スイカ割り 黙って割られるわけがない
スイカ割り 黙って割られるわけがない


●夏の海の遊び。それは――
 スイカ割り。
 夏の海で行われる遊びである。目隠しをして体を回転させ、平衡感覚が狂った状態で棒を持ってスイカをたたき割る。周りの人がスイカの位置を誘導するが、平衡感覚が狂っており且つ目隠しの状態であるため、真っ直ぐにたとえ誘導の声が正しくともその通りに進むことは難しい。
 日本スイカ割り推進協会の公式ルールによれば、スイカと競技者との距離は五メートル以上七メートル以内。時間は一分三〇秒。棒は三度まで降ることが出来て、スイカの割れ方により点数が変わるという。
 今年も真淵昭彦は大量のスイカを用意し、スイカ割り大会の用意に勤しんでいた。彼は毎年この海で行われるスイカ割り大会の主催者だ。。町おこしの一環として始めた大会も軌道に乗り、電波障害解決による宣伝範囲拡大もあって今年は事前予約だけでも参加者は去年の倍以上となった。
 そんなわけで大量のスイカを用意し、大会間近となったその日に悲劇が起きた。
「スイカが妖化したー!?」
 スイカが宙に浮かび、近くにいるものに突撃してきたのだ。妖となっているためその威力も高く、真淵をはじめスイカ割りの実行委員は逃げることしかできない。しかもその数は時間を得るごとに増えているのだ。
「ああ、スイカが……このままだと大会が……」
 どんどん妖化していくスイカ。騒動の中心になっているあの大玉のスイカが原因なのだろうが、真淵にはどうしようもなかった。

●FiVE
「その妖スイカをどうにかしよう! というのが今回の依頼だよっ!」
 集まった覚者を前に久方 万里(nCL2000005)が元気よく説明を開始する。ホワイトボードにスイカの絵をかきながら説明を続けた。
「これがボススイカ。略してボスイカ。ランク2。ハロウィンのカボチャみたいに目と口があるからすぐにわかるよ。周りにあるスイカを妖化して、こちらに突撃させるの。あと、口から種をマシンガンの様に飛ばしてくるから注意してね」
 察するに遠距離系のようだ。「がーっ」と唸りをあげているのはさて万里のセンス化、本当にそう叫ぶのか。
「そしてこれが妖スイカに妖化されちゃったスイカさん。ランクは1。体当たりしかしてこないけど、体当たりするたびに自分の身体が欠けていくの。あと自爆攻撃?」
 こちらは近接系のようだ。自分の身体を削って攻撃するようで、その分威力は高めだ。とはいえランク1の範疇内だが。
「広範囲攻撃で後ろのスイカをばっこーんと吹き飛ばすとスイカさんが増えることはなくなるよ。ただそうなるとスイカ割り大会が開かれなくなるから、後ろの人は泣いちゃうかも」
 背に腹は代えられないとはいえ、入念に準備をしてきた大会が中止になるのだ。精神的経済的なショックは大きいだろう。十個二十個位なら事故だが、全てとなるともう目も当てられまい。
「それじゃ、頑張ってねー」
 陽気に手を振る万里。それは皆なら大丈夫という信頼あっての声だ。
 そんな声に送られて、覚者達は会議室を出た。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.妖の全滅
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 スイカ割り公式ルールは二種類あるとか。

●敵情報
・ボスイカ(×1)
 物質系・妖。ランク2。大きさ1mほどの(スイカにしては)巨大な物です。目と口のような切れ込みがあり、そこから赤い果肉が垣間見えます。
 近くにあるスイカを妖化する能力を持ち、これを突撃させて被害を拡大させています。三ターンごとに『スイカさん』が一体『敵前衛』に現れます(現れるタイミングはターン開始時です)。ボスイカを倒すと、『スイカさん』の増援はなくなります。

 攻撃方法
噛み付き   物近単  口のような切れ込みで噛み付いてきます。
種マシンガン 物遠貫2 種を高速で射出してきます。(100%、50%)。
蔓の鞭    特遠単  蔓を振るい、敵を打ちます。【痺れ】
低空飛行   P    ふわふわと浮いています。【飛行】

・スイカさん(数不定)
 物質系・妖。ランク1。一般的なサイズのスイカです。

 攻撃方法
突撃   物近単 突撃します。【消耗HP100】
爆破   特近列 爆発します。使用後、戦闘不能になります。
低空飛行 P   ふわふわと浮いています。【飛行】

●NPC&特殊オブジェクト。
・『スイカ割り委員会』の皆さん(×5)
 倉庫の影に隠れて暴れるスイカを悲しそうな目で見ています。
 覚者が来れば、戦闘の隙をついて安全圏まで離脱します。

・スイカ置き場
 まだ妖化していないスイカです。攻撃の対象に出来ます。
 列(列貫通を含む)、全の攻撃対象を受け、1点でもダメージが入れば破壊されます。破壊されれば『スイカさん』が増えることはなくなります。
 列や全体攻撃の対象から意図して外すことは可能です。

●場所情報
 海近くにある倉庫内。明かりは充分。広さも戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、敵後衛に『スイカ置き場』、中衛に『ボスイカ(×1)』、前衛に『スイカさん(×5)』がいます。覚者の初期配置はご自由に。
 急いでいるため、事前付与は不可とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/8
公開日
2017年07月29日

■メイン参加者 4人■

『行ってらっしゃい』
西園寺 海(CL2001607)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『ストレートダッシュ』
斎 義弘(CL2001487)


 宙に浮くスイカ。瞳と口を示すであろう穴が開いており、近寄ろうとすれば迎撃とばかりに種を弾丸の様に飛ばしてくる。
 そして近くにあるスイカ置き場から、仲間とばかりにスイカが妖化していく。生まれたての妖ゆえにそれほど強くはないだろうが、それでもただの人間からすれば脅威には違いない。それが我が身を顧みずに突撃してくるのだ。
「これはまた、壮絶な光景だな」
 目の前の光景にため息を吐く『ストレートダッシュ』斎 義弘(CL2001487)。夢見から話は聞いていたが、次々とスイカが妖となっていく光景は何と言っていいかわからない状況だ。そのスイカが倉庫内で暴れまわり、果肉が血の様に散乱している。
(親玉スイカは仲間を増やしたいのかね。それとも割られるスイカに憤りを感じたのか)
 妖の発生に合理性はない。突如思い立ったかのように妖は現れるのだ。そうとはわかっていても義弘は思わずにいられなかった。人間に割られるだけの存在。植物にとって果実の部分は子を育てる器官なのに。だがそれとこれとは別の話だ。
「ともあれやるしかなかろう。俺達がやれるのは、護りたいものを護る事だけだからな」
「そうですね。でもそれが重要だと思うのです」
 ぬいぐるみを抱きながら西園寺 海(CL2001607)が頷いた。スイカ割り大会の為に集められた大量のスイカ。それが妖化すればスイカ割り大会を開ける事はできないだろう。早急に解決し、その被害を軽減しなくては。
 ぬいぐるみを強く抱きしめ、歩を進める。この戦いは海の初陣。緊張しているが、それ以上に困っている人を助けたいという気持ちが強かった。人前で何かをするのはまだ慣れないが、それでもこの力が誰かの役に立つのなら。ぬいぐるみの名を呟き、勇気を出した。
「行きましょう。ミミー」
「ええ、海さんもミミーさんも頑張りましょう」
 そう海に語りかけるのは『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)だ。そして視線を妖の方に戻す。スイカを妖化するスイカ。駆けつけるのがもう少し遅ければ、大量の妖が発生していただろう。そうなれば死人が出たかもしれない。
 ちらりと隠れて見ている人達に視線を向けるラーラ。町おこしのために頑張ってスイカ割り大会を企画した人達。その努力を無に帰さない為にも、被害は最小限にとどめたい。奥のスイカ置き場を一気に破壊すれば戦況はだいぶ有利になるのだが……。
「妖化していないスイカは攻撃しないでいいんですよね?」
「はい。狙うのは妖だけです」
 作戦の確認をする声に頷く『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)。妖が増えていく状況を打破する一番簡単な手段は、ここにあるスイカを全部破壊することだ。だがそれをすればスイカ割り大会は中止になるだろう。なのでそれは行わない、と言うのが今回の作戦だった。
 スイカ割り大会と妖が人を襲うリスクを考えれば、後者を優先するのが覚者だろう。だが片方だけを為すのではなく、両方為す。妖を倒し、スイカ割り大会も継続させる。それがここに集まった覚者達の相違だった。
「スイカ割りは海の神様に捧げる儀式が由来なんです。それを止めるわけにはいきません!」
 気合を入れて神具を構える結鹿。他の覚者もそれぞれの神具を手に妖に向き直る。
 ボスイカ(夢見命名)は唸り声をあげてその戦意に応える。他の妖スイカもボスイカに先導されるように覚者に矛先を向けた。
 覚者と妖。けして相容れることない者同士の闘いが、ここに始まる。


「それでは行きますよ! 一気に蹴散らします!」
 一番最初に動いたのは結鹿だ。速度を生かして敵前まで走り、『蒼龍』を構える。覚醒して変化した銀の髪の毛が静かにそよいだ。土の加護で身を守りながら、迫る妖を黒の瞳で見据える。
「前衛の数が多いな。しかも時間経過で増える。一気にこいつらを蹴散らすか?」
「そちらはお願いします。わたしは貫いてボスイカに攻撃を届かせます!」
 同じ前衛の義弘の問いかけに、刀を突く構えをして答える結鹿。回復がいない構成であるため、長期戦はこちらが不利になる。できる限りボスの妖に打撃を与えていかなくてはいけない。それゆえの行動だ。
 突撃してくるスイカを避け、あるいは受け流しながら精神を集中する。結鹿の瞳が一瞬の好機を掴んだかのように鋭く光る。同時に両足をしっかり踏みしめ、神具を持つ手に力を込めた。突き出される刃に氷の粒子が集う。白の螺旋を描き、氷纏った突きが妖を貫いた。
「神に捧げられるはずのスイカが妖になるなんてメッ! ですよ」
「妖にそんな事情が理解できるとも思わないが……まあやることは同じか」
 叱るようにいう結鹿に苦笑する義弘。妖の知性は低い。人間の言葉が理解できるとはとても思えない。だが実際のところ、やるべきことは変わらない。妖を滅し、人を救う。この力はその為にあるのだ。
「俺は前衛の『スイカさん』を叩いていく」
「そうですね。攻撃するたびに弱っていくとはいえ、無視はできません。西園寺も手伝います」
 義弘の言葉に頷く海。その声を聞きながら神具を構えた。覚醒して変化した機械の足。そこに力を入れて踏ん張り、メイスと盾を構える。剣のような華やかさはないが、鈍器も長年の歴史で精錬された武器だ。数多くの技法と技が存在する。
 透明な盾ごしに妖の動きを見る義弘。妖の突撃を盾で受け止め、そのまま腕を回転するように盾を返し、そのままメイスを振るう。吹き飛ぶ妖の身体に炎が走った。そのまま周りの妖を巻き込んで火柱が走る。傷ついていた妖が力尽き、ただのスイカに戻っていく。
「後で食べてやるから安心しな」
「はい。でもあまり汚れたくないので綺麗なものをお願いします」
 スイカに謝罪するような義弘の言葉に海が同意した。とはいえ地面に落ちたり果肉が飛び散ったスイカはあまり手にしたくない。戦闘に巻き込まれるスイカを増やさない為にも手早く戦闘を終わらせなくてはいけない。
「西園寺はそれほど継戦能力が高くないので、術式も多く打てないです」
「大丈夫です。その分私達がフォローします」
 この戦いが初陣である海は、他三人の覚者に比べて能力的に劣る。気にすることはないですよ、とラーラは宥めた。今はまだ多くのことはできないが、経験を重ねればできることも増える。今できることをしっかりと。それが重要なのだ。
 海の左首元が淡く光る。紫色に光るのは精霊顕現の紋様。その光と共に海の体内で源素が波打っていく。天の力が海の掌に集い、光り輝く一体の人形になる。人形は舞台で踊るように軽やかに飛び立ち、妖に突撃して爆ぜるように打撃を加えていく。
「妖化していないスイカが多く残っていれば、スイカ割り大会も中止にならないのですよね」
「ええ。その為にも早く妖を倒さないと」
 海の質問に首肯するラーラ。『スイカ割り委員会』の人達が準備した大量のスイカ。それは大会を心待ちにしている人達に向けて用意されたものだ。けしてここで妖になって人に被害を及ぼしていいものではない。
「大丈夫ですよ。私達が何とかしますから安全なところで見ていてくださいね」
「宜しくお願いします。あの、無理はなさらないように……」
『スイカ割り委員会』に声をかけて戦うラーラ。心配してくれる人達の気持ちがありがたい。だけど少しの傷など気にすることはない。傷を癒してくれる覚者はいないが、それでも我が身可愛さで後ろのスイカ置き場を狙う事だけはしないと強く誓った。
 炎を展開し、そこから小さな黒猫を形どる。黒猫が仲間達を守ってくれるのを見ながら、書物を手にするラーラ。生まれる炎は破壊の力。だがそれを扱うのは人の心。正しい方向に破壊の力を束ね、解き放つ。それが魔女の務めだ。火炎の弾丸がボスイカを穿っていく。
「回復役なしの戦いではありますし、スピード勝負になってくるかもしれません」
「分かっている。こうなると増え続けるスイカさんが厳しいな」
 ラーラの懸念に頷く義弘。回復がない戦いは一気に畳みかけるのが常道だ。だが妖が増え続ける状況ではそれも容易ではない。状況打破の為にスイカ置き場を破壊すればスイカさんの増援はなくなるのだが……。
「この程度の増援なら何とかなります」
「西園寺も同じ意見です」
 結鹿と海が力強く答える。増援は何とか対応できる。スイカ置き場を攻撃する程ではない、と。それはラーラや義弘も同意見だった。
 四人の覚者は頷きあい、戦い続ける。妖殲滅と、スイカ割り大会の為に。


 四人の覚者達は絶え間なく妖を攻めていた。
 ラーラがボスイカを集中的に攻め、結鹿が貫通攻撃でスイカさんを攻撃しながらボスイカにダメージを与える。義弘と海がボスイカへの道を遮るスイカさんに打撃を加え、その数を減らしていく。
 しかし回復を行う者がいないパーティ構成という事もあるが、スイカさんが増え続ける状況では相手の攻撃を受ける数も多く怪我も増えてくる。
「まだ倒れません」
 ボスイカの蔓の鞭を受けて海が膝をつく。命数を燃やしてなんとか立ち上がった。
 しかし努力の甲斐あってかボスイカへの道を遮るスイカさんをすべて打ち倒し、覚者達は事件の根源であるボスイカに肉薄する。
「ようやくここまでこれたな。それじゃあ、ぶん殴らせてもらおうか」
 メイスを回転させて義弘がボスイカに迫る。ここまで来ればあと一歩。スイカが妖化したとしてもただひたすらにボスを殴るのみだ。妖も逃げるようなことはない。ただ本能に従い、目の前の敵に攻撃を仕掛けるだけだ。
 ひときわ大きなスイカ。その中心部に向かい、大きく振り上げたメイスを叩きつける。普通のスイカなら粉々に砕けただろう一撃。だが妖化したスイカはわずかに皮が割れた程度だ。だが手ごたえはあった。義弘はそれを確認し、攻撃を繰り返す。
「増えたスイカさんは西園寺が対応します。皆さんはボスイカの方を」
 ボスイカの体力をスキャンしながら海が仲間達に告げる。ボスイカの攻撃を避けやすくするため、天の源素で皆を援護しながら、稲妻を放ちスイカ置き場から生まれたスイカの妖を穿っていく。
 スキャンしたボスイカの体力と仲間の打撃力を比べて、あともう一息であることを仲間に告げる。同時にスイカ置き場にあるスイカがどれだけ妖化するかも。被害がそれほど大きくなさそうであることが分かり、胸をなでおろす海。だが、まだ油断はできない。
「やり直しを要求します!」
 いきなり叫ぶ結鹿。
「目と口のような切れ込みがある姿は、まるでジャック・オー・ランタンみたいじゃないですか。ややこしいです、まぎらわしいです、オリジナリティーが感じられないです!」
 どこの誰に言っているのか分からないセリフだが、まあ色々すんません。それはさておき結鹿はボスイカに集中砲火を加えていた。ボスイカの攻撃を受け止めながら、氷の武技で貫いていく。
 相手はランク2の妖。仲間を増やしたりと厄介な特殊能力を持つが、この距離は結鹿の得意な距離。一気呵成に畳みかけるつもりで剣を振るう。妖に傷つけられた体が悲鳴を上げるが、気力でねじ伏せて神具を振るう。
「スイカ割り大会で町おこし。しかも電波障害解決のおかげで軌道に乗ろうとしている……とってもいいことなのに……」
 ラーラはボスイカを見ながら呟く。けして大きいとは言えない海辺。そこを活性化させようとする人たちの努力。それがいま花開こうとした時に起きた悲劇。このままでは大会を行うことが出来ず、最悪スイカの妖で人が死ぬかもしれない。
 源素の炎を放ちながら、ラーラは被害が最小限であるように祈っていた。この町の人達が笑顔でありますように。スイカ割り大会が行われ、多くの笑顔が生まれますように。このささやかな平和を守るために、ラーラは戦うのだ。
 四人の覚者は時折発生するスイカさんを叩きながら、ボスイカを攻撃していた。回復がない構成であるがゆえに全行動を攻撃に費やすことになり、結果としてハイスピードなペースで妖を追い詰めていた。
「大丈夫。まだ戦える」
 途中、義弘がボスイカに噛み付かれて命数を削られるほどの傷を負ったが、妖の進軍はそこまで。
「これで終わりです!」
 結鹿の剣に冷気がまとわりつく。戦場の熱気を冷やし、冷たく精錬された刃が突きの構えで妖に向けられる。もう妖の動きは見切った。軽くけん制で攻撃を繰り出し、その後に相手が避ける方向に切っ先を向けて突き出した。
「――氷穿牙!」
 大地からの冷気を受けた冷たく、そして鋭い突き。
 それが妖を貫き、物言わぬスイカに戻した。


「ありがとうございます。これだけスイカが残っていれば大会が開けそうです!」
 戦いが終わり、『スイカ割り委員会』の皆さんが覚者に礼を言う。覚者達の配慮もあり、破壊されたスイカの量は少なく、スイカ割り大会も問題なく開けるという。
「そりゃよかった。ついでなんで大会に参加してもいいか?」
「ええ、勿論です!」
 義弘の提案を二つ返事で応える委員会の人達。スイカ割りを楽しんでもらえるのなら、それに越したことはない。
 そして大会当日。照りつけるような太陽の元、スイカ割り大会が開催された。『スイカを割る人間』と『声を出して誘導する人(複数可)』で登録し、チームを組んでのスイカ割りである。
「ところでスイカ割りのルールはもう一つある、と西園寺は効いたことがあるのですが」
「ああ、農協協同組合の方ですね」
 海の問いかけに、スイカ割り委員会の人が答える。基本ルールは変わらないが、スタート時のスイカまでの距離が九メートルだったり、制限時間も三分となっている。最大の違いは採点方法で、真っ二つに割れたら満点。そこから形が崩れるたびに減点していくという形式だ。
「西園寺、勉強不足を痛感。折角だから、両方とも試してみたいです」
 次に海に行くときにもう一つのルールも試してみよう。一口サイズに切ったスイカを口にしながら、海はそう思った。
「なんにせよ、妖化したスイカが多くなくてよかったです」
 ぬいぐるみを抱きながら、湧き上がっていく大会を見る海。初めての依頼で疲れた、自分が守った事を目の当たりにしてその疲れが吹き飛んだ。無理をした甲斐があったというものだ。
「スイカ割りって実は初めてなんですよね」
 ラーラは手拭いで視界を隠して回転する。覚者達の誘導に従い、右に左にと歩いていく。見えない状態で声だけで進むというのは不安が大きい。それでも少しずつ前に進んでいく。目を閉ざしている影響か、思ったよりも仲間の声がハッキリと聞こえてくる。
 スイカの前だろう場所に足を止め、大きく棒を振り上げる。よいしょ、と力を込めて振り下ろせば重い何かを砕く感覚が手の平から伝わってきた。笛の音が鳴って手拭いを取ってみると、シートの上に置かれたスイカが砕けていた。思わずガッツポーズをとる。
「まあ、これぐらいの役得は構わないだろう」
 義弘は冷えたスイカを食べながら、大会を見ていた。大会には観客用に日陰と冷えたスイカが用意されている。赤い果肉を口にすれば、みずみずしい味が口の中に広がった。スイカはミネラルも多く含み水分補充に最適だ。
 大会は老若男女様々な人が集まってきていた。一喜一憂する観客達。皆、この大会を心待ちにしていたのだろう。その笑顔を見て、やはり無理をしてでもスイカ置き場を破壊せずによかった、と義弘は改めて思う。
「スイカ割りのスイカは海の神に捧げられたスイカなんです」
 妖として暴れていたボスイカ。そのスイカを胸に抱きながら結鹿が口を開く。今は亡き妖に語りかけるように、
「すなわちその内に神を宿したスイカなんです。誇りをもってスイカでいてくださいね。
 そしてその神性をみんなに分け与える優しさを持つのが、スイカ割りのスイカの矜持だと思うんです」
 言いながら手を合わせる結鹿。近くにあった包丁をよく洗い、スイカに添えた。
「わたし達も感謝しながら、割り、食べるので、どうか許してくださいね」
 力を込めて、スイカを二等分する。熟れた果肉はとてもおいしかった。

 そして覚者達は帰路につく。
 お土産にとスイカを渡されて、その重さと大きさで少し帰りが大変になった。だがそれもいい思い出となるのだろう。
 妖に邪魔されることのない平和な夏の一日。そこに生まれた笑顔。
 それこそが、覚者達の最大の報酬だった。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『スイカ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員



■あとがき■

 どくどくです。
 実はスイカ割りしたことがないのでした(目逸らし)。

 ちょいと面倒な相手でした。
 ギミック破壊は簡単なのですが、敢えてそれを行わずにスイカ割り大会の為に尽力していただき、このような結末となりました。
 夏の思い出となれば、幸いです。

 夏は始まったばかりです。先ずは傷を癒してください。
 それではまた、五麟市で。




 
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