れに絡めとられて沖へ運ばれ、海の底へ足から沈んでしまい、二度と浮かび上がってこないという。
「離岸流に土用波。ほら、聞いたことがあるでしょ、お盆を過ぎたら海に入っちゃダメっていう諺。危険だからここの浜からは海に入らないでね。クラゲもいるし」
お盆を過ぎたら海に入ってはいけない。これは諺ではなく、海難事故を防ぐために昔から言われ続けている警句だ。
ちなみに、眩が想像した人形の顔はウーパールーパーだったらしい。当然、妖はお気に召さなかったようだが……。
「何でもいいいのよ、顔さえ思い浮かべて流してあげれば。でも、傍にいる人や自分の顔は一瞬でも思い浮かべないでね。人形の呪いがかかるわよ」
人形の呪い、それは履いているパンティ、あるいはパンツを消されてしまうというものらしい。水着しか来ていなかった場合、たいへん恥ずかしい姿でキャンプ場へ戻らなくてはならなくなるので要注意だ。
「よく晴れた夜空だけど、すべてを供養し終えるまで浜はとても暗いわ。懐中電灯を持っていくか、暗視を活性化するか。どちらも用意ではない人には提灯の貸し出しをするから私に言ってちょうだい。じゃ、お願いね」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.流れ着いた『首なし』人形を供養する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●(同行者/同行者のID、グループタグ、なし、のいずれかを記入)
●見つけた人形の種類(日本人形から木彫り象まで、じつにさまざまだが全部首なし)。
●想像した顔(一瞬でも同行者や自分の顔を思い浮かべてしまうと、下着または水着が消滅します)
※同行者の許可が必要です。○○の許可有り、○○に許可と同行者の方もEXへご記入ください。
片方しかEXに記入がない場合は、何らかのトラブルで自分の顔を思い浮かべてしまいます。
●どのあたりで発見したか(浜の中央、東の岩場、西の岩場)
●その他。
流すときに人形にかける言葉など。提灯を借りる人はここに記入を。
友ヶ島キャンプファイヤー場近くの浜に『首なし人形』が流れ着きます。東と西端の岩場にも流れ着きますが、岩が濡れているため足を滑らせ易くちょっぴり危険です。
ちょっとした高低差があるので、浜からキャンプ場は直接見ることはできませんが、振り返ればキャンプファイヤーの明かりを目にすることができるでしょう。
海から陸へ向かって風が吹いているのと波の音とで、キャンプ場の喧騒は聞えません。
空には月が出ていますが、妖の妖気のせいでしょうか、とても暗いです。
浜は砂浜ではなく、大石に小石、流木がゴロゴロしています。素足は危険、遊泳禁止!
正解はありません。
妖に対する思いなどと一緒に、想像の顔をつけて上げたうえで海へ流してください。
眩は声がかからない限り空気、リプレイには出ません。
ただ、人形流しを頼むと喜々として海に流して、いや打ち飛ばしてくれます。
日ごろ五麟市から出してもらえない鬱憤を晴らせるのがうれしいようです。
それでは、よけしければご参加ください。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
6日
6日
参加費
50LP
50LP
参加人数
10/30
10/30
公開日
2017年09月15日
2017年09月15日
■メイン参加者 10人■

●
「あっ」
波打ち際で提灯の明かりに浮かび上がった首なし人形見つけた瞬間、胸に思い出があふれ、いっぱいになった。御菓子(CL2000429)はそれが妖であることも忘れて、迷わず手を伸ばし、海水の中から拾い上げた。
「懐かしい……」
微笑みながら人形の服についていた砂や木片を丁寧に取ってやる。
「着せ替えごっこをして遊んだっけ。それにこの服……ふふ、わたしがステージに立っていた頃に来ていたドレスに似ている。すごい、偶然とは思えない。わたしたち、きっとここで出会う運命だったのね」
提灯の淡い光がチカチカと瞬いた。一瞬、光が大きくなって御菓子と人形を包み込む。いつの間にか、人形に頭がついていた。
「まあ!」
小さな御菓子はにっこりと笑うと、妖気で半透明のビオラを作り出して構えた。気を利かせたカンタが、タラサを呼び出して御菓子に渡す。
即興の二重奏が暗い夜の海に響いた。
「いろいろ大変だったでしょうけど、無事に成仏できるといいね。産まれかわれたら、うちに遊びにいらっしゃいね」
人形をそっと波に乗せて流した。名残は惜しいけれども。再会を願って――。
「ついつい思い入れちゃった。あ、でもそうなると水着が……きゃぁぁぁっ!!」
●
「ぴゃ!?」
「ぷっ!?」
波が岩を洗う夜の海に、突如響いた妙な声。研吾(CL2000032)と一悟(CL2000076)の爺孫コンビは、奇しくも同じポーズを取った。パンツが一瞬にして消滅したのである。
予期せぬ事態に二人は慌てて手で股間を隠した。研吾は着物、一悟は服を着ていたので、お宝丸出しは避けられたのだが……。たかが下着一枚、されど下着一枚。パンツがなくなった途端にタマの防御力が心許なくなり、手で庇った、という次第。
「へ?」
「え?」
ふたりは同時に顔を見合わせた。
「まさか、一悟も……」
「まさか、じいちゃんも……」
海から引き上げた頭のない妖人形を手に、飛鳥(CL2000093)とリサ(CL2000053)が振り返る。
「うるさいのよ、静かにしてくださいなのよ」
「どうしたノ。一体、なに……アッ、その顔は!?」
股間に手をあててモジモジしている研吾の足元に、義理の息子の顔を乗せたサルの縫いぐるみが座っていた。見つけたリサの笑顔が、たちまちのうちに般若へ変わる。
「ケンゴ! ほんとうにしようがない人ネ」
「あっ、その顔、父ちゃん!? じいちゃん、ひでぇ~」
研吾は、可愛い一人娘を奥州豊作に取られた怨みをここで晴らそうとしたらしい。
「そういう一悟の人形は、噺家さんの顔なのよ。ナニ考えるのよ!」
なにって、と一悟は頬をひきつらせた。
「あ~、ほら、噺家って強いじゃん? この妖がどこへ流れていくのか分からねえけど、噺家の顔がついていたら百人力じゃねぇかと思って……。武士だし、この人形」
馬鹿ね、と線香花火を手に、光邑家からの誘いを受けて同行していた眩(nCL2000164)が呆れかえる。
「そやけど……自分の顔は思い浮かべてへんのに、なんでパンツ消えたんや?」
「そうだそうだ! 眩、騙したな!」
「傍にいる人や自分の顔は一瞬でも思い浮かべないでね、って言ったでしょ。そこから分かるように、人形の呪いは近単特なの。遠くにいる実在の人やその他を思い浮かべても、呪いが届かないじゃない?」
どうやら眩は、呪いかけに失敗したため効果が自分に跳ね返ってきた、ということをいいたいらしい。
「そんなん、ちゃんと言ってくれんと分からへんわ。通常依頼やったら運営にクレーム入れてんで」
「そんなことより、お人形が可哀想デショ。個人的な恨みを晴らしたかっただけでつけられた顔なんて」
義理の息子、そして妖の分もお灸を、とリサが力を入れて研吾の頬をつねる。
「いてて! それだけと違う、こいつを引き上げた時、ちゃんとこいつのこと考えてつけたんや、ほんまやって」
曰く、義理の息子は憎いが、果物を作ることにかけてはピカイチだと思っている。義理の息子の顔がついていたら、どこへ行っても食べ物には困らないだろうから云々。
「あ~、すまんけど豊作、バナナは作ってなかったわ。苺と林檎で我慢し」
研吾はリサの手から逃れると、妖を灯籠船に乗せた。一悟も祖父に倣って古妖の顔を頂いた武士人形を船に乗せる。
「まげを結っていないけど、裃姿がなかなかサマになっているのよ。凛々しくて強そうなのよ」
飛鳥に褒められて、妖の武士人形は誇らしげに胸を反らせた。
だろ、と一悟も口角をあげる。
「で、飛鳥。お前、象になんで全身ペイントしてんの? 顔なんて、目のあたりだけ人っぽくて微妙にキモい――ぐぇっ!?」
一悟は飛鳥から腹に猛の一撃を受けて、体をくの字に折った。
「神さまの怒り発動! あすかの代行攻撃、なのよ!」
なにをする、と怒った一悟をリサがたしなめた。
「キモい、なんていったイチゴが悪いワ。アスカちゃんはゾウのお人形さんに、ガネーシャ神のお顔をつけてあげたのヨ。妖だけど、このゾウさんはいまや神さまの分身でもあるワケ」
ぱぉん、と長い鼻を持ち上げて象の妖人形が鳴いた。その横で、ホホホとリサが手にするフランス人形が上品な笑い声をあげる。
「あれ? リサの人形の顔……あの女優さんにそっくりやないか。なんでリサは呪われんかったんや?」
「グレース妃はもうお亡くなりになっているからセーフよ」
またしても男二人から抗議の声が上がったが、眩は一切耳を傾けることなく完璧に無視した。
「でも、どうしてグレース妃のお顔を妖人形に?」
「きっと、顔が汚れて傷ついて……それで悲しくて顔を隠したのヨネ? だから、きれいな女優さんのお顔をつけてあげようと思ったノ。気に入ってくれたカシラ」
微笑みながら、リサがフランス人形の妖をそっと灯籠船に降ろす。
妖は船の上で体を回すと、繊細なレースで飾られたスカートの手で少しつまみ上げ、リサに向けて優雅にお辞儀を返した。
「とても喜んでくれているようね。さあ、準備ができたなら海に流しましょう」
眩の合図で研吾が船の灯籠に火を灯す。
リサが御菓子を妖たち与え、飛鳥が線香花火をつける。
最後は、一悟が四艘の船を波に乗せた。
線香花火を手に見送る五人の後ろで、花火が打ちあがり、夜空に大輪の花を咲かせた。
妖人形を乗せた船が沖へ、沖へ流れていく。
「さよならなのよ。もう、妖にならないでね」
見えなくなるまで、覚者たちに手を、鼻を振っていた。
●
「はぁ!?」
「ヒュ!?」
「ふぇ!?」
「ほよ!?」
花火にあわせるかのように、波打ち際で次々と悲鳴が上がった。
ただ一人、悲鳴を上げなかった者がいる。鈴鹿(CL2001285)だけは、慌てふためく友人たちの後で、イタズラの成功に細く笑んでいた。
手にする提灯の明かりが、下から鈴鹿と鈴鹿の顔を乗せた妖人形のしてやったり顔をほんのり照らしている。
そう、人形の呪いにより、イタズラを仕掛けた本人も含めて、「下」着が消滅してしまったのである。いままさに、乙女の大ピンチ!
新しい頭を乗せた妖たちも、それぞれが同じ顔をした覚者の下で頬を赤くして恥ずかしポーズをとっていた。
――ここにいたるまでを説明するためにも、時を少し遡ろう。
夢見の話を聞いて、数名の有志が人形供養の名乗りを上げた。キャンプ場にて打ち上げ花火が行われる十分前のことである。
先に御菓子、それに光邑家と飛鳥、夢見がそれぞれ時間を置いて出発したあと、ホークダンスを楽しんでから、伊織(CL2001603)と 小百合(CL2001552)が浜へ向かった。
「すぐ行きマス!」
どうぞお先に、と二人を送り出したリーネ (CL2000862)と黄泉(CL2001332)、 鈴鹿(CL2001285)の三人は、キャンプファイヤーの周りでもう一曲、ホークダンスを楽しんだ。
「もうすぐ打ち上げ花火ですケド……コレ以上、妖は放置できないデスネ。名残惜しいですが、行きまショウカ」
「花火、浜からも、見られるって、夢見が、いっていた、よ」
黄泉はちょっと考えてから、スポーツタオルを手に取って水着の肩にかけた。
「寒いの?」
「ううん、ただ……なんとなく」
その時、黄泉は気がつかなかった。巫女の目がすっと細まったことに。ここで気がついていれば、のちの悲劇は避けられたかもしれない。
リーネはリゾート地にあわせたちょっぴりフェミニンな軍服ワンピの裾をひるがえして、先に小さな段差を飛び下りた。波打ち際までこぶし大の小石がゴロゴロ転がっている。夜は気をつけないと足をくじきかねない。後からくるものに手を貸して、安全を確保するのは軍人である自分の務めだ。
「あ、ここ、滑りマス。気をつけるデス」
三人揃って手をつなぎながら、波打ち際でしゃがみこむ伊織と小百合の元へ向かった。
「こんなにも……いっぱいの日本人形……どこから来たのでしょう……」
ぽつりと零された小百合言葉に悲しい響きを聞き取って、伊織は子守歌を口ずさみ始めた。優しく懐かしいメロディが人形たちの間を抜け、沖へ流されていく。
「皆……誰かと一緒に過ごしてい居ただろうに……ちゃんと……送ってあげたいです……」
「どうかこの人形達の鎮魂を……」
それぞれ頭のない人形を手に取った。
リーネたちもそれぞれ、波に洗われたままになっている人形を抱き上げた。
「ウゥ……やっぱり日本人形って何かコーワーイーデースー! 首が無いカラ、それも倍増デスー!」
「これが、呪いの、首無し人形? 鈴鹿、巫女、だったよ、ね? どうすれば、良いか、教えて」
禁断のイベントフラグを立ててしまったことに気づかず、無邪気に教えを乞う黄泉。そのほか三名も神妙に巫女の指示を待つ。
「人形流しはその人の厄災を引き受けてくれるものなの。だから感謝を込めて流してほしいの……さあ、自分を思い浮かべながら流すの」
「ホウホウ、そうやって供養するのデスネ」
「ふふ……成程……では厄災を払うという事でしたら、私としても吝かではありませんわ」
では、さっそくと、リーネと伊織が自分の顔を頭に思い浮かべる。
(「あれ? 自分の顔を思い浮かべるのは……まずいのでは? 確か夢見の――!!!」)
小百合は眩の警告を思い出したが、時すでに遅し。妖の体に自分の顔が載ったあとだった。
「ス、ストープ! 人形ストップデー……!?」
残念。もう、遅いのです。きしし。
――冒頭に戻る。
真っ赤にしたリーネは、急に吹きだした、なぜか下から上へ吹き上がる浜風に裾をめくられないようワンピの前後を必死に手で押さえた。
「あ、あぅぅぅ……こ、こんなの、嫌デスゥ……助けてクダサイ伊織サン、小百合サ……ワーォ」
浜辺のマリリン・モンローが助けを求めた伊織はといえば、赤いビキニの上だけをつけた状態で放心していた。伊織の顔をつけた人形が前でぴょんひょん跳ねて必死に隠そうとしているが、完全アウト状態である。ふと、正気づいてうずくまる伊織。
「……って!? なんですの!? 下着が消えましたわ!? うう……見ないでくださいまし!」
小百合もまた、上だけ和風水着(巫女さん風)姿になっていた。短くキュロット風にアレンジされた袴の横からなまめかしくも腰のあたりの素肌が見えている。
両手に顔をうずめたまま、いやいやと小さく首を振った。
「……ッ~!? あう……恥ずかしいです……見ないで……」
「鈴鹿、謀った、ね」
自身も堂々とはいてない状態で、黄泉にサムズアップする鈴鹿。
「悪い子は、お仕置き」
すーずーかー、と伸ばされる語尾に怒りの強さが感じられる。
「黄ー泉ー…アターーーックーーー」
砂を蹴って高く飛びあがり肩に羽織ったスポーツタオルを飛ばして、お騒がせ巫女にボディアタック!! 水着のスカート飾り(だけ)がひらりと翻る。
「黄泉さん待つの……暴力反対なの!? あ゛―!!」
「何? 大丈夫、手加減、ちゃんとして……あっ」
二人がいまどういう状態になっているか、アラタナルは全年齢対象なので詳細描写は控えさせていただきます。
まあ、その後何やかんやありまして……妖人形たちがキャンプ場からこっそり取ってきてくれたタオルで「下」を隠した後、覚者たちは自分たちと同じ顔をした人形たちを笑顔で海へ送り出したとさ。
「あっ」
波打ち際で提灯の明かりに浮かび上がった首なし人形見つけた瞬間、胸に思い出があふれ、いっぱいになった。御菓子(CL2000429)はそれが妖であることも忘れて、迷わず手を伸ばし、海水の中から拾い上げた。
「懐かしい……」
微笑みながら人形の服についていた砂や木片を丁寧に取ってやる。
「着せ替えごっこをして遊んだっけ。それにこの服……ふふ、わたしがステージに立っていた頃に来ていたドレスに似ている。すごい、偶然とは思えない。わたしたち、きっとここで出会う運命だったのね」
提灯の淡い光がチカチカと瞬いた。一瞬、光が大きくなって御菓子と人形を包み込む。いつの間にか、人形に頭がついていた。
「まあ!」
小さな御菓子はにっこりと笑うと、妖気で半透明のビオラを作り出して構えた。気を利かせたカンタが、タラサを呼び出して御菓子に渡す。
即興の二重奏が暗い夜の海に響いた。
「いろいろ大変だったでしょうけど、無事に成仏できるといいね。産まれかわれたら、うちに遊びにいらっしゃいね」
人形をそっと波に乗せて流した。名残は惜しいけれども。再会を願って――。
「ついつい思い入れちゃった。あ、でもそうなると水着が……きゃぁぁぁっ!!」
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「ぴゃ!?」
「ぷっ!?」
波が岩を洗う夜の海に、突如響いた妙な声。研吾(CL2000032)と一悟(CL2000076)の爺孫コンビは、奇しくも同じポーズを取った。パンツが一瞬にして消滅したのである。
予期せぬ事態に二人は慌てて手で股間を隠した。研吾は着物、一悟は服を着ていたので、お宝丸出しは避けられたのだが……。たかが下着一枚、されど下着一枚。パンツがなくなった途端にタマの防御力が心許なくなり、手で庇った、という次第。
「へ?」
「え?」
ふたりは同時に顔を見合わせた。
「まさか、一悟も……」
「まさか、じいちゃんも……」
海から引き上げた頭のない妖人形を手に、飛鳥(CL2000093)とリサ(CL2000053)が振り返る。
「うるさいのよ、静かにしてくださいなのよ」
「どうしたノ。一体、なに……アッ、その顔は!?」
股間に手をあててモジモジしている研吾の足元に、義理の息子の顔を乗せたサルの縫いぐるみが座っていた。見つけたリサの笑顔が、たちまちのうちに般若へ変わる。
「ケンゴ! ほんとうにしようがない人ネ」
「あっ、その顔、父ちゃん!? じいちゃん、ひでぇ~」
研吾は、可愛い一人娘を奥州豊作に取られた怨みをここで晴らそうとしたらしい。
「そういう一悟の人形は、噺家さんの顔なのよ。ナニ考えるのよ!」
なにって、と一悟は頬をひきつらせた。
「あ~、ほら、噺家って強いじゃん? この妖がどこへ流れていくのか分からねえけど、噺家の顔がついていたら百人力じゃねぇかと思って……。武士だし、この人形」
馬鹿ね、と線香花火を手に、光邑家からの誘いを受けて同行していた眩(nCL2000164)が呆れかえる。
「そやけど……自分の顔は思い浮かべてへんのに、なんでパンツ消えたんや?」
「そうだそうだ! 眩、騙したな!」
「傍にいる人や自分の顔は一瞬でも思い浮かべないでね、って言ったでしょ。そこから分かるように、人形の呪いは近単特なの。遠くにいる実在の人やその他を思い浮かべても、呪いが届かないじゃない?」
どうやら眩は、呪いかけに失敗したため効果が自分に跳ね返ってきた、ということをいいたいらしい。
「そんなん、ちゃんと言ってくれんと分からへんわ。通常依頼やったら運営にクレーム入れてんで」
「そんなことより、お人形が可哀想デショ。個人的な恨みを晴らしたかっただけでつけられた顔なんて」
義理の息子、そして妖の分もお灸を、とリサが力を入れて研吾の頬をつねる。
「いてて! それだけと違う、こいつを引き上げた時、ちゃんとこいつのこと考えてつけたんや、ほんまやって」
曰く、義理の息子は憎いが、果物を作ることにかけてはピカイチだと思っている。義理の息子の顔がついていたら、どこへ行っても食べ物には困らないだろうから云々。
「あ~、すまんけど豊作、バナナは作ってなかったわ。苺と林檎で我慢し」
研吾はリサの手から逃れると、妖を灯籠船に乗せた。一悟も祖父に倣って古妖の顔を頂いた武士人形を船に乗せる。
「まげを結っていないけど、裃姿がなかなかサマになっているのよ。凛々しくて強そうなのよ」
飛鳥に褒められて、妖の武士人形は誇らしげに胸を反らせた。
だろ、と一悟も口角をあげる。
「で、飛鳥。お前、象になんで全身ペイントしてんの? 顔なんて、目のあたりだけ人っぽくて微妙にキモい――ぐぇっ!?」
一悟は飛鳥から腹に猛の一撃を受けて、体をくの字に折った。
「神さまの怒り発動! あすかの代行攻撃、なのよ!」
なにをする、と怒った一悟をリサがたしなめた。
「キモい、なんていったイチゴが悪いワ。アスカちゃんはゾウのお人形さんに、ガネーシャ神のお顔をつけてあげたのヨ。妖だけど、このゾウさんはいまや神さまの分身でもあるワケ」
ぱぉん、と長い鼻を持ち上げて象の妖人形が鳴いた。その横で、ホホホとリサが手にするフランス人形が上品な笑い声をあげる。
「あれ? リサの人形の顔……あの女優さんにそっくりやないか。なんでリサは呪われんかったんや?」
「グレース妃はもうお亡くなりになっているからセーフよ」
またしても男二人から抗議の声が上がったが、眩は一切耳を傾けることなく完璧に無視した。
「でも、どうしてグレース妃のお顔を妖人形に?」
「きっと、顔が汚れて傷ついて……それで悲しくて顔を隠したのヨネ? だから、きれいな女優さんのお顔をつけてあげようと思ったノ。気に入ってくれたカシラ」
微笑みながら、リサがフランス人形の妖をそっと灯籠船に降ろす。
妖は船の上で体を回すと、繊細なレースで飾られたスカートの手で少しつまみ上げ、リサに向けて優雅にお辞儀を返した。
「とても喜んでくれているようね。さあ、準備ができたなら海に流しましょう」
眩の合図で研吾が船の灯籠に火を灯す。
リサが御菓子を妖たち与え、飛鳥が線香花火をつける。
最後は、一悟が四艘の船を波に乗せた。
線香花火を手に見送る五人の後ろで、花火が打ちあがり、夜空に大輪の花を咲かせた。
妖人形を乗せた船が沖へ、沖へ流れていく。
「さよならなのよ。もう、妖にならないでね」
見えなくなるまで、覚者たちに手を、鼻を振っていた。
●
「はぁ!?」
「ヒュ!?」
「ふぇ!?」
「ほよ!?」
花火にあわせるかのように、波打ち際で次々と悲鳴が上がった。
ただ一人、悲鳴を上げなかった者がいる。鈴鹿(CL2001285)だけは、慌てふためく友人たちの後で、イタズラの成功に細く笑んでいた。
手にする提灯の明かりが、下から鈴鹿と鈴鹿の顔を乗せた妖人形のしてやったり顔をほんのり照らしている。
そう、人形の呪いにより、イタズラを仕掛けた本人も含めて、「下」着が消滅してしまったのである。いままさに、乙女の大ピンチ!
新しい頭を乗せた妖たちも、それぞれが同じ顔をした覚者の下で頬を赤くして恥ずかしポーズをとっていた。
――ここにいたるまでを説明するためにも、時を少し遡ろう。
夢見の話を聞いて、数名の有志が人形供養の名乗りを上げた。キャンプ場にて打ち上げ花火が行われる十分前のことである。
先に御菓子、それに光邑家と飛鳥、夢見がそれぞれ時間を置いて出発したあと、ホークダンスを楽しんでから、伊織(CL2001603)と 小百合(CL2001552)が浜へ向かった。
「すぐ行きマス!」
どうぞお先に、と二人を送り出したリーネ (CL2000862)と黄泉(CL2001332)、 鈴鹿(CL2001285)の三人は、キャンプファイヤーの周りでもう一曲、ホークダンスを楽しんだ。
「もうすぐ打ち上げ花火ですケド……コレ以上、妖は放置できないデスネ。名残惜しいですが、行きまショウカ」
「花火、浜からも、見られるって、夢見が、いっていた、よ」
黄泉はちょっと考えてから、スポーツタオルを手に取って水着の肩にかけた。
「寒いの?」
「ううん、ただ……なんとなく」
その時、黄泉は気がつかなかった。巫女の目がすっと細まったことに。ここで気がついていれば、のちの悲劇は避けられたかもしれない。
リーネはリゾート地にあわせたちょっぴりフェミニンな軍服ワンピの裾をひるがえして、先に小さな段差を飛び下りた。波打ち際までこぶし大の小石がゴロゴロ転がっている。夜は気をつけないと足をくじきかねない。後からくるものに手を貸して、安全を確保するのは軍人である自分の務めだ。
「あ、ここ、滑りマス。気をつけるデス」
三人揃って手をつなぎながら、波打ち際でしゃがみこむ伊織と小百合の元へ向かった。
「こんなにも……いっぱいの日本人形……どこから来たのでしょう……」
ぽつりと零された小百合言葉に悲しい響きを聞き取って、伊織は子守歌を口ずさみ始めた。優しく懐かしいメロディが人形たちの間を抜け、沖へ流されていく。
「皆……誰かと一緒に過ごしてい居ただろうに……ちゃんと……送ってあげたいです……」
「どうかこの人形達の鎮魂を……」
それぞれ頭のない人形を手に取った。
リーネたちもそれぞれ、波に洗われたままになっている人形を抱き上げた。
「ウゥ……やっぱり日本人形って何かコーワーイーデースー! 首が無いカラ、それも倍増デスー!」
「これが、呪いの、首無し人形? 鈴鹿、巫女、だったよ、ね? どうすれば、良いか、教えて」
禁断のイベントフラグを立ててしまったことに気づかず、無邪気に教えを乞う黄泉。そのほか三名も神妙に巫女の指示を待つ。
「人形流しはその人の厄災を引き受けてくれるものなの。だから感謝を込めて流してほしいの……さあ、自分を思い浮かべながら流すの」
「ホウホウ、そうやって供養するのデスネ」
「ふふ……成程……では厄災を払うという事でしたら、私としても吝かではありませんわ」
では、さっそくと、リーネと伊織が自分の顔を頭に思い浮かべる。
(「あれ? 自分の顔を思い浮かべるのは……まずいのでは? 確か夢見の――!!!」)
小百合は眩の警告を思い出したが、時すでに遅し。妖の体に自分の顔が載ったあとだった。
「ス、ストープ! 人形ストップデー……!?」
残念。もう、遅いのです。きしし。
――冒頭に戻る。
真っ赤にしたリーネは、急に吹きだした、なぜか下から上へ吹き上がる浜風に裾をめくられないようワンピの前後を必死に手で押さえた。
「あ、あぅぅぅ……こ、こんなの、嫌デスゥ……助けてクダサイ伊織サン、小百合サ……ワーォ」
浜辺のマリリン・モンローが助けを求めた伊織はといえば、赤いビキニの上だけをつけた状態で放心していた。伊織の顔をつけた人形が前でぴょんひょん跳ねて必死に隠そうとしているが、完全アウト状態である。ふと、正気づいてうずくまる伊織。
「……って!? なんですの!? 下着が消えましたわ!? うう……見ないでくださいまし!」
小百合もまた、上だけ和風水着(巫女さん風)姿になっていた。短くキュロット風にアレンジされた袴の横からなまめかしくも腰のあたりの素肌が見えている。
両手に顔をうずめたまま、いやいやと小さく首を振った。
「……ッ~!? あう……恥ずかしいです……見ないで……」
「鈴鹿、謀った、ね」
自身も堂々とはいてない状態で、黄泉にサムズアップする鈴鹿。
「悪い子は、お仕置き」
すーずーかー、と伸ばされる語尾に怒りの強さが感じられる。
「黄ー泉ー…アターーーックーーー」
砂を蹴って高く飛びあがり肩に羽織ったスポーツタオルを飛ばして、お騒がせ巫女にボディアタック!! 水着のスカート飾り(だけ)がひらりと翻る。
「黄泉さん待つの……暴力反対なの!? あ゛―!!」
「何? 大丈夫、手加減、ちゃんとして……あっ」
二人がいまどういう状態になっているか、アラタナルは全年齢対象なので詳細描写は控えさせていただきます。
まあ、その後何やかんやありまして……妖人形たちがキャンプ場からこっそり取ってきてくれたタオルで「下」を隠した後、覚者たちは自分たちと同じ顔をした人形たちを笑顔で海へ送り出したとさ。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
