雷神よ 神の舞台で舞い踊れ
●
「へー。FiVEってAAAの後釜になったのか」
七星剣の所有する建物の一室。その少女はその事実を聞いてニヤリと笑った。
「だったら、七星剣として戦う機会が増えそうだな」
七星剣。日本最大の隔者団体である。その目的は日本を力で統一すること。覚者も、憤怒者も、妖も、法も、常識も、全てを力でねじ伏せる。力押しの考えなしのように見えてるが、シンプルであるがゆえに崩しがたい理論である。
「気楽に言わねぇでくださいよ『雷太鼓』の姉御。連中、ヒノマル陸軍を打破するほどの組織力なんですぜ。迂闊に攻めれば痛い目を見るのは――」
「だからこそ挑む価値があるんだろうが。暴力坂のじーさんの仇とか、そんな事じゃねぇ。そこに強い奴がいるんなら、挑むのがこの『雷太鼓』ってもんよ!」
『雷太鼓』と呼ばれた少女は部下の提言を一蹴する。
実際問題として、七星剣の武闘派『ヒノマル陸軍』の打破は衝撃的だった。七星剣全体から見れば組織の一部だが、逆に言えば『油断すれば組織の一部を食い破る』相手なのだ。そこを攻めようと思うのは自爆覚悟か、あるいは――戦闘狂(バトルマニア)か。
「ま、それはおいおい。仕事の話に行きましょう。そのFiVEの介入が予知されているので」
「へぇ。そいつは楽しめそうだ。やってやるぜ」
「釘をさすようですが、目的はFiVEと戦う事じゃありませんので」
「へいへい。んで、どんなヤツと戦えばいいんだ?」
目を輝かせて問いかける『雷太鼓』。喧嘩が大好きな彼女にとって、どんな相手と戦うかはとても重要だ。それ以外に価値などないと告げていた。
その彼女の顔が――
「えー」
落胆したのは要するに、彼女の好む状況ではない証拠だった。
●
「天岩戸とアマノウズメの伝承を知っていますか?」
久方真由美(nCL2000003)の言葉に眉を顰める覚者達。
天岩戸。大雑把に説明すれば、太陽神が洞窟にこもって夜の世界になってしまった日本。その太陽神を引き出すために洞窟の前で宴会を行い、岩をどけて覗き見した隙に力持ちの神様が岩をどけて太陽を取り戻した、というお話だ。
その洞窟を封じていた岩を天岩戸と言い、その前で宴会していた神様がアマノウズメである。日本では芸術の神様と呼ばれる日本最古の踊子である。
「そのウズメ……もちろんアマノウズメ本体ではなくその分体ともいえる霊的存在が力を授けてくれるというお告げがあったようです。そこに様々な覚者達が集まっていると。
その中に七星剣の隔者が紛れ込んでいます」
七星剣。その名称に覚者達の表情がこわばった。日本最大の隔者組織。彼らが神の力を授かればどうなるか。
「はい。どういう形にせよ、七星剣に神の力を奪わせることを阻止してください。
幸い、あまりやる気はないようですので気を逸らそうと思えば簡単にできます」
これだけの覚者が集められた理由が理解できた。最悪は力で訴えることも考慮に入れての事だ。相手は武闘派の隔者。数で圧しきれば勝てない相手ではない。
「で、その授かる方法と力はどんなものなんだ?」
覚者の問いかけに、真由美は笑顔を浮かべてこう告げた。
「芸をして、一番ウケた人が勝者です」
…………。
覚者の緊張が、一気に霧散した。
「へー。FiVEってAAAの後釜になったのか」
七星剣の所有する建物の一室。その少女はその事実を聞いてニヤリと笑った。
「だったら、七星剣として戦う機会が増えそうだな」
七星剣。日本最大の隔者団体である。その目的は日本を力で統一すること。覚者も、憤怒者も、妖も、法も、常識も、全てを力でねじ伏せる。力押しの考えなしのように見えてるが、シンプルであるがゆえに崩しがたい理論である。
「気楽に言わねぇでくださいよ『雷太鼓』の姉御。連中、ヒノマル陸軍を打破するほどの組織力なんですぜ。迂闊に攻めれば痛い目を見るのは――」
「だからこそ挑む価値があるんだろうが。暴力坂のじーさんの仇とか、そんな事じゃねぇ。そこに強い奴がいるんなら、挑むのがこの『雷太鼓』ってもんよ!」
『雷太鼓』と呼ばれた少女は部下の提言を一蹴する。
実際問題として、七星剣の武闘派『ヒノマル陸軍』の打破は衝撃的だった。七星剣全体から見れば組織の一部だが、逆に言えば『油断すれば組織の一部を食い破る』相手なのだ。そこを攻めようと思うのは自爆覚悟か、あるいは――戦闘狂(バトルマニア)か。
「ま、それはおいおい。仕事の話に行きましょう。そのFiVEの介入が予知されているので」
「へぇ。そいつは楽しめそうだ。やってやるぜ」
「釘をさすようですが、目的はFiVEと戦う事じゃありませんので」
「へいへい。んで、どんなヤツと戦えばいいんだ?」
目を輝かせて問いかける『雷太鼓』。喧嘩が大好きな彼女にとって、どんな相手と戦うかはとても重要だ。それ以外に価値などないと告げていた。
その彼女の顔が――
「えー」
落胆したのは要するに、彼女の好む状況ではない証拠だった。
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「天岩戸とアマノウズメの伝承を知っていますか?」
久方真由美(nCL2000003)の言葉に眉を顰める覚者達。
天岩戸。大雑把に説明すれば、太陽神が洞窟にこもって夜の世界になってしまった日本。その太陽神を引き出すために洞窟の前で宴会を行い、岩をどけて覗き見した隙に力持ちの神様が岩をどけて太陽を取り戻した、というお話だ。
その洞窟を封じていた岩を天岩戸と言い、その前で宴会していた神様がアマノウズメである。日本では芸術の神様と呼ばれる日本最古の踊子である。
「そのウズメ……もちろんアマノウズメ本体ではなくその分体ともいえる霊的存在が力を授けてくれるというお告げがあったようです。そこに様々な覚者達が集まっていると。
その中に七星剣の隔者が紛れ込んでいます」
七星剣。その名称に覚者達の表情がこわばった。日本最大の隔者組織。彼らが神の力を授かればどうなるか。
「はい。どういう形にせよ、七星剣に神の力を奪わせることを阻止してください。
幸い、あまりやる気はないようですので気を逸らそうと思えば簡単にできます」
これだけの覚者が集められた理由が理解できた。最悪は力で訴えることも考慮に入れての事だ。相手は武闘派の隔者。数で圧しきれば勝てない相手ではない。
「で、その授かる方法と力はどんなものなんだ?」
覚者の問いかけに、真由美は笑顔を浮かべてこう告げた。
「芸をして、一番ウケた人が勝者です」
…………。
覚者の緊張が、一気に霧散した。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.『雷太鼓』に力を奪わせない
2.芸をする
3.なし
2.芸をする
3.なし
力で乗り越えるか、一芸で乗り切るか。
●説明っ!
アマノウズメを奉じる神社。そこに神様の分身が降臨し、こう告げます
「あのさー。超ヒマー。なんか芸してよー。なんでもいいよー。面白かったらウズメの力あげるからさー。芸達者になれる力だよー。
つまらなかったり暴れたりしたら、マジ追い出すからー」
意訳すれば『一芸をして、最も素晴らしかった者に力(技能)を授ける』『暴力行為を行えば、参加資格を失う』という事です。
芸能の神であるウズメの力を授かれば、踊りや歌に限らず精錬された動きになるでしょう。
力を得ることに頓着しなくてもいいですが、七星剣の隔者に力を渡すことだけは止めてください。
この依頼は『発明王 神の舞台で舞い踊れ』と同じ場所で行われています。両方に参加しても構いませんが、その場合片側の描写が極端に少なくなります。また、同依頼のキャラと連絡を取り合うことはできますが、目的が違う事もあり連携をとることはできないと思ってください。同じ場所で行われている別の依頼ですので。
●NPC
『雷太鼓』林・茉莉
天の付喪。一五歳女性。神具は背中に背負った和太鼓(楽器相当)。
喧嘩好き。とにかく強い相手と戦いたい隔者です。七星剣武闘派『拳華』と呼ばれる組織で年齢不相応ながら『姉御』と呼ばれています。……が、今回は音楽能力を買われてここにやってきました。
芸は『雷太鼓』による太鼓打ち(スキル使用による雷エフェクト付)を行う予定です。戦闘を仕掛ければ、喜んで戦います。
『機化硬』『雷獣』『白夜』『活殺打』『雷纏』『恵比寿力』『電人』『絶対音感』などを活性化しています。
●場所情報
アマノウズメを奉じる神社。その境内。
色々な覚者が集まっていますが、『雷太鼓』以外は基本相手になりません。
スキルも『他人や施設に迷惑をかけない』事を前提に使用OKとなっています。
なお戦闘を仕掛ける場合、広さや明るさなどのペナルティは皆無です。ただし戦闘を仕掛ければ芸事への参加はできません。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2017年08月07日
2017年08月07日
■メイン参加者 8人■

●
さて、ここはアマノウズメを奉じる神社である。分体とはいえその霊体がいるわけである。
「ウズメさんなら知ってるぜ! 偉い神様をおびき出すために裸踊りした人だよな! ……今回も見れっかごぶがはぁ!?」
そんな所でアマノウズメの裸を見たいと言った『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は、笑顔で神様の霊体からアイアンクローを頂くというレアな体験を味わう羽目になった。ギャグシナリオじゃなければ戦闘不能である。
「け、結構過激な神様なんやなぁ……くわばらくわばら」
倒れ込む遥を見て『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が口を紡ぐ。『雷太鼓』をからかうためにウズメの所業を教えてやろうと思っていたが、それをすれば同じ目に合うのは明白だ。神様を馬鹿にするものじゃない、と深く心に刻んだ。
「ナマコの口が裂けているのはアマノウズメが裂いたから、という話もありますしね」
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)はアマノウズメのエピソードの一つを語りだす。魚介類にニニギに仕えるか否かを問いかけ、唯一答えなかったナマコの口を小刀で裂いてしまったという。
「芸達者でツッコミも過激! ゆかり、改めて感激しました!」
『田中と書いてシャイニングと読む』ゆかり・シャイニング(CL2001288)はウズメの行動をそう評した。神様を笑わせたとされるアマノウズメ。しかし笑わせるだけではなくシメる所はしっかり〆る。両方できてこそ、だ。
「あ、茉莉さん! 今日はよろしくお願いします。正々堂々と戦いましょう!」
『雷太鼓』に会釈をする『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)。今回の任務はアマノウズメの力を『雷太鼓』に渡さない事である。卑怯な手を使っても許される。しかし小唄はそれをするつもりはなかった。あくまで正々堂々と戦うつもりだ。
「毎回スポーツの祭典やってるわけだし、たまには違う方法で競うのもいいんじゃね?」
拳を握って主張する『雷太鼓』に『癒しの矜持』香月 凜音(CL2000495)が水を差すように告げる。『雷太鼓』率いる輩と何度も交戦してきたが、今回は些か趣が異なる。殴り合いは性に合わない凜音からすれば、こういう形式はありがたい。
「芸能の神様相手に気にいってもらえる芸。容易にはいきそうもないわね」
アマノウズメ(分体)の方を見ながら三島 椿(CL2000061)は気合を入れる。相手はこの国の太陽神に興味を引かせることが出来る踊り子。芸能を司るがゆえに芸に対して目は肥えているだろう。中途半端な芸では門前払いされそうだ。
「アイドルとして、ここは退くわけにはいきませんわ!」
神具化したエレキギターを手に『獅子心王女<ライオンハート>』獅子神・伊織(CL2001603)が叫ぶ。(自称)アイドルである伊織は芸能の神であるウズメを前に退くことなく、むしろ負けん気を燃やしていた。どこかしらロックである。
「はいはーい。次の人どうぞー」
ウズメが呼ぶ声が聞こえてくる。FiVEの覚者達の出番のようだ。
覚者達は頷き、神の舞台へと足を踏み入れた。
●
「まずは私からね」
一番手は椿だ。緊張する心を深呼吸して整え、皆が見ている前で琴を取り出す。年季が入った琴は使われている道具がゆえの汚れがあり、使われているがゆえの光沢があった。それを手に誇らしげに背を伸ばす椿。
(どうしてかな。止めることはできなかった)
椿は琴を撫でながら自問する。小さいころに習い、両親がなくなっても引き続けた琴。音楽の道を進むでもなく、しかし練習を止めるでもなく。琴を弾いていることで、両親の繫がりを思い出しているのかもしれない。椿自身、答えが出せない事だった。
そんな疑問も琴を弾き始めれば雲散霧消する。指にはめた爪が弦を奏でるごとに響き渡る優雅な音。しかしその音を出すまでにどれだけの年数がかかったか。そして音質を維持しながら『音楽』の領域に達するまでどれだけの練習が必要か。
奏でられる音楽はアップテンポの明るい曲。琴のイメージには似合わないが、だからと言ってミスマッチというわけではない。軽快なテンポを奏でる椿の顔は、その曲に負けないほどの明るい顔。
音楽に水の源素を載せるように演奏し、水で形成された魚や鳥が空を舞う。陽光を受けて煌めく魚は空を泳ぐように緩やかに旋回し、鳥が羽ばたくたびに水滴が霧雨のように降り注ぎ虹を生み出していく。その幻想的な光景に見ている者達は歓声をあげた。
そして最後の一音が響き渡り、その余韻が消える。そこから数秒、椿は立ち上がり終わりを告げるように一礼する。割れんばかりの拍手が境内に響き渡った。
「音楽教師として、楽器奏者として、ここはとっておきを見せるとしようかな♪」
とっておき、と言って現れた御菓子。その恰好は多くの楽器を体中に身に着けたものだった。手にギター、背中にバスドラム、スネアドラム、シンバル。口にカズー、笛、ハーモニカ。足にタンバリン、鈴。
「ワンマンバンドを見せてあげるわ」
軽く足を動かすだけでタンバリンと鈴が鳴る。肘で打楽器を叩き、口で様々な笛を吹く。ギターを奏でながら回転し、ステップを踏んで様々な楽器が音を奏でる。これらの楽器を一人で、しかもリズムに合わせて演奏するのだ。
前奏も軽やかに御菓子は踊るように演奏を始める。否、事実彼女は踊っていた。音楽を演奏しながら、音楽に合わせて踊っている。学問として音楽を嗜むが、音楽家として音を楽しむ。それが御菓子という人間だった。
最初は確かにFiVEの任務という理由だった。それを忘れたわけではないが、いつしか任務よりも音楽を楽しんでいる自分がいる。御菓子はいつしか汗を流し、観客の手拍子や楽器に合わせて楽器を奏でていた。
数多の楽器を奏で、会場そのものを湧かせて一つの楽器とする。皆が御菓子の音楽に合わせて歌い、御菓子もまたそのリズムに合わせて踊り奏でる。最後の最後まで音による楽しみを教え続け、皆で奏でるワンマンライブは拍手の中、終了した。
「皆さん、ありがとうございます。一緒に歌ってくれて楽しかったです!」
音楽は世界の共通語。御菓子はそれを改めて感じていた。
「本来ならちゃんとした演奏隊を付けるべきなんだろうが、まぁ許してくれな」
言いながら凜音は携帯をいじり、音楽ファイルを起動する。神社に用意してあったスピーカーにつなげ、音量を増幅した。とはいえ元々大きな音ではなく、どこか静かな庭園を思わせる笛と太鼓の音色だった。
(穏やかな水の流れをイメージするんだ)
香月の家は、昔神に舞を奉納していたという。その教えを正式に受け継いだわけではないが、それでもその踊りに感銘を受けたのは確かだ。緩やかに見えて細かく、静かに見えて激しい。水の在りようを示すがようなその舞。
片手に持った扇がゆらゆらと揺れる。それに合わせて水の源素が霧のように放出され、夏の日差しを受けて輝いた。扇の軌跡を追うように虹が浮かび、そして儚く消えていく。それはうたたかの夢のよう。
神経を使っているのは扇の動きだじぇだけではない。足運び、体重の移動、指先の先まで気を巡らせている。柔軟な動きは水の在りよう。コップに入ればコップの形に。茶瓶に入れば茶瓶の形に。雨、霧、川、海。一つの在り方に捕らわれない『水』を示すように。
派手な動きはない。派手な音はない。ただゆっくりとそして静かに舞う。それは静謐とも言える一つの世界。沈黙ともいえるほど穏やかな音楽のみが場を支配し、皆の視線が凜音の舞に注目する。
いつしか舞は終わり、凜音は扇を閉じて一礼する。最初は小さく、そして少しずつ大きな拍手が沸き上がった。その拍手に送られるように凜音は隅に移動して一息ついていた。
「ほないくで! ロックンロール!」
言って抜刀する凛。訓練用の下駄をはき、たすきと剣道着という格好である。炎の源素で身体能力を強化し、お腹に力を込めて叫んだ。抜刀術の披露なのだが、それにしては掛け声が異色である。
そのままロックを歌いながら刀を構える。他の覚者達が意図を察したのか、それぞれの楽器を手にそのリズムに合わせた。その行動に笑みを浮かべ、そして負けじとヒートアップしていく凛。
目の前に多数の敵がいるイメージを持ち、それを切り伏せていくように刃を振るっていく。それは殺陣。演技ともいえる偽の斬り合い。だからこそ、そこに人は魅了される。まるで本当に斬っているかのような、美しい凛の動き。
ロックな音楽と何かを斬る演舞。一見合わないように見える二つは、凛という人間により見事に融合していた。激しく叫ぶようなハイテンポなロック。静と動を繰り返し、目まぐるしく立ち回る剣舞。
下駄をカランコロンと鳴らして音を出し、時折バク転をして仮想敵から距離を放つ。そして刀を正眼に構えて、三歩踏込み大上段からトドメの一撃を振り下ろした。そのまま血を払うように刀を振るい、納刀する。
「――何時か二人で行こうShangri―La」
曲もそこで終わり、凛は姿勢を正して礼をする。本来は歌い手と剣舞を行う人間は分けるのだが、何とかなるだろうと一人でやってみたのである。手で風を扇ぎながら、凛は手を振りながら舞台から降りて行った。
●
「そろそろゆかりの出番ですね!」
満を持した、とばかりにポーズを決めて現れるゆかり。芸人魂を生かして時折マイクパフォーマンスをいれたり、ポージング爆破で演出したりと結構いろいろやっているのだけど、尺の都合でカットしています。
「今回は目モノマネ! あ、メモのマネじゃありません! 目のモノマネです!」
ゆかりが用意したのは片目だけをくりぬいた似顔絵である。ここにいる知り合いの顔を即興で書いたもので、当人比較ということで書かれた本人も呼ばれることになった。ゆるい絵だけどそれなりに特徴はつかんでいる。
「はーいそれでは行きまーす」
似顔絵を手にゆかりは妖因子の特徴である三つ目を手のひらに出す。その目を似顔絵のくりぬいた部分と合わせて、目モノマネを完成させた。――怪因子の目ってそんな器用な真似できたっけ、とかいうツッコミはまあその、ネタシナリオという事で。
「オッスオラ遥! ひゃあ、まさかウズメ様のアイアンクローを食らうなんて思わなかったぞ!」
「オレはそんなこと言わない! 確かに思わなかったけど!」
「次、向日葵さん! 『いや~ん☆』」
「田中さん、後でお話ししましょうね?」
モノマネもツッコミを入れやすい緩いものである。ガチガチのモノマネだと当人を知らない人がわけわからない。このツッコミ含めての一芸である。
「そして林さん! 最近のあたいの悩み。最近大きくなりすぎてサラシがずれそうなんだよなぁ。だれか解決策知らねぇ?」
「ばっ! なんで知ってるんだよ!」
頭の中で即興でネタを考えながら披露する。ゆかりの芸は白鳥が水に浮かぶが如く見えない所での努力により生まれていた。
「僕がやる芸はずばり、リフティングです!」
サッカーボールを手に小唄が笑みを浮かべる。
リフティング。ボールを手以外の部分で打ち上げ、地面につかせないようにするサッカーの練習方法である。ボールの起動をコントロールするのが主な目的だが、それ自体も一つのショウとなる。
覚醒すれば身体能力が増えるが、敢えてそうせずに小唄はリフティングを開始する。リフティングは身体能力よりも経験。ボールの芯を如何にとらえるかが肝になる。足、膝、頭、肩……様々な部分でボールを弾き、自分の意のままにボールを動かす技術なのだ。
先ずは首裏で保持してから踵で前に蹴り上げる。大きくボールをけり上げたり、小刻みに足裏で回数を重ねたり。踊るようにリズミカルに体を動かしたかと思えば、ぽーんと真上に蹴り上げてその間に移動して。
大きく動くだけじゃない。トラップの要領で足裏でボールの勢いを殺して保持し、そのままの状態で十秒近く静止する。そしてまた再開し、今度は逆の足で同じことをする。見る人を飽きさせない緩急含んだ動き。皆の視線がボールと小唄の動きに合わせて上下する。
そして最後は今まで以上に大きくボールをけり上げて、頭で受ける。インパクトの瞬間に体を鎮めて衝撃を吸収し、不破いrと頭の上で静止するボール。そのまま右肩にボールを転がし、腕を通って右手でボールを止める。その状態で小唄は一礼し、終了を告げた。
「ありがとうございました! 満足してくれたら嬉しいです」
割れんばかりの拍手の中、手を振って小唄は答える。サッカーの魅力を伝えることだができて、小唄は満足していた。
「あ、ちょっとお願いがあるんだけど……」
と、開始前に『雷太鼓』に耳打ちをする遥。『あたい、立場上FiVEに負けられないんだけどなぁ』と言いながら聞く雷娘。
「空手と言えば、試割り!」
試割り、と聞いてピンとこない人もいるだろうが要は素手で瓦やバットを砕くパフォーマンスである。試割り用に割れやすいように加工された瓦やバットもあるが、今回遥が用意したのはそういった加工品ではない。
ブロックを敷いてその上に瓦を置き、構えを取る遥。丹田に力を込めて、円を描くようにゆっくりと手刀を瓦の上に置く。手刀を振り上げて静止し、呼吸を整えて気合と共に振り下ろした。パキン、という気持ちのいい音と共に瓦が真っ二つに割れる。
「次はこうだ!」
今度は瓦を空中に頬り投げ、拳を構える。そのまま正拳突きで落ちてくる瓦を打ち砕いていった。最後は回しけりで瓦を蹴り飛ばす。そして――
「オレはどんなものでも砕く拳の持ち主だ! オレに投げつけてみろ! 見事打ち砕いてみせるぜ!」
挑発するように観客に向かい叫ぶ遥。最初は戸惑っていた観客だが、試しにとばかりに空き缶が投げられた。見事正拳を合わせ、砕く事こそできないがその形をひしゃげる。
それを皮切りに色々な人が物を投げ始めた。遥はそれを砕き、時には砕けずに誤魔化し、そして最後に――『雷太鼓』からの雷撃が飛んでくる。
「これが『雷切』鹿ノ島遥だー!」
拳を雷に突き出し、真っ二つに割る。派手な雷撃音とそれを割る拳。そのインパクトに会場は騒然とする。稲妻に負けぬほどの拍手が境内に響いた。
「トリを務めさせていただきますわ! ここはアマノウズメ様に敬意を表して――」
言って伊織は着ている服に手をかける。脱ぎやすいようにあらかじめ細工をしていたのだろう。ぱさぁ、という音と共に服が脱げて白を基調としたビキニの水着が露になった。
獅子の獣憑(と本人は自称している猫獣憑)である伊織のどこかしなやかさを感じさせるボディラインが衆目に晒される。豊満な胸が僅かに揺れ、猫の尻尾がピンと立つ。腰に手を当てて優雅さを示すとともに、その美貌と体形を前面に出すように背筋を伸ばしてポーズを決めた。なお水着の指定がなかったのでどくどくが好き勝手ににやってます。
(うう……ですが破廉恥ですわ。でも観客のニーズに応えるのもファンサービス……うう……)
だが伊織の心は恥ずかしさで消えてしまいそうだった。アイドルを自称しているとはいえ彼女はまだ十八歳の乙女。水着でこういった賞をするには恥じらいが残っていた。しかし芸事の神であるアマノウズメにあやかるならこれしかない、と覚悟を決めれ歌い出す。
「私の歌を聞けー! ですわ!」
半ばやけっぱちになりながらエレキギターを構え、歌い出す伊織。炎の源素でギターを包み込み、熱気と共にアップテンポ調に歌い出す。一度吹っ切ってしまえばあとはもう流れるように歌い出せる。普段のアイドル活動が下地になっているのだろう。ハイテンポに歌い続ける。
「――フィニッシュ!」
最後まで笑顔を絶やすことなく。アイドルとして歌い切った伊織は、恥ずかしくはあるが満面の笑みで舞台を終わらせたのであった。
●
「というわけでー。ウズメの力をあげるのは――」
――結果として、アマノウズメの力を授かったのは別グループのFiVEチームだった。残念ではあるが目的は達したこともあり落胆の表情はない。
「ちぇー。まあ仕方ないか」
負けた『雷太鼓』だが、それを気にしている様子はない。勝つつもりだったのは確かだが、負けた結果を悔やんで引きずるタイプではない。
「ありがとな! お礼にラーメン奢るぜ! それと終わったらバトろうぜ!」
「あ、僕も参加します!」
「うちものったで!」
遥と小唄と凛が『雷太鼓』に喧嘩しようと誘いをかける。任務が終われば喧嘩解禁。彼女もやぶさかではなかった。
「偶にはお互い何事もなく帰るのもありじゃね? ……全くめんどくさいなぁ」
面倒そうに言いながら凜音もその後をついていく。喧嘩後の回復役として皆を癒すつもりだ。
「皆の芸、すごかったわ」
「そうですわね。皆でセッションとかどうかしら? 琴とワンマンバンドと私の歌で!」
「いいですね。どんなジャンルでもいけますよ」
「ゆかりはMCやりますね!」
椿と伊織と御菓子は音楽の話で盛り上がっていた。ゆかりは自分も混ぜて、と手をあげる。わいわいと芸の事で盛り上がっていく。
アマノウズメの力を得て、芸事の加護を得たFiVE。それがどのような芸(みらい)を作っていくかは、まだわからぬ話。その芸で平和な日本を取り戻すため、覚者達は今日も鍛錬に励むのであった。
……あれ? FiVEってこういう組織だっけ?
さて、ここはアマノウズメを奉じる神社である。分体とはいえその霊体がいるわけである。
「ウズメさんなら知ってるぜ! 偉い神様をおびき出すために裸踊りした人だよな! ……今回も見れっかごぶがはぁ!?」
そんな所でアマノウズメの裸を見たいと言った『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は、笑顔で神様の霊体からアイアンクローを頂くというレアな体験を味わう羽目になった。ギャグシナリオじゃなければ戦闘不能である。
「け、結構過激な神様なんやなぁ……くわばらくわばら」
倒れ込む遥を見て『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が口を紡ぐ。『雷太鼓』をからかうためにウズメの所業を教えてやろうと思っていたが、それをすれば同じ目に合うのは明白だ。神様を馬鹿にするものじゃない、と深く心に刻んだ。
「ナマコの口が裂けているのはアマノウズメが裂いたから、という話もありますしね」
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)はアマノウズメのエピソードの一つを語りだす。魚介類にニニギに仕えるか否かを問いかけ、唯一答えなかったナマコの口を小刀で裂いてしまったという。
「芸達者でツッコミも過激! ゆかり、改めて感激しました!」
『田中と書いてシャイニングと読む』ゆかり・シャイニング(CL2001288)はウズメの行動をそう評した。神様を笑わせたとされるアマノウズメ。しかし笑わせるだけではなくシメる所はしっかり〆る。両方できてこそ、だ。
「あ、茉莉さん! 今日はよろしくお願いします。正々堂々と戦いましょう!」
『雷太鼓』に会釈をする『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)。今回の任務はアマノウズメの力を『雷太鼓』に渡さない事である。卑怯な手を使っても許される。しかし小唄はそれをするつもりはなかった。あくまで正々堂々と戦うつもりだ。
「毎回スポーツの祭典やってるわけだし、たまには違う方法で競うのもいいんじゃね?」
拳を握って主張する『雷太鼓』に『癒しの矜持』香月 凜音(CL2000495)が水を差すように告げる。『雷太鼓』率いる輩と何度も交戦してきたが、今回は些か趣が異なる。殴り合いは性に合わない凜音からすれば、こういう形式はありがたい。
「芸能の神様相手に気にいってもらえる芸。容易にはいきそうもないわね」
アマノウズメ(分体)の方を見ながら三島 椿(CL2000061)は気合を入れる。相手はこの国の太陽神に興味を引かせることが出来る踊り子。芸能を司るがゆえに芸に対して目は肥えているだろう。中途半端な芸では門前払いされそうだ。
「アイドルとして、ここは退くわけにはいきませんわ!」
神具化したエレキギターを手に『獅子心王女<ライオンハート>』獅子神・伊織(CL2001603)が叫ぶ。(自称)アイドルである伊織は芸能の神であるウズメを前に退くことなく、むしろ負けん気を燃やしていた。どこかしらロックである。
「はいはーい。次の人どうぞー」
ウズメが呼ぶ声が聞こえてくる。FiVEの覚者達の出番のようだ。
覚者達は頷き、神の舞台へと足を踏み入れた。
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「まずは私からね」
一番手は椿だ。緊張する心を深呼吸して整え、皆が見ている前で琴を取り出す。年季が入った琴は使われている道具がゆえの汚れがあり、使われているがゆえの光沢があった。それを手に誇らしげに背を伸ばす椿。
(どうしてかな。止めることはできなかった)
椿は琴を撫でながら自問する。小さいころに習い、両親がなくなっても引き続けた琴。音楽の道を進むでもなく、しかし練習を止めるでもなく。琴を弾いていることで、両親の繫がりを思い出しているのかもしれない。椿自身、答えが出せない事だった。
そんな疑問も琴を弾き始めれば雲散霧消する。指にはめた爪が弦を奏でるごとに響き渡る優雅な音。しかしその音を出すまでにどれだけの年数がかかったか。そして音質を維持しながら『音楽』の領域に達するまでどれだけの練習が必要か。
奏でられる音楽はアップテンポの明るい曲。琴のイメージには似合わないが、だからと言ってミスマッチというわけではない。軽快なテンポを奏でる椿の顔は、その曲に負けないほどの明るい顔。
音楽に水の源素を載せるように演奏し、水で形成された魚や鳥が空を舞う。陽光を受けて煌めく魚は空を泳ぐように緩やかに旋回し、鳥が羽ばたくたびに水滴が霧雨のように降り注ぎ虹を生み出していく。その幻想的な光景に見ている者達は歓声をあげた。
そして最後の一音が響き渡り、その余韻が消える。そこから数秒、椿は立ち上がり終わりを告げるように一礼する。割れんばかりの拍手が境内に響き渡った。
「音楽教師として、楽器奏者として、ここはとっておきを見せるとしようかな♪」
とっておき、と言って現れた御菓子。その恰好は多くの楽器を体中に身に着けたものだった。手にギター、背中にバスドラム、スネアドラム、シンバル。口にカズー、笛、ハーモニカ。足にタンバリン、鈴。
「ワンマンバンドを見せてあげるわ」
軽く足を動かすだけでタンバリンと鈴が鳴る。肘で打楽器を叩き、口で様々な笛を吹く。ギターを奏でながら回転し、ステップを踏んで様々な楽器が音を奏でる。これらの楽器を一人で、しかもリズムに合わせて演奏するのだ。
前奏も軽やかに御菓子は踊るように演奏を始める。否、事実彼女は踊っていた。音楽を演奏しながら、音楽に合わせて踊っている。学問として音楽を嗜むが、音楽家として音を楽しむ。それが御菓子という人間だった。
最初は確かにFiVEの任務という理由だった。それを忘れたわけではないが、いつしか任務よりも音楽を楽しんでいる自分がいる。御菓子はいつしか汗を流し、観客の手拍子や楽器に合わせて楽器を奏でていた。
数多の楽器を奏で、会場そのものを湧かせて一つの楽器とする。皆が御菓子の音楽に合わせて歌い、御菓子もまたそのリズムに合わせて踊り奏でる。最後の最後まで音による楽しみを教え続け、皆で奏でるワンマンライブは拍手の中、終了した。
「皆さん、ありがとうございます。一緒に歌ってくれて楽しかったです!」
音楽は世界の共通語。御菓子はそれを改めて感じていた。
「本来ならちゃんとした演奏隊を付けるべきなんだろうが、まぁ許してくれな」
言いながら凜音は携帯をいじり、音楽ファイルを起動する。神社に用意してあったスピーカーにつなげ、音量を増幅した。とはいえ元々大きな音ではなく、どこか静かな庭園を思わせる笛と太鼓の音色だった。
(穏やかな水の流れをイメージするんだ)
香月の家は、昔神に舞を奉納していたという。その教えを正式に受け継いだわけではないが、それでもその踊りに感銘を受けたのは確かだ。緩やかに見えて細かく、静かに見えて激しい。水の在りようを示すがようなその舞。
片手に持った扇がゆらゆらと揺れる。それに合わせて水の源素が霧のように放出され、夏の日差しを受けて輝いた。扇の軌跡を追うように虹が浮かび、そして儚く消えていく。それはうたたかの夢のよう。
神経を使っているのは扇の動きだじぇだけではない。足運び、体重の移動、指先の先まで気を巡らせている。柔軟な動きは水の在りよう。コップに入ればコップの形に。茶瓶に入れば茶瓶の形に。雨、霧、川、海。一つの在り方に捕らわれない『水』を示すように。
派手な動きはない。派手な音はない。ただゆっくりとそして静かに舞う。それは静謐とも言える一つの世界。沈黙ともいえるほど穏やかな音楽のみが場を支配し、皆の視線が凜音の舞に注目する。
いつしか舞は終わり、凜音は扇を閉じて一礼する。最初は小さく、そして少しずつ大きな拍手が沸き上がった。その拍手に送られるように凜音は隅に移動して一息ついていた。
「ほないくで! ロックンロール!」
言って抜刀する凛。訓練用の下駄をはき、たすきと剣道着という格好である。炎の源素で身体能力を強化し、お腹に力を込めて叫んだ。抜刀術の披露なのだが、それにしては掛け声が異色である。
そのままロックを歌いながら刀を構える。他の覚者達が意図を察したのか、それぞれの楽器を手にそのリズムに合わせた。その行動に笑みを浮かべ、そして負けじとヒートアップしていく凛。
目の前に多数の敵がいるイメージを持ち、それを切り伏せていくように刃を振るっていく。それは殺陣。演技ともいえる偽の斬り合い。だからこそ、そこに人は魅了される。まるで本当に斬っているかのような、美しい凛の動き。
ロックな音楽と何かを斬る演舞。一見合わないように見える二つは、凛という人間により見事に融合していた。激しく叫ぶようなハイテンポなロック。静と動を繰り返し、目まぐるしく立ち回る剣舞。
下駄をカランコロンと鳴らして音を出し、時折バク転をして仮想敵から距離を放つ。そして刀を正眼に構えて、三歩踏込み大上段からトドメの一撃を振り下ろした。そのまま血を払うように刀を振るい、納刀する。
「――何時か二人で行こうShangri―La」
曲もそこで終わり、凛は姿勢を正して礼をする。本来は歌い手と剣舞を行う人間は分けるのだが、何とかなるだろうと一人でやってみたのである。手で風を扇ぎながら、凛は手を振りながら舞台から降りて行った。
●
「そろそろゆかりの出番ですね!」
満を持した、とばかりにポーズを決めて現れるゆかり。芸人魂を生かして時折マイクパフォーマンスをいれたり、ポージング爆破で演出したりと結構いろいろやっているのだけど、尺の都合でカットしています。
「今回は目モノマネ! あ、メモのマネじゃありません! 目のモノマネです!」
ゆかりが用意したのは片目だけをくりぬいた似顔絵である。ここにいる知り合いの顔を即興で書いたもので、当人比較ということで書かれた本人も呼ばれることになった。ゆるい絵だけどそれなりに特徴はつかんでいる。
「はーいそれでは行きまーす」
似顔絵を手にゆかりは妖因子の特徴である三つ目を手のひらに出す。その目を似顔絵のくりぬいた部分と合わせて、目モノマネを完成させた。――怪因子の目ってそんな器用な真似できたっけ、とかいうツッコミはまあその、ネタシナリオという事で。
「オッスオラ遥! ひゃあ、まさかウズメ様のアイアンクローを食らうなんて思わなかったぞ!」
「オレはそんなこと言わない! 確かに思わなかったけど!」
「次、向日葵さん! 『いや~ん☆』」
「田中さん、後でお話ししましょうね?」
モノマネもツッコミを入れやすい緩いものである。ガチガチのモノマネだと当人を知らない人がわけわからない。このツッコミ含めての一芸である。
「そして林さん! 最近のあたいの悩み。最近大きくなりすぎてサラシがずれそうなんだよなぁ。だれか解決策知らねぇ?」
「ばっ! なんで知ってるんだよ!」
頭の中で即興でネタを考えながら披露する。ゆかりの芸は白鳥が水に浮かぶが如く見えない所での努力により生まれていた。
「僕がやる芸はずばり、リフティングです!」
サッカーボールを手に小唄が笑みを浮かべる。
リフティング。ボールを手以外の部分で打ち上げ、地面につかせないようにするサッカーの練習方法である。ボールの起動をコントロールするのが主な目的だが、それ自体も一つのショウとなる。
覚醒すれば身体能力が増えるが、敢えてそうせずに小唄はリフティングを開始する。リフティングは身体能力よりも経験。ボールの芯を如何にとらえるかが肝になる。足、膝、頭、肩……様々な部分でボールを弾き、自分の意のままにボールを動かす技術なのだ。
先ずは首裏で保持してから踵で前に蹴り上げる。大きくボールをけり上げたり、小刻みに足裏で回数を重ねたり。踊るようにリズミカルに体を動かしたかと思えば、ぽーんと真上に蹴り上げてその間に移動して。
大きく動くだけじゃない。トラップの要領で足裏でボールの勢いを殺して保持し、そのままの状態で十秒近く静止する。そしてまた再開し、今度は逆の足で同じことをする。見る人を飽きさせない緩急含んだ動き。皆の視線がボールと小唄の動きに合わせて上下する。
そして最後は今まで以上に大きくボールをけり上げて、頭で受ける。インパクトの瞬間に体を鎮めて衝撃を吸収し、不破いrと頭の上で静止するボール。そのまま右肩にボールを転がし、腕を通って右手でボールを止める。その状態で小唄は一礼し、終了を告げた。
「ありがとうございました! 満足してくれたら嬉しいです」
割れんばかりの拍手の中、手を振って小唄は答える。サッカーの魅力を伝えることだができて、小唄は満足していた。
「あ、ちょっとお願いがあるんだけど……」
と、開始前に『雷太鼓』に耳打ちをする遥。『あたい、立場上FiVEに負けられないんだけどなぁ』と言いながら聞く雷娘。
「空手と言えば、試割り!」
試割り、と聞いてピンとこない人もいるだろうが要は素手で瓦やバットを砕くパフォーマンスである。試割り用に割れやすいように加工された瓦やバットもあるが、今回遥が用意したのはそういった加工品ではない。
ブロックを敷いてその上に瓦を置き、構えを取る遥。丹田に力を込めて、円を描くようにゆっくりと手刀を瓦の上に置く。手刀を振り上げて静止し、呼吸を整えて気合と共に振り下ろした。パキン、という気持ちのいい音と共に瓦が真っ二つに割れる。
「次はこうだ!」
今度は瓦を空中に頬り投げ、拳を構える。そのまま正拳突きで落ちてくる瓦を打ち砕いていった。最後は回しけりで瓦を蹴り飛ばす。そして――
「オレはどんなものでも砕く拳の持ち主だ! オレに投げつけてみろ! 見事打ち砕いてみせるぜ!」
挑発するように観客に向かい叫ぶ遥。最初は戸惑っていた観客だが、試しにとばかりに空き缶が投げられた。見事正拳を合わせ、砕く事こそできないがその形をひしゃげる。
それを皮切りに色々な人が物を投げ始めた。遥はそれを砕き、時には砕けずに誤魔化し、そして最後に――『雷太鼓』からの雷撃が飛んでくる。
「これが『雷切』鹿ノ島遥だー!」
拳を雷に突き出し、真っ二つに割る。派手な雷撃音とそれを割る拳。そのインパクトに会場は騒然とする。稲妻に負けぬほどの拍手が境内に響いた。
「トリを務めさせていただきますわ! ここはアマノウズメ様に敬意を表して――」
言って伊織は着ている服に手をかける。脱ぎやすいようにあらかじめ細工をしていたのだろう。ぱさぁ、という音と共に服が脱げて白を基調としたビキニの水着が露になった。
獅子の獣憑(と本人は自称している猫獣憑)である伊織のどこかしなやかさを感じさせるボディラインが衆目に晒される。豊満な胸が僅かに揺れ、猫の尻尾がピンと立つ。腰に手を当てて優雅さを示すとともに、その美貌と体形を前面に出すように背筋を伸ばしてポーズを決めた。なお水着の指定がなかったのでどくどくが好き勝手ににやってます。
(うう……ですが破廉恥ですわ。でも観客のニーズに応えるのもファンサービス……うう……)
だが伊織の心は恥ずかしさで消えてしまいそうだった。アイドルを自称しているとはいえ彼女はまだ十八歳の乙女。水着でこういった賞をするには恥じらいが残っていた。しかし芸事の神であるアマノウズメにあやかるならこれしかない、と覚悟を決めれ歌い出す。
「私の歌を聞けー! ですわ!」
半ばやけっぱちになりながらエレキギターを構え、歌い出す伊織。炎の源素でギターを包み込み、熱気と共にアップテンポ調に歌い出す。一度吹っ切ってしまえばあとはもう流れるように歌い出せる。普段のアイドル活動が下地になっているのだろう。ハイテンポに歌い続ける。
「――フィニッシュ!」
最後まで笑顔を絶やすことなく。アイドルとして歌い切った伊織は、恥ずかしくはあるが満面の笑みで舞台を終わらせたのであった。
●
「というわけでー。ウズメの力をあげるのは――」
――結果として、アマノウズメの力を授かったのは別グループのFiVEチームだった。残念ではあるが目的は達したこともあり落胆の表情はない。
「ちぇー。まあ仕方ないか」
負けた『雷太鼓』だが、それを気にしている様子はない。勝つつもりだったのは確かだが、負けた結果を悔やんで引きずるタイプではない。
「ありがとな! お礼にラーメン奢るぜ! それと終わったらバトろうぜ!」
「あ、僕も参加します!」
「うちものったで!」
遥と小唄と凛が『雷太鼓』に喧嘩しようと誘いをかける。任務が終われば喧嘩解禁。彼女もやぶさかではなかった。
「偶にはお互い何事もなく帰るのもありじゃね? ……全くめんどくさいなぁ」
面倒そうに言いながら凜音もその後をついていく。喧嘩後の回復役として皆を癒すつもりだ。
「皆の芸、すごかったわ」
「そうですわね。皆でセッションとかどうかしら? 琴とワンマンバンドと私の歌で!」
「いいですね。どんなジャンルでもいけますよ」
「ゆかりはMCやりますね!」
椿と伊織と御菓子は音楽の話で盛り上がっていた。ゆかりは自分も混ぜて、と手をあげる。わいわいと芸の事で盛り上がっていく。
アマノウズメの力を得て、芸事の加護を得たFiVE。それがどのような芸(みらい)を作っていくかは、まだわからぬ話。その芸で平和な日本を取り戻すため、覚者達は今日も鍛錬に励むのであった。
……あれ? FiVEってこういう組織だっけ?
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
