足りぬこと ただそれだけが悔しくて
足りぬこと ただそれだけが悔しくて


●差別されし者達
 差別をなくす方法は、お互い同じ人間であると思う事――ではない。
 人は皆異なる。もう少し残酷な事を言えば、人は皆差別される要因を持っている。性別。国籍。階級。身体能力や疾病。民族。文化。家の事情。経済事情……。その他いろいろな要因が存在し、嫉妬や優越感に似た感覚で人はそれを責める。人は生まれながらに不平等であり、『同じ』を欲するなら富める者から奪うか貧する者に与えるしかない。
 そしてそれができる人間はそう多くない。『要因』の分与が不可能な状況もあるだろうが、自ら『優位』な立場を失いたいと思う人は少ない。失うことは誰もが怖い。その恐怖を克服して誰かを助けることを強要するのは、金持ちから金を強奪してばらまくのとあまり変わらない。
 差別をなくす方法は、人間は皆同じではないと自覚することだ。人には差があり、そしてその『差』をどう補うかを議論するのだ。歩幅の大きい人と歩幅の小さい人が同じ速度で歩くように。背の高い人と低い人が同じ高さの天井で過ごすように。差を認め、向き合う事だ。
 現実は少しずつしか変わらない。一足飛びに差別がなくなるなんて、奇跡の領域だ。人が人であり、差別が人の感情から生まれるのなら、そうやって少しずつ変えていくしかないのだ。
 だが、それに耐えられる人間は多くない。長い間差別される屈辱に、耐えることができようか。尊厳を傷つけられて、涙を流さぬ人がいようものか。
『無駄な努力だ。諦めろ』――何度言われただろうか。正論かもしれない。だけど正しいからと言って納得できるはずがない。
『今まで受けた仕打ちを赦し、復讐の連鎖を止めるんだ』――ああ、美談だ。だけどそれを受け入れることはできない。
 今更止まることが出来ようか。同じ思いを抱く者達はたくさんいる。その人達の為にも立ち上がるのだ。これは富める者に対する叛逆。戦う者がここにもいるということを示し、同じ思いを持つ者達に勇気を与えるのだ。
 今こそ鬨の声をあげろ。戦いの時だ!
「「「胸が小さくて悪かったなー! 巨乳死すべし慈悲はない!」」」

●FiVE
「――という思想をもった女性隔者集団が公共のプールで暴れるという予知が見えましたので、暴れる前に取り押さえてきてください」
 呆れるような声でため息をつき、久方 真由美(nCL2000003)は覚者達に資料を渡した。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.全隔者の戦闘不能
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 かくもこの世は残酷なのか。

●敵情報
・『闘牛レスラー』河南里佳子
 隔者。火の獣憑(丑)。十九歳女性。『牛なのに乳がない』と言われ、この世の格差を知りました。その辺りを基点にしての言葉による挑発は効果があります。
 ナックルをつけて戦う肉弾系パワーファイターです。マントに水着なプロレス衣装ですが、揺れません。
『猛の一撃』『灼熱化』『圧撃・改』『爆刃想脚』『無疾病』等を活性化しています。

・『金城鉄壁』花田雪子
 隔者。土の精霊顕現。十八歳女性。河南と同じ体型で、彼女の思想に同調しています。挑発には人並みに耐性があります。鉄壁です。
 シールドを持った防御役。前衛に立って味方ガードが主なお仕事です。
『五織の彩』『紫鋼塞』『蔵王・戒』『弁財力』『癒力大活性』『痛覚遮断』等を活性化しています。

・『マジカル☆ナース』園部千佳
 隔者。水の変化。十二才女性。覚醒すると二十代の看護師の姿になるのだが、そこで自分の肉体の未来という儚い現実を知ってしまいます。河南と同調し、やけっぱちになってます。
 水術を使った回復が主なお仕事です。スリムです。
『B.O.T.』『潤しの雨』『深想水』『海衣』『医学知識』等を活性化しています。

・女性隔者(数不定)
 河南の意見に同調した女性隔者です。ギリギリBです。『依頼参加者-4』名存在します。
 全員天の翼人。『エアブリッツ』『填気』『演舞・舞衣』を活性化しています。

●場所情報
 公共のプール施設前。OPの鬨の声を上げり隔者の前に現れる形です。時刻は昼。人は結構たくさんいますが、戦闘が始まれば散っていきます。
 戦闘開始時、敵前衛に『河南』『花田』が、中衛に『女性隔者(全員)』が、後衛に『園部』がいる形です。敵前衛までの距離は十メートルとします。
 事前付与は一度だけ可能です。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2017年08月20日

■メイン参加者 8人■

『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)
『獅子心王女<ライオンハート>』
獅子神・伊織(CL2001603)
『五行の橋渡し』
四条・理央(CL2000070)
『F.i.V.E.の抹殺者』
春野 桜(CL2000257)
『見守り続ける者』
魂行 輪廻(CL2000534)
『復讐兎は夢を見る』
花村・鈴蘭(CL2001625)


 河南里佳子。リングネームは『ランページ河南』。打撃系のヒールレスラーだ。だが半年前に因子発現し、世間の声に押されるようにプロレス界から引退。その後の足取りは掴めない――
「現役のころはかなりの猛者だったのよね。これだけの格闘技者が、破壊活動現行犯で拘束、とか。勿体無い」
 うんうんと河南の経歴を思い出しながら、『眩い光』華神 悠乃(CL2000231)は物惜し気に頷いた。因子発現により現役を退く格闘家は少なくない。個人的には名のある格闘家とやりあえるのは嬉しいのだが、こういう形というのは難しい所だ。
「現状では未遂になるんだけど……どちらにしても拘束は必要ね」
 悠乃の言葉に付け加えるように『F.i.V.E.の抹殺者』春野 桜(CL2000257)は呟く。夢見が見た未来を止めれば、自然と彼女達の犯行も未遂になる。とはいえ暴れようと宣言しているのは確かなので、お仕置きは必要だ。
「気持ちは、分かるよ……。でも、それで、人を傷付けたりするのは……やっちゃいけないこと、だよね……」
『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)は自分の胸に手を当てて、痛みをこらえるように言葉を放つ。差別されるということは理解できる。ミュエルも被害者と言える立場だ。だが、それは富める者を傷つけていい理由にはならない。
「大丈夫よミュエルちゃん。貴女が気に病む事は、無いわ……」
 どこか慈しむように『悪意に打ち勝ちし者』魂行 輪廻(CL2000534)はミュエルに語りかける。憂いを含んだ表情を浮かべ、それ以上は何も語ることなく首を横に振る。今は嘆いている時ではない。戦う時なのだと言外に告げて。
「まあ、胸の事になると人も古妖も理性を失う時があるね。コンプレックスになりやすいのかな?」
 大きいなら大きいで邪魔なのに、と『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)はため息をついた。隔者達が恨みを持つ胸の大きい女性達。自分達が持ち得なかった身体特徴を持っていることが羨ましい気持ちは解る。
「む、胸が女性の全てではありませんわ!」
 と、胸を揺らして『獅子心王女<ライオンハート>』獅子神・伊織(CL2001603)が主張を掲げる。女性の美的特徴は胸だけではない。そして外的要因以外にもそれを示す方法はある。だがやんぬるかな。そこに目が行ってしまうのが人間なのだ。
「うふふ。胸の小ささでこんな事仕出かすなんてイケナイ子猫ちゃん達ね」
 唇に指を当て『復讐兎は夢を見る』花村・鈴蘭(CL2001625)は隔者達を見る。確かに平均的女性よりも胸の発達は充分ではない。これは優しく指導してあげないと。唇を舌で濡らし、笑みを浮かべた。
「胸が小さいくらいで悲劇のヒロインぶるんじゃねーですよ!」
 いつもの穏やかさが消え去った『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)の叫びが響き渡る。なんというか色々精神的な琴線に触れたようである。神具を握りしめて心の闇を解放し、感情のままに暴れそうな雰囲気を見せていた。
「よーし、あいつらぶっ殺す!」
 河南を始めとした隔者達はFiVEの覚者を見て戦意を高める。具体的には、一部覚者の胸部を見て。
 妥協することはありえない。覚者と隔者。両者の意志がぶつかり合う。


「それじゃ、いくわよん」
 最初に動いたのは輪廻だ。わざわざ水着を着て、ふくよかな胸元を強調するようにして相手に挑む。別段挑発のつもりはない。輪廻という人間がそういう戦い方をするというだけだし、仲間もそれを知っている。だが隔者はそうは思わずヘイトを募らせた。
『廓舞床』と呼ばれる軽く長い特殊金属繊維でできた刀の神具を手に、輪廻は躍り出る。刀身は細く長い布のように相手を幻惑し、その動きを逸らす。跳躍するたびに成熟した胸が揺れた。だがそれに気を取られていれば、薄く鋭い刃に切り刻まれるだろう。
「どうかしらん? 新しく買った水着よん」
「ビキニとか……! 畜生、ぶっ殺してやる!」
「それなりにある私の方にだって悩みぐらいあるのよ? なんて言っても聞いてはくれないのでしょうね」
 ふうとため息を吐く桜。彼女も水着である。当たり前だがどんな人間にでも悩みはある。それは体形に関してもそうだ。隔者は羨ましがる体形でも、当の本人からすればうんざりするような悩みがあるのだ。それは当事者にならないとわからないのだから仕方ないが。
 ともあれ今は抗戦の時だ。包丁と斧を手に真っ直ぐに前衛に進んでいく。木の源素を神具に集中し、横一線に薙ぎ払った。神具の軌跡を追うように赤い液体が飛ぶ。液体は隔者の多皮膚に触れるとそこから侵入し、内部からじわじわと焼き尽くしていく。
「ま、胸の大きさだけで人を判断する。そんなくだらない人間に自分達が成り下がってる事を教えてあげましょうか」
「黙れ! あんな冷たい視線にさらされたことのない人間に、わたしたちの苦労が分かってたまるか!」
「ちょっと、贅沢すぎない……?」
 ミュエルは隔者達の体形を見て、ぼそりと口を開いた。前で戦う河南、花田、園部は許せる。自分とほぼ同年代でその状況なら嘆いてもいいだろう。だがその連れ添いは許せなかった。心の虚を隠そうともせず、表情が暗澹としていく。
 その感情をぶつけるように高密度の植物の毒を中衛にぶつけていく。あ、前衛が毒まみれなので中衛に攻撃しているだけです。BSは二重にかからないから。
「中衛の人たち、寄せればBになる大きさで、足りないとか小さいとか言ってるの……? 
 アタシなんて、寄せようとしても寄せるものすらないし……下着は小さすぎて種類少なくて可愛いの選べないし」
「そうだそうだ! わざわざ専門店を探す苦労を味わえー!」
「んー。よくわからないけど裏切りパフォーマンスまではいかないか」
 ミュエルに同調して仲間の隔者を責める河南。ヒールよろしくここで裏切り? と悠乃は期待したが、流石にそこまではいかなかった。まあ裏切られたら戦えないから、それはそれで困るけど。
 河南が庇われていないことを確認し、一気に殴り掛かる悠乃。自らの辰因子と術式を融合させた格闘技。振るわれる拳は炎にして爪。四肢のどれかを軸にして回転し、立て続けに打撃と術式を叩き込んでいく。それは黒の竜巻。炎の暴威が隔者に襲い掛かる。
「更生して復帰まで、貴女の試合がもう見られないだなんて。それはそれとして、私が勝ったらサインください」
「勝てる者なら、勝ってみろー!」
「なんというパフォーマー!? あれがプロレスラーなのですね」
 悠乃の攻撃を受けながら立ち尽くす河南。それを見て伊織は思わず叫んでいた。ジャンルこそ違えど、自己の研鑽を見せつけるように戦うさまは、アイドル活動とどこか酷似していた。まあ、アイドルはあそこまで血みどろにはならないが。
 負けてられじとエレキギターを手に奮起する伊織。頑丈なギターを構え、ビートを奏でる。その度にアイドルとしての気風が流れ、胸が大きく揺れた。そのままギターを振るい、隔者を打ち据えていく。
「貧乳とか巨乳とか……そんな事で争うなど空しいだけですわ!」
「うるせぇ! そんな綺麗事でこの悔しさが晴れると思うな!」
「うん、まあ、侮蔑の視線を受け続けるというのは悲しいことだよね」
 隔者の主張にとりあえず頷く理央。差別を受け、その屈辱に耐える。それがどれだけ人の心を捻じ曲げるか。人類みな平等。それは正しいし、そうあるべきだ。しかし正しいということと人を救うということは違うのだ。
 後衛から仲間の傷を確認し、頭の中で数秒先の状況をシミュレートする。三手先の崩壊を防ぐために、この一手で楔を打つ。水の源素を活性化させ、癒しを含んだ霧雨を降らせる理央。仲間を癒し、戦線を維持する。水行使いの基本だ。
「……今回は暴走してる水行使いの人も居るけど」
「わたしの心が真っ赤に燃える。思い知らせと轟き叫ぶっ!」
 理央の言葉など耳に入っていないのか、御菓子は隔者達に向かい強い戦意を向けていた。彼女は許せなかった。胸が小さいという理由で暴れる隔者達が。それは悪に対する義憤――ではない。もっと個人的な理由だった。
「背が小さいというだけで、服を買いに行けば子供服を勧められ、生徒を引率すれば生徒の目の前で補導され、加えて子役のスカウトをされて笑われ、高校生の妹と買い物に行けば姉妹の妹と間違えられ……あなたたちにその悲しみがわかりますか!?」
「え、高校生の妹? 先生? ああ、現因子か。千佳の逆パターン」
「違います! 確かに変化ですけど、変化しないんです! 見た目が!
 たかが胸が小さいだけで暴れるとか、そんなのわたしの苦労に比べればたいしたことないわよっ!」
 言って水龍牙。そんな個人的な理由だった。
「うふふ……胸の小ささでこんな事を仕出かすなんてイケナイ子猫ちゃん達ね」
 戦う隔者を見ながら鈴蘭は微笑む。姉を隔者に殺されたという経緯を持つ鈴蘭は、基本隔者を許さない。だから今回も復讐しなくてはいけないのだ。女性隔者達を倒し、捕え、そして欲望のままに――
 ネメシス。ギリシア神話における憤りと罰を形にした神罰執行者。その名を持つ鎌を手にする鈴蘭。復讐するは我にあり。神具を振るって相手を縛り上げ、毒で苦痛を与えていく。相手の顔が苦痛に歪むのを見て、愉悦に似た表情を浮かべていた。
「苦しいかしら? 胸がない貴方達でも、その表情は素敵だわ。ゾクゾクする」
 どちらが隔者かわかったものではないが。
「まだまだ負けてねーぞ! ここが踏ん張りどころだ!」
 河南の言葉に勢いを取り戻す隔者達。まさに闘牛のような勢いで拳を振るい、仲間を守る城壁となり、仲間を癒す要となる。同じ目的で集まったこともあり、連携は上手くとれるようだ。
 勿論、覚者達も連携なら負けていない。互いの役割を果たしながら、隔者に攻め入っていく。
 覚者と隔者。その戦いの天秤は、少しずつ揺れ始めていた。


 覚者達は誰かを集中して攻撃するのではなく、散発的に隔者を攻めていた。
 悠乃は相手のメイン火力ともいえる河南を攻め、ミュエルと桜と鈴蘭はバッドステータスを振りまいている。理央は回復に専念し、輪廻と伊織は特に指定なく目の前の敵を殴っている。そして御菓子は――
「あれ? わたし、誰を攻撃した方がいいのかな?」
 攻撃対象を皆に合わせようと思っていた御菓子は、誰に合わせればいいのか戸惑っていた。何せ、攻撃対象に統一性がないのである。
 対して隔者は攻撃対象を絞り、集中砲火を行っていた。その対象は――
「ああん。酷いことするのねん」
「何で私を狙うのですの!?」
 たゆんと胸を揺らしたりしている輪廻と伊織である。まあ単にヘイトを集めた結果ともいえる。
「だいたい、ギリギリBって何……? ギリギリどころか何やってもAにすら届かない人への当てつけ……?」
 ミュエルはブツブツと口ずさみながら毒を放っていた。
「寄せればになる大きさで、小さいとか言ってるの……?
 アタシなんて、胸元をカバーするタイプの水着を着たら、フリルとかの角度で胸のなさが逆に強調されるレベルなんだよ……?」
「ええ。貴方達は仲間を傷つけました。故に復讐します」
 鈴蘭が毒を振りまき、隔者を縛っていく。
「何故こんな縛り方をするのですって? 私の趣味と彼女達を辱める為よ。
 胸もないのに胸を強調される縛り方で拘束される姿を公の場で晒す醜態……貧乳……いえ失礼しました、まな板ですね……にはさぞ恥辱的でしょう」
 どういう縛られ方をしているかは、想像にお任せします。アラタナルは全年齢。
「胸の小ささはステータスだとか、胸の大小に貴賎なしとか、スレンダーさが大人っぽさを演出したり……決して悪い表現ばかりでもないでしょう?」
 拳を握り、怒りの声をあげる御菓子。
「背はねぇ、背はねぇっ! 低さはロリ以外の表現はないのよっ!」
「かわいいとか?」「守ってあげたいとか?」「トランジスタグラマ?」
「言っていることは変わらないじゃないの!」
 まあ、どっちもどっちという事で。
「何度も言うけど、大きいなりの苦労もあるのよ」
 桜は包丁を振るいながら、おっとりした口調で隔者に語りかける。加減するつもりはないのか、その一撃は容赦ない。
「肩こりとか、下着の選択肢が狭まるとか、あと男達の邪な視線が鬱陶しかったりとか。
 じっとしているだけで肩に重みがかかるし、下着も機能重視になって可愛いのが選べない。男と会話をしているとすぐに胸の方に視線を向けているのが分かって、もううんざりする。そういう苦労もあるのよ?」
 富める者特有の悩みである。
「そうですわ! 胸が大きくてもいい事なんてないのです!」
 桜の言葉に便乗するように伊織が叫ぶ。
「胸が女性の全てではありませんわ! 確かに男性の多くは胸の大きさにこだわりがあると聞いた事はありますが――」
 伊織の悪意なき言葉のナイフが隔者の心を抉った。
「内面の輝きこそが女性を輝かせると私は思いますわ!」
「うるせぇ! 胸がないと振り向いてすらもらえないんだよ!」
「そんな……ですが胸にこだわりを持たない男性もいるはずです! きっと!」
 説得を続ける伊織。結果として挑発になっているのは已む無しか。
「ああん、攻撃失敗しちゃったぁ」
 精霊顕現の身体能力を前面に出して戦う輪廻。しかし過度な動きがたたってか足を滑らせ、隔者に向かって転んでしまう。
「あらあらごめんねぇ。でも役得かしら?」
「この無駄にデカくて水っぽいモノを退けるデスヨ!」
「うふふ。当ててるのよ」
 胸を隔者に押し付けるようにする輪廻。わざとだ。絶対わざとだ。敵味方全てがそう思っていた。
「出来るなら一対一が望ましかったんだけど」
 河南と交戦している悠乃だが、河南が挑発に乗る形で別の覚者に拳を向けていることに些か不満があった。集団戦である以上致し方のない事なのだが、出来るならレスラーとの格闘勝負をしたかったのは確かだ。
(でもまあ、対した体格なのは確かだよね。こちらの攻撃をしっかり受けてるんだし)
 レスラーは相手の攻撃を鍛えぬいた肉体と受け身で衝撃を和らげる。それは対戦相手への尊重。悠乃の打撃も同じように体で受けられていた。
「予想はしていたけど、カオスな戦いになってきたね」
 おのれの主張を叫ぶ隔者と個性(意味深)の強い覚者達。理央はそれを見ながら、軽く肩をすくめていた。いつの世も、女性が美を求める様は尽きないもので、同時に貧する者が受ける差別も同じことである。
 とにかく自分にできることをやろう。集中攻撃を受けている輪廻と伊織を中心に癒しを施し、戦線を維持していく。隔者の主張に一定の理解は示すが、それはそれだ。覚者の力を使って暴れる以上、主張はどうあれ放置する理由はない。
「いい加減に揺らすのやめろー! トペ・スイシーダ!」
「ああん、デモンズウォールのクラッシュダウン!」
「なんで私まで巻き込まれるのですかー!?」
 度重なる隔者の集中砲火に、輪廻と伊織が力尽きる。だが、隔者も様々な打撃や毒やらで疲労困憊だった。度重なる覚者の攻撃に力尽きていく。
「こっちの仲間たちみたいに、大きな差がある人たちより……」
 ミュエルが陰を含んだ表情で神具を振るう。猛毒の風が隔者に襲い掛かった。
「(少しでも)あるのに、高望みするほうが、百倍許せない……許せない……!」
 それは隔者と同じ貧する者の怒り。その鉄槌を受けて、最後の隔者が倒れ伏した。


「それじゃ、反省会を始めましょうね」
 にっこりとほほ笑む御菓子。口調こそ大人しいが、隠しきれない心の陰が見えていた。よほど相手の主張が我慢ならなかったようだ。
「あれだけ大声を出してたんだから、未遂でも十分ね」
 神具を持って鬨の声を上げた隔者。たとえ襲撃が未遂でも十分な罪状だ。桜は隔者を捕縛して一件落着とため息をついた。その後で、バストバーストを使って隔者の胸を豊胸化する。驚きの声をあげる隔者。
「この技能を学びたいなら私達のもとに来るといいわ。これは一時的なものだけど頑張ればもっと長持ちするようになるかもね」
「投降してFiVEへ加入くれたら、いつでも学べるわよ」
 悠乃は河南のサインをもらい、満足げに頷いていた。一対一の闘いは敵わなかったが、レスラーのタフネスは充分に味わえた。しっかり反省した後に五麟市に来たのなら、その時は遺恨なく戦えるといいのだが。
「先程は失礼いたしました。興に乗ってやりすぎてしまいましたね」
 必要以上に辱めてしまい、それを詫びる鈴蘭。
「お詫びに術以外で胸を大きくする方法を教えましょう。それは女性ホルモン……これを活発にさせるのです」
 すす、と隔者に近づき、手をその胸に当てる。
「生活習慣の改善……食生活と良質な睡眠を取る事、体を温め適度な運動を心掛けましょう。何よりも愛情を注ぐ事……何かを愛せって事です。
 何なら私が愛してあげますよ? フフ、同性でも問題ありません……」
「はいはい。それ以上やったらどっちが隔者かわからなくなるからね」
 いろいろゆりんゆりんな空気になりそうになるのを、手を叩いてブレイクする理央。委員長属性である。
「…………」
 ミュエルは胸に手を当て、戦いの虚しさを感じていた。いつだって戦いは虚しい。特に今回は人一倍。涙をこらえるように拳を握る。

 夏風が戦いの終わりを告げるように、静かに戦場に吹いた。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『『ランページ河南』サイン色紙』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:華神 悠乃(CL2000231)



■あとがき■

 どくどくです。
 最初は真面目に差別の話を書こうとしていた気がするんだけどどうしてこうなった。

 ともあれお疲れ様です。隔者は全員逮捕され、頭を冷やしています。
 見な様の熱いプレイング、その内の想い。確かに受け取りました。
 その結果が返せれば、と思います。

 まあ、ゲラゲラ笑いながらリプレイ書いてましたがそれはそれで。

 それではまた、五麟市で。




 
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