雨上がりの月夜。或いは、火炎に焼かれる女性の妖。
雨上がりの月夜。或いは、火炎に焼かれる女性の妖。


●雨上がりの夜は
 夏の終わり。雨上がりの夜。雲の隙間に、月明り。
 立ち昇る紫煙は、空へ空へ……。薄く細く、消えていく。
 咥え煙草に、虚ろな目。半透明の女性が、黒焦げた家屋の残骸の中、立っている。
 虚ろな目から、涙を流して彼女はぼんやりと、月を見上げ続けていた。
 それから、彼女は声にならない声で、月に向かって吠えた。
 滂沱と涙を流し、喉が張り裂けそうなほどの大声で叫び続けた。
 次の瞬間、彼女の身体を炎が包む。じりじりと、美しい肌が焼け爛れ、肉が崩れ落ち、頬の骨が剥き出しになった。咥えていた煙草も、すっかり燃え尽き、それでもなお彼女の唇の隙間からは煙が立ち昇る。
 虚ろな瞳も、燃え尽きて。
 空っぽになった眼孔で、月を睨み続けていた。
 月を見上げ、祈りを捧げるのが彼女の日課だったのだろう。
 彼女は妖だ。(心霊系)に分類される怨念や思念が半実体化した存在。
 やがて、彼女の身を包んでいた炎が消えた。
 その姿は、焼け爛れる前のものに戻っている。いつの間にか、叫び声を止み、彼女は再び煙草をふかしながら月を見上げ始める。
 彼女は待っているのだ。
 彼女の前に、生きた人間が現れるその瞬間を。

●月を見上げて
「はいはーい! 万里ちゃんだよっ! 作戦会議をはじめるよっ!」
 作戦会議室へと駆け込んできた久方 万里(nCL2000005)が、集まった仲間達の手元に資料を配る。
 資料に記載された情報によると、現場は数日前に火事が起きたとある田舎の一軒家跡地であるようだ。
「今回のターゲットは心霊系の妖だよっ! 名前は仮称だけど(ジェーン・ドゥ)っていうみたい。どういう意味の名前だろうね?」
 首を傾げつつも、万里は資料に記載されたジェーン・ドゥの情報を読みあげていく。
「ランクは2だね。どういうわけか、現場からあまり離れようとしないみたい。でも、人に対しての悪意はあるらしいね。人が来たら、焼いてやろうと思ってるね」
 心霊系の妖である以上、ジェーン・ドゥは何かしらの思念や怨念が元になっている。その能力は、火炎を操ること。物理系の攻撃はダメージが少ないが、移動速度は遅いらしい。
「炎を使った遠距離列攻撃と、近距離単体攻撃には(火傷)(怒り)(不運)の状態異常付き。好戦的な性格で、特に炎に焼かれながら叫んでいる間はその威力がアップするみたい」
 危ないよねー、と気楽な調子で万里は言った。
 このまま、彼女を放置しておくわけにはいかない。彼女の悪意は、人間であれば老若男女無差別に刺し向けられるからだ。
「F.i.V.E.がばれないようにしてね。それと、人が来ないように注意することも必要だと思うなっ? 犠牲者は出しちゃ駄目だよ」
 戦闘が長引けば、騒ぎを聞きつけた野次馬が集まってくることもある。
 また、彼女の能力で周囲の建物に炎が燃え移ることも考えられる。田舎であるため、隣の民家まではある程度距離があるし、彼女もさほど行動的ではないようだが、戦闘中に移動してしまうことは十分に在り得るだろう。
「それじゃあ、妖の消火活動頑張って!」
 仲間達を送り出し、万里は1人で首を傾げる。
「ところで彼女は、どんな想いが妖化したものなんだろうね?」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:病み月
■成功条件
1.ターゲットの撃破
2.一般人の犠牲者を出さないこと
3.なし
こんにちは。或いは、こんばんは。病み月です。
今回のターゲットは、煙草を咥えた心霊系の妖です。
戦いの中で、ターゲットの元になった想いを知ることもあるかもしれません。
それでは、以下詳細。

●場所
田舎街の、民家跡。
隣の民家まで、50メートルほど距離がある。民家は焼けていて、残骸が散らばっているせいで足場は悪い。時間は夜。雨上がりの為、周囲は雨に濡れているため戦闘開始から数分は近くの木や残骸などに炎が燃え移ることはないだろう。
現場前の道幅は広く、また民家跡地もそれなりの敷地面積はあるためターゲットと距離をとって戦うことも十分に可能だが、遮蔽物はない。

●ターゲット
妖:心霊系(ジェーン・ドゥ)
ランク2
背の高い女性の姿をしている。
煙草を咥えていて、基本的には月を見上げて泣いているが、人が近くを通りかかると攻撃を仕掛けるようだ。火炎を操る能力を持つ。
時折、泣き叫びながら炎に包まれることがあり、その状態では攻撃の威力がアップする。

【身を包む業火】→特遠列[火傷][怒り]
柱のような火炎を放つ攻撃。
【骨を焼く灼熱】→特近単[火傷][怒り][不運]
 対象の身体を掴み、自身もろとも火炎に包む攻撃。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/8
公開日
2015年10月07日

■メイン参加者 6人■

『黒い靄を一部解析せし者』
梶浦 恵(CL2000944)
『ハルモニアの幻想旗衛』
守衛野 鈴鳴(CL2000222)
『相棒捜索中』
瑛月・秋葉(CL2000181)

●夜の闇。彼女は燃えて。
 獣の咆哮じみた叫び声。喉が破れそうな大音声。夜空に向かって、涙を流して叫んでいるのは、炎に包まれた女性であった。彼女の周囲では、地面も焦げて黒い煙が立ち昇っている。
 焼け跡だ。かつては家が建っていたのだろう。
 一軒分の家の焼け跡。その真ん中に、彼女は居た。
 夜空に響く、彼女の泣き声を聞きながら梶浦 恵(CL2000944)がぽつりと呟く。
「ジェーン・ドゥー……。身元不明の女性の遺体ですか……。仮に、アニーと呼ぶのはどうでしょう?」
「炎の妖が出たから民家跡から速やかに離れるように説得するのが優先だろう。お? 早速誰か、近づいてきたみたいだな」
 熱感知のスキルで一般人の接近を察知した寺田 護(CL2001171)は『立ち入り禁止』の看板設置を中断し、接近中の一般人の元へと向かう。
 ジェーン・ドゥが現場から移動した場合のことを考え、他のメンバーは既にジェーンの元へと移動していた。
 どうやら、ジェーンの泣き声は結構な広範囲に聞こえているようだ。その声に気付き、現場へと向かってくる者も多いようである。一応の対策としてククル ミラノ(CL2001142)が結界を展開しているが、意思を持って現場へと近づく者に対しては効果が薄い。
 恵と護が仲間の元へと駆け付けるには、周囲の人払いを済ませてしまう必要があるだろう。

●ジェーン・ドゥの遺恨。
「おばんですジェーンちゃん。おにーさん達に少し付き合ってくれへん?」
飄々とした態度で、『相棒捜索中』瑛月・秋葉(CL2000181)が泣き叫ぶジェーンに声をかけた。ジェーンは、泣き叫びながらも視線だけを秋葉へと向ける。
 秋葉が言葉を続けようとしたが、それよりも早く秋葉の足元から火炎の柱が吹きあがる。
「あっつ!?」
 慌てて秋葉が後退するが、避けきれずに腕と右足が炎に焼かれた。数本の火炎の柱が、ジェーンと一行の間に壁を作る。
 炎の壁を突き破ったのはククルである。衣服を焦がし、火炎の残滓を引きづりながら、焼け焦げた地面を蹴って、一直線にジェーンの元へ。
「おしごと2かいめっ! れっつあんどごー!!」
 メイスとステッキを大上段に振りかぶり、ククルは身体ごとジェーンへとぶつかっていった。ククルの接近に気付いたジェーンは、ククルに向かって腕を伸ばす。
 ククルのメイスが、ジェーンの肩に叩きつけられた。
 それと同時、ジェーンの手がククルの首を掴み、瞬時に2人は大火炎に包まれる。
「敵はその娘だけじゃない。お前の炎と俺の炎の殴り合いだ!!」
 炎の柱を突破したのはククルだけではなかった。『アグニフィスト』陽渡・守夜(CL2000528)が片手に持った盾を、ジェーンの顔目がけて叩きつける。
 ジェーンが怯んだ、その隙に、火炎に包まれたククルの襟首を掴んで、後方へと放り投げた。
 ジェーンの泣き声が更に大きくなる。それに伴い、火炎の勢いも増していく。接近した守夜の腕を炎が焼いた。守夜の皮膚が焼け焦げるが、それにも構わず彼はジェーンの胸部へと拳を打ち付ける。
 更に、秋葉が戦線へと加わった。剣を振り抜き、ジェーンの狙いが守夜へと集中しないよう、その注意を引き付ける。
 火炎に包まれ、地面を転がるククルの元へ『Little Flag』守衛野 鈴鳴(CL2000222)が駆け寄り、戦旗を振り回す。
 鈴鳴が旗を一振りする度、キラキラと淡い燐光を放つ滴がククルの身体に降り注ぎ、炎を消すと同時にその身に負った火傷を癒していく。
「今、傷を治しますっ。がんばって下さい!」
 真剣な表情で、鈴鳴は戦旗を振り回す。バサリバサリと、旗が空気を叩く音。
 雨上がりの濡れた地面を、ジェーンの火炎が焼き焦がす。濃い霧が辺りを包み込んでいた。

 一般人の避難を終えた恵と護がジェーンと仲間達の元へと駆けて行く。遠くからでも、ジェーンと仲間達の戦いが激化しているのがよく分かる。響き渡るジェーンの泣き声と、赤く染まる夜空を見て、2人は走る速度を一層速めた。
「皆さん、お待たせしました」
 焼け跡へ駆け込むと同時に、恵が指先で挟んだ呪符を放つ。
 呪符は真っすぐ空気を切り裂き、ジェーンの額へ衝突。目には見えない衝撃の波が、ジェーンを襲う。
 よろめき、後ろへと下がるジェーン。その隙に、守夜と秋葉はジェーンが後退し、ジェーンの攻撃に備える。
 だが、ジェーンはよろよろと数歩後退したかと思うと、そのまま空を見上げて動きを止めた。
 ジェーンの身体を包んでいた炎が、嘘みたいに掻き消える。
 焼け焦げていた肌も元の美しい女性のものに戻っていた。咥えた煙草から立ち昇る紫煙が、夜空に溶けて消えていく。
 獣じみた雄叫びも止んで、暫くぶりに焼け跡に静寂が戻った。
「背後に回り込むなら今のうちか? 奇襲になるかは分からないが」
 焼け跡を迂回し、護がジェーンの後方へと回り込んだ。護の動きに合わせ、秋葉と守夜も跳び出した。
 ぼんやりと空を眺めていたジェーンの背中に、護の放った空気の弾丸が直撃。ジェーンの身体が前のめりに倒れ込む。
 追撃を加えるべく、秋葉と守夜が前へと駆けた。
 その瞬間、2人の足元から火炎柱が噴き上がる。秋葉は咄嗟に足を止めることで火炎柱を回避するが、前傾姿勢で駆け抜けていた守夜は回避も防御も間に合わず、火炎に包まれ宙へと弾き上げられる。
 秋葉が踏鞴を踏んでいる間に、ジェーンはくるりと背後を振り向き、護の足元に火炎を起こす。
 近隣の住居へと炎が燃え広がる前に、護は消火活動に取り掛かる。護を援護するように、恵も消火に加わった。せっかく妖を討伐しても、火事が広がってしまったのでは意味がない。
「そぉれっ!」
 回復したククルが秋葉を火炎柱を迂回し、ジェーンに接近。近距離から植物の鞭でジェーンの頭を打ち据える。鞭が頭部に当たった瞬間、再びジェーンは大声を上げた。
 涙を流し、空を見上げ、雄叫びを上げる。
 咥えていた煙草が燃え尽き、ジェーンの身体は再び業火に包み込まれた。
 皮膚が焼け焦げる異臭。火炎に追われるようにククルが後退した。入れ替わるように前に出たのは秋葉である。剣を一閃。ジェーンの身体を切り裂いた。
「叫び声が痛々しゅうて……もう終わりにしようや」
 絞り出すようにそう呟いた秋葉の声は、ジェーンの雄叫びに掻き消され、彼女の耳には届かない。

「あなたは、ここで亡くなったんですか? それとも、ここで何かを無くしたんですか? 事情を察してあげることは……ごめんなさい、出来ません」
 戦旗を振り、守夜の火傷を治療しながら鈴鳴が呟く。
 零れそうになる涙を堪え、唇をきつく噛み締めた。
 治療を終えた守夜が、よろけながら立ちあがる。咳き込む度に、守夜の口元から血が零れた。
 片手に盾を、もう片手はきつく握って、前へと進む。闘志と決意の秘められた眼差しは、まっすぐにジェーンの姿を捉えている。
「相手の思いがなんであれ、所業は悪行で許せん」
 
 火炎を切り裂き、ジェーンへと迫る秋葉。
 ジェーンが後退した瞬間、姿勢を低くし地面に手の平を押しつけた。
 地面が隆起し、ジェーンの身体を土の槍が貫く。悲鳴をあげるジェーンの身体から、業火が噴き出した。
 溢れた炎が秋葉の右頬を掠める。
 じゅう、と肉の焼ける音。秋葉の頬には酷い火傷。
「話を聞けたら共感は出来たかもしれん。でも人様に八つ当たりしてもあんさんのもやもやは消えへんよ?」
 炎に包まれたジェーンの胸に、秋葉の剣が突き刺さる。
「……出会い方が違っていたら、僕が”君の”火を消していたかもしれへんがな」
 ジェーンの手が、秋葉の首へと伸びる。
 秋葉の身体が炎に包まれるその寸前、ジェーンの背中に2発のエアブリッドが直撃。
 ジェーンの身体がよろめいた隙に、秋葉は転がるようにして後退。
「もし火事に巻き込まれて死んだのならそれはとても痛ましい事だ。生前の無念や後悔もあったろうにな」
「貴女の事も、こうなった原因も、犯人が居るなら犯人も見つけ出してみせます。……必ず。……貴女が安心して逝ける様に」
 ジェーンは、護と恵の顔をじっと見つめて、涙を流す。
泣き叫ぶ彼女に、2人の声が届いたかは分からない。
 立ちあがった秋葉と、それを支えるククルの視線もジェーンへと注がれている。
 ジェーンの身体から炎が消えた。
 涙を流し、ジェーンは口を小さく動かす。彼女の声は聞こえない。
 紫煙をふぅ、と噴き出してジェーンは僅かに笑ったようだった。
 だが、その直後。
『ァァァぁァぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』
 空気を震わせる大絶叫。
 そして、業火。
 まるで、炎から逃げるかのように。
 火炎に包まれたジェーンが、道路に向かって駆け出した。

 ジェーンの身体が、ククルと秋葉の間を抜ける。
 瞬間、2人の足元から吹き上がる火炎の柱。炎を避け、後退した2人を尻目にジェーンは外へ。
 焼け跡から、外へ。火炎から、逃げるように。
 けれど、彼女は炎から逃げられない。彼女の身体は、燃えている。焼け爛れた肉が、骨から剥がれおちて地面を汚す。
「炎なら、俺の拳にも宿ってるっ!」
 疾走するジェーンの前に立ち塞がった守夜は、盾を投げ捨て、燃え上がる拳をジェーンの胴へと叩きこんだ。ジェーンの腕が、守夜の頭を掴み、締めあげる。
 今までで、一番の大火力。それに伴い、ジェーンの悲鳴も大きくなっていった。
 業火に包まれた守夜が声も無くその場に膝を付く。意識はすでにないようだ。ジェーンは、意識を失った守夜の身体をまたいで、先へと進もうとした。
 そんなジェーンの腰に、鈴鳴が抱きついた。
「人が憎いなら、私の事なら燃やしてくれて構いません。でも、それでおしまい。それで最後にして下さい。もう、眠って下さい」
鈴鳴の皮膚が焼ける。苦痛に歯を食い縛り、零れ落ちそうになる悲鳴を飲み込んだ。
 視界が霞む。意識が途切れる、その寸前、鈴鳴の身体に淡い燐光を放つ滴が降り注ぐ。鈴鳴の身体を、暖かい光が包みこみ、体中に負った火傷を癒していく。
 地面に倒れ込んだまま、ククルがステッキを掲げていた。
「わわっ、すずなちゃんのぴんち! ミラノもかいふくやくするよっ」
「そっちはお任せしますね!」
 パチン、と秋葉と手の平を打ちつけ合って、恵は意識不明の守夜の元へ。彼の身体に纏わり付いた炎を、白衣で払って消火する。
 守夜が戦線に復帰することはできないだろうが、このまま燃やされ続ければ命も危ういだろうとの判断である。
 咆哮なのか、悲鳴なのか。
 空に向かって泣き叫ぶジェーンが、鈴鳴の身体を振り払った。
 
●夜空に燃える。
「あとで、坊さんを呼んで供養してやる」
 足音もなく、護はジェーンの背後へと駆け寄った。
 護の声に、ジェーンが気付くことはない。既に、正気を失ったように泣き喚き、火炎を撒き散らすだけの妖と成り果てている。
 恨みや、悔みを炎に変えているかのように、火炎の勢いは増していった。
 火柱の真上、ジェーンの頭上に、黒雲が現れる。
 黒雲目がけ、護は苦無を投げつけた。
 苦無が雲を貫いた。バチバチと、黒雲が放電を始める。
 放電が最高潮に達した直後、落雷がジェーンの身体を貫いた。
『あ……が、ァァァああああ!!』
 掠れた悲鳴。涙を流し、ジェーンは叫ぶ。
 だが……。
「あ……」
 ブツン。
 と、ジェーンの悲鳴が途切れて消えた。
 ジェーンの喉を貫いた剣は、秋葉のものだ。
「今宵のような雨上がりの月夜に、出来れば安らかに逝ってくれや」
 そう呟いた秋葉の声は、その時やっとジェーンの耳に届いた。泣き叫ぶのを止めたジェーンの身体から炎が消える。
 ガクン、とジェーンは膝を折り、仰向けに倒れ込んだ。
 彼女の口には、火の付いた煙草。月夜を見上げ、ジェーンは涙を流している。
『私が………やったんじゃ、ない。私は、炎に焼かれただけ。なのに……皆、私が火を付けたって…………………』
 そう呟いて、ジェーンの姿は薄れて消えた。
 後に残ったのは、煙草の細い煙だけ。
 ゆっくりと、空に溶けて、消えていった。

 数日後、現場の近くの森で発見された女性の遺体は真っ黒に焼け焦げていた。焼身自殺。
 燃え尽きた家の、行方不明になっていた娘の遺体。
 火事の原因は彼女による放火であると世間では噂されていた。追い詰められての焼身自殺だと、連日のニュース番組で取り上げられた。
 彼女が火災の犯人ではないことを知っているのは、あの夜、妖と化した彼女を討伐した6人だけだ。

 ジェーンが消えた、その後で、秋葉は1人焼け跡の端に腰かけて煙草に火を付けた。
 ゆっくりと、空を見上げる。
 雨上がりの夜空に、大きな月が昇っていた。
 ジェーンが最後に見た光景。
「今日の煙草はほろ苦い味がするわ」
 彼の零した呟きは、煙と一緒に虚空に消えた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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