<忍者探偵>シノビ水芭の学園絵巻
●ニンジャ。それは現代に潜む不可視の闇!
町を横切る赤い閃光を見たことがあろうか。
大海の上を走る青い光を見たか。
空を飛ぶ白い翼を見たか。
もしかしたらそれは、現代に潜む本物のニンジャ――なのかもしれない。
これまでのあらすじ。
ハストリニンジャクランの末裔、ハストリ ゴンゾウは先代から託されし秘伝のサイコマキモノを守るべく町を疾走していた。
しかしマキモノを狙うトライシニンジャクランの魔の手は着実に彼をとらえ、命までもを取らんとした……その時! 闇夜を割いて現われたるは我らがファイヴ!
ハストリと手を結びトライシニンジャクランを見事に撃退して見せた。
――「忍者の義は命より重きもの。命を救って貰ったこの恩義、信頼に余りある」
――「我ら『獣の一党』は十二あるマキモノをそれぞれの氏族(クラン)で管理していた。世に出れば人々を恐怖に陥れ、混乱と狂気によって支配してしまう力をもっているマキモノだ。ゆえに世に出さず、永遠に隠し続けることとしていた。しかし一党を仕切っていた父の死後、党首の座を巡る争いが起き、自然とマキモノを最も多く所有したものが党首となるというルールが暗黙のうちにできあがった」
マキモノがひとつところに集まれば強大な力を悪用する者がきっと現われる。
ファイヴはそれぞれの所有者を守ることにした……!
●『水芭忍軍現頭目』ミズバ ハヤテ
終業のチャイムが鳴る。
眠たげにあくびをする者や背伸びをする者。部活に備えて走り出す者。多種多様な者たちの中で、ある青年はじっと窓の外だけを見つめていた。
窓際最後列の彼の席は、自然と人が寄りつかない。
教室に誰も居なくなるまで、彼はじっと何も無い空をにらんでいた。
今日も、それで一日が終わる筈だった。
筈だったのだが。
「まーた窓の外見てる。隣のクラスでも有名だよ、キミ」
ポニーテールの女子生徒が、顔を覗き込むように話しかけてきた。
黙って顔をにらむ青年。
「ミズバ ハヤテ君だよね。あ、なんで知ってるんだって顔。トーゼンでしょ、有名人だもん」
女子生徒の示唆するところは明らかであった。
かつて人々に、そしてこの学園の生徒たちに気づかれることなくニンジャとして活動していたミズバは、かつてある組織と協力関係を結んだことで秘密が知れ渡るとなった。
ヒノマル陸軍。七星剣の一席。そしてファイヴが滅ぼした組織だ。
その戦争の中で、活動拠点である学園ごと制御下におかんとするファイヴの動きにミズバニンジャクランは総力をもって抵抗したがこれに敗北。健全な学生生活を送れるようにと配慮はされたものの、かの七星剣の協力者であるというレッテルは彼らを露骨に迫害させた。
仲間たちは様々な追い出し行為に合い学園を離れ、ニンジャクランからも離脱した。
今やミズバニンジャクランは、青年ただひとりの組織である。
「何の用だ。用が無いなら消えてくれ」
「つめたーい。ワタシ、きみにキョーミあるんだけどな。放課後の教室で二人っきりなんてえっちなシチュエーション、ドキドキしない?」
「…………」
ミズバはため息をつき。
そして。
眼前の机ごと水の刃で女子生徒を真っ二つに切断した。
ばりん、と爆ぜる光。
切り裂かれた机はあれど、女子生徒は跡形も残っていない。
「いけないんだー、か弱い女の子を切りつけるなんて」
女子生徒の声だ。
否。
白い忍者装束に綿のようなメンポを被った、それは紛れもないニンジャである。
「貴様のようなやつは隣のクラスはおろか学園中どこにもいない。俺の記憶力を侮るな――カヒツジ エレコ。コヒツジニンジャクランの頭目が何の用だ」
「侮ってなんてないよー。だからこういうのも用意したんだぁ。用事は……わかるよね?」
女はスイッチのようなものを無数に取り出すと、その一つを押し込んだ。
どん、という激しい音と振動。屋上の貯水タンクが爆発した音だ――と学園中を知り尽くし鋭敏な聴覚をもったミズバは直感した。
「これと同じものが学園内にな、なんと50個! 大サービス! 知ってるよお? ここが大事なんだよね。思い出と青春の場所なんだよね? 思い入れのある生徒も沢山残ってるよねえ? メッチャクチャのグッチャグチャにされたくなかったら……マキモノちょーだい☆」
この情報を夢見、久方 相馬(nCL2000004)から聞かされたファイヴ覚者たちは急ぎ淡路島の学園へと急行した。
目的はふたつ。
マキモノがコヒツジニンジャクランに渡ることを阻止すること!
学園の爆破被害を防ぐこと!
町を横切る赤い閃光を見たことがあろうか。
大海の上を走る青い光を見たか。
空を飛ぶ白い翼を見たか。
もしかしたらそれは、現代に潜む本物のニンジャ――なのかもしれない。
これまでのあらすじ。
ハストリニンジャクランの末裔、ハストリ ゴンゾウは先代から託されし秘伝のサイコマキモノを守るべく町を疾走していた。
しかしマキモノを狙うトライシニンジャクランの魔の手は着実に彼をとらえ、命までもを取らんとした……その時! 闇夜を割いて現われたるは我らがファイヴ!
ハストリと手を結びトライシニンジャクランを見事に撃退して見せた。
――「忍者の義は命より重きもの。命を救って貰ったこの恩義、信頼に余りある」
――「我ら『獣の一党』は十二あるマキモノをそれぞれの氏族(クラン)で管理していた。世に出れば人々を恐怖に陥れ、混乱と狂気によって支配してしまう力をもっているマキモノだ。ゆえに世に出さず、永遠に隠し続けることとしていた。しかし一党を仕切っていた父の死後、党首の座を巡る争いが起き、自然とマキモノを最も多く所有したものが党首となるというルールが暗黙のうちにできあがった」
マキモノがひとつところに集まれば強大な力を悪用する者がきっと現われる。
ファイヴはそれぞれの所有者を守ることにした……!
●『水芭忍軍現頭目』ミズバ ハヤテ
終業のチャイムが鳴る。
眠たげにあくびをする者や背伸びをする者。部活に備えて走り出す者。多種多様な者たちの中で、ある青年はじっと窓の外だけを見つめていた。
窓際最後列の彼の席は、自然と人が寄りつかない。
教室に誰も居なくなるまで、彼はじっと何も無い空をにらんでいた。
今日も、それで一日が終わる筈だった。
筈だったのだが。
「まーた窓の外見てる。隣のクラスでも有名だよ、キミ」
ポニーテールの女子生徒が、顔を覗き込むように話しかけてきた。
黙って顔をにらむ青年。
「ミズバ ハヤテ君だよね。あ、なんで知ってるんだって顔。トーゼンでしょ、有名人だもん」
女子生徒の示唆するところは明らかであった。
かつて人々に、そしてこの学園の生徒たちに気づかれることなくニンジャとして活動していたミズバは、かつてある組織と協力関係を結んだことで秘密が知れ渡るとなった。
ヒノマル陸軍。七星剣の一席。そしてファイヴが滅ぼした組織だ。
その戦争の中で、活動拠点である学園ごと制御下におかんとするファイヴの動きにミズバニンジャクランは総力をもって抵抗したがこれに敗北。健全な学生生活を送れるようにと配慮はされたものの、かの七星剣の協力者であるというレッテルは彼らを露骨に迫害させた。
仲間たちは様々な追い出し行為に合い学園を離れ、ニンジャクランからも離脱した。
今やミズバニンジャクランは、青年ただひとりの組織である。
「何の用だ。用が無いなら消えてくれ」
「つめたーい。ワタシ、きみにキョーミあるんだけどな。放課後の教室で二人っきりなんてえっちなシチュエーション、ドキドキしない?」
「…………」
ミズバはため息をつき。
そして。
眼前の机ごと水の刃で女子生徒を真っ二つに切断した。
ばりん、と爆ぜる光。
切り裂かれた机はあれど、女子生徒は跡形も残っていない。
「いけないんだー、か弱い女の子を切りつけるなんて」
女子生徒の声だ。
否。
白い忍者装束に綿のようなメンポを被った、それは紛れもないニンジャである。
「貴様のようなやつは隣のクラスはおろか学園中どこにもいない。俺の記憶力を侮るな――カヒツジ エレコ。コヒツジニンジャクランの頭目が何の用だ」
「侮ってなんてないよー。だからこういうのも用意したんだぁ。用事は……わかるよね?」
女はスイッチのようなものを無数に取り出すと、その一つを押し込んだ。
どん、という激しい音と振動。屋上の貯水タンクが爆発した音だ――と学園中を知り尽くし鋭敏な聴覚をもったミズバは直感した。
「これと同じものが学園内にな、なんと50個! 大サービス! 知ってるよお? ここが大事なんだよね。思い出と青春の場所なんだよね? 思い入れのある生徒も沢山残ってるよねえ? メッチャクチャのグッチャグチャにされたくなかったら……マキモノちょーだい☆」
この情報を夢見、久方 相馬(nCL2000004)から聞かされたファイヴ覚者たちは急ぎ淡路島の学園へと急行した。
目的はふたつ。
マキモノがコヒツジニンジャクランに渡ることを阻止すること!
学園の爆破被害を防ぐこと!

■シナリオ詳細
■成功条件
1.コヒツジ エレコを撃退する
2.学園に仕掛けられた忍者爆弾を20個以上撤去する
3.なし
2.学園に仕掛けられた忍者爆弾を20個以上撤去する
3.なし
横のつながりはあれど直接のつながりはさほどございませんので、新規のお客様。これを機に加わってみようというお客様。大いに大いに大歓迎してございます。
さ、早速今回の解説と参りましょう。
●クエストリスト
・コヒツジ エレコを撃退する
・(オプション)コヒツジ エレコの所有するマキモノを奪う
・(オプション)ミズバ ハヤテの所有するマキモノを奪う
・(オプション)ミズバ ハヤテが戦闘終了までに生存している
・学園に仕掛けられた忍者爆弾を20個以上撤去する
・(オプション)学園に仕掛けられた忍者爆弾を全て撤去する
●状況と構造の説明
淡路島の学園はごく一般的な3階建て1棟構成の高等学校です。
ミズバとコヒツジは3階中央の教室で戦闘中。
普通にスタートした場合、この戦闘が始まる段階で学園に到着しているという状況になります。工夫次第で早くなったり逆に遅くなったりします。(※特別いいアイデアが思い浮かばない場合スルー推奨)
学園には50の特別な爆弾が仕掛けられています。
これはコヒツジがスイッチを押すことで『どこか一つの爆弾がランダムで爆発する』という作りになっています。
爆発範囲は約5メートル。誘爆はしない範囲にしかけられているのでそれだけでも目星はつきやすくなります。(リアルに頭を使う部分です)
爆弾の構造については別の項目を参照してください。
学園は一階が特殊教室や保健室。二階が通常教室と職員室。三階が通常教室と倉庫。学園棟の隣に体育館とプールがあります。
●爆弾の構造
爆弾の設置場所推察することで割り出し、いくつかの技能スキルでブーストするという形になります。
コヒツジの使う忍者爆弾は通常の無線装置と異なり特殊な念でコヒツジと繋がっています。
そのため電子的なジャミングがきかず、直接見つけ出して破壊するしか手はありません。
破壊方法は握って念じることで崩れて消えます。全体攻撃などで破壊しようとすると誘爆するので控えましょう。
尚、コヒツジが爆破ボタンをどういうタイミングでどのくらい押すかについては、彼女の振るまいや現在の状況などから推理してください。
構造としては爪~こぶし大の綿毛のような外見をしています。ただし内部構造や素材などは個体によってバラバラなので結局『どういう所に隠すだろうか』という事前の推察が重要になります。
●コヒツジとミズバ
・コヒツジ エレコ
コヒツジニンジャクランの忍者。
天行暦。素早さを上げた回避型。物理攻撃が得意。
特殊な幻影を被って暫くの間受けるダメージを半減させる未開スキルを持っています(物・特それぞれ一種づつ)。
・ミズバ ハヤテ
ミズバニンジャクラン最後の一人。
水行暦。体術に優れ、格闘技を得意とします。
ちょっと前まで強力な未開スキルを持っていましたが、ファイヴへの敗北と共に封印しました。
過去に何度かファイヴと絡みがあるので一応リプレイリンクを乗せておきますが、別に読まなくても全然大丈夫です。(長いので)
/quest.php?qid=584 ←スレていた頃
/quest.php?qid=922 ←ファイヴに勝つために努力し始めた頃
/quest.php?qid=948 ←学園を守るためにファイヴと戦った頃
/quest.php?qid=985 ←ファイヴと一時的に手を組んだ頃
/quest.php?qid=1049 ←ファイヴとの決着に破れた頃
●プレイング難易度についての補足
・ミズバとコヒツジの戦力差
大体互角ですが、心理的にコヒツジが有利なので放っておくとミズバが負けます。1~2人ほど援軍を送れば暫く対抗できるでしょう。
他の仲間が爆弾を撤去していることを悟られないように、暫く時間を稼いだり苦戦するフリをしていると他の仲間にとって有利に働きます。
・爆弾の回収難易度について
全ての推測が空振りでも、有効な技能スキルをセットして学園中を6人ほどで駆け回れば20~25個は撤去できます。
全て撤去するには深い推察が要求されます。逆に言うと技能スキルのみでフォローできるのは半数までです。
半数撤去しただけでもコヒツジをぐぬぬさせるには充分なので、成功扱いとなります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2017年08月24日
2017年08月24日
■メイン参加者 8人■

●知っているひと、知らないひと、関係のないひと
「ミズバ? コヒツジ? どっちも知らねーやつだな」
『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)はぽりぽりとこめかみをかいたが、その手をすぐにぎゅっと握った。
「けどコヒツジってのがフツーの奴が通ってる学校に爆弾仕掛けて人を脅すなんて卑怯なマネする奴だってことは確かだ。そういう奴は大っ嫌いだ!」
「同感です」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)も同じように拳をぎゅっと握ってみせる。
「ミズバさんとはかつて敵ではありましたけれど、今回に関してはコヒツジさんの撃退に協力したいですね」
「それに……」
『美獣を狩る者』シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)がかつて誰かがやったものをまねるように印を結ぶと、半透明なマキモノが宙に浮かび上がった。
「トライシから奪った『プライドマキモノ』。これを手にしている以上、部外者面はいたしません。極力、世が乱れない思想の方に保持して頂きたいところです」
一方。
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は難しい顔をしてうんうん唸っていた。
この子はまたモノを考えすぎて自滅ループに入りかけてるな、という目で見守る『導きの鳥』麻弓 紡(CL2000623)。
ということで頭をぽんぽんやったげて、首を傾げて緊張をほどいてやった。
すごい余談だけど、このモーションは紡のためにあるようなフシがある。
「皆を守るためにガンバローね」
「あっ、うん! ニンジャの騒動に関係ない人たちが巻き込まれるなんてダメだよね! 頑張るよ!」
よしよしと言って頷く紡。
ところで、とその場で回って見せた。スポーツブランドのジャージに女子高生みたいなスカートをくっつけた、油断した女子高生みたいな格好をしている。
「これでうまくごまかせるかな」
「どうかなあ……」
「そうですわね、少々目立ちすぎるかと……」
口元に手を当てて唸る『優麗なる乙女』西荻 つばめ(CL2001243)。
「紡様はただでさえ麗しい方ですし、ああいった地方の学校は見慣れない方に敏感でしょうから……」
国籍云々を横に置いたとしても、よほど変装が上手でなかれば『この人誰?』となってしまうだろう。なにかしらの技術で警戒を解くというのも手だが。
「ねえ、その学校ってえっちな漫画同好会とかあるかな」
『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が完全に関係の無いことを言い出した。
無言で振り返ることで助けを求めるつばめ。
無言で笑うことで激励する紡。
無言で笑い返すことで努力するつばめ。
「それはそうと、カモ姫が潜入してる頃だよね。どうなってるかな」
件の学校内。職員室。
学校の生徒に変装して侵入していた『ファイブピンク』賀茂 たまき(CL2000994)は、ゴミ箱を抱えていた。
焼却炉に持って行くため――と見せかけて、中を探るためである。
ゴミ箱の底に手を入れて、ピンポン球程度の綿毛を掴み上げた。ぎゅっと握ってみれば、ぱちんと音を立ててはじけて消えた。
と同時に、外からドスンという派手な音が響いてくる。
屋上の給水塔が爆破によって壊れた音だ。職員室の教員や訪れた生徒たちは何が起きたのか分からずぼんやりしている。日本人が見たことも無い拳銃の発砲音で伏せないのと同じように、人生で屋上の給水塔が爆破されたなんて経験がないのでピンと来ないのだろう。
ここでいち早く避難を求めては不自然だ。
なので、ひとつ。
「先生。屋上からじゃありませんか?」
現状を確認させるところから始めなければ。
●コヒツジエレコの爆弾探し
前提をまず語っておかねばならない。
八人の覚者が乗り込んだ学校。そこに仕掛けられた爆弾は50個。
実行犯はコヒツジ エレコ。
目的はミズバ ハヤテからマキモノを奪うための脅し。
八人の覚者が乗り込んだという事実は、今のところ誰も知らない。
現状は、屋上の爆弾が給水塔を壊しただけだ。
「たのむぜ空丸、出番だ!」
「トゥーリもね、一緒にいくよー」
翔と紡は守護使役を顕現させると、学校の脇にあるプールへと直行させた。
飛行する紡の下を走る翔。
「今は放課後だ。プールにも人が居るはず。そのくせ沢山はいない場所だ。仕掛けてる可能性があるぜ!」
「たとえば?」
「更衣室の天井……いや、裏返って屋根の上だ。普通は誰も見ないし、壊れたら落ちてくる!」
「上から見た感じは……ビンゴ!」
上空からこぶし大の綿毛を発見した紡は、すぐさま飛びついて爆弾を解除した。
「あとはプールの中を頼む。俺は更衣室だ!」
翔は更衣室の扉をバッと開いた。
ザッと身をすくめる水泳部の女子たち。
バンッと扉をしめる翔。
「紡ー! チェンジー!」
「セーシュン中の所ごめんね! 王家いるけど遠慮なくチューとかしてね!」
一階家庭科室。なんかイチャイチャしながらクッキー作ってた女子生徒のカップル(?)を見て、プリンスはビッと二本指で敬礼っぽいモーションをした。
この人誰なのっていう視線を軽くスルーしつつ、プリンスは戸棚を開いて鍋類を引っ張り出し、鍋と鍋の間に挟まっていた綿毛爆弾を発見、解除する。
「ごめん、男子用のロッカーってどっち」
あっち、と指さす女子たちに頷いて。逆のほう(つまり女子用)を開くプリンス。フシャーと言いながら掴みかかってくる女子たちをプリンスマイルでかわすと、ラブレターみたいな封筒を開封。中身の小さな綿毛爆弾を解除した。
振り返って透視を発動させてみる。
綿毛の位置をいきなり透かし見ることはできないにしても、人がどれだけいるかは即座に分かるものだ。放課後とはいえそれなりの人数が残っている。部活動が主なところだが、教室でだらだらしている生徒もゼロではない。
「…………」
プリンスは目を細め、何かを考え始めた。
その一方で、つばめは保健室へと訪れていた。
「あら、あなたどなた?」
「お気になさらず。綿を探しておりますの」
初対面ではあるがおっとりと言うつばめに、保健室の担当医は小さく頷いた。
通常の教師と違って全生徒を見ているわけではないし、見覚えの無い生徒がいることもあろうという考え方をしてくれたようだ。
言われたとおりに消毒用の綿を出してくる。
「あら? こんなの買っていたかしら」
つまみ上げたのは耳かきの反対側についているような綿毛である。それをサッと握って、開く。跡形も無く消えたのを見て、保健室担当医は首を傾げた。
「先生。その綿ではございませんの。なんといいましたでしょうか、その……」
わざとまごつくふりをして別の場所を探させる。その間、つばめは上で戦い始めたであろう仲間のことを想った。
ミズバに加勢する形で二人が戦闘に加わろうとしている。
一方でミズバはこの騒動をきっかけに学園に居場所を見つけるかもしれない。
「雨降って地固まる、となればよいのですが」
途端、つばめの危機感が何かを察知した。
咄嗟に保険教諭を突き飛ばす。
彼女が取り出そうとしていたガーゼが宙に飛び、爆発を起こした。
爆発音を聞きつけ、紡はハッと顔を上げた。
所は変わって体育館。彼女の推理通りに体育倉庫の跳び箱内や、舞台下スペースから爆弾を見つけて解除していた最中である。構わず部活動を続けていた生徒たちが物珍しそうに見ていたが、そんな彼らのはるか頭上。大きなライトが固定されている天井が爆発した。
やばいと感じて走り出す翔。同じく紡。
紡は飛行によって落下してくるライトにちょくせつ体当たりをしかけ、激しい痛みを負ったもののなんとか生徒を保護することに成功した。そして……。
「他のライトも落ちてくるよ、逃げて!」
事態が『屋上の給水塔が壊れただけ』ではないと察した生徒たちは、体育館から外へと逃げ出し始めた。
学校のあちこちで爆発が起こる。
それはコヒツジ エレコが爆弾のランダムスイッチを連打したことを意味していた。
それを最もつよく認識したのは、二階の通常教室を調べていた奏空だった。
「あのさ、見かけない生徒とかいなかった?」
「えー? いたかな」
「いたかも」
「どこ? どこで見たか教えて!?」
「トイレで見たよ。別の学年の人かなって思ったけど」
「ありがとう!」
よしきたとばかりにトイレへ直行する奏空。
が、女子が見たと言うことは女子トイレだ。入るべきかはいらざるべきか。とか言ってる場合ではない。(こんなんで時間をロスするのはあんまりなので)ノータイムでトイレ内へ飛び込んだ。
悲鳴をあげる女子生徒。手を合わせて謝りながら個室へ飛び込む奏空。
でもって、見たことの無い謎のゴミ箱? みたいな? やつ? を掴み上げて――。
二度の爆発がおきた。
たまきがかけつけると、やけどをおった女子生徒がトイレから飛び出してくるところだった。
「何があったんですか!」
「知らない男子が入ってきて、トイレで爆発した!」
「……」
爆発したのはその男子さんじゃないですよと言おうと思ったが、そういう場合でもない。
トイレに駆け込むと、奏空が自力でダメージを回復しながら出てくる所だった。
「ごめんたまきちゃん。怪しいものは全部握ってみたんだけど、それで時間をロスしちゃって……」
「いいんです。他にお怪我は?」
「大丈夫。それより女子を治療してあげて、俺は大丈夫だから」
たまきは強く頷き、そしてここからの作戦を大幅に変更することを、奏空と共に決めた。
送受心・改でもって仲間全員に通達する。
爆弾解除作戦を改め、生徒保護作戦を始める、という旨をだ。
「あー! もー! なに? これ!? ゼンゼン反応しないじゃーん!」
爆破スイッチを連打して、コヒツジ エレコは露骨に顔をしかめていた。
その間そこかしこの爆弾が爆発していたが、三割くらいはスイッチに反応しなかったのだ。校内全ての爆弾の爆発音を感知できるというわけでもないようで、爆発したのに気づいていないケースも混ざってはいるのだが……。
この時点での撤去率は大体10~20。コヒツジが撤去活動に気づかず順調に時間いっぱいまで探索できていたなら大体30~40。運が良ければ50個全て発見できていた所なのだが……。
「スイッチを押すのをやめなさい!」
ラーラが魔方陣を展開。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を。イオ・ブルチャーレ!」
激しい炎を乱射する。直撃をうけたコヒツジがたちまち火だるまになる……とみせかけて、焼けたのは大きなフェルト細工だった。ラーラの背後に現われ、電撃を浴びせてくるコヒツジ。
「くっ、複数で攻撃しているというのに、全然有利になっている気がしません」
と言いながら、ラーラは魔方陣をいつもより強烈な光をもって展開。すこしだけ時間をかけて組まれた魔方陣は強烈な炎を打ち出し、コヒツジの周囲に纏わせていた電磁波のようなものを消し去った。
「うっざあ! 口では苦戦してるっぽいくせに、全然じゃーん! か弱い女の子を囲んで殴るとかヒキョーじゃーん?」
間延びした口調だが、コヒツジからは緊迫した空気が伝わってくる。
そんな彼女に、鋭く切り込むシャーロット。
常人であれば幾度も斬り殺しているような動きで、コヒツジとその周囲にある椅子や机をすぱすぱと切り裂いていく。
「いったぁーい……」
コヒツジ自身、ふわふわした口調で話す余裕が無くなってきたようだ。
シャーロットは剣を突きつけ、教室の戸口を塞ぐように立つ。
「もう一度言います。ワタシたちはファイヴ。爆弾テロ行為の、即時停止を要求します」
「イ、ヤ!」
爆破ボタンを連打するコヒツジ。
それをやめさせようと水手裏剣を放つミズバ。
対してコヒツジは綿毛を無数に飛ばして手裏剣を相殺させた。
ぱちぱちとはじけて霧のように広がる綿毛。
「ファイヴがまた『おせっかい』を焼きに来たか」
「オイエソウドウが内々で収まらない以上、ファイヴも干渉已む無しなのです」
シャーロットの言い方に、ミズバはおおむねのところを察したようだ。
「お前たちがそういう連中だということは知っている。今は利用させて貰うぞ」
ミズバは霧をすりぬけてコヒツジの眼前へ急接近。掌底を繰り出して突き飛ばす。
それに続けて、跳躍反転して天井に両足をつけていたシャーロットが縦回転と共にコヒツジに斬撃を加えた。
切り裂かれ、吹き飛ばされ、教室を転がるコヒツジ。
「もぉー、みんなジャマすぎ。エレコ、帰っちゃうからね」
「これを見ずにですか?」
印を結んでマキモノを浮かび上がらせるシャーロット。
一瞬だけ動きを止めるコヒツジ。
その隙に、シャーロットは二度目の斬撃を叩き込んだ。
「ギャッ――ああ、もう! 油断した!」
地面を殴りつけ、コヒツジはわめいた。
「でもエレコちゃんは反省出来る子。もう二度と不意打ちはうけないんだからね。教室からも逃げちゃうんだから」
「そういうわけにはいかな――」
扉の前に立ち塞がるラーラ。
爆破スイッチを連打するコヒツジ。
そして、扉のそばに付着していた綿毛爆弾が爆発した。
爆発に巻き込まれて転倒するラーラ。その一方でコヒツジは窓を開き、野外へとダイブした。
建物の三階。常人なら死ぬ落下距離だが、コヒツジは死ぬほどの痛みだけで乗り切った。
「あそこにコヒツジがいる! 誰か!」
念話と一緒に叫びながら、二階の窓から身を乗り出した奏空が指をさす。
たまきが窓から身を乗り出そうとして、奏空にがしりと引き留められている。
その一方で、体育館から飛行状態で突っ込んできた紡が抱えていた翔を放出した。
「やっちゃえあいぼう!」
「よしきた!」
雷獣を放つ翔。
それを回避――せずに、ダメージ覚悟で突っ切っていくコヒツジ。
「おまえら全員、顔覚えたんだからね! 今度会うときは、ブッ割いてやるんだからね! アウトラバイオレンスなんだからね!」
中指を立ててそうわめくと、コヒツジは全力で逃走していった。
●そしてそのあと
「……あのコヒツジの民、余たちの顔見て無くない?」
「乗り遅れて良かったと言うべきか、そうでないのか……判断しかねますわね」
学校から離れた場所で、プリンスやつばめと合流した覚者たち。
その場にはミズバも一緒にいた。
「先に聞いておくぞ。これはお前たちのイザコザか?」
「いや、どっちかっていうと『そっちの』じゃないかな」
奏空や翔が、『獣の一党』と『十二のマキモノ』に関する一連の騒動を話した。ハストリから聞いた話そのままで。
「フン、マキモノを多く獲得した奴が党首、か……」
腕組みをするミズバ。
一方でシャーロットは、その話に加わること無く今回の戦績をまとめていた。
「コヒツジ エレコは大ダメージを与えて撃退。爆弾は……どうなりました?」
「数え、25個は解除できたようです」
たまきが動物さん手帳を開いて言った。ふむふむと頷く紡。
紡はミズバには友好的に接していたようだが、別に話に加わることもないかなーという達観した位置にいた。
積極的に関わろうとしたのはむしろプリンスやラーラたちである。
「ねえハヤテの民ー、そのマキモノ、余たちに譲らない?」
「下手な冗談だ」
「いいえ、冗談ではありません」
ラーラがフォローするようにまくし立てた。
「以前出会った時は敵同士でしたね。敵味方になって戦争もしました。今私達がこうしてここにいるのも複雑に感じるかもしれません。ただ、今は緊急事態。共闘はできませんか? 私達はマキモノが1つところに集まるのを防ぎたい、あなたはクランのマキモノを守りたい……何より、私は沖縄での決戦に駆けつけていただいたお礼がしたいんです」
「フン……」
ミズバは顔を背けた。
「共闘に関しては認めてやってもいい。今日は利害が一致したからな。だがファイヴ、お前たちは必ず俺が倒す。マキモノも奥義も使わず、俺自身の力でな」
「だったら……」
手を出すプリンスに、ミズバは応えなかった。
「だがマキモノを渡すことには反対だ。一つ所に集めたくないという考えに矛盾するからな」
ミズバはシャーロットを見て言った。
ファイヴにマキモノを集めるということは、ファイヴに強い力を持たせるということだ。
「お前たちがどういう連中かは知っている。善良で常識的なようだが、その反面で力は素直に吸収する。そして時として、乱暴に扱う奴も混ざっているということもな」
プリンスは賢者の顔で虚空を見上げた。乱暴に扱う民に心当たりが沢山あるのと、彼らと自分たちが同等の存在であるがゆえに止めるすべをもたないがゆえだ。
「お前たちが強くなることは構わん。俺がそれより強くなればいいだけのことだからな。だが、矛盾と不義理は許さない。お前たちが『戦うに値しないクズ』になることだけは、俺は絶対に認められない。話はこれで終わりだ」
背を向け、学校へと戻っていくミズバ。
連続爆破事件があった学校で今後ミズバがどのように受け止められるのか、過ごしていくのか、そればかりは誰も分からぬことだった。
だが少なくともマキモノのひとつが今日守られ、学校で酷い怪我をおった一般人が出なかったことだけは確かだった。
もしかしたらそれが、一番大事なことなのかもしれない。
「ミズバ? コヒツジ? どっちも知らねーやつだな」
『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)はぽりぽりとこめかみをかいたが、その手をすぐにぎゅっと握った。
「けどコヒツジってのがフツーの奴が通ってる学校に爆弾仕掛けて人を脅すなんて卑怯なマネする奴だってことは確かだ。そういう奴は大っ嫌いだ!」
「同感です」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)も同じように拳をぎゅっと握ってみせる。
「ミズバさんとはかつて敵ではありましたけれど、今回に関してはコヒツジさんの撃退に協力したいですね」
「それに……」
『美獣を狩る者』シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)がかつて誰かがやったものをまねるように印を結ぶと、半透明なマキモノが宙に浮かび上がった。
「トライシから奪った『プライドマキモノ』。これを手にしている以上、部外者面はいたしません。極力、世が乱れない思想の方に保持して頂きたいところです」
一方。
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は難しい顔をしてうんうん唸っていた。
この子はまたモノを考えすぎて自滅ループに入りかけてるな、という目で見守る『導きの鳥』麻弓 紡(CL2000623)。
ということで頭をぽんぽんやったげて、首を傾げて緊張をほどいてやった。
すごい余談だけど、このモーションは紡のためにあるようなフシがある。
「皆を守るためにガンバローね」
「あっ、うん! ニンジャの騒動に関係ない人たちが巻き込まれるなんてダメだよね! 頑張るよ!」
よしよしと言って頷く紡。
ところで、とその場で回って見せた。スポーツブランドのジャージに女子高生みたいなスカートをくっつけた、油断した女子高生みたいな格好をしている。
「これでうまくごまかせるかな」
「どうかなあ……」
「そうですわね、少々目立ちすぎるかと……」
口元に手を当てて唸る『優麗なる乙女』西荻 つばめ(CL2001243)。
「紡様はただでさえ麗しい方ですし、ああいった地方の学校は見慣れない方に敏感でしょうから……」
国籍云々を横に置いたとしても、よほど変装が上手でなかれば『この人誰?』となってしまうだろう。なにかしらの技術で警戒を解くというのも手だが。
「ねえ、その学校ってえっちな漫画同好会とかあるかな」
『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が完全に関係の無いことを言い出した。
無言で振り返ることで助けを求めるつばめ。
無言で笑うことで激励する紡。
無言で笑い返すことで努力するつばめ。
「それはそうと、カモ姫が潜入してる頃だよね。どうなってるかな」
件の学校内。職員室。
学校の生徒に変装して侵入していた『ファイブピンク』賀茂 たまき(CL2000994)は、ゴミ箱を抱えていた。
焼却炉に持って行くため――と見せかけて、中を探るためである。
ゴミ箱の底に手を入れて、ピンポン球程度の綿毛を掴み上げた。ぎゅっと握ってみれば、ぱちんと音を立ててはじけて消えた。
と同時に、外からドスンという派手な音が響いてくる。
屋上の給水塔が爆破によって壊れた音だ。職員室の教員や訪れた生徒たちは何が起きたのか分からずぼんやりしている。日本人が見たことも無い拳銃の発砲音で伏せないのと同じように、人生で屋上の給水塔が爆破されたなんて経験がないのでピンと来ないのだろう。
ここでいち早く避難を求めては不自然だ。
なので、ひとつ。
「先生。屋上からじゃありませんか?」
現状を確認させるところから始めなければ。
●コヒツジエレコの爆弾探し
前提をまず語っておかねばならない。
八人の覚者が乗り込んだ学校。そこに仕掛けられた爆弾は50個。
実行犯はコヒツジ エレコ。
目的はミズバ ハヤテからマキモノを奪うための脅し。
八人の覚者が乗り込んだという事実は、今のところ誰も知らない。
現状は、屋上の爆弾が給水塔を壊しただけだ。
「たのむぜ空丸、出番だ!」
「トゥーリもね、一緒にいくよー」
翔と紡は守護使役を顕現させると、学校の脇にあるプールへと直行させた。
飛行する紡の下を走る翔。
「今は放課後だ。プールにも人が居るはず。そのくせ沢山はいない場所だ。仕掛けてる可能性があるぜ!」
「たとえば?」
「更衣室の天井……いや、裏返って屋根の上だ。普通は誰も見ないし、壊れたら落ちてくる!」
「上から見た感じは……ビンゴ!」
上空からこぶし大の綿毛を発見した紡は、すぐさま飛びついて爆弾を解除した。
「あとはプールの中を頼む。俺は更衣室だ!」
翔は更衣室の扉をバッと開いた。
ザッと身をすくめる水泳部の女子たち。
バンッと扉をしめる翔。
「紡ー! チェンジー!」
「セーシュン中の所ごめんね! 王家いるけど遠慮なくチューとかしてね!」
一階家庭科室。なんかイチャイチャしながらクッキー作ってた女子生徒のカップル(?)を見て、プリンスはビッと二本指で敬礼っぽいモーションをした。
この人誰なのっていう視線を軽くスルーしつつ、プリンスは戸棚を開いて鍋類を引っ張り出し、鍋と鍋の間に挟まっていた綿毛爆弾を発見、解除する。
「ごめん、男子用のロッカーってどっち」
あっち、と指さす女子たちに頷いて。逆のほう(つまり女子用)を開くプリンス。フシャーと言いながら掴みかかってくる女子たちをプリンスマイルでかわすと、ラブレターみたいな封筒を開封。中身の小さな綿毛爆弾を解除した。
振り返って透視を発動させてみる。
綿毛の位置をいきなり透かし見ることはできないにしても、人がどれだけいるかは即座に分かるものだ。放課後とはいえそれなりの人数が残っている。部活動が主なところだが、教室でだらだらしている生徒もゼロではない。
「…………」
プリンスは目を細め、何かを考え始めた。
その一方で、つばめは保健室へと訪れていた。
「あら、あなたどなた?」
「お気になさらず。綿を探しておりますの」
初対面ではあるがおっとりと言うつばめに、保健室の担当医は小さく頷いた。
通常の教師と違って全生徒を見ているわけではないし、見覚えの無い生徒がいることもあろうという考え方をしてくれたようだ。
言われたとおりに消毒用の綿を出してくる。
「あら? こんなの買っていたかしら」
つまみ上げたのは耳かきの反対側についているような綿毛である。それをサッと握って、開く。跡形も無く消えたのを見て、保健室担当医は首を傾げた。
「先生。その綿ではございませんの。なんといいましたでしょうか、その……」
わざとまごつくふりをして別の場所を探させる。その間、つばめは上で戦い始めたであろう仲間のことを想った。
ミズバに加勢する形で二人が戦闘に加わろうとしている。
一方でミズバはこの騒動をきっかけに学園に居場所を見つけるかもしれない。
「雨降って地固まる、となればよいのですが」
途端、つばめの危機感が何かを察知した。
咄嗟に保険教諭を突き飛ばす。
彼女が取り出そうとしていたガーゼが宙に飛び、爆発を起こした。
爆発音を聞きつけ、紡はハッと顔を上げた。
所は変わって体育館。彼女の推理通りに体育倉庫の跳び箱内や、舞台下スペースから爆弾を見つけて解除していた最中である。構わず部活動を続けていた生徒たちが物珍しそうに見ていたが、そんな彼らのはるか頭上。大きなライトが固定されている天井が爆発した。
やばいと感じて走り出す翔。同じく紡。
紡は飛行によって落下してくるライトにちょくせつ体当たりをしかけ、激しい痛みを負ったもののなんとか生徒を保護することに成功した。そして……。
「他のライトも落ちてくるよ、逃げて!」
事態が『屋上の給水塔が壊れただけ』ではないと察した生徒たちは、体育館から外へと逃げ出し始めた。
学校のあちこちで爆発が起こる。
それはコヒツジ エレコが爆弾のランダムスイッチを連打したことを意味していた。
それを最もつよく認識したのは、二階の通常教室を調べていた奏空だった。
「あのさ、見かけない生徒とかいなかった?」
「えー? いたかな」
「いたかも」
「どこ? どこで見たか教えて!?」
「トイレで見たよ。別の学年の人かなって思ったけど」
「ありがとう!」
よしきたとばかりにトイレへ直行する奏空。
が、女子が見たと言うことは女子トイレだ。入るべきかはいらざるべきか。とか言ってる場合ではない。(こんなんで時間をロスするのはあんまりなので)ノータイムでトイレ内へ飛び込んだ。
悲鳴をあげる女子生徒。手を合わせて謝りながら個室へ飛び込む奏空。
でもって、見たことの無い謎のゴミ箱? みたいな? やつ? を掴み上げて――。
二度の爆発がおきた。
たまきがかけつけると、やけどをおった女子生徒がトイレから飛び出してくるところだった。
「何があったんですか!」
「知らない男子が入ってきて、トイレで爆発した!」
「……」
爆発したのはその男子さんじゃないですよと言おうと思ったが、そういう場合でもない。
トイレに駆け込むと、奏空が自力でダメージを回復しながら出てくる所だった。
「ごめんたまきちゃん。怪しいものは全部握ってみたんだけど、それで時間をロスしちゃって……」
「いいんです。他にお怪我は?」
「大丈夫。それより女子を治療してあげて、俺は大丈夫だから」
たまきは強く頷き、そしてここからの作戦を大幅に変更することを、奏空と共に決めた。
送受心・改でもって仲間全員に通達する。
爆弾解除作戦を改め、生徒保護作戦を始める、という旨をだ。
「あー! もー! なに? これ!? ゼンゼン反応しないじゃーん!」
爆破スイッチを連打して、コヒツジ エレコは露骨に顔をしかめていた。
その間そこかしこの爆弾が爆発していたが、三割くらいはスイッチに反応しなかったのだ。校内全ての爆弾の爆発音を感知できるというわけでもないようで、爆発したのに気づいていないケースも混ざってはいるのだが……。
この時点での撤去率は大体10~20。コヒツジが撤去活動に気づかず順調に時間いっぱいまで探索できていたなら大体30~40。運が良ければ50個全て発見できていた所なのだが……。
「スイッチを押すのをやめなさい!」
ラーラが魔方陣を展開。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を。イオ・ブルチャーレ!」
激しい炎を乱射する。直撃をうけたコヒツジがたちまち火だるまになる……とみせかけて、焼けたのは大きなフェルト細工だった。ラーラの背後に現われ、電撃を浴びせてくるコヒツジ。
「くっ、複数で攻撃しているというのに、全然有利になっている気がしません」
と言いながら、ラーラは魔方陣をいつもより強烈な光をもって展開。すこしだけ時間をかけて組まれた魔方陣は強烈な炎を打ち出し、コヒツジの周囲に纏わせていた電磁波のようなものを消し去った。
「うっざあ! 口では苦戦してるっぽいくせに、全然じゃーん! か弱い女の子を囲んで殴るとかヒキョーじゃーん?」
間延びした口調だが、コヒツジからは緊迫した空気が伝わってくる。
そんな彼女に、鋭く切り込むシャーロット。
常人であれば幾度も斬り殺しているような動きで、コヒツジとその周囲にある椅子や机をすぱすぱと切り裂いていく。
「いったぁーい……」
コヒツジ自身、ふわふわした口調で話す余裕が無くなってきたようだ。
シャーロットは剣を突きつけ、教室の戸口を塞ぐように立つ。
「もう一度言います。ワタシたちはファイヴ。爆弾テロ行為の、即時停止を要求します」
「イ、ヤ!」
爆破ボタンを連打するコヒツジ。
それをやめさせようと水手裏剣を放つミズバ。
対してコヒツジは綿毛を無数に飛ばして手裏剣を相殺させた。
ぱちぱちとはじけて霧のように広がる綿毛。
「ファイヴがまた『おせっかい』を焼きに来たか」
「オイエソウドウが内々で収まらない以上、ファイヴも干渉已む無しなのです」
シャーロットの言い方に、ミズバはおおむねのところを察したようだ。
「お前たちがそういう連中だということは知っている。今は利用させて貰うぞ」
ミズバは霧をすりぬけてコヒツジの眼前へ急接近。掌底を繰り出して突き飛ばす。
それに続けて、跳躍反転して天井に両足をつけていたシャーロットが縦回転と共にコヒツジに斬撃を加えた。
切り裂かれ、吹き飛ばされ、教室を転がるコヒツジ。
「もぉー、みんなジャマすぎ。エレコ、帰っちゃうからね」
「これを見ずにですか?」
印を結んでマキモノを浮かび上がらせるシャーロット。
一瞬だけ動きを止めるコヒツジ。
その隙に、シャーロットは二度目の斬撃を叩き込んだ。
「ギャッ――ああ、もう! 油断した!」
地面を殴りつけ、コヒツジはわめいた。
「でもエレコちゃんは反省出来る子。もう二度と不意打ちはうけないんだからね。教室からも逃げちゃうんだから」
「そういうわけにはいかな――」
扉の前に立ち塞がるラーラ。
爆破スイッチを連打するコヒツジ。
そして、扉のそばに付着していた綿毛爆弾が爆発した。
爆発に巻き込まれて転倒するラーラ。その一方でコヒツジは窓を開き、野外へとダイブした。
建物の三階。常人なら死ぬ落下距離だが、コヒツジは死ぬほどの痛みだけで乗り切った。
「あそこにコヒツジがいる! 誰か!」
念話と一緒に叫びながら、二階の窓から身を乗り出した奏空が指をさす。
たまきが窓から身を乗り出そうとして、奏空にがしりと引き留められている。
その一方で、体育館から飛行状態で突っ込んできた紡が抱えていた翔を放出した。
「やっちゃえあいぼう!」
「よしきた!」
雷獣を放つ翔。
それを回避――せずに、ダメージ覚悟で突っ切っていくコヒツジ。
「おまえら全員、顔覚えたんだからね! 今度会うときは、ブッ割いてやるんだからね! アウトラバイオレンスなんだからね!」
中指を立ててそうわめくと、コヒツジは全力で逃走していった。
●そしてそのあと
「……あのコヒツジの民、余たちの顔見て無くない?」
「乗り遅れて良かったと言うべきか、そうでないのか……判断しかねますわね」
学校から離れた場所で、プリンスやつばめと合流した覚者たち。
その場にはミズバも一緒にいた。
「先に聞いておくぞ。これはお前たちのイザコザか?」
「いや、どっちかっていうと『そっちの』じゃないかな」
奏空や翔が、『獣の一党』と『十二のマキモノ』に関する一連の騒動を話した。ハストリから聞いた話そのままで。
「フン、マキモノを多く獲得した奴が党首、か……」
腕組みをするミズバ。
一方でシャーロットは、その話に加わること無く今回の戦績をまとめていた。
「コヒツジ エレコは大ダメージを与えて撃退。爆弾は……どうなりました?」
「数え、25個は解除できたようです」
たまきが動物さん手帳を開いて言った。ふむふむと頷く紡。
紡はミズバには友好的に接していたようだが、別に話に加わることもないかなーという達観した位置にいた。
積極的に関わろうとしたのはむしろプリンスやラーラたちである。
「ねえハヤテの民ー、そのマキモノ、余たちに譲らない?」
「下手な冗談だ」
「いいえ、冗談ではありません」
ラーラがフォローするようにまくし立てた。
「以前出会った時は敵同士でしたね。敵味方になって戦争もしました。今私達がこうしてここにいるのも複雑に感じるかもしれません。ただ、今は緊急事態。共闘はできませんか? 私達はマキモノが1つところに集まるのを防ぎたい、あなたはクランのマキモノを守りたい……何より、私は沖縄での決戦に駆けつけていただいたお礼がしたいんです」
「フン……」
ミズバは顔を背けた。
「共闘に関しては認めてやってもいい。今日は利害が一致したからな。だがファイヴ、お前たちは必ず俺が倒す。マキモノも奥義も使わず、俺自身の力でな」
「だったら……」
手を出すプリンスに、ミズバは応えなかった。
「だがマキモノを渡すことには反対だ。一つ所に集めたくないという考えに矛盾するからな」
ミズバはシャーロットを見て言った。
ファイヴにマキモノを集めるということは、ファイヴに強い力を持たせるということだ。
「お前たちがどういう連中かは知っている。善良で常識的なようだが、その反面で力は素直に吸収する。そして時として、乱暴に扱う奴も混ざっているということもな」
プリンスは賢者の顔で虚空を見上げた。乱暴に扱う民に心当たりが沢山あるのと、彼らと自分たちが同等の存在であるがゆえに止めるすべをもたないがゆえだ。
「お前たちが強くなることは構わん。俺がそれより強くなればいいだけのことだからな。だが、矛盾と不義理は許さない。お前たちが『戦うに値しないクズ』になることだけは、俺は絶対に認められない。話はこれで終わりだ」
背を向け、学校へと戻っていくミズバ。
連続爆破事件があった学校で今後ミズバがどのように受け止められるのか、過ごしていくのか、そればかりは誰も分からぬことだった。
だが少なくともマキモノのひとつが今日守られ、学校で酷い怪我をおった一般人が出なかったことだけは確かだった。
もしかしたらそれが、一番大事なことなのかもしれない。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
