死人花奇譚
死人花奇譚



 夏の空を鮮やかな緋色に染めて、眩い夕陽が地平線の彼方に吸い込まれていく。まるで自らを燃やし尽くすかの如く、地に沈むその時まで、必死に己の存在を示そうと足掻いているかのように――そんな風に考えてしまうのは、此処が物寂しい河原だからなのかもしれない。
(小さい頃、ここでよく遊んだっけな……)
 手を繋いで共に駆けた、あの頃の友は今はいない。辺りに響き渡る蝉の声を聞きながら、少女は自転車を押す手を止めて、ふっと水の香を微かに含む湿った風に瞳を細める。
 ――と、その視界にふと、夕空よりも濃い赤が飛び込んで来た。河原の土手をずるりと蠢く、不吉な色。もう少し季節が巡り、彼岸を迎える頃であればこの風景にも馴染んだかもしれないもの。
「彼岸、花……?」
 その独特な花のかたちは、美しいと思えるものであった筈なのに――『それ』は妖しく肥大化し、幾つもの花が寄り集まり一塊となって、根を尾のように波打たせて蛇のように迫ってくる。
『それ』は断じて可憐な花などではない。新たな命を宿した、おぞましき異形――。
「……妖……ッ!」
 悲鳴のように発した言葉は、みっともなく震えていた。それは人を襲い、そして喰らう。かつて幼い頃、少女の友を殺したように。
「あ……ああ……」
 しびとばなの妖は、更にその数を増やしていって。花弁から漂う酷く甘い毒の香が、少女の生命を無残にも散らしていった。
 ――から、からからから……。
 河原には、ぬくもりを喪った少女の骸がひとつ。そして倒れた自転車の車輪が、物悲しい音色を奏でながら静かに回っていた。


 妖の出現を感知したのだと、久方 真由美(nCL2000003)は集まってくれたF.i.V.E.の仲間たちに告げた。彼女は、夢の形で未来を見ることが出来る夢見のひとり。微かな憂いを滲ませて、真由美は頬にかかる髪をかき上げて詳細を語る。
「場所は郊外の河原、そこの土手になります。時刻は夕方……其処を通りかかった少女が妖に襲われ、命を落としてしまいます」
 ――けれど、これは起こり得るかもしれない未来。其処に介入し妖を倒す事で、消えゆく少女の命を救える筈だ。
「敵は低級の妖のようですね。姿は、肥大化した異形の彼岸花で、所謂生物系の妖となります」
 妖としてのランクは1。それが3体現われ、本能のままに河原を訪れたひとを襲う。故に――少女が河原にやって来る前に、妖を退治してしまえば良い。
「植物と言う見た目に反し、動きは素早いでしょう。恐らく、花の香は広範囲に広がり毒を……そして、炎を操る力も持っているようです」
 彼岸花は、その花の形から火事を招くと言う迷信もある。恐らく、火を操る力はそこら辺りから来ているのだろう。
「3体全て、討伐してきて下さい。人に害為す存在は放っておけませんし」
 それに、と微かに微笑んで真由美は続けた。
「彼岸花は、綺麗な花ですもの。死人花と言う異名のように、死を齎す存在になって欲しくはなくて」
 どうか、花言葉のように『悲しい思い出』を作らないで欲しい。そう言って真由美はゆっくりと、皆へ向かって頭を下げた。


■シナリオ詳細
種別:β
難易度:普通
担当ST:柚烏
■成功条件
1.生物系妖3体の討伐
2.なし
3.なし
 初めまして、柚烏と申します。これから皆様と一緒に『新~アラタナル』の世界のお話を紡いでいけたらと思います。さて、初めての依頼はシンプルな妖退治となります。

●彼岸花の妖×3
肥大化した彼岸花が絡まり合って、ひとつの個体となった妖です。大きさは人間くらい、生物系です。ランク1で本能のままに襲い掛かってきます。
・毒の香(特遠列・【毒】)
・狐火(特遠単・【火傷】)

●戦場
夕暮れの河原の土手となります。周囲に人気は無く、足を踏み入れた直後に妖が現われます。

●その他
心情なども交えて頂ければ、雰囲気が盛り上がるかなあと思います。あなたは死人の花、なんて聞くとどんな事を思うでしょうか。或いは、妖との戦いに挑む意気込みなども、ぶつけてみてもいいかもしれないですね。

 折角ですので、プレイングを通してぜひぜひ皆様のキャラクターの個性をアピールしてみて下さい。それではよろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
(3モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
0LP[+予約0LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年08月16日

■メイン参加者 8人■

『嘘吐きビター』
雛見 玻璃(CL2000865)
『落涙朱華』
志賀 行成(CL2000352)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『蒼焔の魔女』
桐条・刀弥(CL2000107)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)

●黄昏のイロ
 夏の夕暮れは、何処か物悲しい。それはきっと、永遠に続くと思っていた明日が、不意に断ち切られることもあるのだと知ってしまったからだ。
「ここが言われていた場所ね。静か……でも、ここで事件は起こるのよね」
 蝉の声が響き渡る土手に足を踏み入れて、三島 椿(CL2000061)は長い黒髪をさらりと揺らした。涼しげな声を凛と震わせ、彼女は気合を入れて頑張らなくちゃと決意を新たにする。
(初めての依頼の時、兄さんもこういう気分だったのかしら。私も負けてられないわ)
 ――そう、此処に季節外れの彼岸花の妖が現われ、本能のままにひとを襲う。夢見の視たその未来を変える為、F.i.V.E.の覚者たちは任務へと赴いたのだ。
「花は綺麗ですけど、人を傷つける存在になってしまったなら放ってはおけません。被害が出る前に倒しましょう!」
「だな、人が死人花なんて呼ぶせいでそんな風になっちまったんなら可哀想だよな。せめて事件起こす前に葬ってやろうぜ」
 優しげな藍の瞳に、毅然とした意志を滲ませて。上靫 梨緒(CL2000327)が皆に呼び掛けると、『わんぱく小僧』成瀬 翔(CL2000063)もぎゅっと拳を握りしめて、にぃと笑みを零しつつ同意した。
(正式な任務、妖の討伐……緊張するが、私より年下の子も多い。冷静に、余裕を持って挑まねば)
 一方で『浅葱色の想い』志賀 行成(CL2000352)は、眼鏡の奥の瞳をすっと細めて、無意識の内に耳を指でなぞっていた。年下と素直に口に出せば、翔などは「子供じゃないぜ」と虚勢を張るだろうが――それでも守られるだけでなく、守れる人間になりたいと行成は思う。
「トゥーリ、よろしくね……?」
 そんな中、守護使役の力を借りて偵察を行っているのは『彼誰行灯』麻弓 紡(CL2000623)だ。夕陽を受けてきらきらと輝く白金の髪がうつくしく、微睡むように伏せられた瞳も相まって――少年のような少女のような、不思議な雰囲気を紡に与えていた。
「ん、大体周りの様子は把握できたかな」
 同じく偵察を行っていた翔もふぅと一息吐き、紡は辺りの様子の詳細を皆に伝えていく。どうやら辺りに一般市民は居らず、土手の蔭で息を潜めていた妖は自分たちの気配を感じ取り、確実に此方に向かって来ているようだ。
「……良かった。準備は無駄にならなかったようね」
 優美な佇まいを見せ、嫣然と微笑むのは『蒼焔の魔女』桐条・刀弥(CL2000107)。人払いの結界を梨緒が張った上で、刀弥は河原に繋がる道に工事中の看板を立て、通行止めの偽装をしていたのだ。
「ホウレンソウ……これ、大事」
「ホウレンソウ?」
 皆で情報を共有しつつ紡が呟くと、意味が分からなかったらしい翔は訝しげな顔で首を傾げている。報告、連絡、相談の略――と紡が説明すれば、翔は顔を赤くしてぶんぶんと首を振った。
「べ、別にそんなの知ってたし!」
(可愛いなぁ……)
 精一杯背伸びをする少年の姿は、何だか微笑ましい。ふっと皆が和んだのも束の間、夕焼けよりも尚赤い色がずるりと地面を這って――妖しくもおぞましき異形の花が、彼らの前に姿を現した。
「鮮やかな夕焼けの中に咲く、赤い花――」
 謡うように言葉を紡ぎ、『嘘吐きビター』雛見 玻璃(CL2000865)は浅く被ったフードをきゅっと握りしめる。それは、幻のように綺麗で――例え少しの切なさを感じようと、その花は確かな思い出と毎年やってくる夏の馨を運んでくれる存在なのだ。
(……大丈夫)
 一つ、二つと玻璃は深呼吸をする。そんな彼女へ、椿は「お互い頑張ろう」とそっと勇気づけるように囁いて。信道 聖子(CL2000593)もまた、行こうと言うように肩を叩いて、その細身の体躯を華麗に踊らせた。
(これが私の初陣。覚者としての、最初の戦い)
 ――黄昏を迎えた今は、夢現の逢魔が時。まるであの世とこの世の境目に居るような、不思議な感覚を覚えながら――妖が彼岸へ誘おうとするならば滅するまでと、聖子は覚悟を決める。
「この力で、必ず救ってみせる。出来れば誰一人として大事がないよう、頑張りましょう」
「……その命を散らせなどしない。『悲しい思い出』になんてさせない」
 それは、彼岸花の持つ花言葉のひとつ。けれど、想いを勇気に変えて、玻璃たちは覚者としての力を解き放とうとしているのだ。
「花言葉はたったヒトツじゃない。だったら、アタシたちでそれを塗り替えればイイ」
 覚者、それは真実の力に目覚めし者。人に害為す異形の妖を倒す為、彼らは『覚醒』する――!

●舞い踊るアカ
「情報通り、妖は3体。横一列の陣形ね……」
 蒼穹を思わせる鮮やかな翼を広げた椿は、後方より戦況を把握してそっと頷く。此処に来るまでの間に決めておいた役割分担通り、一行は3班に別れて其々が1体ずつ妖の相手をするべく動いた。因みに椿は単独で、皆の回復に専念する事になる。
「初仕事だし気合い入れるぜ! 普段と違って大人の姿になったオレは、今までよりもっとやれるはずだ!」
 現の因子を持つ翔は自身の時の流れを変化させて、凛々しい青年の姿へと変貌を遂げた。そのまま清風を招く演舞を発動、皆の身体能力を一気に引き上げる。
「死人の花、なんて言うと恐ろしいイメージになりますけど……」
 翼人の姿となった梨緒は、正に可憐な天使のよう。その佇まいに相応しく、ふわりと漂うのは清廉な香りで――それは皆の自然治癒力を高める、木行の術式だ。
「彼岸花、か……あんなに綺麗な花なのに、不吉な言い伝えや悲しい花言葉が多いのよね」
 右腕を器物と化した聖子が、因子の力でその身を固めて守りの加護を得る。ああ、と頷き行成と刀弥は英霊の力を引き出し、己に宿る力を高めていった。
「……嫌いな花ではないんだがな。『再会』か……いや、独り言だすまない」
「死人花の異名もね……元は飢饉から子を守る為の名前なのに、ねぇ……縁起が悪いだけの花じゃないのにさ」
 行成と、そして紡の独り言は風に紛れて消えていく。飄々とした面持ちで紡は三日月を模したスリングを操り、放たれた弾が容赦なく妖花を穿った。
「死人の花、ね……」
 敵の注意を引き付ける為、刀弥は一気に距離を詰めて彼岸花の懐へと潜り込む。そのまま二刀一対の小太刀を走らせ、不気味に蠢く根を鮮やかに斬り捨てた。
「自分より年若い子を何人も見送ってきたからか、この時期はちょっとしんみりしちゃうのよね」
 そう呟いた刀弥の相貌には、外見に似つかわしくない酷く老練な雰囲気が宿る。いつからか時間の流れに取り残されたような自分も、考えようによっては死んでいるようなものかもしれないけど――と自嘲し、彼女は舞い踊る炎の熱に歯を食いしばって耐えた。
「けど流石に、こんなの相手にしんみりしようがないわ。さっさと片付けて帰るとしましょう」
 一方別の妖へは、玻璃の銃弾が的確に吸い込まれていく。彼女の姿は、背伸びした少女から落ち着いた大人の女性へと変貌を遂げていて。玻璃の援護を受けながら、前衛に立つ聖子は軽々と大剣を振るう。
「行っけぇ!」
 翔が呼んだ小さな雷雲より生じた稲妻は、妖たちを纏めて薙ぎ払った。其処に金に染まる瞳を細めた行成が身を躍らせて、携えた薙刀による狙い澄ました一撃を放つ。皆が頑張っている――ならば、自分もそれに応えなければと静かに闘志を燃やしながら。
「危害が及ばぬ様、全身全霊で行かせてもらおう……!」
 血のように赤い花弁がひらひらと乱れ飛び、彼岸花の妖は悶えるようにぶるりと身を震わせた。ぼとり、ぼとり――厭な色をした体液が零れ、地面に染みを作る。
「っ……来る……!」
 しかし、敵もただやられる訳にはいかないようだ。流石に一撃で楽に出来る筈も無く、毒を含む甘い香が辺り一帯に立ち込めていく。後衛を狙った香に、椿は袖で口と鼻を塞ぐが、残念ながらそれで防ぎきれる物では無い。酷い眩暈が後衛の仲間たちを襲い、椿は微かに瞳を潤ませて咳き込んだ。
「二人とも顔には怪我しないようにね、可愛いんだからさ」
 それでも軽口を叩く余裕は未だあるらしく、紡は同じ敵と向き合う梨緒と刀弥に向かってそっと囁く。えっ――と梨緒は虚をつかれたように瞬きをして、そんな中でも高圧縮した空気を撃ち込んで援護に努めた。
(捕まりさえしなければ、多少の被弾は必要経費……)
 痛覚を遮断し、刀弥は至近距離で妖と渡り合っている。一方の聖子は、時間をかけて自己強化を幾重にも重ねた分、その守りは正に鉄壁となっていた。それでも容赦なく、彼岸花は毒香と狐火を繰り出すが――梨緒の清廉香の効果で、身動きが取れなくなる程追い詰められている訳では無い。
(そう、アタシたちなら……大丈夫)
 本能のままに襲い掛かる妖とは違う、と玻璃は舞衣――大気の浄化物質を集めて、皆の状態回復を促進していく。自分たちは的確な班分けをした上で、其々が確りと己の役割を果たして戦っているのだ。
「蒼の焔に灼かれて塵になりなさい?」
 そして――銀に変じた髪を靡かせた刀弥が、妖しく煌めく小太刀を振るう。その刀身は烈火の如き炎を纏い、苛烈なまでの勢いで妖の一体を斬り捨てた。
 ――火事を招くと言われる彼岸花も、炎に包まれて死ねるのならば本望だろうか。刀弥の言葉通り妖は燃え上がり塵となり、ちらちらと風に舞う火の粉が夕闇の土手を仄かに照らしていった。

●散りゆくハナ
 相手をしていた敵を葬った刀弥たちの班は、直ぐに手近に居た聖子たちの援護に移る。それでも残る二班も順調に妖を追い詰めており、敵を全滅させるのにはそう時間はかからないように見えた。
「このまま行けば、光源の心配はしなくて大丈夫そうですね」
 戦いが長引いて辺りが暗くなったら、守護使役の凰蓮に光を灯して貰おうと思っていた梨緒だが、視界は良好だと胸を撫で下ろす。そんな中、最期に鮮やかに咲き誇ろうとでも言うように――残る彼岸花たちは毒と炎を躍らせて、妖しく花弁を震わせた。
「死人の花って聞くと怖いわね。綺麗だけど、綺麗だからこそ恐ろしさを感じるわ」
 そう思うのは、そのうつくしさに飲み込まれてしまいそうになるからか。椿はふとそんな想いに浸りつつ、癒しの滴を生み出して傷付いた者の回復に努めた。幸い突出して負傷が酷い者は居らず、前線に立つ者の中では体力が低めの刀弥がやや心配な位か。
「……妖、とはよく言ったもの、ね」
 氣力を削って仲間を支える椿へ、玻璃が己の精神力を転化させて分け与える。と、徐々に異常が蓄積されてきた皆の回復を促すべく、舞衣を発動させたのは紡だった。
「毒とか火傷とか……くそう、オレも覚えとくんだったなー。次に覚える機会があったら絶対覚えるぞ!!」
「ん、頑張って」
 毒に侵されつつコンパウンドボウを撃つ翔に、ひょいと手を振って紡がエールを送る。戦いの中でも普段通りのやり取りが出来る仲間たちに玻璃はふわりと微笑み、たおやかな指先がライフルの引き金を引いた。
「妖と言えど花なんだから。散り際は潔く、美しく、ね」
 一発を撃ち込み、彼女はぱちりと片目を閉じて。それを合図と見て取った聖子が、大剣を構えて渾身の一撃を叩き込もうと振りかぶる。戦闘に長い時間はかけられない――それを思うと、入念な自己強化で本格的に動くのが遅くなったのは痛かったけれど。
「後はバッサリと叩き伏せるだけ……一気に行きましょう」
 振り下ろした刃は、一直線に彼岸花の生命を断ち切っていた。しかし最後の一体が、仇を取ろうとでも言うかのように、聖子を狐火で包み込む。
「この……!」
 蒼鋼壁によって即座に反射攻撃が行われるが、ダメージ自体は普通に通る。火傷を負った聖子に椿の癒しの滴が降り注ぎ、少しでも前衛が動き易くなるようにと梨緒が空気の弾丸を撃ち出した。
「誰も悲しませたりしません! 出来る事を、頑張ります!」
 そして紡が、翔が、終わりに向けて仲間たちへ填気を施す。
「もしもも、もしかしたらもイラナイ。だから……」
「志賀さんッ!」
 ――翔の声が、行成の背中を押した。身体は限界に近付きつつあったが、不思議と地を蹴る足取りは軽やかだ。ああ――嘗ても自分は、こんな風に槍を手に戦場を駆け抜けた事があっただろうか。
「……その名の通り、彼岸へと渡るがいい」
 その魂は、まるで冷たい炎のよう。冷然と告げた行成の薙刀は、瞬時に妖の肉体を貫いていて――彼はその朱の花に、背に朱飛び散る彼女を、そして無力な自分自身の姿を思い出した。
 はらり、はらりと死人の花は散っていく。悲しい思い出を齎す事無く、真紅の花弁はそっと空の彼方に溶けていった。

●手向けるコトバ
 やがて、夕闇に覆われた河原は平穏を取り戻した。命を守ったぜ、と翔が拳をぐっと握りしめて余韻に浸り、椿は戦いを終えた皆を労う。
「これでもう大丈夫よね。みんな、お疲れ様」
 土手に残る戦闘の痕跡――焼けた草などは、行成の守護使役が食べて処分してくれる事になった。『もちまる』と言う可愛らしい名前に、梨緒はきゅんとときめいているようだ。
「そう言えば、彼岸花の花言葉には『想うはあなた一人』っていうのもあるんですよ。素敵ですよね」
 ふと思い出したように梨緒が呟き、ふわりと顔を綻ばせる。ふーん、と頷く翔は、せめて次に咲く時には静かに土手を飾るように咲ければいいなと言った。
「オレ、花にはあんま興味ねーけどさ、せっかく綺麗に咲いたんだから、花だってみんなに喜んで欲しいんじゃねーかと思うんだよな」
 素直な翔の想いを皆が感じ取りつつ、長居は無用とばかりに撤収準備を開始して。障害物の撤去を始める刀弥を見送りながら、紡がポツリと呟き苦笑いをした。
「終わった、ね……冷たいお茶と本が恋しいや」
「……また会う日を楽しみに」
 そんな紡と並んで歩き出した玻璃は、そっと妖へ花言葉を贈る。次は綺麗に咲くように、と祈りをこめながら。
「ああ、まだあったわね。彼岸花の花言葉の一つに『再会を楽しみにしている』なんて言葉が」
 玻璃の囁きを耳にした聖子は、愛おしげな――そして微かに寂しげな顔をして空を仰いだ。
「もしも、彼岸の向こうに待つ人が居るのなら……」
 ――彼岸を渡るその時までに、再会を喜べるよう生きて欲しい。そう願いながら聖子はゆっくりと、帰路につく仲間たちの後を追いかけるように歩き出した。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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